地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第16話 開幕!最終種目

長い間をおいて遂に始まった最終種目『一対一による本気の勝負』。

その始まりといえる第一試合は緑谷と唯一普通科から出場を決めた心操との対決。

これまでのような特殊なルールで行う競技と異なり純粋な戦闘能力による勝負である以上ヒーロー科として訓練を積んでいる緑谷に軍配が上がる──最初はそう思っていた。

 

「……とんでもねぇな」

 

表情1つ動かさず固まった緑谷とそれを無表情で眺める心操を見て千土はポツリと呟く。

 

──"洗脳"

自身の声に返事をした者をコントロール下におく対人間で非常に強力な個性。

それが心操の力だった。

 

尾白から予め注意するように言われていた緑谷だったが心操の巧みな挑発につい乗ってしまい、既に身体の動きをコントロールされ今はゆっくりと場外に向かっていってしまっている

 

「……これで終わりじゃねぇよな」

 

あの轟の覚悟を前に毅然と立ち向かった男がこんなところで負けるなと思うも緑谷の足は止まることなく場外へと向かい続け──

 

▼▼▼

 

結果は逆転し緑谷は勝利を掴んだ。

 

場外へ踏み出したその足を緑谷は"個性"を暴発させることで洗脳を破ることで止めることに成功した。

そのまま心操へ接近し彼の言葉に応えることなく心操の身体をを場外へと落とした。

 

「──よぅ、お疲れさん」

 

「あ、地城君……ありがとう」

 

観客席に戻ってきた緑谷に声をかければその顔は疲労に満ちていた。

 

自らの"個性"故に入学試験で仮想敵を倒すことも出来ず夢に手を伸ばせないことに苦しんだ同い年との戦いはやはり重たかったのだろうと伝わってくる。

 

「まぁ、気持ちは分かるが今は次の試合に注目しろよ、お前が次に戦う相手なんだからな」

 

そう緑谷に促した第二試合は……一瞬で終わってしまった。

開始直後に不意打ちの場外狙いを図った瀬呂だったが轟の圧倒的規模の凍結により氷山に捕らわれその動き全てを潰される。

 

策も動きも間違ってなかった、しかし純粋な実力差に真正面からねじ伏せられた瀬呂に会場からドンマイコールが送られる。

 

「反則でしょあんなの……」

 

前の席に座っていた耳郎は声を漏らす。

彼女もまた轟と同じブロックの選手であるため観客席にまで迫った巨大な氷山を目の当たりにして気が重くなったのだろう。

 

「そうだな、遮蔽物のないフィールド、試合開始の合図で戦闘が始まるルールであの攻撃範囲と速度。──どう対処したものか……」

 

千土もまた顎に手を置いて思考する──があまり良い案は湧かず目を閉じていると隣から声が聞こえた。

 

「ねぇ地城君……地城君は自分の"個性"についてどう思う?」

 

「……"あいつ"の話か?」

 

突然の話に耳郎は首を傾げるが事情を知る千土は今フィールドで悲しそうな顔で炎を用いて氷山から瀬呂の救出を試みる轟を見ての言葉だと容易に察する。

自身の意図を読み解かれた緑谷は静かに首を縦に振る。

 

「緑谷ぁ、俺が言えたことじゃないけどあんまり相手の事情に首突っ込むと苦労するぞ? ──まぁヒーロー志望ならこればかりはどうしようもないことだろうけどな」

 

一応の忠告かあるいは既に踏み込んだ自分への言い訳か、自分自身曖昧な言葉を呟き頭を掻く。

 

「僕は……この"個性"を使えるようになって本当に幸せだって思って、自分の"個性"を嫌うっていうことが考えられなくって──」

 

「俺もそうさ、いつかのバスで言ったよな、俺はきっと恵まれた"個性"の人間だって」

 

「う、うん」

 

ヴィラン襲撃が起こった日、そんなことが起こるとは思ってもみなかった頃のバスの中での会話を思い出して緑谷は頷く。

 

「──これは知り合いの話なんだがな、そいつの"個性"は発動してしまったら自分でも操作できない類のものでな……ある日自分の家族を死なせてしまったんだ」

 

「──え?」

 

千土の語った言葉に緑谷は言葉を失い、前の席で聞こえていた耳郎もつい振り返ってしまう。

 

「それでずっと自分の"個性"に怯えて──それが更に"個性"を暴走させかねないからずっと人形のように固まってしまったよ」

 

「そ、そんな……」

 

「まぁ、今は"リラクゼーココナッツ"様のおかげですっかり立ち直って元気なもんなんだがな」

 

パッと明るく語った千土の言葉に緑谷も耳郎もホッと息を吐く、千土としても重い部分をさっさと抜けられてホッとする──が、一応ここからが本題だ。

 

「でもそいつは今も個性に気を付けて生きている。だから"そいつ"も"あいつ"も一緒さ、結局皆自分の個性は最期まで抱えていかなきゃならないんだ。……だからこそ"あいつ"には早いとこ気付かせてやらないとな」

 

轟ならまだ取り戻せるはずだ、今はひび割れていたとしても彼が取りこぼしてしまった"あの人の思い"を気付かせてやればきっとまだやり直せる。

 

今も辛い表情で氷を溶かし続ける轟を見ながらふと呟く。

そんな存在などいるはずがないと分かり切っているから夢物語として軽く話せる

 

 

 

──もしも

 

 

 

「──もしも、他人の"個性"を手放させてくれる……そんな存在がいてくれれば、きっと今ほど苦しまなくていいんだろうけどなぁ……」

 

 

 

そんな神様みたいな存在を夢見て、この話は終わる。

何度も夢見た話で、夢は夢で終わるのだから──

 

 

 

▼▼▼

 

轟が形成した氷山がやっと片付いて続く第三試合、飯田とサポート科の生徒──発目という少女による試合が始まる。

 

ヒーロー科とその他の科である者との戦い、それは第一試合で見た想定外の展開になるやもと思い見ていればある意味ではその通りとなった。

 

飯田が発目に言いくるめられ装着してきた数々のサポートアイテム、それらを売り込む為の広告として飯田は延々と利用されてしまっている。

 

一応の勝利と精神的敗北、飯田には気の毒だがある意味これがサポート科の戦いなのかもしれないと思い、とりあえず飯田に合掌しておく。

 

「──で、次はお前だぜ耳郎? いけるか?」

 

「……上鳴はアホだけどさ、やっぱ強い"個性"じゃん」

 

恐らく時間いっぱい利用されるとしても残り試合時間もあと僅か、前の席に座る耳郎に声をかければそんな言葉が小さい声で呟かれる。

 

「そうだな、──でもまぁお前なら大丈夫だろ?」

 

「……めっちゃ適当じゃん?」

 

「いやマジな話よ? ──だってお前、俺らの中で一番早く踏み出せる奴じゃん?」

 

不満気に千土の顔を見ていた耳郎は僅かに目を動かし「何それ」と言い残して耳郎は観客席から離れていく。

 

「……地城君今のって?」

 

「言った通りの意味だぜ? ──まぁ見てれば分かると思うぜ」

 

緑谷はいまいち千土の言葉の意味が理解出来なかった。

誰よりも速く動ける、それが誰かと言えば今ようやく広告としての役目から解放された飯田だろうと思いつつ、その言葉に従いやがて始まる次なる試合に目を凝らす。

 

 

 

▼▼▼

 

 

「悪ィな耳郎、騎馬戦での借りを返させてもらうぜ!」

 

「そ、なら全力でかかってきなよ」

 

フィールドに立った耳郎は真っ直ぐに自分を捉える上鳴に強気で応える。

その目には一切の迷いはなく、会場の熱狂も気に留めず──これから訪れる一瞬に集中する。

 

『さぁいくぜ!! 第四試合! ──スタァァァァァット!!』

 

プレゼントマイクの試合開始宣言と共に上鳴が動く

 

「じゃぁ遠慮なく全力で行くぜ!!」

 

この遮蔽物のないフィールドで対戦相手はどう防ぐ? 

第二試合同様一瞬で決着つけられるのか? 

 

上鳴の全力の放電、第二種目の騎馬戦においてもその威力を示した"それ"に会場の視線が強まる。

 

──しかし耳郎は皆がその威力を認める"それ"に迷いなく飛び込む

 

彼女の聴覚のみがそれを拾えたから

 

パチッという弾けるような雷の音。

放電を放つ前の"溜め"

 

それが必要であることが分かったから迷いなく"踏み込めた"

 

 

 

──大丈夫! 踏み込め! この距離ならきっと間に合う!! ……ウチは──

 

迷いなく駆け出したからこそ全力で伸ばしたプラグが上鳴の放電より一瞬早く接触する。

 

──誰よりも早く踏み込める!! 

 

「うおぉぉぉっ!? ──っ」

 

流れ込んできた爆音に上鳴は苦悶の叫びを響かせ──その意識を手放す。

 

『オォットォォ!! 決着!! 誰が予想したか、第二試合同様に瞬殺が起こるかもと思ったが何とする側とされる側が逆転!! 勝者──耳郎 響香ァァァァァッ』

 

『上鳴は大味すぎたな、轟の試合を見たせいか安易に大技に頼り過ぎた』

 

強力な攻撃を放とうとすればその分放つまでの時間は遅くなる。

それを考慮せず撃とうとすれば当然隙は生まれてしまう。

 

(もっとも、全力で飛び込まなきゃ間に合わなかっただろうが──どっかの馬鹿の影響か……変なとこまで影響受けてなけりゃいいけどな)

 

隣のプレゼントマイクと比べてあまりに淡々とした口調で進めつつ相澤は観客席に視線を向ける。

件の"どっかの馬鹿"は目の前の結果に満足そうな表情で緑谷と何やら話しているようだった。

 

▼▼▼

 

「す、凄い……」

 

「言ったろ? そりゃ速く動けるかって言ったら俺らと大差ないだろうけど……見て動く俺達と違ってあいつは相手が動く前の僅かな音で動けるから"早く踏み込める"──そこが強ぇんだと俺は思うぜ」

 

騎馬戦の時もそうだった。

崩落した地面に落とした拳藤の攻撃が始まる前にそのチームでの作戦を盗み聞いてくれたから向こうが動く前から警戒できた。

聞く力というのはそれだけで大きなアドバンテージなのだ。

 

「──お疲れさん、カッコ良かったぜ?」

 

「うっさいバカ」

 

だから帰ってきた耳郎にそう素直に褒めてみれば素っ気ない言葉が返ってくる。

勝利の喜びを気恥ずかしそうに隠す耳郎を揶揄うのは何となく気が引けて、ワザとらしく緑谷に向けて肩をすくめ苦笑するのだった。

 

▼▼▼

 

続く第五試合。

Bブロックに移った最初の試合である常闇と八百万の試合は常闇の圧勝で終わった。

 

「"闇影"の個性はやっぱ反則染みてるな……」

 

「一対一での戦いであれに勝つのは難しいよね」

 

攻防共に優れたその力は万能を誇る"創造"に対処する間も与えず勝負を決め、観戦していた千土や緑谷にも改めてその脅威を見せつけた。

 

そしてその後の第六試合

皆が不安に見守る爆豪と麗日の対戦カードは途中爆豪へのブーイングが飛び交う程苛烈なものであった。

しかし司会の相澤の忠告、そして自身の持てる力を全て費やし作り出した麗日の反撃にその声も止んだ。

 

誰にも悟られぬよう宙に浮かし続けた大量の瓦礫による一斉攻撃。

しかしそれすら爆豪は粉砕する。

力を使い果たし意識を手放した麗日を爆豪は決して見下すことなく第六試合も終わりを迎える。

 

「さて、そろそろ俺は控え室に向かいますかね」

 

気が付けば少し離れた位置で観戦していた障子がいなくなっている。

自身が座っていた席から腰を上げると正面の席の少女から声がかかる。

 

「──頑張んなよ」

 

「あぁ、なんせ相手はあいつだからな──楽しみで仕方ねぇよ」

 

▼▼▼

 

観客席からさほど遠くない控え室の扉を開けると宙に浮かんだ衣服──葉隠がいた。

 

「何だまだ控え室にいたのか大将?」

 

「もー、その呼び方やめてよー可愛くないじゃん!」

 

「はいはい、で、そろそろ出てかないといけない葉隠さんがこんなとこで何してんだ?」

 

いくらまだ呼ばれてないといえどいつまでも控え室にとどまっているわけにはいかないだろうと声をかければ葉隠は「んーと」と少し悩んだ素振りを見せて後に「よし」と意を決した声を出す。

 

「正直に言うと悩んでたんだよね、ほら私って直接攻撃できる個性じゃないでしょ?」

 

葉隠の言葉に千土は納得できた。

 

身体が透明の個性。

人に見られないという個性は強力だが今回の様な直接の戦闘となると決め手となるものが何もない。

加えて相手は"硬化"の切島だ、戦いとなれば仮に向こうが透明の葉隠に攻撃出来ず殴る蹴るなどの一方的な攻撃が可能だとしてもむしろダメージが大きいのは葉隠だろう。

 

体格の差がある男女だ、場外狙いにしても葉隠が切島を押し出すのは容易ではないだろう、まして接触してしまえば透明で姿が見えないという長所すら失ってしまう。

 

勝ちが見えない、大観衆が見守る中でのその状況はいつも明るいムードメーカーでもさすがに思い詰めてしまうようだった。

 

「それに進行の為には服着ていかないといけないし、どうしたらいいかな?」

 

その言葉に千土もそう言えばと顎に手を置く。

さすがに試合開始するためには葉隠がそこにいると分からないと駄目だ。

仮に服を着ずに行ったとしても"ここにいる"と声を出さねばならずそれだけである程度の位置を割り出されてしまう、考えてみれば透明の強みが完全に殺されてしまっている。

 

手詰まりな現状に葉隠は困ったような曖昧な笑い声をだしてどうすればいいのかと質問をする。

既に騎馬戦は終わりチームは解散し今は競い合う相手、加えてもしも自分が勝ち進めば次に戦う相手に何と答えるか千土は悩み──

 

「……毒霧?」

 

「はい?」

 

一切考えてなかった言葉にさすがの葉隠でさえ戸惑った声をだす。

 

「いや、俺もあんまり詳しい訳じゃないけどプロレスとかで口の中に毒霧の入った風船仕込むなんて反則技あるそうじゃん。お前の身体食べた物とか見えないから口の中に物仕込んでも口開けない限り見えないんじゃないかなと思ってな」

 

可能なら頭の動作も見えない分かなり酷い不意打ちになりそうじゃないかとふと思った。

 

「いやいやいや!? やだよ口の中に毒霧入り風船入れるなんて怖い事!! 何でそんな発想がポンッて出てくるの?」

 

「まぁ毒霧は無理でも水とか仕込んどけば絶対切島ビックリして隙作れるって」

 

丁度控え室には水のサーバーがあった為紙コップに注いで葉隠にそれを渡す。

 

「ていうかどう考えても反則だよねそれ!? サポート科以外の人は持ち物の持ち込み禁止だし」

 

「多分な。というかそもそもの参考が反則技なんだ、100パー一発アウトだわ」

 

「じゃあダメじゃん!! 真剣に考えてよね!!」

 

騎馬戦以降振り回してくれた相手に軽い仕返しが出来て気分が良くなり「じゃあ含み針とかどうだ? 仕組み知らねぇけど」とか適当なことを言ってみるとポカポカと叩かれ出した。

 

うん、そろそろ本題に入らないと怒られそうだ。

 

「まぁ現実問題あと数分で始まる試合だしそんな都合の良い案は俺には出せないな」

 

「うっ……だよね~」

 

「でも、こんな感じに探そうと思えばいくらでも方法は考えられるんだ、お前なら何か出せるだろ──今までその個性でずっと戦ってきたんだしな」

 

そう言い千土はポケットから携帯電話を取り出す。

突然の行動に葉隠は首を傾げる。

 

「あ、もしもし相澤先生? ──ちょ、すいませんそんな怒らないで下さい、はい、司会席いるの分かっててかけてますけど──っていうか相澤先生こそ司会なんだから着信切っておいて下さいよ!! ──はいはい、そりゃ何かあった時にはすぐ出れた方が良いですもんね──てちょっと切らないで下さいって──あーもう分かりました後で反省文書きますからちょっと人呼んで下さい! 公平な勝負の為です!!」

 

「ち、地城君?」

 

下から目線で真っ向から言い合う千土に葉隠はハラハラした様子で声をかけると非常に疲れた様子で千土は振り返る。

 

「まぁ何だ、皆が全力で挑めてこその体育祭だからな──多分何とかなるから服脱いでけ」

 

「え? 、──うん、分かった」

 

「いや待てここで脱ぐなロッカー行けよ!!」

 

「時間ないもん!! ──あ、ここに置いていくけど触らないでね、さすがに恥ずかしいから!」

 

「もっと別のとこで恥ずかしがれ!! ──あーもう入場しても絶対声出すなよ!!」

 

バタバタと飛び出していった葉隠に全力で叫ぶと疲れたようにイスに座る。

──机の上に畳まれた放置品が非常に居心地を悪くさせる。

 

「──廊下で待つか」

 

遠慮なくイスを廊下に持ち出して腰を掛ける。

どうせもう反省文の作成は決まっているんだ、多少のマナーの悪さは気にしなくていいだろう。

 

▼▼▼

 

『さぁて! 司会の癖して着信切ってないマナーより仕事優先の奴のせいでトラブったが第七試合を始めるぜ!! 両選手入場!!』

 

2つの入場口からこれまで同様に今から戦う選手が姿を見せる。

 

──しかし、これまでと違う事態に会場がざわめく。

 

片方の入場口から切島が姿を見せセメントスが造ったフィールドに上がったはいいがもう一人、葉隠 透の姿がどこにもないからだ。

 

『オイオイどうした!? 騎馬戦での波乱の立役者の透明少女が現れねぇぞ!? おーいいるなら返事を──!?』

 

「少し待って頂きたい!!」

 

プレゼントマイクの司会を遮って声が響き、入場口から一人の雄英教師が姿を見せる。

 

鬣の様な黄色の髪をなびかせ拘束具の様なマスクを装着した獣人型の男。

雄英高校生活指導担当教員ハウンドドッグが切島一人が立つ舞台に上りマイクを通して会場に声を出す。

 

『ある生徒から司会の相澤先生に要望が入った──その内容は互いの生徒の存在を確認しなければ試合が始まらない当然の形式によって起こる不平等性についてだ』

 

会場がざわめく中ハウンドドッグは言葉を続ける。

 

『今回試合に臨む葉隠 透の個性は"透明化"、他者にその姿を見られないことに強みがある!! しかし姿を確認出来ない限り試合開始宣言が出来ないこの形式では自らの存在をなんらかの方法で明かさねばならない──つまり彼女は他の参加者と違い自身の強みを無くした状態で試合を開始せねばならず、それでは公平性に欠け"フェアなガチンコ勝負"とは言えないという意見だ!!』

 

『ヒーローとは不利な状況でも限界に挑む者、すなわち今回の主張は非常に甘いものであり受け入れる必要性はないものだ──が"生徒の如何は教師の自由"それが雄英高校だ。俺とハウンドドッグ先生の権限でこの主張を受け入れることを決めた!』

 

『"個性──犬"俺の"嗅覚"が証明するう゛う゛──葉隠 透は既にこの場に立っている!! よってただいまより試合開始宣言を行う゛!! ──お前にはすまないことをした』

 

 

 

相澤とハウンドドッグが会場全体に高らかに宣言し──切島へと声をかける。

切島はすぐに首を横に振る。

 

「構わねぇッスよ!! 全員が全力で挑んでこその体育祭でしょう!! 相手の全力を自分の全力で超える! ──それが優勝を目指す者の姿ッスから!!」

 

「いい答えだ! ──我々はお前のことも当然応援している。互いに全力を尽くせ!!」

 

そう言い残しハウンドドッグは舞台から降りる。

残されたのは誰もいないように見える舞台に一人たった切島のみ。

 

『──ったくよぅ!! 何だって今年はこうも熱い連中が多いかねぇ!! いいかお前ら!! 改めて宣言しちまうぜぇ!! 第七試合──スタァァァァァット!!』

 

歓声渦巻く会場にプレゼントマイクの宣言に響き渡った。

 

 

▼▼▼

 

廊下でも聞こえる放送を耳にして千土はホッと息を吐く。

 

「──ダメもとでいってみたけどまさか聞いてくれるとはなぁ……相澤先生にまぁた頭上がんなくなるなぁ」

 

誰に言うでもなく一人呟くと携帯が鳴動する。

ディスプレイに表示されるのは先程自分が口にした教師からのメール。

 

『要望は正当性が認められたから受け入れた、──があんまり場をかき乱すことはするなよ。後日反省文提出"2枚"な__相澤』

 

「──ったく、甘くするならいっそ無くしてくれよな相澤先生め――ん? またメール?」

 

いつもより明らかに少ない枚数にこれではいよいよ本当に頭が上がらなくなってしまうと苦笑していると再び携帯が鳴動しその画面へ視線を落とす。

 

『かっこつけ_耳郎』

 

短い、たった5文字の言葉に千土は唸る。

 

『うっさいバーカ_千土』

 

何となく、この一件が自分の仕業だとバレたのが気恥ずかしくつい"さっき誰かに言われた"言葉を無意識に返し、また頭が上がらない奴が増えそうな予感に嫌気が差して携帯の電源を落とすのだった。

 




「う」に濁点を付けれずハウンドドッグ先生の口調再現が出来ない…
というか通常時の口調これで大丈夫だろうか…

―追記―
皆さんのおかげで解決できました
ありがとうございます。
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