セクピスパロもどき。現パロです。蛇の目カッコカリの号さんと大蜈蚣の御手杵。(相互妊娠が性癖なので)リバです。相互妊娠性癖、α女×ω男にしかなかったのに気がついたらストライクゾーンが広がっていた……。※こんなこと言っといてなんですがまだ子供できてません。pixivにも投稿してます。

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たとえば神話をなぞるような

 ムシの(まだら)はレア物だ。軽種ばかりなのに滅多に形質が出ないものだから、だいたいの相手には魂現まで正体がばれない。だからその日、ムカデかと聞いた蛇の目の男に、結城はひどく驚いた。声をかけられたのは重種の集まりだったから尚更だ。

「なんでわかった?」

 結城は、おそらくとうに絶滅した生きものを魂元としている。ユニコーン(ウマの系譜という扱いになる)やドラゴン(トカゲの系列だ)を魂元とする例がないではないが、それは狭義の人魚──クジラと同じくらいに珍しい。唾の付いた矢で射抜かれた大百足よりはまだ、億年前に滅んだ種だという方が納得できた。ニホンオオカミやサーベルタイガーの斑なら偶に出る。

「勘」

 蛇の目の男は結城より幾らか年上に見えた。見える魂元は軽種、どれだけ贔屓目に見ても中間種のそれで、彼が替え魂をしているのは間違いなかった。

「参考にならねえ……いや、隠してるわけじゃないけどさ。あんたは?まさかそのヘビじゃないだろ」

「コブラなんだが……蛇喰いでな、家のもん怯えさせるのも本意じゃねえから普段はこうしてる」

 まだ何かある、と反射的に思った。嘘ではないのだろう。重種のフェロモン、特に捕食者のそれはより小さな斑に恐れを感じさせることがままある。けれどそれだけではないような気が、なぜかした。

「今はいいだろ、重種しかいないんだ」

 それもそうだな、と言って男は重種の本性を隠さなくなった。5メートルもありそうな重たい、同種喰いの毒持ちと言われて納得する剣呑な気配。なるほどこれは苦労する。

 自分より二十も年上の相手に、魂だけで怯えられるのは子供の身には堪えるものだ。初めて魂元を現した結城を見て、反射的に身を竦めたリスの母のように。

 ああ、でも。

 これになら負けない、と思った。自分よりも大きな肉食に、どうしてか。

 

 結城義助、とムカデは名乗った。父はハチ、母はリス。蜘蛛腹の姉はけれど猫又だと言う。聞いたことのない家だが、ムシの家なら当然かもしれない。ヘビに関わりに行くムシが多いとは思えない。蛇の目の軽種が猫又を避けるのと同じことだ。

「そうか。俺は日ノ本号、よろしくな」

 日ノ本が名を告げると、結城は目を瞬かせた。日ノ本は母の姓だが、日本の斑にとってはそれ以上の意味がある。この国の蛇の目であれば多かれ少なかれ影響は避けられない、日ノ本はそういう家だ。そこに生まれた重種への期待は重い。交配(ブリーリング)の依頼は中学に入る頃にはもう来ていたし、高校に上がる前には断りきれなくなった。

「俺でいいのか?うん、よろしく」

 けれど一度だって、鱗の一枚さえ、日ノ本は見せてこなかった。日ノ本号という雄に、重種のヘビである以上の何かを求めた雌など、ただの一体もいなかった。日ノ本の方から何かを求めることも、同じように。そういう風に一生を終えるのだと思っていた。それでいいのだと、今日の今日までは思っていた。

 だから、こういう時どうしたら良いのかがわからない。口説くことも、フェロモンで誘うことさえして来なかった身では、当たり障りのない世間話から先に進めない。柔らかな笑みを、その奥の意思の強い瞳を、魂が覗くまでどろどろに溶かしてやりたいと思うのに。そう自覚した一瞬、魂の覆いが外れた感覚があった。

 

 一瞬、会場を何かのフェロモンが覆った。ともすればクジラより重い、既に絶えたなにものかの匂い。蛇の目(ヘビ)(ワニ)、それにウマか何かを混ぜたような。

「日ノ本、今のあんただろう?」

「何の話だ」

 惚けることに意味がないのは日ノ本自身わかっているだろう。交流を深め云々と言っているが、これは結局の所婚活パーティーの類いなのだから、そこでこんな気配を出されて探さない方が不自然だ。

「周り見てみろよ、出元探してねえのあんたくらいだぜ」

 だとしても言えるか、と目線だけで答えがあった。検索すればすぐに出てくるような話(結城も今それで知った)だが、日ノ本の家はかの八岐大蛇を(つまりその伝説の元となった斑類を)祖とするのだと云う。まあ、蛇の目にしろ蛟にしろドラゴンやヒュドラを祖とするのだという伝承は世界中にあるが、これはきっと事実だ。逃してはいけない、と思った。ムシを嫌うのはサルばかりではなく、重種のムカデと知って離れない斑は少ない。少しだけフェロモンを余分に漏らす。異様だと言われてきた、威嚇だとばかり思われて一度だって催淫に成功したことのない代物だけれども、勘違いでなければ、この男が替え魂を誤ったのは俺の所為(ため)だ。

「上、行かねえ?」

 斑類のお見合いが行き着く先なんて一つだけだ。最終的には結ばれなくても同じこと。だからこの手の集まりはある時にはホテルの広間でパーティーをして、そのホテルにいくつも部屋を押さえておくのが定例(らしい)で、なんなら仮腹の手術も予約くらいは入れられると聞いている。

「……いいのか」

 掠れた低い声の重さに、選択を誤った気がした。蛇の目の、特に重種が本命を離さないのは周知の話だった。けれどここまで言ってしまって、今更何ができるというのだろう。身体は麻痺したように動かない。神経毒。替え魂のコブラ。

「いいよ」

 

 大広間の入口に立つボディーガードも斑ではあるが、大方は犬神人だった。犬には詳しくないので種はわからないが、黒いスーツを着込んだうちの一人に日ノ本が目をやる。それだけでスーツの男は動いた。

「お部屋に案内します」

「ああ、頼む」

 結城の実家は軽種ばかりで、この集まりだって偶然学友にクマの重種がいたから誘われただけ。だからこんなパーティーなんかには端から縁はないし、あったとしても専ら使われる側だ。案内を当然のように受け取る隣の男に、ある種、斑とサルのような断絶を感じた。

「お部屋はこちらになります。何かございましたら内線でお呼びください」

「あ、はい」

 昼までいてもいいと言われた部屋にはクイーンだかキングだか、ともかく布団派の結城が知らないサイズのベッドが置いてあって、けれどそれ以外の空間も広々としていた。結構いいホテルのだいぶいい部屋なのでは、と宿泊費を計算しそうになったところで、ドアが閉まる音がした。

「なんか飲むか?」

 茶でもコーヒーでも、酒もあるぞ。ビジネスホテルにしか泊まったことのない結城では思いもしなかったサイズ感の風呂と、その隣の洗面台にしれっと置いてあるローションだの浣腸剤だのに面食らっている間に、日ノ本の方は冷蔵庫を漁っていたらしい。

「えっ、あー、甘いのある?」

 櫛や歯ブラシ、フェイシャルなんたら(多分化粧品)、そういうよく見るものに並んでローションが置いてあることに凄く違和感を感じる。ラブホならわかるけどこんな高そうなホテルで。

「おう。酒でいいな?適当に出しとくぞ」

 了承の返事を返しながらベッドに向かう。サイドテーブルにはコップが二つ並んでいるだけで、つまみらしいものはなかった。どうやら元から置いていないらしい。

「腹ん中空にしとけってことだろ。下で食えたしな」

 腹。空。そういえば浣腸剤があったような。言われてみれば男どうしなのだから尻に物をいれるのだと、今更思い至って、それからふと戸惑った。

「……どっちが?」

「どっちがいい?」

 そう言いながら重種のフェロモンを目一杯出してくるのはずるいと思う。欲の芯に強く働く匂いに頭が溶けそうになる。けれど忘れてはいないだろうがこちらも重種なのだ。

「どうせ仮腹も入れてないんだ、どっちがどうでも変わんねえよ」

 生憎、フェロモンの調節なんて量でしかできない。艶かしさなんて欠片もないのを承知で、両方試してみようぜ、と笑った。このヘビはどこまでも本気だろうし子を宿すのも悪くはないが、黙って流されるのは気にくわない。ブリーリングに駆り出される“名家”の子と違って結城は自由恋愛派だったし、男を相手にするのは実のところ初めてだ。どうせ離して貰えないのなら、要求を容れさせられる関係にしておきたい。

 

 酒を飲んで、水も飲んで、腹の中身を空にして、ベッドに転がる。双方スーツだったが、酒を干すうちにタイとジャケットは脱いで、シャツのボタンも三つは開いていた。

 ずっと垂れ流しのコブラの匂いは、今までなら抑えていたものだ。ヤマカガシの替え魂と比べると日ノ本自身はずっと楽なのは事実だが、 5メートル級のキングコブラともなれば、世界を見渡しても毒持ちの蛇の目では最大級ということになる。ブリーリングの相手も、種別に依らず軽種は怯えて、中間種も警戒が先に立ってしまい、いずれにせよセックスどころではないようだった。重種が相手なら抑えなくてもよかったのかもしれないが、重種とのブリーリングが組まれた頃にはもう習慣になっていた。それでもこのムカデであれば、という予感があった。

 手を伸ばして、ムカデを引き寄せる。朽葉色の瞳が、どろりと溶けつつあるのはアルコールの所為だけではないだろう。瞳より幾分か濃い色の髪を撫でながら唇を合わせた。わずかに開いた口から舌を這わせる。水音が口中で響くのと、花よりスパイスに似た結城の匂いが混ざり合って脳を溶かしていく。

 

 猫又や犬神人は耳と尾が、蛟や蛇の目であれば鱗が、まず現れるという。日ノ本はちょっと驚くくらい魂現を見せなかったが、濃紫の瞳に赤が灯るのを見つけた。それと、結城の魂が姿を見せたのは、ほとんど同時だった。口付けを離して、少し身を引く。日ノ本が「どうかしたか」と問うて手を伸ばした瞬間、ガチ、と結城の口元が鳴った。ムカデの口器だ。驚きに目を見開いて、けれどそれ以上避けずに日ノ本は笑った。

「これじゃあキスは無理だな」

 噛み千切ることもそうだが、結城が能動的に何かしなくともあちこち尖っているので引っ掛けて傷を作りかねない。今までの相手は(そもそも気がつかないサルはともかくとして)これを見ると途端にその気をなくすものが多かったのもあって、結城は魂現状態を避けるのが常だった。それを、この男は。結城の喉のあたりに顔を寄せて、傷つかないぎりぎりのところにくちづけた。さて、とあの低くて甘い声がする。

「気持ちよくしてやろうなァ」

 ぞわり、と背筋が凍る。きっと意識などしていないのだろうが、先から振り撒かれているフェロモンが一気に甘さを帯びた。警告のためでも威嚇のためでもない、お前を愛と欲に浸して溶かしてやるという宣言の匂い。その魂のすべてを引き摺り出す、とまで言われた錯覚があった。

 

 すべてとまではいかないまでも、ムカデの本性を半分までは見ることができた。魂現を抑えている素振りはあったし、初めてにしては上出来の部類だろう。それとまあ、当然と言えば当然だが、腰から下がムカデになってしまうと先へ進めないのでここから先はよしておく。艶めく外骨格の赤茶の綺麗さと、あの口で噛まれると凄まじく痛いことは覚えておく。

 

 魂現を引き出した、ということ自体に興奮を覚える気持ちはわからないではない。流石に挿れる方は慣れているのかなんなのか気持ちよさそうではあっても派手に魂を見せるほどではないようだが、それでも瞳は赤に染まっていたし、途中から唇ばかり使って口中に物をいれなくなったあたり、牙と毒腺は現れていたのだと思う。

 あと噛んでしまったのは素直に申し訳ない。蛇の目は生命力が強い(体調ではなく傷の方の話)と言うが、それにしたって驚くくらいの再生力で治ったのは幸いだった。

「疲れてんなら終わりにするか?」

「冗談」

 両方試す、と確かに言った。

 

 キングコブラ。重種、毒持ち、同族喰い。日ノ本の振る舞いはあまりにその魂に合致していて、ともすればあの時感じたフェロモンが錯覚で、本当にそうなのではないかとさえ思わされた。けれど丁重に、丁寧に、肉の内にある快楽と魂を表に引き出すように弱いところ、すでに魂の現れたところから広げるようにしていけば、日ノ本のほんとうを見ることができた。

 鱗が浮く。碧に金に、はたまた黒。薄明かりの下でそれでも煌くそれの中、喉元に逆さに並ぶ一枚を見つけた。

「……あんた、蛇の目じゃないだろ」

 ゆるりと手を這わせれば、男はあからさまに身を竦めた。魂の底から湧き上がる怖気を押さえつけて、なるたけ平然として振る舞おうというのがいっそ可愛らしい。

「ま、ムカデに隠せる訳ねえわな」

 龍だよ、と男は言った。笑うように、根源的な恐怖を隠すように、強がって言った。背を這い回る快楽と恐怖とを飼い慣らすように、炎のように赤い目を細めて日ノ本が笑う。その瞬間、あのフェロモンが部屋を覆った。

 俺のだ。反射的にそう思った自分を結城は恐れた。三上山の大蜈蚣は龍を食べる。そして現に今、重過ぎるフェロモンに当てられてくらくらする結城は無性に肉が食べたかった。

「……食うなよ?」

 頑張る、としか返せなかった。フェロモンだけで、あらゆる枷を焼き切るには十分なくらいだ。クジラにすら匹敵する、空の覇者。それが自分の下で脚を開いている事実が、余計に暴力的な衝動を煽った。

 脚が、置き換わる感触がする。一度抑えたムカデの胴が伸ばされていく。このリュウを、逃してなるものかと理性でないところが叫んだ。これは俺のだ。俺の卵をこれが抱くのだ、と。

 自分が斑であること、獣の性を持つものであるのを、こうも痛感したのは初めてだった。

 

 俺のものだ、と叫びが聞こえた。耳ではないどこかで、声ではない何かを聞いた。そう思ってくれるのか。胎のうちから背骨を駆け上がる性感を覚えながら、なんとか身を曲げて、肋骨の下、艶めく赤茶の始まるあたりにくちづけを落とす。

「愛してるぜ」

 一目惚れ、と言うのだろう。重種のムカデは物珍しいが、そんなことではなかった。甘さより辛さの勝る、スパイスのような匂いに、誘惑されたとは酷い冗談だ。ではなぜ、こうも執着するのかと言われれば、わからないと言う他ない。それでもこれを、逃してなるものかと一目で思った。リュウの有り様など誰も知らないが、日ノ本は蛇の目に囲まれて、自らをヘビと偽って育った。冷えた血の通う、ヘビと自分を騙って過ごしてきた。

 蛇の目の重種がどんな愛を注ぐのか、日ノ本はずっと見てきた。アナコンダの母。エラブの父。父は半重種で、子が重種なら日ノ本の、中間種なら父の家の子になる予定だった。ブリーリングで結ばれただけの、一過性の繋がりのはずだった。けれど母は父を見初め、そして父はおそらく二度と海を見れなくなった。そういう愛を、日ノ本は嫌というほど見てきた。叔父も、祖父も、そういうヘビだった。快適で、けれど薄暗い部屋に縛りつけておくようなそれだけが、日ノ本の知る愛だった。それなら愛などなくていい、と蛇ならぬ龍は思っていた。あの瞬間まで。離してやるものかと思った。離れていくくらいなら逃げられないよう閉じ込めてしまえと。結局自分もヘビの子なのだと、思い知った。

 

 ヘビの愛を、結城は知らない。蛇の目の友人も恋人もいたがいずれにせよ軽種で、世に言われるような執着は見せなかった。

「……俺も。俺も、好きだよ」

 それでも反射でそう答えたのは日ノ本が、なんだか寂しそうだったからだ。龍の瞳は、きっと空を高く飛びすぎて、誰か隣にいてほしいと乞うているように結城には見えた。結城は翼主(トリ)ではなく、どころか羽の一つもないけれど、それでも鱗にしがみついてでも噛み付いてでも。この男の隣にいるのは自分がいい。

 

「なあ」

「俺は、アンタの子なら産んでもいい」

 自分は当然、子を産ませるものだと思っていた。重種の子を欲しがる斑は多く、相手に困った覚えもない。けれどこれを自分の隣に留め置くためなら、どちらでも構わないと思った。

「だから俺の隣にいてくれ」

 ヘビの愛が消える日まで。ムカデが喰らいついた顎を離す時まで。命の火が尽きるまで。



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