地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第23話 その姿は誰が為に

舞台全てを覆い尽くす氷山に会場中が驚愕する。

瀬呂との戦いで見せたものさえ上回る規模の凍結、審判であるミッドナイトはそれに飲まれた千土の姿を探し視線を動かす。

 

「な、なぁ轟の顔……何か怖くねぇ?」

 

観客席でも試合を注目していた峰田がそれに気付く。

 

「う、うん。前の飯田君の試合の時と全然違う」

 

「地城との試合で気合が入ってる──って感じじゃねぇよな」

 

クラスメイト達が戸惑う中、緑谷は轟の様子を窺う。

 

自分と千土にエンデヴァーについて話していたときと同じ顔。

一体2人の間で何が起こったのか戸惑いながらも舞台を見る。

形成された氷山に千土は飲まれたように見えたがその姿は見当たらず──

 

「──逃がしたか……」

 

轟が小さく呟くと共に舞台のあちこちから氷の床を貫き地面が槍のように生えてくる。

 

「~~~っぶねぇ! 死ぬかと思ったわ」

 

無数の土塊の槍、その中の一本が砕け内側から千土が姿を見せる。

 

開幕直後の大規模凍結。

千土にとって一番警戒していたことがそれだった為、元々個性で自分の足元を沈めるようとしていた為辛うじて逃れられた。

とはいえ状況が良くなった訳ではない、轟にとって先程の攻撃は最初の一手でしかなくやろうと思えば再びできる。それに対してこちらは土塊の槍で地面の一部を露出させているが万が一地面全てが凍らされてしまえば一気に手札を失ってしまう。

 

だが問題はそれだけではない。

 

「な、なぁ轟……何か怒ってる?」

 

そう、轟の様子がおかしいのだ、明らかに怒りを宿した目でこちらを睨む轟に千土は顔を引きつらせながらもそう問う。

 

「勘違いすんな……俺は至って冷静だ。お前を徹底的に倒す為にな!!」

 

再び冷気が充満する。

吹き抜ける凍てつく風に顔を覆えば次に飛び込んでくるのは完全に凍り付いた舞台の姿。

氷を突き破って生えた土塊の槍もその上から氷に閉ざされ完全に自分は地面と隔絶されたのだと理解する。

 

「──やってくれるなぁ……」

 

思った端から個性を潰された。

さすがに氷の床はセメントと違い砕くことすらできはしない、分厚い氷の床に覆われて地面には干渉出来ず、他の瓦礫もその氷の中に──早くも手詰まりだ

 

「この身一つでお前と戦えと? 勘弁してくれよ?」

 

悪態をつきながら思考する。

轟は何故かは分からないがこちらに怒りを向けているが感情的にはならずむしろ的確にこちらの弱点をついてきた。つまり安い不意打ちは望めない。

ならばどうするか──手詰まりでもやるしかないという訳だ。

 

氷の床を蹴って一気に駆け出す。

僅かに凍結が遅れる轟の左側に潜り込んで攻め立てる、今打てる手はそれしかないだろう。

 

「お前がこれぐらい読んでいないはずがねぇよな……その右手に握ってんだろ?」

 

「──っ!?」

 

殴りかかった右の拳を轟の右手に掴まれる。

拳の中に隠した石の礫諸共右腕が凍結し始める。

完全に動けなくなる前に右腕を振り払い轟の手から逃れ、一度間合いを取って自分の右腕に視線を向ける。

 

腕そのものが凍ったわけではないが拳から肘辺りまで氷に覆われしまい指一つ動かせない、個性に続いて利き腕さえも潰されてしまったようだ。

 

肌を刺す氷の冷気に右手の感覚がなくなっていくのを感じる。

 

「──ははっ、こいつは参った! どうすっかなぁ──……」

 

ほんの僅かでも気が緩んでくれればと弱音を吐いてみるの轟は眉一つ動かす様子もない。

 

どうやら本当に俺に怒りを向けているようだがその理由に心当たりがない。

いや色々迷惑をかけた覚えはあるし、なんなら殴られても文句が言えないこともやっている──がそれを彼にはまだ伝えていない。

一体何故と思うも足元に文字通り寒気を感じ思考を止める。

 

「危ねぇ!!」

 

咄嗟に空中に飛び上がり足を掴まんとする凍結から逃れるもその先に轟の拳が回り込んでいた。

 

「ぐあぁっ!?」

 

鈍い痛みと共に口の中に血の味が広がる。

 

「あぁくそ、やっぱ跳ぶと碌なことがねぇ──っとぉ!?」

 

氷の地面に叩きつけられると悪態をつく間もなく更なる凍結が迫りすぐにその場から逃れる。

辛うじて捕らることなく逃れ続けているが身体能力一つでは速度、範囲ともに優れる轟相手ではいつまでも逃げきれはしないだろう。

とはいえ、攻め手に回る手段は今のところはなくただひたすら逃げ続ける。

 

『あっーと!! 地城 千土、轟の猛攻に打つ手なしかァーっ!? ──って、こいつ毎回序盤は押され気味だったしどうせまた何か企んでるだろ?』

 

『さぁな、少なくとも状況は圧倒的に轟が優勢だ』

 

プレゼントマイクの期待半分の言葉に相澤はそう短く相づちを入れる。

あくまでも純粋な分析にA組の者達も固唾を飲む。

辛うじて轟の凍結から逃れ続けているが形成され続ける氷山に徐々に舞台は埋め尽くされその逃げ場を無くしていっている。

 

このまま何も手を打たずにいればいずれは千土が追い詰められるのは明白だった

本当に手はないのかと彼に注目すれば──その顔はいつもと変わらず笑っていた。

 

「いいのか轟? そんなに凍結ばっか繰り返していると緑谷戦の二の舞だ。そろそろ左も使った方が良いんじゃないのか?」

 

「黙れ、俺はお前の思い通りにはならねぇ!」

 

どうやら轟に炎を使わせて氷を溶かしてもらおうという作戦は見透かされているらしい。

──何故か轟の怒りが一層増した気がするが思い過ごしだろうか……

ともかく轟はやはり左の力を使う気にはならないようで、つまりこの状況はやはり自力で覆すしかないようだ。

 

「──あーぁ……やりたくないな、痛ぇだろうなぁ」

 

「あぁ?」

 

急に気の抜けた声を発した千土に轟は戸惑い、すぐに警戒する。

何かやる気だろうが個性は封じたはずでその狙いが読めない。

 

──だから地城が何かやる前に徹底的に潰す。

 

既に逃げ道はほぼ潰した。

緑谷との試合で反動がくるまで耐えられてしまったからこそ確実に倒す為に状況を整えた。

右腕に力を集中し開幕に放ったものと同等の規模の凍結を放たんと構える。

 

クソ親父が、クソ親父とつるんでいる男が望む力など使わずに勝つ。

緑谷との問答の中で芽生えた"何か"諸共目の前の怨敵を葬ろうと右腕を振り上げる──同時に千土が自身を囲む氷の壁を足場に轟の頭上に躍り出た。

 

「なっ!?」

 

「俺の個性を封じただぁ!? 舐めてんじゃねぇぞ轟ィ!! 『地質操作・加重』!!」

 

腕を氷に包まれようとその中で握る物は変わらずにあり続けている……ならば"それ"は可能だ。

 

凍り付いた右腕を突き出して拳の中の石の重量を急激に跳ね上げる。

重力に従い落下していた拳に爆発的にエネルギーが加わる。

新たに氷の床から形成された氷山に凍結した拳がぶつかりその氷の山を容易く砕く。

 

氷山を貫いた千土の拳が氷の床を、その下のセメントの舞台さえも砕き地面にぶつかり大規模な振動と轟音を会場にもたらす。

 

舞い上がる砂煙に包まれる中で千土は苦悶の表情で右手の指を握る。

右腕を覆う氷は地面との衝突で砕け解放されるも重力を増した石を握ったその拳は自身の骨さえ砕きその指の色は痛々しく変色している。

 

「~~~~っ痛ぇ……こんなもん繰り返すとか緑谷の奴正気かよ……。しっかしさすがだな轟、きっちり避けやがって」

 

自身の目の前に立つ人の影、氷山とぶつかった僅かな隙に拳の軌道上から逃れた対戦相手に笑って声をかける。

 

「──お前の右手……指の骨は複雑骨折、腕の骨にも皹が入ったはずだ、──何で笑ってやがる?」

 

「はっこんな程度でお前に勝てるんならそりゃ笑うさ、考えてみろよ? この試合に勝てば優勝、№1だぜ? だったら骨が砕けようと手ぇ伸ばすしかねぇだろぉよ」

 

その言葉に轟は歯噛みする。

№1をただひたすらに伸ばす何度も見た浮かれた男の姿。

態度は違えど自身の記憶を呼び戻した緑谷と同じように憧れへと昇らんとする姿。

 

──だというのに

 

「だったら何でお前はあのクソ親父とつるんでやがる……№1を諦めたあんな男と」

 

「はぇ?」

 

轟の言葉に理解が及ばず千土は間抜けな声を漏らす。

 

──つるんでいる? 俺とエンデヴァーが? 

 

生憎俺とあの人の接点などほぼ皆無だ、せいぜい昔ファンレターを送った程度でつるむ等という間柄などでは──そこまで考えてある可能性に気付く。

 

「まさかお前、控え室での話を!?」

 

「あぁ、随分仲良く話してたようだが……いつからつるんでやがった?」

 

その轟の言葉に全てが納得がいった。

本来なら俺とエンデヴァーが話してようがそんな勘違いなど起ころうはずもない。だが俺は轟に他人が知るはずのない彼の過去を知っている素振りを見せ、その上それを何故知っているのかという問いをはぐらかしてしまったこともあった。──うん、どう考えても怪しすぎるな。

おまけに何故かやたら親し気に話してきたエンデヴァー、それに心底嬉しそうに返した俺、何度も轟に向けた全力を出せという言葉。──完っ全に真っ黒じゃねぇか!? 

 

「すまん轟、あらゆる面で悪いのは俺だわ。だから頼む落ち着いて話を聞いてくれ!!」

 

「は?」

 

必死に声をかければ轟はわけがわからないといったような表情を浮かべる。

とにかくこの隙に一気にまくしたてようと判断する。

 

「まず俺とエンデヴァーは組んでなんかいねぇ、あれは突然押しかけられただけなんだ。考えてみろ、あのエンデヴァーだぞ、俺みたいな浮かれたアホ絶対嫌いなタイプだろ?」

 

「──目的のためならあいつは何だってする……気に食わねぇ奴でも利用するかもな」

 

「くそ、エンデヴァーの信用が皆無過ぎて説得に使えねぇ」

 

そりゃそうだ、でなければそもそもこんな事にもなっていないかと頭を抱える。

──仕方ない、元々話すつもりだったことを今伝えるしかないようだ。

 

 

 

 

「──"なりたい自分になっていい"」

 

「……は?」

 

不意に呟かれたその言葉に轟はその身体を固まらせる。

その言葉はずっと忘れていた、緑谷との試合で蘇り──再び忘れてしまおうと追いやった昔の記憶。

 

「何でお前が……それは……母さんの?」

 

あり得ない、その言葉はあのクソ親父さえも知らない自分と母の──戻ることない過去の言葉。

だというのに何故こいつはその言葉を──

 

「ずっと黙ってて悪かった、俺がお前の事情を知ってる理由だ」

 

「……嘘、だろ。いや、どうやって……」

 

轟は未だに信じられないのか戸惑った声をうわ言のように呟いている。

もっともそれも当然だろう、いや、むしろ自分が彼の立場だったらこの状況が理解出来ずパニックになっていたかもしれない。そう思えばやはり轟は冷静な奴なんだろうと思う。

 

「前にお前に言ったよな、俺の両親はずっと前に……死んじまって、今は知り合いに世話になってるって。その人が精神系の医師で、なんの偶然かあのヴィラン襲撃騒動で俺が運ばれた病院に丁度"その人"がいたから引き合わせてもらったんだよ」

 

「は?」

 

まったくとんだ偶然もあったもんだ、信憑性に大きく欠ける話に轟が再び固まってしまう。

だが今は試合中でその時間は今もなお進んでいってしまっている──だから止まっている時間はないんだ。

 

「勝手なことをして悪かったな、"その人"と話してお前の事を聞いた。俺がお前の事情を知っていたのはそれが理由だ」

 

決して"その人"が"誰か"は言わない、それは俺のような部外者が伝えるのではなく、轟自身が向きあわなければならない人だから。

 

「"あの人"が昔お前に言った言葉。なぁ轟、今のお前の姿が"なりたい自分"か」

 

「っ! ──黙れ……俺は母さんの力であのクソ親父を……」

 

「目ぇ逸らすな轟!! お前が見なくちゃいけねぇのはエンデヴァーじゃねぇだろ!!」

 

轟の過去を聞いて一つ思った事がある。

 

エンデヴァーの力である左の力を使わず右の力のみで戦い抜く。

その話を轟自身から聞いた時、俺自身としてはそれを尊重したいと思った。

自らの個性に苦悩する人を何人も見てきたから、自分で答えを出した轟の決意を応援をしたいと思った。

 

──しかし、彼の戦いとはヒーローとしての戦いだ。

その道を歩む以上は──尊重などできるはずがなかった。

 

「お前が抱えたものの重みを軽く見る気はねぇ。けどな轟、お前のその決意はあの人との約束を叶えやしねぇだろうが!! お前がなりたいヒーローは──」

 

「うるせぇ! お前に何が──」

 

「分かってんだよ!! 誰かを憎むヒーローじゃ人は救えねぇんだよ!!」

 

知っているんだ、強くなろうと自らを追い込み続ける姿を見せたって人は安心なんかしない、その痛々しい姿にただ心を痛めるばかりで笑ってなんかくれないのだと。

 

大勢の中の一人のヒーローになることを目指していた自分が№1ヒーローになることを決めた『あの日』から、ずっとヴィランや悪人を強く憎む自分がいるのは知っている。

けれどその憎悪を自らの核にする気はない、してはいけない──

 

「お前にとって大切なのはエンデヴァーじゃなくて"あの人"だろうが!! ──救いたい人をちゃんと見ろ!!」

 

──ヒーローは人を倒す者ではなく人を救う者なのだから

 

その言葉に轟は僅かに瞳を揺らす。

 

「そうだ、これも言っておかねぇとな。実は"あの人"からお前に伝えたい言葉があるそうだ」

 

「──っ!?」

 

「でもその内容を聞くのだけは断った。それは俺みたいな奴が伝えるわけにはいかねぇからさ……だから代わりに体育祭の話を聞いた後その精神系の医師に頼んで伝えて貰った……お前の姿を見てくれって」

 

「なっ!?」

 

「ははっ、言ったろ『俺以外にも№1を目指して立っている奴がいるはずだから、"俺達"を見ていてくれ』ってさ。さぁ轟、きっと"あの人"もテレビで見てるはずだぜ? この砂煙が晴れた時お前が見せる姿はどんな姿だ? "あの人"の為にエンデヴァーを否定する姿か? 違うよな、お前が見せなきゃいけない姿は──」

 

直後、爆発の様に弾けた"何か"が砂煙を吹き飛ばす。

それは揺らめく炎と冷気、緑谷との試合で見せた轟の本来の姿。

№1ヒーローに憧れ、母を守るという約束に応える為の……轟の全力の姿が再び君臨する。

 

『おおっと!! 地城の反撃に轟は無傷! そして緑谷との試合で見せたマジモードになってんじゃねぇか!?』

 

砂煙が晴れたことでプレゼントマイクの司会が蘇る──が、崩壊した舞台に立った2人の耳にはそれが届くことはない。

 

「──お前との戦いなら、緑谷との試合と同じようにこの力を使えるかもしれないと思って、それを伝えようとお前の控え室に行ったんだ」

 

「そりゃ何とも間が悪かったわけだ」

 

まさかそれで俺とエンデヴァーの話の場に遭遇するとは、俺と轟家の人の間に偶然が牙を剥き過ぎではないだろうか? 

 

「ってかさぁ、俺とエンデヴァーの話最後かなり不穏な感じになってたろ? 何で疑問持たなかったんだ?」

 

「悪い、途中で帰った」

 

「何だそりゃ!? ……どうせなら俺みたいな馬鹿に一本取られたエンデヴァーの顔をお前にも見せてやりたかったぜ?」

 

茶化すようなその言葉に轟はポカンと一瞬珍しい表情を浮かべると僅かにその口を吊り上げる

 

「……それは勿体ないことをしたな」

 

「まったくだ、後悔しやがれこの野郎」

 

まぁその後情けなく身体を震わせた俺がいたんだけどな。

そう考えると轟が途中で帰ってくれて良かったわ。

 

などと考えていれば轟の表情がまたいつもの仏頂面に戻る。

 

「それはそれとして地城……随分勝手してくれたな。緑谷がまともに思える程度に」

 

「さぁ仕切り直しだ轟ぃ!! お互い過去は振り返らず全力でぶつかり合おうぜ!?」

 

「──あぁ、俺もそのつもりだ」

 

やけくそ気味に叫ぶ俺に轟はどこか穏やかな声色でそう応える。

どうやら完全に吹っ切れたらしい轟はその左手をゆっくりとこちらにかざす

 

「っ!? 『地質操作・隆起』!!」

 

咄嗟に自身の前に土の壁を造れば直後に激流の様に炎が流れ込んでくる。

彼の個性の半分『凍結』の規模からして『炎』の方も桁違いとは思っていたが互いの反動を打ち消し合うことから反動への加減すら必要なくなるのだとしたら──

 

焦げ付きながらも辛うじて薄く残った壁から抜け出して目の前に立つ男の姿を見る。

 

「ハーッハッハ!! やっぱすげぇな轟!! ──さぁ挑ませてもらうぜ最強!!」

 

炎と氷を纏い構える轟へと周囲に石と砂を伴いながら千土は獰猛な笑みとともに叫ぶ。

 

自身の周囲に渦巻く大量の砂を轟へと放つ。

高速で放たれた砂の塊は紅蓮の炎に飲まれようと燃えることなく轟へと迫る──そう思い仕掛けたのだがその策は想像を越える炎の出力に容易く破られる。

 

炎の中に突っ込ませた砂は炎の波に押し流され轟に迫ることすら敵わない。

 

「無茶苦茶だなオイ……」

 

あまりの威力に千土は唖然と呟き顔を歪ませる。

 

(石は溶かされるし砂じゃ届かない……か、厳しい状況だがそろそろ轟の体温もこの炎で元に戻りかねねぇ、そうなったら『凍結』も使われる)

 

轟が遂に解禁した『炎』、確かに強力な力だが、千土にとって最も脅威なのはそれによって『凍結』が反動なく使われることだ。

先程までの『凍結』一辺倒の戦闘の影響でまだその力を使っていないがその状況もいつまで続くか──ならば多少リスクはあれど攻めるならば今しかない。

 

「これならどうだ!!」

 

地面に触れる足に力を込め自身の個性を発動する。

地面が砕け無数の瓦礫が宙に浮く。

 

「──その程度なら全部溶かせるぞ?」

 

「この程度ならな! ──結合!!」

 

どれ程の数をぶつけようと轟の炎の前には溶けて終わりなのは分かっている──ならば全ての瓦礫を一つに固めフィールドの半分を覆う規模の岩石を形成する。

 

『でっけぇ!? 切島戦で最後に見せたやつよりでけぇじゃねぇか!?』

 

『量より質か……これならいくら轟の炎でも溶かし切るのは難しい……か』

 

「これならどうだァアアッ!!」

 

頭上を覆う岩石の浮遊を解除しその極大の岩石を轟へと落下させる。

 

「……どうせならもっと大規模なものを用意してくれて良かったんだがな」

 

しかし轟は一切表情を変えずにその手を頭上にかざす。

 

「母さんが見てるんでなっ!!」

 

前に放ったものと比較にならないほどの勢いで再び放たれた紅蓮の炎が重力に従い落下する岩石に衝突し、その一点を焼き貫く。

 

舞台の大半を押し潰す程の巨大な岩石が地面に激突し大きな振動をもたらす、しかしそれに造られた1つの穴が轟を無傷で生存させる。

 

「──だがっ! もらったぁああ!!」

 

「ぐぁっ!?」

 

轟の背後の地面から叫びと共に姿を見せる。

頭上に注目させた上で背後の地面からの強襲こそが真の狙い、石の手甲を纏い硬質化した拳を轟に叩き込む。

 

「……っ!?」

 

確かな手応えを感じ更なる追撃にと轟の腹にめり込んだ拳を引き抜こうとし──その左腕を掴まれる。

 

「──相手の目を奪って背後からの不意打ち、それは爆豪との試合で見せただろ?」

 

──誘われた!? 

 

そう気付き咄嗟に右腕を動かそうとするも骨に皹が入ったその腕に激痛が走り僅かに動きが鈍る。

だがそれ以上に嫌な感覚──凍てつく冷気が轟に掴まれた左腕から伝わる。

 

「お前っ!?」

 

「あぁ、とっくに反動は収まっていた」

 

その言葉と同時に轟は"右の力"を解き放つ。

3度目の極大氷山が千土の全身を閉じ込め崩壊した舞台の中央にそびえ立つ。

 

『う、うおおおおおおおっ!! 轟の必殺技が炸裂!! 地城の奴完全に凍ちまったぞォ!?』

 

『『凍結』の個性が使えないように見せかけて速攻勝負誘い、接近してきたところに確実に決めやがった──まるでどっか誰がやりそうな手口だな』

 

今まで個性という手札でいくつもの策を弄して勝ち上がった男が逆に策に敗れる皮肉な状況に相澤はそう呟く。

個性の相性だけでなく策の勝負さえも轟に軍配があがった。

そして千土に自身を閉じ込める氷山を破る手立ては恐らくないだろう。

 

「これは……勝負アリ、かな?」

 

それは審判のミッドナイトも同じだったのだろう、瀬呂戦の時同様凍結に巻き込まれ身体が若干凍り付いたミッドナイトがそうマイクを通して声を出す。

 

「やっぱ轟滅茶苦茶強ぇええええっ!?」

 

「地城も喰らいついてけど圧勝じゃねぇか……」

 

目の前の光景にA組の生徒達も唖然とする。

爆豪と並び轟にもしかしたら勝ち得るのではないかと思えた千土でさえ轟に明確なダメージを負わせることなく氷山に閉じ込められるという結果があまりにも衝撃的であったのだ。

 

「んだよ……その程度かよっ!? クソザコ野郎がッ!!」

 

「お、落ち着けよ爆豪! いくら何でもアレは……」

 

確かに自身を負かした男がこうも容易く倒されるなど爆豪からしたら耐えられない事だろう、彼を諫める切島自身も勝つならば自身に勝利した漢であって欲しいとも思った。

だが、全力を見せた轟の強さはハッキリ言ってレベルが違い過ぎた。プロヒーローならともかくこの場にいる生徒達の中ではたして彼と勝負になる者がいるのかとさえ思えた。

 

「いや……まだだ。アイツはまだ負けていない」

 

しかし障子は舞台から目を逸らさず静かにそう告げる。

常闇も耳郎も同様に、既に決したように見せる勝負からその目を逸らさない。

 

「で、でもあの状況じゃいくら地城でも」

 

「いや、地城君なら氷山に捕まる前に地面に逃げることは出来たはずだ」

 

腕を掴まれていたがあれはあくまで手甲越し、『地質操作』で手甲を崩せば轟の拘束から逃れられたかもしれない。勿論轟もそれは分かっているから逃がさないようにしただろうが少なくともそんな理由で地城が自身が打てる手を放棄するとは思えないと緑谷は語る。

 

「地城君の考えは相変わらず読めないけど……何か狙いがあるんだよ! 逃げるよりも優先した何かが!!」

 

緑谷のその言葉にA組の全員が舞台に視線を戻す。

氷山に捕らえられて固まった千土の顔は──いつも通り笑っていた。

 

「流石にこれ以上は無理ね。勝者、とど──」

 

ミッドナイトが再びマイクにその声を通した直後、会場全体が大きく揺れる。

 

「な、何? 地震!?」

 

「──っ!? これは──地熱?」

 

突然の揺れに戸惑うミッドナイトの足元の氷が僅かに溶けかかっていることに轟は気付く。

ただ気温で溶けるには早すぎる。だとしたら地城の個性で地面の温度を変えたのかと一瞬思う。

 

しかし地城が以前に自身の個性を語った時、"地面の温度を変えられる"とは言っていなかった。

個性といえど万能ではない硬度を変えることは出来ても温度を変えることは出来ないのだろう。

 

それにそもそも地熱を操れたとしてそれが振動を起こすとは考えにくい──だが現に今その揺れに共鳴するかのように足元の氷が徐々に解け始めている。

 

「何だ……これは」

 

まるで何かに促されるかのように地面に手を添えるとその振動が直に伝わり、そこの中に何かの存在を感じる。

 

地面を鳴動させる何か、空気が入り膨張している風船に触れているような──何かが膨らんでいるかのような感覚が伝わってくる。

 

「──まさかっ!?」

 

直後、氷山のすぐ傍の地面が爆発したかのように砕け──"それ"が噴き出す。

 

 

 

煮え滾りボコボコと不穏な音を奏でる血のようにドロドロとした"赤い土"

 

 

 

「あーぁ疲れた……こいつ引っ張り上げるのは滅茶苦茶しんどいわぁ……っつぅかちょっと冷えて固まってるし、割りに合わねぇなァ」

 

熱を宿した鉱物──溶岩が氷山に触れ一部固まりながらも一気にその氷を溶かし、吹き上がる白い蒸気の中から愚痴る声が響く。

 

「まぁいいや。これでお前の『凍結』は封じたって訳だ。覚悟しろよ最強野郎!!」

 

「隕石の次はマグマか、俺よりお前の方がよっぽど無茶苦茶だぞ地城」

 

石や砂に混じり自身の周囲に溶岩さえも浮遊させる地城の姿に轟はまた僅かに口角を吊り上げる。

 

自らの全力を開放し炎と氷を纏った轟

自らの奥の手を晒し砂と石、そして溶岩を追従させる千土。

自身の目指す最高のヒーローへ近づく為優勝を果たさんとする両者は互いに笑みを浮かべ──激突する。

 

 

 




火がマグマに勝てる訳ねぇだろ!

などと冗談はともかく、緑谷との試合を経て轟がどのような状況なら決勝の舞台でも全力を使えるのか考えた結果やはり母の力をお借りすることとなりました。
母との面会前に轟が再び左の力を使うことに違和感を受けた方、大変申し訳ございません。
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