ポケモントレーナーとしての旅立ちを数か月後に迎えた、とある少女の日記帳。
旅立つ前の、ちょっとした出来事の羅列。



※1話読み切りの短編で、日記形式のネタです。その為設定面や時系列はあまり固まっていないフワフワ加減ですが、その辺りは軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。

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とある少女の日記帳

赤月 緑日

 

今日は育て屋のせがれである幼なじみが、なんだかやたらと目つきが鋭いカモネギを連れていた。色もわたしが知っているカモネギとは違ってこげ茶色っぽいし、色違いというやつだろうか?

 

「立派な騎士になるんだぞー」と頭を撫でていたが、カモネギに騎士はないだろう。どちらかといえば侍だと思う。

 

カモネギのことはさておき、もうじきトレーナースクールも夏休みに入る。今年は親戚のいるアローラ地方で家族と過ごす予定だ。

 

アイツは育て屋の手伝いをすると言っていた。ガラクタ集めが趣味だし、お土産くらいはあげようと思って聞いてみたら、「きんのおうかん」がいいと言われた。何だろうそれ?

 

手伝いは大変そうだが、10歳になる前にトレーナー資格を持っているのは羨ましい。家の手伝いをするための限定的な資格だが、わたしも早くトレーナーデビューしたいところだ。

 

 

 

 

 

青月 黄日

 

夏休みも終盤。旅先のアローラではすっかり日焼けしてしまった。お風呂に入るときヒリヒリするのがたまらない。

 

格好いいライフセーバーさんがいたので一夏のラブロマンスに挑もうとしたが、「大人になったらね」とはぐらかされてしまった。確かに大人と子供じゃ仕方ないだろう。だけど数か月後にはわたしも10歳。立派なレディーだ。そうしたらまたアタックしようと思う。

 

お土産を渡しにアイツの家を訪ねると、なんかカモネギが騎士になっていた。

目つきは一層鋭く、眉は太くたくましく。気品すら感じる佇まいに、正直イラっとした。

いや、別に何か悪い訳ではないんだけど。

 

進化したそうだが、カモネギが進化するなんて初耳だった。聞けば遠く離れたガラル地方では数こそ少ないものの、確認されているらしい。動画にも撮ってPtubeにアップしていたらしく、わたしも進化の瞬間を見ることができた。

 

結構コメントがされており、わたしのように「カモネギが進化するなんて知らなかった」というものから、「合成じゃないの?」「いや、進化するよ。ネギガナイトってやつ。進化方法はわかってないけど」「トレーナーの手持ちが進化した例は、ひょっとして初めてなんじゃ?」と議論になっていた。

 

ちなみにアイツは夏休みの自由研究として進化の一連の流れを記録しているそうだ。なんだかもう宿題の範疇を越えている気がする。

 

でもどうしよう。わたし、自由研究のこと忘れてたわ……

 

 

 

 

 

 

炎月 葉日

 

カモネギの進化についてのレポートはちょっとした反響になったようで、ポケモン博士やTV局なんかもスクールを訪ねてきた。昼行燈な先生がきりきり舞いで対処していたのには、悪いけど笑ってしまった。

 

そんな騒動もひと段落した今日この頃。アイツは変な魚ポケモンの面倒を見ていた。

ヒンバスというそうだ。何でもゲットしたトレーナーが育て屋にあずけていたそうだが、「珍しいから捕まえてみたけど弱っちいし、いらねー」と捨てていったらしい。ヒンバスは悲しそうな顔をしていた。

 

あんまりな身勝手さにわたしは怒ったが、アイツは淡白な反応だった。「いろんな考え方があるし、決定的に拗れる前に縁を切れてむしろよかったんじゃないか?」とか言ってやがった。冷たい奴だ。ヒンバスの前で言わなかった分、良心はあるのかもしれないが。

 

 

 

 

 

金月 銀日

 

育て屋に行くと、ミロカロスがダース単位でいた。何を言っているのか分からないかもしれないが、わたしにも分からなかった。

だってミロカロスだよ? いつくしみポケモンとして分類され、野生ではごく少数の個体のみが確認されており、手持ちにしているトレーナーも非常に稀。

その美しさと希少性から一部の地域では幻のポケモンとして扱われており、神様として祀っている民族もいるとか。

わたしだって小さな頃には、写真集を広げて憧れの息をついたものだ。

 

主犯であるアイツを問い詰めたところ、進化前のポケモンが卵を大量に産んだので――と言葉を濁していた。進化前なんていたのか、初めて知った。

 

今はダンスを仕込んでいるそうだ。当初はミロカロス48匹構成からなるMLC48なるユニットを計画していたらしいが、ご両親から「さすがに多過ぎだ」と止められたらしい。英断だと思う。

 

でも仕込んでいたダンスが“タケシのパラダイス”なる謎かつ奇妙なダンスだったので、急遽わたしがコーチとして参加することになった。

ミロカロスたちとたっぷり戯れることができたので、余は満足である。

でも一匹のミロカロスの瞳が、あの時のヒンバスの瞳を彷彿とさせて……

 

まさか、ね?

 

 

 

 

 

 

心月 魂日

 

Ptubeで公開したミロカロスたちの舞は、それはもうすさまじい反響だった。

ネギガナイトの時とは比べ物にならないくらいだ。

でも必然ではあったのだろう。一匹でも珍しいのに、ダース単位だ。しかもわたし監修のダンス付きだ。ちなみにバックミュージックはコロトック楽団。うん、わたしにはコーディネーターとしての才能もあるのかもしれない。

 

再生回数もだが、広告収入もとんでもなかった。SNSでもあちこちで話題に上げられ再生回数は伸びる一方。アイツはわたしにも一部を受け取る権利があると言っていたが、子供が持つ額じゃない。まあしっかり貰ったのだが。ちゃんとポケモンたちにも還元するといっているので、そこは信用している。

 

でもこの一件で、多くのトレーナーやコーディネーターが町に押し寄せてきたので大変だった。てんやわんやだ。

写真目当てや物珍しさならまだいいが、厄介なマニアや「オレの元にいた方が力を活かせる!」と謎の自信満々さを発揮してちょーだいと言ってくるDQNトレーナーには辟易した。

 

アイツはその辺りはポケモンたちの意思を尊重したようで、実際にトレーナーと気が合った何匹かのミロカロスは旅立っていった。過半数は残ったのだが。旅立ち組のこれからの活躍を期待したい。

 

町長からも打診があり、町興しの為にミロカロスチームのダンスを定期的に開催することになった。主にお祭りの時などの目玉にしたいそうだ。確かに人は集まることだろう。わたしもトレーナーとしての旅立ちの時までに、コーチとしてしっかりやっていきたい。

 

ちなみに何たら団とかいう悪党がミロカロスを狙ってきたりもしたが、お忍びで来ていた凄腕トレーナーやジュンサーさんたちに締められていた。でも人に向かって“はかいこうせん”はわたし、ちょっとどうかと思うの。

 

他にもこの周辺にミロカロスの群生地があると勘違いした人たちが探し回っていたようだが、結局何も見つからなかったようだ。それはそうだろう。きっとアイツがおかしいだけだ。

 

 

 

 

 

紅月 藍日

 

わたしの弟がトレーナーとしての勉強を始めた。

元々トレーナーにはあまり興味がなかった弟だが、最近シンオウ地方で誕生した新チャンピオン・シロナの影響みたいだ。

なるほど、確かに目を引く人物だ。強いポケモン、派手なバトル、考古学者という博識さ。更には美人――10年後のわたしには劣るだろうが。

そんな彼女に憧れを抱くのは理解できる。

 

でもトレーナーとしてのノウハウを教わるのが、何故わたしでなくアイツなのか。

 

……まあ理由は分かっている。シロナだ。彼女がインタビューの中で、アイツの動画は毎回チェックしていますなんて話していたせいだ。

おかげでまた登録者数と再生回数が伸びている。有名人の声の影響は大きい。

 

でもアイツ、弟に「ポケモンをゲットするためにはあの子のスカートの中に突っ込んでいく気概が必要」とか変態的なこと教えてやがったから“けたぐり”をくらわせた。

天誅だ。

 

 

 

 

 

 

終月 始日

 

わたしもいよいよ旅立ちのときが近い。

待ちに待ったトレーナーデビュー。自分の足で世界を回り、多くの人やポケモンたちに出会っていくのだ。

期待もあるし、不安もある。あと旅の資金もたっぷりある。広告収入様様だ。でも税金関係で書類作成しているお父さんには申し訳なく思う。

 

アイツはまだ旅には出ないそうだ。これは前から言っていたことなので、わかっていたことだが。しばらくは育て屋の仕事やPtuberとして活動していくらしい。……もうあっちの方が本業なんじゃ?

 

旅先で珍しい道具を見つけたら入手しておいてほしいと頼まれた。その代わりといってはなんだが、旅のお供としてポケモンを融通してくれるそうだ。もちろん、ポケモン側からOKが出ればだが。

 

なのでサニーゴをお願いしておいた。アローラに行ったときに一目惚れしたのだ。ピンクの体に、つぶらな瞳。海中を優雅に泳ぐ姿には魅せられたものだ。ドヒドイデは許さないが。

いつかはゲットするつもりで生態なども勉強していたので、いつでも準備はOK!

アイツも「なるほど、なかなか通じゃないか」とニヤリと笑っていた。うんうん、サニーゴの良さが分かるやつに悪いやつはいない! 楽しみに待たせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

翠月 △日

 

トレーナースクールを卒業し、10歳を迎えたその日――

なんかアイツから死んだ目のサニーゴを託された。というか死んでた。体が白いんですけど!? ところどころ透けてるし!?

 

殺害犯と思われるアイツに思わず“しめつける”してしまったが、よくよく聞いてみるとリージョンフォームというらしい。通常のサニーゴは水・岩の複合タイプだがガラル地方のサニーゴはゴーストタイプだとか。マジモンの亡霊らしい。環境問題とか今まであんまり興味がなかったが、初めて身近に感じた。

 

最初はショッキングだったが、まあ慣れてみれば案外かわいい……と思う。

予想外だったが約束どおりのサニーゴ。

アイツに言わせれば高個体値の呪われボディ。性格も図太くドーピング済み。“しんかのきせき”も付けるとか。進化はさせない方がいいとか。うん、ところどころ不穏なワードがあるのは無視するべきか。

 

「どーよ! このやる気に満ち溢れた顔は!」とドヤ顔していたが、わたしには死んだ顔にしか見えなかった。

 

ともあれせっかくの旅のお供。わたしとしても仲良くやっていきたいと思う。とりあえず半透明の枝の部分と握手。ひんやりとしていて、なんか背中がゾワッっとした。

 

当初考えていた旅立ちとは違う展開になったが、明日には長年住み慣れたこの町を旅立つ。

一丁、わたしの名を世界にとどろかせてやるぞー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※後にガイアクィーンと呼ばれる少女の日記より

 




以上、ちょっとしたポケモン短編の投稿でした。ちなみに剣盾で久しぶりにトレーナーとして復帰した勢です。ワイルドエリアが楽しいけど、あそこに高個体値のポケモンが多いのは、ワイルドエリアの育て屋で厳選過程の孵化余りポケモンが大量に逃がされているからなんじゃ……と闇を考えてしまう。
 ちなみに補足しておくと、幼なじみの“アイツ”はポケモン世界への転生者君。前世知識と今世での現状のすり合わせをしながら、好き勝手に育成しています。トレーナーよりもブリーダー気質。
 それではこの辺りで失礼します。


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