地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第6話 星墜

 緑谷を背に眼前のヴィランと向き合っていた千土だったが一切構えないリーダー格の男の様子に違和感を感じた。

 

「何だ、お前は戦わない気か? 、随分余裕だな」

 

「ハハッ面白いこと言うねぇ、お前らごときがこの脳無に勝てるとでも思ってんのか?」

 

「死柄木、あまり彼を甘く見ない方がいい」

 

 自身の隣に控えた化け物に目をやりながら得意気に笑う死柄木に黒霧が忠告した。

 

「彼の名は地城千土、彼は普通の生徒と比べかなり戦い慣れている」

 

「くだらねぇ、所詮ガキはガキだろ? ……やれ脳無!」

 

 死柄木の命令と同時、脳無と呼ばれた化け物が身体を震わせる。

 一瞬だった。

 先程まで死柄木の隣に立っていた脳無が右腕を振り上げながら千土の目の前に迫っていた。

 

(──速っ!?)

 

 巨体から想像出来ないその速さに目を疑うながらもすぐにその場から飛び退くが、降り下ろされた脳無の拳が地面を砕きその衝撃で後ろにいた緑谷達もろとも吹き飛ばされそうになる。

 

「なんて力っ!?」

 

「──だが、もらったっ!!」

 

 力も速さも想像以上だったがそれを地面に当ててくれたのなら好都合だった。

 

 掌を前に突き出し個性を解放する。

 

 砕かれ飛び散った無数の瓦礫が空中に浮き脳無を包囲する。

 

「潰れろッ『石棺―ストーンメイデン―』!!」

 

 操作した全ての瓦礫を一斉に脳無に叩き付ける

 

 脳無が瓦礫の山に埋もれたのを確認して峰田は両手を上げて歓喜する。

 

「すげぇぞ地城! 、化け物を簡単に倒しちまった」

 

「馬鹿言え、次来るぞ」

 

 瓦礫を砕きながら脳無が再び巨体に似合わぬ速度で飛び出してくる。

 

「止まりやがれッ!!」

 

 地面を隆起させ自身と脳無の間に壁を造り遮る。

 

「ハッそんな土壁で凌げると思ってんのか? 、もろともぶっ壊せ脳無」

 

 土壁は脳無の拳を受け壁の奥ごと一撃で崩壊する。

 

「彼らがいない?」

 

「まとめて吹き飛んだか?」

 

 壁の奥の生徒達の姿が消え、死柄木は勝利を確信したように笑う。

 

「──っ!! 違う死柄木、後ろです!!」

 

「何っ!?」

 

「遅ぇんだよ掌野郎っ!!」

 

「ガッ!!」

 

 地中から死柄木の背後に飛び出すと同時に黒霧の言葉を受け振り返った死柄木の腹に硬質化させた岩を纏った拳を叩き込む。

 

「 (あの化け物は確かにやべぇがリーダー格は間違いなくこいつだ。──ならまずは)──お前からだ!!」

 

 不意討ちの一撃が効いたのか息が詰まり動かない死柄木の脳天に拳を降り下ろす。

 

『させませんよ』

 

「っ!! モヤ野郎!?」

 

 しかし自身の拳と死柄木の間にワープホールが広がり咄嗟に腕を止める。

 

『やはり貴方はどういう訳か戦いなれている。防御に見せた壁を目隠しにして地中から死柄木を狙うとは』

 

 再び何処かに飛ばされることは免れたがその間に死柄木は黒霧に救出されてしまう。

 

「ちぇ、流石にそう上手くはいかねぇかァ」

 

「くそっくそ、このガキがァ」

 

『落ち着きなさい死柄木、最初に油断するなと言った理由が理解できたでしょう』

 

「うるさいっ! 、あんなガキがこの俺に──」

 

『だからこそ冷静になりなさい! 、脳無さえいれば負けるはずがないのですから』

 

 相当苛立ったのだろう身体を掻きむしりながら癇癪する死柄木だったが黒霧に諌められその手をとめると急に落ち着いた声をだす。

 

「……チッ分かったよ、脳無。地面に他のガキ共が隠れてるはずだ。──―潰せ」

 

「なっ!?」

 

 一瞬思考が凍り付きかけたがすぐに両手を地面に付け少し離れた位置の地面の一ヶ所を隆起させる。

 

 その直後に脳無の拳を受け周囲に轟音とともに地面がひび割れ陥没する。

 

 隆起させた地面はその地響きをうけ崩れその中から死柄木に不意討ちを仕掛ける直前に隠れさせていた緑谷達が出てくる。

 

「無事かお前らっ!?」

 

「地城ちゃん前にっ!!」

 

「しまっ!?」

 

 つい皆の方に意識がいったとき、怪人──脳無は目前に迫り、その太い腕を振り抜いていた。

 

 防御も回避も間に合わない。すぐにそれを理解し千土は歯を食い縛る。地面を一撃崩壊させる怪力を受け耐えること等不可能だと直感しながらもそうする以外の手は既になかった。

 

 だがその予想に反し脳無の半身が千土に腕を当たる直前に凍り付り動きを止める。

 

 更に爆音が耳に響きその方向に目を向けると爆発した様に尖った頭の少年が黒霧に乗り掛かって胴体を押さえつけていた。

 

「悪ィな、遅れたか?」

 

「いーやナイスタイミング、助かったぜ轟、爆豪」

 

「あぁっ!? 、誰がてめぇなんかを助けるか殺すぞ!!」

 

「こんな時に喧嘩すんな馬鹿」

 

 自身の隣に立っていた轟と黒霧を押さえつける爆豪だけでなく切島も緑谷達を守るべく彼らの前に立っていた。

 

 切島から諌められると爆豪は黒霧に視線を戻し少しでも"怪しいと思わせる"行動をしたら爆発させるとヒーローらしかぬ脅しでヒーローらしく不必要に相手を痛めつけずに敵を拘束する。

 

「とにかくあの厄介なモヤ野郎を止めてくれてんのはありがてぇ、あっちの化け物も凍って動けないならあとは1人だ」

 

「それはいいが奴の個性は?」

 

「わからん、がこんな連中のボスだ厄介なことは確かだろ」

 

 最大限の警戒をしながら死柄木を睨むと彼は呆れたように腕を広げて呟きだした。

 

「あーあ、見事に全員攻略されちまって。オールマイトと戦ってすらいねぇのに何だこの体たらくは? 恥ずかしくなるねぇまったく。──脳無」

 

「は?」

 

 凍りついた身体が崩壊しているにも関わらず強引に動かす化け物の姿に目を疑う。

 それも当然だった、崩壊した腕も足も"すぐ再生している"のだから。

 

「なんだよこの個性?」

 

「『超再生』、受けた傷を修復する回復能力だ、こいつは対オールマイト用に改造された人間サンドバッグだ」

 

 自身の玩具を見せびらかすかの様に得意気に語ると死柄木は狙うべき獲物に鋭い視線を向ける 

 

「爆発小僧から殺せ、出入り口の確保だ」

 

 ──やばい、そう爆豪が感じたときには脳無は既に自分の目前に迫っていた。

 

 桁外れなパワーで繰り出された拳を受け爆豪は後方にいた緑谷達の近くまで吹き飛ばされる。

 

「かっちゃん!!」

 

「うるせぇてめぇなんかが心配してんじゃねぇ」

 

 まともに攻撃を受けた爆豪の重傷を確信し悲痛な声を出すも爆豪はよろめきながらも何とか立ち上がる。

 

「かっちゃん!?」

 

「馬鹿な!? あのガキ、脳無の一撃を喰らって何故動ける!?」

 

『あの少年の仕業です』

 

 驚愕を隠さない死柄木だったが自身の隣にワープしてきた黒霧の言葉に従い彼の視線を追うと地面に両手をついた地城の姿が見えた

 

『あの爆発の少年が殴られる直前に砂の壁を造ったようです、おまけに彼の落下地点まで砂のクッションを』

 

「チッ、またあのガキか」

 

 何度も邪魔をされいい加減我慢しきれなくなったのだろう忌々し気に睨む死柄木だったが千土としてはむしろ助けたはずの爆豪が同様の目をしていることに呆れてしまう。

 

「まぁいい、出入り口は取り戻した。あとは一人一人丁寧に殺してやれば済む話だ」

 

「あーらら、どうやらアイツ切れすぎて一周回って冷静になりやがった」

 

「どうするんだ? あの脳無とかいう化け物、再生するんじゃ簡単には止めらんねぇぞ」

 

「といってもな、正直あれを止めれるのはお前の個性だけだ。なんとか全身凍らせられねぇか?」

 

「少なくともあのスピードとパワーじゃ途中で逃げられるか壊される。一瞬でも奴を完全に止めろ」

 

 轟の言葉に一度頭を掻きため息を吐く。

 

「無茶を言うなぁ」

 

「無茶を言われたからな」

 

「はは、そりゃそうだ。じゃあ何とか止めてやるから何とか仕留めろ」

 

「地城ちゃん!?」

 

 周囲に瓦礫を浮かせながら脳無に向かって走り出す。無謀極まりない行動に蛙吹達は顔を青くさせるが足を止めることはない。

 

「馬鹿が、殺せ脳無」

 

「舐めんな、『砂嵐―サンドストーム―』!!」

 

「何ッ!?」

 

 舞い上げられた砂嵐は千土達の姿を死柄木達から完全に隠す。

 

「改造人間だかなんだか知らねぇが……"目がある"ってことは視覚を使ってることにはかわりねぇんだろ?」

 

 脳無ッ!! 砂煙なんぞ吹き飛ばせ」

 

 全力で振り払われた脳無の腕による衝撃波は周囲に漂う砂を一瞬で吹き飛ばす。

 

「いけないわ、これじゃ隠れられない」

 

「いや、これは!!」

 

 砂ごと飛ばされそうになるのをなんとか堪えながら周りを見ると今までの脳無の攻撃によって出来た瓦礫全てが空中に浮いていた。

 

「元々俺砂を操作すんのって苦手なんだよね、細かい操作しなきゃならないからさ」

 

 衝撃波を堪えながら脳無の正面にたった千土は笑いながら広げていた両手を勢いよく打ち付ける。

 

「やっぱ石の方が大雑把にやれていいよなァッ!! 『石棺―ストーンメイデン―』!!」

 

 前回とは比べ物にならない程大量の瓦礫を用いて放たれた技は脳無を完全に石の中に閉じ込める。

 

「チッ、抜け出せ脳無!!」

 

「させるかァッ!! 『地質操作・加重+硬質』!」

 

 脳無を飲み込んだ瓦礫の山に触れ瓦礫を一気に重く、そして硬質にさせる。

 

(量が増えただけでなく強度も前回より強い……彼が触れているからか?)

 

「ガキがッ!! 、脳無!!」

 

 しかしやはり脳無の桁外れの力は留め切れず瓦礫の山の中から腕が飛び出し、千土の目の前に一瞬で伸びてくる。

 

「──っ!! 轟ぃッ!!」

 

「任せろ!!」

 

 脳無の腕から逃れるべく後方に飛び退きながら轟の名を呼ぶと、轟の声が聞こえてくるのと同時に目の前の瓦礫の山の真下から冷気が漂い、一瞬でその瓦礫の山を飲み込む氷山が生成される。

 

 瓦礫の中から飛び出していた腕も完全に凍りつきその動きを停止させる。

 

「──―っやった!! 、やったぜあの野郎!!」

 

 実感が湧かず一瞬固まってしまった勝利を確信して峰田は両手を上に掲げる。

 

「やっぱり凄いよ地城君、轟君!!」

 

「おう、漢だぜお前ら!!」

 

 緑谷や切島達も一度安堵を息をつき歓喜する。

 

「喜んでんじゃねぇぞ雑魚ども!!」

 

「あー、まぁ爆豪の言う通りだ。……あと2人残ってんだぞ?」

 

 そう言いながら死柄木達の方に向き直り──その瞬間に違和感を感じた。

 

 あれ程何度も癇癪を起していた奴が静かにこちらを見ていた。

 

「──まさか……」

 

 轟もまたその違和感を感じたのだろう氷山の方に視界を向ける。

 

 氷の壁の内側には確かに瓦礫の山から飛び出た脳無の腕がありそこに閉じ込めたのは明らかだった。

 

 ──バキッと何かが砕けた様な音が嫌に耳に響いてきたのはその時だった。

 

「……やれ、脳無」

 

「くそっ!!」

 

 千土の隣に作られた氷山の中から足下に転げ落ちてきたのは確かに凍り付けにしたはずの"脳無の頭部"。

 凍り付いた身体を強引に動かし頭だけ抜け出して来たのだろう。それに気付きすぐに蹴り飛ばそうとするも足が当たったにも関わらず脳無の頭は微動だにせず、一瞬にして胴体の再生を果たす。

 

「なっ!? 、ガ……ハッ」

 

 そして再生した脳無の腕はその異常なスピードをもって意図も容易く千土の胴体を捉える。

 

 硬質化した岩さえ一撃で砕く脳無の拳を受け千土は口から夥しいほどの血を吐き体内の酸素を全て失ったような感覚を抱きながら強風に晒された木の葉のように吹き飛ばされる。

 

「地城っ!!」

 

「ってぇ……悪ぃ、骨何本かもってかれた」

 

 何とか地面に落下する前に轟が受け止めるも千土の受けたダメージは大きく平気そうに浮かべた笑みもまるで苦痛を隠せていなかった。

 

 轟に支えられながらもふらふらと立ち上がり脳無を睨む。

 

「あの野郎、凍り付けになる直前に頭だけ守ってやがったか」

 

「どうすんだよ、このままじゃ全滅しちまうぞ!!」

 

 狼狽える切島の隣から飛び出した爆豪が吼える。

 

「くそザコモブ共がァアッ!!」

 

「脳無、壁になれ」

 

 死ねェええええっ!!」

 

 個性による連続爆撃による爆音が周囲による響き巻き上げられた砂煙がヴィラン達を隠す。

 

「爆豪の奴……これじゃ連中の行動が読めねぇだろ」

 

「けどこんだけ撃てば再生だって間に合わねぇかも」

 

「いやダメだ!! 、逃げろ爆豪っ!!」

 

「あぁ!? ──っ!?」

 

 爆撃の中を平然と歩き自身の眼前に迫ってきた脳無の姿に爆豪は愕然としながらも即座に爆発の推進力を利用し距離を空けようとするも脳無の腕はそれよりも早く降り払われた。

 

「轟、壁!!」

 

「分かってるっ!!」

 

 千土は土、轟は氷で爆豪と脳無の間に二重の壁を造るが脳無の拳は一撃で容易にそれを砕く。

 

「かっちゃん!!」

 

「なっ!? ──デクてめぇっ!!」

 

 しかしそれでも一瞬脳無の拳を遅らせた。その一瞬に緑谷は爆豪を救った──自身の片足と引き換えに。

 

「てめぇなんかが俺を庇ってんじゃねぇよデクッ!!」

 

「今は止めろ爆豪。大丈夫か緑谷、その足じゃ動けねぇだろ俺におぶられとけ!!」

 

 憤怒に染まった顔の爆豪を諌めながら切島は緑谷に駆け寄り腫れた右足を庇うように慎重に背負う

 

「あ、ありがとう切島君」

 

「気にすんな、それにしてもお前漢だな緑谷」

 

 切島はグッと親指を立てて笑顔を見せると脳無に視線を戻し、その笑顔を曇らせる。

 

「でもよぉ再生するっつっても爆発の中を歩いてくるって反則だろ」

 

「"再生だけ"ならマシなんだがな」

 

「は? 、何言ってんだ地城?」

 

「俺も最初はこっちの攻撃より速く再生してると思ったんだが……どうもそれだけじゃないっぽい」

 

「うん、僕や地城君の攻撃は再生する前から傷すら付かなかった、信じられないけどきっと再生以外に何かがあったんだ。特に決定的なのは頭を地城君に蹴られたときだ、あの時一切動かないなんて"再生だけ"ならあり得ない」

 

「お前も気付いてたか、やるな緑谷。──で、どうなんだ掌野郎?」

 

「──あぁそうだよ、『超再生』だけじゃねぇ、あらゆる物理的攻撃を無力化する『ショック吸収』。言ったろ? 脳無は対オールマイト用のサンドバッグだってさ」

 

 大仰に両手を広げ勝ち誇る死柄木に黒霧は僅かに顔をしかめるも特に何も言わない。つまり彼からしても手の内を明かしても負けること等ないと確信しているのだろう。

 

「個性が2つとか、そんなのアリかよぉ~」

 

「普通の攻撃は効かない上に轟の氷でも再生しちまう、どうすりゃいいんだ?」

 

(やべーのは向こうの力以上にこっちの現状だ、緑谷はあの足じゃ動けねぇ、それに爆豪も──)

 

 先程、脳無に迫られた時、爆発の推進力で回避を試みていたが今までに見てきた爆発と比べると格段に威力が押さえられていた。

 

 間違いなく最初に脳無に殴られたことで腕を少なからず負傷したのだろう。今の爆豪の腕は自身の強力な爆発

 に耐えられないことは明白だった。

 

(俺もこの負傷じゃ走れねぇ、いや、どのみちワープされるんじゃ逃げれる訳もねぇか。どうする? 誰の個性ならやれる?)

 

「……地城、何か策はあるか?」

 

「いや、正直あの化け物とモヤ野郎のコンビを破る手は浮かばねぇ」

 

「そうか、じゃあとりあえずお前もおぶられとけ、動けねぇだろ?」

 

 轟からかけられたその言葉が以外で千土は目を丸くするもすぐに首を振る。

 

「馬鹿言うな、それじゃお前が一気に危険になるぞ。お前まで負傷したら完全にゲームオーバー待ったなしだぞ」

 

『ショック吸収』の前では千土の岩も爆豪の爆破も緑谷や切島の拳も意味がない。唯一決め手になりうるとすれば轟の凍結のみな以上轟にこれ以上の負担はかけらない。

 

 しかし轟は一切迷わず応える。

 

「構わねぇ、このままじゃお前が──」

 

「脳無、次はそこの氷のガキを潰せ。それで奴らは終わりだ」

 

「「──なっ!?」」

 

 脳無に下された標的を定める命令は正に千土達を追い詰める一手だった。

 

「くそ、下がれ轟!! 『砂鎖―サンドチェーン』」

 

 舌打ちしつつ両手を地面に着け、地中から大量の砂を鎖状に形成して脳無の腕に足、胴体に巻き付ける。

 

「ハッ、砂なんぞで脳無を止められるか」

 

 鼻で笑う死柄木の言葉通り、砂の鎖はすぐにほどかれる。

 

 しかし散らされた砂はすぐに集まり再び脳無を縛りあげる。

 

「何っ!?」

 

「どんな力だろうが砂は砕いても砕けねぇな」

 

「ガキがァ!!」

 

「なっ!?」

 

 ほんの少しだが脳無の速度を鈍らせたことで気が抜けた訳ではなく、今まで命令だけだった男が自ら自身に迫ってきたことが予想外で千土は一瞬戸惑う。

 

「よく分かったよ、てめぇは中ボス程度の力はあるってな。だから──」

 

 ──呆気なく死ね──

 

 即座に自身と死柄木の間に壁を造るも個性の力によるものだろう右手が触れただけで崩壊させれた。

 

 依然両手を地面に着けたままだった千土は続いて向けられた左手を避けられないと察してしまう。

 

「させないわっ!!」

 

「何っ!?」

 

 しかし伸びてきた蛙吹の舌が千土の胴体に巻き付き空中に吊り上げることで死柄木の手から逃れることに成功する。

 

 同時に脳無を縛る砂の鎖も崩れるも轟も既に脳無から離れていた為何とか脳無の攻撃を避けられた。

 

「(──これだっ!!)、蛙吹、俺を轟の側に下ろしてくれ!!」

 

「ケロ?」

 

 突然の要求に疑問を持ちつつも蛙吹はすぐに対応し、千土は轟に側に下ろされる。

 

 ──何か策が閃いたか?」

 

「御名答。かなり穴だらけな上特にお前が一番危ない秘策だ、ノるか?」

 

「上等だ」

 

「さすが。イケメン過ぎるわ」

 

 一切迷わず即答する轟に千土はどこか面白く感じたまらず笑ってしまう。しかしすぐに真剣な顔に切り替え轟に最後の策を耳打ちする。

 

「無茶苦茶だな」

 

 最初の方は表情を変えず聞いていた轟だったが途中から呆れたような曖昧な顔をする。当然だ、伝えられた策は"予想またはタイミングがズレたらお前は死ぬ"と言っているのだから。

 

「だろ? やめるか?」

 

「いや、構わねぇ」

 

 千土本人も正直無茶だと思っているのだろう。苦笑いを浮かべてそう言うも轟は微かに笑いそう言う。

 

「何を企んでるのか知らねぇけどな。誰もこの脳無に勝てるはずがねぇんだ」

 

 そんな"諦めていない態度"が気に喰わないのだろう死柄木は不満を隠さず身体を掻きむしりながら苛立った声で自身の勝利が揺らがないと告げる。

 

 だからこそ言ってやる。雄英の教訓、ヒーローとしての心構え"Plus_Ultra"。この障害さえも乗り越えるという一言を──

 

「それはどうかな?」

 

「何だとっ!?」

 

 何度もしてくる勝利宣言にいい加減言い返したかったのかスッキリした様身体を伸ばすと千土はニッと笑い叫ぶ。

 

「いつまでボーッとしてやがる爆豪! 動けねぇってんならこの化け物片付けた後あとの二人も俺が倒して助けてやろうか?」

 

「「は?」」

 

「──あぁッ!!?」

 

 突然の爆豪煽りに緑谷も切島も一瞬呆気にとられるもすぐに爆豪へと視線を移す。

 

「砂岩野郎が……面白ぇじゃねぇか。助けてやろうかだぁ、あんなザコモブごとき瞬殺してそっちもザコも俺が潰してやらぁ」

 

 案の定、そこには怒りに染まった修羅が立っていた

 

「お、おい爆豪、お前も腕かなり怪我して──」

 

「死ねやァああああっ!!」

 

『っ!! あの少年、まだこれほどの攻撃をっ!?』

 

「死に損ないのガキが……」

 

 空に飛び上がった爆豪は死柄木に連続の爆撃を仕掛けるも黒霧が死柄木の前に守るように現れる。しかしフラストレーションが溜まりきった爆豪の攻撃は重く、そして続く。

 

「今度は上手く乗せられたな」

 

「クッ、ハハ、まったく扱にくい奴だなアイツも。さて」

 

 策を実行する上で最初の問題が爆豪がノってくれるかだった。結果は成功、それも死柄木と黒霧の足止めと"視界潰し"の両方を行ってくれる完璧な結果だった。

 

「これで奴らは化け物に細かな指示は出せねぇ、ってことは」

 

 言い切る前に脳無が自分たちに向かって襲いかかってくる。

 

(やっぱり、この脳無とかいう化け物は奴の命令で動いている。つまり今は奴が最後に出した命令、『氷のガキを潰せ』って命令で動いている)

 

 すぐに二手に別れると脳無は迷わず轟の方に走っていくことからしてそれは明らかだった。

 

「なら、あとは──」

 

 異常なスピードを誇る脳無に対し、氷の壁をいくつも造りつつ脳無のの腕や足を何度も凍らせる。

 

 脳無もまたすぐに崩れた部位を再生しながら氷の壁を破壊し徐々に轟に迫る。

 

(想像以上に速い、急げ地城)

 

「…………あと、少し……」

 

 脳無が轟に向かっている間に千土は自身の力を両手から地面に流し込んでいく。

 

「──っ!!」

 

 しかし脳無の速度はそれを上回る、再生と破壊の繰り返しの果てに遂に轟の作った最後の壁を破壊し、その手を轟に伸ばす。

 

「──くそっ!!」

 

 咄嗟に新たな氷を脳無に放つもその手は止まらない。だが、ほんの僅かにその速度を遅らせた。

 

「待たせたな轟ぃっ!! 、準備完了っ!!」

 

 その叫びと共に千土の手元から轟の足下、そして脳無の足下までの地面がひび割れていく。

 

「とっておきだ覚悟しやがれ。『地質操作・崩落―グランドフォール―』!!」

 

 ひび割れていた地面が裂ける。その裂け目は底が見えぬ程の暗さで見る者に巨人の口の様に思わせた。

 脳無、そして轟は重力に従いそれに飲まれていく。

 

「蛙吹!!」

 

「―っ!! ケロ!」

 

「よし、やれ地城!!」

 

 底の見えぬ地面の裂け目に飲み込まれる直前に轟はその名を呼ぶ、蛙吹は一瞬驚くもすぐに舌を伸ばし千土のとき同様に轟の胴体にその舌を巻き付け自身の側に引き寄せる。

 

 これがこの策の更なる問題、死柄木達に聞かれる訳にはいかない以上、蛙吹に伝えることが出来なかった。つまり蛙吹が即座に対応出来なかった場合轟は脳無もろとも裂け目に落ちていったことだろう。

 

「これで最後だっ!! 、沈んでろ化け物!!」

 

 両手を地面から離し立ち上がる、そして広げた両手を叩き付けるように合わせる。

 

 両手を打ち付ける甲高い音と共に裂けた地面が一気に修復する。裂け目に落ちた脳無を巻き込んだ状態で──

 

「はぁ、これで──」

 

「……どうなってやがる、脳無はっ!?」

 

「っ!? 、爆豪!!」

 

 爆撃がいつの間に止み舞い上がった砂煙の中から現れた死柄木は目に見えて狼狽えていた。

 

「はぁ、はぁ、くそがぁ」

 

 遂に限界が訪れたのだろう腕をプルプル震わせてなおもヴィランを睨む爆豪に駆け寄る。

 

「よくやってくれた。ありがとな爆豪」

 

「礼なんざいるか気持ち悪ぃ!!」

 

「てめぇら、脳無をどうしやがった!」

 

『爆撃の最中地震の様な揺れがあった。──まさか』

 

 黒霧もまたこの状況が想定外だったのだろう余裕なく爆豪に怒鳴られて苦笑いする千土を睨む。

 その視線に気付いた千土は黒霧、そして死柄木へと視線を移し、告げる。

 

「ああ、地中深く沈めてやった。いくらどんな攻撃も無力化する『ショック吸収』でも瞬間じゃなく常にかかる地面の圧力の前じゃ意味がないよな。もうあの化け物は指一つ動かせねぇよ」

 

「くっ!!」

 

「黒霧さんよ、あんたのワープも地中何mか、そもそもどの辺りかもわかんねぇ物体は飛ばせねぇはずだ」

 

『爆発の少年をけしかけたのはその為かっ!?』

 

 忌まわしげにこちらを睨み身体を掻く死柄木と驚愕している黒霧の様子を見て千土は最後の勝利条件を達成したことを確信する。

 

「その様子からして、あの化け物に地中でも動けるような個性はないようだな。なら本当に奴は終わりだ」

 

『ショック吸収』と『超再生』2つの個性を持つ以上3つ目の可能性だってある。しかしその存在の有無を確認出来ない以上避けられないリスクだった。

 

「爆豪がまだ動けるか、蛙吹が咄嗟に対応できるか、お前の力が溜まる前に俺が殺されないか、そして脳無に他の個性がないか、本当に穴だらけの策だな」

 

「とんでもなく無謀だわ」

 

「ついでにそもそも脳無が完全に命令で動いているのかも追加だな、まったく我が案ながらマジでろくでもねぇ、良く成功したもんだよ──でも勝ちゃあ勝ちだ」

 

 負傷も軽くない上に力を使い過ぎたのだろうフラリと立ちくらむも何とか持ち直し告げる。

 

『──退きましょう死柄木』

 

「なっ!? 、何を言ってやがる黒霧ッ!! ガキ共にやられたままで帰れるか!!」

 

『確かに彼らは最早戦う力もない。ですがじきにプロヒーロー達も来ます。脳無無しでは──』

 

「……ふざけるな」

 

 既に旗色が悪いと判断した黒霧の言葉を受け死柄木がポツリと呟く。

 

「ふざけるな俺はオールマイトを殺す為にここに来たんだぞ!! 、それがたかだか生徒数人に邪魔されるだと!! 。ふざけるな!!」

 

『落ち着きなさい死柄木、今回は我々に油断があった。次こそは』

 

「次だぁ!? 、あんなガキに一杯食わされて尻尾巻いて逃げろってのか! 、ふざけるな!!」

 

「──な、なんだアイツ……」

 

 思い通りにいかなかった子供のような癇癪をする死柄木にそう呟いた緑谷を含め全員が唖然とする。

 

「とにかく、ワープの奴は退く気のようだ、今の内に離れるぞ、いいな爆豪」

 

「……ちっ」

 

 轟の言葉に爆豪も舌打しつつも従う。やはり切れ安いだけで決して頭が悪い訳ではないのだろう。

 

『さぁ死柄木退きますよ。ここに留まり全てを失う訳にはいかない』

 

「……っせめてあのガキ共だけでも」

 

『それでプロヒーロー共が来たらおしまいです。もう脳無はいないのですよ』

 

「くそっ!! 何で脳無があんなガキ共なんかにやられる。あれはオールマイトにも勝てる最強の存在なんだろ!? 、脳無ゥ!!」

 

 いつまで癇癪が続くのか、死柄木は地面を踏み鳴らしながら叫び続ける。

 

「あのガキだ、あの地面を操るガキを今すぐ殺せ!! 脳無!!」

 

「ったく、あれじゃどっちがガキか分からねぇな」

 

「いいから早く掴まれ、お前ももう走れないだろ?」

 

「あぁ、悪ぃな轟──―は?」

 

 差し伸べられた轟の手を掴もうと手を動かした時、左足に何かがまとわりつく。

 

 理解が出来なかった。地中80mまで沈めた。奴らの反応からして地中を移動する術がない以上そいつが動けるはずがなかった。

 

 自分を見る轟の顔が焦り染まってなお千土は夢の中にいるかの様な浮遊感に囚われていた。

 

 やがてボキッと足が砕けた音と共に激痛が走った時漸く現実に引き戻される。

 

「ぐッ!! があっ、ああああああああっ!?」

 

 ──足りなかった。

 

 何故こうなったのか、それは実に簡単なこと、80mでは脳無を止めるにはあまりにも足りなかったのだった。

 

「お、おぉ。脳無? 、──脳無!!」

 

 絶叫を上げる千土の左足を片手で掴みぶら下げる脳無の姿を見て脳無の姿を見て死柄木は歓声をあげる。

 

 彼ら自身、脳無が自力で生還するとは思っていなかったのだろう。地中から這い出て元凶を握り潰す脳無の姿とそれに歓喜する死柄木の姿は皮肉にもヒーローとそれに救われる者のようなものだった。

 

「くそ、──がはっ!!」

 

 すぐに凍らせようと個性を発動しかけた瞬間轟は脳無が振り払った腕を直接受ける。

 

「轟君!!」

 

「ぶつかる直前に後ろに飛んだ、なんとか動ける。それより……」

 

 轟は脳無の手になおもぶら下げられた千土をみる。その表情は足を砕かれ苦悶に染まっていた。

 

「く、クククッ、流石は脳無だ。所詮ガキの奇策なんて通用しねぇんだよ」

 

「これ程とは、我々としては嬉しい誤算だ。先程の言葉は撤回しましょう死柄木。──ただし」

 

「あぁ、解ってる、油断せず確実に殺す。──脳無」

 

 死柄木の命令を受け脳無は千土を掴んだ手を振り上げる。

 

 ヤバい、緑谷達は皆そう理解するももう間に合わない。

 

「そいつの頭を砕け」

 

 直後、脳無は全力で千土を地面に叩き付ける。

 

 尋常でない速度で叩き付けられた為か砂煙が大量に上がり、それが緑谷達を絶望させる。

 

「ククッ、まずは一匹──」

 

「お前らァアッ!! 、もうこいつに勝ち目はねぇ!! 今すぐ逃げろォ!!」

 

「っ!? あの野郎、まだ」

 

「頭が地面に接触前に腕を滑り込ませたようですね。あそこの地面が砂漠化している。砂に変えることで衝撃を軽減したのでしょう。もっともそのせいで」

 

 地面に横たわった千土の右腕は異なる方向に曲がっていてそれが意味することを見た者にすぐに理解させる。

 

「地城……お前、腕が……」

 

 声を震わせて絞り出す切島に千土は憎悪しているかのような鋭い眼光で睨む。

 

「聞こえなかったのか!? 、さっさと逃げろっつってんだろうがっ!!」

 

 普段の気楽な声とまるで違う、怒りに染まった声に切島や峰田は肩を震わせる。

 

「うるさいな、脳無止めをさせよ」

 

「させるかよ、……まだな」

 

 何とか"激痛で済んだ"左腕を脳無に向け自身に再び近づく脳無に周囲の岩や砂を片っ端からまとわりつかせ、その動きを鈍くさせる。

 

「これで少しだが……時間を稼ぐ、時期に先生達も……来るはずだ、……今の内に逃げろ」

 

 先程の様な大声もいよいよ出なくなった、掠れる声で皆に呼びかけると目を閉じて、個性の発動に全神経を集中させる。

 

 しかしそれもほんの少し脳無の動きを鈍らせただけでしかない。徐々に自分に近づいて来ているのを察する。

 

「──悪ぃ耳郎、約束守れそうにねぇや」

 

 何かがぶつかる音が耳に響いたのはその時だった。

 

「は? 、切島か、お前何を!?」

 

 目を開くと目の前に全身を硬質化させた少年が千土の前に仁王立ちし、脳無の拳を受け止めていた。

 

「ぐっ……くそ、こんなに重いのかよ……」

 

 当然、千土の岩を上回る硬質化といえども脳無の力には及ばず吐血したのだろう、足下に血が溢れる。

 

「バカ野郎、お前何して」

 

「いいから、早く掴まって!!」

 

 切島の両手をあける為峰田のもぎもぎで切島の背中にくっついていた緑谷が千土に手を伸ばす。

 

「ぷっ、なんだお前らその見た目、シュール過ぎるわ、ククッ―痛ェ」

 

「言ってる場合かっ!?」

 

「早くしてよ!?」

 

 腹と背中がくっついた緑谷と切島の見た目に笑いを堪える地城の服を無理矢理緑谷が掴むと伸びてきた蛙吹の舌に掴まり、脳無から距離をとる

 

「逃がすな!」

 

「させねぇ!」

 

 追い討ちを仕掛ける脳無が足を踏み出した瞬間にその足を凍らせたことで再生する前にバランスを崩し脳無が倒れる。

 

「よし、上手くいったぜ」

 

 その間に轟達の元に着地した切島は傷を押さえながらもそう安堵するも千土としてはまったく理解が出来ない。

 

「ホントに何考えてんだよ、折角の逃げるチャンスを」

 

「何考えてるのかはこっちのセリフだよ!」

 

「そうよ、どうして逃げろなんて言うの!?」

 

 しかし返ってきたのは怒りに満ちた声だった。

 

「俺の左足はもうダメだった、ついでに今は両手も使い物にならねぇ」

 

「そんなの君を見捨てる理由にならないだろ!?」

 

 不意に聞こえた緑谷の叫びに目を丸くする。

 

 緑谷はいつの間に切島から離れ、痛む足で立ち上がっていた。

 

「君が僕達を助けてくれたように今度は僕達が君を助ける!! 、誰かの力じゃない皆の力で乗り越えるんだ」

 

「……俺はもう自力で動けねぇ、誰かに動かしてもらうにしてもかなり安静にしてもらわないといけねぇ、それでも背負ってくれんのか?」

 

「それでも背負う。だからこそのヒーローでしょ」

 

 そう答えた緑谷だけでない、誰よりも怯えていた峰田も皆を突っぱねていた爆豪でさえ自分を守ることに躊躇っている者はいないことを千土は理解する。

 

 考えてみれば当然だ。何故なら彼らは皆ヒーローを志す者達なのだから。

 

「格好いいねぇ、立派なヒーローの考えだ。綺麗事過ぎて壊したくなる」

 

「っ!?」

 

 そしてだからこそヴィラン達を動かせる。死柄木は狂気に満ちた声でそう愉しげに語ると自身の隣に控えた黒霧に視線を向ける。

 

「黒霧、"あのガキ"を飛ばせ」

 

『おや、貴方も気付いていましたか』

 

「当然だ、やれ」

 

『了解』と短い返事と共に黒霧はその姿を消す。明らかに不穏な行動に皆警戒しあらゆる方向を見渡すがその姿は見えない。

 

『チェックメイトです』

 

「なっ!? 、下から」

 

「地城君!!」

 

 千土の足下から不気味な声がすると同時に黒いモヤが一気に広がり視界全てが黒に埋め尽くされる。

 

『貴方が私の個性を暴いた様に私も貴方の個性を暴きましたよ。貴方の弱点、それは……』

 

 黒いモヤに覆われた視界が徐々に鮮明になっていく。

 

 千土は目を開く前に自分が落下していることに気付きそれが何を意味するのか全て理解する。

 

「な、これ空中!?」

 

「は? 、緑谷お前何で!?」

 

『私が貴方を飛ばす直前に割り込んできましてね。ついでに飛ばせて頂きました』

 

 自分と同じく先程まで立っていた場所の"遥か上空"に放り出された緑谷に驚愕する千土にそう得意気に告げると黒霧は更にその調子のまま続ける。

 

『さて、貴方の個性の弱点ですが、それは空中です。地面に干渉する貴方の個性は攻撃する際に必ず地面から派生する。つまり地面から離れた相手にはその分攻撃するまでに時間がかかる』

 

 黒霧の言葉に歯噛みする千土を見て緑谷は地上に視線を向けると既に脳無は空中へ跳躍していた。

 

 脳無の跳躍力は地上の速度と遜色なく既に岩でも砂でも捕らえられない状態になっていた。

 

『加えて貴方の個性は地面に手が着いていれば強くなる一方、蛙の少女に吊り上げられ地面から足が離れたとき極端に弱くなった。そう貴方の個性は貴方の足が地に着いていなければ使えない』

 

 そう言うと黒霧は徐々に高度を上げてくる脳無へと視線を動かす。

 

『ならば話しは早い。石一つとないこの空中で──殺す!!』

 

 そう言い残し黒霧は一人地上へとワープしていく。脳無の迫る空中に千土と緑谷を残して──

 

「地城君の個性が使えない以上僕がやるしか……でもこんな空中じゃ上手く狙えない、どうしたら……いやっ!」

 

 落下しながらも庇う様に自分の前に出る緑谷の背中に千土はどこか笑ってしまう。

 

「……大丈夫。今度は僕が、絶対に守ってみせるんだ」

 

 その背中は近づいてくる脳無に怯え震える矮小な姿。しかしそれは他者を守る為に躊躇わず前に出るヒーローそのものに思えたから。

 

「まったく、つくづく無茶ばかりする奴だな緑谷さんは」

 

「地城君?」

 

 覆しようのない絶望的状況にあるにも関わらずケラケラと笑う千土の声に緑谷は戸惑う。

 

「心配すんなよ、あの化け物は俺が―痛っ!」

 

「動いちゃダメだよ! 酷い怪我なんだよ!?」

 

 走る激痛を無視し強引に自分の前に出てきた千土に緑谷は必死に制止する。

 

「それに地城君の個性は空中じゃ──」

 

「ああ、俺の個性は自分が空中にいたら十全には使えねぇ。地面への干渉は奴の言うように地に足着いてないと出来ない。そして、岩や砂は離れすぎてると"浮かせること"も"動かす"ことも出来ねぇ」

 

「だったら──」

 

「出来るとしたら"落とす"ことだけだ」

 

 その言葉の意味が分からず緑谷は困惑する。当然だ、"落とす"ことは出来ると言われても自分達がいる空中には石一つとしてないのだから。

 

 しかし千土が左手を激痛に苦しみながらも更に頭上へと向けたことであり得ない可能性に気付く。

 

 ──はぁ!? 、地球に隕石が接近中!? 、結構大きいらしいぞ爆豪

 

 ここ、U●Jに来る前に千土と爆豪の会話がフラッシュバックする。

 

 あり得ない。どれ程強力な個性でもそんなことが出来るわけがない。緑谷がそんな疑念を持っていることを察して千土はいつもの悪戯好きの子供の様な笑みを浮かべる。

 

「ご明察。あるだろ、俺達より上にも良い石が。俺はそれを引っ張ってくるだけさ」

 

「そんな……まさか」

 

「しっかり掴まってろよ緑谷」

 

 優しく、ゆっくり告げられたその言葉に従ったとき千土は遂に目前に迫った脳無へと左腕を降り下ろす。

 

「『地質操作・星墜―メテオ―』」

 

 天幕を突き破り空の上、"宇宙からの落石"が鮮烈な閃光を伴い放たれた。

 

 

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