著 5145/A6M5
まえがき
50年前、ユーハングがイジツに伝えたユーハングの航空産業。それは荒野の広がるイジツにおいて、人と人、街と街、技術と技術を繋ぐ大切な架け橋となった。
そんな世界の「タネガシ」という街で起きた、街を守るための戦いと葛藤の話を、ここに綴っておくべく私は筆をとった。戦いの記録は、ただのマフィア同士の抗争であるためにほとんど残っておらず、私の記憶が頼りとなってしまうが、最後まで読んでいただけると、私はとても嬉しい。
序章
まずは私と、私と共に戦った仲間の事を書かねばなるまい。私達はゲキテツ一家というひとつのマフィアに所属している。
私はイサカ、ゲキテツ一家イサカ組組長だ。愛機は
レミ組組長レミ、別名「流れ雲のレミ」愛機は
フィオ組組長フィオ、別名「狂犬フィオ」愛機は
ローラ組組長ローラ、別名「死神のローラ」愛機は私と同じ零戦二一型。副官は・・・・・ローラ親衛隊隊長と言っていた、名前を聞こうとは思わないが、ローラを信頼しているのは確かである。敵機を必ず撃墜し、その腕から死神と呼ばれる凄腕パイロットである。冷静な判断を常に下してくれるので、私共々皆とても助かった。
シアラ組組長シアラ、別名「魔性のシアラ」愛機は
ニコ組組長ニコ、別名「不死身のニコ」愛機はレミと同じ零戦五二型、副官は結局一度も名を名乗らなかった、後世に残す予定の本書に名を連ねてやれないのは残念である。無言で何を考えているかわかりにくい奴だが、タネガシの為に(かどうかは微妙であるが)よく戦ってくれた。あの脆い零戦で被弾しても必ず帰ってきたとてつもない運と精神力と技術の持ち主である。
ここで私達が用いた素晴らしい戦闘機の説明もしておこう。シアラとフィオが迎撃戦を主にやった理由もここで理解できると思う。
零戦(零式艦上戦闘機)二一型
ユーハングでは非常に有名な「零戦」の初期型である。私はこの美しいスタイリングが気に入り今まで愛機としている。発動機は中島の栄一二型で、背面飛行をしても燃料供給が滞らない優秀な気化器を備えていた名機である。増槽を装着すれば約3000クーリルを飛行できるという長大な航続距離も魅力である。機首に7.7ミリ機銃を二艇、翼内に携行弾数60発の20ミリ機銃を二艇搭載し、非常に素直な操作性と優秀な旋回性能で多くの敵機を葬った。20ミリ機銃の弾数と機体の強度、ロールレートの低さが不安点であったが、後述の零戦五二型甲の機銃を加工流用することによって携行弾数を増加させることに成功したため後に携行弾数は不安点では無くなった。
零戦五二型・五二型甲
直接では無いが二一型の後継機である。発動機を同じく中島の栄二一型に換装し翼端を50センチずつ切り詰め丸く整形した機体。推力式単排気管の採用により機体側面の乱気流を吹き飛ばせるようになり最高速度が向上した。武装は二一型と艇数は同じであるが、20ミリ機銃の銃身が長くなり携行弾数が60発から100発に、甲ではさらに銃身が伸び携行弾数が125発に増量している。零戦二一型の難点であったロールレートが翼端が短くなった事により改善しているが、翼面荷重が少し高くなり運動性能は若干低下した。さらに発動機換装により胴体内燃料タンクが小さくなり航続距離が減少した、しかしこれは私達の実用上なんの問題もなかった。
局地戦闘機 雷電二一型
格闘戦性能、航続距離を重視して設計した零戦に対し、こちらは上昇力・速度・火力を重視した迎撃戦向けの戦闘機であり、零戦程の航続距離がなかった。これは後の紫電にも共通している。三菱の火星発動機を搭載し空気抵抗減少のためカウリングを絞り、必然的に不足する風量を補うために強制冷却ファンを搭載し風量を確保した。ユーハングでは20ミリ機銃が二種類搭載されていたそうであるが、我々は整備が煩わしくなるため長銃身の20ミリで統一していた。
局地戦闘機 紫電一一型
十五試水上戦闘機を陸上機化した機体で、発動機を火星から誉に換装し二段伸縮式の主脚を採用、自動空戦フラップを装備した局地戦闘機である。主翼下面に20ミリを収めたガンポットを装備し携行弾数と命中率は良だったものの、動きが鈍重であった。
以上が私達が主に用いた戦闘機である。性能の善し悪しはあれど、皆自分の機体に愛着を持って接していた。
ちなみにユーハングでは緊急発進の際は誰の機体に飛び乗ってもよかったそうだが、私達は各々の戦闘機に自分好みの改造を加えることを良しとしていた事もあって、多少面倒ではあるが基本的に自分の駐機場まで走る事としていた。また、機体の整備は幹部であろうが一般組員であろうが自分で行うようにし、最終チェックを整備員と共にすることになっていた。整備を怠って死ぬのは自分の責任という事である。
第一章 始まりと戦力差
私たちは、組内での揉め事も一段落し各々のシマの統治に当たっていた。そんな中、ゲキテツ一家本部に
「我々のシマの空の駅がほぼ全て攻撃されました!」
という電話が入った、本来ならすぐに迎撃にあたるのであるが、敵機はもう攻撃を終え去った後との事、居ないのであれば仕方ないとその電話で
「被害状況はどうだ?」
と問う。すると、
「商業施設や人間は被害ありませんが、滑走路と燃料補給施設を完全にやられました、他の駅も同じようです。しばらくタネガシ周辺の空の駅は営業できません。」
と返された、これは非常にまずかった。私達は仮に空戦で撃墜されても落下傘で降下し携帯している地図とコンパスを用いて1番近い空の駅に行きそこで連絡を取り仲間の迎えを待つ事になっていた。さらに長距離進出の際はいくつかの空の駅で燃料を補給しながら飛行する事が必要であった。そんな大切な空の駅を一気に使用不能にされたのであれば、我々はこれから始まるであろう戦いに非常に不利な状態で挑まないといけない形になる。
そしてその空の駅襲撃の三日後、四機の所属不明の零戦がタネガシ上空にやってきて街に機銃を掃射。私は部下と共に即時出撃しこれを撃墜、落下傘降下したパイロットを捕まえ話を聞いた。すると
「直にタネガシは我々ケンザキ一家のシマになる・・・・・貴様らは終わりだ。」
といい拳銃で自殺。我々は、今までなんの注目もしていなかったケンザキ一家というマフィアを相手にシマを守る戦いをすることとなったのである。
二時間後、幹部が集められ会議が開かれた。この時驚いたのが、レミが既にケンザキ一家のことを調べていたことであった。
「ケンザキ一家なんすけど、幹部が何人もいるんじゃなくて1人の首領に組員が多く着いているタイプのマフィアっす。今までどこのシマにも手を出さずに大人しくしていたっぽいんスけど、今になってこっちに手を出してきた感じっすね。」
我々は首領の下に私達六人の組があり、六人がそれぞれ部下を持っている。そしてここで気になるのが敵の武装である。
「そのケンザキ一家の保有している戦闘機の数はわかるか?」
すると思いもよらない答えが帰ってきた。
「零戦六二型三百機、これは下っ端組員に配備されているっぽいっすね。次に零戦五四型二百機、中堅クラスの組員の戦闘機っす。それで次は紫電二一型百機、紫電改っすね。上層の組員に配備されているようっす。最後が五式戦二型、首領が拘って選んだ機体の様っす。戦闘機だけならこの六百一機で全てっす。」
戦闘機の保有数が多い。我々はひとつの組が約五十人程で構成されており保有する戦闘機も三百機ほどで、数の上ではこちらは不利という事になる。そしてレミの言い回しに気になる事があったのか、フィオが口を挟む
「戦闘機はってことは、他にも飛行機を持ってるってことか?」
なるほど、フィオもたまには頭が回るのだな。
「フィオ鋭いっすね〜、ここはさらにB17フライングフォートレスっていう爆撃機も5機持ってるらしいっす。」
そんな名前ユーハングの航空機では聞いたことが無かった、どういう事なのだろうと頭を悩ませていると、ローラが青ざめた顔で話し出した。
「B17フライングフォートレスは、ユーハングが戦っていた敵の爆撃機よ・・・爆弾搭載量は4536ポンド、12.7ミリ銃座を前後上下左右に備え分厚い外板で防弾も施した空飛ぶ要塞・・・なんでその設計図がイジツに・・・」
すると、ニコが珍しく口を開いた
「鹵獲だ、敵の飛行場を占領した時、敵機を持ち帰って研究したというユーハングの書物に書いてあった。その時にユーハングは設計図の模倣品を書いたんだろう。」
そういう事か、だが分厚い装甲に多くの銃座というのは防弾装備が少ない我々の戦闘機に脅威になり得るには十分であった。タネガシに爆撃ができる飛行機は一式陸攻10機しかないが、それでも一機1000ポンドの爆弾搭載量であるため、全機出撃させてもフライングフォートレス二機分にしかならない。
「敵の拠点はサクシマっていう街っす。タネガシからは約1300キロクーリル、空の駅が壊滅させられた状態のウチの戦闘機なら増槽をつけた零戦しか往復できないっすね。一式陸攻も増槽をつければ往復できるっすけど、防弾が無いに等しいから正直あたしは作戦に使うのは怖いっす。」
確かに怖い、一式陸攻はユーハングで用いられていた時、敵にワンショット・ライターと呼ばれていたそうだ。一発玉が当たれば防弾がされていないためすぐに火を吹いたためである。
「ひとまず皆自分のシマに戻って警戒を絶やさないようにしてくれ。本部には電索で常に敵機襲来を調べてもらうようにして貰うから、襲来の連絡が行った場合は直ちに出撃できるよう準備をしておいてくれ。以上だ。」
敵の倍ほどの戦力にどう対策を立てようか、私はその事で頭がいっぱいであった。
第二章 敵機襲来
幹部会議から一日とたたずして、電索が反応を示した。敵機のお出ましである。今回は戦闘機二十機という事で、私とフィオが各部下を連れて敵と同数で上空で合流し、高度を上げながら無線機のダイヤルをひねり、フィオ機と通信を繋げた。会敵まであと約五分ほどである。
「敵機は戦闘機二十機だ、恐らく下層組員の六二型だろうが、油断はするなよフィオ。」
「わかってるよ!久々の空戦は腕が鳴るぜ!なーはっはっはっ!」
何時になったら成長するのであろうか、まあそんなことはどうでもいい。敵機の零戦六二型は五二型の武装強化、発動機換装機体だ。私の二一型と比べてかなり重量があるため動きが鈍く、格闘戦に持ち込んでしまえばわけないが、低空を飛んでいる時に一撃離脱戦法を取られると厄介であるので、こちらもしっかり高度をとる。すると私の部下が
「二時方向下方に敵機!」
無線を入れる。
「了解、上空から一撃離脱した後下方から突き上げ、そのあとは旋回戦に持ち込め!空戦空域から敵機が離脱した場合は追うな!いくぞ!」
敵機を目下に捉えプロペラピッチを低に固定、照準器の電源を入れ機体をロールさせスロットルを絞り急降下に入る、敵機はこちらに気づいていない。機体の形がはっきり確認できた、零戦六二型である。予想通りだ、ギリギリまで近づく、敵機との距離が60クーリル程になってから機銃の発射レバーを引く。
ダダダダッ・・・・・
敵機の右主翼が吹き飛んだ。左右の私の列機も次々と別々の敵機に命中弾を与え、そのまま操縦桿をめいっぱい引き戦闘機の死角である腹下に潜る。相手は回避行動を取るがもう遅い、もう一度下から20ミリ機銃を打ち込み左主翼を吹き飛ばした。このあとは私達は旋回戦である、こちらの先制攻撃で困惑していた敵を撃墜することなど他愛も無いことであった。全機撃墜を確認してから編隊を組みなおし、帰路に着く。
「イサカ、お前は何機撃墜した?私は五機だ!」
「私は六機だ、だが私たちの背中を護ってくれた部下のことも忘れるんじゃないぞ。」
「うるさいなわかってるよ教師かお前は!」
シマに戻るとサダクニを先頭に組員が迎えてくれた。
「組長、お疲れ様です。」
「ありがとう。だが私だけでなく私の列機を務めてくれた部下たちにも言ってやってくれ。」
そして私は一人の列機として連れて行った組員を呼んだ。
「初めての空戦はどうだった?」
「はい!組長の後を追うのが精一杯で、ほとんど何も出来ませんでした!申し訳ありません!」
「そう固くなるな。今日はお前はよくやったぞ。」
「へ?」
驚いている、それが当然の反応だろう、だが何も空戦は敵機を撃墜することが全てではない。
「では、お前の機に弾痕はあるか?」
「調べて参ります。」
数分して戻ってきたその組員が言う
「ありませんでした!」
「私に着いてきたと言ったが、ロール、ピッチ、ヨー全ての動きを真似ていたか?」
「はい、組長が出撃前に『今回貴様は初陣だ、絶対に私の後ろから離れるな、敵を見つけても追うな、死ぬぞ。私の全ての動きを真似するんだ。』とおっしゃられたので、しっかりと追従いたしました。」
上出来だ、初陣で隊長機を一度も見失わないのは簡単そうに思えてそう易々とできるものでは無い。
「それでいい、空戦は何も敵を墜とすことだけが目標じゃない。初陣で敵機を撃墜しようとした組員を何人か見てきたが、皆撃墜された。被弾しないという事は機体修理の者たちの負担を減らすことにも繋がる。これからもそうして経験を積んでいけ、絶対に物事の順序を間違えるな、そして、焦るな。」
「はい!」
空戦を生き延びるというのは簡単ではない。私は私の大切な組員を一人たりとも失いたくないのだ。
第三章 空飛ぶ要塞 襲来
ケンザキ一家から襲撃はさらに激しくなると考え、私達はフィオとシアラの局地戦部隊をタネガシ中心近くに設営した特設基地に、私、ローラ、ニコ、レミの長距離飛行及び一式陸攻直掩が可能な零戦部隊をタネガシ郊外の昔のユーハングの基地へ移動した。各組のシマは副官に任せ、集められるだけの戦闘機隊を集めた。そして皆で基地の整備をしていた時である。
「イサカさん、水臭いじゃあないですか。こんな時にこそシマの住民を使ってください。皆さんは戦うことに集中してください、食事や簡単な整備は私たちが引き受けます。」
「すみません組長。シマの住民が行くと聞かなくて・・・」
「大丈夫だサダクニ、こっちの住民も同じ事を言ってこっちに向かってる。」
「姐さん!俺たちのことなら何時でも使ってください!」
「組長が切り抜けてきた血で血を洗う戦いに比べればこれくらいどうって事ないはずだ・・・」
「お前達・・・・・」
「あたしらがここまで信頼されてるって事っすよ〜イサカ」
「小さくて可愛い者に囲まれたい・・・・・」
結局前線基地にシマの住人全員が集結してしまったのである。後から聞いた話だが、フィオとシアラのところにも同じように住民が集結したようだ。非常にありがたい話である。
そんなこんなで基地の整備が終わり、何時でも出れるという時であった。電索が反応を示した、今までより大きな機影で、遠い筈なのに近くに見えてしまう。いよいよ敵の本気の襲撃だ、フライングフォートレスの機影は三機、直ぐに皆で滑走路に走っていくと、零戦部隊の発動機は既に回っていた。
「ほらね、私たちが居て良かったでしょう?」
住民の一人がそう言いながら笑顔を向けた。私は住民に敬礼をして愛機に乗り込む、風防を全開にしスロットルを開け離陸し空中集合、編隊を組んで電索が示した地点へ向かう。今回はただの迎撃戦とは訳が違う、会敵する地点も今までよりずっとタネガシから遠いため、燃料にも気をつけなければならない。すると、私は横を飛ぶレミの零戦に増槽が着いているのを見た。無線で聞いてみる
「増槽なんていつの間に用意したんだ?」
「帰りの燃料が無くなるとまずいってんで、あたしが作っておいてくれないか頼んだら、住民達がわざわざ自宅の増槽を持ち寄って来てくれたんっす。さすがに急なことで数が揃わなかったみたいで今回だけは比較的航続距離の短い五二型につけててくれたんっすよ。」
レミは抜け目の無いやつだ・・・・・
それから2時間ほど高度を上げながら飛び続けていると、遠くに大きな機影が見えた、レミ、ニコが各組員に合図を出し一斉に増槽を捨てる。照準器の電源を入れてピッチを固定しスロットルを搾って急降下に入る。雲を突き抜け機銃を掃射しようとした瞬間、隣の零戦の翼に弾がかすった。旋回機銃である、私とローラを先頭にした編隊はシャワーの様な機銃弾をかわしつつ発動機とエルロンを何とか破壊した。隣のレミ、ニコの編隊も何とかフライングフォートレスのエルロンとエレベーターを破壊。だがその二機とそれを直援してきた六二型に手間取り、最後の一機フライングフォートレスに離されてしまった。スロットルを全開にして追う、機銃弾をかわしつつ、もう少しで再度攻撃出来るという距離についた時、私の上を通過した零戦が居た。翼に被弾したようで尾を引いている、私は胸騒ぎがした。その零戦はフライングフォートレスにぶつからんばかりの勢いで近づいて行く、機銃を掃射する気配が無いのだ。恐らくさっきの戦闘で撃ち尽くしてしまったのだろう、奴は刺し違える気だ。
「やめろーーーっ!!」
無線で力いっぱい叫ぶが腹を決めた者に聞こえるはずもない、最早これまでかと思った時、敵機のエレベーターが吹き飛び発動機が火を吹いた、それと同時に敵機とその零戦の間に別の零戦が飛び込んだ、接触スレスレで二機は体制を立て直し離脱する。直援戦闘機を撃墜し編隊を組み直し確認してみると、その零戦はレミの列機であった。やはり燃料タンクから尾を引いている、タネガシまでは辿り着けそうにない・・・・すると向かいから赤とんぼが飛んできた。大きくバンクを振りその零戦の隣につき、荒野に着陸するよう手信号を送る。その後その零戦は降下して行った。私とレミは編隊をニコに任せ、彼らと一緒に降下し救出されるところを確認した。その後は赤とんぼの離陸を待ち護衛の意味を込めて三機編隊で帰還した。
基地に戻り、何を言ってやろうかと考えながら赤とんぼの方に歩いていった。だが、その時私の目に飛び込んできたのは、彼の頬へと飛んだレミの拳打ちである。
「何であんな事をしたんすか!」
「燃料タンクをぶち抜かれて、機銃弾も底をついていました、最後に一矢報いてやろうと体当たりを・・・」
パァンッ!
レミの平手打ちが飛んだ。
「あんたに守らなければならない者は居ないんすか!?あんたに家族は居ないんすか!?」
「・・・一人妹が居ます」
「じゃあなぜ死のうとしたんすか!!」
「・・・・」
「妹さんはあんたが死んだら悲しんでくれないんすか!?」
「いいえ・・・」
「それなら体当たりなんて愚かな事をしてはダメっす・・・被弾しようが、燃料が尽きようが、翼が吹き飛ぼうが、最後の最後まで足掻いてくださいっす!あたしの列機である限り、何処に堕ちようが何処で落下傘降下しようが、必ず助けるっすから!」
後にも先にも、レミが怒鳴るのを聞いたのはこれが最後である。私は部屋に戻ろうとするレミに駆け寄った、するとレミはうっすらと涙を流しながら過去の話をしてくれた。
・・・・・あたしがゲキテツ一家で組を構えさせてもらってすぐの頃っす。小さな空賊と揉めたことがあるんすよ、そして結局空賊とウチの組員総出の乱戦にまで発展して・・・勝ったは勝ったんすけど、多くの仲間が撃墜、撃破されたっす。それで最終的にあたしと空賊のリーダーの一騎打ちになったんすけど、相手がとっても上手くてあたしは後ろを取られ続けていたんす。機体を滑らせて機銃を躱すのがやっとで、もうダメかと思った時・・・
「組長!組を大きくして、貧しい子供達に腹いっぱいメシ食わせてやって下さいね。」
次の瞬間、あたしの前から零戦が急降下してきたんっす。搭乗員は昔よくバカをやった仲間でした。彼はあたしの方を向いて笑って敬礼して・・・・・敵機に体当たりして死んでしまったっす。
「そんな事があったのか・・・・・」
何と言葉をかけていいかわからなかった。
「そいつの墓は産まれた場所だと聞いていたインノの外れに建てたっす。体当たりしてバラバラになった機体は燃えちまって骨すら拾ってやれなかったし、あたしの組は皆孤児で遺族はいなかったんすけど、その墓にはちゃんと名前を掘って、大好きだった零戦五三型の写真を入れてやったんっす。『俺いつか金貯めて五三型買うんだ!そんときは組長の五二型に模擬空戦してもらわねえと!』ってずっと言ってたんす。」
そこまで言うと、レミは腕に目を当てた。
「結局模擬空戦は出来なかった・・・・・」
レミは大粒の涙を流していた、私は寄り添って背中を撫でることしか出来なかった。
第四章 兵装整備
我々は戦闘機を用いている、そのため発動機や機銃、その他機外機内装備の点検は大切だ。ここでは戦いから少し外れて、我々が用いた兵器についての話をまとめようと思う。
長距離飛行の際は増槽をつけなければならなくなったことは前章でお話した、この増槽燃料タンクと言うやつは便利ではあるが厄介な代物で、つけた状態で腹下に機銃弾を喰らったら燃料に引火して機体ごと吹き飛んでしまう。それに330ボットルもの容量があるため懸吊した場合は機動性も落ちる。敵機発見直後に機体から何かを捨てている映像を見た事があるかもしれないが、それが増槽燃料タンクである。
私はこの増槽で1度だけ背筋が凍る思いをした、その時も敵機をタネガシから遠い場所でで撃墜すべく増槽をつけて飛んでいた。敵機を発見し増槽を捨てようと投下レバーを引いたがやけに投下レバーが軽い上に機が軽くならない、投下装置が故障していたのだ。そんな場合は本来速やかに空戦空域から離脱するべきなのだが、私は急降下の姿勢に入った。そして敵機に機銃弾を打ち込んだあと別の敵機スレスレを通過し、敵機主翼に増槽を当て増槽を破壊して外した。我ながら狂っている・・・それにしても増槽投下装置が故障した理由が分からない。自分では当然点検しているし、最終点検もした上で異常はなかった・・・・・が、理由は至極単純な物であった、最終点検の動作チェックの際にワイヤーが切れていたのだ、増槽を懸吊していない状態で投下レバーを引けば当然レバーの動作に負荷はない。ピンが上がった瞬間にワイヤーが切れればピンは自重で元の位置に戻るため、機外点検をしていた整備員も気づけなかったというわけだ。これは手応えを何度か確かめなかった私のミスだった。
基地に戻り私の機を担当してくれた整備員を呼ぶ。敵機にぶつけた時の衝撃で増槽がぶつかって傷と凹みのできた二一型を見て、整備員は言った。
「・・・・・すみません。俺のミスです、ちゃんと動作をチェックすべきでした。すみません!」
そうじゃない。私は整備員を責める気はサラサラなかった
「いや、完全に私の確認不足だ。お前は何も悪くない」
「しかし・・・・・」
「悪くないと言っているだろう?それに私がこうして生きて帰ってこれているのはお前たち整備員の努力あってこそだ、何か整備器具や待遇で問題があった時はいつでも言いに来い。」
「・・・・・はい!」
「これからもよろしくな」
私は敬礼をしてその場をあとにした。
さあ、ここで一度兵装整備というか、私とレミでやった事を話そう。
タネガシ郊外、私たちの基地の近くには湖があった。小さな湖だったがサカナがいたため、私はレミを呼び
「組員総出でこのサカナを捕まえて揚げてみないか?」
と提案した。するとレミは
「面白そうっすね〜、そういえば格納庫に植物油って書かれたタンカンがいっぱいつまれてたっすよ!それで揚げましょう!何本かかっぱらってくるっす〜」
よし、油の調達はできた、あとは
「サダクニ、すまないが何人か組員を連れてきてくれないか?」
これで大丈夫だ、数十分もすればカゴはたちまちサカナでいっぱいになった。
「たまには羽目を外すのもいいものだな。」
「イサカはちょっと張りつめすぎなんすよ〜」
「お前は羽目を外しすぎだ」
そんな事を話していると、組員たちがもう既に揚げ始めていた、副官二人は遠慮していたが私達は数本頂いた、これがなかなかうまい。組員達もいい息抜きになったようでよかった。
が、1時間もすると皆腹を壊して寝込んでしまった。かく言う私も食べている訳なのだから当然腹を壊した。当然原因はサカナの揚げ物にあるのだろうが何が悪かったのか分からない。しかし・・・・・ふと気になることがあり私は格納庫へ走り込んでタンカンの中身を地面に巻いてみた。そして油を舐めてみたところ
「うっ・・・・・」
植物油のような感じではなかった。こうなると答えは簡単だ。
「レミ!」
私はレミの部屋に駆け込んだ
「どうしたんすかイサカ・・・・・大声出さないでくださいっす・・・・・」
どうしたもこうしたもあるものか
「お前が持ってきた油は植物油じゃない!鉱物製のスピンドル油だ!そりゃあんなものでサカナを揚げたら腹も壊す!」
「ええ・・・じゃあなんでタンカンに植物油ってかいてたんっすか・・・・・」
「整備員に確認したら、もう植物油は使わないからタンカンの表記も変えていないそうだ。」
「そんなぁ・・・・・」
結局丸2日レミ組イサカ組は食べなかった副官ふたりを除いて寝込むことになってしまった。敵機の襲撃がなかったからよかったものの、わらえない話である。
第五章 ユーハングからの土産
まえがきで解説したと思うが、零戦二一型の翼内20ミリ機銃は九九式一号二型二十粍機銃と言い、ドラム弾倉で60発、五二型無印は九九式二号三型二十粍機銃では100発に増加しているがやはりどちらもドラム弾倉が重い上に初速が低く当てにくい。私達幹部であればどうにかして当てることが出来るが、まだ空戦技術が未熟な部下たちが組にはいる。何度もいって慣れろと口で言うのは簡単であるが、何かこちらとしても対策を打ってやらねばなるまい。そんな事を考えていると、レミとローラが面白い情報を仕入れてきた。
「最近、タネガシの工廠跡地に小さな穴が空いて、何かが降ってきたという情報が出たわ。行ってみる価値があるかもしれないわよ?」
「大量の紙とかいう情報もあったんで、設計図の類じゃないっすかねー?」
「解った。準備が出来次第行ってみる。レミ、着いてきてくれないか?ローラ、すまないが私とレミがいない間基地は任せる。電索に反応があればニコと共に独断で出撃してくれて構わない。」
十分後、私とレミはユーハングの残した工廠跡地に足を踏み入れた。建物の中を見渡してみると、大きな紙が何枚も散らばっていた。拾って読んでみるとどうもユーハング語のようだった。
「『二一型ノ九九式一号二型二十粍機銃ヲ九九式二号四型機銃ニ変更スル際ノ手引キ』『五二型ノ九九式二号三型二十粍機銃ヲ九九式二号四型機銃ヘ換装スベシ、方法ハ下記ニ記載アリ』・・・・・レミ、なかなかいいものが手に入ったかもしれんぞ。」
「こっちにもなんかあるっすね・・・・・『栄三一型甲ヘノ水メタノール噴射装置取付手引キ』『水メタノールタンク取リ付ケ位置指導書』って書いてあるっす。これは私らの五二型に応用出来そうっす!」
これは非常に大きな収穫であった、九九式二号四型二十粍機銃というのは、九九式二号三型二十粍機銃の銃身をさらに延長し弾薬供給方法をベルト給弾式へと変更した機銃である。銃身が伸びたため初速が上がり、また弾数も125発に増加したのだ。そして紙を見る限りでは三日もあれば全ての機体の武装換装が完了できる程の工程であった。九九式二号四型機銃は同機銃を二艇装備する雷電を所有するシアラ組のシマの中に製造工場がある。だが設計図と思しき紙はまだ数枚あった
「『中島製零戦二一型塗粧指示書』『中島製零戦五二型塗粧指示書』・・・・・?ユーハング時代の二一型と五二型の塗装指示書か。」
私はその紙を広げてみた、中に描かれていたのは二一型を明灰緑色一色に塗装し赤い丸に白いふちが描かれたマーキングを胴体側面に1つ、主翼上下面に赤い丸を描く指示がされた指示書と、五二型の下面を明灰緑色、上面を暗緑色に塗装し胴体側面と主翼上下面に赤い丸に白いふちのマーキングを施すよう指示された指示書があった。これがまたなかなか格好がいい。
「イサカ〜最後の1枚なんすけど『三式十三粍固定機銃取リ扱イ』ってなってるす。十三ミリってこの前撃墜したケンザキ一家の六二型についてたっすよ、うちのシマの機銃屋に頼んでコピー生産してもらうっすね。意外と使えるかもしれないっす。」
「解った。とりあえず設計図と指示書を持って基地へ戻ろう。」
「あいあいっす〜」
本当に大きな収穫だった。武装の強化が一気に図れるのだからここまで美味しい話はない、私はシマに戻ると設計図と指示書を複製しレミ達の分を用意した。
「うちらの組でも色々やってみるっすね」
「ああ、頼む。今日はありがとう」
「どうってことないっすよ〜」
さて・・・私は格納庫へ行くと
「おーい!整備班長!居ないか?」
「はいはいはい!お疲れ様です組長。」
彼はイサカ組整備班長のヤマダだ、抜けているところもあるが整備の腕は確かで既存の戦闘機の改造も行う事がある、普段はシマの住人の戦闘機を整備しているが、今は時期が時期なので格納庫に宿舎を用意し泊まり込んでもらっているわけだ。
「すまないがこの設計図と指示書を見てほしい。この機銃を零戦二一型に換装し、栄一二型発動機に水メタノール噴射装置をつけることは可能か?」
「これは・・・まず武装の換装ですが、難なく可能です。現在の7.7ミリがあるところに13.2ミリを、一号機銃を二号四型に換装すれば多少の加工で可能かと思います。」
「水メタノール噴射装置の方は?」
「取り付け自体は可能です。ただ、組長もご存知の通り栄一二型の気化器は昇流式です。栄三一型は降流式ですから色々な部品をワンオフで製作しなければいけませんから、量産は不可能です。申し訳ない。」
まあこの状況ではあるし仕方あるまい。とりあえず武装の換装は頼んでおくか。
「解った。ではとりあえず私含め組員の機体の武装換装を早急に頼めるか?」
「了解です。」
ふう、とりあえず武装の問題は解決出来そうである。するとヤマダはずっと指示書をみて何かを考えている、メモに何かを書いたりと落ち着きがないが、言い出しにくそうだ。
「ヤマダ、何かあるのか?」
「はい・・・・・この指示書は組長だけでなく、レミさんやニコさん、ローラさんにもいっているんですよね?」
「ああ、そうだ。」
「組長、至急レミさんたち三人をここに呼んでいただけませんか?」
理由は分からないが急ぐということはなにか得策なのだろう。
「解った。少し待っていろ。」
「ご面倒おかけします。」
十数分後、幹部四人を集めた。
「組長、ありがとうございます。皆さん、お集まりいただき感謝します。」
「ヤマダが呼ぶってことはなにか新しい改造方法でも見つけたんすか〜?」
「・・・・・期待している」
「要件をどうぞ。」
こいつはここまで他の組に期待されているのか・・・まあ確かに、バラバラだったタネガシの整備基準を統一したのもヤマダだし、信頼は厚いだろう。
「はい。まずこの指示書を見て、皆さんの愛機も改造してしまう案を思いつきました。ですが、皆さんの機体はあくまでも栄二一型、一二型の出力を受け止める強度しかありません。それに今まで乗ってきた愛着もあるでしょう。ですからここは、新しく機体を改造すべく零戦二一型二機と五二型二機の新造品を私に預けていただきたいのです!」
なかなか大胆なことを言うものだ、だが戦闘機四機は安くはない。
「悪いけど、そこまでのお金は私たちにはないわ」
「うむ・・・・・」
さすがに皆渋っている、私たちとて決して金がいくらでもある訳では無いのだ、だが・・・・・
「わかったっす。二一型は工廠が無いんで出せないっすけど、新品の五二型二機、あたしのカネであんたにあげるっす。好きに使ってくださいっす!」
「待て・・・・・」
「なんすか〜ニコ〜」
「私からも半分出そう。」
「ニコさん・・・・・レミさん・・・・・!」
全く・・・・・ここはヤマダを信じてやるか
「よしわかった。二一型二機は私が出そう!」
「そこまで言うなら・・・・私も半分だすわよ!」
「イサカさん・・・・・ローラさん・・・・・!」
ただ戦闘機四機を改造して失敗した場合、重い責任がヤマダに行く事になる。マフィアという組織である以上、責任は逃れられない。だが・・・・・
「よし、改造して何かあった時の責任は全て私が取ろう。ヤマダ、好きにやってくれ」
「水臭いっすよ〜イサカ、あたしも取るっす」
「私もだ」
「乗りかかった船だものね!」
「皆さん・・・・・ありがとうございます!」
「戦闘機は明日にでも送ろう、それまでに準備をしておけよ。」
どんな機体が出てくるのか楽しみだ、私は戦闘機に詳しい訳では無いが、零戦は好きだからな。
「あ、それと。タネガシ郊外におっこってるでっかい飛行機の残骸も貰っていいですか?」
「ああ、好きに使え。」
さあ、完成が楽しみだ。やつの腕は本物だ、私は安心してみなに急に集まってくれた礼を言い、帰路に着いた。
第六章 新生「ZERO」
私達がそれを目にしたのは一ヶ月後だった、それまでにケンザキ一家からの戦闘機は六二型に五四型が随伴するようになり空戦の機会も多くなったため、早急に交換した13ミリと20ミリは非常に役に立っていた。中には自分で翼内機銃を13ミリに交換し弾道特性を揃える者もいた。フライングフォートレスは全く来なくなり、戦闘機だけでの襲撃になっていた、私達はかなり善戦していた。
ヤマダからの連絡で幹部四人は格納庫に集まった、そこで見たのは、塗装指示書と同じ塗装とマーキングを施され、尾翼に「GEエLTETSU」と二一型は赤、五二型は黄色でマーキングされていた。
「かっこいいじゃないか」
「いい感じっすね〜」
「うむ・・・・・」
「上手く纏まってるわね。」
私達は口々に褒めた。本当に外観がかっこよかったからだ。
「ありがとうございます。では性能の説明をさせて頂きます。」
ヤマダの言うスペックはこうだ。
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零式艦上戦闘機 五二型無印改
発動機
栄二一型改(水メタノール噴射装置装備)
過給器
一段二速メカニカルスーパーチャージャー
武装
三式十三粍固定機銃二艇(一艇700発)
九九式二号四型二十粍機銃二艇(一艇125発)
離床出力
1300馬力(2600RPM・水メタノール噴射時)
急降下制限速度
247キロクーリル
全備重量
920パウンド
最高速度(高度2000クーリル・水メタノール噴射時)
190キロクーリル
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零式艦上戦闘機 二一型改
発動機
P&W R1830-33
(栄一二型改と交換可能)
過給器
一段二速メカニカルスーパーチャージャー
武装
三式十三粍固定機銃二艇(一艇500発)
九九式二号四型二十粍機銃二艇(一艇125発)
離床出力
1200馬力(2550RPM)
急降下制限速度
240キロクーリル
全備重量
910パウンド
最高速度(高度2000クーリル)
188キロクーリル
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かなり馬力も急降下制限速度も上がっている。だが気になるのは二一型の発動機だ、聞いたことがない。
「ヤマダ、二一型の発動機が完全に変わっているのはどういう事だ?」
「はい、まず栄一二型はこの前説明させて頂いた通り気化器が昇流式です。ここに水メタノール噴射装置を装備すると過給器インペラーのカバーの強度が足りなかったのです。発動機のボアアップでどうにか対処しようと試みましたが発動機の寿命を縮める結果になってしまいました。」
なるほど、さすがに一二型には無理があったわけか
「ですが、タネガシ郊外にあった飛行機。あれはユーハングが敵国から輸入していたダグラスDC-3という輸送機だったのです。それの発動機は気化器が同じく昇流式で、馬力も1200馬力でした。直径等小加工で流用できそうだったので栄一二型の発動機支えに装着した次第です。運動性能や加速力は段違いだと思います。」
有難いな、栄で飛べないのは少し心残りだが今後の為には仕方あるまい。
「明日にでも皆さんに乗っていただきたいのですが、どうでしょう?」
「もちろんOKだ。」
「いいっすよ〜」
「いいわよ」
「うむ」
というわけで明日私達の操縦で飛行する事となった。私はこの時正直に白状すると楽しみでほとんど眠ることが出来なかった。
第七章 「ZERO」天空に舞う
いよいよ初飛行の日が来た。滑走路に向かい自分の機の外回りを確認したあと
「整備員前離れ!スイッチオフ!エナーシャ回せ!」
と言うとヤマダが駆け寄ってきて、
「すいません言うのを忘れていました。今回の四機はセルモーター始動なんです。」
私は赤面した、
「早く言ってくれ・・・・・」
気を取り直して、整備員が前を離れたことを確認したあとスイッチオフを再度確認。操縦桿を足で巻き込んで上げ舵をいっぱいに取り、点火プラグが(両)位置になっていることを確認。セルモーターのスイッチを入れる。
ウィィィィィン・・・・・
プロペラがセルモーターによって回転を始める、ここで引手を引っ張りクランク軸とプロペラ軸を直結させスイッチオン。
バラッバラッバラッ・・・・・
発動機に火が入り始める、このままではかからないので気持ちスロットルレバーを前に押し燃料を多く送りプラグに火花を飛ばす。
バラバラバラバラバラ・・・・・!!
発動機に完全に火が入り、排気管から白煙を吹き出し発動機は回転を始める。ここで忘れてはいけないのが吸入圧力計・油温計・筒温計・回転計の確認である、事前にヤマダに言われた数値を確実に差しているかを確認する。
「ブースト圧よし、油温よし、筒温よし、回転数正常。」
次は点火プラグの確認である、プラグ切替スイッチを(両)から(右)(左)へ切り替え回転数の上下を見る、今回の発動機では±70RPMであれば正常だそうだ。問題はなかった。そして整備員に手信号を送り車輪止めをはらってもらう。滑走路後端まで移動し離陸許可の旗振りを待つ。整備員が旗を振った、離陸許可だ。飛行眼鏡をかけ風防を全開にする、カウンタートルクを相殺するためラダーを踏んで右に当て舵をとり、スロットルをゆっくりと前に押し出しつつ操縦桿を前にたおし尾輪を持ち上げ機を水平にする。速度が50キロクーリルを超えたところで操縦桿を引き離陸する。この時のオレオから伝わる振動が一気に消えるには快感である。
「すごい・・・・・」
上昇力が半端ではない。軽量な機体に大馬力の発動機が装備されているのでぐんぐん高度が上がっていくのだ、これで航続距離はほとんど変わっていない(増槽が必要になったが)のは素晴らしい。上昇力が気持ち鈍り始める高度1200クーリルで過給器を変速、ブーストメーターの針が跳ね上がり大気圧プラス500mmの空気がシリンダーに押し込まれ下落気味だった馬力が復活する。
上空待機していると、レミの五二型無印改・ローラの二一型改・ニコの五二型無印改の順で昇ってきた。私は大きくバンクを振り無線で同機体同士で二機編隊を組むよう指示した、二一型改が前に出て五二型無印改が後ろに並ぶ。一通りの空戦機動を試そうとしたその時であった。
「ん?左舷前方機影が見えるっす!」
見てみると確かに機影が見えた、だがあのエンジンカウリング形状には見覚えがある。
「五四型よ!約15機!」
ローラが叫んだ、襲撃だ。
「いいタイミングじゃないか・・・・・機銃の性能まで試せる!」
「イサカ?」
「イサカ??」
「イサカ???」
「二機編隊を崩すな、そのまま左右に別れて上昇する!各自十三粍機銃の完全装填を済ませておいてくれ。」
「了解っす!」
「了解よ。」
「了解」
ヤマダの創ったZEROの初陣である。まずはプロペラピッチを低に固定、スロットルレバーを前に倒しフルスロットルへ、引手を思い切り引っ張り十三粍機銃の完全装填をする。機銃弾が大きいため少し力が必要だ、ガシャンという重い音と共に装填が完了する。前方に味方機がいないことと敵機まで十分に距離があることを確認し、スロットルレバーの機銃切り替えスイッチを前に倒し十三粍機銃の試射をする。その次はスイッチを手前にたおし二十粍の試射を、最後に中間位置にスイッチを置き両方同時に発射できるか試射をする。
そうこうしているうちに敵機が迫ってきた、照準器のスイッチを入れたあと、私はローラに大きくバンクを振り機体を裏返し急降下へ入る。前方から一撃離脱を仕掛けるのだ、ローラも当然それに続く。左を見るとレミとニコも同じ動きをしていた、水平儀を一瞬だけ確認し機が滑ってないことを確認する、雲を突き抜けると敵機が見えた。私達に気付いて散開しようとしているが遅すぎる、広い的となる裏を見せた戦闘機はカモだ、機銃発射レバーを引き十三粍と二十粍を敵機の腹に叩き込んだ。ダダダダダッと重い発射音が響くと共に、敵機の尾部が吹っ飛ぶ。私の後ろに付いていたローラも一機撃墜した、あとは散開した敵機を追う、金星発動機は出力が高いので突き上げ攻撃だと上昇中を狙われる可能性があるからだ。たまたま隣りにレミの五二型無印改が並んだ、出力は同程度であるため速度差はほとんどなかったがいきなりヤツが加速した。水メタノールを噴射したのだ、あの急加速には私も驚いた。さあ、あとは旋回戦である、真後ろに敵機を見つけたため縦旋回に入る。当然有利位置にいるのであるから敵機も着いてくるが想定通りだ、ラダーを蹴り飛ばし操縦桿を手前に思い切り引きつける。左主翼を失速させ宙返りの頂点から落ちるように動き後ろに着く。敵機には宙返りの頂点で私が消えるように見えるのだ、焦って敵機は水平飛行をする。
「終わりだ」
十三粍と二十粍を敵機の後ろから叩き込む。燃料タンクから火を噴くのを確認したのち、後ろに着いた別の敵機を見ながら旋回、この時右手にあるフラップ操作レバーを操作する。風が前から当たっているため非常に重い、グイッとフラップを下げると同時にさらに強く操縦桿を引く、揚力を増やして減速をし旋回半径を狭くするのだ。敵機の後ろに着くと同時に偏差を取って未来位置に機銃弾を叩き込む。・・・・・撃墜、周りを見渡しても敵機はいない。無線で呼びかけ空中集合をする、左下にニコの機が見えたため、大きくバンクを振って味方であることをアピールする。
「どうだった?新しい零戦は」
「・・・・・とても良かった」
あとの二人を上空で待ち編隊を組んで基地へと戻る、飛行眼鏡をかけ風防を全開にする。スロットルを絞りゆっくりと降下し着陸。冷却運転も兼ねてタキシングで格納庫内へ向かう、格納庫の定位置に収めたあとは、プラグのカーボンを焼き切ってしまうために発動機を煽って回転を上げてやった後にスイッチオフ。飛行眼鏡を外し機から降りると、ヤマダが駆け寄ってきた。
「初日から空戦とは・・・・・驚きました。どうでしたか?」
「素晴らしい機体だった。こんな機を作れる整備員が居ることを私は誇りに思うよ」
「ありがとうございます!」
最後に機体を見て回る、前に回りその後後ろに向けて足を進めていると、私はとんでもない物を見た。
「なっ・・・・?」
風防後部に巨大なヒビが入っていた、見た感じ私が機銃弾を受けていたのだろう。だが零戦の風防によくある様に貫通はしていない。
「おお〜、やっぱり全面防弾ガラスにして正解でしたね」
「お前がやってくれたのか?」
「何かあるといけないですからね。他の組員の風防も順次これに取替える予定です。」
「ありがとう・・・・・」
改めて思う、私は素晴らしい部下を持って戦うことが出来ているのだと。
第八章 悪夢
迎撃戦をしてしばらくした時であった、私達はいつも通り電索に機影を見つけ出撃した。すると、反対側から機影が見えると連絡が来たのだ。フィオとシアラに連絡を回しそちらを対応してもらうように頼んだ。だが、最悪の事態はここからであった。我々が戦闘中、いくつかの分隊が攻めてきたため組同士で別れ、撃退していた。だが、私達にその最中連絡が入る
「大型機の機影を確認!例の機体です!!!」
「私の組は今交戦中で手が離せない!他に・・・」
「無理です!全員迎撃戦展開中!皆逃げろーー!!!」
・・・・・無線はそこで途絶えた、
「囮だったのか・・・・・」
「私達を囮で誘き寄せて基地をもぬけの殻にする、私達もまんまと乗せられたが考えたわね・・・」
「ちくしょう・・・・・まんまとやられちまった・・・」
「クソムカつく・・・・・」
ちょっとまて・・・いつも真っ先に声をかけてくるあの声がしない・・・・・それにあの特徴的な声も聞こえてこない・・・まさか
「レミ!ニコ!応答しろ!おい!!」
「イサカ!どうしたのよ!?」
「早くシマに戻るぞ!」
シマに戻ると、基地は爆撃をもろに食らっていた。宿舎や格納庫は燃え、住民たちが必死で火を消している。
「おいヤマダ!レミとニコを見ていないか!?」
「こっちが聞きたいですよ!レミさんとニコさんが二機でB17に飛び込んでって・・・・・その後なんの無線もない!」
最悪だ・・・すると、遠くの空に機影が見えた。五二型のシルエットで、翼内燃料タンクから尾を引いている・・・だけではなかった、レミ機の風防は後ろ半分が粉々に砕け散り、ニコ機は中央の風防がなくなっていた。搭乗員が被弾している可能性が高い・・・・・
「ヤマダ!担架を二つ頼む!それから滑走路上の機体を全てどかしてくれ!急げ!!」
二機が降下してくる、機体が穴だらけだ。恐らく旋回機銃をものともせず飛び込んで行ったんだろう・・・・・地上で停止したレミの零戦の翼の上に乗り風防をこじ開ける。ニコの零戦にはローラが駆け寄っていた。
「おいレミ!大丈夫か!?しっかりしろ!!!」
「すんませんっす・・・守れなかった・・・・」
レミは肩と足に機銃弾を受けていた。
「意識をしっかり持て!!担架急いでくれ頼む!」
ニコと同じように銃弾を受けていた、担架に乗せられ運ばれていく二人を私は眺めることしか出来なかった。
「油断だ・・・・・」
そのあと、処置が終わったと連絡が入った。私は基地の片付けもそこそこにすぐさま二人がいる病室に飛んで行った。ヤマダに見守られ、レミとニコは体に包帯が巻かれて寝ていた。
「私の責任だ・・・・・」
「お言葉ですが ・・・あの状況では仕方ないと思います。」
「仕方ないだと!?」
私は声を荒らげた、
「簡単に言うな!!何人が・・・何人の組員が撃とされたと思っているんだ!!私の役目はシマの防衛と戦闘指揮だ!!!それなのに・・・・・私はこんな簡単な囮にすら気付けなかった・・・・・!!!そのせいで大切な仲間を失いかけた・・・・・」
自分の中で自分に対する怒りが湧いていた。ヤマダに当たってしまった・・・
「ん・・・・・うぅ・・・・・」
レミの声だった
「レミ!大丈夫なのか!?」
私は半泣きの状態でレミに駆け寄った、すると、レミは私の頬に手を置き、ゆっくりと話し出した。
「イサカ・・・あんたのせいじゃ無いっす・・・B17は電索に直前まで映らなかった・・・何らかの対策をしてきたんっすよ・・・それに、こうなったのは私たちが何も考えず飛び込んで行ったからっす・・・・・」
「そうじゃないんだ・・・・・そうじゃないんだよ・・・・・」
「イサカは優秀な指揮者っすよ・・・あたしらちゃんと怪我治して戻るんで、それまでに基地の修理頼むっすね。それからヤマダも・・・あたしらの戦闘機、頼むっす」
「わかりました・・・」
私はこの時決意した、もう二度と私大切な仲間を傷付けさせないと。そして、必ず早くにケリをつけると・・・
第九章 一家
ある昼下がり、基地の修理も進み、二機分空いた格納庫にも少し見慣れてきてしまった頃である。私が戦闘機の点検をしていると聞き覚えのある声が聞こえた。
「イーサーカー」
「レミ!お前・・・もう大丈夫なのか!?」
「はい〜、もうバッチリっす!」
「ニコは?」
「彼女も大丈夫っすよ〜、フィオとシアラに捕まってますから〜」
「そうか・・・」
「ちょっ、イサカこんな所で泣かないでくださいっす」
すると、格納庫の奥から声がした
「組長〜、この前言ってた新型のエンジンオイルなんですけ・・・ど・・・・」
「おお〜ヤマダじゃないっすか〜、おひさしぶりっす〜」
「レミさん!もう大丈夫なんですね!」
「もうバッチリっすよ〜・・・ってだから二人ともこんな所で泣かないでくださいっす〜!」
さて、私はあまり人に物事を教えるのが上手い人間ではない。だが一度だけ一部の組員にせがまれ空戦機動を教えることがあった。私一人では心細かろうとヤマダが着いてきてくれた。
「まず、皆が思う空戦時の理想の機動はなんだ?」
私は問いかけた
「真っ直ぐ飛ばないことでしょうか?」
一人が言った
「うむ、正解だ。空戦中は真っ直ぐ飛んではいけない、もっと細かく言うと、水平、垂直、直進という動きをしてはならないんだ、何故かわかるか?」
「機銃弾が真っ直ぐ飛んでくるからです。」
「そうだ、それを念頭に置いて講習を始めよう」
そんなこんなで座学として教えていたが、いよいよ実際に戦闘機を飛ばして教えることになった。全員の零戦の無線の周波数を合わせ、機に番号を当て配分する。事が起こったのは、私とヤマダが飛びながら木の葉落としの指導をしているときである。
「12番機。上昇していいぞ。」
「了解です!」
その時だった、今まさに上昇すべく機種を上げた零戦の燃料タンクが火を吹いた。
「脱出しろ!おい!」
ヤマダが無線で叫んだ。その瞬間下方で落下傘が開くのが見えた。火が着いた瞬間に脱出していたようだ。それは良かったが肝心の敵機が見えない、すぐに上昇して雲の中に逃げたのだ。私は全機に着陸指示を送り、ヤマダに誘導を頼み一人上空に昇り敵を探した。
「クソっ・・・・・どこにいる?」
次の瞬間、私は後ろに近づくエンジン音を聞いた。スグに旋回したいところだが雲の中で相手が見えにくい時に腹を見せることになるかもしれない。腹を見せた戦闘機はカモなのだ。ドンドン迫ってくる敵機がどこから向かってくるか探している所に、
ダダダダダッ・・・・・
終わった・・・と思ったが私の機に異常はない。
「まさか!?」
後ろを振り返ると火を吹きながら降下してゆく零戦が見えた、ヤマダの機だった。重くなるからとヤツの零戦に機銃弾を積んでいない、私の身代わりになろうとしたのだ。
「よくも・・・よくもヤマダを!!」
私は我を忘れた。敵機を後ろに見ながら高度を上げる、当然敵も追って追いかけてくるのだが、そこでフラップを全開、スロットルレバーを手前にめいっぱい引き出力を落とす。私の機は失速し落ちるような挙動を示す、敵の目には私が急に失速したようにしか映らないが、敵機が私をオーバーシュートしたのを確認して機を立て直し後ろに着く。フルスロットルにすると同時に照準器いっぱいに広がる敵の主翼目掛けて二十粍を叩き込んだ。敵機が火を吹いた、
「ヤマダ・・・無事でいてくれ・・・」
祈る思いで私は降下した。目先に見えた滑走路には練習生の零戦が並んでいる、その奥、滑走路の先でヤマダの零戦は燃えていた、滑走路上に人影が見える。着陸してすぐ私は冷却運転を整備員に頼み、基地建物へ駆け込んだ。
「ヤマダ・・・ヤマダはどこだ!?」
「組長!こっちです!機銃弾を受けていますが今は意識があります!」
私は練習生をかき分け担架に駆け寄った、そこには、愚かな私を守ろうと身代わりになり、血だらけになったヤマダがいた。
「ああ・・・組長・・・ご無事でしたか・・・」
そんなになってまだ私の身を心配するのか、私は自分が情けなくなった。
「馬鹿・・・馬鹿者!!何故身代わりになどなろうとした!私があの時撃たれていれば・・・完全に私の不注意だったのに!!何故あんな無茶をした!!!」
私は混乱していた、こんなことを言おうとしたのではなかったのに、口から出たのはこんな言葉であった。情けない。するとヤマダはまた口を開いた
「貴女は・・・今組・・・いやゲキテツ一家に必要な人だ。あんな所で撃とされていい人じゃない・・・貴女が無事なら・・・良かった」
そう言うとヤマダは意識を失った。
「おい!ヤマダ!おいしっかりしろ!おい!!こんな所で死ぬなんて承知しないからな!わかっているな!?」
「急ぎます!組長は前で待っていてください!」
ヤマダは医務室へ運ばれて行った、私はそれを見ることしか出来なかった、私は・・・私は無力だった・・・
自分の部屋に戻り、私は乱れていた服を整えすぐ出ていこうとした。
「どこへ行くつもりっすか?」
私の目の前にはレミがいた、その後の会話は今でもはっきりと覚えている。
「そこをどけ!」
「質問に答えてくださいっす、どこへ行くつもりっすか?」
「ケンザキ一家の所へだ!こんなことをされて黙っていられるか!」
パンッ・・・・・
「イサカ・・・あんたがここで冷静になれなくてどうするんっすか!?」
「・・・・・」
「一人で言って何をするつもりかなんてマフィアなんだからだいたい想像はつくっす!ヤマダが何故イサカの身代わりになったのか!そんなくだらない事をする為だと思っているんすか!?」
「大切な人を殺されかけたんだぞ・・・ここで怒らない人間がいるとでも思うのか!?ええ!?どうなんだ!レミ!!!」
「いい加減にしろ!!」
「・・・・・ッ!」
「あいつが殺されかけて怒りを覚えない組員がゲキテツ一家の中に一人でもいると思ってるんすか!?ツナギがボロボロになるまで組員の戦闘機を整備して、休めってあたしが言っても『他の整備員の整備が完璧なのかを見るまでが自分の仕事なんで!』って、そんで夜になってもずっとずっと点検してるんっす!あの馬鹿、次の日には戦闘機の下で寝てるんっすよ!ここまでしてくれる組員になにかされて黙ってられるわけないでしょう!ただあたしは怒るなと言ってるんじゃない!冷静になれと言っているんっす!」
「なら・・・なら私はどうしろと言うんだ・・・!!この前もそうだ・・・私が何も出来なかったために・・・お前やニコを危険な目にあわせた!!私は・・・私は無力だ・・・うわぁぁぁ!!」
パンッ・・・・
「あんたが・・・あんたが無力ならあたしらはあんたを指揮官になんて選ばない!!そんな事わかりきっていることでしょう!?」
「だが・・・現に私の周りで何人も・・・」
「あんたの周りで撃とされた奴ら・・・誰も死んでないっすよ・・・大怪我して帰ってきてなんて言ってると思ってるっすか?」
「え・・・・?」
「『組長がイサカさんじゃなかったら俺は死んでました。あの人は俺に座席を少しだけ高くしてみろって言ったんです・・・身長が低い俺はそれが適正だと見抜いてアドバイスをしてくれたんです。そのお陰で視野が広がり後ろにつかれたことに早く気づけて、回避出来たからこうやって今生きてるんです。本当にあの人には感謝しています。』『あの人・・・一番最初に俺に教えてくれたの、逃げろって事だったんです。敵わないと思ったらすぐ逃げろ。そういう敵を倒すために私達上官がいるんだ・・・って、そして、もし撃とされたら拾ってやる。何度でも拾ってやるって・・・その言葉通りでした・・・』あたしが聞いた範囲だから二人しかいないっすけど、イサカ組の他の大怪我して帰ってきたヤツらも医務室で笑ってるんっすよ。皆・・・そんで、口を揃えて言ってるっすよ。『あの人の為なら何でもする』ってね。」
「・・・・・」
私はその場で泣き崩れた
「これでも自分が無力だと、何も出来ないと思い続けるっすか?」
「・・・わない・・・」
「はっきり言え!!思うんっすか!?思わないんっすか!?」
「思わない!!!!」
しばしの沈黙を破ったのは、聞き覚えのある声だった。
「流石組長、いや、『冷血な指導者イサカ』ですね」
「ヤマダ!!!お前まだ血だらけじゃないか!!!」
そこにはニコに肩を支えられ、傷口を自分の手で抑えて立つヤマダがいた、
「組長の部屋は医務室のすぐ側なんですよ、こんな大声で言い合ってたら聞き耳も立てますよ。うっ・・・」
「馬鹿者!!ニコ!!早く医務室へ連れ戻してやってくれ!」
「私もお前の決意、聞かせて貰ったぞ。」
「・・・ああ!」
「組長、よく仰ってくれました。」
「サダクニ、クロ、それにシアラにフィオ、ローラまで!!!」
「しっかりしろ、バカヤロ」
「ほんっとになっさけないわねぇ〜??」
「さあ、そんな所でへたってないで」
「レミ、少々強引だったんじゃないか?」
「いいんっすよ〜、イサカがここでまだいじけるようなら、張り倒してやろうと思ってたっすから〜」
「皆・・・・・」
「組長!」
「組長!」
「組長!」
組員の搭乗員や整備員まで騒ぎを聞き付け走ってきた
「お前たちまで・・・・・」
「イサカ、やっぱりあんたじゃないとダメなんっすよ」
「・・・ああ!ゲキテツ一家!全力を上げてケンザキ一家を倒すぞ!」
「おおーーーーっ!!!!!」
私はその後、一人で医務室に向かった。医務室ではヤマダが寝ていた。
「あっ組長、さっきはすみませ・・・・・」
ガバッ・・・・・私は上半身を起こしていたヤマダを強く抱き締めた。
「ちょっ組長!スーツに血が着いちゃいますよ!」
そんなことはどうでも良かった。何故抱きつこうと思ったかは分からないが、勝手に体が動いていた。
「いいんだ・・・いいんだ・・・」
「組長・・・・・」
「無茶するな・・・馬鹿者・・・馬鹿・・・」
「すみません・・・」
「本当にありがとう・・・」
しばしそのまま動かなかったが、私はハッと我に返った。
「・・・誰にも・・・言うなよ?」
「はい・・・」
そう言うと医務室をあとにした、廊下を歩いているとレミが駆け寄ってきた
「ヤマダのベッドの隣にイサカの耳飾りが落ちてたんっすけど〜」
「本当か、さっきまでいたから・・・ん?耳飾りはちゃんとあるぞ?」
「えっへへ、ヤマダと何やってたんっすか〜?あたしにも教えてくださいよ〜」
「ちょっ・・・それは・・・」
「もうそんな所まで行っちゃったんっすね〜?」
「ちがうっ馬鹿者ぉっ!!」
色んな意味で災難な一日であった。
第十章 ワンショットライターの意地
そろそろ戦いも守りから攻めに転じる時であると考えていた。敵基地で無抵抗のB17を叩ければそんなに美味しいことは無いからだ。だが、私達の所有する爆撃機は一式陸上攻撃機であり非常に撃墜されやすい機であった。そこである決断をした。その日の昼のうちにゲキテツ一家組員全員を集め、私はこう言った
「私たちは、今までタネガシを守るために戦ってきた。だが、受け身のみでは襲撃の不安を払拭することは出来ない。迎撃だけでは敵の戦力が尽きるまで戦い続ける事になる、そのため、私は一式陸上攻撃機と零戦を用いて敵基地を爆撃し、敵戦力を一気に壊滅させようと考えている。だが知っての通り、一式陸上攻撃機は非常に燃えやすく被弾に弱い機体だ。今までよりもリスキーな作戦となる。そのため、この作戦への参加は志願制とする。死にたくないもの!家族の居るもの!その他様々な事情がある組員が居ることは私もよく知っている、幹部の皆も同じだ。私は決して強制はしない。皆目をつぶってくれ」
沈黙が場を支配する、いきなりこんなことを言われたのだから当然だ
「志願する者は一歩前へ!」
ザッ・・・・・
皆が同時に前へ足を踏み出していた。
「目を開けてくれ・・・・・」
すると、どこかで組員が叫んだ
「どうせこのままやらなかったら怯えながら暮らす羽目になるんだ!皆!いっちょやってやろうぜ!」
「そうだそうだ!」
「イサカさん!皆気持ちは一緒ですよ!」
これがゲキテツ一家か・・・
「よし!爆撃敢行は一週間後!作戦内容と細かい配置は追って連絡する!皆本当に感謝している!そして、高い所から失礼する!」
そして私はおもむろに頭に着けていた飛行眼鏡を外し頭を下げた、私がそこでできるせめてもの敬意の表し方だと思ったからだ。すると
ザッ・・・・・
皆は敬礼を返してくれていた。幹部、組員、整備員全員がだ。
「イサカよ・・・」
「首領!!」
「そんなに固くなるな。それより、お前の演説聞かせてもらったぞ・・・・成長したな」
「ありがとうございます。」
「タネガシの・・・ゲキテツ一家の未来はお前に託したぞ、しっかり頼む。」
「・・・・・はい!」
そしてもう一度、集まってくれた組員に礼を言い幹部を作戦室に呼んだ。私の考えた作戦はこうだ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・第一次攻撃隊〜第五次攻撃隊を編成する。
・攻撃隊は一式陸攻二機、直援の零戦三十機、爆装零戦十機の配置とする。
・一次攻撃隊はイサカ組、二次攻撃隊はレミ組、三次攻撃隊はローラ組、四次攻撃隊はニコ組で編成し、隊長は各組長が務めることとする。五次攻撃隊は各組から戦闘機と組員を同数集め編成する、隊長はサダクニとする。
・組員の機体が零戦ではないフィオ組・シアラ組は上記攻撃隊とは別の隊として制空戦闘機隊とする。
・制空戦闘機隊が先に出撃、続いて第一次攻撃隊〜第五次攻撃隊が三十分の間隔を取り出撃する。
・空戦空域ギリギリの平坦な地で二十機の赤とんぼと百式輸送機三機が待機。撃墜された又は燃料不足で帰還不可と思われる機を着陸させ搭乗員を救助する。
・三機編隊を小隊とし、各小隊で爆装零戦と一式陸攻を囲む大きな編隊を組む。
・爆装零戦が敵機に絡まれた、又は絡まれそうな場合はその爆装零戦の搭乗員の独断で爆弾を捨て空戦をして良い。
・増槽は零戦が110ボットル増槽を懸吊、雷電及び紫電は100ボットル増槽を懸吊すること。
・爆撃をして良いのは基地と格納庫のみ、民家や生活スペースがある所に爆撃してはならない。
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この事を幹部に伝えた、そして
「何か質問はないか?」
と最後に問いかけた。皆しばし黙っていたが簡単な質疑応答の後賛成し、作戦決行が決まった。
「ありがとう。では作戦決行は予定通り一週間後、各自組で編隊飛行と爆装零戦の操縦方法の再教育を念入りに頼む。では解散だ」
三日後、私は三機編隊の列機と隊長機を決める作業をしていた。ほとんどの小隊はメンバーを決めることが出来たのだが、自分の二番機がどうしても決められない。というか、一人怪我で脱落し出撃出来そうにないのだ。
「はぁ・・・組員たちが信用ならぬ訳では無いのだが・・・」
独り言を言いながら作戦書とにらめっこである。その日は予定が珍しくなかったので別に一日中悩んでいても良かったのだが、どうせ一日中悩んだところで決められる保証もない。私は格納庫へ行き自分の零戦二一型二機を洗おうと思った。私オリジナル塗装のノーマルの二一型の方はしばらく戦闘に出ていないが勿論愛着がある。機体を洗うのは基本的に整備員がやるのだが、私も手伝うことがあった。
自室から自分を拭く用のタオルを一枚首にかけ、格納庫へと向かう。
「おーいヤマダ〜。ここのバケツとデッキブラシ、あと洗剤とウエスか。ちょっと借りるぞ〜」
「洗うんですか〜?じゃあ点検とプラグ交換だけ済ませちゃうんでちょっと待って下さい〜」
まだ点検が終わってなかったらしい、悪いタイミングで来てしまったがどうせ予定は無いのだ。気長に待とう。
「私も作業見ていてもいいか?」
「え?ええ、問題ありませんよ。」
ヤマダは素早い手つきでエンジンカウリングのチャックを外しカウリングを分割した。そして下のカウリングを外し横に置いた。
「すみません、上のカウリングの端っこ持ってもらっていいですか?」
「ん?ああ、ここでいいか?」
「はい、ありがとうございます。」
ヤマダが私の方にカウリングを持ち上げた。そのままヤマダは前に回り外れたカウリングをまた横に置いた。そして工具箱から工具を取り出し、その工具をベルトに挟んだ状態でプラグコードを抜いていく。
「どれがどれかわからなくならないのか?」
「全部覚えてますから大丈夫ですよ。」
さすがに驚いた。仕事としてだけじゃなく本当に戦闘機が好きなのだというのがよくわかる。全てのプラグコードを外し終えると配線を結束バンドで束ね、そしてベルトに挟んでいた工具でプラグ交換を始めた。
「お前・・・確か空戦も出来たよな?」
「はい・・・ですが自分はこちらの仕事の方が好きですね。」
「そうか・・・もし良ければ私の二番機についてくれないか?」
「・・・少し考えさせて頂いてもいいですか?」
「ああ、悪かったな。」
「いえ、プラグ交換終わりましたよ。存分に洗ってやってください。」
「ああ、助かる。」
そして私はウエスに水と洗剤をつけ強く搾った。足掛けを出し操縦席へ乗り込み、計器盤やハンドル、レバー類を念入りに拭いた。そして風防を閉め内側から汚れを取る、納得いくまで磨いたあとは操縦席を降り風防を閉め外からしっかりと磨く。視界は搭乗員にとって命であるし、戦闘機を外から見た時風防が曇っていると格好が悪いのだ。風防を拭き終えると機から降りる、風防を完全に閉めたのを確認しステップを全て機内に収め、水道に繋がったホースで水を機体にかける。そして洗剤をつけた先の柔らかいデッキブラシで念入りに全体を磨く。エルロン・ラダー・エレベーターと風防にはデッキブラシを当てないように注意して、愛機の汚れを落としてやるのだ。ふと横を見ると、ヤマダが私のオリジナル塗装の方の二一型をじっと見ていた。
「どうした?私の機が気になるか?」
ヤマダはハッと振り向いた
「そうですよね・・・・・覚えてませんよね、」
「ん?何をだ?」
「自分がまだ搭乗員から整備士見習いになったばかりだった頃、まだ18の時でした。サダクニさんがまだ17くらいだった貴女とこの零戦を連れてきた。そして『お前の整備した戦闘機に乗った、是非組長の零戦の整備を頼みたい。』とおっしゃったんです。その時自分は組の下っ端でしたが、イサカさんが組長となったのは知っていました。ですからそんな方の戦闘機を下っ端の自分が整備するなんてとんでもないと断ったんです。ですが貴女は『私も実際に操縦した、お前がいい』とおっしゃった、ですから私は引き受けたんです。私が初めて一機丸々整備をしたのは、貴女のこの零戦なんですよ。」
忘れるわけがない、その時私はその時の様子をさらに鮮明に思い出した、ツナギと顔が油まみれで、他の整備員の話を必死に聴きながら整備をしていたヤマダの姿を。そこが違う、そこはそうだとよく分からない事を言われても、いじる時の目が輝いていた一人の整備員の姿を
「忘れるものか、あの時お前は『よろしくお願いします。』とだけ言っていたな、そして直ぐ格納庫へ零戦を運び込んで発動機を降ろしていた。その後の出撃で零戦が壊れたことは無かった・・・増槽が落ちなかった時はたしかお前は別の機を担当していたな。」
「覚えていてくださいましたか・・・もう4、5年も前の話ですから、自分が引きずっているだけかと思っていました。」
「馬鹿者、なぜ私がずっとお前を幹部の戦闘機の整備担当に指名していると思っているんだ。」
「さっきの二番機の話・・・一つだけお願いがあります。」
「なんだ?」
「私にこの機を貸して頂けませんか。」
ヤマダが指さしたのは私のオリジナル塗装の機だった。発動機は栄のままであり出力が劣る、あえて選ぶ理由は普通は無いが、私はもう決めていた。
「後ろは任せたぞ?」
「・・・はい!」
晴れて私の列機は決められた。次で終わらせる、必ず次で終わらせてやると心に誓った。
第十章 爆撃敢行
三日後の作戦決行当日の朝、私は自分の愛機の操縦席にいた。直援戦闘機隊大隊長なので滑走路の前には誰も居ない。滑走路左端前方で住民の代表が合図を送ることになっている。
「第一次攻撃隊、整列よし!発動機回せーっ!!」
合図と旗振りを確認、使用燃料タンクを胴体内燃料タンクに切りかえ、点火プラグスイッチ両確認
「整備員前離れ!」
セルモーターを回しメインスイッチオン、小気味よい爆発音とともに発動機に火が入る。「ご武運を」と言って整備員は車輪止めを払い敬礼をして離れて行く。私も敬礼で返す。
私の斜め後ろでは二番機のヤマダが発動機を始動させていた。
「整備員前離れ!メインスイッチオフ!エナーシャ回せ!」
ヤマダの声が響く、キーーーンという音と共にエナーシャスターターの回転が上がる音が聞こえる。
「コンタクトーッ!」
カチッ・・・バラッバラッバラッ・・・バラバラバラバラ・・・!!
一発始動させた、さすが元搭乗員だっただけはある。攻撃隊全員の発動機が指導したのを確認すると、再び住民の代表が腰の下で平行に旗を振る。「発進許可」の合図だ。私は飛行眼鏡をかけ二番機三番機に発進するという手信号を送る。
「発進指示よし!発進する!」
気合を入れるため復唱をしてからラダーを踏んで両輪にブレーキをかけエレベーターを上げ舵にし尾輪が浮くのを抑え込む、スロットレバーをフルスロットルまで倒し回転数が上がったところで一気にラダーから脚を離す。この時すぐにカウンタートルクを相殺するためにラダーで当て舵を再度当てる、制動力を急に失った機は普通に発進するよりも早く速度が乗る。滑走距離が短い一番前の小隊ならではの小技である。ヤマダと三番機の者は相当な手練であるため、難なく急発進にも着いてきた、脚とフラップを上げ風防を閉める、空中で編隊を綺麗に組み使用燃料タンクを増槽に切り替え後続機の離陸及び編隊を組み終わるのを待つ。この間、自分の機に装備されているクルシー式無線帰投方位測定器を手動で回転させ操縦席の指針が正しく基地のアンテナを刺すか確認する。すると三番機が
「フラップが上がりません!申し訳ありませんが帰還させて頂きます、ご武運を!」
「ああ、期待して待っていろ。」
整備不良か、こんな極限状態だ仕方あるまい。私はヤマダと二機編隊を組みなおし後続機の整列を再度確認する。全機配置に着いたことを確認し高度を上げつつ目的地を目指す。高度が十分に上がったところで水平飛行に移る。ケンザキ一家の居るサクシマまでは約2時間と少しだ、私は操縦桿を握る手の力を少しだけ抜いた。するとヤマダの零戦から無線機を通して声が聞こえてきた。何を言っているのか聞き耳を立てた
「燃調がこれだと濃いか・・・けどさっきのだと薄いし・・・これでどうだ?、おおーいい感じだ」
「・・・何を言ってるんだ?」
「あわわわっ組長!聞いていたんですか?」
「聞くも何も無線機があるんだから聞こえるに決まっているだろう。それと、私のことはイサカでいい。」
「えっ・・・いや・・・しかし・・・」
「なんだかんだで長い付き合いなんだ、敬語も要らない。そう固くなるな」
「・・・わかったよ、イサカ」
そうこうしていると、第二、第三、第四攻撃隊も同航路に着いたと連絡があった。すると
「イ〜サ〜カ〜、ヤマダとアツアツじゃないっすか〜」
「しまった!この回線はヤマダとお前に繋がっていたのかっ!お前たちが一緒に飛ぶことが無いから今まで気付かなかった!」
「ヤマダ〜、あたしの事もレミでいいっすよ〜」
「・・・・・」
「茶化すな馬鹿者ぉっ!」
無駄話をしつつ一時間ほど飛行していると、制空戦闘機隊がサクシマ上空にまもなく到達という連解が入った。雲があるらしい、好都合だ。
「左右に別れて雲の上へ隠れていてくれ!私たちの到着十分前に連絡を入れるからその時一気に制空権を奪ってくれ!頼んだぞ!」
「了解!」
「わかってるわよ〜」
照準器の電源を入れ点灯を確認、覗いて見て変な感じが無いか確かめたら電源を切る。フィラメントが切れてしまうのだ。注意して飛行しているとサクシマが見えてきた、到着十分前だ。
「制空戦闘機隊、戦闘開始!」
これで敵基地上空の戦力を完全に奪う。操縦桿を握る手の力を入れ、自分の攻撃隊に号令をかける。
「全機増槽捨て!戦闘開始!」
まずは前線の小さな基地を爆装零戦が急降下爆撃する。大隊の後ろ半分はその援護につき、爆装零戦が爆弾を投下し終えたのを確認し離脱、迎撃に上がってきた戦闘機と空戦をする。私たち大隊の前半分は陸攻を援護しつつ進軍し、本陣の基地がある上空へと突入する。当然戦闘機が迎撃に上がってきた、
「私達の役目はあくまでも陸攻の援護だ!無駄に離れて空戦をするな!いいな!?」
「了解!」
迎撃戦闘機を追い払いつつ爆弾投下地点へ向かう、投下地点で陸攻が水平爆撃を敢行し陸攻には即離脱させる。滑走路に命中すれば万々歳なのだが、爆弾は駐機されていた戦闘機とB17に直撃した。戦力を削げたことに変わりはない
「陸攻離脱しろ!あとは私達戦闘機隊の仕事だ!前線の小さな基地を爆撃し終えた爆装零戦と合流し帰還せよ!援護の零戦は事前に連絡済みだ!お前たちはよくやった!」
さあ、第二次攻撃隊が突入してくるまでは滑走路から離陸してくる迎撃戦闘機を低空で叩く。制空戦闘機隊には高高度を任せてある。
右に左に、上に下にと動きながら敵機を撃墜していく。そうこうしていると第二次攻撃隊、第三次攻撃隊と突入してきた。全て滑走路には命中しなかったが格納庫などを破壊したため迎撃に上がってくる戦闘機は絞られた。幹部全員がサクシマ上空で合流し組員たちと入り乱れ空戦を行った。すると、滑走路から五四型三機と五式戦一機が離陸してきた。いよいよ敵の親玉のお出ましだ。離陸したばかりで周りには敵だらけ、五式戦二型お得意の高高度へは行けまい。だが他の敵機がいるためなかなか五式戦のところに行けない。それどころか五式戦と五四型は部下を置いて逃げようとしていた。
「クソッ!ここまで来て逃がすのか!」
味方を見捨て空戦をする訳には行かないのだ、焦れったくも仕方ないと思っていると無線が入った。
「イサカ!奴らを追え!」
ヤマダの声だった、
「だが、お前たちが・・・」
「自分らはいい!全機墜としてここの上空で待っててやる!ゲキテツ一家の幹部ともあろう者が、自分の味方すら見捨てる外道を見逃せないだろう!?」
「すまない!必ず帰ってくる!」
スロットルを倒し緊急ブーストで五式戦と五四型を追う。1200馬力は伊達ではない、ぐんぐん敵機が近づいてくる。すると後方から五四型が迫ってきた、数機着いてきていたのだ。射線を避けようとエルロンを切ろうとしたその時。
ダダダッダダダッ・・・
「イサカ!ここは良いから奴らを追え!」
「私たちに任せて早く行って!」
「ニコ、ローラ・・・ありがとう!」
更に近づくと五四型が展開してきた。逃げ切れないと判断したのか五式戦も機首をこちらに向けようと旋回してくる。四対一では分が悪いがやるしかない、目標を五四型に定め旋回をする。背面飛行に移り自分をオーバーシュートする五四型を見据えて操縦桿を思い切り引く。エレベーターを効かせ後ろに着き、照準器に入った機影に向け機銃を叩き込む。バキッ・・・という鈍い音と共に敵機の主翼が吹き飛んだ、だがそれで安心してはいられない、後ろに着こうと旋回する敵機を見ながら射線をかわす、なかなか撃墜出来ないがそれは相手もおなじだ。すると、見慣れた戦闘機が見えた。レミの五二型改だった。
「お待たせしたっす、五四型は任せてください!イサカは早く五式戦を!」
「すまない・・・必ずケリをつけて帰ってくる!」
「さぁ!どっからでもかかってこいっす!!」
五四型をレミに任せ、私は空戦空域を離脱し五式を追った。すると雑音混じりの無線が入った、五式からだった。
「よくもここまでやってくれたな・・・お前を今すぐここで葬ってやる!」
私は今までの傷ついた仲間の顔が鮮明に浮かんできた。今まで勝手な事をしてきたくせに私たちが悪であるかのような言い回しに心底腹が立った。
「黙れ!!貴様らがタネガシに今まで何をしてきたと思っている!勝手に攻めてきて勝手なことを言うな!ここで終わらせてやる!!覚悟しろ!」
幾分にも渡るドッグファイトの末、五式は上空に昇った、奴の機は二型で排気タービンがある。高高度では私は不利だ。追って上昇しようとしたが、それではただのカモになってしまう、どうすれば・・・・・その時、私は思い出した。ヤマダが昔やっていた技を。上空から一撃離脱されそうな時の技法を
「やるしかない・・・・・」
勝負は一瞬、上空からの一撃離脱の一撃目を避けることに全てがかかっている。私は機首を少しあげ上昇姿勢をとった、そして全神経を集中させ、後はひたすらに待つ
ダダダダダダッ!
エルロンを切り機を滑らせ射線をずらす。その直後に降下してくる五式を見失わないように目を光らせ、操縦桿を思い切り引きスロットルを絞る。発動機が重いので機首を軸に回転するように急旋回し五式を目前に捉えた。
「やめろ・・・やめてくれ・・・」
「貴様と遊んでいる時間はない!堕ちろ!!」
ダダダッダダダダダダッ・・・・・
勝負はあっけなかった、敵機は火を吹き堕ち、落下傘降下をする様子も無く地面に激突し五式は燃えていた。これで本当に終わったのだ・・・
サクシマ上空に戻る途中、幹部達と合流した。フィオとシアラは燃料の関係で先に帰っていたが、全員無事だそうだ。
「終わったんっすね、お疲れ様っす。」
「・・・お疲れ」
「お疲れ様ね〜」
そして、サクシマ上空に到着すると、戦闘機隊が綺麗な編隊を組んで待っていた。
「おかえり・・・イサカ」
声はヤマダだった。その編隊は1番前が空いていた。
「ああ・・・ただいま。」
「さあ大隊長、そして幹部の皆さん。貴女方の場所は空けてあります。どうぞ。」
幹部四人で二機編隊を二つ組み大編隊の前へと出る。このためだけに信じて待っていてくれたのだ。
「ふう・・・皆よくやってくれた!撃墜機無し!これより帰還する!」
これで本当に終わったのだ、半年続いた襲撃ももう来ることは無い。やって皆で普通の生活をすることが出来る。私は心から安心した。
第十一章 零戦
事が終わり、人々の生活も元に戻りだした頃である。私含め零戦使いの幹部はそれからずっと二一型改、五二型改を使っていた。元々使っていた零戦四機はヤマダが格納庫の中に収めたのを最後に見かけていない。気に掛けつつもシマの再建に取り組んでいた時、ヤマダから連絡が入った。
「イサカ、君も含め零戦乗りの幹部は格納庫前に集まって貰えないか?」
「わかった、ニコとローラは無理だそうだがレミには連絡して直ぐに行く。」
格納庫へと向かうと、ピカピカに整備された零戦があった。オリジナル塗装は綺麗に再塗装されていた。
「これは・・・・・」
「へへへ・・・あの後零戦を預かったのはこうして再整備するためだったんだ。」
「すごいっす・・・もう使わないかもしれない機体をわざわざここまでやったんっすか?」
「イサカの二一型は俺が初めて整備した機体、レミの零戦はその次に整備させてくれた機体だったんだ。それにローラさんやニコさんにも本当に良くしてもらった。だからこうして再整備してやりたかったんだ。」
「ヤマダ・・・この機体、これからも使っていいか?」
「私もっす、ヤマダさえ良ければ使わせて貰いたいっす」
「勿論だ、壊れたらいつでも整備してやっから持ってきてくれな」
「ありがとう・・・」
「感謝するっす・・・」
「じゃあ、やりますかぁ」
「ん?何をだ?」
「何をって、二人がエナーシャスターターの使い方を忘れてないかチェックするんだよ」
ヤマダは悪い笑みを浮かべエナーシャハンドルを持っていた。望むところだ
「よし、ヤマダ、エナーシャ頼むぞ。」
「了解」
見慣れた塗装の機体を撫でながら翼に登り風防を開ける。腕の力を少しだけ使って操縦席に乗り込み叫んだ
「整備員前離れ!メインスイッチオフ!エナーシャハンドル回せーーッ!」
聞きなれた音と共にエナーシャスターターの回転が上がる。
「コンタクトーーッ!」
カチッ・・・バラッバラッバラッ・・・バラバラバラバラ・・・!
一発始動だ、我ながらよくやれたと思う。計器類の確認をしていると後ろの方でレミの声がした。
「前離れ!スイッチオフ!エナーシャ回せーーッ!」
「コンタクトーーッ!」
二機の零戦の発動機が回る、するとヤマダが格納庫からタキシングして出るように手信号を送ってきた。何かもわからず格納庫から出てみると、前の滑走路脇にはシマの住民や組員たちが拍手喝采でひな壇を組んで並んでいた、滑走路の端を見るとニコとローラ、そしてフィオとシアラの戦闘機が発動機を回して待っていた。
「えっへへ、喜んで貰えたっすか?」
「レミ!お前が指示したのか?」
「ヤマダっすよ、あたしは協力しただけっす〜」
「シマの住民たちがゲキテツ一家幹部の編隊飛行が見たいと言うもんで・・・迷惑だったかい?」
「いや、いいんだ・・・いいんだ・・・」
私は嬉しかったのだ、私達のことを暖かく迎えてくれる住民達がいることが、そして、最高の仲間と空を飛べることが。
「よし・・・編隊を組め!ゲキテツ一家、発進する!」
50年前、ユーハングがイジツに伝えたユーハングの航空産業。それは荒野の広がるイジツにおいて、人と人、街と街、技術と技術を繋ぐ大切な架け橋となった。
そんな世界の「タネガシ」という街で起きた、街を守るための戦いと葛藤の話である。
ゲキテツ大決戦後編 完