地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第3話 大人は意外と子供の発言を忘れてくれない

初日の個性把握テストを終え、翌日から正式に授業が始まったのだが、想像以上に普通な内容にある種の困惑を抱いていた。

 

「なんというかアレだな、普通過ぎて落ち着かないってやつ? プレゼント・マイクの英語とかホントに違和感がある」

 

学生へのサービス、クックヒーローの格安ランチをかき込みながら一緒に座る既にいつもの連れというべき存在になった3人にため息混じりに話す

「一人あのノリに乗ってたアンタがそれ言うの?」

 

「後半では完全に馴染みのリスナーになっていたぞ」

 

「いやあのノリ自体は好きなんだけどそうじゃないんだよ」

 

無気力気に机に突っ伏しながら愚痴を言う千土に皆「だらしない」という感情を抱く。

 

「だがそういうことなら次の授業はいよいよ……」

 

「オールマイトの授業か」

 

一先ずず話題を変えようとする常闇の言葉に障子もまた反応する。

 

「マジで来るのかなオールマイト?」

 

「気持ちは分かるけど嘘ってことはないだろ、多分」

 

耳郎が半信半疑になってしまっているのは決して初日からしてくれた相澤に毒されたという訳ではなく、単純にNo.1として名を馳せた"オールマイト"が母校とはいえたかだかヒーロー志望の学生を本当に相手にしてくれるのかというある意味当然の疑問だった。

 

「とにかく次の授業はどのようになるか分からん以上もう少し集中しておけ」

 

明らかに気の抜けている千土に改めて釘を指すと手元のお盆を片付け始める常闇を見て他の者も一緒に片付けを進めるのだった。

 

「オールマイト……ねぇ」

 

この時3人は、千土が終始複雑そうな顔をしていることに気付かなかった。

 

▼▼▼

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来たッ!!」

 

HAHAHAと軽快に笑いながら現れたその姿に皆、興奮が止められなかった。

 

「すげぇ、本当にオールマイトだ!!」

 

「画風が違う」

 

周りの者達が盛り上がる中、千土が声が一切聞こえないことに気付いた耳郎がちらりと千土の方を見てみると視界に入ったのは身体を低くし祈るように目を閉じている千土の姿だった。

 

「嘘、アイツまさか緊張でも?」

 

意外な姿に少し驚く耳郎だったが、オールマイトもまたそんな千土を視界に捉える

 

「むむ、地城少年じゃないか! 映像では言わなかったが久しぶりだな、そんなに縮こまってどうかしたかい?」

 

気さくにかけられたその声に千土はビクリと肩を震わせる。

 

「……お、お久しぶり、です」

 

「うむ、久しぶり!!」

 

掠れた声で話す千土に対し、オールマイトは実に快活に笑い飛ばす。

 

「オイオイ地城、お前オールマイトと知り合いだったのかよ!?」

 

そのやり取りに上鳴が驚愕の反応を示す、他の者も同様にざわつき出す

 

「……」

 

特待生の一人、轟 焦凍もまた他の者のように騒ぐことはなかったが鋭い視線を千土に向けていた

 

「地城、お前オールマイトとどういう関係なんだよ!?」

皆の疑問を代弁する上鳴の言葉と共に一斉に視線が自身に集まり千土は頭を抱える

 

「大した関係なんてねぇよ、ずっと昔に助けられただけだって」

 

「助けられた?」

 

「まぁ色々あってな」

 

千土の言葉に疑問を持った上鳴が聞き返すもお茶を濁す。

 

「オイオイ、大したことないなんて連れないこと言うなよ地城少年!! 私は覚えているぞあの時君の言った『アンタを越える最高のヒーローになってみせる』って言葉!!」

 

「怖いもん無しだなお前!!」

 

「あーあーッ!! 聞こえない!!」

 

懐かしそうに語るオールマイトだがそれは千土にとっては幼い自分の無謀な黒歴史でしかなく、周囲の言葉に必死に耳を塞ぐ。

 

「失礼オールマイト、そろそろ授業を開始しましょう」

 

「おっとスマナイ懐かしくてついね!!」

 

障子の申し立てにオールマイトも頷き授業開始の宣言をしたことで皆の興味もオールマイトの授業に移ったことで千土への視線も無くなった。

 

千土は寡黙な友の気遣いに涙した。

 

「では始めようか、ヒーロー基礎学!! 今回は早速やるぞー"戦闘訓練"を!!」

 

「戦闘……訓練!?」

 

明らかに物々しいそのワードに身構える者もいれば笑みを浮かべる好戦的な部類の者もいた。

 

「だがその前に君達に受け取って貰う物がある。そう入学前に貰った個性届と要望に沿って作られた」

 

教室の壁が動き巨大なロッカーが現れる。

 

オールマイトの前降りで既にそれが何かを察し皆胸を熱くさせる。

 

「自分だけの戦闘服だッ!!」

 

オールマイトの宣言に一部の者達は歓声を上げ、そうでない者も大半が満足気な表情を浮かべた

 

「さぁ早速そいつに着替えてグランドβに集合だ!!」

 

▼▼▼

 

素早く着替え、千土は指示されたグランドβに待機していた。

 

「良いねぇホントに要望通りだ、流石にこれはテンション上がるなぁ」

 

千土は自身の要望したコスチュームに身を包み、最後に着けた防塵ゴーグルや、首にかけた酸素ボンベを引っ張りながら呟く。

 

「そのゴーグルやボンベはやはり自分の個性に合わせてか?」

 

「そうだな、下手に砂を操ると俺の目や喉にも普通に入ってくるからなー、そう言う常闇は……黒いな」

 

同じく自身のコスチュームに着替え終え、黒一色になった常闇を千土は軽く笑う

 

「俺のこれも自身の個性に合わせたものだ」

 

「そうか? 何かそうでなくともお前は黒一色にしそうなイメージがあるけどな、いや確かに黒は俺も好きだけど気を付けろよ、服とか黒に頼り過ぎると他の色に抵抗感できて着れなくなるから」

 

「妙に信憑性のある話はやめろ」

 

「ああ、あと黒でいくなら夏場の活動気を付けろよ、その格好下手すりゃ死ぬぞ多分」

 

「グッ……」

 

千土の言葉に常闇が忌まわしげに唸る。

 

「そう言うアンタは結構地味じゃん、なんか意外」

 

「期待外れで悪かったなー、実際もう少し派手にするつもりだったけど一緒に考えてた奴に何度もリテイク出されたんだよ」

 

「へぇー、良かったじゃん? 恥かかなくて」

 

からかうように言ってきた耳郎に口を尖らせ反論するも追い討ちをかけられ、肩を落とす。

 

「お前達、そろそろ始めるようだぞ」

 

談笑を続ける千土達だが同じくコスチュームに着替え終えた障子の言葉によって静止し、到着したオールマイトに向き直る。

 

「さぁ有精卵共、戦闘訓練を始めるぞ!!」

 

▼▼▼

 

オールマイトの説明をまとめると戦闘訓練は屋内での対人戦とのことだった。

 

理由としては昨今の敵は屋内での潜伏が多くヒーローにはそれを想定した訓練を行う必要があるとのことだ。

 

戦闘内容はヒーローチームと敵チーム、2対2のチーム戦。

 

チームはクジ引きによって決められるが、このクジ引きもプロのヒーローは突然の出来事に対し急造のチームでの出動だって良くある事の為その経験として訓練の一環らしい。

 

 余談ではあるがA組は本来奇数人数である為オールマイトは人数差があるのもまた実戦と理由で一つのチームのみ3人チームでの練習を想定していたようだが幸か不幸かクラスメイトの一人、青山優雅が腹痛で欠席の為、全チームが2人チームで行えることとなった。

 

 折角のコスチュームを着用した状態でのオールマイトの初授業に欠席とは青山も気の毒だと皆次に会った時には一声かける、或いは何かしらおごってやろうと思っていた。

 

 しかしそれはそれ、今は目の前の訓練に集中する。

 

 訓練のルールは極めてシンプル。

 

一つ、制限時間以内に『核兵器』であるハリボテもしくは敵チームの2人を確保すればヒーローチームの勝利。

 

二つ、制限時間まで『核兵器』であるハリボテの防衛、またはヒーローチームの2人を確保すれば敵チームの勝利。

 

三つ、両者とも『核兵器』であるハリボテを本物の『核兵器』として扱うこと。

 

これらのルールの下に訓練を行う。

 

「さて肝心のチームは……『E』か」

 

「おー、一緒のチームは地城君か頑張ろうね」

 

ペアになったのは明るく活発なイメージを持つ少女だった。

 

桃色の肌に2本の角等、異形型の個性だと思わせるが先に行われた個性把握テストの様子をみるに何かしらの液体を放つ個性のようだ。

 

「えーと、芦戸だったよな?」

 

「うん芦戸三奈、よろしくね!」

 

他のチームもとりあえずの顔合わせを行っているようだったがオールマイトがその間に別のクジを引いていた。

 

「良し、では早速始めよう、ヒーロー側Aチーム! ヴィラン側はDチームだ!! 他の皆はモニター前に集合だ!」

 

(AとDってことは緑谷と爆豪か、因縁アリっぽいけどなんもなけりゃいいけどな)

 

何の因果か起こった組み合わせに千土は不安も感じるも彼ら自身の確執に首を突っ込んで良いものか分からず一先ず皆と同様モニター前に移動する。

 

▼▼▼

 

不穏な対戦カードだったが、結果戦いを制したのは緑谷・麗日ペアつまりヒーローチームの勝利となった。

 

過剰な攻撃を行う爆豪に対して、それを利用した緑谷の奇策が麗日を援護し核の防衛をしていた飯田を出し抜くことに成功した。

 

もっともその反動で緑谷は大きな負傷をした上、その奇策も核兵器であるハリボテに対して不用意に巻き込んだもので、訓練の名目に甘えた勝利でもあると八百万は指摘した。

 

「すっごい試合だったねー!! 緑谷君個性もほとんど使わなかったし」

 

「ん、あぁそうだな」

 

興奮したように騒ぐ芦戸に相づちを打ちながら千土は緑谷の個性について思考を巡らせる。

 

(やっぱり反動付きの増強系個性なのか? 確かに個性の中には本人にも危険が及ぶものもあるが……それにしては緑谷の身体付きは普通に鍛えられてる程度なんだよなぁ、あんな反動付き個性を持っていたら少なからず身体に特徴が出そうなもんだが)

 

あれ程肉体に負担のかかる個性なら古傷なり過剰な筋肉なりありそうなものだが緑谷にそんなものはなく、個性と緑谷に異質さを感じてしまう。

 

(反動が強すぎるからずっと使わずにいたのか? だとしたら相澤先生のテストのときに爆豪に無個性とか言われてたのも分からなくもないが……何かいっそ個性が目覚めたばっかで身体がついていってないってほうがしっくりくるんだよなぁ、まぁありえない話だけど)

 

「地城君ってば!! 聞いてるの!?」

 

突然横から大声で呼ばれ肩を震わせる。

 

「次私達の番だよ早く準備しないと!!」

 

「っとマジか、悪ィ考え込んでた」

 

必死に呼びかける芦戸の声に慌てて前に出る

 

「よしでは、次の対戦カードは……ヒーローチーム『J』! 敵チーム『E』」

 

「『J』チームってことは相手は瀬呂と切島か」

 

「おう、覚悟しろよ地城!!」

 

赤い髪を逆立たせた少年、切島鋭児郎はそう言い握り拳を千土に向ける

 

「上等だ、手ェ抜くなよ」

 

向けられた拳に自身の拳をぶつけて応える

 

切島とは初日の放課後に少し話をしたが気の良い性格らしく千土としても話していて気分の良い相手だった

 

「じゃあ俺らは不本意ながらヴィランチームだからな先に行くわ」

 

そう言い千土は芦戸と共に先のチームとは別のビルの中へと姿を消した。

 

▼▼▼

 

「よーし、ヒーロー基礎学最初の授業!! 絶対勝とうね地城君!!」

 

『核』の位置に着くと芦戸は気合いの入った声を上げる

 

元々明るい性格だと感じていたが先に行われた緑谷と爆豪の戦いの熱を受け、更に気合いが充実しているのだろう

 

もっともそれは千土としても同じだった

 

元より全力で臨むつもりだったが先にあれほどの戦いを見せられて熱が入らないはずもない

 

「じゃあその為にも確認な、芦戸の個性はどんなもんだ? 軽く見た感じだと液体の放出っぽかったけど?」

 

「正確には"酸"、大体何でも溶かすことができるよ」

 

「なるほど、調整はどれぐらいできる? 人に対して使えるか?」

 

想像していたより遥かに強力故に訓練相手に使うには危険な個性に一瞬顔をしかめる

 

「大丈夫結構調整は上手く出来るよ、弱めにすればちょっと滑るぐらいかな」

 

「なら安心だ、あぁ、俺の個性は"地質操作"砂や岩、地面を操ることが出来る」

 

「相澤先生のテストで見てたけどホントに凄い個性だよね、ひょっとしてこのビルも動かせるの?」

 

「このサイズはさすがに無理だな、まぁ幸い石造りのようだから壁とか床とか弄ることはできるぜ……お!!」

 

「え、突然どうしたの?」

 

石造りの壁を軽く叩きながら説明していた千土が急に声を上げた為芦戸は首を傾げる

 

「いや……面白いことが出来そうだなってな」

 

策が閃いたと言う千土のその顔は正しくヴィランと言っていい程怪しげなものだった

 

▼▼▼

 

千土達がビルの中に入って数分後オールマイトの訓練開始の合図を受け、切島と瀬呂の二人はビルの入口正面に立った

 

「うっし、行くぞ!!」

 

「地城の個性は厄介そうだけど、核を守る以上ビルを派手に弄ることは出来ねぇ上に地面に接してないぶん有利かもな」

 

瀬呂の言葉に切島も頷き2人は同時にビルの中へと慎重に足を踏み込む。

 

「うわぁッ!!」

 

直後、2人の足元の床が音を立てて崩れ二人は重力に従い落下していく

 

「いてて、地城の奴入口の床脆くしてやがったな」

 

「しかも何か水溜めてやがった、折角のコスチュームがずぶ濡れだぜ」

 

「て、これ芦戸の個性の"酸"じゃねぇか!」

 

「マジだ! 溶けてはねぇけどめっちゃ滑るぞ登れねぇ!!」

 

2人に仕掛けられていたのは芦戸の"個性"による弱酸の溜まった落とし穴だった

 

壁の窪みに手を着け登ろうとするも酸に触れた瀬呂の手は容易く滑り壁を掴むことすら儘ならなかった

 

「くそ、地城の奴これで時間潰す気か漢らしくねぇぞ!」

 

「けど、相性が悪かったな!!」

 

瀬呂の個性"セロテープ"が天井に張り付き、切島を抱えた状態で巻き取ることで落とし穴から脱出する

 

「他にも落とし穴があるかもしれねぇ慎重に行くぞ切島」

 

「おう!!」

 

2人の警戒は正しく二階に続く階段前や二階に登った直後にも落とし穴が作られており、2人は足の先で床をつつきながら進む方法をとるしかなかった。

 

それでも最初に弱酸に浸かったことにより滑って足を踏み外すことがあり、踏み外した先の脆い床のせいで一階まで落とされたりとさながらRPGじみた苦痛を味わうことになった。

 

▼▼▼

 

酸と地質操作の会わせ技による嫌がらせのような戦法にモニターで見ていた他の生徒達は4階から1階に落とされた切島を気の毒気に眺めていた。

 

「ひでぇ、けど瀬呂の個性なら何とかならねぇのか?」

 

「瀬呂さんの個性ならある程度地面に足を着かず移動出来るかもしれませんが地城さんや芦戸さんがすぐ近くで隠れているかも知れない状態でそれをするのは危険すぎます」

 

「あくまでぶら下がったり、巻き取ったりで一直線にしか動けないからな」

 

上鳴の疑問に八百万と尾白が答える。

 

「うーん、それにしても古典的だが中々上手い戦法だ」

 

「あれでヒーローチームが核に着く前に時間切れにしちまう作戦か?」

 

「……彼は"個性"の使い方が狡猾だ、自分も味方の芦戸少女の個性も"ルールに乗っ取った上で"上手く使っている、……どういうことか分かるかい?」

 

オールマイトから投げ掛けられた問いに生徒達は少し考える素振りを見せ、八百万が手を上げる。

 

「妨害としては穴の数が少な過ぎる」

 

「正解!!」

 

その意味を即座に理解した者はなるほどと頷くが大半の者は理解出来ず首を傾げる。

 

「嫌らしい位置に穴を作っているから多く感じるが実は彼はそこまで多くの穴を作っていないんだ、せいぜい階段の手前と最後、あとはそれぞれの階に数ヶ所だけ」

 

「ただしそこに芦戸さんの個性を絡ませて引っ掛かり易くしてはいますが」

 

「そう、あくまで最低限の妨害だがヒーロー側は常にそれを警戒して進まなければならなくなり、結果一つの階にやたら時間がかかる」

 

「で、でも何でそんな最低限しか作らないんだよ?」

 

そんなことが出来るならそもそも一つの階を丸ごと落としたりも出来るのでは? 砂藤力道とは問う。

 

「きっとそれも出来るだろう、だがそれはヴィラン側としては出来ない、必要以上穴だらけにしてビルを脆くしてしまうと自分達の守る核に危険が及ぶ可能性があるからね!!」

 

それを聞いて皆完全に理解する。

 

千土の目的はあくまで時間稼ぎによってヒーローチームを焦らせる為であり、落とし穴よって妨害仕切るわけではない。

 

「戦闘において時間が迫っている側と時間を潰せばいい側とでは精神的余裕が違い過ぎる」

 

「そう、彼が作りたかったのはただその状況だけ、彼は自分達の有利な状況を作り上げ最後は自分達が直接!」

 

──倒すつもりだ!! 

 

オールマイトがそう言った時、切島と瀬呂はついに千土と芦戸、そして"核"の待つ部屋へとたどり着いた。

 

▼▼▼

 

「よー、切島、瀬呂、随分遅かったじゃないか?」

 

「セコい手使いやがって、でももう捕まえるだけだぜ」

 

既に時間に余裕のない瀬呂は戦闘体勢をとり、切島は即座に千土に向かって駆け出す。

 

「地城、さっきも言ったけど切島の個性は"硬化"、石とかも多分砕いてくるよ」

 

「任せろ対策済みだ」

 

芦戸の忠告に千土が応えた直後、切島の頭上から大量の砂が落ちてくる

 

「岩は砕けても砂を砕くなんてできねぇよな!!」

 

「上から砂!? 浮かせていたのかっ!!」

 

「今まで落とし穴やら酸やらずっと足元に罠を仕掛けていたからな、頭上不注意だったぜ?」

 

大量の砂で切島を縛りつつ告げられた千土の言葉に2人は自分の迂闊さに気付き歯噛みする。

 

「くそっ! 切島、掴め!!」

 

手元に飛んで来た瀬呂のテープを掴むと切島は一気に引っ張られ砂の中から引き抜かれる

 

「悪ぃ瀬呂、つい焦っちまってた」

 

「とにかくもう残り3分だ。こんな時間で2人を捕らえるのは無理だ。核の確保を狙うぞ、俺がセロテープで二人を核から離すからその隙に飛び込め」

 

瀬呂の案に切島も頷く。

 

「よし、行くぞ!!」

 

叫びと共に放たれたセロテープが千土の身体に巻き付き、一気に壁に目掛けて振り切られる。

 

「甘いぜ、その個性も対策済みだ!!」

 

千土の両足は地質操作により重量を増した石の鎧に覆われていた。

 

鎧により重さを増した千土の身体はびくりとも動かず、逆に自身に巻かれたテープを掴み一気に手繰り寄せる。

 

「何!?」

 

予想外の行動に即座にテープ伸ばすことが出来ず瀬呂の両足は地面から離れ宙に浮き、そのまま芦戸の側に叩き付けられる。

 

「芦戸、確保頼む!!」

 

「任せて!」

 

「させるかっ!! うぉっ!?」

 

即座に跳ね起きようとするも足元に撒かれていた弱酸に足を捕らわれ転倒する。

 

「残念、確保成功!」

 

その隙に芦戸は瀬呂の腕にヴィランチームの確保テープを巻き付ける。

 

「よし、じゃあ残るは」

 

両足に纏った石の鎧を外し、既に核に向かって駆け出していた切島の正面に割り込む。

 

「お前だ、切島!!」

 

「どけぇええええっ!!」

 

更に腕を硬質化させる切島に対して千土もまた自身の右腕に"地質操作"により硬度を上げた石の鎧を纏う。

 

互いに全力で拳を振り抜く。

 

硬質化した腕がぶつかり合い両者ともに重すぎる衝撃に鈍い痛みを感じる。

 

「……さすがだな」

 

千土は自身の鎧に入ったひび割れと傷一つない切島の腕を見比べてそう告げる。

 

「硬さ勝負なら俺は絶対負けられねェ」

 

真っ向から自身を睨む切島を見て自然と口角が吊り上がる。

 

「そうこなくちゃな、さあ残り2分を切ったぜ、全力で来な!!」

 

──このまま殴り合いの真っ向勝負に興じるのも悪くないとふと思う。

 

だが今回は自分と組む者がいる事を理解しているため今まで張り巡らせていた策で稼いだ時間で作った最後の一手をとる。

 

「と、言いたかったが止めだ。動くな切島、もし動いたら──」

 

千土はゆっくりと切島の頭上の天井に指差して告げる

 

「そこに溜めた、芦戸の酸を一気に落とすぞ」

 

「なッ!?」

 

その言葉に切島は良く見ると自分の頭上の天井だけやたらと出っ張っていることに気づく

 

「さっきまでの転ばせる為の酸じゃないよ、本気の溶かす酸だよ」

 

「今は俺の個性で天井の耐久を上げているがそれを失くせばどうなるかわかるよな?」

 

2人の言葉を受け完全に追い詰められていると理解した切島は頭が真っ白になる程戸惑う。

 

(やべぇ、もう時間もねぇのに俺一人でこの状況ひっくり返すなんて……いや諦めんな、何かあるはずだ!!)

 

だが切島は迫る時間に焦りながらも決して諦めることなく思考を巡らせる、そしてふと思い出す。

 

さきに行われた緑谷達の訓練で麗日の攻撃が「"ハリボテを"核"として扱っていなかった」という指摘を受けていたことを。

 

(ヒーローの行動でその指摘が出るってことはヴィラン側も同じはず、なら"核"のある建物ごと溶かすような真似は出来ェはずだ)

 

その考えに辿り着いた時今までの落とし穴も体感したことによって付いた印象よりずっと実際は大した数は無かったことに気付く

 

徐々に集まってきた情報を整理し最後に切島はもう一度自身の頭上を見上げる

 

(だとしたら、これは出っ張ってるだけで酸なんか溜まってねェ!!)

 

そこまで考えると切島は全力で駆け出した。

 

天井から酸が落ちてくることはなく切島は自身の勘が正しかったと確信する。

 

既に残り時間は30秒を切っていた、残された手は動くことは出来ないと思っている不意を突き核を確保する方法だけだった為両足に全力を注ぐ。

 

──直後、切島の視界が反転する──

 

千土は理解していた、例え残り時間数秒であろうとこの場にいる者達は皆諦めるような者達ではないと。

 

そして諦めず状況を整理すれば必ず前に麗日が受けた指摘を思い出し、この酸の罠がはったりでしかないことに気付くであろうということに。

 

だがそれで良かった、それに気付いたとき残り時間に迫られていればする行動は"核の確保の為に直進"以外はなくなるからだ。

 

相手の手が一つだけならばそれに対して警戒すればいいだけ、だからこそその状況になるように手を打ってきた。

 

自分達の訓練が始まる前に麗日が受けた指摘、この最上階までの階全てに仕掛けた落とし穴と弱酸、最後に遠距離からの攻撃が可能な瀬呂の事前に確保、全てこの最後の詰めの為だった。

 

核に向かって全力で駆け出した切島の腕を掴んでから足払い、そして姿勢の崩れた切島の腹部を押さえつけ背中から床に叩き付ける。

 

「がっ!!」

 

強度の上がった床に叩き付けられ硬質化させた切島もその衝撃までは防げず気絶する。

 

『そこまで!! この勝負ヴィランチームの勝ち!!』

 

オールマイトの声がビルに響き、千土は肩に入れていた力をようやく下ろし安堵の息を吐く。

 

▼▼▼

 

「さて今回のベストはァァ地城少年だ!! 理由を分かる人は挙ォォー手ッ!!」

 

オールマイトの言葉に常闇が静かに手を上げる。

 

「恐らくペアとの連携と立案」

 

千土の立案能力は入試の際に見せられていた為常闇はこの訓練での落とし穴や頭上の罠等の策も恐らく千土の発想だろうと理解した。

 

オールマイトもまたその答えに頷く、前回の緑谷の時と違い自分に説明の余地が残っていることもあってどこか満足気だった

 

「その通り!! 急造にも関わらず互いの個性の長所を活かした策による徹底した戦略的な行動、見事だったぞ!!」

 

「ども……」

 

オールマイトの言葉に千土は静かに頭を下げる。

 

基本的に騒ぐタイプの千土にしては静かなその対応はやはり過去の自分によるオールマイトへの苦手意識からくるものだった。

 

「切島さんと瀬呂さんは焦り過ぎですわ、残り時間に迫られている以上尚更冷静に連携をとるべきでした」

 

切島と瀬呂は自分達の行動が常に読まれていたことを思い出し自然と拳を握る。

 

「芦戸さんに関しては独自の行動せずに地城さんの作戦の協力に徹していたのが良かったですわね」

 

「本当っ!! ちゃんと上手く出来てた!?」

 

最後になった自分の評価が好評なことに芦戸は嬉しそうに跳び跳ねる。

 

「うむ、連携にとって大事なのは自分の役目を理解し遂行することだ、芦戸少女はしっかりとそれが出来ていたぞ、ただしMVPと言う意味では立案者である地城少年の方が上になってしまったがね」

 

「そっかー、まぁそれは仕方ないかな私作戦とか考えるの苦手だしね」

 

「まぁ何であれ作戦に乗ってくれてありがとな、おかげで無事に勝てたよ」

 

「うん、また組むことがあったらよろしくね!!」

 

互いに達成感に満ちた表情で労い合い、訓練の勝利を噛み締めるのだった。

 

▼▼▼

 

その後は他のチームも次々と訓練を行い、長く感じた授業もついに終了を迎えた。

 

「疲れた~、まず担当がオールマイトの時点で無意識に力が入るわ」

 

「まぁ気持ちは分かるけど、その言い方だと厄介そうにしてるみたいじゃん?」

 

校舎を出ていつもの3人と歩きながら愚痴をもらす千土に対して耳郎はその内容に苦言を呈する。

 

「単純に気まずいんだよ、辛い……」

 

「無理もないが気にし過ぎなのではないか? 現にお前は入試一位での合格者、加えて今回の訓練でも無事に勝利を納めたのだ、言葉に見合った結果を示しているのではないか?」

 

「入試に関してはお前らの協力あってのことだし、今回の訓練の作戦も切島との真っ向勝負を避けたかったってのが本音なんだよ、それに相手があの轟なら確実に潰されてたしな」

 

今回の訓練で最も他を圧倒した存在、轟 焦凍。

 

彼は開始早々にビルを丸ごと凍らせるという桁外れの力を示し見ていた者達全員を唖然とさせた。

 

「おかげで俺は何もせずに勝ってしまうことになったがな」

 

その轟と組んでいた障子は索敵を少ししただけでほぼ全て轟一人で勝ってしまった為少々不本意そうな様子だった。

 

ヒーローを目指す者なら誰もが憧れるオールマイトの最初の授業、初めて着用した自分専用のコスチュームという最高の条件の中で行われたこの特別な訓練、勝てたのだからいいじゃんと言える事ではなく、耳郎も常闇も言葉に困る。

 

「じゃあ折角だ、どっか寄って軽く反省会でもしていくか? 何かクラスの連中もグループ作って行くって言ってたし」

 

「反省会?」

 

「なんなら愚痴もらし会でもいいけどな、二人も何かあるだろ?」

 

「上鳴が阿呆で作戦が上手くいかなかった」

 

「……蛙吹とのコミュニケーションが難しい」

 

「あー、梅雨ちゃん呼び? 訓練の声は聞こえないから分からなかったけど常闇もそう呼んだの?」

 

「黙秘させてもらう」

 

からかいと興味の混ざった質問はそう切り捨てられ千土は「つれないなぁ」と言うとパンッ! と手を叩き3人の前に出る。

 

「とまぁこんな感じに愚痴と反省肴に盛り上がろうかと思うんだけどどうだ? 用事あるか?」

 

「ウチは別にいいけど、言い出しっぺなら奢りだよね?」

 

「あーそう来たかぁ、……まぁ3人ぐらいなら何とかなるか、いいぜ」

 

「え、マジ? 、別にいいよ自分で出せるし」

 

「いや、そこで遠慮されると了承した俺の立場ないから」

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

「気にすんな、知り合いが珍しく馬で勝ったとか言ってくれたあぶく銭だ」

 

「えぇ……」

 

「そんな微妙な反応すんなよ、この辺で結構旨い店知ってんだそこ行こうぜ」

 

太っ腹に語っていた言葉が一気に安っぽくなり皆呆れたような素振りを見せるも千土は気に止めず笑い飛ばして先導する。

 

耳郎達はそんな千土の姿に苦笑するもそれが何処か心地よく少し小走りに千土の後を追うのだった。

 

──END──

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