地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第28話 職場体験に備えて

体育祭後の休暇が明けた最初の登校日の朝、既に大半の生徒達がクラスに集まっていた。――やたら疲れ切った面持ちで。

 

「めっちゃ声かけられたよ」

 

「考えてみりゃ全国中継だもんな」

 

「近所の小学生からめっちゃドンマイって言われた」

 

「……ドンマイ…」

 

大活躍を示した者、瀬呂のように残念なところが目立ってしまった者、注目された場面は各々だが皆が視線を集めていたのだった。

 

とはいえ、祭りは既に過ぎたもの。

今からは再びヒーローとなるべく本来の授業という日常が再び始まる。

時計の針がそろそろ担任の相澤先生がやってくる時間だといち早く気付いた飯田がどこか普段とは違う様子で、しかしいつも通りに全員に席に着く様に促すとそれから大差ない頃合いで相澤が姿を見せる。

 

「全員集まっているな、HRを始め――」

 

「よぉっしゃっ!!まだ始まってないな!セーフ!!」

 

「……」

 

いつも通り平坦な相澤の声を遮ってドタドタと騒々しい足音と共に"いつものバカ"が駆け込んできた。

 

ここまで全力で走って来たのだろう、肩を疲労で上下させ――しかし首の皮は繋がったと笑みを浮かべ「先生おはようございます!」等とほざきながら自分の席へ向かう千土を相澤はいつもの捕縛布で締め上げる。

 

「お前は俺に同じことを言わせる気か?初日の反省を喉元過ぎて忘れたのなら除籍の話ももう一度してやろうか?」

 

「待って下さい待って下さい待って下さい!!これには深い理由があるんです!!」

 

初日のやらかし以降遅刻は2度とすまいと気をつけていた千土は今朝も余裕を持って家を出た。

しかし学校に近づくに連れて増えていく注目の視線や実際に声をかけてくる人達に囲まれ一人一人に対応しながら何とか駆け込んだ次第ですと必死に熱弁する。

 

「確かに今日は俺達も良く声をかけられたし一位の地城はそりゃ俺達以上に注目されただろうけどよォ。遅刻になりそうと思ったら多少強引にでも切り抜けろよ」

 

現に地城以外は皆相澤先生が来る前に集合していたのだ。確かに一番注目されているのかも知れないがそれを理由に遅刻を正当化するのは如何なものかと砂藤は最もな苦言を呈すると千土も気まずそうに唸って首だけ彼の方へと向ける。

 

「いやそりゃその通りなんだけどさ、俺最終種目でも試合開始前にあっちこっちに手ぇ振ってたじゃん?体育祭が終わって声援がなくなったらすぐ愛想無くすのってイメージ悪くないか?」

 

「あー」

 

要は千土の言い分はそういう事だ。

応援してもらっている時にあちこちに応え過ぎた結果、それを見て集まった視線にも無下に出来なくなったというある種の自業自得だが、そうしなければそれこそ雄英生のイメージにも差し掛かりかねない大事でもあった。

 

「メディアなんぞ相手にしてたら切りがなくなる、必要以上の注目はヒーロー活動に差し障るんだと理解しておけ…今後は気をつけろ」

 

「…はい」

 

こういう理由が相澤先生のメディア嫌いの理由の1つなのだろうと皆理解し、千土以外にも皆心に刻む。

事実USJの一件と違い、本当の意味で示した自分達の活躍に集まった視線に少なからず浮かれていたのも事実だったと改めて気を引き締める。

 

相澤としても注目を集めることが目的の1つであった体育祭の結果としての今回の件は副作用的なものとこれ以上の問答は切り捨てる。

 

そもそも今年は例年以上の注目の中の開催だった為こうなる可能性はある程度考慮していた。

それにこの手の注目は所詮一時的なもの、長続きしない要件にこれ以上時間を使うのも馬鹿馬鹿しいという理由で話を進めることにする。

 

――そう、生徒達には今日、そんなものより重要なものがあるのだから。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「という訳で皆――自分のコードネーム、すなわちヒーロー名を決めてもらう」

 

『夢膨らむやつきたぁぁぁっ!!』

 

特殊な授業という前置きの上で始まったこの授業、皆思わずテンションが上がってしまう。

もっとも今は授業中、即座に相澤先生から注意を頂き鎮圧。静寂の中今回のヒーロー名考案がどういうものかの説明が始まる。

 

簡単に言ってしまえば数日後に控えた『職場体験』の為のものであるという。

雄英高校での、ヒーロー名を考えた上での『職場体験』がどういうものか、当然一般のそれとは異なる。

 

体育祭での活躍を見てプロのヒーロー達から指名を受けて彼らの元で働く機会を得られるというとても貴重なもの。

 

「と言っても指名が本格化するのは2・3年からだ。1年は大体将来性への"興味"が大半…あんまり情けない姿を見せれば一方的にキャンセルされるぞ」

 

期待があればその影には失望が付いて回る、これから始まる『職場体験』への緊張に皆息を飲む。

 

「ま、それはそれとして肝心の指名数だが」

 

相澤先生が指差す黒板に示されたのはグラフと数字、それは正しく自分達に寄せられた指名の数。

千土はその中から一番上に書かれた自分の名前を真っ先に見つける。

 

地城 千土:4528

2番目と3番目に指名数が多い轟、爆豪も4桁に至っているが4番目に指名数が多い常闇が360な辺り目に見えて偏っている。

 

「例年はもっとバラけるんだがな…今年は一部の奴等に票が偏った」

 

「まぁ、ある意味納得だよな~」

 

「地城はもちろん、轟も爆豪も観客席からすっげぇ注目されてたもんな~」

 

相澤の言葉に上鳴は頭の後ろで手を組ながら苦笑まじりに呟き切島も当時の光景を思い出しながらそう言う――が少し離れた席から舌打ちの音が聞こえ視線を向ければやはりというべきか不機嫌そうな爆豪の顔が目に入った。

 

2番目に多く指名を貰った轟が4400を越え千土と大差ないのに対して自分は2000代止まりなのが明確な差だと言われてるようで気にくわないのだろう。

 

「決勝での地城と轟の戦いが特に注目を集めた結果だろうな」

 

決勝という舞台で行われた試合、今まで一度も見せなかった溶岩操作を見せた千土と同じく緑谷との試合以外で使わなかった炎を使った轟の戦いはそれまでのものとは桁違いの印象を与えたようだ。

 

(つぅか爆豪は表彰式でのイメージが悪ぃんだろ。あそこで普通にしてりゃ絶対もっと多かっただろうに…)

 

――等と口にすれば間違いなくまた一悶着起こるだろうと思い千土は喉元まで出かけた言葉を飲み込む。

 

騎馬戦で一杯食わされ、準決勝でも手を焼かされた相手がどうにも勿体無い事をしている様に思えて腑に落ちないが授業中に余計な事はすまいと千土は爆豪から視線を外す。

 

「まぁとにかく、職場体験…つまりプロの仕事を実際に体験するにあたって必要になるのがヒーロー名という訳だ。あんまり適当なもんにしたら――」

 

「地獄を見ちゃうわよ?」

 

教室のドアを開き姿を見せたのは18禁ヒーローのミッドナイト。

唐突に現れた彼女に皆戸惑うが、そんなものを気にも止めず彼女は手にした鞭をビシッと伸ばす。

 

「この時につけた名前がそのまま認知されてプロ名になる人も多いんだからね!過去にはどうしても思い付かなくって先輩に相談したらやたら可愛い名前付けられて心に傷を残した人もいるって話だからね!」

 

――なぜだろう、聞き覚えがあり過ぎる気がするのは?

 

母と母代わりの後見人の話をされた気がしてどうにも居心地が悪くなる。というか失敗談として扱われる心奈さんに同情してしまう。

 

「――そういう訳で、俺にはその辺の事は無理だからミッドナイトさんに頼んだ。…まともなもんにしろよ」

 

それだけ言って相澤先生は寝袋に身体を突っ込んで視界から消えてしまった。――あの先生も大概なもんだ。

 

「さぁ!そうと決まれば早速やるわよ!名前は自分自身を示すイメージ、変なものにすれば全部自分に返ってくるんだから真面目に取り組みなさい!!」

 

ミッドナイト先生のその言葉に皆手元に配られたプラカードを真剣に見つめる。

自分が夢見るヒーロー像、威厳溢れる姿なのかはたまた親しまれるヒーローなのか…人各々目指すところはあれど名はそれに合うものにしなければならないのは皆一緒だ。

 

ならばここですべき事はただ1つ、心奈さんみたいに後悔しないように真面目に考えよう。

 

 

 

▼▼▼

 

「――そろそろ良いわね!出来た人から発表していってね!」

 

『えっ!?発表形式!?』

 

驚いたが考えてみれば当然か。職場体験から使う名前だ、流石にふざけたものする奴はいないだろうがセンスが独特な奴はいるかもしれないし訂正する為にはこうする方が良いだろう。――まぁ自分で自分の通称を考えたのを発表するというのに気恥ずかしさはどうしてもついて回るのか皆少し萎縮したようだ。

 

そんな中、視界の端で誰かの腕が上がる――あれは…青山か

 

「フフッ、僕は"輝きヒーロー・I can not stop twinkling"さ!」

 

『名じゃねぇ!!短文だろそれ!?』

 

心奈さん、貴女の失敗談は後輩の道標にはならなかったよ…

 

「…そこはIをとってcan'tに省略しなさい」

 

「ありなの!?」

 

まぁ本人が決めて先生からもOKが出たのならそれで良い…のか?よく分からないが青山は通った――逆にこれ通らない奴出んの?

 

「エイリアンクイーン!」

 

「目指すのがヒーローじゃないでしょ!?やめときなさい!」

 

出たわ…

 

うちのクラスにはセンスが独特な奴しかいないのか?

今のところまともなの芦戸の次にきた蛙吹の『フロッピー』ぐらいだぞ、何故か青山通ったけどさぁ。

 

ひょっとしてこれ俺もボケた方が良いのだろうかなどと思考が迷いだしたがそこからは軌道修正したのか憧れのヒーローをリスペクトした切島やまともなものにした結果被った尾白と砂藤など良い感じに――

 

「爆殺王!!」

 

「そういうのはやめときなさい…」

 

また出たよ…。

 

 

 

 

そこからそれなりに時間が過ぎて授業終了に差し掛かった頃、まだ発表していないもしくは修正するように言われた者達も残り僅かとなった。

 

残る飯田と緑谷はまだ少し悩んでいるようで爆豪も却下された為練り直しているようだ。

…なら、特に順番に拘りはないし挙手をするか。

 

前に出て発表の前にプラカードに記したその名をもう一度確認する。

 

(まったく、我ながら大層な名前を付けたもんだよ…)

 

昔から心奈さんから何度も名前は後悔しないように考えろと釘を刺されていたから姉さんや悪友達と一緒に考えたヒーロー名。

自らの個性を、オールマイトを越えるという意思を込めたそれを今から名乗る。

 

 

 

「『地帝ヒーロー・グランディス』」

 

 

 

〈ground〉と〈grand〉、"地面"と"偉大"の2つの意味を込めたその名を宣言する。

デビューどころか職場体験すらする前から"偉大なヒーロー"なんて名乗ろうなんて我ながら大きく出たものだがそんなものは体育祭の時点でやったようなものだ。

むしろあの時の俺を見て自身の職場に受け入れようとしてくれるプロのヒーロー達がいるのだ、これぐらいしないと逆に失礼だろう。

 

そんな考えなど見透かしているのだろう、ミッドナイト先生が実に楽しそうにこちらを見ている。

本当に職場体験で"それを"名乗る気か?と視線で問いかけている――だから笑って問いを投げ返す。

 

「アリですか?…ミッドナイト先生?」

 

「勿論!堂々と名乗ってやりなさい!」

 

こうして俺のヒーローは確定した。

ちなみに残っていた飯田はそのまま自分の名を、緑谷は"デク"と…爆豪がそう呼んでいたからてっきり木偶の坊からきてるのかと当初は思ったが麗日もそう呼んでるし多分違うだろう、どういう意味かこんど聞いてみようかな?

あとその爆豪は『爆殺王』改めて『爆殺卿』と名乗りを上げ案の定却下された…いやまず"殺"をとれ。

 

 

 

▼▼▼

 

さて、ヒーロー名が決まった次は何か…そう、むしろ大変なのはここからだ。

 

「うぉぉ…目が、目が悲鳴上げてきた…」

 

そう、職場体験先を決めなければならない。

頂いた4500以上のヒーロー達の声から1つを選ばなけれならない。

どんなヒーローから声を貰えたか確認するのは当然として彼らがどのような仕事をしているのか、そしてどのような役割を求めているのかきちんと推測して決めねばならない。

 

――ようするにめっちゃ疲れる。

 

気が付けば放課後、大半のクラスメイト達は行き先を決めたらしく半分以上が下校した中千土は依然として頭を抱えていた。

 

「…エッジショットにリューキュウにクラストに…やべーよ、全部行きてぇしどこも一週間じゃ足りねぇよ…」

 

「これは確かに容易には選べんな…」

 

頭を抱えて唸る千土が上げたビッグネーム達に障子も言葉を失う。

 

その誰もがヒーローランキングでも上位に名を連ねるトップヒーロー達だ、誰を選らんでも間違いなく自分の力になるだろうがそれ故に最優が見えない。

 

「ここまで揃うとランキングの順位で決め打つのにも抵抗があるな…」

 

「そうなんだよな~、常闇はホークスのとこにしたんだっけ?」

 

「あぁ、ランキングが全てとは思わないがあの若さでNo.3にまで到達した程の人物だ、学ぶべきことも多いだろう」

 

「いいよな~No.3、つぅか俺優勝したのにNo.2~4まで指名なかったんだけど?」

 

No.2・エンデヴァーは轟を

No.3・ホークスは常闇を

No.4・ベストジーニストは爆豪を各々指名していた。

別にこの職場体験は複数名指名しても良いらしいがトップヒーローとして多忙な彼らは何人も生徒を相手にしてやれる程甘くはないということなのだろうか?

 

「単純に体育祭中の態度で弾かれたんじゃないの?」

 

「いやそれなら爆豪も弾かれるのが道理だろ!?」

 

耳郎の言葉に心外だと言い返す。

確かに無茶苦茶やらかしてたが爆豪より酷かったなんてことは…ない…と思う。

――まぁNo.2に関してはこちらから喧嘩ふっかけたんだから来るはずはなかったが、むしろこれで指名入ってたら間違いなくそれは校舎裏への呼び出し的な意味だろう。

 

「まぁヒーロー側にも何らかの選考基準があったのだろう」

 

「うーん、何か悔しいけど仕方ないか…つぅか指名してくれてるヒーロー達だけでも身に余るんだ、これ以上望んでたら罰が当たるわ」

 

貰えなかった指名を引きずっても仕方ない、それより問題は結局どこにするのかだがとボールペンをくるくる回しながら思考する。

 

「どうしても決められないならいっそ会いたいヒーローで決めちゃえば?それはそれでモチベ上がるじゃん?」

 

「そうだなぁ…皆会ってみたいヒーロー達だけど一人選ぶならリューキュウかな?」

 

彼女の個性である『ドラゴン』は一男子としては一度生で見てみたいものだろう。

何と言ってもゲームを娯楽に生きてきた現代っ子としてはファンタジーの定番にして王たるそれに憧れずにはいられない――

 

「…ふぅん」

 

あれ? 何か視線が冷たくなった?

…まぁ何でも音楽に囲まれて育ったらしい耳郎にはこういう男子の感性ってのにいまいち馴染みがないのかね?

 

「――で、実際リューキュウの事務所にするのか?」

 

「あー…いや…勿論行きたいけどやっぱり他のとこにも尾を引かれる」

 

別に優柔不断な気質なつもりはないが流石に事が事だけにどうにも踏ん切りがつかない。

 

とはいえいつまでも悩んでいる訳にもいかない、もう一度基本に立ち返ろう。

そもそもこの職場体験はプロのヒーローの下で学ばせてもらうのが学生側の目的だ、つまり俺達学生側は"指導が上手いプロヒーロー"を選ぶべきということだろう。

 

例えばエッジショットは実力人柄共にトップクラスのヒーローだが同時にミステリアスな人物としても有名で仕事外の姿などもあまり周知されていない。

だからエッジショットの下で学ばせてもらう為にはまず彼の人柄を理解する為に時間を要する可能性がある。

プロヒーロー達のファンの俺としてはそれはそれで楽しめそうだがヒーロー志望の俺としては一週間しか時間がない以上それは少し困る。

 

これはエッジショットだけではなく他のヒーロー達にも言えることであり、トップクラスのヒーロー達はTV等で見る限り皆何かしら癖が強いところがあり――あれ?今の俺めっちゃ図に乗った考えしてないか?

 

「どうしたの千城、急に頭を抱えだして?」

 

「いや、とっくに抜けたはずの昔の癖が出てきて死にたくなっただけだ」

 

「マジで何があったの?」

 

「何もない、それに…体験先も今決まった」

 

「はぁ?」

 

訳が分からないという顔を浮かべる耳郎にサラサラと手元の用紙に綴った体験先の名前を見せればその表情が更に戸惑いのものに変わる。

その様子に疑問を持った障子と常闇も用紙を覗き込むと同様に困惑の表情を浮かべる。

 

まぁそれもそのはず、そこに記したヒーローの名は俺の個性とは真逆に近い個性の人だ。

なぜ敢えてそこを選ぶのかと疑問を持つのも当然だろう。

 

しかし、短い時間で多くのことを学ばせてもらうことを考えればこの人以上のヒーローはいないだろう。

なんでもヒーロー活動の傍らでよくヒーロー志望の学生達の指導を行うことも多いらしいし、何よりその個性が或いは参考になるかもしれない。

――ちょっと怖いがそれはそれ、食われるなんてことはないだろう。…多分。

 

「さぁて、行き先も決まったことだし帰るとするか、待たせて悪かったな」

 

いつもの友人らと肩を並べて下校する。

入学して気が付けば何日か、とっくに日常になりつつあったそれがもう暫くすれば『職場体験』という大きなイベントに塗り替えられる。

 

僅かな緊張と溢れかねない程の期待に胸を膨らませながら各々の家へと帰るのだった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

帰り道を歩きながら千土は自身の携帯に登録された名前の中から自分と姉の後見人の名前をタップする。

 

暫しの呼び出し音が響き終わると聞き慣れた声が聞こえた。

 

「あ、もしもし心奈さん?近々職場体験らしくてさ、家出てかないといけないんだ。空姉さん頼んでいい?」

 

『あぁそうか、そういえばあったね職場体験…分かった。とはいえ施設の方もあるからね、少し予定を組み直さないといけないな…』

 

基本的に多忙な心奈さんに頼むのは心苦しいが空姉さんを一週間一人にするというのは少し抵抗がある。

個性の暴走の可能性はほぼゼロの為さして心配していないがそれでも不安は残る。

 

あの謎の男の事もあり警戒は怠るべきじゃないと滅入そうになる気持ちを誤魔化すように顔を上げればすっかり遅くなり暗くなった空にはやや丸みがついた月が輝いていて――相澤先生から聞かされた日程を思い出す。

 

「やっぱいいわ心奈さん、何とかなりそう」

 

『ん?どういう事だい?』

 

「そろそろ満月だわ、引きこもりの狼に番犬頼む」

 

『あぁそういう…やれやれ、大人の立場としては一週間以上も徹夜させるのはあまり気は進まないのだけどね…』

 

複雑そうに呟く心奈さんを適当に宥めて電話を切ると次に電話帳の中から友人の名前を選ぶ。

 

『千土先輩?何の用ですか?』

 

「よぉ狼次、悪いがちょっと頼み事、次の満月の日から一週間程起きてて欲しいんだわ」

 

『あぁそういう…ちょっとそっちの家行きます』

 

「悪いな、じゃあ後で改めて話すわ」

 

それだけ言うと通話を切って携帯をズボンのポケットに押し込む。

 

とりあえずこれで心配はないだろう。

旧友と話すことを考え先に良さげな菓子の1つ2つぐらい買っておいておこうと考え丁度近くのコンビニに立ち寄ってから帰宅するのだった。

 

 

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