地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第22話 先送りの代償

思わぬ光景に頭を抱えてしまう。

何故耳郎達とこの2人が絡んでいるのか、理解不能な状況に気が滅入つつも声を絞り出す。

 

「とりま耳郎から離れろ含話(ふくわ)、どう見ても困ってんだろが」

 

「いやぁ、ここに来る前に携帯の試合中継見てたんだけどやっぱ自分と同い年の女の子があんなカッコよく戦ってるの見たらお近づきになりたくなるじゃん?」

 

「物理的に近づいてんじゃねぇよアホが」

 

べったりと耳郎にくっついてる少女の襟を掴んで強引に引き剝がす千土のその言葉は普段の様子と比べて明らかに遠慮がなかった。

 

「……で、何でお前らが耳郎達と一緒にいるんだよ?」

 

「一般客用の観客席の位置が分からなくて声かけたんですよ、後で千土先輩のクラスメイトだって気付いて……で、そうこうしてる内に千土先輩の試合が始まったんでご一緒させてもらったって訳です」

 

「んで今は千土を一緒に探してもらってたの、委員長が不在だったから千土の友人達と最初に話かけた人に頼んでね」

 

「すまん皆、うちのアホどもが迷惑かけたな」

 

「いや、それは構わんが結局彼らは誰なんだ?」

 

障子のその言葉に千土はまた唖然とした表情を浮かべて僅かに離れた位置にいる少年の方へ視線を向ける。

 

「おい、まさか絡んどいて名乗ってねぇのかお前ら?」

 

「……俺にそんなコミュ力あると思います?」

 

「めんどかった」

 

「よし分かったお前ら嫌がらせに来やがったんだな」

 

「い、一応地城君の知り合いとは教えてもらったよ!?」

 

少女の襟から肩へ手をずらし全力で圧力を加える千土に緑谷がストップをかけようと声をだすと千土もその気遣いを察して息を吐く。

 

「こっちの騒々しいのは音々本 含話(ねねもと ふくわ)、そっちの奴は見月 狼次(みつき ろうじ)。どっちも俺の知り合いなんだが……ご覧の通りアホな連中で──」

 

「酷い紹介すんなー薄情者」

 

地城の手からするりと逃れると含話と呼ばれた少女は耳郎の正面に躍り出てその手を伸ばす。

 

「では改めまして音々本でっす! 地城とは去年まで一緒のしせ──学校でね、一つ屋根の寮生活だったから色々雑な関係させてもらってたって訳、よろしくね!」

 

「う、うん……耳郎 響香です……よろしく」

 

勝手に手を掴んでぶんぶん振り回す含話に明らかに戸惑った表情で返事する耳郎の様子を見て千土は困ったように頭に手を置く。

 

「含話、耳郎の事が気に入るのは良いが迷惑かけんな」

 

「はいはい、相っ変わらず千土は口うるさいなぁ。ごめんね耳郎ちゃん」

 

パッと手を放すと含話は耳郎から離れて千土の傍へと帰っていく。

 

「ま、決勝前に会えて良かったよ。やっぱエールは直接送りたいじゃん?」

 

「そうそう、さっきの試合もお疲れっす。決勝も頑張ってください」

 

「はいはいどうも、ったくメールだけで十分だってのに律儀な……」

 

友人達からの応援に気恥ずかしくなったのだろう千土が僅かに素っ気なくなった口振りがそれを物語っていた。

 

そして学外の友人に囲まれている自分を見る耳郎達の視線に頬を掻いて千土は口を開く。

 

「本っ当に迷惑かけたなお前ら、マジですまん。あとは俺が送ってくから戻っていいぜ?」

 

「そ、そんな大した事じゃないよ、気にしないで」

 

緑谷のその返事に「悪いなぁ」と重ねて謝罪しつつ千土は2人の背を押しながら一般観客席へと向かっていくのだった。

 

「変わった友人達だったな」

 

「地城も普段と少し様子が違ったが──案外あっちが素なのか?」

 

「意外とあいつも高校デビューしてたのかもね」

 

障子達はそんなくだらない冗談を言って一度肩を竦め──再び口を開く。

 

「あの含話って子──施設って言いかけてたよね……学校じゃなくて」

 

「恐らくな、あいつはやはり何かしらの事情を抱えているのだろうな」

 

含話が僅かに言いかけたその単語を聞き逃さなかった彼らはその単語から何かを感じ取り顔を顰める。

そして緑谷は一度彼に言われた言葉から"それ"に該当するものがあったことを思い出す。

 

「『個性制御施設』」

 

USJに向かうバスの中で千土が口にしたその名前を緑谷はポツリと呟くと常闇も頷く。

 

「制御が難しい個性を持った者達を支える施設、利用者の為にあまり世間では知られていない施設だが奴はだいぶ詳しく知っていたな」

 

個性の扱いに危険が伴う者達を"引退したヒーロー"が立ち会い個性の制御が出来るように教育する。

地城が述べた説明を思い出し、耳郎と緑谷はハッと目を見開く。

 

千土の見舞いに行った病室で遭遇した彼の知り合いという女性。

元プロヒーローの"リラクゼーココナッツ"、安藤 心奈。

もしも彼女がそうだとしたら彼が言っていた"よく世話になっている"という意味とは──

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「あ~緊張したぁ……」

 

耳郎達と別れ観客席へと続く廊下を歩きながら含話がため息混じりにそう声を漏らすのを聞き千土は呆れる。

 

「対人関係苦手の癖に無理し過ぎなんだ、何事かと思ったわ」

 

「舐めんな、今の高校ではこのキャラでやってる!」

 

「マジで無理し過ぎだろ!? 高校デビューも程々にしろよ!?」

 

去年まで常に不愛想だった奴が何故ここまで弾けたのか、近況報告で明るくやっているとは聞いていたがここまでとはと千土は唖然とする。

 

「逆に千土先輩は変わらないっすね、中継で開会式から見てましたけど相変わらず好き勝手やってるようでなによりです」

 

「そうそう特にさっきの試合の嫌らしい手口なんかまさに千土って感じ、№1ヒーロー目指すんならもっとカッコよく戦ってよねー?」

 

「格ゲーだと友人失くすタイプっすよね」

 

好き勝手なのはどっちなのか、散々言ってくれる友人共の腕を軽く捻る。

 

「──で、結局何にしきやがったんだよお前ら? わざとらしく口滑らしやがって」

 

「痛い痛い! ギブギブ!! ごめんって!?」

 

周囲に他の人はいないがあんまり騒ぐのも気が引けるので手を放すがそれより問題はさっきの事だと問い詰めれば2人は観念したように苦笑する。

 

「すみません、多分千土先輩のことだからきっと自分の事周りに言わないんだろうと思って」

 

「つい千土とのメールで良く名前が出る人達に探り入れちゃった」

 

案の定というか。そもそも"他人と関わるのを極力避けたがる"のが目の前の友人達だ。観客席の位置を予め確認していないわけがない、恐らく道に迷ったというところからして嘘なのだろうとため息が出る。

 

「──ねぇ千土に話す気はないの?」

 

「は?」

 

「話したくないならそれでも良いけど、こういうのって隠してると後々後悔するやつじゃん? 何かの拍子で知られるより先に話しといた方がいいじゃないかって思ってさ」

 

「……そうだな」

 

含話の言葉に千土は一度目を閉じる。

別に負い目があって隠している訳ではない、ただどうしても"暗い話"になると分かっているから話す気が起こらなかった。

 

「ま。この体育祭が終わったらいつか話すよ、もしかしたらまだやらなくちゃいけないことがあるかもしれないしな。それまでは後回しだ」

 

「え? まさかまた人の事情に首突っ込んでるんですか?」

 

狼次の言葉に曖昧に笑うと呆れた表情が返ってくる。

 

「本当に千土先輩は高校でも変わらないんすね、そのお節介も」

 

「引きこもり癖がまだ抜けてないのにこんなとこにわざわざ忠告に来たお前が言うことかよ?」

 

「そりゃまぁ……俺達にとっての最高のヒーローに余計なもんまで抱えてほしくはないですから」

 

そう言うと狼次はふと歩く速度を速める。

 

「伝えたいことは伝えたんでもう十分っすよ、観客席には自分で行きますので千土先輩は次の試合に集中してください」

 

「だね、あれだけ言い切ったんだから負けないでよぉ? 推しのヒーローのカッコ悪いとこなんて見たくないんだからさぁ」

 

手を振って去っていく友人達を眺め千土は苦笑する。

かつて他人を拒んでいた彼らがこうして気遣ってくれている、それが嬉しくてつい顔が緩む。

負けられない理由がまた一つ増えた、それを抱えて自身の控え室へと向かうのだった。

 

 

 

▼▼▼

 

千土が自身の控え室へ入った数分後、彼と決勝の舞台で戦う轟は自身の控え室で一人思考に没頭していた。

 

決して使わないと決めた忌むべき左の力、それを緑谷との試合で使ってからずっと思考が落ち付かない。

不思議だった、あれ程憎んでいた男の存在が彼との試合の間だけ頭の中から消え去っていた。

 

──自身がなりたいヒーロー

それを思い描いていた頃の、ただ平和に母と話していた瞬間。

自身の憧れるヒーローのようになりたい、戦いの最中で紡がれた緑谷その言葉が"それ"を思い出させた。

 

──ならば

 

これから自身が戦う相手を思い出す。

緑谷同様に"最高のヒーロー"オールマイトを尊敬し、彼と同じような、彼を越えるようなヒーローになりたいと語った男。

 

地城との試合ならば──何かが見えるかも知れないと思った。

 

彼に宣言した"左の力を使わずに優勝する"その言葉が覆るかも知れないと──試合が始まる前にどうしても伝えておきたくて彼の控え室へと向かうのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

コンコンと響いたノックの音に控え室の机に突っ伏していた頭を上げて千土は立ち上がる。

試合開始にはまだ少し時間がある、ならば誰かが自分に用があるのだろう。

少し前に別れた友人達の脳にノックなどという礼儀はない、ならば彼らが振り回した耳郎達かと思い気軽に返事をしながら扉を開ける。

 

 

 

その先にいたのは──轟。

 

 

しかし自身と同じクラスに在籍する彼ではない、そう、今なおプロヒーロー界でその名を示し続ける『フレイムヒーロー』

 

「エン、デヴァー……?」

 

思わぬ存在に目を疑うが、何とか思考を落ち着かせ冷静に考える。

 

──さては轟の控え室と間違えたな

 

プロのヒーローといえども間違えはあるのだろう。

決勝に進んだ自身の息子に声援を……とは自身が聞かされた話からそんな明るい想像はできないが彼が轟の勝利を望んでいること自体は確かだろう。

ならばその内容はどうであれ轟に何か言うことがあったのだろう。

 

──問題はどうやって失礼なく控え室間違えましたよと伝えるかだ。

 

「試合前にすまない。君と少し話がしたかったんだ地城 千土君」

 

そんな馬鹿な考えはすぐに掻き消された。

エンデヴァーの口から出た自身の名。

それが彼の目的が轟ではなく自身なのだと告げてくる。

 

「君の健闘をここまで見せてもらった。身体能力、思考能力そして個性どれをとっても素晴らしい。まだ1年生でその完成度は目を見張るものがある」

 

「ど、どうも……」

 

おかしい、プロヒーローとしてメディアに映るエンデヴァーは一言で言うならば『厳格』、その彼が自分のような未熟な学生をここまで手放しで評価するとは思えない。

それに彼に近しい2人の人物から彼に関わる話を聞いている為どうしてもその言葉を素直に受け取れず警戒してしまうがエンデヴァーの話は容赦なく進む。

 

「君の実力ならば優勝も夢ではないだろう……そう、私の息子である焦凍に勝つことも……ね」

 

その言葉に肩を跳ね上げる。

エンデヴァーは轟の勝利を望んでいないのか? と一瞬疑問を抱く。

しかし、それもまた次の言葉で覆る。

 

「私の息子は恥ずかしい話ずっと反抗期だったのだが、今日緑谷という少年との試合でやっと自分の全力を使う気になったらしい……が、どうやらまだくだらん迷いをしているようなのでね。君ほどの実力者が全力でぶつかってくれれば奴にも良い刺激になるやもと思ってね」

 

エンデヴァーの謎の言動をようやく理解できた。

ようは轟を追い詰めその全力を引き出す相手として俺を利用する算段なのだろう。

 

「……貴方にそこまで評価して頂けるなんて……身に余る光栄です」

 

自然と脳が言葉を紡ぐ。

──不思議と苛立ちは一切ない、あるのはただ悲しさだけだった。

 

「俺、一番憧れたヒーローはオールマイトですけど……一番尊敬するヒーローは貴方でしたので、凄く嬉しいです」

 

精一杯、喜びを満ちさせたその言葉にエンデヴァーの眉が僅かに動く──が、彼が何かを言うより早く続ける。

 

「昔、母から何度も貴方の話を聞きました。№1を越えようと決して努力を怠らない炎のヒーローの話を」

 

「……賛土 砂羅(さんど さら)……いや、地城 砂羅か」

 

「あー、やっぱ知ってます? 母さん学生時代色んな人に絡んでたって言ってましたし」

 

恐らく自分の先程の言葉はエンデヴァーにとって癪に障ったのだろう、轟の話からしてオールマイトを交えての言葉は彼にとってタブーだろう。──が、流石に既に死んでしまった人の話も交えてしまえばエンデヴァーといえども多少は容赦してくれるだろう。

 

亡き母を盾に物申そうとするのだ、我ながらとんだ親不孝者だと自嘲するほかない。

 

「他の誰もが絶対に追いつけないって特別視する人を越えようと挑み続ける貴方の話はオールマイトを越えると決めた俺にとって大きな支えでした」

 

「っ……」

 

「エンデヴァー……本当に貴方は自分で挑むのをやめちまったんですか?」

 

一瞬、僅かに息を飲んだエンデヴァーの目を真っ直ぐに見てそう言い放つ。

この上なく生意気な発言だったのだろう、先程までと比べエンデヴァーの目付きが相手を焼き殺すような鋭利なものへと変化する。

 

目の前に立つエンデヴァーのその威圧感に身を焼かれる程の恐怖を抱き冷や汗が伝うのを感じる、それでも目を離さずにいるとやがてエンデヴァーは踵を返す。

 

「やはり貴様はあの女の息子だな。つくづく人を苛立たせる」

 

オールマイトを越える。それがどれ程のものか真に理解していない愚かな子供に付き合うのが馬鹿らしくなりエンデヴァーはそう吐き捨てる。

 

その背中を千土を暫く見つめ……控え室の扉を閉める。

 

「────っくそ……今更震えてきやがった」

 

歯を食いしばって拳を握る。

全身から汗が吹き出し身体が震えるがそれ以上に圧倒的なエンデヴァーの威圧感に歯噛みする。

 

恐怖。

エンデヴァーが最後に見せた目に全身が震えた。

 

「情けねぇ……まだまだ弱いな俺は……」

 

力無くイスに体重を預けてポツリと呟く。

 

本当は轟への謝罪を求めたかったしあの人への謝罪を求めたかった。

──そしてもう一度、№1を自分自身で目指してほしかった。

なのに口に出来たのは結局あの程度だ、自分自身の意志の弱さに怒りが溢れてくる。

 

 

──だからこそ、より強くなる為にこの体育祭で優勝すると誓ったんだ。

 

 

時計を見れば既にその針は約束の時間を指し示している。

会場への宣言も、爆豪への誓いも、友人達からの応援も全て背負いイスから立ち上がる。

 

いよいよ、最後の試合。

望めるならば、──あいつの全力と競い合い、そして優勝を掴みたい。

そう願いながら会場へと足を進めるのだった。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

地城との戦いならば、何かが見えるかもしれない。

そんな予感に身を委ねて轟は千土の控え室へ向かっていた。

 

試合が始まる前に以前に言った"左"を使わないという言葉を覆すかもしれないと伝えておかないとフェアじゃないと思ったから。

 

だから、それだけ伝えておこうと思い、──見てしまった、炎を纏ったその背中がその控え室の前に立っているのを──

 

(あの野郎……何をする気だ!?)

 

その忌々しい背中を間違える訳がない。

一体何が狙いかと無意識のうちに聞き耳を立てて会話を窺う。

 

 

 

『君ほどの実力者が全力でぶつかってくれれば奴にも良い刺激になるやもと思ってね』

 

『貴方にそこまで評価して頂けるなんて身に余る光栄です』

 

聞こえてくるその言葉に耳を疑う。

父親の今まで聞いたことのないほど甘い言葉と地城の心から嬉しそうなその声に頭の中がぐちゃぐちゃになるのを感じる。

 

『俺、一番憧れたヒーローはオールマイトですけど……一番尊敬するヒーローは貴方でしたので、凄く嬉しいです』

 

 

 

──尊敬? 

 

あの男のどこが尊敬できるというのか……№2という立場が事実であってもあの男の本性は少し前に話したはずだ。だというのに何故そんな言葉が出てくる? 

 

そこまで考え轟は緑谷との戦いを経て忘れていたあることを思い出す。

自身の過去を何故か地城は知っている様だった。

それが何故かずっと理解できなかったが──今、合点がいった。

 

考えてみれば当然だ、自分の事情を知る者など自身を除けばあの男以外存在しない。

つまり──あいつは最初からあのクソ親父と接触していたのか……

そういえば騎馬戦でもチームを組む条件で"左の力"を使うように交渉してきたが──そういうことかと理解する。

 

 

──轟は音もなく静かにその場から立ち去った。

 

記憶の中の浮かれたクラスメイトの顔が歪むの感じた。

最初に見た金がなく飯をたかりに絡んできた顔も、

ヴィランとの戦いで必死になっていた顔も、

体育祭の中で見せた様々な顔も全てその奥にあのクソ親父の顔が湧いてくる。

 

「悪いな緑谷……やっぱり俺は……変わるわけにはいかねぇ」

 

もはや迷いは消え失せた。

轟の目は再び暗い陰りを宿すのだった。

 

 

▼▼▼

 

『さぁさぁ注目しやがれお前ら!! とうとう来たぜこの時がよォ!! 優勝を賭けた最後の勝負、決勝戦がよォ!!』

 

歓声が一斉に高まる。

既に舞台に立った2人の姿に視線が集中する。

 

 

『ここまで圧倒的な実力で勝ち進めてきた轟! 、対するは毎回何かやらかすトラブルメーカー地城! 栄光の優勝を手にするのははたしてどちらか刮目しやがれ!!』

 

プレゼントマイクの状況が進むなか千土は轟へと視線を向ける。

色々あって後回しになってしまったが彼に伝えるべきことを伝えておかねばと声をかける。

 

「悪いな轟、話すのが遅れちまったけど実は──」

 

「御託はいらねぇよ、お前もあいつのくだらねぇ企みも──全部潰してやる」

 

「────え?」

 

轟のあまりに暗い瞳がこちらの姿を捉えて離さない。

憎悪の宿ったその目に普段の馬鹿な発想さえ湧かずただ戸惑う。

 

何か轟を怒らせるようなことをしてしまったかと自身の行動を思い返す。

競技の中で衝突は何度かしたが轟がそれをここまで根に持つとは思えない、そもそも騎馬戦後にエンデヴァーについて話した時は怒りなど向けてこなかった。

──では、何故と考えるも答えは出ない。

 

『さぁいくぜェ!! ──決勝戦……開始ィ!!』

 

「ちょっ!? 待っ──」

 

不意に耳に入った試合開始の宣言に肩を跳ね上げる。

目に映るのは右腕を振り上げる轟の姿。

 

──直後、視界全てが氷の塊に埋め尽くされるのだった。

 

 

 




轟父子の怒りを全力で買っていくスタイル(8割自業自得)
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