地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第24話 決着・そして閉幕の時

炎と溶岩のせめぎ合いがもたらす爆風に観客の皆が目を細める。

爆風に乗る高熱に肌を焼かれる感覚を受け、中心となっている2人へ視線を向ける。

 

「なんつぅ火力だよ……2人は無事なのかよ」

 

「あっ! あそこに!!」

 

立ち上がる爆炎と煙が晴れ、一人の人影が映る。

一体どちらだと目を凝らす。

 

「ど、どっちだ!?」

 

「あのクソ馬鹿野郎が、氷も使えるハーフ野郎に熱の勝負しても勝てる訳ねぇだろうが」

 

浮かぶシルエットに目を凝らす切島だったが隣に座った爆豪が舌打ちを響かせながら発した言葉に息を飲む。

 

全力の撃ち合いに肩を上下し顔に疲労を浮かべた、しかし身体に氷を纏い爆炎を耐え抜いたその者は──

 

「轟君だ!! 炎を放つと同時に氷を自分に当てて凌いだんだ!!」

 

「地城の奴は──また地面か!?」

 

何度も見せた彼の手口、しかし地面さえも吹き飛ばす衝撃にそれも叶ったかどうか──。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「──っ来るか……地城……」

 

業火を放つと同時に自身に氷を纏うことで爆炎を耐え抜いた轟は肩を上下させながらも視線を足元へと向ける。

 

アイツならばこの攻撃を耐え抜いてこちらが勝利を確信した瞬間を狙ってくるはず、その確信が轟の気を一切緩めない。

 

疲労した身体に喝を入れ自身の周囲の足元に薄く氷を張る。

これで彼が地面から襲う瞬間氷が割れ、その音が彼の位置を示す、そこに最後の一撃を叩き込まんと左腕に力を溜め──自身の目の前で揺らめく影に目を見開く。

 

「ヒーローのカッコいいとこはさ……真っ向から逆境を覆すとこだ!!」

 

「──っ!?」

 

──あり得ない、あの爆炎の中、例え石や砂で身を固めようとその中を突っ切って真っ向から自分の下へ辿り着くなど不可能だ。

 

完全に意表を突かれ咄嗟に左腕を前に伸ばそうとするも僅かにそれは間に合わず叫びと共に放たれた岩石を纏った拳が轟の顎を捉える。

決定的な一撃に薄れゆく意識を繋ぎ留め揺らぐ視界で轟はその姿を見つめる

 

焼き焦げた石と砂のつぎはぎの鎧で全身を覆ったその姿──やがてその鎧は焦げ落ち崩れる。

その中には──熱で溶けた"氷"とそれに濡れた地城の姿。

 

いい加減彼の型破りな思考に慣れてきたと思った轟はその光景に苦笑する。

あの氷は彼を一度捕らえ、溶岩に一部溶かされた氷山の残り。

自分が炎を放つと同時に氷で身を包んだように地城も溶岩を放つと同時に石と砂で氷山を砕きそれを混ぜて鎧としたのだと確信する。

 

力を失った身体が最後に凍らせた地面に背を付ける。

随分と熱くなった身体が冷やされ緊張が解ける。

 

「──人の個性をいいように使いやがって……どこが真っ向からだ」

 

「うるせぇ足元ばっか警戒しやがって、俺はそんなに姑息なイメージかこの野郎」

 

『決着!! ──雄英体育祭決勝戦……勝者は……地城 千土!!』

 

既にどちらも力尽き、それでも言葉だけで争う小さな声が簡単に聞こえる程、まるで時が止まったかのように静まり返った会場に決着を告げる声が響く。

僅かに遅れて会場を埋め尽くす歓声が響き渡る。

 

自身に向かう笑顔と称える拍手、歓声。

それら全てに実感が湧かず僅かに放心する千土だったがその視界に耳郎や障子、常闇らクラスメイト達の姿、一般客の纏まりに混じった旧友達、席に着かず客席の奥の通路に立って視線を送ってくる心奈の姿、それがじわじわと心を満たしていく。

 

「~~~~っ」

 

溢れだしそうになる歓喜の叫びを喉で抑える。

開会式からここまで、今更体裁を取り繕っても仕方ないのかもしれないが──せめて最後だけは神聖な場を穢すまいとそれを堪える。

 

そんな考えが透けて見えたのだろう、ミッドナイトが呆れたような笑顔で肩に手を置いてくる。

 

「まったく、ここはむしろ心の底から叫ぶとこよ? 肝心なところでノリが悪いとこっちが戸惑うじゃない」

 

「じゃ、改めて叫んでいいっすか?」

 

「残・念、時間切れよ。最後の表彰式が残っているもの」

 

慣れないことはするものではないということか、やっと手が届いた直後にこの扱い。何だか締まらない姿を晒して申し訳なくなってしまう。──視界の端で腹を抱えて笑う旧友が目に入り後で呼び出そうと決心しつつもミッドナイトの言葉に従い、一度退場することにするのだった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

打ちあがる花火と観客席からの歓声が響く中。参加生徒の全員が表彰台の前に整列する

1から3の数字の記された表彰台

 

最終競技まで戦い抜き、その中でも優れた結果を残した者が立つ栄光の座。

当然全ての注目がそれに集まる──ただし1位ではなく3位に

 

「爆豪~いい加減落ち着いてくれ~」

 

添え付けられた柱に身体を縛られ腕と口に拘束具を掛けられた爆豪に千土は小声で声をかける。

もっとも自身より高い位置からかけられたその声は火に油でしかなく爆豪の呻きがより一層増す。

 

3位という決して低くない、むしろ誇れる順位、しかし爆豪にとってはそんなものに価値はなくむしろ1番に届かなかった屈辱を突き付けるものでしかなかった。

加えて彼と同じ順位である飯田が何かあったらしく帰宅してしまったことで爆豪の不満がより爆発、『俺もいるか』と叫び帰ろうとしたところを先生方に確保されご覧の通りである。

そりゃ飯田と違って正当な理由もなく帰ろうとすればそうなるだろうと千土は呆れる。

 

自身の隣から漂う不穏な空気に居心地が悪く、かと言って宥めることも出来ず千土はお手上げと目を閉じるとこちらの気持ちが通じたのかただの偶然か司会であるミッドナイトの声が響く。

 

 

「メダル授与!! ──贈呈を行うは勿論この人よ!!」

 

「私が!! メダルを持って──」

 

「我らがヒーロー!! オールマイト!!」

 

お決まりの口上を改変しつつ颯爽と登場したオールマイト、しかしその口上は悲しいことにミッドナイトの進行と重なって微妙な空気になる。

いや、打ち合わせしといてくれよ……

 

何とも言葉に困る状況の中オールマイトからのメダル授与が始まる。

当然、最初にして最大の難関──3位の爆豪からだ。

 

「3位おめでとう爆豪少年──おっとこれは流石にあんまりだな」

 

銅メダルを授与する前にオールマイトは爆豪に口に掛けられた拘束を外す。

それはつまり爆豪を怒りの感情を解き放つのと同義であった

 

「ゥオールマイトォォォッ!! 1位以外に価値なんかねぇ!! こんなメダル俺はいらねぇんだよォォッ!!」

 

「あー」

 

怒りに染まった悪魔の如き形相。

仮にも栄えある表彰台に立った人物のこの発言、ここに立つことが叶わなかった者達の前でどうしたものかとオールマイトも困った表情を浮かべる──しかしすぐに笑顔を浮かべる、それはいつも見せる快活としたものではなくどこか寂し気なものだった。

 

「爆豪少年。これは本来この様な場で言うべき言葉ではないが、いつか君達全員に伝えねばならないことだ……爆豪少年以外の皆もどうか受け止めて欲しい」

 

優しく爆豪の頭に手を添えながらオールマイトは整列する生徒達に視線を向ける。

 

「ヒーローとは人を救う者だ、君達の中には──そうだな例えばある災害の中救助を行う私を映像で見た者はいるだろうか?」

 

その言葉に緑谷や他の生徒達も数多く肩を僅かに動かす。

 

「あの災害だけではない、私はヒーローとして多くの命を救うべく活動してきた。時に些細な事件から、時にヴィランとの戦いであってもだ。その中には命を救えても心に深く傷を残してしまう事件もあった」

 

仮に災害から命は救えども彼らが暮らした家、愛着を持った品、あらゆる物は壊れてしまった。

それはヴィランとの戦いも同じ、事件を聞いて駆け付けた時には既に取り返しの付かない状況ということもあった。

 

「それでも人を救い続ければ感謝される、より良い形で救うことが出来たかもしれないという思いを抱きながらも称えられる──それはある意味とても歯痒く辛いものだ」

 

オールマイトのその言葉に顔色を悪くするヒーロー達の姿が目に入る。

それはそうだ、恐らくこの言葉はテレビで放送される場で№1ヒーローであるオールマイトが言ってはいけないことだと子供の身であっても理解できてしまう。

 

それでもオールマイトは言葉を止めはしない、何故ならこの話はこの先こそ意味があるのだから。

 

「──だからこそ、その称える声にヒーローは感謝しなくてはならない。例え歯痒い形であっても認めてくれる人には胸を張って笑顔で返すんだ。彼らのその感謝に応えようと次へと成長する大きな力になるのだからね」

 

感謝されたからこそ、それに応える。

認めて貰えたからこそ、それを裏切らない自分になろうとより強くなる。

自らの内により良い形があると思ったのなら次こそそれを成せるようになろうと己に誓える。

 

「この銅メダルはそれと同じだ。より高みを掴める自分になる為の証、そして今はまだ未熟な君をそれでも称える栄誉の証。どちらもこれからの君を大きく成長させる力になるはずだ」

 

そう言ってオールマイトは爆豪の首にメダルをかけようとして──がっつり柱に固定され通らないことに目を左右させた結果爆豪の口に咥えさせる。

 

パチッ、パチッと静まった会場に小さく拍手の音が響く。

ヒーローの重圧とも言えるオールマイトの話の内容に皆が戸惑っているのが分かる──が、オールマイトは決して皆にその重圧を抱えさせる目的でこの話をしたわけではないということも理解する。

だからこそ千土はオールマイトの言葉を受けた上で銅メダルを獲得した爆豪へ拍手する。

 

やがてその拍手な会場中の皆へ伝わり一人、また一人と拍手の音が広がっていく。

もっとも、当の本人たる爆豪からは高い位置からの拍手に殺気にまみれた視線を送られるが……

とはいえ彼もオールマイトの言葉をしっかり受け取ったのだろう、その口だけは決して開かずメダルを落とすことはなかった。

 

それに安心したようにオールマイトは満足気に頷くとゆっくりと轟の前に移動する。

 

「準優勝おめでとう轟少年。素晴らしい戦いぶりだった! ──決勝の序盤はいただけなかったがね。今まで授業でも使ってなかった左側を今回の試合で見せたのには何か理由があるのかい?」

 

「緑谷のおかげと──地城のせいです」

 

「えぇ……」

 

あんまりな扱いの差につい声が漏れる。

いや、そりゃ真っ直ぐな言葉でぶつかった緑谷に比べて勝手に外堀に根回しして土壇場で明かした俺では印象が違い過ぎるのは仕方ないが露骨すぎではないだろうか……。

 

「貴方の様なヒーローになりたい、緑谷は俺にそれを思い出させてくれました。清算するべきことはまだあるけど……地城はその覚悟を示す場をくれました、俺が本当に見なくちゃいけないもの……まずは、向き合おうと思います」

 

「うん、……良い顔だ。深くは聞くまい、君ならきっと向き合えるだろうからね──頑張りたまえ」

 

ゆっくりと首に銀に輝くメダルを通すとオールマイトはその大きな手で優しくその背中を叩く。

 

──そしてとうとう残すは一人。

 

「地城少年!」

 

「うっす──はい!!」

 

つい砕けた口調で返事が出てしまい慌ててやり直すと金のメダルを持ったオールマイトと向き合う。

目の前の№1は満面の笑顔を浮かべる。

 

「まずは優勝、そして有言実行おめでとう!! 君の覚悟と行動はこの会場の皆の胸を打つ素晴らしいものだった!! ──型破り過ぎるところはちょっと控えめにした方が良いとも思ったけどね」

 

「はは、反省します」

 

さて、一体どの事を言っているのか、心当たりが多過ぎて困るが流石にこの場で聞けはしない。

そんないつもの浮かれた思考をしているとオールマイトが再び言葉を紡ぐ。

 

「……本当にここまで良く頑張った。君は恐らくこのメダルでも満足しないだろう、けれどもせめて今日だけは噛み締めたまえ!! 君のこれまで培った努力こそがこのメダルなのだから──そして明日から!!」

 

「はい! 更なる高みを──貴方を越えるヒーローになることを目指して新たな道を歩いていきます!! 一歩一歩、地に足のつけて歩き続けます!!」

 

「うむ!! 優勝おめでとう!!」

 

ゆっくりと首に金のメダルがかけられる。

けっして大きくはない、けれど金属特有の──そしてそれ以上の"何か"の確かな重みを感じる。

 

それと同時に会場中からの拍手が響き渡る。

長く、長く続く祝福がやがてやむとオールマイトは皆へ最後の宣言をする。

 

「今回の勝者は彼らだった! しかしこの場の誰もがここに立つ可能性はあった!! 競い、高め合い、更にその先へと登って行くその姿!! 次代のヒーロー達は皆確実にその芽を伸ばしている!!」

 

選手全員を労い、更なる努力を促すオールマイトのその言葉。

今大会の様々な出来事を追想させながらもその言葉は締めに向かう。

 

「という訳で最後に一言!! 皆さんご唱和下さい!! ──せーの!!」

 

『Plus_Ult──』

 

「お疲れ様でしたぁ!!!」

 

『ええぇぇぇぇッ!?』

 

あれほど更なる成長を促しておいて何故ここで外すのか……

皆が校訓を叫ぶ中よりにもよって一人ずらした本人へ全員が視線を向ける。

 

「え? い、いや……さすがに皆疲れたかなって……HA、HAHAHAHA」

 

何とも締まらない、しかしそれがどこか安心する。

№1ヒーロー、オールマイトらしい皆を笑顔にする、そんな終わり方で締めくくる。

 

雄英体育祭──閉会。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「あんの阿呆ども……とっとと帰りやがって……」

 

体育祭終了を迎え一度クラスに戻ると相澤先生から2日の休みを頂きさっさと下校。

とりあえず決勝戦に勝った直後のやり取りで笑ってやがった旧友どもを呼びつければ俺がメダル貰った辺りで帰ったとの返信。

──いやオールマイトの言葉ぐらい聞いて行きやがれあのインドア共が

 

おまけにきっちり空姉さんには俺が優勝したとの連絡はしたらしく、家で待っている姉さんから『おめでとう』との通知が届いている。

折角なので焦らしに焦らしてから報告してやろうと──今にして思えば何とも子供らしい考えが阻止されつまらないと思ってしまう。

 

とはいえ、いつまでも優勝に浸ってもいられずとりあえず帰宅して飯の支度をせねばと少し足を速める。

 

「──ん?」

 

学校と自宅の丁度間ぐらい、何気なくいつも歩いている道に変化がある。

大きな袋か何か──最初にそう思い見てみれば地面に横たわった人が2人──

 

「っ!? 大丈夫か!?」

 

酔いつぶれならまだ良い。

まさかヴィラン絡みかと駆け寄れば目立った外傷はなく顔色も悪くない……気を失っているだけと安堵し──彼らの口から吐き出されたヘドロのような何かに身体を囚われる。

 

「──っ!?」

 

異臭を放つ謎の物体に全身が包まれ視界が暗転する。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

やがて黒の視界が開けるとに目に映ったのは薄暗いどこかの部屋。

ただの道路を歩いているはずが一瞬にして違う場所にいることに戸惑いつつも思考を巡らせる。

 

「『ワープ』の個性……あのモヤの野郎……とは違うようだが……」

 

「──おや、この状況でも冷静とは、流石は雄英体育祭優勝者と言ったところかな?」

 

聞いたことのない男の声が背後からし、咄嗟に振り返る。

 

口から喉へ管を巡らせた黒いスーツの男、どういう訳かいまいち顔の全体像がはっきり見えないが──その姿はどうにも怪しく映り、全身の細胞が警戒しているのを感じる。

いや警戒などという甘い話ではない──今すぐここから逃げろと叫んでいる。

目の前の男と視線を交わすな、声を聞くな、個性使用禁止のルールを破り床でも壁でも壊して逃げろと身体を震わせている。

 

 

 

 

「そうだね、まずは──優勝おめでとう。地城 千土君」

 

 

 

 

 

どうやら──今日という日を終えるにはまだ早かったようだ。

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