『君の力じゃないかっ!!』
第二回戦、緑谷と轟の戦いは皆の予想『轟の圧倒』を裏切り接戦を繰り広げていた。
そしてそんな最中に緑谷が轟へと叫ぶ。
刹那、舞台から赤い光が放たれる。
――炎
憎み続け拒んでいたその力を緑谷の叫びに応えるかのように解放した。
その光景に千土は静かに息を飲む。
「――ったく、何て奴だよ緑谷…」
轟の事情を知ったのはついさっきのはずだ、だというのにあの轟の心を動かせるとは――
自らの身体を傷付けながらも必死に轟に呼びかけ続けた緑谷の姿をじっと見る。
「俺なんかよりよっぽどヒーローに相応しいぜ…今のお前は」
少なくともこの瞬間において緑谷は轟の頭の中からエンデヴァーの存在を消し、彼を復讐者から一人の挑戦者へと変えた。
互いに最高のヒーローを目指す純粋な戦いの行方がどうなるか、ただその先を見つめる。
強烈な爆発音が会場に響き渡る。
視界を覆う煙が晴れ、勝敗を結果が宣言される。
『緑谷場外!!――勝者、轟焦凍ォ!!』
第二回戦の第一試合、は轟の勝利で幕を閉じた。
▼▼▼
続く第二試合、飯田と耳郎の試合。
――この戦いは一瞬で決着を迎えた。
開始と同時に繰り出された飯田の速攻。
一回戦で上鳴の動きを聞き取って先手を決めた耳郎だったが高速で動く飯田が相手ではそこから動くまで間に合わなかった。
一瞬で耳郎の腕を掴みそのまま場外へと弾き出した飯田が勝利を収めた。
そして第三試合、爆豪と常闇の試合は個性の相性が決め手となった。
光を受けると弱体化する"闇影"は光を発する"爆発"の個性を操る爆豪との戦いが長期化する内にその弱点を暴かれ常闇は次第に追い詰められていった。
敗れた友人達に何か声をかけたくも思ったが次は自身と切島の試合。
――そもそも彼らにそんな気遣いなど必要もないだろう。
轟も緑谷との戦いで吹っ切れただろうし、存外俺は必要なかったのかもしれないという考えが頭をよぎる。
もしもそうならその方が望ましい、自分のように身勝手な奴の言葉より緑谷のように強引であっても真っ直ぐな奴の言葉で考えが変わってくれるならその方が良い。
何より自分が今気にすべきことは今からの試合についてだ。
切島の個性"硬化"、その硬度は自身の個性による最高硬度を上回っている。
既にこちらの手札の一つは潰された状態での戦いに思考を巡らせる。
「――さて、どう挑んだもんかな?」
控え室のイスから腰を上げ、千土は再び戦いの舞台へと向かうのだった
▼▼▼
二回戦の最終試合、ある意味でトーナメントにおいて一回戦のような期待も決勝・準決勝のような興奮も薄いといえる場面であって会場の熱は冷めることなく声援が響き渡っている。
それが心の底から嬉しくて――舞台に立つ2人は自然と気を引き締める。
「へへっ…ようやくお前にリベンジできるな地城」
「悪いがそいつは次の機会にしてもらうぜ…今回ばかりは負けるわけにはいかねぇんでな」
拳を自身の掌に打ち付けて笑う切島へそう笑い返す。
リベンジ、確かに自分と切島は一度オールマイトの初日授業の際に闘い、その結果勝利した。
しかし、切島の纏う空気がそれを理由に油断など欠片もさせない。
口振りも表情も普段と変わりなくともその目は戦いに挑む戦士の目、それが彼の強さを物語っているから。
切島もまたそう油断なく自身を捉える千土の姿に気を引き締める。
ヴィラン襲撃事件の際に誰よりも強く戦った自身の学友。
何度策を破られようと自分達を守る為に必死に戦ってくれた千土の姿をその目で見たからこそ、そんな彼を越えたいと思った。
だからこそ、自分を好敵手として捉えるその目が心の底から嬉しかった。
『さぁ切島VS地城…第二回戦最終試合…開始ィ!!』
「うおおおおおぉぉぉっ!!」
開幕の宣言と同時に切島が大きく叫びながら前進する。
小細工なしの真っ向勝負、それこそが"硬化"による無敵の身体を持つ切島の最高戦術。
迷いなく自身の顔に繰り出される右ストレート
千土はそれを左手で切島の腕を横に逸らしつつ首を左に動かし避けると同時に地面に触れる足に力を込める。
――硬化した拳の威力は筋力に長けた障子と同等あるいはそれ以上のものだろう、しかしリーチと腕の数という点では障子との戦いよりは幾分か隙があり"個性"を使う余裕がある。
千土を中心に舞台全体がひび割れ、無数の瓦礫が宙に浮く。
「潰れな!『地質操作・石棺―ストーン・メイデン―』」
宙に浮かぶ瓦礫を切島に纏わせ閉じ込める。
一瞬であれど脳無さえも動きを止めた拘束の技、しかし切島の硬化した身体はそれを容易く砕き拘束の外へと飛び出してくる。
「マジか!?」
「ゥオラァァッ!!」
咄嗟に多少残しておいた瓦礫を腕に纏って再び放たれた右ストレートに構えるが硬化した切島の拳はそのセメントの装甲に皹を入れ千土を大きく後方へと弾く。
「――痛ぇ…マジで硬ェなお前」
「まだまだァ!!」
切島の硬化した拳のラッシュが千土の瓦礫の装甲を砕いていく。
千土も自身を覆う瓦礫を硬質化させてはいるがさすがに専門家には敵わないということだろうか、このままではいずれ追い詰められるだろうと察せてしまう。
「悪ィな!ちっと離れてもらうぜ!!」
「--なっ!?」
切島の拳が接触するより早くその腕を掴み全力で投げ飛ばす。
「くそっ!!--っ!?」
着地後すぐに態勢を立て直し千土に視線を向ればその周囲にさらに無数の瓦礫が浮いている。
「こんな量をどっから――っ!」
宙に浮いた瓦礫から視線を足元へ向ければ千土の後ろの舞台全てが無くなっている。
『オォット地城の奴自分の背後の足場全てを攻撃に転用!!――なぁ、この場合落ちたらどうなんの?場外?』
『んな訳ないだろうが、それがありなら足場壊す競技に変わるだろうが』
司会2人の会話に口角が吊り上がる。
背水の陣染みたこと試みてみれば狙い通り規定を明かしてくれる。
仮に崩落した地面に足が着いても元が舞台の位置なら場外扱いにはならないようだ。
「――ハッ、そりゃぁ良いことを聞けたぜ…なァ!!」
――正直場外扱いになってくれれば相手の足元を崩せば勝てるんだからそっちの方が良かったのだが、まぁこれはこれで悪くない。
場外扱いがないと分かれば――"大雑把にやれる"
舞台全体が更にひび割れ"場外との境界線のみを残して"その全てが宙に浮かぶ
『なぁイレイザー…こいつが勝ち進んだら毎回舞台全部作り直すことになるんじゃ…』
『…だろうな』
『よぉし切島、絶対ェ勝て!セメントスの運命はお前の手の中だ!!』
何やら司会が敵に回ってしまったようだがこれで全力で戦えるのだから良しとしよう。
宙に無数の瓦礫を浮かせ、足はセメントを砕いたことで露出した地面に着いた。
「さぁて、こっからが本番だぜ切島。天も地も既に俺が征した、覚悟はいいな?」
「上等!試合を征するのは俺だぜ!!」
互いに相手が笑みを浮かべているのを確認すると切島は地面を蹴る。
「うおおおおおおおっ!!」
「喰らいなァ!!」
瓦礫の豪雨が切島に降り注ぐ。
10、20と次々に襲ってくる瓦礫を振り抜いた腕で砕きながらその先に立つ千土の下へと切島は雄叫びを上げて駆ける。
当たらなかった、あるいは弾かれた瓦礫が地面に着弾に砂煙を上げ視界が覆われるも地面から伝わる振動が切島の足が一切止まっていないことを告げている。
「――そこだ!!」
地面から伝わる振動で砂煙に隠れた切島の位置を割り出し、その位置の地面を陥没させる。
「らああああああああ!」
「っ!!」
砂煙の中から跳躍し空中で拳を構えた切島が飛び出してくる。
陥没の直前に既に飛んでいたのかと察すると同時に顔に拳一つ分の影が差す。
「ぐあぁっ!!」
硬化された拳が顔面にぶつかり視界が暗転すると同時に大きく後方に吹き飛ばされる。
失いかけた意識を強引に手繰り寄せて身を翻し場外手前で着地する。
「――っ!!」
すぐに体勢を立て直し視線を動かす――目の前に赤い髪がある。
先程の攻撃で勝てるなど思っていなかったのだろう、既に追撃の拳を放たんと腕を僅かに引いている。
「ああああああああ!」
「させるか!!『地質操作――砂鎖』」
宙に舞った砂を切島の身体に鎖状に巻き付かせその動きを縛る。
僅か数㎝、目の前に迫った拳に背筋が冷える。
「――へへっ、やっぱそう簡単にはいかねぇか…」
「いや危なかったぜ、ガキの頃友人のせいで殴られ慣れたおかげだなまったく」
目の前の拳の直線上から逃れながら切島を縛る砂の鎖に手を当てる。
「『地質操作――加重』」
「ぐっ…ぐぅぅ…」
砂の重量を上げその圧力を跳ね上げる。
締め上げられた切島の身体が軋み苦悶に唸る。
「降参するまでこのまま締め付けて――っ!?」
砂の鎖から飛び出した切島の左手が腹にぶつかり体操服を掴まれる。
さらに切島へ視線を向ければ僅かにだが前に、少しずつだが前へと足を動かしている。
足が僅かに後ろに下がってしまい右足の踵が場外の境界線に差し掛かる。
左右に逃れようにも服を掴まれている以上無理に動いて体勢が崩れれば一気に押し切られる可能性もある。
――ならば打つ手は決まりだ。
「…俺と根比べする気か?」
口角を吊り上げて再び掌を切島を縛る砂へ添える。
手を当てることで更に砂の重さが増す――が、切島もまた口角を吊り上げる。
「へへっ…根性の勝負なら負けねェぜ」
今なお身体を軋ませながらも切島は笑みを浮かべて片手に全体重を乗せて押してくる
『おおっとここでまた状況が一変!!切島が砂に押し潰されるか!それより早く地城が場外に押し出されるか!!小細工無しの根比べだ!!』
プレゼントマイクの実況に歓声が大きく上がる――が、それも当事者たる2人の耳には届かない。
「「おおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」」
互いに相手に触れる手に全力を宿らせ叫びを上げる。
観客席からの声援がすり抜けるなかそれより遥かに小さい音であるはずの音――切島の身、そして骨が軋む音が耳に届く。
恐らく動くはずの身体を強引に動かし既に限界を告げているのだろう。
――だというのに
「まだだ…俺はまだ負けねェ…絶対に勝つ!!ッ」
いままでより更に押す力が強まり全身が後方に傾く。
足が下がらずとも正面からの圧力に身体を倒されかけている。
やがて身体がガクッと傾き…この根比べの結末が見えた。
諦めに近い感情が湧いてつい笑ってしまう。
それもそうだろう、全身を縛られてなお勝利の為に身体を軋ませながら足を前へと動かす漢の姿を認めずにはいられまい。
「――切島…どうやらこの根比べ――お前の勝ちみたいだな」
「うおおおおおぉぉぉっ!!」
どうやら向こうは最早俺の声も届かないようだ。
本当に大した奴だ。
――だが
「――だが試合に勝つのは俺だ!!潰れろォ!!」
会場の歓声さえも掻き消す叫びと共に空中から瓦礫の塊が落下し会場全体が大きく揺れる。
宙に浮かせていた瓦礫全てを一つの塊にして自分諸共切島を押し潰す。
『オイオイオイ!大丈夫なのかアレ!?尋常じゃない揺れだったぞ!?』
『切島は障害物競走のとき0Pの仮想敵に潰されても無事だったからな…確実に倒す為にかなり重さを増してやがったな』
振動で倒れたマイクを立て直して司会の2人が声を響かせる。
『ってかそれ地城自身もヤバいんじゃ…』
『むしろ硬化がある分切島の方が有利だ――もっとも本当に諸共ならな』
相澤がそう呟くと同時に舞台に鎮座した瓦礫の塊がピシリと音を立てる。
「――痛ェッ…くっそ若干ズレてやがったか」
瓦礫が砕けてその下から肩や腕に傷を負い苦々しい顔をした千土が気を失った切島を担ぎながら這い上がってくる。
『うおっ!?あの野郎なんで生きてんだ!?』
『予め瓦礫の塊に自分一人分の窪みを造ってやがったんだろう、もっとも完璧とはいかなかったようだが』
切島との距離が近くあまり余裕を持ったサイズの窪みを造れなかった、その為千土自身も身体派手に擦った程度の傷ではあるが負ってしまった。
「…俺の勝ちだ切島――まぁ勝負には負けた気分だしまたいつか挑ませてもらうぜ」
ちゃっかり場外ラインの外に切島を寝かせて千土はそう呟くと司会席へと視線を向ける。
『決着!!切島VS地城――勝者は地城 千土!!』
プレゼントマイクの声に全身に巡らせていた力が抜けていく。
第二回戦もこれで終了、次からは準決勝、そして相手も既に分かっている。
ようやく、どうしても一発仕返ししてやりたい奴と闘えるのだと思うと自然と力が再び巡り出す。
『いよいよ準決勝突入だ!組み合わせは分かっているよなお前ら!!準決勝第一試合は轟VS飯田、そして第二試合は――爆豪VS地城の組み合わせだぜ!!』
片や轟と並び――いや、むしろ注目度では№1の座に至っている千土へ対抗心を燃やす爆豪
そしてもう片方も騎馬戦の際に自身の策を破り、辛酸を舐めさせられた借りを返さんとする千土。
遂にかち合った組み合わせに皆息を飲むのだった。