地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第15話 戦いが始まるその前に

「先に緑谷に少し聞きたいことがある……いいか?」

 

「あぁ、俺の話は少し長くなりそうだしな」

 

一度を断りを入れて轟は緑谷に向き直ると口を開く。

 

「緑谷、お前……オールマイトの"隠し子"か何かか?」

 

「えっ!?」

 

「……"オールマイト"、"熱愛の噂"……と」

 

「地城君!? 携帯で不穏なワード検索しないで!?」

 

轟の質問を受け衝撃を受ける自身の横で携帯に何やら打ち込んだ地城に緑谷はストップをかける。

大抵のファンはスターのスキャンダラスな話題を興味はあれど踏み込むのは怖いのだ。

 

「安心しろ緑谷、俺は憧れ人の幸せを祝福できるタイプのファンだ。不用意な口外は絶対にしねぇ」

 

「落ち着いて! っていうか別にそんなんじゃないよ!?」

 

「そんなんじゃないってことは、隠し子じゃなくてもやっぱりお前とオールマイトは何かしらの関係性があるという訳だ」

 

轟の目がより鋭くなる。

 

「お前が№1の何かを持っているのなら、尚更俺はお前に勝たなきゃならねぇ」

 

「№2か?」

 

不意に千土が口を挟み告げた"№2"という言葉に緑谷は首を傾げる。

 

「……あぁそうだ、お前が何で知っていて、どこまで知っているのかは知らねぇが……俺の親父は"エンデヴァー"。№2だなんて持ち上げられてるヒーローだ」

 

重い、多大な重圧を発しながら告げられた言葉に緑谷は息を飲む。

しかしこれは所詮は入り口、緑谷は驚愕の中で更に予想だにしない事情を明かされるのだった。

 

轟は自身と自身の父の間に渦巻いた闇を語る。

彼の父エンデヴァーは自身が秘めた高い上昇志向によりヒーロー業界にその名を轟かせた。

しかしそれはあくまで№2として、彼がどれ程名を上げようと揺るがぬ頂点、オールマイトがいてしまった。

№1と№2、ただ一つの差の数字の間に存在する深い境界線。

エンデヴァーにとってオールマイトは目障りで仕方なかった。しかしそれでも自身が超えることが出来ない存在だと理解し……歪んでしまった事を

 

「"個性婚"って知ってるよな? 第2~第3世代間で起こった前時代的発想。己の個性を強化して次世代に残そうとするためだけに配偶者を選ぶ最悪の社会現象。──あの野郎はそれをやりやがった」

 

ヒーローとして積み上げた金と権力、それらを用いてエンデヴァーは一人の女性を丸め込み自身の個性と合わせて生まれてくる子に継がせる個性を手に入れた。

そして生まれた己の上位互換となる子供、轟 焦凍こそをオールマイトを越える存在として育て上げようとして彼らは対立し続けているという。

 

──轟の記憶の中の母はいつも泣いている

 

『お前の"左"が醜い』

 

自身に降り注ぐ重圧に耐えられず苦しんだ母に轟は煮え湯を浴びせられた。

しかしそれを恨みはしない、なぜなら責めらるべき相手は別の場所で今ものうのうと歪んだ上昇意識に酔っているのだから。

 

「俺がお前につっかかったのは見返す為だ、あいつの"個性"なんざ使わず……母の力だけで勝つ! それで奴を完全に否定する! ──その為の相手に№1から"何か"の繋がりを持つお前は絶好の相手なんだ」

 

冷たい、一人の少年が抱えるには重すぎる宿命に空気が凍る。

しかしそれでも緑谷は口を開いて静寂を破る。

 

「僕はずっと助けられてきた。──誰かに救けられてここにいる」

 

一人で戦い続けた轟とは違う。

母や憧れのヒーローに支えられ雄英に入学した。

その後も色々な場面で色々な人に助けられた。

 

「オールマイト……彼のようになりたい、その為には1番になるくらい頑張らないといけない。君の動機に比べたらちっぽけなものかも知れないけど──でも僕だって負けられない!!」

 

轟が背負わされた深い闇、それは緑谷にとって想像はできても理解はしきれない。

それでも、彼の様に背負ったものではなかったとしても緑谷もまた"ある人"に託されたものを持っている──だからこそ

 

「僕を助けてくれた人達の為にも負けられない! だから轟君、僕も……君に勝つ!!」

 

互いの闘志が交差する。

轟の抱えたものに対し緑谷が慮り勝負を投げ出しそうになるようならば口を挟もうと思っていた千土だったが杞憂で済んだことに安堵する。

 

2人の間での宣言は決着した。

ならば次はと轟の視線が千土へと向く。

 

「それで地城、お前はなんで俺のこと知っている?」

 

「あぁ、それが──っ!?」

 

オールマイトの熱愛に探りを入れるのを止められ仕事を失った携帯が鳴動する。

「わるい」っと断りをいれて画面に見てみれば上鳴からの通知。

 

「"今どこにいる!! 早くフィールドに来てくれ! "──何かあったのか!?」

 

携帯に映る時刻を見れば轟達の話で思ったより時間が過ぎてレクリエーションは始まる少し前の時間だ。

──そういえば体育祭のレクリエーションは大玉転がしや借り物競争があるそうだが俺入院しててどの競技出るのか知らねぇ……まさか最初の方の種目なのか……

 

「すまん轟! レクの出番みたいだ!!」

 

「は?」

 

「今度蕎麦おごるから今はそれで手をうってくれ! 話しも後で絶対するから!!」

 

呼び止めようとする轟を見向きもせずに千土は一目散に走り去ってしまう。

残された轟は何となく気まずいが疑問に思ったため緑谷に視線を向ける。

 

「──あいつ入院してたから確か補欠だったよな」

 

「う、うん確か……」

 

▼▼▼

 

「──どういう状況だ……これは?」

 

肺が痛むのを気にせず走り続けた。

自分の管理能力のなさでクラスに迷惑をかけるわけにはいかないと必死だった。

何とかレクリエーション開始前に辿り着き肩を呼吸で大きく上下させてフィールドに目を向ければ待っていた光景は想像していたものとは大きく違っていた。

 

「お、来たか地城!」

 

満面の笑みで上鳴と峰田が出迎えるてくるが視界に映るのは別のもの。

横一列に並び皆揃いの衣装を纏って同じく揃いの表情を浮かべた同じ1-Aに所属する女子達。

 

「何でチアやってんのお前ら? ……まぁ正直八割ばかし予想は出来てんだけどさ」

 

クラスの女子一同は普段の恰好とは違いチアの衣装をしていた。

しかしその表情には一切の光がなく声をかけてみれば身体をプルプルと震わせる。

 

「峰田さんと上鳴さんに騙されまして……」

 

俺がここに到着するより前に既に怒りは過ぎ去ったのだろう、ただひたすら不本意そうに呟く八百万の言葉にやっぱりかという感情を抱く。

 

「どうよ地城! お前も俺達側の人間だと思って声をかけてやったんだぜ。感謝しろよ!!」

 

峰田は自信満々に肘で突いてくる。

確かにとても眼福な光景だろう。

俗っぽい言い方をしてしまえば皆容姿レベルの女子達だ、表情こそ惜しいがあまりに眩しい光景に以前の自分ならば携帯片手に写真いいですか? と交渉を始めるやもとさえ思う。

 

──以前の自分ならば……

 

「峰田、上鳴……俺達ももう高校生だ。衣装の1つ2つで騒ぐもんじゃないし、ましてや騙して着させるもんじゃないぜ……そろそろ大人になろうな」

 

「「何があった地城!?」」

 

急に悟りを開いたような口振りで語る千土に上鳴と峰田は驚愕する。

しかし数刻前自身の脳を掻きまわす騎馬戦を終え千土は一つの結論に至った。

 

──服なんて着ていてくれるならなんだっていいさ

 

たしかに普段より露出の高い衣装だ、だがそれがなんだというのか。

きちんと節度を保つべきラインは抑えた真っ当な衣装だ、なにより接触もしないのだから騒ぐようなもんじゃない。

 

「そんなことよりそろそろレクだろう、最初は大玉転がし? 俺はこれに出ればいいのか?」

 

「「地城!?」」

 

もはや仙人か何かように澄んだ目で着々と準備が進められている競技に目を向ける千土に上鳴も峰田も仲間と思っていた級友の姿に本来の目的であった少女達から視線を外して千土の身体を揺する。

 

「何なのですの……」

 

「アホだあいつら」

 

人を騙したと思ったら急に寸劇を始めた馬鹿達に戸惑う八百万の隣に立った耳郎は付き合いきれず手にしたボンボンの1つを地面に叩きつける。

 

しかしその近くで別のアクションを起こす少女がいた。

千土にとって全ての元凶(そもそも原因は千土自身だが)葉隠 透が声を出す。

 

「えー地城君大玉転がし出るの? んー、じゃぁ一緒に戦った仲だし特別に応援したげる!! フレー、フレー、ち・し・ろーっ!」

 

「おいやめろ馬鹿大将、やっと落ち着いた俺の脳をまた壊しにかかるな!! 頼むからそんな身体のラインが出てる衣装で跳ね回るな! そうだ! やるならせめて──っ!!」

 

誰だ服なんて着てさえいればなんだって良いとかいった馬鹿は!? 

むしろ葉隠に限っていえば逆効果だ! 

必死に葉隠を止めようとして顔にボンボンが飛んでくる。

 

「──スケベ」

 

「ごめんなさい」

 

柔らかい衝撃に意識が引き戻される。

助かった、危うく葉隠に衣装脱ぐように頼み込むとこだった。

 

下手すれば体育祭失格すっ飛ばして退学ものだと自分の馬鹿さ加減に背筋が冷える。

手元に残っていた方のボンボンを投げ付けながら向けられた冷ややかな視線は辛いがむしろ感謝しなければと耳郎に視線を向ける。

 

「ちょっと……あんま見ないでよ」

 

「あ、すまん」

 

慣れぬ衣装に気恥ずかしさを感じているのだろう、僅かに顔を紅くして訴える耳郎についまた謝罪の言葉を口にしてしまう。

 

「……」

 

「……あー、なんだ、耳郎──」

 

「ほらほら、キョーカちゃんも一緒のチームだったんだし応援したげよーよ!!」

 

「ちょ、透!? 引っ張んないでって!」

 

沈黙に耐え切れず何かを話そうと口を動かすもそれを遮って葉隠が(見えないが恐らく)耳郎の腕を引っ張って無理やり振り付けを決めさせる。

 

「はいせーのっ! ファイト―! ち・し・ろー!!」

 

「あーもうっ!! ファイトー!!」

 

「お、おう頑張ってくるわ、ありがとな」

 

底抜けに明るい葉隠の声と明らかにやけくそ気味な耳郎の声が響く。

何となくだが、もしも本選で当たっても俺は葉隠に勝てない気がしてきた。

 

正直かなり嬉しく、でも何故か釈然としない声援を受けて千土は大玉転がしのチームの列へと向かうのだった。

 

▼▼▼

 

 

『あれ、地城君は確か補欠?』

 

「すまん口田! 今度何か奢るから代わってくれ、多分勝って帰らないと怒られる……」

 

俺が何をしたというのか、いや貴重な姿を見られたと思えば安いものか……

 

──あ、安いといえば後で轟にも蕎麦奢らにゃならないんだった……よし、勝って帰ったら上鳴と峰田からまきあげよう。

 

本来出場する予定だった口田と代わって貰い同じく大玉転がし参加者である障子の隣に立つ。

 

「何かあったのか?」

 

「まぁいろいろと」

 

そういえば障子も一緒のチームなのに俺だけエールを貰ってしまったなとふと申し訳ない気持ちに──は、ならずむしろ返事を終えると先程までのことが自然と頭から抜け落ちる。

 

「しっかしなぁ、何か気が付けばいつもお前には世話になってんな? 多分これが今日最後の協力だし先に礼を言っとくよ」

 

「礼など不要だ。俺も、本選への出場はお前と組んでいなければ叶わなかったかも知れないのだからな」

 

互いに言わんとしていることは理解している。

第二種目の終了後、昼休みに入る前に引いたクジ引きを思い出して2人は僅かに肩を動かす。

 

「……勝とうぜ、例えレクリエーションでも……目指すは完全勝利だ」

 

「あぁ、勿論だ」

 

スタートの掛け声と共に大玉を押しながら全力で駆ける。

 

本選前の僅かな一時、この競技もまたプロヒーローへのアピールの場であるがそれでも一番の目的はお祭り騒ぎ、頭を空っぽにして全力で楽しむための一時なのだ。

 

しかし例えそうであったとしても掴んだものは間違いなく本物で……

体育祭が始まってどれ程の時間が流れたのか、1-Aのチア達の声援を受けながらようやく千土は心の底から喜べる勝利を掴んだのだった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

そんな思い切り楽しんだレクリエーション競技が終わると遂に誰もが待ちわびた時間が訪れた。

結局轟と話す時間はなかったが彼の方からも声がかからない辺り今はこの瞬間に集中しているのだろう。

 

「さあ! いよいよ本選を開始するわよ!!」

 

ミッドナイトの言葉と同時に会場のモニターに本選のトーナメント表が昼休み直前にクジを引いた時と同様に映し出される。

組み合わせは当然その時のままで、自分が戦う相手の名を変わらずに示している。

 

 

『Aブロック』

第一試合 緑谷VS心操

第二試合 轟VS瀬呂

第三試合 飯田VS発目

第四試合 耳郎VS上鳴

 

『Bブロック』

第五試合 常闇VS八百万

第六試合 爆豪VS麗日

第七試合 切島VS葉隠

第八試合 障子VS地城

 

 

 

──まったく、初戦ぐらい容赦してほしいもんだよ。

 

 

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