地に足つけた浮かれたヒーロー   作:マーカー

8 / 37
体育祭編突入前に一話挟みました。

今回オリキャラが出ます。
オリジナル展開にはなりませんが一部キャラに少なからず影響が出るかもしれません。


第8話 一時の休息…

「暇だ……」

 

 真っ白の病室の中千土は短くそう呟く。

 

 暇、そう暇なのだ。何せ脳無との戦闘で負った傷の痛みは4日経った今多少マシになってもまだ残り、それでも何とか早く復帰させようと出来る限り安静を心掛けているためリハビリ以外の目的で動かす訳にはいかなかった。

 

 加えて個人の病室とは言えゲームや携帯等の電子機器を病院で扱うのは気が引けるし趣味の粘土弄りもそもそも粘土がここには無いため当然無理、要するに安静どうこうなしにする事がないのだ。

 

「はぁ、暇だ。……いっそリハビリ追加でやるか?」

 

 適当に言ったものの実際それが一番良いと思えてきた。やり過ぎだとナースの方に止められたのが3時間前、案外堂々とやればバレないかも知れないと考え寝転がってた身体を起こしベッドの側のスリッパに足を入れる。

 

 何とかなんだろと実に気楽にドアの取っ手を掴み横にスライドする。あとは廊下に出て目的のリハビリルームに向かうだけ──その考えは開けたドアの前に立っていた黄色の存在を見た瞬間に呆気なく砕かれた。

 

 ▼▼▼

 

 丁度その頃緑谷は同じく千土の見舞いに行こうというクラスメイト達と共に病院に訪れていた。

 

「うぅ、ちょっと緊張してきた……」

 

「落ち着け緑谷君、大所帯で行くと迷惑だから他の皆には遠慮してもらった以上俺達は皆の代表、ならばしっかりと地城君を元気付けなければ!」

 

「飯田それ余計に緊張させてるから」

 

 本人としては緑谷を気遣っているのだろうが明らかにプレッシャーを追い討ちしている飯田に忠告しつつ耳郎は壁のプレートに視線を移す。

 

「えっと508は……ここだね」

 

 受付で教えてもらった千土の病室の番号と一致するプレートの貼られたドアは見つけて緑谷は背筋を伸ばして佇まいを直す。

 

「そういえば何も考えずに来てしまったが地城君の身内の方がいらっしゃるかもしれないな」

 

 あり得る可能性に飯田は姿勢を一度正して病室のドアを軽く叩く。

 

「失礼します。地城君と同じクラスの委員長飯田です。地城君のお見舞いで来ました」

 

『うひゃあっ!!』

 

 周囲の病室に迷惑にならない程度の声で飯田が声をかけてみると千土の病室から聞きなれない声が聞こえてきた。

 

「うひゃあ?」

 

 あまりに驚いた様子の声に緑谷達は首を傾げるが直ぐに病室から再び声が響く。

 

『あー飯田? 、悪ィ今身内来てるんだ、あー、まぁ良いか入ってくれ』

 

『え!? ちょちょ、待って千土。僕今こんなカッコなんだけど』

 

『気にすんな、どーぞー』

 

 必死に静止する声に疑問を抱くも入れという千土の言葉に従い耳朗がドアを横にスライドする。

 

『ま、待ってぇ──!!』

 

「「えっ?」」

 

 千土の病室に入り緑谷達は皆目を疑った。

 

 元々会うつもりだった千土は上体を起こしてベッドに普通に座っていた。緑谷達が目を疑ったのはその側の、見舞いに来た人の為のイスに座っていた千土の身内らしき人物だ。

 

 その人物は全身が黄色く頭には尖った耳が生えており目は糸の様に細く、そして身体はぬいぐるみの様に柔らかい質感が見てとれた。

 

 つまり狐の着ぐるみだった。

 

「……えっと、地城? そちらの、人? は?」

 

「あー、姉」

 

「「姉っ!?」」

 

 明らかにどこかの遊園地から来たかの様な、病院に限りなく似つかわしくないファンシーな存在に戸惑いながらした質問の答えに耳郎と緑谷は驚きの声を上げる。

 

「まぁ義理のだけどな。似てねぇだろ?」

 

「知らないけど!?」

 

 着ぐるみのせいで顔を伺えないのにどう答えろというのか、ケラケラと笑う千土に耳郎はそう叫ぶと千土の姉という狐の着ぐるみと向かい合う。

 

「すみません、突然押し掛けてしまって。ご迷惑でしたか?」

 

 普段の口調を抑えて出来る限り丁寧な言葉で話しかけるも狐の着ぐるみは怯えたように半歩程後退りする。

 

『きき、気にしないで。む、むしろわざわざ来てくれてありがとうございます。えっと』

 

「あー耳郎? 、その狐会話下手だから──」

 

『その狐とか言うの止めてくれないかな?』

 

 千土の姉は千土の発言に心底不本意そうに黄色の両腕を振る。

 

「しかし地城君のお姉さんは何故着ぐるみを?」

 

『あ、えっと。それは……その』

 

 飯田のもっともな質問に狐の着ぐるみはビクリと身体を震わせる。

 

 その反応は明らかに何かの事情があることを感じさせ慌てて質問を取り下げようと飯田が口を開こうとした時着ぐるみの中から声がした。

 

『ちょっと……事情があってね。あんまり他人に顔、……ていうか"僕"を知られたくないんだ』

 

「それって?」

 

「まぁでもコイツらなら大丈夫だろ。つぅ訳でそれ脱いでいいぜ姉さん?」

 

『え!?』

 

 さらっと言い切った千土に狐の着ぐるみは心底びっくりした様に声を上げる。

 

「というか正直気が散る、あと耳朗達に失礼だろ?」

 

『えっ、いやでも……』

 

「あ、あの地城、事情があるのなら別に無理してもらわなくても──」

 

『うぅ……分かったよ。まぁ千土の友達だしね。……ん』

 

 渋々と言いつつも観念したのか狐の着ぐるみは首を千土に突き出しチャックを開かせる。

 

「えっと、そういえばまだ名前も言ってなかったね。虚峰 空(うつろみね くう)、千土の義理の姉です」

 

(うわっ、……凄い美人)

 

 着ぐるみの頭部が無くなり紺碧の髪とともに晒された空の素顔は緑谷や飯田だけでなく同性である耳郎でさえ一瞬息を飲む程儚げで美しく目を奪われてしまっていた。

 

「えっと、眼鏡の君が委員長の飯田君で……2人は耳郎ちゃんと緑谷君かな?」

 

「え!? 何で僕たちの名前を?」

 

 しかし名乗る前から自分達の名前を言い当てられて緑谷達は意識をハッと戻す。

 

「あ、合ってたかな、良かった。皆のことは千土がいつも話してたから多分そうだと思ったんだ」

 

「はぁ、……どんな話を?」

 

「姉さん余計なことは言わんでくれよー」

 

 耳郎の言葉を遮って千土が釘を刺してくる。

 それはまるで親と友人が話して居心地の悪くしている子供のような雰囲気だった。

 

「余計なことって……いつもアイツは良い奴だーとか、アイツと話すのは楽しいとかそんな内容ばかりじゃん、何がダメなのさ?」

 

「だからそれが余計だっつってんの! コミュ症な狐には分からんだろうけど男子高校生にゃカッコつけたいラインがあんだよ!!」

 

 友人に知られたくないことをベラベラ喋られて千土は頭を押さえながらそんな悲痛な叫びを上げる。

 

「ふ~ん、地城って意外とそんな事言ってんだ?」

 

「おい耳郎、絶対上鳴とか瀬呂とかに言うんじゃねぇぞ」

 

「さぁ? 人の無理するなって約束を無視する奴の言うことをウチが聞く必要あんのかな?」

 

 首を逸らしてそうぽつりと呟かれた耳郎の言葉に千土は痛いとこを突かれたと唸る。

 

「い、いやいや耳郎さんや、そもそも俺も逃げようとしたんだけどね? さすがにワープ持ちがいるんじゃ逃げるのも難しくて結局戦う方がまだマシだったって話な訳よ」

 

「あっそ、じゃあしょうがないね」

 

 取り付く島もない。

 納得した口振りだが以前顔をこちらに向けず不機嫌そうな横顔を覗かせている。

 言葉を詰まらせていると隣に立った姉から声がかかる。

 

「千土、言い訳してないで言う事あるんじゃないかい?」

 

「いや空姉、だからあの状況は―」

 

「その場にいなかった僕だって君が入院する程の大怪我したって聞いて目の前が真っ白になったんだよ?」

 

「っ……」

 

 空の言葉に千土は言葉を詰まらせる。

 僅かに固まった千土に向けて空は続けて口を開く。

 

「そういう状況だったってことは分かってる、ヒーローを目指すことが危険を伴うことだってことも分かってる。でも助かったのなら安心させてよ、今のままじゃ次は死んじゃうんじゃないかって"不安"なんだよ?」

 

「……ごめん、心配かけた」

 

 ヒーローを目指す者として他人を不安にさせた。

 弟として姉を不安にさせた。

 そしてクラスメイトとして友達を不安にさせた。

 

 その事を理解し千土は自身の姉に目を合わせてそう言うと耳郎の方へと向き直る。

 

「約束破って悪かった耳郎、次はもうちょっと上手くやるよ」

 

「……ったく、何そのふわふわした反省、全然信用できないじゃん」

 

「うっせ、反省し過ぎて言葉が出ねぇんだよ」

 

 一応許してくれたのか耳郎が揶揄うような笑みを浮かべて振り向いたことで今度は千土がバツが悪そうに顔を背けるがそうは許さないと視線の先に白い紙の束が突き出される。

 

「……何これ耳郎?」

 

「相澤先生からのお土産、無茶したことの反省文5枚」

 

「またかよっ!? 俺もう3度目だぞ!? ってかあの人こそ無茶しまくってただろ納得いかねぇ!?」

 

 病人に鞭打つ担任に愕然とした表情で反省文用紙を握り締めて千土は叫ぶ。

 

「反省し過ぎて言葉が出ないなら文字にしろということだな、提出は登校日で良いとのことだからゆっくり書くと良いぞ地城君」

 

「そりゃぁどうも委員長……」

 

 ベットに付けられたテーブルに項垂れて力なく返事をすると顔を上げないまま千土はゆっくりと声を出す。

 

「まぁ見舞いに来てくれてありがとな皆、俺も2、3日すれば退院出来るらしいしまた学校でよろしくな」

 

「早く来なよ、障子や常闇だって心配してたよ」

 

「そっか……そりゃ早くしないとな」

 

「うむ、あの爆豪君も君の退院はまだかと毎日叫んでいたぞ」

 

「…………」

 

 いつも顔を合わせていた友人達の名前を聞いて千土は少し顔を上げて──飯田の言葉で再び沈んだ。

 

 絶対因縁付けられる。

 明らかに心配とは異なる感情を抱いているだろうクラスメイトの顔が思い浮かび今から憂鬱になる。

 

「えぇっと……バクゴー君っていうと確か"いつも堪忍袋が爆発してるプライドが奇跡的に人の形で固まった様な奴"っていう何か凄そうな子のこと……かな?」

 

「え!? えぇっと……多分?」

 

 これも千土が話していることの一つなのだろう、幼馴染みが変な表現で認識されていことに困惑しながらもいまいち否定が出来ずに緑谷はお茶を濁しながも頷く。

 

「あはは、千土は相変わらず色んな子と仲良くしてるね」

 

「世間一般では殺意の籠った目で睨んでくる奴とは仲良い関係とはいわねぇよ?」

 

 どうやらそんな気難しそうな奴からも心配して貰えるほど人間関係が上手くいっていると思われたらしいが絶対にそんなもんじゃないと千土は首を振る。

 

「ふふ、まぁ実際千土のクラスの人達がどんな人かなんて僕には分かんないけど、少なくともこうやってお見舞いに来てくれる人達がいてくれて僕はとても嬉しいよ」

 

「いえお姉さん、地城君には皆助けられ今日ももっと大勢で見舞いに行くつもりだったのですが病院に大所帯で行くのは良くないと控えてもらっただけです」

 

「そっか、ありがとね飯田君」

 

 飯田のその言葉に空は嬉しそうに微笑み耳郎、そして緑谷にもゆっくりと視線を向ける

 

「え……っと、千土は好き勝手することが多いし無茶ばっかりする困った君だけど……ど、どうかこれからも仲良くしてあげてね?」

 

「「はい」」

 

 弟の為、深々と頭を下げる空に耳郎も飯田も緑谷もはっきりと返事をする。

 ちなみに当の本人である千土はそんな姉に耐え切れなくなったのか完全にテーブルに頭を突っ伏してした。

 

 

 ▼▼▼

 

 

「じゃあそろそろ帰るね?」

 

 その後あの授業がどのぐらい進んだとかアイツがあんなことやらかしたとか他愛のない雑談を数十分ほど続け、やがて耳郎が腰を上げる

 

「そうだな、地城君遅くなったがこれは皆からのお見舞いの果物だ。良ければお姉さんと食べてくれ」

 

「おー悪いな! ぶっちゃけいつ出してくれるのかずっと待ってたわ!」

 

「うわー、現金……」

 

 飯田が手提げ袋から取り出した果物の山が積まれた籠を受け取りながらケラケラといつもの調子で笑う千土を耳郎もまたいつもの呆れた目で見つめる。

 

「まったく、食べ過ぎて体調悪化なんかしたら皆怒るからね」

 

「はいはい、いいからお前らももう帰れよ、どーせ宿題もでてんだろ?」

 

 軽く聞けばあまりに心無い、しかし千土なりの気遣い。

 もう見舞いは十分だから自分に遠慮せずに自分を優先してくれという意図。

 

 それが分かるから耳郎達は何言わず退室しようと病室のドアへと向かって──ドアに手をかける前に勝手に開く。

 

「うわっ!」

 

「おや、……すまない、病室を間違えたようだ」

 

「いや合ってるよ、心奈(ここな)さん」

 

 病室に入れば見知らぬ少女と顔を合わせたことで自分が間違えたと判断したのだろうドアを閉めかけた女性に千土は声をかける。

 

「おや千土いたのか、──あぁつまり君達は千土の友人達か、よく見れば雄英の制服だしね」

 

 気だるげな声、眠たそうな半開きの目、伸ばしっぱなしの前髪にダボっとした服、あちこちがだらしなさを感じさせる長い茶髪の女性がそう呟く。

 

「えっと、地城君の知り合い?」

 

「あー、まぁそんなとこ。母さんの昔の後輩でよく世話になってる人」

 

 正確には生前の頃の母の後輩で今の自分と義姉の空にとっての母親代わりの人である。

 しかしそれを今説明する気は起きなかった。

 以前に轟には流れで話したが両親との死別をわざわざ話して空気を暗くする気にはならないから。

 

「うん、彼の頼りになるお姉さん"安藤 心奈"だ、ここの病院の精神系の非常勤医師でね、勤務の前に先輩の息子の部屋で一休みさせて貰おうと思ってね、こうして立ち寄った次第なんだ」

 

 心奈と名乗った女性はのそのそと歩いて千土のベットの隣に置かれた空きのベットに横になってそう言う。

 

「……ねぇ地城、あの人大丈夫なの?」

 

 微かに聞き取れる小さな声で耳郎が話しかけてくる。

 飯田と緑谷もやたらダウナーな口調で客人がいる前で平然と寝転がる女性に唖然としているようだった。

 

「いや基本的には良い人なんだ、ただ今回はあんまり大丈夫じゃないな。心奈さんここに来る前に個性使った?」

 

「んー? あぁ途中会社をクビになってちょっと荒れてる男性がいてね、少しリフレッシュさせてあげた次第だよ」

 

「やっぱりか」

 

 案の定と頭を抱える千土に耳郎が首を傾げていると空が困ったように笑いながら補足する。

 

「えっと……心奈さんの"個性"は『メンタルケア』っていう個性でね、他人の気分を爽快にさせたり安定させたりできるんだけど……そうすると反動で自分がダウナーになっちゃうんだよね……」

 

「嫌な反動……」

 

 明かされた心奈の個性に耳郎が引きつった笑みを浮かべるが飯田は何かに気付いたらしく顔を上げる。

 

「しかし医者とは言え無許可で"個性"を使うのは如何なものか? 勿論行動が間違っているとは言わないがヒーロー以外で独断での"個性"の使用は──」

 

「心配無用だよ飯田坊や、私はこの通りヒーローも兼用しているからね」

 

「「は!?」」

 

 話しが聞こえていたのか上着のポケットからヒーローの免許を取り出してヒラヒラと見せびらかすように持ちながら心奈はそう言ってのける。

 

「もっとも既にヒーロー活動自体は引退しているのだが、まぁそれでも個性の使用を許可されている身でね。もぐりのヒーローではないから安心したまえ」

 

「『メンタルケア』の個性……引退したヒーローって、まさか『メンタルヒーローの"リラクゼーココナッツ"』!?」

 

「……うん緑谷坊や、正解だからそのヒーローネームを口にするのは止めてくれ、意地の悪い先輩に付けられた恥ずかしい名前なんだ、当時でも恥ずかしかったのに40歳を過ぎても呼ばれるのは耐えられない、やめるんだ」

 

 この場において、いや1-Aにおいて最もヒーローの知識の深い緑谷はその情報から彼女のヒーロー名を言い当てると心奈は無表情のまま顔を僅かに赤くして平坦な声で釘を刺す。

 

「ていうかこの人もウチらの名前を」

 

「あぁこの人にもつい話しててな。あぁそうだ耳郎は知ってんだろ、オールマイトの初日授業の後で飯食いに行った時に話した競馬で勝ったっていう知り合い。あれこの人」

 

「うん、なんとなくそんな気はしてた」

 

 正直千土の事を少し変な奴と思っていた耳郎だったがこの場にいる千土の姉という狐の着ぐるみに身を包んだ空と依然ベットから身体を起こさない心奈を見ているとある種の納得と実は千土はまだマシなのではないかと思えてきてしまった。

 

 千土も薄々耳郎の内心の疲れを察して口を開く。

 

「まぁあんま長居してもらうも悪いし3人共そろそろ帰ったらどうだ? 正直教育に悪そうだし」

 

「あ、うん。……なんかごめんね」

 

 そんな曖昧な表情を浮かべて耳郎、そして飯田と緑谷は病室を後にするのだった。

 

 

 ▼▼▼

 

 客人達がいなくなって暫くの間の後、ベットから身体をゆっくり起こして心奈は空と向き直る。

 

「しかし驚いたよ、空が千土の友人と話していたとは……」

 

「僕もそんな気はなかったよ、こんな格好だし」

 

 狐の胴体を見せびらかしながら空は疲れたようにため息を一度ついて「だけど」と穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「千土の友人だからね、少しは安心して話せたかな?」

 

「うん、私はあまり話せなかったが優しそうな子達だったから安心したよ。いい友人だね千土?」

 

「あーはいはい。んなことより心奈さんはこの後仕事なんだろ? マジで大丈夫なのかよ?」

 

 このまま話しが続くと2対1で弄られることを察して千土は話しをすり替える。

 

「うん、あまり自信がない。私もリフレッシュが必要だ千土、君の見舞いのリンゴを一つ頂きたい」

 

「ったく、空姉悪いリンゴ取って俺の分も含めて」

 

 空からクラスメイト達から送られた真っ赤なリンゴを受け取ると千土も心奈も"刃物の使用を避け"そのまま丸かじりする。

 

「旨い」

 

「うん甘くて美味しい。これは良いな、これなら仕事も頑張れそうだ」

 

「ならその髪も整えないとね、こっち来て心奈さん」

 

「すまない……」

 

 狐の着ぐるみの首元から両腕を出して空はだらしない非常勤医師を手招きする。

 

「いや助かるよ。今日の患者さんは学生時代の先輩の妻の方でね、かれこれ何度目かの仕事でね、つい気が緩んでしまっていたようだ」

 

「それむしろ緩んじゃダメな相手だろが、何してんだアンタ」

 

「返す言葉ないな……うん、しかし千土の友人達を見れて少し元気が出たよ、リンゴも美味しかったしこれなら轟さんに迷惑をかけずに済みそうだ」

 

「は?」

 

 空姉に髪を梳いてもらいながらリンゴを齧ってそう言う心奈さんの言葉に思考が止まる。

 身内とはいえ患者の名前を教えるなと注意する空姉の言葉が耳を通り抜ける。

 

「……轟?」

 

 不意に漏らされたその名は千土にとって聞き覚えがありすぎた名前だったから。

 

 

 ──END──

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。