地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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リアルが多忙に加えて
2つのソシャゲでバレンタインイベ追われ
息抜きでやったガチャフォースに再熱してしまい更新が遅れてしまいました申し訳ありません。


第17話 目指すべき在り方

特例措置の後に開始宣言された第七試合。

姿の見えない相手の位置を把握できない切島は不意打ちで場外に落とされないように舞台の中央を陣取る。

 

「…どこにいるんだ?」

 

視覚は勿論、ハウンドドッグ先生のような嗅覚を持たない切島は見えない葉隠の居場所を見切るべく目を閉じ耳を澄ます。

 

「……――…っ…」

 

足音一つ聞こえない。

攻撃一つしてこない。

 

良くも悪くもお喋りな葉隠らしかぬ立ち回り、それ故何も起こらぬまま早くも硬直状態に陥った試合に会場からは戸惑いの声が上がる。

 

決着はつくのか?

引き分け狙いのつもりなのでは?

疑惑の声が次々に上がる。

 

「――へへ、どんな狙いか知らねぇけどよ…ビビッて動かねぇなんて漢らしくねぇよな!!」

 

しかしそんな声を打ち破るかの様に切島がついに動く。

 

居場所の特定が出来たわけではなく手当たり次第、両腕を身体の前で交差させて舞台の上をひたすら駆け回る。

 

接触が出来ればそれで良し、そうでなくと距離を取ろうと動く足音が聞こえれば状況は変わるはずと耳を澄ましたまま走り続ける。

しかし葉隠もその意図を理解しているのだろう、足音一つ立てず避け続けその居場所を悟らせない。

 

『オイオイ!こいつは随分地味な試合になっちまってんな!?実況に困っちまうぜ!!』

 

『喋んな、切島の邪魔だ』

 

『…おっとこいつはマジで実況泣かせだ…』

 

プレゼントマイクの珍しい小声が悲しく発せられる。

 

 

▼▼▼

 

「何だか透ちゃんらしくないわ」

 

「無理もねぇよ、自分の為に特例措置なんてやってもらったらどうしたって慎重になっちまうさ」

 

観客席で試合を見守る1-Aの生徒達もいよいよ不安になってくる。

蛙吹の言葉に砂藤も同意しつつもそう言い制限時間を示す電光掲示板に目を移す。

 

「もう残り時間も半分切っちまったぞ…」

 

「切島をずっと走らせ続けて終盤に疲れたところを狙う気か?」

 

「確かに、個性の相性でも勝ち目があるとすれば――「とりゃあぁぁぁぁっ!!」――えっ!?」

 

声がした。

今までずっとその姿を隠し続けていた葉隠が大きな叫び声を上げた。

 

▼▼▼

 

「――っ!?」

 

不意に聞こえた叫び声、舞台の上を全力で走って近づいてくる足音を聞いて切島は急いでその方向に振り返る。

 

しかしその振り返らんと動かした足に軽くない衝撃を受ける。

葉隠がその全身をもって軸足となった右足に飛びついたのだと切島は理解する。

 

「いくら切島君でも右足一本に集中されたら――」

 

助走をつけた体当たりに切島の体勢が崩れる。

そして切島が立つ位置は舞台の端のでありここままでは場外に落ちると切島の脳が告げる

 

「うおおおおおぉぉぉっ!!」

 

ダンッと地面を踏み鳴らす音が静寂の会場に響く。

葉隠の全身の負荷をかけられ体勢を崩した切島の右足――それとは異なる左の足が舞台を大きく踏みつける。

 

「――っ!?」

 

『た、耐えたーーっ!!切島!葉隠の場外狙いの不意打ちを左足一本で持ち堪えたぞォ!!――そしてェ!!』

 

「――捕まえたぜ!!」

 

プレゼントマイクの実況が再開されると同時に切島は自身の足を掴むその見えない手を握り返す。

 

「おおぉぉらァァァッ!!」

 

「うわっ――――あ…」

 

どさっと舞台の上から何かが落ちる。

切島の全身で振り抜いた腕が葉隠を舞台の外へと投げ落としたと会場はすぐに理解し歓声を上げる。

 

『決着ゥ!!静寂の第七試合!勝者切島鋭児郎だァァァっ!!』

 

勝敗を告げるプレゼントマイクの声が響くなか切島は姿の見えない葉隠のいるであろう方向に目を向ける。

 

「葉隠…何であん時声出したんだよ?」

 

疑問、場外狙いの体当たりの直前に声を出したことが理解が出来ずに切島は問いを投げる。

 

「誰だか知らねぇけど姿を隠して良いように掛け合ってくれたんだろ?なのに何で?」

 

「うん、その人には悪いことをしちゃったって思うんだけどね…」

 

葉隠は少しバツが悪そうに声をだすとそれでも意を決して声を出す。

 

「その人に私なら何か良い方法が出せるはずって言われて切島君から隠れながらずぅっと何か出来ないかって考えて――それで思ったの、今の自分が何か違うなぁって」

 

「違う?」

 

「うん!やっぱりずっと隠れてチャンスがくるまで待ってるだけなんて嫌!私はいつでも明るくて皆を笑顔にできるヒーローになりたいもん!今回はそれで負けちゃったけど――挑むなら"なりたいヒーロー"で№1を目指さないとでしょ?」

 

迷いない声で告げられた葉隠の意志に切島も、彼女の行動を迂闊と思った者達も目を見開く。

例え自身の優位性を手放す形であっても理想のヒーロー像を目指した少女の覚悟に息を飲む。

 

「ああ、そうだよな葉隠!俺も絶対自分を曲げねぇ!!憧れたヒーローのようになれるように!"なりたいヒーロー"で優勝を目指すぜ!!」

 

「うん、応援してる!――頑張ってね!!」

 

かつて自分が憧れた漢気ヒーロー

恐れを知らず危険に立ち向かう猪突猛進なヒーロー活動で『後悔しない生き方』を語ったあるヒーローを思い出して切島を拳を握る。

 

そんな切島の姿こそが自分の覚悟が認められた証であり、葉隠もまた嬉しそうに声を出す。

 

A組一の熱血と明朗の勝負は会場の拍手に包まれ決着を迎えるのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

「"なりたいヒーロー"で№1…ねぇ――ったく、これじゃ完全に余計なお節介だったなぁ…ったくよぅ」

 

廊下のモニターで試合の結末を見て千土は一人愚痴を漏らす。

しかしその声からは不快な気分は一切感じられず、むしろ自身の見た映像に心から楽しんでいるようだった。

 

「――さて、そんじゃそろそろ行きますか…」

 

廊下に持ち出してイスを控え室に戻して入場口へと向かう。

いよいよ最後の組み――第八試合、つまり自身の出番だと拳を握る。

 

負けられない。

選手宣誓で誓った言葉、憧れのヒーローへ誓った言葉を守る為。

それこそ自らの夢を叶え"なりたいヒーロー"になるための、その一歩として。

理由は色々あるが少なくともこの一戦に関して言えばそれらは1番の理由に成り得ない。

 

いつも一緒に行動する友人の一人。

彼らもまた強くヒーローに憧れ、それに手を届かせるべく努力し続けていることを他のクラスの者達以上に理解しているからこそ負けられない。

 

薄暗い通路を進み外の明かりが差し込む入場口に辿り着くとプレゼントマイクの声が響いてくる。

 

『さぁいよいよ一回戦最終試合の時間だぜ!障子 目蔵!地城 千土!入場しやがれ!!』

 

その声に従い足をより前へと進める。

 

光の差し込む通路を抜けてあらゆる人達が見守る会場の中央へと姿を現す。

 

――とりあえず舞台に登るまで手を振っておこう

 

▼▼▼

 

「――地城 千土…か」

 

全身に炎を纏った大柄の男があちこちに向かって手を振る緊張感のない少年を鋭利な目で見据える

 

「――懐かしいでしょう?ああいう浮かれたところは砂羅(さら)先輩そっくりだ」

 

ゆらりとその男の隣に現れた女性が気さくに声をかける

 

「貴様は…」

 

「お久しぶりです"エンデヴァー"先輩」

 

「――リラクゼーココナッツか」

 

「……お久しぶりです"炎司"先輩」

 

「この様な場でヒーローネーム以外を持ち出すなリラクゼーココナッツ」

 

エンデヴァーの不機嫌そうに咎める言葉に千土の保護者、心奈は「私は気にしないのですが…」と肩を落としながら呟く。

自身のヒーローネームを嫌う心奈にとってかつての先輩であってもそちらの名で呼ばれるのは辛いものがあり強引に本名で呼ばせる流れに持ち込もうと画策したが結果は失敗に終わった。

 

「既にヒーロー活動を引退した貴様が何故ここにいる?」

 

「いえ、別に一般来場者だっているんですが?…まぁ体育祭ってミスとかで落ち込んじゃう子も出るかもしれないからってリカバリーガールさんに呼ばれてスタッフとして来ているんですけどね」

 

もっともその心配も今のところ不要だったらしく一度も『メンタルケア』の個性を使う場面もなく最終種目に至った為今は珍しく心奈はダウナーでもない普通の精神状態でこの場にいるのだが。

 

「まぁ"ここ"にいるのはそのリカバリーガールさんから少し休憩を頂けたからなんですが、――理由は貴方と一緒で…授業参観といったところですかね」

 

「…あの少年か?そういえば貴様が引き取ったのだったな」

 

「はい、大好きな先輩の忘れ形見ですからね」

 

"忘れ形見"

その言葉にエンデヴァーは一人の少女の姿を思い出す。

 

かつて自身がこの雄英高校に在籍していたときやたらと絡んできた"経営科"の少女。

当時学生だった自分やオールマイト、更には先輩後輩問わずに他のヒーロー科の生徒を次から次へと現役プロヒーロー事務所に売り込もうとして振り回した"破天荒"を体現したような存在。

――後にそれが親切ではなく自身の実績の為と知ったときは他被害者同様にキレたものだと古い記憶を呼び戻す。

 

「まぁあの浮かれ癖も砂羅先輩に比べたら可愛いもんなんですけどね、――お互い子の教育は苦労しますね?」

 

「何が言いたい?」

 

エンデヴァーの纏う気配が一気に不穏なものへと変わる。

 

「確かに貴様には冷の相手を任せたが、焦凍に関わらせるつもりはないぞ」

 

「落ち着いて下さい。ヒーローだった頃ならともかく引退した身で手を出す気はないですよ」

 

冷たい、全身を纏う炎と真逆の鋭利な瞳に捉えられ心奈は手を横に振る。

 

「あいつはいずれオールマイトさえも越える存在になるのだ、邪魔をすれば貴様とて容赦する気はないぞ?」

 

「ええ、私はもうヒーローではないので分は弁えているつもりですよ、医者は訪れた患者を癒すだけ――手の届かない子に手を伸ばすのは――ヒーローのお仕事ですから」

 

そう言って心奈は会場の中心、戦いの舞台に登った自身の養子に目を落とす。

浮かべていた笑顔を引っ込めて目の前に立った大柄の少年と向かい合った姿は真剣そのものでこれから始まる戦闘に集中しているのが伝わってくる。

 

「頑張れ、未来のヒーロー」

 

隣に立つ"怖~い先輩"の耳に入らないように小さく呟かれた言葉は会場の声援に掻き消されて誰の耳にも届かず消えるのだった。

 

 

▼▼▼

 

会場の声援は今までの試合と比べて明らかに増しておりプレゼントマイクは満足そうに声を出す。

 

『随分気合入ってんな会場の連中よぉ!!いよいよ来たぜ!ここまでさんざん好き勝手やりやがった野郎がよぉ!!』

 

声援がまだまだ足りないと会場を煽る。

 

『そして相手は騎馬戦でチームを組んだ親友同士、互いに手の内を知った者同士の戦いだ!さぁこの試合がどうなるか!一瞬たりとも目ェ離すんじゃねェぞ!?』

 

会場の声援が更に強まり――それを上回るプレゼントマイクの最期の宣言が告げられる。

 

『第八試合――障子 目蔵VS地城 千土!!開始!!』

 

宣言と同時に千土の立つ位置を中心に試合舞台全体がひび割れる。

 

 

 

「さぁ!!全力でいくぜ障子!!」

 

「来い地城、俺はお前を越える」

 

 

 

――第八試合、開幕!!

 

 

 

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