登校時間、千土は二度と遅刻しないよう朝食を早めに済ましかなりの余裕をもった状態で学校に向かっていた。
校舎が見えてきた辺りで見知った背中を見かけ駆け寄った。
「よっ耳郎、早いな」
「うわっ! ……何だ千土か」
「うわって、何をそんな驚いてんだよ?」
「ごめんって、……あれ見てよ」
若干不本意そうな表情を浮かべた千土に耳郎は謝りつつため息混じりに校門前を指さす。
その指の示すものを見て千土もまた理解したと肩を竦める。
「マスコミか、大方オールマイトが教師になったんでここぞとばかりに冷やかしに来やがったか」
「あそこ通ったら間違いなく集中砲火じゃん? どうしようか悩んでたんだよね」
「納得、……個性で穴掘って下から行くってことも出来なくはないけどなぁ」
「それやったら絶対怒られる……ぐらいじゃすまないでしょ?」
「だよなぁ」
"個性"の使用は原則ヒーローのみと定められている、いくらマスコミを避ける為とはいえ私的な理由で使用すればただで済むとは考えにくい。
ましてや地面から校内に入るなど間違いなく警報を鳴らすことになる、最悪除籍処分すらありうるだろう。
「うぅ、しょうがない、何とか走って抜けるしか……」
マスコミへの対応に自信がないのだろう、少し怯えた様子で呟く耳郎を見て千土は周囲を一度見渡す。
「春先だけどあるといいんだけどな、少し待ってろ」
「千土?」
それだけ言うと千土は近くに店の中に入っていく。
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数分後千土は紙袋を両手に抱えて店の中から出てきた。
「待たせたな、やっぱ春先だと中々見つからなくてな」
「何してたの? ってちょっと?」
千土の行動が理解できずに戸惑う耳郎だったが紙袋を手渡され更に戸惑う
「ロングコートと帽子、それで顔と制服隠して携帯のカメラ片手に野次馬のフリして突っ込むぞ」
紙袋を開けてみるとその言葉通りにグレーのロングコートと黒の帽子が確認できた
「なるほど、変装してやり過ごそうってこと……ってこれ自腹!? いくらしたの?」
帽子を被りコートを羽織って制服を隠すべくボタンを留めた辺りで耳郎はそのことに気づいた。
「いいから行くぞ! 絡まれなくとも押し合いにはなるんだ固まって行くぞ!」
「えっ!? ちょっと!?」
しかし千土はさっさと変装を済ませると財布を出そうとカバンに伸ばした耳郎の手を握ると彼女を引っ張りながらマスコミの塊の中に突撃していく
「どいて下さい、うちにも撮らせて下さい」
適当に演技を交えながらマスコミを掻き分け校門へ徐々に近づく
「だいぶ前に進めたな、耳郎大丈夫か?」
「だ、大丈夫だけど……手」
「手? あぁ握り過ぎたか? 悪いけどこの人の波だ痛くてももうちょっと我慢してくれ」
「そ、そうじゃなくて、あーもうっ! さっさと抜けよ!」
「了解、少し強引に進むぞ!」
前方の集団を肩で強引に掻き分けて遂に最前列にでる。
「よし何とか来れた、私服の俺らが校舎に入ったらこいつらも釣られてくるかも知れないからサッと脱いで一気に校門潜るぞ」
「お、OKいくよ、せーのっ!」
繋いでいた手を放して同時にコートのボタンに手をかけ、隠していた制服を周囲に晒す。
周りを掻き分け最前列に来た2人が雄英生であることに気付き周囲のマスコミが一気に騒ぎ出す。
「クソ、もう気付いたか行くぞ耳郎!!」
「ちょっ!?」
離れていた手を再び掴み、強引に引っ張り校舎の中に駆け込むのだった。
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「あー疲れた、校舎入るだけで一苦労ってどうよ」
「い、いいから手ぇ、もういいでしょ」
「あ、悪ィな」
僅かに顔を赤らめた耳郎の言葉に未だに手を握ったままだったことを思い出し、謝りながら手を放す。
「少し強く握ってたからな痛かったか?」
「いやそれは別に大したことなかったし、おかげで助かった訳だし……ってそうじゃなくてコートと帽子の代金」
「気にすんな在庫処分のセール品だ、そもそも俺が勝手に買ったもんだ」
「いやでも悪いし、こないだだって奢らせちゃったし」
「ていうかむしろ金はいいから貰ってくれ、コート二着はさすがにカバンに入らねぇ」
校舎内でコートは着れない上にそもそも季節的にも着ていられない為何とかカバンに押し込みながら千土はそう言う。
「まぁ在庫処分から適当に取ってきたもんだから色とか女子向けじゃないし趣味じゃなかったら捨ててくれていいから頼むわ」
「わ、分かった、じゃあ貰っとくね」
「サンキュな耳郎」
「……なんでアンタがお礼言うのさ」
「え?」
「何でもない、ありがとねッ!!」
急に小声になった耳郎の言葉が聞き取れず首を傾げると耳郎は若干怒ったのように声を荒げた礼を言い去っていった。
一人取り残された千土は何故怒られたのか分からず少し困惑するも、とりあえず自分のせいだろうと適当に結論づけると外の方に視線を送る。
「それにしても凄いなマスコミ、他の皆も遅刻しなけりゃいいが…」
遅刻による反省文を書き殴った千土だからこそその重みが分かる。
反省文はもう嫌だと思いつつ少し早歩きで教室に向かう
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「学級委員を決めて貰う」
「学校っぽいのきたァァァァァッ!!」
マスコミの集団をやり過ごした生徒達に告げられた相澤の正に学校といった言葉に皆高揚する。
しかしそれ故始まったのは立候補の嵐だった。
ヒーローを目指す者として他の者より他者を導く経験を多く積みたいのだろう、自分こそがという意見が教室中に響く。
誰もやりたがらないより遥かに良いがこれはこれで問題だった。
(学級委員ねぇ、トップに立つ経験ってのは得たい……が、その為に早朝や放課後呼ばれる可能性があることを考慮すると避けたいな)
ある事情で朝早くと放課後の時間が多忙な千土にとって学級委員の役目は興味はあれど望むものではなく周囲の様子を一歩引いて眺めていた
「皆静粛にしたまえ!! "多"を導く重要な仕事なんだ! それをただやりたいという理由で決めてしまって良い筈がない、ここは皆が信用する人物こそを委員長とするべきだ!!」
いつまで経っても決まらぬ現状を打破する飯田の発案が教室に響く。
もっともその彼自身が誰よりも真っ直ぐに挙手している辺りギャグで言っているのかと思ってしまう。
「嘘つけ!! そびえたってるじゃねぇか!!」
「そもそも知り合って日も浅いのに信用する人物っていうのも難しいわ飯田ちゃん」
「だからこそ!! ここで票をとった者が本物である証明だと思わないか!?」
「まぁ確かにそれなら皆納得するんじゃないか? どうせこのままじゃ決まらないしそれで良いだろ、相澤先生もだいぶストレス溜まってきてるっぽいしな」
なおも力説する飯田の言葉に合わせて告げられた千土の発言を聞き皆、相澤に視線を向けると「いい加減さっさと終わらせろ」と言いたげな相澤の顔が視界に入った為、反論も一気に無くなり飯田を言うように多数決を行うこととなった。
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(さて、多数決になったのはいいが誰に投票するかな?)
投票用紙を前にペンを回しながら思案する。
(普通に考えると統率力のある奴なんだが……まだ皆のことは良く分からんし推薦組の二人のどっちかにするかな……いや)
自己推薦をしない以上最もふさわしいと思える者を選ぶべく、優秀である推薦組の二人を思い浮かべるもよりふさわしい人物のことを思い出す。
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結果として大半の者が自己推薦の為2票以上を取ったものが少ない中、意外なことに緑谷が3票を得て委員長に、そして1票差の八百万が副委員長となった。
「ぼ、僕が委員長!? マ、マジでか!?」
喜び以上に驚愕と緊張が強いのか緑谷は身体を震わせ戸惑っていた。
(緑谷が委員長か、選んだ奴が選ばれなかったのは残念だけどこればかりはしょうがないか)
千土は少しばかり惜しみつつも仕方ないと割り切るが自分の投票した者の結果を見直してあることに気付く。
(投票数1ぃ? アイツ自己推薦してねぇのかよ何がしたかったんだ!?)
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委員長も無事に決まり授業も滞りなく進み学生待望の昼休みとなり、千土は一度身体を伸ばすとポケットから財布を取り出し中を確認する。
「今朝の出費でもう金が無ぇな、……っつってもこれ耳郎に知られる訳にはいかんしなぁ」
数日間の付き合いながら彼女は責任感の強いところがあるのは分かった為、今朝の衣服代で所持金が殆ど尽きたと知れば恐らく謝ってくることだろう。
とはいえ今朝の事は完全にマスコミのせいであり、彼女に落ち度は一つもない以上無駄に罪悪感を与えるのは気が引けた。
そして一番の理由として一度カッコつけていて金がなくて昼飯買えません等とバレるのは正直恥ずかしい。
「……という訳で轟、そのうどんくれ」
「何がどういう訳か知らんが会話したことねぇ奴にいきなり飯たかるとかメンタルすげぇなお前」
障子や常闇の場合良く話す機会があるため耳郎の耳に入る恐れがあると考えた結果、千土の出した答えは最も会話する機会が少なそうで口の固そうな轟に頼むという無謀極まりないものだった
「良いじゃねえか、明らかに適当に日替わりセット頼んだらついてきたのがうどんで麺類被って困ってたっぽいし」
「……まぁな」
ここ数日学食で好物の蕎麦を頼み続けている轟だったが、如何せん消化の早い蕎麦では午後の授業が終わる頃には小腹が空く為適当に日替わりセットを頼んでいたのだが今日のセットはうどんだったらしく、片寄ったセットに密かにまいっていたのだった。
もっともだからといって残す気など毛頭なく、とりあえず本命の蕎麦を食べてからうどんも頂こうかと考えていたのだが。
「別にやるぶんには構わねぇけどよ、昼飯買えないほど金無いのか?」
「あ、マジで? サンキュー」
「マジでメンタルすげぇなお前……」
問いかけには一切応じず、前半の台詞のみに反応し対面席に座りお盆からうどんの丼をかっさらっていく千土の行動に若干戸惑う。
「いやー助かったわ、昨日まではそこそこ持ってたんだけどな、今朝予想外の出費があってさ」
「何だ、聞いてはいたのか……」
「あ? 何が?」
「いや、何でもねぇ」
自分と目の前のクラスメイトは壊滅的に噛み合わないことを察して轟は押し黙る。
「そうか? なら続けるけど、実は今朝登校前に知り合いが家に押し掛けてきてな、スロットに生活費吸われたから恵んでくれとか言ってきてな」
「完全に駄目な奴じゃねぇか」
「まぁ3倍にして返すって言うし、先日は馬に勝ってたから今度もいけると思って貸したんだけどさ」
「いやそれで貸すなよ」
「そんなこんなで今金ないんだわ」
「自業自得じゃねぇか」
「とにかく助かったよ、また後日3倍にして返すわ」
「今その台詞は微塵も信用できねぇんだが?」
因みにここまでの話は全て嘘ではなく完全に小遣いが尽きたのは変装の衣装代であるが、それ以前にこの出来事があったことでかなり所持金が減っていたのだった。
屈託なく笑いながらうどんを食べる別段親しくないクラスメイトの姿に轟は呆れ、極めて当たり前のことを問う。
「親からは貰えなかったのか? 厳しいのか?」
"親"、その言葉を口にするのはあまり好きではなかったが昼飯代すら儘ならない千土に疑問を持った為そう問いかけると千土は少し考える素振りを見せた後に口を開く。
「……うち両親はいなくてな、さっき言った知り合いの世話になってんだ」
"両親はいない"、それが一時のことを言っているのではないのだと理解して轟は僅かながら眉を動かす。
「……悪ぃ、無神経だったな」
「なぁに気にすんな? 大体当然の疑問なんだ、むしろ気にさせて悪かったな」
再び屈託なく笑い出した千土に轟は少し安心し無意識に入っていた肩の力を抜く。
「まぁそんな訳で飯を諦めかけてたから助かったわ」
「そうか、なら良かったな」
「おうサンキューな轟、正直気難しそうに思ってたけど案外普通に良い奴だなお前」
「飯奢らせたからだろそれ…………っ!?」
現金な掌返しにさすがの轟も苦笑した時その異変が起こった
『緊急警報! "セキュリティ3"が突破されました、生徒の皆さんは慌てず冷静に屋上まで避難してください、これは訓練ではありません、繰り返しますこれは訓練ではありません!!』
食堂、学校中に大音量のアラートが響き渡る。
「これって……」
「校内に侵入者……ってことだな」
突如鳴り響いた警報に半ばパニックに陥った生徒達の中、千土と轟はあくまで冷静に状況を確認する
「避難しようにもこのパニックじゃどうにもならねぇな……地城?」
周囲を見渡した後視線を戻すと床に両手を着いて目を閉じる千土の姿が目に入る
「生徒達のパニックで良く分からんが侵入者はかなりの数がいるな……だが何だこれ全力で押しかけて来てるのか? とても侵入者の歩き方をしてねぇぞ」
「なるほど、地面を使って索敵も出来るのか」
「歩く振動を地面を通して感知するんだよ、基本足が地面に着いてたら充分なんだがこのパニックじゃな。──ん? 連中、足を止めたな」
『やあやあ生徒諸君、校長の根津です。侵入者の正体はマスコミだったとのことだ、だからもう避難は大丈夫、後は先生達で対処しますので諸君らは自分達の教室で連絡があるまで待機していてくれたまえ』
索敵していた侵入者達が足を止めると同時に聞こえたその報告を受け、パニックに陥っていた食堂も少しずつだが落ち着きを取り戻した
「マスコミか、朝といい面倒くせぇ」
「何だ轟、やっぱお前も絡まれてたのか──っ!?」
ため息混じりに呟く轟に声をかけようとした時、まだ床につけていた手を通して"それ"に気付く。
マスコミ連中から遠く離れた位置の床に男性二人分の歩く振動が響いていた。
明らかにマスコミとは異なる存在に嫌な予感が駆け巡る。
(思えば不自然なことだらけだ、ただのマスコミが雄英のセキュリティを突破できるわけがねぇ、何より自分達以外の局の人間だっているってのにそんな行動とれるわけがねぇっ!!)
だとしたら考えられる答えはただの一つ、マスコミは目眩ましとして利用された、つまり今回の騒動を起こした侵入者とは──―
「おい地城、いつまでそうしてんだ?」
「悪ぃ轟誰か先生呼んどいてくれ、場所は確か資料室だ」
それだけ言うと既に落ち着いた生徒達を掻き分けて二人組の侵入者の元へ駆け出す。
背後から轟が呼ぶ声が聞こえるが自身を襲う嫌な予感が足を動かしていた。
▼▼▼
「ちっ! もう立ち去った後か」
資料室に辿り着くと気配を可能な限り消しつつ中の様子を伺ったがそこにはもう誰の姿もなかった。
「妙だな、奴らが動いた様子はなかったんだが」
もう一度周囲を見渡すがやはり既に誰もいない、隠れている気配も一切感じられず千土は張り詰めていた力を僅かに抜く
「歩くことなく移動したとすれば浮遊の個性か飛べる異形型の奴がいたのか? ──或いは……」
「生徒達は教室で待機しろと連絡があったはずなんだかな」
「……相澤先生」
少なからず怒気が含まれている声が背後から聞こえ、千土は半ば諦めたようにその声の主の顔を見る
「すみませんさすがに軽率過ぎました」
「分かってるなら一人で行動すんな、万が一のとき責任をとるのは学校側なんだ。──それで状況は?」
「資料室でしたよねここ、あんまり生徒が見るべきじゃないと思って細かくは見てないですけど扉が破られたぐらいで被害らしい被害はなさそうっす」
雄英の記録や他学校との打ち合わせのメモ、年間のカリキュラム等多くの情報をまとめた教室は本来厳重な施錠が施されていたが今はその施錠が崩れたように壊されていた。
「校門のセキュリティと同様の壊れ方だな」
「──どう考えてもマスコミの仕業じゃないっすよね」
「つまり、"その可能性"を理解していて一人で来たんだな」
相澤の言葉に千土は「しまった」と口を開く。
「まぁ説教は後だ、とにかくお前は教室に戻れ」
"説教"その言葉が意外でふと呟く。
「正直この場で除籍処分を覚悟してました」
「なら二度とこんな行動はするな。お前はまだヒーローじゃない、あくまで生徒だ」
「はい、失礼します」
もう一度謝罪を述べ踵を返す──そこでふと思い出して足を止める。
「そうだ、ここに来ていた侵入者、一切歩いた様子がないのにいなくなってました」
「何?」
「異形型か何らかの個性、──最悪ワープしている可能性も……」
「分かった、他の教員達との情報共有の際に伝えておく」
「お願いします」
それだけ伝えると今度こそ千土は教室へ戻っていった
教室に着くと轟から事情を聞いたのであろう友人達からの総説教を貰った後に暫くして戻ってきた相澤からも説教を頂くことになったのだが……
▼▼▼
「あー疲れた、説教だけじゃなく反省文までとは」
「身から出た錆だな」
「むしろそれで済んで良かったじゃん?」
反論の余地もない常闇と耳郎の言葉にがっくりと肩を落とすとその状態のまま口を開く。
「てかお前らは何で待ってたんだよ、先に帰って良いって言ったろ?」
「別に、どんだけ絞られて帰ってくるかなって思っただけだし」
「人の災難を娯楽に……」
(今朝借り作ったのに置いて帰ったら後味悪いと言っていたとは言わない方が良いのか?)
(恐らくな)
友人達の心ない思惑に悲しげな声を出す千土に常闇と障子は曖昧な表情を浮かべ、ひとまず話題を変えることにした。
「そういえば地城は今朝の投票が0票だったが誰に入れたんだ?」
「あぁ飯田に入れた」
「飯田? 確かに真面目な奴だが何故?」
「だって皆が立候補して話しが進まなくなってたときに投票のアイデア出してたろ、あれ完全に委員長の仕事してただろ」
「なるほど、だがだとすると飯田自身の票は……」
「多分緑谷にでも入れたんだろ?」
「それは……何というか」
あれほど真っ直ぐに挙手しておきながら他人に票を入れるという生真面目過ぎる性分に皆呆れる。
「しかしそうなると地城は委員長に相応しい者を"見極めた"ということか」
「いやただの偶然……っていうのは飯田に悪いか?」
昼の騒動の最中パニックになっていた生徒達を落ち着けたという功績で緑谷は自身よりも委員長に相応しいと言い飯田にその座を渡したのだった。
「しかしやりたいくせに他の奴に票入れたり、選ばれていながら譲る奴だったり変な奴ばっかだなうちのクラスは」
「そこに指示を無視しての独断行動をする者も入れるべきではないのか?」
「さっさと忘れろよ鳥頭」
「生憎記憶力にはそれなりに自信があるが?」
痛いところを突かれ言い返せない為顔をしかめる千土に対して常闇はフッと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ていうか本当に何であんなことしたのさ?」
耳郎の問いに千土は一瞬だが答えに困る。
千土の抱いた予想は彼女らに余計な不安を与えかねないものだったから──しかし彼女らも自分と同じヒーローを目指す者であることを思い出し直ぐに考え直す。
「侵入者の正体はマスコミだった──けどその中に"ヴィラン"が混じってた可能性がある。正確には"ヴィラン"がマスコミを利用して侵入してきたって言った方が良いか」
「何だと!?」
「あくまで可能性だけどな」
「だが確かにただのマスコミの行動とは考えにくいのも事実だな」
「そういうこと……どした耳郎?」
障子の言葉に頷いていると横に耳郎が自分のことをじっと見ていることに気付き首を傾げる。
「アンタ、もし本当に侵入者が"ヴィラン"だったらどうするつもりだったの?」
他の2人も口にはせずとも気にしていたのだろ何も言わず千土の顔を見つめていた。
さすがに誤魔化すことも叶わないと判断し諦めたようにため息をつくとぽつりと声を出す。
「正直分からねぇ、今回にしても勝手に身体が動いちまってた」
「何それ、無意識に侵入者のとこ行ってたってこと?」
疑うような口調で問い詰める耳郎に対し首を縦に動かすと静かに告げる。
「──ただ、俺にとって"ヴィラン"ってのは心底気に入らない連中だけどな」
その声は常に陽気な千土のものとは思えない程冷めきった何かを含んでいた。
「地城?」
不意にその声を聞いた3人は不穏な"それ"に戸惑う
「人を脅かすものなんていつか全部無くなっちまえばいいのにな」
冷たく呟く千土に対してその日耳郎達は何も話すことは出来なかった。
──END──