地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第25話 長い長い一日の終わり

突如招かれた謎の部屋、目の前に座す謎の人物が発する息が詰まるような重圧。

それらを飲み込んで僅かに前に足を進める。

あくまで自分の直感でしかないが自分と共にここにワープした2人の人物──そういう個性なのだろう、気を失い投げ出された掌から泡を垂らす女性と蟹の様な鋏の手をした異形型の男性──状況からして彼らは目の前の男の仲間ではないと判断し彼らの前に立つ。

 

「──アンタが何者かは知らねぇけど一応警告な。個性の無断使用及び誘拐は立派な犯罪だ、今なら黙っててやれる、この人達を開放してくれないか?」

 

「フフッまずは自分の後ろの人達を……か、君の心性は既にヒーローそのものだね」

 

恐らく横たわる人達を抱えてこの男から逃げることは叶わないと意を決し謎の男と向き合えばどうにも楽しそうな反応が返ってくる。

 

「そう心配しなくて良いよ、彼らには少し協力してほしいことがあるだけ……命を奪うようなことはしないさ──そんなことをしたら君はきっと話を聞いてくれないからね」

 

「──俺に話? 雄英体育祭優勝者のサインなら安いもんだぜ? ヒーローデビューした時に備えて自信のあるやつ考えてあるからな」

 

「はっはっは! 君は本当に愉快な子だね。まったく──あんな凄惨な事件を経験して、よくそんな明るく育ったものだ」

 

男の言葉に全身から毛が逆立つのを感じる。

 

「お前、何で!? あれは──」

 

「その場にいた君とオールマイト……後に君の保護者となる安藤 心奈と極一部のヒーロー達そしてあと一人の少女以外真相を知らず、謎のヴィランの暴走として処理された事件」

 

「──っ!?」

 

「フフッ、あぁそうだ肝心の事を聞くのを忘れていたよ。"虚峰 空"君は──元気にしているかい?」

 

プツリ──と自分の中で何かが弾けた。

石造りの床に触れる両足に力を加え──個性を発動する。

 

自分と男の間の地面を隆起、先端を槍の如く尖らせ男の喉元へ走らせる。

 

「おっと、あまり暴れるのは止めて欲しいな」

 

男の個性なのか、見えない力に土塊の槍は容易く砕かれる。

 

「体育祭での連戦の後だ、君の身体は既に限界だ……あまり無理をしてはいけないよ」

 

「チッ……。一体俺に何の用だってんだ!? あの事件の事をどこまで調べやがった!?」

 

男の言う通り、既に個性を発動する体力などほとんどない。

これ以上の抵抗を不可能──ならば今は時間を稼ぐしかないと結論付ける

 

「君への用は極めてシンプルなものさ、だからもう一つの質問から先に答えよう。──全てさ」

 

「──っ」

 

「そう、君が姉と呼ぶ少女。虚峰 空君の個性──『空想』の暴走で君の両親が死したあの悲劇」

 

「うるせぇ──余計な事まで言ってんじゃねぇよ」

 

「おっと、これはすまない。少し無神経が過ぎたようだ」

 

まるで反省を感じられない、明らかにこちらの神経を逆撫でする男の口振りに怒りが湧くがそんなものでこの状況を覆らないことは既に理解してしまった為腹の内に留める。

 

「僕の独自の情報網をもってしても彼女の個性を知ったのは偶然さ。興味を抱いて調べてみればヒーロー達が詳細を揉み消したのも当然だろう」

 

男は興奮したのかあるいは好きな話題に心を弾ませているのか、僅かに声に勢いがついた。

 

「個性『空想』! その名の通り自身の空想を現実にする能力──、巨万の富や理想の思い人、そして最強の力、それらを現実にする誰もが一度は夢見る魔法こそが彼女の個性だ」

 

「んな都合の良いもんかよ! そんな夢はただの願望だ。雑念が混じった想いなんてもんは『空想』なんて言えねぇんだよ」

 

「そうだね、だから彼女の個性は危険なんだよね。雑念が混じらない想い──そんなものに該当するものは──"恐怖"ぐらいだからね」

 

男の言葉に無意識に舌打ちすると男も僅かに跳ね上げていた声を落とし囁くように言葉を紡ぐ。

 

「あの事件もそうだったね──確か小さなヒーロー事務所のサイドキックを務めていた君の父に逆恨みしたヴィランが襲い掛かり──その場にいた幼い空君は初めて見るヴィランが──命を奪おうとする剥き出しの悪意がまるで怪物のように思えて──」

 

「余計な事まで言うなってのが分からねぇのか、クソ野郎ッ!!」

 

相変わらずこちらの神経を逆撫でする男に怒気を宿した声を向ければ男はやはりこちらを嘲るように肩を震わせる。

それが心底腹立たしく睨んでいると男もやがて肩を僅かに落とした。

 

「僕としても残念だったよ、この身体を治せるやもと思い心の底から欲しいと思ったんだが──それ以上にリスクが多くて接触を断念したんだよ」

 

そう語る男の身体には管が伸びている事からして何かしら不調があるのだろう。

身体を治すといえば自分が知る中ではリカバリーガールの個性ぐらいだが彼女の個性にも限度がある。

しかし『空想』の個性を上手く使うことが出来れば身体の回復──再生さえも可能だろう。もっともそれは正しく先程言った『願望』の領域だろうが。

 

「──つまりなんだ、アンタは医者探ししてるのか? なら俺を呼んだってどうしようもねぇぞ」

 

「いいや、この身体のことはもう良いんだ。君を呼んだのはあるものを見せたいからさ」

 

「……あるもの?」

 

オウム返しに聞き返す俺を嘲るように男は肩を揺らして──一瞬にして俺の背後に回った。

 

「なっ!?」

 

「これは君に対する僕なりのプロモーションさ……さぁ良く見ていてくれ」

 

「待っ──」

 

男の動きを止めようと飛び掛かるより早く男は床に伏した2人の人物へとその手を伸ばす。

 

殺す気か──そう思い歯を噛み締めるが……目に飛び込んできた光景はそれ以上に目を疑うものだった。

 

「……嘘……だろ」

 

ありえない、そんな事が出来るはずがないと身体を震わせる。

しかし、自らの目そのものが現実を突きつける。

男が触れた彼らの身体から──個性が消えた。

 

掌から泡を出していた女性から泡が消え、両腕が蟹の鋏の異形型の男性はその両腕を一般的な人の腕へと変化させていた。

個性の消失──目の前の光景はそれを意味していた。

 

「──これが、僕の個性さ」

 

「個性の……消滅」

 

「君の事だ、この力を目の当たりにして……ある事を考えているんじゃないかな?」

 

完全に思考に埋没していた脳がその言葉にハッと再起動する。

 

「──アンタがやったのは個性を人に使用するという立派な犯罪だ」

 

「違うだろう? 君が考えていたのはそんな事じゃない……この力があれば──」

 

やめろ。

頼むから何も言わないでくれよ。

 

いくら何でも酷い話じゃないか。

ずっと……ずっとずっとずっと望んでいた存在がこんな妖しい──悪魔のような男だったなんて冗談でもやめてくれ。

 

「──君の姉を……今なお己の個性に縛られた少女、虚峰 空君を救えるのではないか? 君が考えているのはそれ一つだろう?」

 

「っ!?」

 

「君はあの時恐怖が生み出す悪夢を知り──二度とそれを繰り返さないように皆を安心させる最高のヒーローになろうと決意した! いや、それ以外の道がなかった! しかしそれは根本的な解決ではない!」

 

男はゆっくりとこちらに手を差し伸ばして──続けた。

 

 

 

 

 

「僕と共に来ないかい? 僕ならば君を救える──僕は……君のヒーローになれる!!」

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

すっかり夜になった元の路上に気を失ったままの2人の被害者達と共に投げ出された。

 

何分、あるいは何時間だろうか、いつまで経っても手を握らず……けれども振り払うこともしない俺に男はしかるべき時にまた招くと言って彼らと共に解放した。

 

──もしもあの子を救いたいのであれば僕の事は誰にも言わないことだ……ただそう言い残して

 

目の前に横たわる女性の掌からは再び泡が漏れ出し、男性の両腕も蟹の鋏へと元通りになっていた。

──つまり事の真相を知るのは自分一人と言うことだろう。

 

心にポッカリと穴が開いたような、地に足が触れていない浮遊感に飲まれながら制服のポケットから携帯電話を取り出し特定の番号を入力する。

 

「もしもし、救急をお願いします。路上に男性一人、女性一人が倒れています。──外傷は……ありません。場所は──」

 

電話の先から聞き返される質問に一つ一つ答えていく。

 

 

 

 

「原因は──わかりません」

 

ただ最後の質問にだけは──嘘をついて──

 

 

 

▼▼▼

 

 

駆け付けた救急車に男性らを任せ自宅への帰宅を果たす。

通常の鍵に加えて一般的な一軒家とは不釣り合いな顔認証の施錠を解いて玄関ドアを開く。

 

「ただ──」

 

「おっ疲れ──っ!! 優勝おめでとう千土!」

 

リビングからバタバタと足音を響かせながらいつになく元気な声で同居人が飛び出してくる。

 

「ただいま空姉さん、遅くなって悪かったな。すぐに飯の用意するわ」

 

「あぁそれは良いよ、心奈さんが色々買ってきてくれたから! 今日はご馳走だよ」

 

「マジか、そりゃ頑張ったかいがあった」

 

「うんうん、早くおいで──もう始めちゃってるから」

 

「ふざけんな、何で主役の俺待たずに始めてんの?」

 

気にしない気にしないと笑って肩を叩いて来る姉につくづく呆れる。

何で俺の周りの連中にはまともな神経の奴がいないんだ、雄英のクラスメイト達の姿が恋しくなってくる。

 

「──で、何かあったの千土? 顔、すっごく悲しそうだよ?」

 

「別に、帰りを待ってくれない姉上様に弟は傷心しただけだよ」

 

「ふぅん……まぁ今はそういうことにしておくよ。落ち着いたら話してね」

 

そう言ってカバンをひったくってリビングへと帰っていく姉の背中をぼんやりと眺める。

 

「……ろくに人付き合いない癖に……何で分かっちまうのかね? あの人は……」

 

だからこそ割り切れない、きっとあの人に話せば絶対に拒絶するだろう。

けれど、──本当の意味で彼女を彼女の個性から救うにはあの男の力に縋るしかないのだろう。

 

再び陰り出した思考を振り払う。

きっとこんな様子ではまたすぐに見透かされる。

 

だから──笑うんだ。

ヒーローは──皆を安心させる為に……笑うんだ

 

 

 

 

 

血の繋がりのない姉と母との優勝祝いの夕食は心の底から笑い合い。

長い長い宴の様に楽しいものだった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

祝いのケーキを食べ終え、自室に戻った千土は制服から着替えたズボンのポケットから携帯電話を取り出すと入学後の3日間の間に集めたクラスメイトの連絡先から一人の名前をタップしその人物へ電話を掛ける。

 

数秒コール音が続き、それでも電話の相手からの応答がない。

更に数秒経過し都合が悪いのかと呼び出しを切ろうとした時ようやく応答が入った。

 

「悪い、病院にいて音切ってた。何だ?」

 

「は!? 病院!? まさかお前もう行ってんのか!?」

 

「言ったろ──まずは向き合うって」

 

確かに言ってはいたが……流石に即日行動とは思わなかった。

 

「わ、悪い轟、もしかして邪魔したか?」

 

もしや今も話し合いの途中だったのではと非常に焦る。

 

「気にすんな、もう話は一段落着いた。──それで何の用だ?」

 

「そ、そっか、なら良かった。なぁ轟、明日休みな訳だが少し時間空いてるか?」

 

「病院に行く以外特にないが?」

 

「空いてねぇじゃねぇか!! 頼みにくい言い方すんなよ!!」

 

少なくとも明日も会える関係になれているようで何よりだがそう言われると時間をとってもらうのがあまりに申し訳なくなってくる。

 

「別に一日中いるつもりはねぇよ、で、どういう要件でだ?」

 

「あぁうん、まぁ大したことじゃないんだが──少し思い出話に付き合ってほしい? ってな感じ」

 

「は? 何だ急に?」

 

流石に突然過ぎる頼みに轟の方も戸惑ったようだ。

まぁそれもそうだろう、なにせ自分自身何故こんな事をしているのか良く分かっていないのだから。

──敢えていうなら……含話達に言われたことやあの男と出会ったことで古い記憶が蘇るのが止められず、誰かに聞いて欲しくなったのだろう

 

「──すまん轟、まぁ色々あってな。前に俺の事情を少し話したの覚えてるか?」

 

「初会話で飯たかってきた奴の話を忘れると思うか?」

 

「うん、ごめん。──まぁその事知ってんのお前だけだし消去法でお前かなって。あと勝手にお前の事聞いちまったからさ、おあいこって言う気はないがせめて俺の方も話とこうかなって思ってな」

 

「──分かった。場所はそっちが適当に決めてくれ」

 

「あぁ、ありがとな。じゃあ切るわ、悪かったな」

 

未だ少し戸惑っているようだったがそれでも了承してくれた轟に礼ともう一度だけ謝罪をして通話を切ろうとして──耳から僅かに離した携帯から轟の待ったの声が聞こえた。

 

「母さんがお前と話したいそうだ──聞いてくれないか?」

 

「……あぁ、勿論構わないぜ?」

 

轟と換わった電話の相手の声に耳を傾ける。

 

女性の声、涙と……喜びが混じった女性の声。

やっとあの子に謝ることができたと──何度も何度もお礼を言ってくる。

 

 

今日は酷い一日だった。

 

轟の挑発に触発されてプロヒーローが見守る中黒歴史を更新するわ

緑谷に至近距離に地雷起爆させられるわ

騎馬戦で作戦大成功と思ったら爆豪に阻止されるわ

謎にエンデヴァーが絡んできて轟から殺されるんじゃないかと思うほど殺気向けられるわ

 

 

優勝果たして大団円──と思ったら……いや、それを思い出すのはいいか……

 

 

とにかく酷い一日だった。

──それでも……電話の先の女性とその隣にいる一人の友人を救えたのなら……

今日はとても良い一日だったのだろう。

 

 

 

 

やがて通話も終わり、その携帯をベットへ投げ捨てるとそれに続いて自分の身体も投げ出す。

身体も精神も──今日はあまりに疲れ果てた。

重い瞼はすぐに視界を塞ぎ誘われるまま微睡みの中へ沈むのだった。

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