準決勝第一試合。
轟と飯田の戦いは轟の勝利に終わった。
速攻勝負を仕掛けた飯田だったが自身のメインウェポンである蹴りを放った際に個性の核である脚のマフラーを凍らされたことでその動きを殺されてしまった。
場外勝利成るかと思いそれを覆されるという点では初戦の轟と瀬呂の試合を思い出すが、瀬呂の攻撃どころか飯田の速度にも対応する轟の凍結のスピードにはとことん頭が痛くなる。
──だが千土にとって問題はそれだけではない
「炎を使わない?」
緑谷との戦いで使った"左の炎"を轟は使わずに勝負を決めた。
単純に飯田に対して有効なのが凍結の方だったというだけの話の可能性もあるがあるいは緑谷との戦いで完全に吹っ切れたという訳ではないのかもしれない。
「──できれば杞憂であってほしいんだけどなぁ……まぁ今気にしてもしょうがねぇよな」
そう、轟達の試合に決着が着いたのならば今からは自分達の時間。
ならば自分が気にすべきことはそれではない。
そう、次に戦う相手──爆豪とどう戦うか、轟の試合を観戦しながらもいくつか考えた対爆豪用の戦術を頭の中で何度も反芻するのだった。
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A組生徒の大半が集まる観客席も決着を迎えた先程の試合より次の試合への話題で持ち切りだった。
それも当然、既に因縁というべき関係性に至った2人の対決なのだから。
「──ぶっちゃけどっちが勝つと思うよ?」
「……分からん、正直どちらも未だに底が見えない奴らだ──しかし、恐らく有利なのは爆豪だろう」
いよいよ個人の想像だけでは耐え切れず尋ねる上鳴に障子はそう答える。
決して千土の力を低く評価しているわけではないが、直接戦ったからこそ分かる。
彼にとって伝達率の悪いセメントの舞台、確かに切島との試合の中で完全に壊していいという判断が下った為少しはマシになっただろうがそれでも開始直後はまたその状況で始まるのは彼にとって軽い問題ではない。
そして何より、爆豪は"飛べる"
地面を操ることに強みがある千土と比べると状況、個性ともに有利なのは爆豪だろう。
「もっともあの男の事だ、また何か企んでいるかも知れないがな」
「地城ってあれで戦い方ズルいからねぇ」
障子の言葉に芦戸も同意する。
今までの授業や競技での千土の立ち回りを思い出すと皆が共通して思うこと。
──性格が悪い。
最初は真っ向から勝負してる風に装って不意打ちや仕込みの策を巡らせている。
普段の馬鹿っぽい様子から考えられないようなやり方をするクラスメイトの記憶に皆苦い顔をする。
「つぅか、改めて思うと地城って良く分かんねぇよな。間違いなくすげぇ奴なのに全然そんな感じしねぇつぅかさ」
「うん、変なとこは多いけど轟や爆豪とかと比べると普通なとこあるよね」
普通に雑談や笑い話もするし、何なら他の者と比べても事ある毎に怒られている問題児。
それが何故あれ程相手の予想を越える動きをしてみせるのか、皆が疑問を抱く。
──が、そんな疑問に答えなど出るはずもなく──けれど別の疑問が湧いてくる。
「なぁ、あいつが言ってたオールマイトに昔助けられたって何か知ってる奴いねぇの?」
「ちょ、急に何言ってんだ峰田!?」
「流石に無遠慮過ぎますわ」
確かに皆、初めて聞いた時は疑問に思ったが明らかに勝手に詮索していいものではないと自然と頭から抜けた千土の事情、それを唐突に口にした峰田につい切島と八百万は強めの口調になってしまう。
「ま、待てって、別に勝手に聞こうなんて思ってねぇって。でもあいつのオールマイト越え宣言ってそれが切っ掛けって話だろ?」
「それは──確か……」
オールマイトが言っていた、自分が千土を助けた際に"自分を越えるヒーローになる"と宣言されたと。
ならば地城 千土という少年があれ程強くなった切っ掛けはそこにあるのではないかと峰田は思ったまでのことだった。
「──少なくとも、あいつと良く話す俺達でもそれの詳細は聞いていない。あまり詮索することではないだろう」
この会話は断ち切るべきだ、そう判断し常闇は敢えて会話を進めた上で打ち切るべきと告げる。
それに反論はなく、皆一度会話を止める。
(──でも……確かにそうだ。今考えてみたらあいつ、あんまり自分ことは話してないな)
会話は止まろうと思考は回る。
耳郎は普段よく話す奴が改めて思い返すとあまり自分の身の上について話すことはなかったと気付く。
唯一それらしきことがあったとすれば病院で彼の姉と知り合いという身内と会ったぐらいか。
「あ、なら爆豪の方はどうだ緑谷!? たしか付き合い長いんだよなどっちが勝つと思う?」
どうにも暗くなった空気を変えようと上鳴は緑谷へと声をかける。
「え、ぼ、僕が予想!? え、え……っと」
急に話を振られて緑谷は肩を跳ね上げて思考を巡らせる。
千土の力量を見る機会は多かった。
特にUSJでの戦いは自分達と比べて非常に卓越したものを感じた。
しかし、爆豪が負けるかと言われればそうとも思えない。
幼き頃から他の者とかけ離れた才能を感じさせた存在が負ける姿が緑谷には想像出来なかった
それに障子が言っていたように緑谷から見ても状況は千土が不利。
だからといって千土が負けるのか──と結局思考はループに陥り頭の中が真っ白になっていく。
「す、すみません。あ、あの、そこの席って座って大丈夫っスか?」
しかし、そんな思考のループからやたら緊張気味な声が引き戻す。
「え……っと、一般の方ですよね、ここは一応生徒用で……」
「あ、す、すみません。自分、先輩が雄英体育祭の本選出場が決まったって聞いて今さっき来たので席とか良く分かんなくって。ご迷惑をおかけしました」
互いに歯切れの悪い言葉で会話する緑谷と見知らぬ少年。
そんな見知らぬ少年の影からもう一人、見知らぬ少女が姿を見せる。
「あーすいません。そろそろ知り合いの試合が始まるので慌ててまして、一般客の席ってどの辺りか分かりますか?」
「え? 知り合いの試合が?」
その言葉に緑谷はふと見知らぬ2人の顔を見る。
やはりどちらも知らない人だ。
自身と爆豪はこれまで同じ学校で過ごしてきた為自分が知らない人ということは爆豪のことではないだろう──だとすればこの2人の言う知り合いとは……
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控え室から出て何度目かの入場口を潜る。
セメントス先生が改めて作り直してくれた舞台には既に戦うべき相手の姿がある。
かれこれ3度目の出番であっても変わらずにむしろ試合が進む度に大きくなってくれる歓声に手を振りながら舞台に立てば殺気かと思えるほど痛い視線が突き刺さる。
「随分余裕じゃねェか石ころ野郎」
「は? いや余裕とかでなく応援してくれてんだから応えようかと──」
想像以上に怒気を含んだ声に首を振って応えるも響く舌打ちにそれも止められる。
「テメェのそういうとこがむかつくんだよ!! 俺が眼中にねぇような振舞いがなァ!!」
爆豪の言葉に皆が戸惑う。
それもそうだろう、周りを眼中にないかの様に振舞う、それはむしろ爆豪の方であって千土がそうであるイメージは欠片もないのだから。
選手宣誓でも周りの闘志に応え、障害物競走からここまで勝利の為に全力を尽くしていた千土の姿を知っているから爆豪のその発言がここまでの結果に対するただの妬みだと思える。
──しかし爆豪だけはその千土の姿が歪んで見えていた。
選手宣誓では自身と競い合う者達への言葉を発していながらもその目は会場のプロヒーローや一般の観客達へ向けていた。
障害物競走では地雷原で自身の優位性を放棄して地上に戻ってきた。
そして騎馬戦では全チームの鉢巻きを奪い自身のチームのみが勝ち進まんとして見せた。
それら全てが爆豪に確信を抱かせる。
──こいつは俺達を見ていない。
確かに鉢巻きの数値で脱落した自分が尾白の辞退で進出候補となった時に来いよと声をかけてもきた、だがそれすら自身の策を破った相手を打ち負かして自身の勝利をより完璧にしたいが為のものにしか思えなった。
優勝するという一点を見ているのならまだ良い、だがこいつは優勝どころか別のこと──そう、ヒーローとしての自分の力をどこまで示せるか、その上で圧倒的な勝利を望んでいる。
障子や切島との戦いで相手の力を認め、好敵手と見ていながらも正面からの勝つのではなく相手の意表を突く戦い方、戦う相手ではなく勝利を示すことにしか興味がない目、それが薄気味悪く……そんな傲慢さが自分にも向いていることが爆豪には許せなかった。
「キョロキョロしやがって、テメェが見るべき相手は"ここに立ってんだよ"!!」
「──なら見せてみろよ爆豪……それに足る力をな」
千土の目が僅かに冷たくなる。
ふとした拍子に見せる冷めた感情、それに気付いた耳郎達友人3人が肩を動かす。
互いに対抗心を向け合っている2人の対戦に心配していたがそれどころではない何か──言い様のない嫌な予感が脳裏を過った気がした。
そしてそれと同時に試合開始の宣言が響き渡った。
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「『地質操作──』」
「遅ェんだよっ!!」
試合開始と共に千土が個性を使おうとし、それより早く爆豪の両手が爆ぜその身体を宙へ舞い上げる。
空中にいる相手に対して地面から攻撃が派生する千土の個性は攻め手が遅れる、それを知っている爆豪は千土が動くより先に空を飛ぶ。
「──いいぜ? はなから狙ってないからな」
もっとも千土ととしてもそう来るであろうことは読めていた。
だからこそ狙っていたのは爆豪ではなくまずは舞台そのもの、セメント製の地面などさっさと砕いてしまおうと思っていたまでのことだった。
「~~~~っ!! 吹っ飛べやァッ!!」
その興味なさ気な目がより一層爆豪の怒りを激しくさせる。
空中から爆発を連続で地上の千土へ放つ、しかしそれは全て砕けた舞台の瓦礫が自身を砂へ変えながら壁となって防ぐ。
わざわざ作り直した舞台が開始早々に破壊されセメントスの顔が僅かに曇る──が、千土にとって伝達率の悪いセメントの床から普通の地面に変わることは好都合でしかない。
「さて、ここからが本番だぞ爆ご──っ!?」
「遅ェつってんだろ石ころ野郎!!」
爆発の推進力で一気に間合いを詰めてきた爆豪の姿に千土は目を見開く。
──おかしい、その個性の特性上スロースターターの爆豪が試合開始直後にここまで速いはずがない。
「俺ァとっくに温まってんだよ!! ──死ねやァ!!」
至近距離からの爆発に身体全てが持っていかれる。
大きく後方に弾かれると爆豪は追撃に更に迫ってくる。
「チッ……爆発物が──『地質操作・石棺―ストーン・メイデン―』」
「邪魔だァァァッ!!」
砕けて地面に散らばった瓦礫を浮かせ爆豪を囲ませるも爆豪はその瓦礫が自身に接触するより早く身体を回転させ全方向へ爆発を放つことで全て撃ち落とす。
爆発に飲まれ瓦礫から姿を変えた砂も操作するより早く爆風に飛ばされそれも叶わなず、爆豪の掌が再び迫った。
──が、狙い通り。
安い挑発でここまで動きが早くなるとは思わなかったがどちらにしても直情的になってくれたことに変わりはない。
空中でこちらに手を伸ばす爆豪の背後の瓦礫を彼の後頭部へと走らせる。
「──っ!?」
見えない角度からの不意打ち、しかしそれを爆豪は頭を伏せて通過させる。
「見え透いてんだよ雑魚が!!」
爆豪の右手が千土の腹に触れる。
遠距離からではなく直接掌のの爆発を当ててぶっ飛ばす、それが爆豪の狙いだった。
──が、その手が千土の体操服に触れ──違和感を感じた。
「──よっしゃ、捕まえた」
「なっ!?」
急にいつもの声色に戻った千土に若干驚くも爆豪の意識はそれよりも自身の右手へ向かう。
千土の服の中から飛び出てきた大量の砂にその右手が掴まれていた。
「テメェ、いつ──」
「お前が回転したときな、あれお前の視界潰れちまうだろ?」
手を掴まれて動きを止められた爆豪に更に地面から砂をかき集めて上乗せしながら千土は得意気に語る。
「悪く思うなよ爆豪、何か知らんがお前の中で俺のイメージがだいぶ悪くなってるみたいだったから利用させてもらったぜ」
「は?」
「──眼中にねぇだ? んな訳ねぇだろ、お前もお前の"個性"もしっかり見せてもらってるんだぜ?」
高速で空中で飛び回る爆豪をどうやって捕らえるか、あれこれ考えていたが意外なことに爆豪が随分敵意を向けてくれていたのでこれ幸いと利用した。
「むしろ勘違いすんなよこの野郎、あいにくこちとらテメェに借りを返すことしか考えてねぇんだよ!!」
極めて攻撃性の高い爆発の個性。
しかしそれが可能なのは掌の汗腺のみ、現に初戦での麗日との戦いでは彼女の最期の反撃に対してその手をかなり大きく振ることで爆発を広範囲に広げて対処していた。
頭上からの攻撃だけでそれなのだ、ならば全方向からの攻撃となればどうなるか──狙い通り結果だった。
回転し全方向に爆発を起こす、流石の身体能力だがその爆炎は自身の視界を一瞬埋め尽くした。
その隙に服の中に大量の砂を隠しておいた。
ヒーローコスチュームを禁止され例の反則染みた手甲が使えない以上決定打として接触を狙ってくると踏んだがその通りだったようだ。
「クソがァッ!!」
「ハッ! 遅ぇんだよ爆発物!!」
砂から逃れようと身体を動かす爆豪の顔に拳を叩き込む。
「か、……かっちゃんの顔面を本気で殴った……」
「だ、大丈夫か、あれ……」
緑谷や上鳴をはじめ皆が絶句する。
あの爆豪を直接的にぶん殴る、それがただで済むとは思えず固唾を飲む。
──瞬間、爆豪が爆ぜる。
「は? ──っ!?」
「おおおおおぉぉぉっ!!」
自ら諸共爆発させ自身を縛る砂を吹き飛ばす。
爆発を受けてボロボロになった腕を伸ばしてくる姿に目を見開く。
「死にさらせやァァァ!!」
「無茶苦茶するなぁ、この野郎!」
あのままでは動けないだろうがよもや自らを巻き込んで爆発するとは──
掌に触れられぬよう横に逃れたところに足が伸びてくる。
腕を前に出してそれを受け止め、反撃に地面を尖らせ爆豪へと隆起させる。
──が爆豪は再び空中に飛び上がりそれを回避する。
「オラァッ!!」
爆豪がかざす掌のライン上からすぐに飛び退く。
先程まで自身が立っていた位置が轟音と共に爆ぜるのが見え舌打ちする。
空中からの爆撃は出鱈目に続けているように見えるがその実徐々に徐々に場外へと誘導されている。
「あぁっ!? 逃げてるだけか!? 何で全力で来ねぇ!? ──テメェは飛んでる奴に撃つ技があんだろうが!!」
「はぁ? んなもあればとっくに──あ、まさかお前"アレ"のこと言ってんのか?」
その言葉に爆豪の目が僅かに揺らぐ。
"アレ"──すなわち『地質操作・星墜―メテオ―』
爆豪を含め、あの場に居合わせた一部のクラスメイトにのみ見せた力。
確かにアレを使えば宙を飛び回る爆豪であっても避けられるものではないだろう──が……
「撃つ訳ねェだろ馬鹿かお前!? あんな一回撃つだけで棺桶に片足突っ込む欠陥技なんざ技でも何でもねぇわ!!」
仮にそんなことをすれば確実に爆豪は死んで自分は反動で決勝を辞退。
いや、辞退どころか自分を含めこの会場にいる者の大半が無事では済まないだろう。
そんなものをこんな場で使う気になどならない。
──それ以前に操れる範囲内に隕石がない今はそもそも使えもしないのだが
「あぁそうか! そんなに手加減してぇなら……そのまま死ねやァァァッ!!」
しかしプライドの高い爆豪はそれが手を抜いているように思えるのだろう。
その目に宿る怒気が更に深まり爆撃が更に苛烈になる──しかし千土はそれでも再び笑みを浮かべる。
「──まぁ安心しろよ……そんなもんなくとも俺はお前に勝つからな!!」
瓦礫を浮かせ空中で固定する。
これで足場はできた、手足に残った瓦礫を纏い準備を終わらせる。
「あいにく、飛んでる奴との戦い方なんていくらでも想定してるんでな!!」
地面を蹴って空中に躍り出る。
浮かせていた瓦礫を次々に蹴って空中を飛び回り爆豪の下へと向かう。
接近されるのを見越して爆豪は既に構えていた。近づいた瞬間に視界に広がる爆炎を瓦礫に守られた両腕で受け止める。
爆風を通り抜けると遂に爆豪を両腕の射程内に捉える。
「オラァッ!!」
硬質化させた石の手甲を全力で振るう──が、その拳は何にも触れずに空を切る。
拳がぶつかる直前に爆豪はその掌の爆発を用いて空中で大きく身を翻し千土の背後に回った。
「──しまっ!」
「終わりだ!!」
背中に掌が添えられ強力な爆発を直接受ける。
空中で受けた衝撃に抗うことも出来ず舞台の境界線の外側へと吹き飛ばされる。
「させるか!!」
とっさに浮かせていた瓦礫を引き寄せ、場外に足が着く前に滑り込ませることでそれを蹴って境界線の内側へ復帰する。
浮かせた足場を駆けるのは諦め一度地に足を着ける。
(さて、どうしたもんかな。火力はともかく思った以上に爆豪の動きが厄介過ぎる)
石を砕き砂を吹き飛ばす爆発の威力も厄介だがそれ以上に機動力が高過ぎる。
空中戦も試みたがやはり空の戦いではあちらに分があるようだ。
恐らくこうなるだろう予測していた為最初に爆豪の怒りを煽って直情的になるように仕向けてみたが策は失敗、結果として全力になった上に冷静に怒る爆豪が残ってしまった。
──最後の勝ち筋は作れたのだがそこまで持ち込む手段がない。
「……あぁくそ、最悪に気に食わない手段だが──しゃあねぇか」
地に触れる足に更に力を込めて地面を砕く。
相手が空ならこちらは地面、土中に籠らせてもらうとしよう。
「な!? テメェ逃げんのか!?」
「ずっと滞空してるお前が言うな! モグラが鳥に合わせて戦ってくれると思うなよ!!」
空から向けられた言葉に土中から返しつつ地面を硬質化させる。
これで空から爆撃を受けても簡単に地面が崩れることはないだろう。
『おいおいイレイザーいいのかこれ?』
『まぁ空がアリなら土中もアリだろ、勿論地面の中だろうが境界線を越えたら即アウトだがな』
拮抗勝負によるものではなくお互いが手出しをしない硬直状態。
刻一刻と流れる時間、少しずつ刻まれていく電光掲示板の数字に爆豪は歯噛みする。
時間切れになれば両者脱落か或いは何か別の手段で決めるのか、それは分からないが分からないが故に爆豪を焦らせる。
そして爆豪を襲うものはそれだけではなくあと2つ。
1つ目は疲労、ただ地面に潜った千土に対し爆豪は滞空するために常に爆発を繰り返している。
それはつまりスタミナの大量消費を意味し両腕に疲労感が溜まりつつある。
2つ目は──互いの状況の不平等さ。
地面に潜った千土と違い爆豪は空中、つまり会場の視線を一身に受けている。
互いが相手に不利な状況を強いようとして戦わずに陥っている硬直状態への落胆にも似た視線。
"まだ動かないのか? "打つ手はないのか? "そんな本来互いが受けるはずの視線が唯一姿を見せている爆豪一人に集中する。
そしてそんな視線は自身こそが№1だと証明せんとこの場に立つ爆豪にとって許し難いものだった。
「──ソがぁ、──クソがアアアァァァァァッ!!」
会場に響く叫びと共に爆豪がその身を回転させながら地面へと最高速で飛ぶ。
勢い任せに地面を殴ると同時に個性を解き放つ。
今までとは比較にならない轟音が炸裂し地面が爆ぜる。
「ハァ……ハァ……。出て来いよ臆病野郎」
肩を激しく上下させる爆豪がそれでも一切衰えない闘志に満ちた声を紡ぐ。
自身の優位性を捨てて勝負を挑んできた漢、その言葉にだけは応えなければと地面から姿を現す。
──爆豪の背後へと
「──っ!?」
「望み通り出てきてやったぜ癇癪野郎!!」
気配に気付いて咄嗟に振り返る爆豪の横腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。
更に体勢を崩したところに先程の爆撃で吹き飛んでいた土塊を上方から叩きつけて埋め尽くす。
『せ、せけぇ──ーっ!? 真っ向勝負を挑んだ爆豪に非情の不意打ちィ!?』
「ルールの範囲の中での不意打ちなんだ卑怯とは言わんで下さいや……なぁ爆豪?」
積みあがった瓦礫が爆風に吹き飛ばされ先程よりあちこちを負傷した爆豪が姿を見せる。
「舐めた真似しやがってこのクソ野郎がァ……」
「──なぁ爆豪、さっきまでの硬直状態で考える時間があったから気付いたんだけどさ。……ひょっとしてお前、今まで競い合う相手がいなかったのか?」
「あぁっ!? 何の話だ!?」
不意打ちに怒る爆豪の言葉を無視して問いを投げかけてみれば依然怒り混じりではあるが会話に応じてもらえた。
「目の前の相手との戦いよりも優勝や完璧な勝利を目指す。それが見下してるように思えたんだろ? ──お前がそうなんだからな?」
「っ!?」
体育祭が始まる前の日周囲の相手をモブと言い捨てた。
体育祭の騎馬戦の際に物間とかいう奴との戦いで鉢巻きを奪い返すどころか相手の持ち点全てを奪ってやった。
それらは全て自分こそが№1なのだと証明するために完璧であろうとしたからだった。
だがそれをしたのは自分だけではなかった。
入試一位が立つ選手宣誓の場で戦う生徒達だけでなくプロのヒーロー達に挑戦状を送る奴がいた。
騎馬戦で接触した相手から全て奪うのではなく他の全チームの鉢巻きを奪い取った奴がいた。
──自分以外に自らこそが№1だと叫ぶ奴がいる。
「勝手な想像だが多分お前はガキの頃からすげぇ奴だったんだろ? ──だから自分と同じことをやろうとしてる奴を見たことがなかったんじゃないか?」
「──っ」
記憶の中の光景が爆豪の脳裏を過る。
今でも覚えている幼き頃から味わい続けた優越感。
誰もが解けない問題を解けた。
誰もが知らない言葉を知っていて、誰もが読めない漢字も読めた。
大人さえも"ヒーロー向きでカッコいい"と褒める個性が発現した。
自分に敵う奴なんて誰もいなかった。
皆が凄いと称え自分と並ぶ奴なんて誰もいなかった。
──心底腹立たしい事に"立てる? "と手を差し伸べてきた奴がいたが、それでも誰もが自分を上に見ていたことは覚えている。
「お前ならもう分かっただろ爆豪、お前が見てた俺は"お前"だぜ? ──俺もお前も№1を目指してんだ、だから自分と並んでいる俺が周りを見下してるように見えたんだろ?」
そしてだからこそ自らの優位性を手放して硬直状態を破りにでた。
自分の方が上にいるのだと証明するために。
普段の言動やら諸々はともかくそのプライドは気高いものだと思えた。
──だからこそ伝えるべき言葉がある。
「なぁ爆豪、競い合うってのはそう悪いもんじゃねぇぜ。上を目指して這い上がるのも下に追われて奮起すんのも悪くねぇけど……並ぶ相手に負けないように駆け抜けんのだって良いもんさ」
互いに対等だからこそしがらみもない。
障子との戦いでは真っ向勝負を避けて相手の攻撃が届かないように高所へ追いやった。
切島との戦いでは根比べで負けが見えたから頭上から瓦礫の塊を叩きつけた。
そして今の爆豪との戦いでは挑発したし土中に立てこもって爆豪を追い詰めた上で不意打ちなんて手も打った。
どれも自分の憧れの存在と戦うなんて時が来ればみっともなくて使えないだろう、だけど対等な相手だからこそそんな意地よりも勝ちたいという感情が湧いてくる。
──だから
「──だから、こいよ爆豪……ぶっちぎりの1位を目指すならまずはお前と同じようにそれを目指してる奴を倒していくのが筋だろうが──お前が見るべき相手は"ここに立ってんだぞ"!!」
試合が始まる前に爆豪自身が言ったその言葉が千土の口から返ってくる。
爆豪は呆気にとられて目を見開いて疲労に上下していた肩を震わせる。
──その顔は獰猛過ぎる程に笑っていた。
「つぐづくテメェはむかつくなぁ!! ──なら見せてみろや!! それに足る力ってのをよォ!!」
爆豪が掌の爆発の推進力で千土へ一直線に向かう。
その動きに先程までの疲労は一切感じられず──いや、むしろ今までより遥かに速い。
「ハッそれで良いぜ爆豪!! さぁこっからが本番だ! 覚悟はいいなァ!!」
千土もまたそれに応える様に地面を足を叩きつけ、自身と爆豪の間に壁を形成する。
妬みや誤解、仕返し等の雑念の消えた純粋な敵対心のみが渦巻き出した試合に会場に再び歓声が蘇る。
試合時間は既に半分を過ぎている。
残り僅かな試合時間、ようやく準決勝第二試合が始まるのを皆が感じるのだった。
原作では意外と爆豪と直接的に1番を競い合うキャラっていなかったので仮にいたら爆豪はどう思うのか私の想像ですがこういう形になりました。
違和感を与えてしまったら申し訳ございません。