地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第5話 黒き霧の強襲

 マスコミの侵入による騒動から数日後、ヒーロー基礎学の時間、教壇に立った相澤は生徒達に告げる。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトにもう1人加えての3人体制で行うことになった」

 

「はーい、今回は何をするんですか?」

 

「災害水難なんでもござれ人命救助訓練だ」

 

 人命救助、ヒーローを志す者としてその言葉は皆に気合をより一層強くさせる。

 

「救助はヒーローの本懐だからな、戦闘訓練以上に厳しいかもな」

 

 若干身構えた様子の千土の言葉に耳郎も「かもね」と呟き相澤に視線を向ける。

 

 マスコミ侵入のあった日の放課後、普段とかけ離れた冷たい様子を見せた千土に対して耳郎達はどう話そうか迷っていたが、翌日には普段と変わらない様子に戻っており肩を透かすということもあったが数日経った今ではすっかり元の調子を取り戻していた。

 

「今回コスチュームの着用は自由だ。それと訓練場所はここから少し離れた場所だ、よって移動はバスでする。各自準備を急げ」

 

 連絡を終えると相澤はさっさと退出していき、残された生徒達に遅れたら何と言われるか分かったものではない為急いで準備を整えバスへと向かうのだった

 

 ▼▼▼

 

「こういう作りだったとは……」

 

 バスに乗り込んだ直後飯田は一人唸っていた。

 

 それというのも飯田は委員長として気合をいれ皆の座席を割り振っていたのだが、バスの座席の造りが想定と違異なっていたのだった

 

「座席の指定意味なかったね」

 

「ぐおぉぉぉぉ!!」

 

 無慈悲な追い打ちも加わったことで飯田は完全に凹んでしまったが、A組の者達は思い思いの会話を始めていった。

 

「お、このゲーム新作出るのか。爆豪知ってた?」

 

「……」

 

 一方千土も"隣の相手"が面倒な相手ではあるが折角のバス移動中に黙っているのも勿体なく思い携帯ニュースをネタに会話を試みていた──が案の定無視された。

 

「えー、あのヒーロー夫婦離婚すんの? どっちも好きだったから勝手に祝福してたのに……、爆豪どう思う?」

 

「……」

 

「はぁ!? 地球に隕石接近中!? 結構大きいらしいぞ爆豪」

 

「……」

 

「マジで!? あのアニメ2期製作決定!? 嫁にまた会えるやったぜ」

 

「……」

 

「あー何かこの情報だけで幸せだわ。生きてて良かった」

 

「絡まねぇのかよ!?」

 

「なんだよ爆豪うるさいな」

 

「テメェが先に絡んできたんだろうが!? つぅか嫁ってなんだ気持ち悪ぃ!!」

 

「は? お前その歳で推しのキャラの1人もいねぇの? 何を糧にして生きてんの?」

 

 気が付くと自然と会話が始まりそこそこ楽しむことができていた。

 

「あなたの個性ってオールマイトのものと似ている」

 

 しかし不意に聞こえた蛙吹の言葉に興味を惹かれ視線を向けてみるとその言葉をかけられた緑谷は挙動不審になりながら「よくある個性だよ」と否定している。

 

「そうだぜ梅雨ちゃん、オールマイトの個性はあんな反動はねぇ。似て非なるものって奴だ」

 

 切島もまたその言葉に同意すると緑谷はどこか安心したような様子だった。

 

 そこからはどうやら話題の流れも変わったようなので再び目を閉じてバスの到着を待とうとする──が

 

「でも強さで言えば一番はやっぱり轟と爆豪の二人だよな、派手だし」

 

「でも爆豪ちゃんはいつも怒ってばかりだから人気出なさそう」

 

「確かになー」

 

「んだとゴラァッ!!」

 

「はい落ち着け、ステイステイ」

 

「犬扱いしてんじゃねぇッ!! ぶっ殺すぞ反省文野郎ッ!!」

 

 会話の流れで煽られた隣の爆豪が案の定キレた為適当に宥めていると怒りの矛先が自身に向きため息をつく。

 

「で、でも個性を使う技術なら地城君も凄いと思うよ、訓練の映像や相澤先生のテストの時もびっくりしたし」

 

「そういや地城の個性も凄ぇよな、岩とか砂とかいくらでも操れんだろ?」

 

 唐突に自分の名前が出て緑谷達に向き直る。

 

「俺と瀬呂と戦ったときは岩や砂を動かすだけじゃなくて脆くしたり固くしたり、腕に纏ったりしてたし、テストの時は地面低くしたり高くしたりしてたよな?」

 

「そうだな、後は重さの増減、穴堀り、歩く振動の感知と、あと……まぁそんなもんだな」

 

「凄ぇ幅広ぇなやっぱ」

 

「オイラももっと凄い個性なら女子の注目ももっと浴びれたってのに……」

 

 自身の個性に卑屈になっている峰田が嫉妬に満ちた声で呟くのが聞こえた。

 

「──そうだな、確かに俺は"恵まれた個性"なんだろうな」

 

「地城?」

 

 寂しげに語るその姿に皆傾げる。

 

「世界にはさ、自分の個性で苦しんでる人だっているんだ。その人達からすれば俺は相当恵まれた奴なんだろうな」

 

 そう言うと千土は軽く息を漏らすといつもと変わらない陽気な声で続ける。

 

「だからこそ、俺たちはもっと地に足つけて自分の"個性"を伸ばさないとな。俺もお前も充分恵まれてんだ、出し惜しみしてたらもったいねぇだろ?」

 

「な、何だよ、何か悟ったみてぇに言いやがって」

 

「ははっ、確かにらしくなく真面目に語り過ぎちまったな、しっかしそういう意味じゃ俺はお前がかなり心配だぜ緑谷、お前の個性本当に大丈夫なのか?」

 

「えっ!? 僕が!? えっと確かに今はまだ上手く扱えないけど、それでもいつかきっとこの力を使いこなしてしてみせるよ!」

 

「なら良いが、扱い切れずに誰かを傷付けたらそれをずっと背負うことになるんだ、気を付けろよ」

 

「う、うん、ごめん」

 

「あー、いや責めるつもりはなかったんだが……、なぁ緑谷、言いたくなければいいけどお前その個性で子供頃大丈夫だったのか?」

 

 緑谷に謝られ気まずくなりつつも千土は問いかける。

 

「あ、えっと、ほら個性の使用は禁止されてたから、その」

 

「それでもあんなに怪我を負う個性なんだろ、"個性制御施設"から招待はなかったのか?」

 

「"個性制御施設"?」

 

「自身で制御仕切れない危険な個性を持った者達の為の施設だな、昔個性を制御仕切れず意図せず多くの人に被害を出してしまった者がいて一応無実にはなったが周囲から中傷されて、結果"敵"になってしまったという事件があって二度とその様な者を出さない為に設けられたらしい」

 

 聞き慣れない名前に首を傾げた緑谷に常闇が説明を入れる。

 

「個性を制御出来ぬ者が自力で制御出来るまで人里離れた施設で預かり、引退した"元ヒーロー"が育てるというものだ」

 

「へー、そんなところがあったんだ」

 

 彼自身、制御が必要な特殊な個性を持つ為その存在は知っていたがやはり大半の者が知らなかったようだ。

 

「まぁ危険な個性を持った奴が集まる訳だから入れることを躊躇する親が殆どらしいけどな」

 

「詳しいな地城?」

 

「もう着くぞお前ら、お喋りはその辺にしておけ」

 

 相澤の注意が入り皆すぐに会話を止め窓の外に視線を向けると目的地の訓練場の壁が目に入った。

 

 ▼▼▼

 

『USJかよ!!』

 

 訓練場に入ってみれば目に映るのは巨大な遊園地の様な光景でそう叫んでしまうのも仕方なかった。

 

「ここは様々な災害に対しての演習を可能にする為僕が作った施設、その名も"嘘の災害や事故ルーム"略して"U●J"」

 

『本当にUS●だった!?』

 

 宇宙服を模したヒーロースーツを纏ったヒーロー『13号』の言葉に皆ツッコむ。

 

「あれ、確か今回はオールマイトもいるんじゃなかったか?」

 

「そういえば姿が見えないね……って地城、アンタ凄い嬉しそうじゃん」

 

「いい加減気にし過ぎではないか?」

 

「流石に失礼だ」

 

「マジで気まずいんだよ、代わってくれ耳郎~」

 

「どうやって!?」 

 

 耳郎達からさすがに注意されるも千土は弱弱しく呟き皆呆れる。

 

「私語は慎め、オールマイトは遅れてくるそうだから進めるぞ、13号からの説明を聞け」 

 

『はーい』

 

 注意を受け皆あちこちに向けていた視線を13号へと移す

 

「えーそれでは訓練を始める前にお小言を一つ、二つ……三つ……四つ」

 

(やべぇめっちゃ増えてってる……)

 

 徐々に数が増えていくお小言に千土は若干顔を引きつるも耳だけはしっかりと傾ける。

 

『ご存知でしょうが僕の個性は『ブラックホール』です。全てを塵にする事ができ、災害現場ではそれで瓦礫を砕き救助活動をしています。……ですがそれと同時に『簡単に人を殺せる』個性です』

 

 小言というには重過ぎるその内容に皆呆気にとられ息を飲む。

 

「皆さんの中にもそんな力を持つ人もいることでしょう。今の世の中は個性の使用を規制し成り立っているように見えてはいますが一歩間違えれば安易に命を奪えることを忘れないで下さい」

 

「──ッ」

 

 "命を奪える"、千土はその言葉に拳を強く握る。

 

 記憶の中から昔の光景が溢れてくるのを抑え、それを記憶の中に再び戻す

 

 ──決して忘れたりはしない、だが"それ"は今必要なものではないのだから。

 

 握った拳をほどき再び13号の話にし集中する。

 

「今回の訓練では各々自分の個性でどの様に人を救えるのかを学びましょう。君達の個性は決して誰かを傷付けるものではないこと、それを覚えて帰って下さい」

 

『はいっ!!』

 

 どうやら物思いに更けている間に少し話は進んでいたようだが肝心なところはちゃんと聞けたようで安心して皆と同時に大きく返事する。

 

 ヒーローとしての心構えに触れ自然と全身に力が入る、今回の訓練も全力で臨もうと集中し──―それ故に"それ"に気付いた。

 

 噴水広場に浮かぶ小さなモヤのようなもの。それが徐々に広がっていく。

 

 全身に入っていた力は悪寒へと変わり、無意識に臨戦態勢をとる。

 

「相澤先生ッ!!」

 

 やがて充分に広がったモヤの中から大勢の者達が出てくる。

 

 そのいずれもヒーローらしからぬ物々しい雰囲気を発し、何者なのか千土にすぐに伝える。

 

「分かってるッ!! お前ら一塊になって動くなッ!!」

 

 相澤の鋭い警告が入るが大半の生徒は未だに理解が追い付いていない。

 

「何だこれ? ひょっとして入試みたくもう始まってるってことか?」

 

「動くな!! あれは──"ヴィラン"だ!!」

 

 ゴーグルを装着し臨戦態勢をとった相澤の、そして明確な殺意を向けてくるヴィラン達の空気を受け皆身体を硬直させる。

 

「ヴィランって!? 馬鹿かよ何でヒーロー学校に襲撃してくるんだよ!?」

 

 狼狽える上鳴の言葉を聞きつつも相澤は先日の騒動を思い出す。

 

「やはりあのマスコミ共は奴らにけしかけられたか」

 

 千土の報告でもあった希少なワープの個性持ちが連中の中にいることも含めて合点がいく。

 

 やはりあの一件は全てこの為に奴らが仕組んだものだったと。

 

「先生、侵入者様のセンサーは!?」

 

「当然設置している……だが何故か起動していない」

 

「ならそういう個性持ちが連中の中にいるってことだな、校舎から離れた場所で通信手段も断つ。奴ら無計画な馬鹿じゃねぇな」

 

 さすがと言うべきか推薦組の二人は冷静に状況を整理し始めていた。

 

「なら上鳴、お前は校舎に連絡を試みろ。ッ!! おい地城、何する気だ?」

 

「とにかくこの状況は明らかに良くないんで、連中の立ってる地面を沈めます、ワープ持ちがいたとしてもそれで少しは時間が──」

 

「駄目だ、お前達は奴らを刺激するな──まだな。13号、生徒を守れ」

 

 そう言うと相澤はヴィラン達が集う噴水広場に向かい身を乗り出す。

 

「相澤先生まさか一人で!?」

 

「そんなっ!? あの数相手じゃイレイザー・ヘッドの本来の戦い方は」

 

「一芸ではヒーローは勤まらん」

 

 緑谷の制止を振り払い相澤は噴水広場に飛び出していく。

 

 すぐにヴィランの大群との交戦が始まるが、相澤は一対多の不利な状況も物ともせず、個性と特殊な布を合わせた戦術で次々とヴィランを薙ぎ倒していく。

 

「す、凄ぇ」

 

「皆さんすぐにこちらに!! 避難しますよ」

 

『させませんよ』

 

 目の前にヴィラン達を出現させた黒いモヤが広がる

 

『はじめまして……我々は"敵連合"と言います。さて簡潔に要件を申しますと……我々の目的はオールマイトの抹殺、平和の象徴の破壊です』

 

 スーツに包まれた部分は分からないが視認出来る部分全てがモヤのヴィランの言葉に生徒だけでなく13号までもが呆気にとられる。

 

 ヴィランへの抑止力である平和の象徴オールマイト、彼を殺害するために雄英を襲撃する。そんな馬鹿げたことが目的だと想像もしなかった。

 

『──しかし残念ながらオールマイトはいらっしゃらないようですね。ならば仕方ありません、さきに生徒達に──死んでもらいましょう』

 

 初めて向けられる明確な殺意に皆肩を震わせる。

 

「その前に潰す!!」

 

 しかしその状況であっても切島と爆豪は動き、爆発と硬質化した拳を目の前のヴィランに見舞う。 

 

 予想だにしなかった突然の実戦であるにもかかわらず動いた2人の攻撃。強力な爆発に周囲に砂煙が舞い上がるもそれはモヤのヴィランには一切通用していない。

 

『あぶないあぶない、さすがは金の卵達と言ったところか。しかし所詮は卵──』

 

「嘘だろ効いてねぇ!!」

 

 攻撃の手応えが何も無く切島は驚愕する。

 

「攻撃を受け付けねぇのかよ」

 

「そんな、じゃあどうしたら──」

 

「下がれ切島、爆豪!! 闇雲に奴を攻撃しても無駄だ!! スーツで隠した胴体を狙え!!」

 

『何!?』

 

 皆が狼狽えだした中響いた千土の警告に今度はヴィランの方が驚愕した。

 

「奴が"敵連合"とやらのキーマン、ワープの個性持ちの様で全身のあのモヤでものをワープさせてるようだが腕や頭部はともかく胴体は実体があるらしい」

 

『貴様何故それをッ!?』

 

 ヴィランの目付きが鋭くなり丁寧だった口調も一気に荒々しく変わる

 

「ハッ戦う前から油断しやがって、後悔しやがれ」

 

 そう挑発気味に笑いながら自身の周囲に砂を浮かべる千土を見てヴィランの男はハッと周囲を見渡す。 

 

『……なるほど』

 

 最初は先程の爆発で巻き上がっただけと意に介すことさえしなかった砂煙が僅かにだが"何か"に動かされているように自分に寄ってきていると気付く。

 

『この砂で密かに私の身体を探っていたのか!!』

 

「ご名答、お前の腕の部分に触れた砂は何処かに飛ばされたが腹部に触れた砂は飛ばされてねぇ、つまりそういうことだ」

 

 ニヤリと笑い千土は煽るかの様に拍手をする──―と同時に誰にも聞こえぬ程の小声で話しかける

 

(耳郎、常闇に目線だけ足元向けるように伝えてくれ)

 

(え? 何突然!?)

 

(頼むぞ、今のやり取りで奴の注意は俺に向いてる。それを利用してやんのさ)

 

 だが少し離れた位置にいる耳郎はその個性によってその僅かな声を聞き取る。

 

 耳郎は自身から千土に声を送れない為一先ず指示に従い隣の常闇に小声で話しかける

 

(常闇、千土が視線だけ足元向けろって)

 

(何? ……これは、穴?)

 

 常闇は指示に従いヴィランに気取られぬ様に密かに視線を自身の足元に向けるとそこに穴が作られていることに気付く。

 

 横目で常闇の様子を見て自分の指示が伝わったことを確認に千土は続けて指示を送る。

 

(今、奴の背後に穴を作ってその穴と繋げた、お前の"闇影"ならその穴から個性だけで奇襲ができるはずだ。頼めるか?)

 

(ッ!! 常闇ッ)

 

 千土の策を理解し耳郎は一瞬息を飲むがすぐに常闇にそれを伝える。

 

(相変わらず意外と策略家な男だ、……任せろ)

 

 一瞬引き受けるか迷ってしまう。"闇影"は周囲が暗ければ暗い程威力と凶暴性が増す。それを地中に入れれば操り切れる保証はない。

 

 だがこの危機的状況で仲間が作ってくれた次と無い好機、それを託されて逃げる事など出来ない、そしてする気もない。

 

 信頼を寄せられた以上することは一つ──―応えるだけだと決意する。

 

(行け"闇影"!!)

 

 個性で生み出したモンスターを足元の穴に潜らせる。

 

 徐々にだが自身の個性の力が増していくのが伝わってくるがそれでも穴の先へと向かわせる。

 

 ヴィランの男も自身の個性を見破られた為か先程の様な油断は見せずこちらを警戒している──がそれ故に背後に作られた穴に気付いていない。

 

 ──いける、土中の"闇影"は力をかなり増しているが最初から抑えていた為まだなんとか操作が可能なレベルであり常闇は、そして彼の表情を伺った千土はそう確信する。

 

((いくぞ!!))

 

「テメェなんかに指図されなくてもなァ!! 俺は最ッ初からそのつもりなんだよォッ!!」

 

「「なっ!!」」

 

 しかしその状況は吼えながら再度攻撃する爆豪によって変化する。

 

 何故このタイミングで爆豪が突っ込んでいくのかと千土は戸惑うが彼の性格とヴィランの注意を自身に向ける為とは言え自分が出した指示の内容を考えれば当然だったと自分の口下手さに舌打ちする。

 

『無駄なことを……』

 

 ヴィランの男はまた腕で爆発をガードする。がそれでも衝撃までは飛ばしきれないのだろう少し後方、密かに作った穴の後ろへと押された。──それは千土達にとって最悪の結果の呼び水となった。

 

『こんなところに穴?』

 

 自身の背後にいつの間にか出来ていた穴を不審に思い明らかに警戒を向け始める。

 

(クソッ!! これ以上"闇影"を地中に留めるのも危険か……一か八かだ)

 

 形振り構ってられず咄嗟に常闇の表情を伺うと既に制御が難しくなりつつあるのだろう、表情が険しくなっていたのを見て決断を下す。

 

「やれッ!! 常闇!!」

 

「捕らえろッ!! "闇影"!!」

 

 呼び掛けと共にヴィランの手前の穴から影のモンスターが飛び出す。

 

『やはり、そういうことかっ!!』

 

 しかしやはりその奇襲は警戒されていたのだろう、ヴィランは両腕のモヤを極限まで広げ自身の腹部に手を伸ばす"闇影"を飲み込む。

 

 ──そしてそれは"闇影"だけに留まらず、皆よりかなり前方に出ていた爆豪を含め、この場の全員を包み始める。

 

『やはり油断はするべきではない、貴方達は──散らして、確実に殺す』

 

 ──やばい、そう思ったとき千土に逃れる術は既になかった。

 

 暗黒のモヤに包まれ目の前が真っ暗に染まる。

 

 ▼▼▼

 

「皆さん大丈夫ですか!?」

 

 咄嗟にブラックホールを形成し自身と近くの生徒をモヤから守った13号だったが周囲を見渡して愕然とする。

 

 この場に残ることが出来たのは自分が守った者達と辛うじてモヤの外に逃れた極一部の生徒だけだった。

 

「嘘だろ……轟も八百万も、爆豪も地城も飛ばされちまった!?」

 

 ヴィランの男と離れていた為助かった瀬呂は周りを見渡し頼りになる仲間の殆どが居なくなっていることに驚愕する。

 

『流石は雄英と言っておきましょう、実に恐ろしい少年でしたよ。私の個性を看破するだけに留まらず反撃方法まで思い付き実行に移すとは。惜しむらくあの爆発の少年との連携ミスですね、皮肉にも彼は私を救う結果を弾き出してしまったのですから』

 

 不敵に、そして不気味に笑いながらヴィランの男はそう言い目の前に残った者達を捉える。

 

『さて、少々飛ばし損ねた者達もいるようですがこの程度なら私一人でもこと足りるでしょう』

 

 13号は再び周りを見渡すと一人の少年に声をかける

 

「飯田君、ここは貴方が外に出てこの事を他の教員達に伝えて下さい」

 

「えっ!?」

 

「通信手段が妨害されている以上高速で動ける貴方が直接応援を呼ぶ方が早い可能性が高い、お願いします」

 

「行って委員長、ここは私達が何とかするから」

 

「しかし!」

 

 それが正しい判断と理解はした。だが他の者を置いて外に出ることに飯田は躊躇う。

 

『敵に聞こえる作戦会議とは、先程の少年の方が余程できていますよ13号?』

 

「貴方は僕が倒すッ!!」

 

『出来ますか? 貴方に"それ"が?』

 

 圧倒的殺傷力を持つ13号が完全にヴィランの男に対して敵意を向けるも相手はただ不敵な笑みを続けるだけだった。

 

 ▼▼▼

 

 黒いモヤから解放されたとき、千土の目に入った世界は先程とは全く異なるものだった。

 

「ここ、山岳エリアだよね」

 

「その様ですわね、あのモヤで皆あちこちに飛ばされてしまった」

 

「それよりおい、囲まれてんぞ」

 

 一緒にこの山岳エリアに飛ばされた耳郎、八百万、上鳴は皆、今の状況に歯噛みする。

 

 クラスメイト達はあちこちに飛ばされ、連絡手段はなく安否不明、そして何より──

 

「おぉ、やっと獲物が来てくれたぜ」

 

「待ちくたびれたぜ黒霧さぁん」

 

 自分達を包囲し凶悪な笑みを浮かべるヴィラン達。

 

「黒霧、それがあのモヤ野郎の名前か」

 

「地城、今はそんな事気にしてる場合じゃねぇだろ?」

 

 ヴィランが口にした名前、状況からしてそれが先程まで目の前にいた男であることは間違いないと判断しそう呟くと隣の上鳴が焦りを含んだ声を出す。

 

「とにかくまずはここを切り抜けることが優先ですわね」

 

「オイオイ、温室育ちのお子様がこの数を何とか出来ると思ってんの?」

 

 八百万の言葉に嘲る様にヴィラン達は笑い出してある者は手にした武器を構え、またある者は個性を発動し身体から様々なものを出し始める。

 

「皆さん、気を付けて──」

 

「皆、そこから動くなよ」

 

「地城さん?」

 

 短くそれだけ言うと千土は防塵ゴーグルを目に当てながら耳郎達より少し前に出る。

 

「何だガキ? まさか一人で後ろの奴らを守ろうってのか?」

 

「カッコいいねぇ、ヒーローはそうでなくちゃねぇ」

 

 無謀としか思えない行動にヴィラン達は皆ゲラゲラと大笑いする。

 

「どうやらお前ら、雄英のカキリュラムを盗んで計画的に襲撃してきたようだが俺達生徒の"個性"は調べてないようだな」

 

「あぁ? だったらどうした?」

 

「なぁに言いたいことは一つだ。貧乏くじ引いたなお前ら」

 

 たった一つそれだけ告げる。目障りなヴィラン共にはそれだけで良い。

 

 右足を一度浮かせそれを勢いよく地面に打ち付ける。

 

 直後千土の足元から地面全体がヒビ割れていく。ヴィラン達はそれが何を意味するのか理解し浮かべていた笑みが一気に歪む。

 

 ヴィラン達が立つ地面は大きく裂けて行き足場をなくした者達は重力に逆らうことは叶わず大きく口を開けた地面に飲み込まれていく。

 

「うあああああああっ!? 聞いてねぇぞ!? たかがヒーロー志望のガキがこんな──」

 

 その声は最後まで続くことなく崩落していく山岳の奏でる轟音に掻き消されていく。

 

 夥しく舞い上がった砂煙によって閉じていた目を開けた耳郎達の前に広がる光景は瓦礫の山と化した山岳に立ち一仕事終えたと息を吐く千土の姿だった。

 

「──終わったぞ、ちと瓦礫で歩きにくくなったけどまぁ何とか降りてこうぜ?」

 

「……それより下敷きになったヴィラン達は!?」

 

「まさか死んじまったんじゃ?」

 

 地の利を得たことで発揮された千土の全力に唖然とした耳郎達は漸く状況を整理し千土に詰め寄る。

 

「さぁな」

 

 しかしただ冷たくそう返す千土に再び思考が乱れる。

 

「さぁなって……」

 

「殺すつもりでやった訳じゃないがわざわざ加減してやるつもりもない。向こうも雄英に乗り込んで来たんだ、反撃されるのも覚悟してたろ。──ってかそれすらせずに来たんだとしたらそれこそどうなろうが知ったことかよ」

 

「……地城、さん?」

 

 普段とかけ離れた乱暴な言葉使いに八百万と上鳴は戸惑うが耳郎は以前に一度見た千土の姿を思い出す。

 マスコミの侵入があった日、人を不安にさせる奴なんて消えてしまえば良いと吐き捨てたあの姿だ。

 

「いやいや、いくらヴィラン相手でもヒーロー志望が人を殺したらやべぇって!!」

 

「そうですわ、助けて頂いた事には感謝します。ですがヒーローとは人を救うもの。決してこのようなやり方では──」

 

「ヒーローとは言えない……か? たしかにそうかもな。けどなこいつ等相手に手加減して時間をかけてみろ。その間にどっかに飛ばされた誰かが殺されているかも知れねぇ、そうなったらお前らはこんな奴等に時間を無駄に使った"自分"を許せるか?」

 

「それはっ……」

 

「あの時自分がもっと早く動いていれば助けれられたかも知れない、もっと自分が強ければ……。恨みや憎しみはいつか晴れるものさ。けどな……自責の念ってのはいつまで経っても消えてくれねぇんだ」

 

 寂し気に語る千土に対して八百万も上鳴も言葉を失う。

 

 相手がヴィランであってもヒーローが命を消す等あってはならない。その考えは今でも揺らいでなどいない──が千土の言い分を覆せる理由を出すことが出来ないでいた。

 

「まぁ俺のやり方が気に入らないってのも仕方ねぇさ、でも今だけは頼む、俺に協力してくれ。俺はこんなふざけた連中なんかに友達の命を奪われたくなんてないんだ」

 

 頼む。と頭を下げる千土を見て八百万達も顔をハッとさせる。

 

 互いの意見が合わずとも少なくとも今は言い争うべき状況ではないと自身に言い聞かせる。

 

「そうですわね、今はとにかく他の皆さんと合流しなくては」

 

「でもよ、皆がどこに飛ばされたのか分かんねぇんじゃ探し回るのも危なくねぇか?」

 

「……何か案はある? 地城」

 

 耳郎もまた再び見せられた千土の冷たい態度が気になりつつも現状を打破すべくそれを一先ず置いておく。

 

「とにかく最初の広場に戻るべきだな、あのモヤ野郎と戦いになってたらマズい」

 

「マズいって、アイツの個性はお前が見破ったじゃねぇか、それにあの13号先生だっているんだぜ?」

 

「それがダメなんだ、中途半端に抵抗出来ちまったからこそ向こうの油断が消えちまった。あれは完全に俺のミスだ。……それに奴の個性を見破ったせいで尚更危険が増えちまった」

 

「どういうこと?」

 

 意味が分からず聞き返す耳郎に「移動しながら話す」と言い千土のは瓦礫の山を下りて行く

 

「ちょ、ちょっと待てよ!!」

 

 慌てて千土の後を着いて行く上鳴だったがその足が人より一回り大きい瓦礫にぶつかった時岩が容易く転がったのを見て耳郎は息を漏らす

 

「──何だ、軽くしてんじゃんやっぱり」

 

 自分の足元の瓦礫を一つ掴んでみるとその瓦礫もまた本来重さと比べるとあまりに軽い重量で少なくともこれで命を落とす者はいないだろうと耳郎は判断した。

 

 ▼▼▼

 

 全員で広場に向かいながら千土はモヤのヴィランについて説明を続ける。

 

「奴の身体は一部がワープゲートになってはいるが服で隠れた身体の部分は実体がある。つまりそこを狙えば攻撃は当たる」

 

「だろ、だったら何がダメなんだよ?」

 

「逆に考えてみろ、つまり奴からすれば"そこにしか攻撃が来ない"って分かり切ってるってことだ。それにワープの個性が合わさってみろ何が起こるか分かるだろ?」

 

 並べられた情報を脳内で整理しある答えに辿り着き八百万は顔を青ざめる。

 

「まさか──」

 

「そのまさか、自分に放たれた攻撃を相手にワープさせる所謂カウンター。ワープ能力の定石だがさっき言った条件が合わさって成功率がグッと上がってる」

 

「ちょっと待って、それじゃあ13号先生の個性は!」

 

「あぁ、確実に敵を倒せる―いや殺せる個性、そんなものがワープゲートに捕まったら」

 

「13号先生が殺されちまうじゃねぇか!!」

 

「そういうことだ、急がねぇと取り返しのつかないことに──―あ!?」

 

 脳裏に走る最悪の可能性を振り払い全力で広場に走る千土だったが視界の端に見覚えのある姿が映り足を止める。

 

「飯田っ!? お前も飛ばされてたかっ!!」

 

「むっ!? 地城君か、良かった無事だったか」

 

 千土達と少し離れた道を走っていた飯田の姿を見つけ呼び掛けると飯田は少し安心した様に表情を崩したが再び顔をしかめる

 

「すまない、直接応援を呼ぼうと外に走っていたのだがあのモヤのヴィランに追い付かれて飛ばされてしまったんだ」

 

「チッ、つくづくワープの個性ってのは厄介だ」

 

「それよりも、他の皆が奴に不意討ちの奇襲を仕掛けたんだが奴に気づかれて飛ばされてしまったんだ」

 

「何!?」

 

「僕は何としてでも学校へ応援を呼ばなくてはならない。君達は飛ばされた皆と合流を図ってくれないか? それと13号先生の所にも」

 

「それって13号先生はっ!?」

 

「13号先生は俺達を守ろうとして奴に攻撃したが、奴のワープにそれを利用されて逆に重傷を」

 

 それは正しく千土の言った最悪の予想そのものだっただった。

 

「分かった、それは俺達に任せろ。出口に待ち伏せがいるかも知れない、気を付けろよ飯田」

 

「君達こそくれぐれも無理はしないでくれ」

 

 そう言い残し飯田は今度こそ全力で出口へと走っていく。

 

 あの速度ならば今からでもそう遅くなく応援が呼べるはずだと少し安堵する──が飯田の言ったことが気掛かりとなりすぐに気が張り詰める。

 

「予定変更だ八百万、お前は引き続き広場に向かってくれ、13号先生の応急処置はお前の個性でしか出来ない。上鳴は八百万の護衛を頼む。で耳郎は俺と一緒に飛ばされた皆との合流だ、あちこち走り回って皆の声を拾ってくれ」

 

 千土の指示に皆すぐに頷き、その指示通りに二手に別れる。

 

 ▼▼▼

 

「まだやれるな"闇影"」

 

『任せな』

 

 主人である常闇の問いに意思持つ個性は即答する。

 

 土砂エリアに自身と共に飛ばされた口田の周囲を包囲していたヴィラン達は全て常闇一人で倒し終えたが流石に消耗も軽くなく息を整えていた。だが最悪の状況は止まることを知らずすぐ近くに再びモヤが広がったと思うとそこからクラスメイトである瀬呂と芦戸が弾き出された。

 

 突然飛ばされた二人は戸惑いつつも状況を説明してくれたが13号の重傷、黒霧への奇襲失敗とどれも良い知らせとは言えないものばかりだった。

 

 そして今は徐々に自分達に近づいてくる何者かの気配があった。

 

 出来ればもう少し気を休めたいところだったがすぐに3人と共に警戒態勢をとる。

 

「待って常闇、ウチだよ」

 

 だが聞こえてきた声によりその警戒を解く。

 

「耳郎か、どうやら無事だった様だな」

 

「……どうだか」

 

 短いやり取りだが常闇は少し疑問を感じた。

 

 口調は変わらないが耳郎の声に明らかな焦りが含まれ何より顔をひどく蒼白させていた。

 

「何かあったのか?」

 

 皆散り散りにされたこの状況は確かに最悪ともいえるがそれだけでこれ程取り乱すとは常闇には考えられなかった。

 

「相澤先生がやられた、それに地城が……」

 

 ここにくる直前に見た"化け物"それが耳郎の焦りの理由だった

 

 ▼▼▼

 

 数分前、耳郎は千土と共に黒霧に飛ばされた皆と合流すべく慎重に行動していた。

 

 その途中、通りかかった見晴らしの良い高台にて身を隠しつつ、一人で大勢のヴィランを相手に飛び出した相澤が気掛かりで噴水広場の様子を窺った。

 

 そして見てしまった。全身に手を張り付けた不気味な男とそれに付き従う黒霧、そしてそれに付き従う脳が剥き出しになった化け物染みた大男の姿を。

 

 その化け物は相澤の身体を押さえつけ何度も何度も彼の顔を地面に叩き付けていた。

 

 凄惨過ぎる光景に耳郎の身体は恐怖、そして絶望に凍りついた様に完全に固まってしまっていた。

 

「ど、どうしよう、このままじゃ先生が殺されちゃうじゃん」

 

 ヒーローを目指す者としてやるべきことは何か分かっている。だが身体は震えて動かない、それどころか今すぐ逃げろと訴えてくる。

 

「……耳郎、ゆっくりとでいい、ここから離れろ」

 

「離れろって、まさかアンタ一人で戦う気!? 、無茶だって!」

 

 声を殺しつつも耳郎は自殺行為に走りかけている千土の腕を掴む。

 

「大丈夫。やばけりゃ先生担いで逃げるさ、土中に」

 

「だとしても一人じゃダメだって! 私も」

 

 必死に腕を掴む力を強くする耳郎に千土は少し笑みを浮かべる

 

「……まぁ正直ついてきて欲しいってのも本音だけどな、けどダメだ」

 

「何で!? 私だって──」

 

「震えてる……ってのは冗談だが、散り散りにされた皆が集まるにはお前の力が必要不可欠なんだ」

 

「でもッ────ッあれはッ!?」

 

 全身に手を張り付けた男がいつの間にか相澤の近くから離れていた。だがそれは危機が去ったというわけではなくむしろその逆、彼のすぐ近くに見慣れた姿があった。

 

「緑谷、蛙吹に峰田!? ──チッ、耳郎絶対について来るなよ! ……他の奴らを頼む」

 

 高台から飛び降りながら出された指示に耳郎は躊躇うも自分にしか出来ないといわれた役目、なにより自分がついて行っても千土を困らせるだけだいう事実が彼女の踵を返させた。

 

「絶対、絶対無事でいてね、地城」

 

 離れざるを得ない状況に、或いはついていけない己の無力さにか耳郎は下唇を嚙み締めながらも千土と逆の方向に駆け出した。

 

 ▼▼▼

 

「──そんな……」

 

 気が付けば目の前に迫っていた全身に手を張り付けた―モヤのヴィランから死柄木と呼ばれていた―ヴィランの魔手から蛙吹を助けるべく全力の拳を放った緑谷だったが、その拳は彼と死柄木の間に割り込んできた脳が剥き出しの化物に無傷で受け止められてしまった。

 

「へぇ案外良いパワー持ってんじゃないの。それにスマッシュって掛け声、オールマイトのフォロワーさんかい? まぁいいや、やれ"脳無"」

 

 蛙吹に手を伸ばしながら告げる死柄木の命令通りに脳無と呼ばれた化物が緑谷に対して拳を振り上げる。

 

(まずい、死ぬ!?)

 

 既に打つ手が無くなった緑谷は死を確信し思考を絶望に染め顔を歪ませる。

 

「ははは、これでオールマイトは晴れて生徒を守れなかった無能教師って訳だ」

 

「ちょいちょい、人のクラスメイトをんなことのダシに使わないでもらおうか」

 

 その声と同時に死柄木の足元が隆起し伸ばした手は蛙吹の頭上の空を切る、更に脳無と言われた化物の頭上から大量の瓦礫が降り注ぎその巨体を押しつぶす。

 

「ち、地城君!!」

 

「悪ィ、遅くなったな緑谷」

 

 いつの間にか肩に相澤を背負いながら自分の傍に立っていた千土に緑谷は顔を綻ばす。

 

「喜べ、また一人獲物が増えたぜ? 脳無」

 

 隆起した地面から飛び降りながら瓦礫の山に声をかける死柄木に応える様に瓦礫の山を吹き飛ばしながら脳無が這い出てくる。その身体は多少の砂がついてこそいるが損傷している様子は欠片も見られなかった。

 

「そんな、頭の上からあんなに瓦礫を受けたのに」

 

「まぁお前の攻撃受けても無傷なんだ当然といえば当然だな、とにかく下がってな緑谷。俺がやる」

 

「俺がやるって、まさか一人で!? 無茶だ!!」

 

 緑谷達を庇う様に少し前にでる千土の無謀、或いは思い上がった姿を嘲るように死柄木は口角を吊り上げる。

 

「聞いたかよ脳無、どうやらそいつは一人でお前と戦うらしいぜ。──絶望させてやれよ」

 

「上等だ、後悔すんなよ犯罪者」

 

 背負っていた相澤を緑谷に任せ、一度自身の掌に拳を打ち付けて臨戦態勢をとる。

 

 相手はプロヒーローさえ凌ぐ化物、一切の油断なくそれと向き合う。

 

 圧倒的な力の差を持つ相手に対し今の千土を動かすのはただ一つ、勝利への希望ではなくかといって絶望等ではない、あるのはこの逆境を乗り越えようとする意志、すなわち"Plus_Ultra"ただ一つだった

 

 ──END──

 

 

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