ゲキテツ大決戦   作:5145/A6M5

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長距離侵攻戦

著 ヤマ

 

よく晴れた朝、私はヤマダの身支度の手伝いをしていた。タネガシ輸送商会から声がかかり、イトウとヤマダともう1人の新人パイロットでタネガシ郊外で輸送船の邪魔をする空賊対策の戦闘部隊の援護に着いて欲しいという依頼が来たのだ。私も行きたかったが組の仕事を投げて出ていくことは出来ない、だからこうしてできることをしてやろうとしているのだ。

 

「私が作っておいたおにぎりは持ったか?着替えは?航空時計の時刻は正確か?増槽はちゃんと落ちるか?整備はちゃんとしたか?燃料はあるか?」

 

「イサカ、心配しすぎっすよ〜」

 

「そ・・・そうか?」

 

「そうっすよ、ヤマダだったら地べたを這ってでもかえってきますって。」

 

「その言い草は酷いな、レミ」

 

「あれ?ヤマダはそんな簡単に野垂れ死にするんっすか?」

 

「意地でも帰ってきてやるよ。」

 

「頼もしいが、無茶はするんじゃないぞ?」

 

「任せといてくれ、じゃあ・・・行ってくる。3週間で戻るからな」

 

そう言ってヤマダは飛行眼鏡をかけた。調子のいいエンジン音と共に奴の五二型は朝焼け空へと舞う、脚を格納すると大きなバンクを振って進路を変えた。私とレミは機体が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

離陸した俺は使用燃料タンクを胴体内燃料タンクから増槽燃料タンクに切り替えた。タネガシ輸送商会から伝えられた俺達の基地はタネガシからも空賊の基地からも相当遠い場所にあった。どうも使える基地がそこしか無いらしいのだが、なんでそんなガバガバの状態で空賊を叩こうと思ったのかが甚だ謎である。イサカ手作りのおにぎりをむしゃむしゃ食べながら8時間ほど飛び続けると、やっと目的の基地が見えてきた、燃料タンクは全てほぼカラだ。基地に着陸する、そこには零戦と隼ばかりが並んでいた。飛行眼鏡と飛行帽を装填レバーにひっかけ五二型の風防を開ける。

 

「小隊長!お久しぶりです!」

 

「イトウさん、お久しぶりです。これから3週間よろしくお願い致します。」

 

「こちらこそよろしくお願いします!今回御一緒するタケダを紹介しますので指揮所にいらしてもらっても構わんとですか?」

 

「わかりました、すぐ行きます。」

 

そう伝えると俺は計器盤にとめてある三人の写真を飛行服の胸ポケットに収め、愛機に車止めを挟み指揮所に向けて歩いていった。

 

「失礼します。」

 

そう言って指揮所の扉を開くと大勢の搭乗員がいっせいにこっちを見た。すると1人の大柄な男が話しかけてくる。

 

「お前がヤマダか?イトウから話は聞いてる。3週間よろしく頼むぞ。」

 

「こちらこそよろしくお願いします。」

 

「小隊長!こっちです!」

 

指揮所の中の1室に入ると1人のとても若い搭乗員が座っていた。

 

「初めまして、タケダです。よろしくお願い致します。」

 

「こちらこそよろしくお願いします。長距離任務は久々ですので私に不備があった場合は遠慮なく言ってください。ところであなたの愛機は?」

 

「零戦二二型甲です。」

 

「では、私達と違って燃料に余裕を持って行けますね。良かったです。」

 

「増槽を抱かないといけないのは同じですがね・・・よろしくお願いします!」

 

すると、指揮所の前に集合がかけられた。今回あくまで俺は普通の搭乗員であるため指示にはしっかり従う。

 

「卑怯にも、空賊は無防備な飛行船を襲い、我々の血と汗と涙の結晶である特産品を奪った!我々は今日より一週間、空賊基地への攻撃を行う!異論のあるものは無いな!?」

 

皆静まり返っている、当然だ。

 

「よし!戦果を期待する!敬礼!なおれ!」

 

「かかれ!!」

 

そして俺はイトウとタケダを呼び地図を開いた、コンパスと縮尺定規を用いて計算する。

 

「オフコウ山がこの距離で・・・100キロクーリル、だから基地のあるカタルカナルまでは約425キロクーリル・・・無理だ、こんな距離じゃ戦えない・・・」

 

カタルカナルはユーハングがつけた地名だ、ユーハングの戦地と地形が似ているからという理由で付けられたそうだがなんとも変な名前である。それはどうでもいいが・・・850キロクーリル、これは零戦や隼の航続距離とほぼ同じだ、片道約三時間、こんな距離では絶対に戦えない。

 

「貴様ヤマダと言ったな!」

 

いきなりそう言われ胸ぐらを掴まれた。

 

「はい・・・」

 

「何故そういうことを言う?気合を入れれ!」

 

ガンッ・・・

 

「士気が下がる!二度というな!」

 

思いっきり殴りやがった・・・口から流る血を拭きながら俺は機体に落下傘を積み込んでいた。するとイトウが走りよって来る。

 

「小隊長!なしてあんなこと言うたとですか?それとも小隊長は、カタルカナルを知っておられるのですか!?」

 

「知らない、だが425キロクーリルという距離は容易に想像が着く。片道約三時間、しかも敵機を警戒しながらの三時間だ。帰りの燃料の事を考えれば、カタルカナルの上空で戦えるのはせいぜい30分少々、どんな戦いになるかは・・・想像が着く。」

 

そして早速出撃命令が出た。三人で編隊を組み離陸する、離陸すると俺は胴体内燃料タンクから増槽燃料タンクにタンクを切りかえた。高度を上げつつ時たま背面飛行をして下を確認する、下側は戦闘機の1番の死角だからだ。そうこうして飛んでいると増槽の燃料は二時間半程で無くなる。左主翼燃料タンクに使用燃料タンクを切り替えると、投下桿を引き増槽を捨てた。被弾する確率がいちばん高いのが主翼なので、そちらからさっさと使わないといけない。周りの隼や零戦も続々と増槽を捨てた、そろそろカタルカナルの空域に入る。目を凝らして荒野の果てを見ていると空賊の機体が見えた。ヴォート・シコルスキー・エアクラフト F4Uコルセア・・・敵機はシコルスキー15機だ!だが誰も機体を動かさない、敵機を見つけていない様だった。

 

「小隊長!敵機です!」

 

イトウから無線が入る、ちゃんと気づいていたようだ。

 

「了解!」

 

そして俺は速度を高度に変え、7.7ミリを完全装填した。使用燃料タンクを胴体内燃料タンクに切り替えると、大きくバンクを振って7.7ミリを撃った。「敵機発見」の合図だ。それに気付いた他の小隊は一気に散開し高度を上げた。俺は列機に対して大きくバンクを振り後ろを任せ、1機のシコルスキーに狙いを定めて急降下する。相手は気付き逃げようと舵を切る、こっちはフラップを開き急減速してシコルスキーの後ろに張り付いた。とっさにスロットルレバーにある機銃切替スイッチを指で弾き7.7ミリ機銃のみを発射する。

 

ダダダダッ!!

 

至近距離から100発ほど叩き込むとシコルスキーの燃料タンクから火が出た。20ミリは100発しかないので至近距離まで近づける時、つまり長い射撃タイミングがある時はなるべく7.7ミリを使いたいのだ。1機を追いかけて高度が下がった、過給器を1速へ変速し少し遠くに離れ高度を取り直す。1200クーリルほどまで高度を上げ過給器を2速へ変速するとシコルスキーはほとんど味方の部隊に撃墜されていた。だがそれと同時に味方の機影が数機見えない、撃墜されたのだ。高度をとって機種を向けると1機のシコルスキーが見えた、前後左右に敵機が居ないのを確認するともう一度ダイブする、相手も馬鹿ではない。スロットルを開けて逃げるシコルスキーの後ろにつく、旋回を開始したシコルスキーに偏差を取り20ミリと7.7ミリを撃つ。本来偏差射撃はやらないのだが燃料の関係もあるし早く仕留めたかった。

 

ダダダダッ!

 

弾は当然真っ直ぐ飛ばない、その曲がって飛ぶ弾の事も計算に入れて撃たないと撃墜などとても無理だ。

 

パァン!

 

20ミリがシコルスキーのエンジンに当たる、エンジンから火を吹いたシコルスキーは離脱していく。もう一度周りを見渡し敵が居ないことを確認するとバンクを振って列機に空中集合をかけ、帰路に着く。

 

「小隊長!お疲れ様でした!」

 

「イトウさん、お疲れ様です。久々に私の列機に着いていただきましたがどうでしたか?」

 

「やっぱり小隊長は上手かとです、ついて行くのが大変でした!」

 

「私より上手い搭乗員はいくらでも居ますよ、では帰りましょうか。」

 

使用燃料タンクを胴体内から主翼燃料タンクに変え、高度を取る。ある程度の高度をとったらA.M.C.(オートミクスチャーコントロール)を操作して混合気の燃料の比率を最低に、スロットルを20パーセントほどの開度に調節しその後ゆっくりとプロペラピッチを操作、ハイピッチにする。高高度では空気が薄く空気抵抗が少ないために出来る技だ、ユーハングの搭乗員達もこうして長距離を飛んでいた。

 

地図を取り出しコンパスと縮尺定規で航路を計算し基地を目指す、基地付近上空に差し掛かると手回しハンドルでクルシー(クルシー式無線帰投方位測定器)を回転させ針の振れる方向に機首を向け飛び続けると基地が見えてきた。一度後ろを確認しイトウとタケダがついてきていることを確認、そのまま高度を下げ着陸コースに乗る。フラップと脚を出し大きくバンクを振り地上整備員達に着陸することを知らせ、静かに着陸した。そのままタキシングで駐機場所に機体を止めると、冷却運転をする。するとイトウとタケダが駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様です!小隊長!」

 

「お疲れ様です、二人とも愛機の冷却運転はどうしたんですか?」

 

「整備員に任せてきました。ここでは地上整備員が居ますので、」

 

「それは感心しませんね、愛機の手入れくらいは自分でやってあげなさい。今までも、今後も命を共にする大切な愛機でしょう?」

 

「はい・・・次からは自分でします。」

 

「わかって頂ければいいんです、では晩ご飯にしましょうか。」

 

そんな生活で2週間程がすぎた、だがどうも様子がおかしい。空賊基地をおおよそ3週間で叩ける見通しで編成された部隊のはずなのに、空賊の援護が日に日に勢いを増しているのだ。そんな時に指揮所の上官の部屋の前を通りかかった。何か話し声が聞こえてくる、俺は聞き耳を立てた。

 

「戦果が上がっていません・・・部隊長」

 

「そんなことはわかっている、こうなればあれを言うしかないか・・・」

 

「良いでしょう。代わりの搭乗員などイジツには沢山居る。」

 

何やら物騒な話をしているが・・・変なことをさせられるのはごめんだと思いながら俺は部屋に戻って寝た。

 

次の日・・・

 

「貴様らも知っての通り!我々は搭乗員の撃墜率が非常に多い!このままでは戦果は期待できない!!!」

 

皆ざわついている、急にこんなことを言われたのでは誰もが驚くだろう。

 

「その為!!被弾して帰艦が困難な場合は敵基地に留まり自爆するように!!!多少なりともの戦果は期待できる上、貴様らも無駄死ににはならない!これは命令だ!!」

 

「敬礼!解散!!」

 

心底ゾッとした、普通はこんなことを搭乗員に対して言わない。そのことを考えつつ出撃の為に機体の準備をしている時、イトウが駆け寄ってきた。

 

「小隊長!何をそんなくらい顔をしているのですか?」

 

「いえ・・・さっきの司令長官の話が心に残っているものですから・・・」

 

「どういうことですか?」

 

俺は胸ポケットからイサカとレミと俺の写真を取り出しイトウに見せた。

 

「会ったことがあるでしょう?妻と親友です。飛行中に疲れたと思ったらこの写真を見ます。この二人の為にも、私は死にたくありません。」

 

「今・・・なんと言いましたか!?」

 

「・・・」

 

俺は何も言い返さなかった。こういう商売をしている人間の前で生きて帰りたいというのは臆病だと言われても仕方の無いことだからだ、俺には到底理解できない、だが価値観は全く違うのだからそれを否定することも出来ない。

 

 

俺が危惧した最悪の出来事は、それから三日後に起こった・・・

 

カタルカナル上空で空戦中、俺たちの列から離れてシコルスキーを追いかけたタケダが主翼燃料タンクに被弾したのだ。敵機を追いかけタケダを助けた後空中集合をかけた、主翼内燃料タンクに被弾しており、漏洩も始まっていなかったため。その時はまだ帰ろうとしていたのだが・・・飛行中急にタケダが機体をこちらに寄せてきて手信号を送ってきた。よく見てみると無線アンテナ線が切れている、手信号を読み取ってみると。

 

燃料残量少 脚故障 帰還見込薄 戻ル

 

戻って自爆する気だ・・・俺は咄嗟に手を前で交差し「許可出来ない」の手信号を送る。そして燃料残量を手信号で伝える様に伝えた。

 

オフコウ山マデ 帰還見込薄

 

それならどうにかなりそうだ・・・そのまま飛び続けろと手信号を送った、しかしタケダは首を大きく横に降り、こちらに敬礼をして機首を反転させた。

 

「やめろーーーーーッ!!!!!」

 

俺はタケダの前に出ると大きく機体をバンクさせ制止した。しばらくタケダは逆向きに飛び続けていたが、考えを変えたのか機首を元の向きに戻した。俺はタケダの横に並ぶと掌を上にして手を上下に動かした。「高度上ゲロ」の手信号だ、高高度は空気が薄いためその分空気抵抗が少なく長い距離を飛べる。それに万が一発動機が止まっても滑空が可能だ。次にA.M.C.を最低になっているかを確認させ、俺は風防を開けた。風向きを常に確認し、追い風の時はスロットルを絞るよう、向かい風の時はスロットルを開けるよう細かく指示を手信号で送る。そうこうして2時間超、荒野の澄んだ空の切れ目に基地の鉄塔が見えた。もう10分も飛び続ければ基地だ。タケダも笑みを浮かべている、

 

バラバラバラバラッ・・・カラッ・・・カラッ・・・

 

タケダの二二型のプロペラが止まった。タケダは何度も何度も再始動しようと試みるがその努力虚しくタケダの二二型は高度を下げていった。それを追うように俺とイトウは高度を下げてゆく、タケダは荒野の地表に機体を胴体着陸させた。その上空で俺は風防を開け力の限り叫ぶ。

 

「直ぐに救援を呼んでやる!!何とか耐えろ!!!」

 

「タケダーーーッ!!頑張れーーーーッ!!!」

 

 

そしてすぐさま基地に向け全速力で帰還する。着陸すると直ぐに救援班に着陸地点を記した地図をわたし救援を送った。

 

30分後・・・

 

「不時着地点に・・・タケダ搭乗員の姿はなく・・・」

 

救援班が言葉を詰まらせた。

 

「どうした!?」

 

「その地点には・・・食いちぎられたかのような血痕のみが残っていました!」

 

俺は悔しかった、救援班に礼を言い指揮所に戻ろうとすると・・・

 

「小隊長!なして自爆させてやらなかったとですか!!タケダは得体の知れんもんに殺されるより、敵さ突っ込んで華々しく散った方がずっと幸せだったはずです!!!」

 

「・・・あの時点では助かる可能性があった。」

 

「本気で助かると思ってたとですか!?」

 

「分からない!だが自爆をすれば確実に死ぬ!!死ぬことなどいつでも出来る。生きるために努力をするべきだ」

 

「どうせ!!自分なぞこの先ろくな死に方は出来ません!もし自分が被弾したら・・・潔う自爆させて下さい!!」

 

「イトウ!貴様はまだ分からないのか!?」

 

「っ・・・」

 

「貴様に家族はいないのか?貴様が死ぬ事で悲しむ人間は居ないのか?それとも貴様は天涯孤独の身の上か!?」

 

「・・・」

 

「答えろ!!!」

 

「タネガシに・・・嫁が居ます・・・」

 

「奥さんは貴様が死んでも悲しんでくれないのか?」

 

「・・・いいえ。」

 

「それなら死ぬな!!どれだけ苦しいことがあっても・・生き延びる努力をしろ!!」

 

後にも先にもイトウを怒鳴りつけたのはこの時が最初で最後だ。だがいいことか悪いことかははっきり言えないが、そのあと俺達は長距離任務に着くことはなくなった。答えは簡単だ、空賊がこちらの基地を叩くようになってきたのだ。迎撃に上がるために常に上空を警戒している日々、周りの搭乗員もどんどん死んで行った。そんなある日司令官が蒸発した・・・だがそんな事を気にしている場合では無い。こちらは迎撃にあがり着陸して燃料を入れまた次の襲撃へ備える。そんなサイクルを繰り返し遂に帰宅予定の日になった、100人超が収集された搭乗員はついに俺とイトウのみとなった。司令官は事実を隠蔽するためこの事を誰にも報告せずに増援も期待できない。本来であれば任務完了の電報と共に帰還できるはずだった・・・だがそうはいかない。こんな状態ではトンズラすら出来ないのだ。今日も電索を確認し敵機機影を探した。その日の夕方、俺が愛機の操縦席で写真を眺めていた時だった。

 

「小隊長」

 

「どうしました?」

 

「もう備蓄の燃料がなかとです・・・」

 

「・・・イトウさん」

 

「はい」

 

「あなた航路計算は出来ますか?」

 

「出来ます。」

 

そして俺は立ち上がるとイトウの三二型の燃料タンクを満タンにし、増槽を取り付けそれにも燃料を注いだ。

 

「小隊長!何しとるとですか!?」

 

「貴方の三二型は胴体内タンクに燃料が残っています。今他のタンクにも補充しましたのでこれでタネガシまでは帰れるでしょう。故郷に帰りなさい。」

 

「だどもそんなこと!!」

 

「貴方の妻は貴方の帰りを待っているでしょう?早く帰って顔を見せてやりなさい。」

 

「だども小隊長はどうするとですか!?」

 

俺は笑いながら言った。

 

「私は貴方に何度も命を救われました。貴方が列機にいたから私はここまで生き残れたんですよ。私はそれで十分です、備蓄の燃料はあと一回零戦の胴体内タンクを満タンにするくらいは残っています、私はここで迎撃をしながら増援を待ちますよ。」

 

「貴方の大切な人はどうするとですか!?」

 

「ガタガタ言うな!とっとと帰れ!!ここで俺と言い争っている間に空賊が来たら貴様の燃料も足りなくなるんだぞ!」

 

「小隊長・・・」

 

「早く帰れ!!俺の事はいいから!」

 

「っ・・・絶対に助けに来ますから!」

 

そう言ってイトウの三二型は飛び立って言った、まあ救援なぞ来ないだろう。俺もイトウも向こうでは死んだ報告をされているはずだ・・・さて、俺は備蓄の燃料を全て愛機に注ぎ基地の周りを散策した。迎撃で撃墜された味方の戦闘機の残骸から燃料タンクを取り出し残量を確認する。漏洩をしていたりもするが無傷のタンクをどうにかこうにか探すのだ。

 

「翼内に残ってるな・・・」

 

そうして残骸から燃料を回収していると、とりあえず零戦本体のタンクは満タンにすることが出来た。だがまだたりない・・・タネガシへは増槽タンクをぶら下げてやっとだ。イトウが到着するまではあと約7時間・・・往復15時間、俺の命運も尽きたか・・・すると電索が反応を示した。シコルスキー6機・・・やるしかない、やらなければここで俺は野垂れ死にだ。

 

迎撃のため自分でエナーシャを回し発動機をかけ空中に上がる、1機のシコルスキーに狙いを定め急降下した。

 

ダダダっ!!!

 

一機撃墜、だが後ろにはシコルスキーがまた張り付いていた。右に左にと旋回をして振り切ろうとするが1機を振り切ると別の1機が張り付いてくる、逃げ続けているとついに機体後部に衝撃が走った・・・ピタリとつかれたのだ。

 

「くっそォ!こんな所で死ねるか!!」

 

左捻り込みをしようとしたその瞬間・・・

 

ガガガガガッ!!!!

 

増援!?いや違う!この機銃の音は・・・俺は後ろを振り返った。そこには飴色に日の丸を描いた二一型と、濃緑色と灰色に塗り分けられた五二型が居た。

 

「帰りが遅いと思って来てみれば!!」

 

「空戦上等のヤマダがどうしちゃったんっすか〜?」

 

「イサカ!!レミ!!」

 

「話はあとだ!さっさと片付けるぞ!!」

 

俺は左捻り込みでシコルスキーの後ろに着いた、

 

ダダダっ!!

 

20ミリを叩き込む、そのまま一度離脱すると後ろを守っていたレミが援護射撃をした。

 

「いただきっす!!」

 

ドォッ!!!

 

前に居たシコルスキーが火を吹いた。撃墜確実、上空ではイサカが片付け終えた後だった。とりあえず基地に三人で着陸する。風防を開け翼から下りるとイサカとレミが抱きついてきた。

 

「心配したんだぞ!!馬鹿者!」

 

「遅いっすよ・・・バカバカ!」

 

俺は二人を抱き返すと、気になっている事を二人に聞いた。

 

「すまんな・・・ところで帰りにイトウを見なかったか?」

 

「見たも何もついさっきすれ違ったばかりだ、手信号で慌てて今の状況を伝えて来て反転しようとしてきたから私が制止して帰らせたんだよ。」

 

「そうそう、イサカが昨日からずっとヤマダは、ヤマダはってソワソワしてたんっすよ〜」

 

「すまないな・・・見ての通りな状態だ。」

 

「その話はつけてきた、輸送商会も空賊を甘く見ていたようだ。」

 

「やっぱりな・・・どうすんだ?」

 

「それが、この話を電話で話してたんっすよ、そしたらたまたまニコがその話を聞いてて『私の組で空賊を潰す。』つって戦闘機隊を派遣したんっスよ。どういう風の吹き回しっすかね?」

 

ゴォォォォォォォォォォ!!!!

 

すると上空を五二型の大編隊が通過した、それと同時に大きな箱が超低空飛行の零戦から投下されてきた。

 

「これは・・・増槽タンクと燃料か!?よくもまあこんなに・・・」

 

「私が頼んだんだ、どうせ増槽も何も無いんだろう?」

 

「ああ・・・ありがとう!」

 

「さあ、帰るっすよー」

 

三人の機体に増槽を取り付け離陸準備をした。燃料コックを胴体内燃料タンクに切りかえ発動機を回す・・・俺の五二型はセルモーターでは無いのでエナーシャを自分で回さなければならない。操縦席背もたれ裏に固定されているエナーシャハンドルを取り外し機体から降りようとすると、二人が笑顔で下にいた。

 

「ほら、エナーシャハンドルを貸せ。」

 

「あたしらが回してあげるっすよ〜」

 

「助かる・・・」

 

俺は操縦席でシートベルトを閉め操縦桿を足で手前に巻き込み大きく手を振った、

 

「整備員前離れ!スイッチオフ!エナーシャ回せ!」

 

キィィィィィン・・・

 

エナーシャスターターの回転数が上がる、俺はその音に耳をすませ二人の声を待った。

 

「コンタクトーー!!!」

 

エナーシャとクランクシャフトを繋ぎスイッチを(両)位置へと変える。

 

ガコンっ・・・カチッ・・・バラッバラッバラッ・・・

 

少しだけスロットルレバーを前に倒し燃料を送る。

 

バラバラバラ・・・!!!!!

 

乾いた爆発音がリズム良く響く、発動機始動だ。

 

「OKだ!イサカ!レミ!ありがとう!」

 

二人はこちらに敬礼をすると自分の機体に戻って行った、俺はフットバーを思い切り踏み込みブレーキをかけアイドリングをする。磁石発電機の動作を見て、発動機が温まったところでブレーキを外し滑走路に出る。本来なら試運転を更に行うが燃料がギリギリの為今回はそのまま飛ぶ。後ろを確認するとレミとイサカが後ろに並んでいた。風防を完全に開け座席位置を高くして飛行眼鏡をかける。ここの滑走路は舗装されていないのだ、大きく手を振って離陸することを伝え当て舵を当ててスロットルを開く。

離陸すると脚を上げ使用燃料タンクを増槽へと切りかえた。風防を閉めて飛行眼鏡を外す。燃料残量も問題なし、発動機も正常。なんの問題も無く高度を上げていく、すると無線が入った。

 

「ヤマダ!」

 

「イサカか、どうした?」

 

「その・・・お、おかえり。」

 

「おかえりなさいっす。」

 

「・・・ただいま。」

 

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