地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第18話 潜り抜けろ複製腕

ひび割れた地面を蹴って目の前に立つ相手に迫る。

複製し数を増した6本の腕の半分で反撃に備え、残る半分で拳を繰り出すと地城は後方に下がってそれらを躱す。

 

意外なことにこの出だしに対して反撃が来ない。

ひび割れた地面が動く様子もないことに障子は疑問を抱く。

 

身体能力一つで自身の攻撃を全て躱しているがそれは彼にとって悪手であるはずのジャンプさえも交えて辛うじて避けているだけで現に浮かべた笑みは明らかに虚勢だと思えた。

 

──何か狙いか……いや

 

「この舞台、セメント造りの地面は操り辛いようだな」

 

「──どうだろうな?」

 

否定ではないはぐらかしに障子は千土の状況をある程度推測できた。

彼もまた葉隠同様にその力を十全に使えない状態──しかし手を緩める気はない、何故なら開幕と同時に舞台に皹を入れたことからしてその"個性"を扱えない状態ではない、ならば目の前の男なら必ず手を討ってくると知っているから。

 

──だからこそ手を緩めはせず、むしろより攻撃に踏み込まんと足を進める

 

 

▼▼▼

 

 

千土にとってこの状況はある程度予想は出来ていたことだった。

 

『地質操作』の個性は地に関する物なら大半の物が操れる。

それは砂や石だけでなく舞台のセメントさえも含まれている。

そもそも千土自身が生まれた時には既に道路や建物などにセメントは流通しておりそれが地面と認識していた。そして自身が生まれて数年後に個性が発現したのだからある意味操れて当然とも言えるだろう。

 

しかしやはり通常の地面とは勝手が異なるのだろう、セメント等で造られた道路や建物への自身の個性は普通の地面と比べて伝達率が若干遅れる。

 

USJやオールマイトの初日授業の建物内での戦いではそれでもさして問題はなかった、地面はコンクリート造りではあったがそれは薄いもので伝達率にそれほど変化はなかったから。

 

しかし今回の戦いの為に用意された舞台はかなり厚く、高く造られており舞台を崩して瓦礫を浮かせようと思ってもひび割れこそすれど浮かせるより早く障子の攻撃が始まり反撃さえままならない状態に陥った。

 

既に障子にもほぼバレてしまっているようで浮かべた笑みもいよいよ消えかけている。

 

「ま、隙をつくるしかねぇな」

 

目前に迫った拳を避けると同時にひび割れた地面を蹴り上げる。

脆くなった地面は礫となって狙い通り障子の顔へ向かって飛んで──控えていた腕の一つに弾かれる。

こちらの反撃と狙いを予測していたのだろう、流れるような動作で防がれ障子の攻撃は一切緩まない。

 

「地面を操る隙は与えん」

 

「──ってぇ……容赦してくれねぇなぁ」

 

振るわれた拳を交差した腕で受け止めるもたった一撃で両腕をマヒさせかねない程重い拳につい悪態をつく。

横に、下に逃れようと動いても"複製腕"による攻撃範囲は広くすぐに先回りされる上、防ぐことも容易でない威力に後方へ下がる以外の選択肢を潰される──そして

 

「──やべ……」

 

『おおっと!? あの破天荒野郎の地城 千土が防戦一方!! 遂に舞台端まで追いやられた! もう後方に逃げられねぇぞ!!』

 

『個性の発動が僅かに遅れているとこを狙われている……いや、それ以上に動きを完全に読まれているな』

 

蹴り上げた礫も左右や足元から抜けようとするのも完全に阻止されている。

反撃に備え控えている腕に複製された目が千土の動き一つ見落とさんと捉えているのだ、丁度騎馬戦で頼りにしていた強みに今度は追い詰められている。

 

障子はその目で千土の動きを完全に捉え、千土が個性を発動する直前に複製腕で彼の足元を狙い続けジャンプによる回避を強要することでその発動を封じて確実に追い詰めたのだった。

 

「とどめだ!!」

 

前進しながら左右2本の腕を除いて残る4本の腕で千土を囲むように拳を放つ。

左右に避ければ4つの拳、正面へ避ければ体格に任せたタックル、いずれも確実に千土を場外に弾き出すには十分な詰みの一手。

 

「──舐めんなよ!!」

 

左右から襲う拳を潜り抜けて千土もまた前進する。

 

『ここで正面突破!! つっても体格差で勝ち目ねぇぞ!?』

 

「──なっ!?」

 

プレゼントマイクの実況が響く中、障子は驚愕に目を見開く。

ぶつかり合う直前に肩に重みを感じた。

 

千土の両腕が互いが衝突する前に滑り込み障子の肩を支えに千土は宙を舞う。

 

「上……だと?」

 

地面の材質の違いが故か個性の発動が遅れている以上何としてでも地上を維持しようとすると予測していた、──より正確に言えば今の優位性を保つべく千土を地面に留めないことに意識を向け過ぎた。

 

「個性だけに頼るもんかよォ!! ──っ!!」

 

障子の頭を飛び越え背後に回った千土は空中で身を翻し、その首元へと蹴りを放つ──が、それもまた控えていた複製腕の1つに防がれる。

それどころか更に残していた最後の一本の拳が放たれ腹に鈍い痛みが走り体内の酸素が全て吐き出されると同時に舞台の床に叩きつけられる。

 

──が、それで良かった。

 

重い一撃を受けた腹も激しく打ち付けられた背中も痛いが──これで手も足も地面に着いた。

 

「──グッ!?」

 

足元の床が尖った瓦礫となり障子の身体を削りながら空へと飛び出す。

瓦礫による鋭い痛みに呻きながらも障子は6本の腕で頭部や腹部など守るべき部位を包む。

 

「うっし、これでようやく本調子だ」

 

空中に無数の瓦礫を浮かせて千土は笑って立ち上がる。

宙に浮かせた以上あとは一定以上離れない限りは自在に操れる。

 

打ち上げた全ての瓦礫の先端を障子へと向ける。

 

『こ、この技は!!』

 

会場が一気にざわめく。

そう、爆豪を相手に麗日が行った技とまったく同じ。

爆豪に防がれこそしたが会場中が驚愕したその技に障子は咄嗟に身構える。

 

状況は似ているが、より細かな動きや硬質化などを合わせられる千土の方が極めて脅威だろう、障子は撃ち出される瓦礫に目を向け──足元への警戒を薄めてしまった。

 

「なんてな──『地質操作・隆起』──」

 

「しまっ──」

 

頭上に浮かんだ無数の瓦礫を警戒させることで自身への注意を一瞬外れさせる。

その一瞬があれば例えセメントの地面であっても操れる。

 

障子の足元が振動と共に一気に隆起し観客席の3段目程までの高さへと盛り上がる。

 

「さて、飛び降りれば一斉にそこを狙うが──どうする?」

 

障子の複製腕に張った膜、ある程度の落下に対して多少は効果はあるかもしれないが飛行が可能になるようなものではないだろう。であれば、落下中に無数の瓦礫による包囲攻撃を防ぐ手段はないだろう。

──つまり、既に障子にこの状況を覆す術はないということだ。

 

「──手詰まり、か……降参だ」

 

目を閉じてゆっくりと障子は言葉を紡いだ。

 

『決着ゥ!! 第八試合を征したのは地城 千土だぁ!!』

 

プレゼントマイクの実況を聞き流しつつ全身に巡らせた緊張を解いて隆起させた地面をゆっくりと元に戻す。

 

「さすがだな、お前にとって不利な状況でこの結果とはな」

 

「はぁ? 限られた範囲で戦うって条件で足場に作用できる俺が不利なもんかよ」

 

障子の拳を何度も受けて腫れ上がった腕をブラブラと動かしながら千土は呆れたようにそう返すとある程度動かしてようやく痺れも治まった腕を好敵手へと向ける。

 

「──サンキュな、おかげで俺はまた一つ強くなれた」

 

「礼を言うのはこちらの方だ、俺も自らの未熟さを改めて知れた。──次は負けんぞ地城」

 

「やなこった、次も勝つのは俺だ」

 

差し出した手を握り返した友人に笑みを浮かべてゆっくりとその手を解く。

 

『おーおー!! 爽やかに締めくくってんなァ!! さぁこれで一回戦は全組み終了、お次は勝ち上がった奴らで戦う第2回戦だぜ!!』

 

プレゼントマイクの進行の声が聞こえ障子と別れ、それぞれ舞台から降りて退場する。

 

 

 

まずは初戦突破、次は自分より1つ前の試合──第七試合を征した切島との勝負。

自身の『石の硬質化』を上回る硬化を誇る相手とどう戦うか、勝利の喜びを噛み締めながらも次なる勝負へ今の内に思考を巡らせるのだった。

 

 

▼▼▼

 

一回戦の終了と2回戦の開始の境目の小休止に観客席の一か所に立った心奈は隣に立つ気難しい先輩へと視線を向ける。

 

「どうですエンデヴァー先輩? ウチの子も中々やるものでしょう?」

 

「ふん」

 

自慢げに語る心奈の言葉に鼻を鳴らすエンデヴァーだったが実際千土の戦いは彼にとってもそれなりに評価に値するものだった。

 

(個性だけでなく身体能力も鍛えられている……障害物競走の時も焦凍の走りと遜色ない速度で走っていた)

 

そして何より注目すべきは騎馬戦に続き今回でも見せた戦略性。

会場で見ている者も無意識に釣られた視線の誘導。

 

(爆発の少年との戦いで重量操作の少女が見せた瓦礫の一斉攻撃、通用こそしなかったが会場の者達を驚かせた反撃だ。あれを再現することで相手の意識を一気に離れさせた)

 

意識を動かせる重要な要素は"印象"だ。

爆豪との戦いで麗日が見せたその反撃は会場の者を驚愕させた、つまり"非常に強力なもの"という印象が強く根付いている。

更にそれに加えて硬質化や形状の変化で更に威力を増していたのだ、未だ放たれていない"それ"に対戦相手の少年の意識が傾くのも仕方なかろうというのがエンデヴァーの評価だ。

 

自分達の前の試合内容を利用したブラフ、自身の後輩が育てた少年にエンデヴァーは"悪くない"という評価を下す。

 

そう、"自身の望みを叶えさせる歯車の1つ"として"悪くない"という評価を。

 

(学生同士の争いではあいつの左を引き出せんと踏んでいたが、……あれなら焦凍の当て馬として悪くない)

 

つまらない反抗で使おうとしない左の力、しかし自身を敗北させる可能性のある相手との戦いであれば使わざるを得ないだろう。そう考えれば件の少年は丁度良い存在だ。

 

そう考えて次の試合の組み合わせを思い出す。

自身の息子である焦凍の事ではなく、その対戦相手、指先一つで障害全てを破壊する力を秘めた見知らぬ少年、あるいは彼も件の少年同様に"当て馬"となり得る存在かもしれないと思い至る。

 

「……先輩、どちらへ?」

 

「貴様には関係ない」

 

急に動き出し観客席から離れ出したエンデヴァーを不審に思い声をかけた心奈だったがエンデヴァーはそれを振り払い人の波を掻き分けてその姿を消す。

 

「……まったく、何事もなければいいのだけどね」

 

この場から立ち去る瞬間、エンデヴァーが僅かに笑っていたような気がして心奈はため息を吐く。

 

「"Plus Ultra"……か、頑張って乗り越えておくれ可愛い後輩達」

 

懐かしき校訓を口ずさみながら心奈はほんの少し足早にとリカバリーガールがいる保健室へと戻っていく。もしも壁を破れずに止まってしまう子が出てしまった時、その子が再び立ち上がる支えとなるべく職務に戻ろうと歩き出すだった。

 

 

 

 

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