地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第2話 自業自得ほど自己嫌悪の材料はない

 入学試験を終えて数日後、千土は自分の家で趣味の粘土工作をしていると不意にインターフォンの音が部屋に響く。

 

「おや、お客さんだね」

 

 隣で静かにそれを眺めていた少女はドアの方に視線を向ける。

 

「ん、俺が出るよ。空姉さんこれ弄らないでね」

 

「はいはい、お願いね」

 

 手元の粘土を机の上に置くと自身の姉同然の幼馴染み―虚峰 空(うつろみね くう)―に注意しながら傍に置いておいた水でサッと手を洗ってドアへと向かう。

 

 ▼▼▼

 

「おや、早かったね何だったんだい?」

 

 思ってたより早く千土が戻ってきた為意外そうに声をかける。

 

「遂に来た」

 

 普段と比べ少し声を震わせてそう短く返す、その様子だけで空もそれが雄英の合否通知だと理解する。

 

「本当かい、早く見せてくれ!」

 

「待ってて、今開けるから」

 

 渡された封筒に全力で興味を向ける姉を制しながら封を開けようとするもこの手の封筒の常か貼り付けが強く思いの他上手く開けれない、或いはそれは自分が目の前の結果に緊張しているからかも知れない、当然自信もあるが結果を決めるのは自分ではなく試験官、ましてや最難関の雄英、らしくない焦りを持つのも仕方がない。

 

「ふぅ、やっと開いた、ってなんだこれ機械?」

 

 中にあったのは手紙と小さな機械だった。

 

「ああ、これは投影機だね、えっとこの型だと確かここを」

 

 機械に強い空がいつの間にか隣に立っていて手元の機械を少し弄ると映像が飛び出した。

 

『私が投影された!!』

 

 投影された映像に2人は驚く、何せ写されたのはNo.1ヒーローと名高いあのオールマイトだ、いくら最難関高校だとしても豪華過ぎる、大きく動いたであろう出演料を想像し自然と手元が震えた。

 

『HAHAHA! 言っておくがこれはゲストの特別出演というやつじゃないよ!! 実は私は今年から雄英の教師として勤めることになってね! そういう意味でも今回はこういう形をとったわけなんだ』

 

「オールマイトが雄英の教師に!?」

 

「噓だろ……」

 

 衝撃の内容に2人は顔を見合わせる。

 

 ヒーローを目指す者なら誰もが尊敬とともに憧れを抱くNO.1ヒーローから教えを受けられる、これに喜ばぬ者がいるはずがない。

 

 だが千土の顔に浮かんでいたのは焦りだった

 

『さて、申し訳ないが時間が有限だから巻いていくよ! ──地城 千土君! 敵撃破ポイント75! これは既に合格に充分な得点だがそれだけではない、試験官達が見ていたのはどんな状況でも他者を助けられるかというヒーローの資質!! 偽善で上等! それこそが救助活動ポイントだ!! 君の救助活動ポイントは45! つまり合計120ポイントの入試1位! 最高の合格さ!!』

 

 だがそれも続けて与えられた情報によって消えていく、次に自身が抱いたのは間違いなく喜びだった。

 

「……」

 

「1位……や、やったね千土!」

 

 言葉を失った千土の代わりと言わんばかりに空は喜びの声を上げる。

 

『来いよ雄英に!! 待っているぞ』

 

 その言葉を最後にオールマイトの映像は消える。

 

 実感の湧かなかった合格に対する達成感と喜びがじわじわと湧き上がる。

 

「今晩は奮発しよ、買い物行ってくる、空姉なんか食いたいのある?」

 

「フカヒレとキャビア」

 

「あいよー」

 

 

 

 多分相当浮かれていたのだろう財布を持って行ったこともない店に訪れ購入一歩手前までいってしまった。

 

「買えるかよッ!!」

 

「残念、まぁ何でもいいよ」

 

 ダッシュで帰ってきて全力で叫ぶ千土に空は笑いながら適当に答えるのだった。

 

 机の上に置かれた制作途中の粘土はすっかり乾いてしまっていた。

 

 

 ▼▼▼

 

 新品の制服に身を包み千土は雄英高校の門をくぐる、巨大な校舎ではあるが送られた校内の資料と照らし合わせて何とか迷わずにヒーロー科の教室にたどり着く。

 

「おはようございまーす」

 

 教室の扉を動かし、中に入りながらそれなりに明るめに挨拶する。

 

 早速周囲を見渡し知り合い、耳郎、障子、常闇の姿を探すも誰一人教室の中にはいなかった。まだ来ていないのかそもそも合格点に届かなかったのか、願わくば前であってほしいと願っていると髪を横で纏めた活発そうな少女が近づいてきていた。

 

「おはよ私は拳藤 一佳、長い付き合いになるだろうしよろしくね」

 

「おっとこいつはどうも、俺は地城 千土、よろしく」

 

 差し出された手を握り返して頭を下げる、自分以外の合格者がどんな人かワクワクしていた千土は最初から気の良い対応に少なからず喜んだ。

 

「あ、アンタ確かプレゼント・マイクのノリに一人ノッてた」

 

「おや、俺ってひょとしてそこそこ評判?」

 

「悪目立ちって意味でね、授業始まったら大人しくしときなよ」

 

「ははは、まぁ努力はするわ」

 

 軽く肘でつついてくる拳藤に千土は笑いながら返事をする。

 

 

 

 拳藤と別れ、他の人にも声をかけようと思い最初に目に入った窓を眺めている黒ずくめ男子に声をかける。

 

「どもっす、俺は千土、これからよろしく」

 

「黒色 支配だ」

 

 先程の拳藤と比べると些か素っ気ない対応で千土は少し困った顔をするも折角なのでもう一つ踏み込んでみようと決めた。

 

「暗き地の淵の力を持ちて、届き難し光の道を夢見てここに至った、覚えて頂こう黒き男よ。(意訳。地の"個性"を使います、ヒーローになる為ここに来ました、覚えておいて下さい)」

 

 彼以外に聞かれぬよう小さな声で語りかける、別段他の人に聞かれても気にするようなメンタルでもないがあくまで雰囲気の演出のつもりでそうした。

 

 唐突に声色を変えてみたが黒色の反応はどうかと千土は様子を窺ってみる。

 

「地の淵、光の道……ほぅ」

 

 一部のワードが気に入ったのか黒色はソワッと先程とは明らかに違う反応を見せた。

 

「(どうやら、気に入ってもらえたっぽいな)またいずれ……」

 

 そう短く告げると黒色から離れ、次の人の下へと向かうことにした。

 

 ちなみに千土がこのようなノリを試してみたのは彼の持つカバンやポケットから覗かせた携帯に付けられた剣を模ったキーホルダーを見てこういうノリとか好きそうと思ったからだった。

 

 

 

「どもっす、俺は地城 千土、これからよろしく」

 

 しかしそんなノリも即廃業、いつもの調子で次のクラスメイトに声をかける。

 

「塩崎茨です、ええどうか良きお付き合いをお願いいたします」

 

「(固い人だな…)じゃあまた後で、俺は他の人にも声かけてくるよ」

 

「ですが、そろそろ先生がいらっしゃるお時間です、席に着かれた方がよろしいかと」

 

「大丈夫大丈夫、挨拶ぐらいならあと一人ぐらいいけるって」

 

 そういうと塩崎の下から離れ改めて周囲を見渡す、だがやはり知り合い3人の姿は無く手元の時計で確認しても時間は塩崎の言った通りそろそろ先生の来る時間。

 

「(無理だったか…)」

 

 もしかしたら自分が付き合わせてしまった結果だろうかと考えてしまい自責の念も湧いて来るが少なくとも今ここでそれを表に出すべきではない、いつもの笑顔を作り近くの男子生徒に声をかける。

 

「ども、俺は地城 千土ってんだよろしく」

 

「フレンドリーな名乗りありがとう、僕は物間──」

 

「全員集まっているな、本日の予定を説明する速やかに席に着け!!」

 

 男子生徒が名乗ろうとした時ドスの聞いた声が教室に響く。

 

 それが先生の声と理解するのに時間はかからなかった。

 

「あ、ごめんやっぱ無理だったっぽい、また後で」

 

「えぇッ!?」

 

 男子生徒の話をぶった切って千土は自分の席へと向かう。

 

「(やっぱり来なかったか、あの3人ならきっと大丈夫だと思ったのにな)……あれ?」

 

 ついぞ姿を見せなかった知り合い達を思いながら回りを見渡しているとこの教室に自分の席がないことに気付く。

 

「あの、先生俺の席がないです」

 

「何? 、そんなはずはない……貴様地城か、何故ここにいるッ!!」

 

 先生、管 赤次郎、通称ブラドキングの言葉に千土は「はぁッ!?」と驚愕する

 

「何故ここにって合格通知貰ったから──」

 

「そうではないッ!! 、なぜB組にいるかと聞いているのだ!!」

 

「いや、そりゃ俺がヒーロー科を受けたからで」

 

「貴様のクラスはA組だと言っているんだ!!」

 

「馬鹿なッ!! 俺は確かにヒーロー科の試験を受けたはずだ!!」

 

「A組もヒーロー科だ馬鹿者ッ!!」

 

「…………えっ?」

 

 千土がいや最早教室中の皆が固まる。

 

「……配布資料のB組がヒーロー科と記されているのを見てヒーロー科=B組だと思ってました」

 

「……何故ヒーロー科の他のクラスがないか確認しなかった?」

 

「雄英は最難関と聞いていたのでヒーロー科は一クラスかと思いました」

 

「……看板学科のクラスがB組だとしたら違和感があるとは思わなかったのか?」

 

「経営科がA組かと思いました、地固めあってのヒーローなので……」

 

 下手な言い訳の様な様子もない本気の声にブラドキングも頭を抱える。

 

「……判断は貴様の担任に一任する、速やかにA組に行け」

 

「温情ありがとうございます」

 

 ふらふらと足元をふらつかせながら扉まで辿り着くと一度クラスの方へ向き直る。

 

「短い間でしたがお世話になりました!!」

 

 その言葉だけ残して千土は走り去って行った。

 

 B組の全員が言葉を失ってしまったのは言うまでもなかった。

 

 ▼▼▼

 

 耳郎響香はA組の自分の席についていたが内心穏やかではなかった。

 

 理由は実技試験で出会った地城千土の姿がどこにもないからである、障子と常闇とは会って互いに確認したが誰も彼の姿は見ていないそうだ。

 

 自分もそれなりにポイントは稼いでいた自身はあったし救助ポイントという非公開要素もそこそこ貰えていたが、それでも自分がいてあんなことしてのけた彼がいないとは複雑な心境ながら考えにくかった。

 

「或いは奴だけB組なのかもしれんな」

 

「なるほど学園がもつ宿命、その可能性はあるな」

 

 他の2人も概ね同じ考えなのだろう彼が落ちているということは考えず推測をしていた、だが耳郎は恐ろしい可能性に気付いてしまう。

 

「まさかアイツ、筆記試験で落としたんじゃ」

 

 つい声に出してしまったその推測に2人もハッと目を見開く。

 ありうる──本人には悪いが本気でそれを信じてしまう。

 

 だが結局彼の姿を見る前に担任である寝袋に身を包んだ、正直小汚い印象を受ける相沢 消太が現れた。

 

 先生が来てしまった以上は仕方がないと耳郎は2人とあとでB組を一度身に行こうと打ち合わせ彼らと別れる。

 

「早速だがこれ来てグランドに……まて、だれかそこの席の奴を見ていないか、"地城 千土"と言う奴だが」

 

 その名前を聞いてつい立ち上がりそうになるも、とりあえず落ち着いて先生に声をかける。

 

「そいつ知ってますけど今日はまだ見てないっス、欠席とかの連絡入ってないんですか?」

 

「いや特にない、まぁいい、今いる奴だけでいいからグランドに──」

 

「すいませんッ!! 教室間違えてましたァァア──ーッ!!!」

 

 大声とともにそいつは教室に転がり込んできた。

 

 そしてその言葉に耳郎は自身の考えの甘さを再認識した。

 

(コイツ、学力とは別ベクトルにバカだった)

 

 唖然とするクラスメイトをよそに相澤は死んだ魚の様な目で千土を見ながら口を開く。

 

「言いたいことは腐るほどあるが、まぁいい今お前を叱責するのも合理性にかける、時間は有限だ、さっさとこれ着てグランドに来い話しは後だ」

 

「はい!!」

 

 投げ渡された体操服を受け取り千土は全力で返事する。

 

 ▼▼▼

 

 

「何をやっていたんだお前は?」

 

「聞かないでくれ……」

 

 更衣室にて障子と常闇に事情を問われるも今の千土にそれに答える気力はない。

 

 知り合い達との再会も最早素直に喜べなかった。

 

 ▼▼▼

 

 

「個性把握テストねぇ」

 

 グランドにて相澤の口から告げられた内容に千土は興味深そうに呟くが、クラスメイトの一人―麗日 お茶子―という女生徒が「入学式やガイダンスは?」と問い詰めるも「ヒーロー科にそんな悠長な時間はない」と一蹴された。

 

 相澤曰く「雄英が誇る自由な校風は教師側にも適応される」との事だった。

 

「とにかく一度見せて説明するぞ、そこの遅刻一位、こっちに来い」

 

「その呼び方止めてくれません?」

 

 およそ不本意な称号を頂戴しつつ、千土は相澤の下に行くと何処か奇妙な感じのするボールを渡される。

 

「これは?」

 

「ソフトボール投げだ、体力テストにある奴な、ただし今回は"個性解禁"の──」

 

 その言葉に皆少なからず反応を見せる。

 

 通常、街中での個性の使用は厳禁とされているためこの反応も当然と言えたが相澤にとってはそれも面倒なものでしかない。

 

「うるさいよ、時間は有限と何度も言わせるな。地城、中学時代の記録はどれぐらいだ?」

 

「えっと……60mです」

 

「じゃあ個性を解禁して投げてみろ、全力でな」

 

 グランドに描かれた円の中にクラスメイトから注目を受けながら立つ。

 

 幸い朝の出来事のおかげなのか視線の重圧などは一切感じず、全身に力を巡らせ腕を振るう。

 

 そしてボールが自身の手から離れる直前、自らの個性を開放する。

 

「そらッ!!」

 

 ボールが自らの手から離れる瞬間に地城は個性を開放する。

 

 地面から大量の砂が舞い上げられ小規模な砂嵐となって、放たれたボールを加速させる。

 

「凄い! 砂を操る個性!?」

 

「砂だけじゃないけどね」

 

 容易く大量の砂を操ってみせた千土にクラスメイトは感心するも千土の個性を知っている3人は彼の出す結果にのみ注目する。

 

 数秒後、結果が出たのであろう相澤の持つ機械が電子音を奏でる。

 

「471.6mだ。──こんな感じでお前らの"最大限"を測る」

 

 その機械に記された数字は本来人間に出せるような記録ではなかった

 故に皆それに刺激される。

 

「何だこれッすっげぇ面白そう!!」

 

「400ってすっげぇ」

 

「っけ、入試一位がそんな程度かよ」

 

「個性が使えるなんてさすがヒーロー科だ!!」

 

 触発され一斉に騒ぐクラスメイト達をよそに耳郎は千土に声をかける。

 

「さすがじゃん、470なんて──っ!?」

 

 傍によってようやく気付く、千土がやけに考え込んだ表情をしていることに──

 

「471……、離れると力が弱まるのは仕方ないにしても短すぎる、そこの爆発頭の奴の言った通りこれじゃまだまだ低すぎる」

 

「……いやいや充分とんでもないからアンタ」

 

 自身の記録にまったく納得していない千土の言葉に耳郎は一瞬言葉に詰まるもすぐに呆れた様に言う。

 

「……しゃあない、他の種目もあるっぽいし切り替えてくか」

 

「そうそう……ってなんか先生の様子変?」

 

 元々生きた目をしていなかった相澤の目が今は少し生気を感じた。

 ただしそれは──苛立ちだ。

 

「面白そうか──ヒーローになる為の3年間をそんな腹づもりで過ごす気なのかい」

 

 今までとかけ離れた声色に千土は「やっちまった」と確信する。

 

「良し、ならこの個性把握テストのトータル最下位は見込みなしと判断し除籍処分にしよう」

 

「「はあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 相澤の言葉に多くの者が悲鳴じみた叫びをあげる、千土自身も叫びを上げることはなくとも心境は同じだ。

 

「待って下さい、いくらなんでも理不尽が過ぎます!!」

 

「生徒の如何は先生の自由」

 

 眼鏡の男子生徒―飯田 天哉―の言葉を意に介さず「それが雄英のヒーロー科」だと言い放つ相澤に他の生徒も理不尽だと抗議を始める。

 

 だがそれも「自然災害も敵も理不尽なものだ」と相澤は告げる。

 

「理不尽だから立ち向かえ、"Plus Ultra"、乗り越えてみせろ」

 

 その言葉を聞いたとき抗議していた生徒達も押し黙り、そして見せたのは覚悟を決めた表情だった。

 

 千土もまたいつも通りの笑みを浮かべる、それはそうだこの程度の理不尽を超えられずして自らの夢みるヒーローに届くものか、ただ超えるだけでない"大したことないと笑って"超えてやろうと決める。

 

 それに気付いた相澤もまたニヤリと一度口角を吊り上げ、口を開く。

 

「ただし、そこの遅刻一位に関しては罰として上位十名に入らなかった場合除籍とする、時間を守れない奴はその時点でヒーローに必要な要素に欠けているからな」

 

「……」

 

 忘れかけていた失態の代償がここにきて戻ってきた。

 

「ぜ、千土?」

 

 隣にいた耳郎はそーっと千土の顔を覗き込む。

 

「……」

 

 千土は笑顔を貼り付けまま固まっていた。

 

 ──もっともこれは自業自得、身から出た錆であることは言うまでもない──

 

「やってやろうじゃねぇかこの野郎ォォォ──ッ!!」

 

 クラスメイト達から憐れみの視線を向けられながら、悲しき叫びをあげるのだった。

 

 ▼▼▼

 

【 第一種目:50m走 】

 

 速度を出す個性の飯田が高い記録を出す中、千土もまたスタートラインに並び、隣のコースを走る男子生徒―瀬呂 範太―に声をかける。

 

「悪ィけど俺余裕ないからちょっと本気出す、難しいと思うけど目ェ守りながら走ってくれ」

 

「はぁ?」

 

 突然の言葉に瀬呂は戸惑うがスタート準備の合図が入る。

 

「スタート!!」

 

「『地質操作・隆起』+『砂嵐―サンドストーム―』!!」

 

 千土のコースが傾いて隆起し、スタート地点からゴール地点まで下り坂状になる、更に千土の背後から砂嵐が発生する。

 

 砂混じりの追い風と下り坂により千土は一気に加速する。

 

「コース弄るとかそんなのアリかよッ!! って目に砂が……さっきのはそういうことかよォ」

 

 隣で起こった出来事に瀬呂は驚きながらも目を守りながらゴール地点に自身の個性のセロテープを巻き付ける。

 

 そしてそれを巻き戻すことで一気にゴールに詰めるもゴールしたのは千土がゴールした後だった。

 

「悪いな、出来るだけそっちに流れないよう調整したんだが……」

 

「あ、あぁまぁしょうがねぇよ……」

 

 気まずそうに謝る千土に瀬呂は目を擦りながらそう返事をする。

 

【 50m走 : 4秒05】

 

【第二種目:握力】

 

 入試の時に明かされたが障子の複製腕はかなりの力を出せるようでなんと540㎏の記録を叩き出し周囲から大きく騒がれていた。

 

「くはー、すげぇな並の増強系個性より上じゃねぇのかこれ?」

 

「単純な握力で言えばそうかもしれんな、次はお前だろう千土何か策はあるのか?」

 

「んー、まぁそれなりには?」

 

 そう言い軽く笑うと千土は障子の使っていた検査機を受け取り手に力を込める。

 

「240㎏か、まぁこの量じゃそんなもんか」

 

 握っていた手をよく見ると小石や砂で覆われていた。

 

「なるほど、そういうことか」

 

 直接力に関係しない個性の千土ではあり得ない記録に少し驚いた障子だったが、それを見て納得した。

 

「もっと大量に使えりゃ圧力も増えて記録にも伸びんのだけどなー」

 

 口惜しそうにしつつも千土は飄々と笑ってみせた。

 

【握力検査:240㎏】

 

 続く第3種目の立ち幅跳びはスタート地点を隆起させ高さを得ることで中々の記録を出せたが、第4種目の反復横跳びはさすがに普通に挑むしかなかったため優秀な身体能力程度の記録に収まった。

 

【第5種目:ソフトボール投げ】

 

「死ねぇッ!!」

 

 爆豪勝己がおよそヒーローにあるまじき掛け声で投げられたボールは先程の千土の記録を越えて600オーバーの記録になった。

 

「どうだ砂野郎! テメェより俺の方が強ぇ」

 

「っ!?」

 

 自分が入試一位だと明かされた時、一際強い敵意を向けていたと思っていたが遂に真っ向から煽りを受ける。

 

「ほぅ、宣戦布告だな」

 

 いつの間にか隣にいた常闇が千土の出方を興味深そうに見ながらそう呟く。

 

「アイツ朝からガラ悪い感じだったし、どうすんの千土?」

 

 耳郎もまた近くによって爆豪に聞こえないような小声で声をかける。

 

「んー、そうだな」

 

 呟きながらボールを受け取り円の中に入ると千土は右足で思い切り地面を踏み鳴らす。

 

(立ち幅跳びの時もストップ入らなかったし今回も地面を高くしても良いんだろうけど……)

 

 千土はボールを持つ自身の右腕に大量の砂を纏う。

 

 砂は千土の腕を軸に螺旋回転し続けその速度を高めていく 。

 

「これでも一位合格……本気で嬉しかったんでな、そこまで言われて黙ってられる程大人しくないぜ」

 

 右腕を思い切り振りきると同時に右腕に纏った砂を放つ。

 

 最初の投げたボールを砂嵐で加速させたのとは異なり、砂ごとボールを放出する。

 

「な、何だとッ!?」

 

 その威力は前回のものとは比較にならず圧倒的速度を得たボールは風を切りながら飛んでいく。

 

 その速度に爆豪は、いや皆が驚愕し目を見開く。

 

【地城 千土、ハンドボール投げ:702m】

 

「これが、入試1位……」

 

 未だに特出した記録の出ない緑谷 出久は衝撃と焦燥、そして羨望の混じった声で呟く。

 

「えい」

 

【麗日 お茶子、ハンドボール投げ:無限】

 

「あ、負けちった」

 

「締まらねぇなオイッ!!」

 

 得意気な顔を浮かべていた千土だったが次にボールを投げた麗日の記録を見て苦笑する。

 

 無重力により延々浮かび続ける記録にはさすがに勝ち目もなく最早笑うしかない。

 

「まぁこれはしゃあねぇ、で次は誰がやんの?」

 

「緑谷ってやつ、あんまり今まで良い記録出てないけど?」

 

 次郎は円の中に入った少年、緑谷を親指で指しながら言う。

 

「アイツか、確かに今まで目立った記録はないな」

 

「ここまで"個性"を使った様子もない、応用性の低いものなのか?」

 

「そろそろ力を示さなければ除籍は免れんぞ」

 

 障子と常闇も未だに"個性"を使わない少年に視線を向ける。

 

 緑谷の行動に注目するも一球目の結果は46メートル、個性を使い常人越えの記録を出す者のいるなかこの記録ではあまりにも力の誇示になり得ない。

 

 しかし緑谷の様子がどこかおかしい、何が起きたのか理解出来ていないといった困惑の表情を浮かべていた。

 

 そんな緑谷に布を巻き付け指導か何かを相澤が伝えて始めたが千土の位置では上手く聞き取れなかった。

 

「抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!?」

 

 唐突に緑谷がその名を叫ぶが千土としてはそれで全て合点がいった。

 

 抹消ヒーロー"イレイザー・ヘッド"、それこそが相澤消太のヒーローネーム。

 

 恐らく本人の意思であろうがメディアへの露出が異常に少なく周囲の者達も大半がその名を知らず、知っている様子の者は極めて僅かだった。

 

 ともかく2人の話は済んだらしく、緑谷は2球目のボールを受け取ったがその顔色はあまり良いものとは言えなかった。

 

「何やら指導を受けたようだが……」

 

「ハッ! 除名宣告でも受けたんだろ」

 

 緑谷と関係があるのだろう、飯田と爆豪が反応を見せる、同じく麗日もまた心配そうに緑谷を見ていた。

 

「結果なんて分かりきってんだ、"無個性"の雑魚だぞ」

 

 爆豪の言葉に千土は少なからず衝撃を受ける。

 

 "無個性"、この超常社会において"個性"という力を持たざる少ない存在で言ってしまえば非力というべき存在だった。

 

「無個性? なのにあの実技試験を通ったのか?」

 

 あの仮想敵を無個性で倒せるとは考えにくい、となると緑谷は救助ポイントのみで実技試験を通ったと考えるのが妥当だ。

 

「それはそれで大した奴だな」

 

 もしそうだとするなら彼は実技試験の隠し要素だった救助ポイントを見抜いた、あるいはそれに賭けたのかもしれないがどちらにしても並大抵のことではない。

 

 千土としては素直にその事実に感心する。

 

「とはいえ、今回ばかりはどうしようもないか……」

 

 しかしその結果が最下位除籍のこのテストだ、超常の力を持たざる無個性ではこのテストで最下位を免れるのはとても不可能。

 

「無個性? 何を言っているんだ君達は、彼は実技試験であの0ポイントの仮想敵を」

 

 千土の残念そうに漏らした言葉に対して飯田が反論しようとしたその時、緑谷が2球目を投げた。

 

 それは1球目とは、いや他の大半の者達の記録ともかけ離れた威力で投げ出された。

 

 

【緑谷 出久:704m】

 

 爆豪、そして千土さえも凌駕するその記録に皆が絶句するもすぐにそれは興奮に変わる。

 

「やっとヒーローらしい記録が出たー!!」

 

「うっそ、千土の記録越えてんじゃん」

 

 麗日は手を上げ自分の事のように喜び、耳郎も緑谷の記録に素直に驚いたと声に出す。

 

(確かにとんでもないパワーだ、増強系? いやだとしたら少なくとも握力の時に力を使ったはず、投擲強化? いやアレは確かにほとんど手元から離れてから加速してた、まるでパワーで強引に後押ししたように……)

 

 千土もまた自身の記録を僅かだが確かに越えた緑谷に一気に興味を向ける。

 

(そもそもあの指はなんだ? 変色するまで腫れてんじゃねぇか、"個性"の反動? まさかアイツ自分の"個性"の制御が出来ていないのか?)

 

 千土が思考を巡らせる間に爆豪が緑谷に突っかかりそれを相澤に止められたりと色々あったがとにかくテストは続く為千土も思考を切り替え次の競技に集中するのだった。

 

 ▼▼▼

 

「結局一位とれたの上体起こしだけか~」

 

 全ての種目を終え、千土はがっくりと肩を落としながら愚痴を漏らす。

 

「まぁアレを抜ける奴はいないだろうな」

 

 自身の背中に面した地面の隆起と陥没を繰り返してまったく身体を動かさないまま記録を伸ばし続けていた千土の姿を思い出し、障子は呆れの混じった声で返す。

 

「それでも大半の種目で上位に入っていた、少なくとも除籍は免れたのではないか?」

 

 上位10名に入らなければ除籍、千土のその条件に多少なりとも心配もあった常闇もどこか安堵したように声をかける。

 

「そりゃそうだけど、……まぁいいかお前らも記録は十分そうだし、そもそも最下位はどう考えても……」

 

 千土はちらりと緑谷の方に視線を向ける。

 

 結局ソフトボール投げ以降目立った記録もなく、恐らく除籍を受けるとしたら彼になるだろうと気の毒ながらも思ってしまう。

 

「アイツ、凄い力を持ってそうなんだかな」

 

 もったいない、そう感じるのが千土の正直な考えだった。

 

 自身の記録を越える力、何より反動の大きい個性へのとっさの対応、緑谷の持つ力にただならぬ何かを感じたのは事実だ。

 

「緑谷のことか? 確かにあの力は異常だが」

 

「結果は結果だ」

 

 障子も常闇も内心思うところがあるのだろうが、それが教師である相澤の、雄英の意向である以上はどうしようもないと目を閉じる。

 

 やがて相澤は皆を一ヶ所に集めて口を開く。

 

「結果は合理性を考え一斉に開示する、あと因みに除籍は嘘な」

 

「「はあぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 あっさりと言ってのけた相澤の言葉にほとんどの者が絶句する。

 

 本人曰く「皆の全力を引き出す為の合理的虚偽」とのこと。

 

「あんなの少し考えれば嘘とすぐ分かりますわ」

 

 特待生の一人、八百万は呆然とする者達に呆れた様子を見せながらそう言う。

 

(嘘ね、正直とてもそんな風には思えなかったが)

 

 千土としては相澤が"最下位"の者にも確かな見込みを感じ取り消したように思えた、最もただの予想でしかないが。

 

「地城も上位10名に入ったようだな、お前の除籍処分も免除としよう」

 

「そっちはガチだったのかよっ!」

 

「当然だ、資料の確認不足も遅刻もヒーローにとっては致命的な失態だ、本来なら無条件で除籍処分でも文句は言えないぞ、反省文5枚宿題な」

 

「よもやの初日からっ!?」

 

 食い下がりたいのが本音だが、下手に抗議してせっかく免除された除籍処分がまた宣告されるやもしれないため引き下がることにした。

 

 釈然としないままの生徒をよそに相澤はその場から離れ初日から行われたテストは無事終わりを迎え、皆力の抜けた様子で教室に戻り始める。

 

「何かどっと疲れたし……」

 

「いいじゃないか、俺はこの後もう一苦労だぞ」

 

「いやそれは自業自得じゃん」

 

 肩を竦めて笑う千土に耳郎は呆れるも一応返事する。

 

「まぁいいじゃねぇか、こうして無事あの時のメンツ全員揃ってんだしさ」

 

 近くにいた障子と常闇の背中を軽く叩くと少し前に出て全員を視界に収めて口を開く。

 

「これからよろしくな、皆」

 

 その言葉に耳郎も障子も常闇も、皆快く頷いたのをみて千土は満足気な顔をするのだった。

 

 

 ▼▼▼

 

 雄英から帰ってきて自分の家に着くなりすぐに千土はリビングでくつろいでいた。

 

「あれ千土、いつの間に帰って来たんだい?」

 

「ついさっきだよ空姉さん」

 

 リビングにやってきた空が千土が既にいることに気付き軽く驚いたように声を出す。

 

「どうだった、雄英は?」

 

「まぁ初日からしてくれたよ」

 

 心底疲れたといった感情の宿った声に空は「大変だったね」と苦笑すると改めて千土の近くに腰を下ろす。

 

「それで? 友達はちゃんと出来た?」

 

「心配ないよ、拳藤に黒色、塩崎、それと耳郎と障子と常闇、皆面白そうだったよ」

 

「へぇ、それは良かった、まぁそこで良い奴そうとかじゃなく面白そうって言うのはどうかと思うけど」

 

「まぁ最初の3人は別クラスだったけど」

 

「待って、君一体何してたのさ」

 

 思ったより多く名前が出て安堵したのもつかの間、予想外の言葉に首を傾げる。

 

「まぁ他のクラスにも顔が広がったから良しってことで」

 

「やれやれ、相変わらず自分の事はホント雑だね」

 

「そんなもんだろ、さーてそろそろ反省文仕上げるかな!」

 

「ちょっと待って今反省文って言った!? 、嘘、初日から何かやったの!?」

 

 大きく伸びをしながら自室に向かう千土の背中に声を投げかけるも反応はなかった。

 

 

 

 ──END──

 

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