今回からタグが働きます。
「これは、何というか凄いね。」
「うん.......やっぱり私、呪われてるのかな?」
「そんな事無いさ。生きてれば誰かから非難される事だってあると思うよ?まぁ、これは些か度が過ぎていると思うけどね。」
子供達が腹を空かせて家に帰る頃。
目の前にあるのはスプレーの塗料と罵倒の書かれた紙が大量に貼り付けられた建物。そこは、響の家だった。
二人揃って大きなため息を吐くと、ブラシやら雑巾を持ってきてわしゃわしゃと汚れを落としていく。これが二人の日課になりつつあった。
今日の落書きの中には、やたら強力なペンキなどもぶち撒けられており、塀にうっすらとペンキの跡が残ってしまった。
「この間は窓ガラス割られて、昨日は郵便受けの中に残飯。んで今日は落書きか。これは相当だね、響。」
「うん。でもへいき、へっちゃらだよ!沙樹も手伝ってくれてるし!」
「ありがとう、響。無理だけはしないでね。辛かったらちゃんと頼ってね?」
「勿論ッ!頼りにしてるよ、沙樹!」
家の前で別れると、沙樹はすぐ近くの路地裏に入り込んで響の家を監視し始めた。
こうしているのには少し訳がある。それは、前に日課の清掃が終わってすぐのことだった。ある日掃除していると、何人かの見知らぬ男がバットやスプレー缶を手に襲い掛かって来たのだ。
勿論響は警察に通報、沙樹はOTONA譲りの体術によって事なきを得たが、駆けつけた警察官が響達をライブの生還者だと知ると、襲い掛かって来た男達を見逃し、寧ろ響達を叱った。こんなことで警察を呼ぶな、と。
「チッ」
あの時の事を思い出して舌打ちが漏れた。あの警官、次会ったら半殺しにしてやる。
まあ、それ以来あの男達がまた来るとも限らないので、こうして響の家を監視している。
暫く家の前を見ていたが、少し暇になってきたのでイヤホンを片耳に付けてニュースを聞き流す事にした。
相も変わらず棒読みなニュースキャスターの声を聞いて、憂鬱な気分が深くなっていく。そこから、チラチラと携帯の画面と響の家を交互に見ていると、不意に気になるニュースが耳に入ってきた。
「 次のニュースです。東京都在住の○○XXさんが公園で亡くなっていました。警察によると相手から見て右肩から左脇にかけて切断された状態だったようです。」
「(切断?珍しいな。よっぽど恨みがあったのかな?)」
そのニュースを聞いていると、発見者のインタビューに移ったのか老人の声が聞こえた。
「いやー、びっくりしたよ。まさか人が死んでるなんて思ってなくて腰抜かしたよ。そういえば
「................はい、現場でのインタビューでした。地域に住む人からはXXさんは特に問題を起こす人ではなく、ボランティアにも手伝うような優しい人だったとの事です。では、次のニュースです 」
「大きな人影、ねぇ。」
額にうっすらと浮かんだ汗を拭う。
実際に、肩から脇まで切断できるのは、よほど力のある人間が大きな道具を使わないと無理だろう。もしくは何か機械を使うか。しかし、過去に出来そうな人を一人だけ知っている。
そう、それこそあの騎士だ。シンフォギアもどきとはいえ、防御して踏ん張った俺をぶっ飛ばす力を持つくらいだ、多分今回の犯人もそれだろう。
「どの道調べないとなぁ.........。」
また面倒が増えたと愚痴を零すと、立ち上がり周りを見渡す。今のところは問題無いか確認していると、響の家の前に黒ずくめの服を着た男達がやって来た。
「(うっわ明らかに怪しいじゃん。止めるか?いや、でもやる前に行くと難癖付けられて終わるな..........。)」
どうするか迷っていると、男の一人がペットボトルを取り出して中のものを撒いた。ふわりと漂ってきた鼻に付くような匂い。それはガソリンそのものだった。
沙樹は、ガソリンだとわかった瞬間に駆け出した。
「ちょっと!何やってるの⁉︎」
「あぁ?」
声をかけると男達は眉間に皺を寄せながらこっちを睨みつけてきた。
「それ、ガソリンでしょ。何するつもりなの?」
「オゥ、うるせぇぞてめぇ。この家に火ぃ付けるに決まってんだろ。大体この家の奴が何やったか知ってるか?あのライブで人を踏んづけて逃げた犯罪者だぜ?犯罪者にはそれ相応の報いって奴を俺達がやってあげてんのさ!」
「さっきから聞いてれば!それはただの身勝手でしょうが!」
あんまりな言い分に反論した瞬間、男達が懐から警棒やらナイフやらを取り出してより一層睨みつけてきた。
「ちっ、うるせぇ!あんまりごちゃごちゃ言ってっとぶっ殺すぞ!」
「お、殺るか?」
全く引き返そうとしないので、戦闘態勢を取った沙樹だったが一番後ろにいた男がライターを取り出してにやけた。
「おいおい、どんだけ自信あんのか知らねーけどよ、変に動くと燃やしちまうぜ?」
「んなっ.......!」
まずい、此処で響の家が燃えてしまえば中にいる響ごと死ぬ事になる。仮に響が生き残ったとしても心に相当なダメージが入る。本当にまずい。幾ら考えても打開策が見つからない。
少しだけ躊躇すると仕方なく戦闘態勢を解いた。すると、待ってましたと言わんばかりに、男の一人が警棒で顔面を殴った。
大振りの素人の一撃だったが、男というだけあって中々の威力でその場で倒れてしまった。
「っぐ....!」
上手く受け身は取ったものの、顔面にクリーンヒットしたせいで視界がぐらつく。
起きあがろうとしたら頭を思いっきり踏まれて、グリグリと踏みにじられる。アスファルトと靴の感触が心地悪くて、とてつもない程のストレスを感じる。
「ほら〜どうした?無様でちゅね〜?」
「こんのっ、愚図が.......!」
「はいはい、口でしか何も言えないもんね〜?」
ギリッと歯が軋む。悔しそうにしている沙樹を見て笑っている男達だったが、突如大きな声である提案をし始めた。
「おい、もう燃やそうぜ。なんか飽きた。」
リーダーであろう沙樹を踏んづけてる男は、ライターを持った男に指示すると、ゆっくりとガソリンを撒いたところに近づけた。
「おい、やめろ!」
「残念でした。犯罪者には罰を与えないとな!」
その時、沙樹の中の何かが切れた。
それは緊張感か、あるいは堪忍袋の緒か、またはもっと別のナニカかもしれない。
しかし彼女にとってはそれもどうでもいい事。まずはこの目の前の人の形をした獣を駆除することしか頭に無かった。
「そうか。」
「んあ?」
「そんなに死にたいか。」
男達からしてみれば、それは恐怖。格下に見ていた女がいきなり雰囲気が変わり、底冷えするような声色とともにこちらを獰猛な目で見ていた。
「っひぃ‼︎」
そして、踏んづけていた足を離した、否、
「
透き通るような声で紡がれた聖詠。知らない人からすればそれは天使のような声に聞こえるだろう。しかし、目の前の男達からしてみれば、それは処刑のカウントダウンに他ならない。
倒れ伏していた沙樹から黒い霧が立ち込め、体を包んでいく。その間に彼女は立ち上がって男達を見据えた。そして霧が晴れた時、そこに居たのは、真っ黒な騎士だった。
「な、なんなんだよお前⁉︎」
「さあ?知らなくてもいいだろ?どうせ死ぬんだからなぁ!」
沙樹がそう言った瞬間、さっきまで踏んづけていた男にアッパーをお見舞いした。すると、男は数メートル程真上に飛び、落ちた時には瞳孔が開いていた。
「次。」
ナイフを持っていた男の胸ぐらを掴むと思いっきり真上にぶん投げた。その間に左腕に力を溜めるようにして構える。
そして丁度いい位置に降ってきたところで、思いっきりの左ストレートをかました。
「うわっやめ」
それが男の遺言だった。繰り出された拳は音速となり、男の顔を原型も分からないくらいに歪めた。
男の体は吹き飛び、ぐにゃりと曲がった体勢のまま動かなくなった。
「うわあああああ‼︎」
目の前で人が死んだことでやけになったか、あるいは仲間の敵討ちかどうか分からないが、鉄パイプを振りかぶり別の男が襲いかかってくる。
しかし、いずれも素人同然。そこら辺でかじっただけの喧嘩など、沙樹からすれば取るに足らないものだ。
振り下ろされた鉄パイプを掴むと、逆にこっちが鉄パイプを引っ張って男から奪った。
男はあっさりと鉄パイプを取られたことで呆気に取られていたが、次第に正気に戻り逃げようとした。しかし、この惨状を見てしまって腰が抜けてしまっていた。
一方、鉄パイプを奪った沙樹は、鉄パイプを強く握りしめると、握った部分から赤い筋のようなものが入り始めた。その色は血管よりも濃い、ドス黒い汚い赤だった。
「や、やめてくれ!あやまる!あやまるからぁ!」
「詫びは天国でいれてくれよ。」
フルスイング。おそらく、これがゴルフボールならばホールインワンするぐらい綺麗なフォームで頭をぶち抜いた。
頭こそ取れなかったものの、首が変な方向に曲がってることから、もう二度とこの世では目が覚めることは無いだろう。
「んじゃ、最後な。」
ライターを片手に持った男に歩み寄る。男は半分放心状態であり、股間からは微かなアンモニア臭がした。
「あぁ、ああああああああああ⁉︎」
此処で、今の状況を理解したのか半狂乱になりながら慌てて逃げようとした、その時だった。
ガシャン、と遠くから金属音が鳴った。突然聞こえてきた音に沙樹は一瞬だけ呆けたものの、聞き間違いかと思って男を追いかけようとしたその刹那、
男の逃げた方向にあった曲がり角から出てきたのは、くすんだ鋼を身に纏い、身の丈程あるタワーシールドに古びた重厚な剣を肩に乗せた、あの黒い騎士とはまた別の2m越えの騎士だった。
騎士が出てきた瞬間、沙樹はニュースに出てきた公園で男を殺した奴だと直感的に分かった。そして、コイツが原作にも出てこないであろう事も。
「うぁああぁああああぁ‼︎」
いきなり出てきた騎士に驚いて情けない声を上げた男だったが、騎士は男を一瞥すると、剣を振り上げた。
これには、沙樹は止めようともしなかった。男は縋るように此方を見ていたが気にすることなく兜から冷たい眼差しを送っていた。
鋼の響く音と肉と骨の音がミックスされて、そこには真っ二つに分かれた肉塊があったが、沙樹はあまり気にしない。そして、騎士も此方を見据えると剣と盾を構えた。
「お前、公園で男を殺したか?」
沙樹は、少し気になった事を問うが、騎士は構えた状態でジリジリとにじり寄ってくる。
答える気が無いんだろう。沙樹はそう判断すると右手に力を込めた。すると黒い霧が集まり、赤い筋の通った黒い鉄棍が握られていた。
沙樹も両手に鉄棍を掴んで構えると、騎士はにじり寄るのをやめて走って突っ込んで来た。
そして、激突。真っ直ぐに突き出された剣と、斜め上に振り上げられた鉄棍が火花を散らした。
戦闘、開始。
final wave
はい、次回から騎士との戦闘です。
因みにこの騎士にもモチーフがあります。わかる人はいるのだろうか.............。
あと、主人公がキレる回でもありました。主人公って追い詰められるとキレるタイプだったりします。