地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第33話 平和を守る者として…

「──で、そんな馬鹿な友人の思い付きに乗ってしまったのが運の尽き、俺とそいつは気が付けばタクシーに乗って運転手に福井県まで乗せてってくれと頼んだんだが、案の定ガキ2人の家出と勘違いされて警察のお世話になってな」

 

「「…………」」

 

「ただ運転手のおっさんは俺らが暴れないように言う事聞いてるふりして交番に向かったわけなんだが困ったことにそのおっさん駐車ミスって交番に突っ込んじまってさぁ、警察の人には俺達を人質にタクシードライバーが交番に襲撃しにきたと思われたらしくてもう大騒動よ、どうしたもんかと思ったわ」

 

「「…………」」

 

「……じゃぁ次轟な、何か面白い話頼むわ」

 

「特にねぇな」

 

ステインとの戦闘の翌日、電話の為に部屋から出て行った緑谷の帰りを待つ間既に診察が終わった千土達はどうしても暗くなってしまう空気を誤魔化すかの様に雑談を繰り広げていた。

──といっても過酷な幼少期を過ごした轟は特に明るい話というのもなくパスが続く、そして無論この状況の発端である飯田には振れず結局千土一人が沈黙の中で話を回し続ける光景がそこにはあった。

 

「いや何かあんだろ、というか頼むから何かあってくれ。明るい空気にしようと始めたのに俺が地雷踏んだみたいだろがよ……」

 

まさか空気を換えようと始めた企画が友人の辛い事情を浮き彫りにするとは思わなんだ。

エンデヴァーとの確執は知っていたがさすがに小、中と学生生活を送っていれば何かはあるだろという千土の考えは甘かったらしい。──もっとも幼少期の事件により千土自身小学を途中で抜けて雄英高校入学まで施設で生活していた為学生生活という点では世間一般の同学年と比べればあまりに少ないのだが。

 

「あぁ、初対面で飯をたかってきた奴の話なら──」

 

「それ俺の事だろが! お前の中で俺は交番に突っ込んだタクシーに乗ってる奴と同じ存在か!?」

 

「同一人物じゃねぇか」

 

「うるせぇ紅白ハーフ頭! 枕ぶつけんぞ!!」

 

「……攻撃するならもっと固いやつの方がいいんじゃねぇか?」

 

「枕投げすら伝わらねぇのかこの野郎!!」

 

枕を振り被りながらも叫びも天然なのか遊びのない生活の反動なのかいまいち分からない轟の言葉に敢え無く撃沈し頭上に構えた枕に顔を埋める。

若干枕に湿り気が移った辺りでカラカラと病室のドアが開き電話するため唯一席を外していた緑谷が戻ってきて──千土はそれを窮地に駆け付けたヒーローを見るような目で歓迎する。

 

「おかえり緑谷! 枕投げやろうぜ!!」

 

「何で!? ──そ、それより皆診察は!?」

 

──最も緑谷からすれば脈絡のない誘いな上に足の怪我も残った状態でやるなど論外極まりないのだが。

ましてや今の緑谷にとってそれ以上に気になることがある。

朝一でそれぞれ先日負った傷の診察と治療を行っていたのだ、腕に深い傷を負った飯田を筆頭に皆の結果が気掛かりなのだ。

 

「俺と轟は軽いもんさ、数針縫って後は安静にしとくだけ。──ただ……」

 

「後遺症が残るそうだ、飯田の腕」

 

ほんの少し言葉が重くなった瞬間に轟が続きを口にする。

先程まで空気が重くなっていた理由がそれだ。飯田は左腕の"何とか"って位置をやられたらしく指の動かし辛さや痺れが残るらしく、日常生活にさえ深刻ではないにしても影響は出るであろうとの事らしい。

 

「一応神経移植すれば治る可能性もなくはないって話なんだけどな」

 

「そうなの!? だったら──」

 

手術を受ければ良い、そう言おうとした緑谷の言葉に飯田が「いや」と静止をかける。

 

「俺はこの傷を残そうと思うんだ。ヒーロー殺しがあの時言った事は事実だった、僕は彼を憎むあまりヒーローを目指すべき者としてあるまじき行為をしてしまった。僕はもう君達の様なヒーローにはなれない……」

 

「そんな事はッ!?」

 

「それでも! それでも僕はヒーローを諦めない! 今度こそ君達の様に本当のヒーローになる為にこの事を忘れない様に自分自身の戒めとしてこの傷を残そうと思うんだ!」

 

飯田の言葉に緑谷は安堵すると共に胸の奥が熱くなるのを感じた。

友人から感じていた重苦しい空気が今は完全になくなり生真面目過ぎる程実直な元の雰囲気に戻っている、それが嬉しくて緑谷は──隣で聞いていた千土がやたら不機嫌そうなことに気が付いた。

 

「──というのが飯田の結論だったんだが、それを千土が反対してな。それで少し前に言い合いになったんだ」

 

そんな緑谷の様子に気付いた轟が先程までの状況を説明する。

その言葉を燃料に千土の抱いた不満が再び爆発したのか口を開く。

 

「当たり前だろ! 治せるんなら手術を受けるべきだろが! 折角実力もあるのに後遺症なんかのせいで何かあったらどうすんだよ!! そんな事しなくたってお前は──」

 

「落ち着けよ、一応お前ももう納得はしたんだろ?」

 

「してねぇよ! ただこの生真面目委員長が何言っても考え直してくれないから諦めただけだわ!! ──で、空気重くしてしまったからさっきまでお詫びに面白い話合戦を企画した訳なんだがどうにもメンツと企画が不一致で枕投げに変えようとして──今に至るってな感じ」

 

千土としては心の底から飯田の今後を心配しての言葉だっただろうというのは理解するもそれ以上にそこから面白い話に分岐して枕投げに発展する破天荒さに緑谷は言葉を失う。

 

「地城君、改めて言うが君がそんな風に言ってくれるのは本当に嬉しい──ただ、どうしても僕は自分の愚かな行動の償いがしたいんだ。それが的外れな考えでもただのエゴだとしても……この傷を抱えた上で兄さんのようなヒーローを今度こそ目指したいんだ」

 

「飯田君……」

 

これからの決意を改めて語る飯田に職場体験初日の朝、飯田の様子に違和感を覚えながらも何もできなかったことを後悔しつつもそれが今の飯田の覚悟に対して失礼だと思い自身の傷だらけの手を握る。

 

「僕も……同じだ。一緒に強くなろう!」

 

「緑谷君……ああ」

 

「はぁ……──どした轟?」

 

揺るぎない決意を交わす2人の姿にもう何を言ってもどうしようもないと千土はほんの少し目を伏せるも狭まった視界の端にどこか思いつめた表情の轟が映り声をかける。

 

「いや、何か俺が関わると手がダメになるみてぇな感じになってるなって……呪いか?」

 

後遺症が残る飯田の手、体育祭での自身との戦闘でボロボロになった緑谷の手、唯一傷のない千土の手も試合中に間接的にではあるが折っていたなと思い返し轟は顔を僅かに青くする。

 

一度思い込んでしまったらそうとしか思えなくなったのか謝罪してくる轟の意外と天然な発想に今まで重くなっていた空気が一気に緩む。

飯田も緑谷もそして千土も声を上げて笑い、抱えた傷を癒していく──そんな最中に病室のドアが再びガラガラと音を奏でる

 

「邪魔をするぞ小僧ども!!」

 

その声は昨日の保須市での騒動の最中見掛けた緑谷の体験先であったプロヒーローの老人グラントリノのものでありその周囲には同様に飯田の受け入れ先であるマニュアルと黒のスーツをキッチリと着こなす犬の顔をした獣人の男性──そして自身の受け入れ先であるギャングオルカの姿があった。

 

「轟、そこの引き出しの3段目開けてくれ。昨日夜中に予め反省文10枚書き溜めといた」

 

「準備良いなお前……」

 

「完全に慣れてる……」

 

即座に頭を下げる準備を整えていたことに轟と緑谷の絶句した表情が突き刺さるがこちらはギャングオルカに殺されないように必死なのだ、打てる手に惜しみはない。

ベッドの下からこれも前もってナースさんに話を通して準備していた折り畳み椅子を取り出してならべ、朝一から売店に行って買いだめしていたお茶を冷蔵庫から人数分取り出す。──あとお茶は3本は残っている、万が一相澤先生辺りが来ても大丈夫なはずだ。

 

安静の為左肩に包帯が巻かれている為右腕しか使えないにも関わらず、その片手と足で器用に折り畳み椅子を手早く並べた千土にグラントリノもマニュアルも犬面の男性も少なからず面食らったように曖昧な表情を浮かべる──肝心のギャングオルカは赤い目をギョロリと光らせこちらを睥睨しているようだが……

 

そんな微妙に話し辛い空気の中最初に口を開いたのはグラントリノだった。

 

「小僧……本当はスゲェ愚痴ってしばきたい所なんだが何か空気ぶち壊されちまったから今はもう良いわ──それよか珍しい客だ」

 

最もそのグラントリノもやはりどこか調子を崩されたのか投げやりな言葉で隣の犬面の男性に視線を送る。

男性もそれに小さく頷くと一瞬視線を動かし「失礼するよ」と並べられた椅子に腰を掛ける。

 

「椅子ありがとうね、私も座るから君達も腰かけたままで構わないワン。改めて、私は保須市警察署署長、面構犬嗣だ」

 

ついつい犬のおまわりさんなんて失礼な考えが脳裏を過ぎるが千土はそれを喉奥で止めつつ目の前の男性をじっと見る。

何故わざわざ警察署長がここに来たのか、普段であれば何事かと戸惑うだろうが『保須市』と聞けば自ずと答えは理解できる。

 

「ヒーロー殺し、調査の為彼の身元を調べる際に医者に診てもらったが酷いものだった。一言で言えば重傷。折れた肋骨が肺に刺さり身体に重い火傷、今は治療中だワン」

 

何が言いたいのかすぐに理解する。

自分自身馬鹿だとは思っているが常識知らずのつもりはない、まさかわざわざ警察署長が"巨悪に立ち向かった勇敢なヒーロー"などと称賛しにきてくれたなどと思っていない。──むしろその逆だと分かっている。

 

「超常黎明期、警察は統率と規格を最重視し個性を武として用いない事とし代わりに『英雄』という穴を埋めるべくヒーローという役職を作り上げたんだワン。雄英生ならばもうご存知だと思うが個性には容易に人を殺めてしまう力を持つ人間が必ず存在するんだワン」

 

「──はい、良く……理解しているつもりです」

 

個性が容易に人を殺める──その言葉に千土は重い声で返事する。

 

「……うん。良かれ悪かれその事実に変わりはないしその力を公に認められ糾弾されていないのは先人達がモラルとルールをしっかり守ってきたからだワン。──さて、ここまで言えばもう分かるね?」

 

力があるからこそそれを律しなければならない。

それが現代の法であり、故にこそこの超常社会に平和がある。

 

「個性資格未取得者が保護管理者の指示なく行動し危害を加えた。例え相手がヒーロー殺しであったとしてもこれは立派な規則違反に他ならないんだワン。──よって君達の担当者であったエンデヴァー、グラントリノ、マニュアル、ギャングオルカのプロヒーロー4名と個性を無断で使用した君達4名、合計8名には厳正な処罰が下されるワン」

 

数瞬前の明るい空気が今は嘘の様に凍り付いてしまっている。

自身の行動が担当者であるグラントリノにまで大きな責任を負わせてしまうという事実を突き付けられ緑谷の顔は真っ青だ。──ましてやこの場の全員を巻き込んでしまったと思い至ってしまったのだろう、飯田の顔は最早見ていられないものだった。

 

「──ちょっとまって下さいよ」

 

しかし轟は怒りさえ滲ませた声で面構に反論する。

 

「飯田が動かなきゃネイティブさんが殺されていた。緑谷が動かなきゃその2人が殺されていた。確かに危険な行動だったのは分かる、けどあの場で誰もヒーロー殺しの出現に気が付いたいなかった! 規則を守って人を見殺しにしろってのか!? アンタらにとって人の命よりも法は重いのか!? もしもの事が起こった時点でもう手遅れなんだぞ!?」

 

「と、轟君!?」

 

「俺も同意見だ。先人達が築いてきたモラルやルールを軽視する気はない、けどそれを目の前の守るべきものを見捨てる理由にする気はねぇ──そんなのは俺が憧れてきた先人達が築いてきたものに対する冒涜だ」

 

人を救いたいという思いで戦ってきたヒーロー達が築いてきた基盤。

それが人を救わぬ理由になるなど先人達が望むはずがないと千土は叫ぶ。

 

「人を救うのがヒーローの仕事だろ!! 人助けして何が悪いんだ!!」

 

「俺達はヒーローとして為すべき行動をした! ギャングオルカ達プロヒーロー達への処罰含め撤回して下さい!!」

 

真正面から警察署長である面構に反論する轟と千土に緑谷は慌てて静止を掛けようとするも彼もまた規則よりも大切にしたい人を救う者──ヒーローとしての在り方についてかつて合格通知の際にオールマイトから教えられた言葉が蘇り拳を強く握る。

 

「僕も……僕も同意見です! グラントリノから待っていろって言われてて……それでも個性を使って勝手に戦闘をしていて……こんなことを言うのは生意気だって分かっていますけど……お願いします!」

 

真っ向から対立する轟や千土とは違う、自身の非を認め頭を下げ──それでも尚ハッキリと自身の意志と願いを口にする。

 

「──いいや駄目だ。法律上処罰は免れないだワン」

 

「この犬──!!」

 

しかし面構はそれらを一蹴する。

無情な言葉についに轟はその顔に怒りを露わにする。

 

「待て轟! 落ち着け!!」

 

最早話は平行線、目の前の面構に掴みかからんと近づく轟にグラントリノが静止をかける

 

「──ったく、これだから若い者は血の気が多い。話は最後まで聞け」

 

呆れたような口調でグラントリノが愚痴を漏らしつつ隣の椅子に座る面構に再び視線を向け"本題"に入るよう促す。

面構は一度渡された冷たいお茶にで喉を潤して──それを話す。

 

「──っと、普通なら先程言ったように処罰が下される……が、これは最初に述べたように警察としての意見。更に言えば世間に今回の詳細を公表してしまった場合の話。公表すれば世間は君達を褒め称えるが我々は警察として君達を規則違反として取り締まりそして処罰を与えなければならない」

 

先程も聞いた警察署長の話、だが面構は「しかし」とその続きを口にする。

 

「──しかし、汚い話だがもしこれを公表しなければステインの傷、火傷跡からエンデヴァーを功労者として擁立させてしまうことが可能なんだワン。幸い目撃情報は少ない。つまり今回君達の行った規則違反はここで握り潰すことができるんだワン。──どうする!? 君達は公表して世に褒め称えるか、それとも公表を伏せ処罰を下されずに済むか!」

 

どちらがいいか──そう面構は問い掛ける。

当然、答えは皆決まっている。そもそも自分達の行動理由は世間からの称賛や自身の力の誇示等ではなくただただ友人を救いたいという思いこそが始まりであり──それは今はまだ必要ない。

 

「まぁその分監督不行き届で俺達はその道処罰されちまうが……前途ある子供達の為だし俺も飯田君のことをちゃんと観てなかったことになるからな。──お互い反省だ」

 

ポンっとマニュアルが飯田の頭に軽い手刀を降ろす。

実際彼らプロヒーロー達が負う処分は決して軽いものはないだろう──それでも飯田の為、そう言い切るマニュアルの言葉に彼の器の大きさを感じる。

飯田も、そのマニュアルの言葉に涙を堪え「すみませんでした」と震える声で謝罪する。

 

「よし! 今度からはちゃんと気を付けろよ! 立場とかちゃんと自覚もってな」

 

「……はい!!」

 

その様子を見届け千土は轟、緑谷と顔を見合わせて面構えと向き直る。

 

「今回の件、公表は控えて下さい。俺達はただ救いたいものがあっただけです。──世間からの称賛は今はまだ要りません」

 

総意として千土が告げた言葉に面構はスッと頭を下げる。

 

「──我々大人のズルのせいで本来君達が受けていたであろう称賛の声は誰にも知れ渡ることはなくきえてしまうが……せめて共に平和を守る人間としてこれだけは言わせて欲しい──心の底から……ありがとう!!」

 

深々と頭を下げた上での礼の言葉。

それに戸惑いながらも千土達もまた感謝する。──自分達もまた目の前の大人達に救われたのだと。

 

「……そういう事ならもっと早く言って下さいよ……」

 

若干不貞腐れた様に轟はぼやく、思いっ切り食って掛かった罪悪感を覚えてしまっているのだろう──全くもって自分も同じ心境なのだ、良く分かる。

 

「さて、では私は事後処理があるのでこれで失礼。──後の事はそれぞれの方針でお願いします」

 

そう言って面構は素早く椅子を片付けて病室から退室して行った。

──さて後の事とはどういうことだろうか……と、安堵していた自身の心が一気に氷点下へと落ちると同時に自身が腰かけたベッドの正面に誰かが立つ。

 

素意識に身体が震えだす、一体何時から俺のベッドはギロチン台も兼用しているのだろうと思いながらゆっくりと見上げるとギャングオルカが静かにこちらを見ていた。

 

「さて……次はこちらの話をしたいのだが……構わんな?」

 

「…………、……はい……」

 

緑谷や轟、マニュアルさんに救援の視線を送るもすぐに視線を逸らされてしまう。

どうやら助け船は来てくれないらしい──ちくしょう。

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

面構署長と話した頃からだいぶ時間が過ぎたその日の午後。

すっかりと日の暮れた夕暮れ時、千土はギャングオルカと共に彼の事務所へと戻ってきたのだった。

──そして今……

 

「シャチョー……良いんですか? 地城君病み上がりでしょうに」

 

「入院した昨日の時点でこの反省文10枚書き上げていたのだ問題なかろう」

 

ギャングオルカ事務所の書類作業を行っていた。

当然重要書類は任されていないがトップクラスのヒーローであるギャングオルカの事務所となれば何かと記録や報告による書類が多いらしく普段書類作業を受け持っている経営担当のサイドキックである蛸筆さんという女性に協力して貰いつつ今回の保須市での記録をとっていく──蛸の個性で無償で賄えるのは便利なのだろうが書類を墨で書くのはどうなのだろうか……

 

ともあれ幸いな事に今回の騒動で半ばを過ぎたこの職場体験、独断行動のペナルティで受け入れを拒否されることはなく、その代わりとしてこの事務所での役目がパトロール等から書類関係や事後処理の記録等の支援が主になった。

 

「ふん、奴には説教や灸を据えるよりこの形式の罰の方が効果があるだろう」

 

もっとも面構署長が退室した後、病室でとことんまで説教も行ったのだが。──今の何かと厳しい規則がなければ多分拳も出していたなとギャングオルカは思いつつもそう話す。

 

「それで残る期間中のヒーロー活動体験の禁止ですか。……せっかくの雄英体育祭優勝者なんて金の卵にも厳しいですね」

 

「所詮は卵だ。規則違反の罰を甘くすればただ腐るだけだ、容赦する理由はない……本当に金の卵ならば尚更な」

 

ギャングオルカは極めて厳格にそう言い切る。

サイドキックの男性はこれはもう無理だなと長く彼の下で働いてきた経験から少し残念そうに資料と向き合う問題児の背中を眺めて自身のデスクへと戻るのだった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

その日の晩、自身の宿泊先のホテルに戻った千土は帰宅途中に買った夜食と明日の準備を済ませると携帯の電源を入れ、ヒーロー殺しとの戦闘で一時入院する旨を昨日の内に伝えておいた友人と身内からそれぞれ追加の連絡が入っていることに確認する。

 

怪我の心配をする友人達と受け入れ拒否を心配する身内達の精神性の違いにほんの少し笑みが浮かんでどちらに対しても「問題なし」と伝えておく。

 

「……さて、どうすりゃ良いかな……これから」

 

身から出た錆、自業自得。

自身の行動が原因とはいえ残る2日間のヒーロー活動の体験や訓練場の使用は禁止されてしまった。

無論、その処置に文句はない、むしろ多大な迷惑をかけたにも関わらず未だに事務所においていてくれていることに感謝しかない、本来ならばこれ以上の迷惑をかけない様に下された指示に全力で応えるのがせめてもの恩返しというものだろう──だが。

 

「──ヒーロー殺し、それに脳無がまた……」

 

自身など遠く及ばぬ実力者でありプロヒーロー達さえも威圧したヒーロー殺し、そしてUSJの際に相対した化け物、昨日保須市で見たものはただ事務作業に勤しんでいることを受け入れさせないものだった。

 

──実力が足りない、時間が足りない……ならば。

 

 

 

「こんなことをいつまでもしてるわけにはいかねぇ──最高のヒーローになる為には……」

 

 

 

──手段なんか選んでられない

そう呟き千土は両目を閉じ睡魔にその意識を委ねるのだった。

 

 

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