地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

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第7話 決着USJ

 常人を遥かに上回る脳無の速度を更に上回る速度で落下してきた岩が脳無の身体に直撃する。

 

 宇宙から落下する"最大規模の落石"は『ショック吸収』をもってしても相殺できない威力を誇り如何なる攻撃も寄せ付けなかった脳無を地上へと落としていく。

 

「バ、馬鹿な!? 、隕石だと!? 、あのガキの個性なのか!?」

 

『これ程の力を……あの少年は一体何者なんだ?』

 

「脳無が押されるだと!? クッ、脳無を拾え黒霧!!」

 

 愕然としながらも出された命令に黒霧は頭上に目を凝らす。

 

『脳無の身体が朽ちていく。再生が間に合っていない、あれではもう……』

 

「あり得ねぇ!! アイツは全盛期のオールマイトの100%さえ耐えるように造られた怪物なんだろ!? それが……それがあんなガキにっ!?」

 

 そもそも隕石とは規模によっては地面に激突しただけで周囲をマグマのように変貌させてしまう程のエネルギーの塊だ。本来なら脳無にぶつかった時点で周囲にどの様な状況を招くか分からないものだ。

 

 しかし脳無の個性『ショック吸収』がそのエネルギーを吸収する。つまり今脳無は隕石が地上に激突した際の規格外の衝撃、炎を凌駕する高温、それら全てを一身に受ける結果となりその身体を燃やしていく。

 

「……ぐ、……ぐぐ……」

 

 掌を無くしなおも二本の腕で隕石に抗い呻き声をあげる脳無を千土は鋭利な目で見下ろす。

 

「散々好き勝手しやがって……ヒーローとして言うべき言葉じゃねぇが……俺のダチを傷付けたことを後悔しやがれっ!!」

 

「ち、地城君!! 血が!?」

 

 個性の反動なのだろう、叫ぶ千土の口から血が溢れ、更にかろうじて無事だった左腕からも血が噴き出しその腕は赤く染まっていた。

 

 しかし千土の目は既にそんなものを見てなどいない。見ているものは唯一つ。

 

「朽ち果てろォ!!」

 

 ──怪人脳無の散りゆく姿だけだった。

 

 脳無はその身を焼く高温を受け最早再生すら叶わぬ無数の肉片へと散った。

 

「や、やった、……っ! 地城君、隕石が!?」

 

「心配すんな、仕上げだ」

 

 千土は広げていた掌を強く結ぶ。脳無を貫きなおも地面へと進む隕石はそれと同時に崩れその姿を砂へと変化させる。

 

 ▼▼▼

 

「や、やりやがった。あの野郎あの化け物を倒しちまったぜ」

 

 頭上の様子を見上げていた峰田は今度こそ本当の勝利を確信し両手をあげて喝采する。

 

「ああ、地城の野郎とんでもねぇ奴だぜ。隕石まで落とせるなんて……って、そうじゃねぇ早くあいつらを助けねぇと、このままじゃ」

 

「蛙吹、二人を頼む」

 

「えぇ、任せて──―え!?」

 

 切島と轟に促され徐々に落下してくる千土と緑谷を注視し──驚愕する。

 

 千土がおびただしい量の血を吐きその後重力に一切抗わず頭から地面に落ちてくる。

 

「お、おい地城の奴何かヤバそうだぜ!?」

 

「蛙吹、早く──―っ!!」

 

「させるかァアアアッ!! 、あのガキもテメェらも絶対に許さねぇッ!! 、ここで全員殺す!!」

 

「くそっ」

 

 怒りを剥き出しに飛び出してきた死柄木に咄嗟に氷の壁を造るも死柄木の手がそれに触れると即座に壊される。

 

「あのガキはこのまま落ちて死ぬっ!! テメェらもこれでおしまいだっ!!」

 

 死柄木は皆の前に立った轟をすり抜け最後尾にいた蛙吹へと死を告げるその腕を伸ばす。

 

「──ガァッ!?」

 

 腕を伸ばしたことでがら空きになったその腹に"最強の拳"が放たれたのはその直後だった。

 

 ▼▼▼

 

「地城君、しっかりして!!」

 

 個性の反動か、今まで受けたダメージか、隕石を処理した直後血を吐き意識を失った千土に緑谷は必死に呼びかけるも閉じられた目が開く様子はなかった。

 

「死なせるもんか……絶対に!」

 

 重心を下へと傾け必死に千土に手を伸ばす。

 

 あと僅かまで近づいて、突風に突き上げられ離されて、それを何度も繰り返しながらも何とかその手は千土のコスチュームの端を掴む。

 

「地城君、目を開けて!」

 

 何度も呼びかけ掠れてきた声で呼びかけるも反応はなく信じたくない事実を突きつけてくる。

 

「くそ、あす、梅雨ちゃん!! ──っ!?」

 

 地面に激突する前に地上にいる蛙吹にキャッチしてもらおうと彼女の名を呼んで──彼女達に向かって死柄木が駆け出していることに気付く。

 

 轟もそれに対し氷の壁を造っていたが触れたものを崩す死柄木の個性の前にはさした時間稼ぎにすらなっていなかった。

 

(くそ、地城君がこんなに無茶してあの化け物を倒してくれたのに……ダメなのか……)

 

 己の無力さに歯噛みしながらもせめて地城だけは傷付けまいと意識を無くし動かないその身体を抱えこむ。

 

 迫る地面への激突に目を閉じ──不意に聞こえた、何度も聞いたそのセリフに目を見開く。

 

「もう大丈夫だ!!」

 

 身体に伝わるのは地面に激突した衝撃ではない。今まで自分を襲っていた恐怖と絶望、それらを全て払ってくれる安心感。

 

「何故って!?」

 

 緑谷は千土ごと自分を腕に抱き蛙吹と死柄木の間に一瞬にして降り立ったその姿を涙が溢れだした目に焼き付ける。

 

「私が来た!!」

 

 蛙吹へと腕を伸ばしがら空きになった死柄木の腹に拳が放たれた。無防備な状態で高速の拳を受けて死柄木は呻き声を吐き出しながら風を受けた木の葉のように宙を舞う。

 

 震える声で緑谷はその者の名を呼ぶ。どんな状況でも笑顔を浮かべて他者を救う最高のヒーローにして平和の象徴。

 

「オールマイト!!」

 

 緑谷だけではない、歓喜と安堵が宿った目で自分を見つめる生徒達にオールマイトは顔を曇らせる。

 

「遅くなってすまなかった、飯田少年から話を聞くまで君達がこれ程辛い思いをしている等と思いもしなかった。ヒーローとして、先生として余りにも情けない」

 

「そんな! 、オールマイトが悪くなんか!」

 

「──オール……マイト……」

 

「地城少年!!」

 

 自身の腕の中から聞こえた掠れた声にオールマイトは顔をハッとさせ視線を向ける。

 

「地城、お前生きて……」

 

 両目に涙を浮かべ声を震わせる切島にほんの僅かに笑みを見せると自身を抱えるオールマイトと視線を交わす。

 

「──後は、お願いします」

 

 声を発するだけで焼けつく様に痛む喉から絞り出した言葉にオールマイトがニカッとテレビ越しで何度も見たヒーローの笑みで応える。

 

「任せたまえ!!」

 

 たったそれだけの言葉で千土の抱いていた不安は全て無くなる。張り詰めていた緊張は完全に解け、その意識は微睡みの中へと飲まれていく。

 

 圧倒的な脱力感に身を委ねた千土は、顔に安堵による僅かな笑みを浮かべて意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

「……ここは、……痛っ!?」

 

 夢すら見えない深い眠りから覚めると千土の目には見慣れない天井が映った。

 

「気が付いたかい? ……腕はまだ痛む様だね」

 

「リカバリー婆さん」

 

「リカバリーガールね」

 

 声が聞こえた方に首を動かすと腰の曲がった老婆の姿があった。

 

 改めて周囲を見渡しここが雄英の保健室であり自分が気を失っている間に運んでもらったのだと認識する。

 

「随分と無茶したようじゃないか、骨折だけでなく内臓にまで深刻なダメージが及んでいる。私の個性でもこれ以上は治療できないよ」

 

 折れていた腕、足は痛みこそするも外見は元に戻り個性の反動による全身の痛みも僅かだが和らいでいた。

 

 とはいえ本来傷の修復は自身の身体がかなりの時間をかけて自然と行うものだ。それを早めるリカバリーガールの個性は過度に使い過ればそれ相応のリスクを負うことも起こりうるのだろう。

 

 しかし千土にとってはそんな事より気がかりなものがあり過ぎる。

 

「それより皆は無事なんですか?」

 

「心配ないよ、むしろアンタが一番重症さ」

 

 リカバリーガールの言葉に安堵した千土は曲げていた首を戻して天井を見上げ「良かった」とため息混じりに呟く。

 

「心配されてたのはアンタの方だよ、何人かは"何とかこいつを助けて下さい"って泣きついてきたもんさ」

 

「ははっそれは嬉しいな、そのノリは多分切島かな? あとは誰だろ。ともかく早く顔見せに行かないとな」

 

「なに馬鹿な事を言ってるんだい、そんな身体で動ける訳ないだろう。少なくとも一週間は入院だよ」

 

「え、入院? ……マジですか?」

 

「当然だろう。既に手配済み、じきに迎えが着くよ」

 

 知らぬ間に整えられていた根回しに諦めた様に身を投げ出す。

 

「……自分では強くなった気でいたんだけどな、結局俺は何にも変わってねぇな」

 

「そんな事はないさっ!!」

 

「うわぁっ!? 、オールマイト!?」

 

 無意識に溢れ落ちた言葉を否定しながら自身の寝るベッドの隣のベッドからカーテンをめくりながら満面の笑顔を浮かべたオールマイトが現れ千土は驚き痛みも感じず上体を跳ね上がらせる。

 

「ビッッックリしたぁ、何でそんなとこに隠れて―」

 

「なぁに、君が起きるのを待っていただけさ」

 

 HAHAHAと高らかに笑いながら千土の側に歩みよる。

 

「別に隠れて待ってなくても、人が悪い……」

 

「そうだな、あまり怪我人を驚かせるのは良くなかったな。すまない地城少年」

 

「……まぁいいですけど?」

 

 ほんの少し拗ねた様に口を尖らせた千土にオールマイトはあっさりと謝罪の言葉を述べる。

 

『HAHAHA、すまない!!』と謝罪もテンション高めに帰ってくるだろうと思っていた千土はオールマイトのその反応、そしてオールマイトの影で顔を僅かにしかめたリカバリーガールにどこか違和感を感じるもいつの間にか肩に添えられたオールマイトの手に気付き顔を上げる。

 

「君のおかげであの場にいた皆は助かったんだ。我々教師がいない状況で本当に良く頑張ってくれた」

 

「いえ、……そういえばあの二人は?」

 

 心の底から尊敬するオールマイトからの激励がくすぐったくつい話題を変えた千土だったが途端に表情を曇らせたオールマイトにそれがどういうことかすぐに理由する。

 

「すまない、逃がしてしまった」

 

「そうですか」

 

 オールマイトが言うには例のヴィラン二人はオールマイトが構えた直後にワープホールに逃げ込んだという。

 

 脳無というオールマイトと戦う駒が自分に倒された時点で逃走の準備を予め整えていたのだろうと千土は判断し歯噛みする。

 

「すみません、俺が中途半端なばっかりに……」

 

「何を言う、何度も言うが君はあの状況で最善を尽くしてくれた。この件で君が負い目を感じる必要など──」

 

「……貴方に助けて貰った日からずっと鍛えてきた、なのに結局また貴方に救われた。俺一人の力じゃ誰も守れなかった……。俺は──」

 

 自分がもっと、オールマイト程の強さがあれば皆を守り抜きながらあの2人組のヴィランを捉えることも出来ただろう。そう思うと最早自身の内から滲みだす無力感を振り払うことは出来なかった。

 

(そうか、君はあの日からずっと……焦っていたのか……)

 

 オールマイトにとって偶然居合わせたある事件、突然両親を失いながらも自分を超えると宣言した当時の少年の姿が今悔しさに肩を震わせる姿と重なる。

 

 だからこそオールマイトは迷わず口を開く。

 

「だからこそ君はここへ来たのだろう、皆を守れるヒーローになる為に。ならば落ち込んでいる暇なんてないぞ!」

 

 力強く、それでいて諭すように優しく語り千土の肩に手を置く。

 

「君にとって雄英で学ぶことはまだまだ多い。焦ることなく一つ一つ地に足を着けて力を付けていけば良い。君はまだこれからだ!!」

 

「……そっスね」

 

 自分はまだ未熟、だからこそまだ先がある。一度目を閉じてそれを頭の中で繰り返す。

 

「……かっこ悪ィ」

 

「ん?」

 

 不意にそう呟いた千土にオールマイトは首を傾げる。

 

「オールマイトだってずっと限界に挑み続けて№1ヒーローになったってのにちょっと鍛えた程度で強くなった気になって、それでも開いてる差に情けなく思ってた。とんだ馬鹿だよ、そんな程度で埋まる程オールマイトが挑んできたものが軽いもんじゃないってのにさ」

 

 閉じていた目をゆっくり開き真っ直ぐにオールマイトに向き合う。

 

「俺はまだこれからだ、もっともっと限界に挑んでいつかオールマイトを超えた№1ヒーローになってみせます!!」

 

 幼い頃確かな決意と共に告げた覚悟、それを再び"今の自分の言葉"として宣言する。

 

 迷い無き瞳にオールマイトは満足そうに微笑みグッと親指を立てる。

 

「あぁ待っているぞ地城少年!!」

 

 ▼▼▼

 

 その後千土が病院の迎えに運ばれた後にオールマイトは自身の本来の姿、ガリガリに痩せ細った身体でリカバリーガールと向き合っていた。

 

「まったくアンタと同じで無茶する子だよあの少年は」

 

「……あの子もまた事情がある子で、貴女もそのことは」

 

「もちろん知ってるよあの子の世話人とは知り合いだからね」

 

 そう言うとリカバリーガールは手元の資料―地城千土と名がしるされたものへと視線を向ける

 

 そこに記された経歴に悲しそうに顔を曇らせたリカバリーガールにオールマイトは優しく微笑む。

 

「大丈夫ですよ、彼はもっと強くなる、それに」

 

 そしてオールマイトは別の少年の顔を思い浮かべる、今はまだその力を眠らせているが誰よりもヒーローとしての信念を持つ自身の個性を引き継いだ弟子にして生徒の姿を。

 

「彼にはきっと彼を支える仲間がいますから」

 

 ヒーローの卵達はきっと自身を超える存在になる。そう期待と信頼を胸にオールマイトは天井を見上げるのだった。

 

 

 

 

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