著 ヤマ
「お疲れ様です!ヤマダさん!」
「おう、おつかれ。」
そう言って後輩達を見送るヤマダを見つけ、私は奴の元に歩いて行った。ヤマダは私に気付くと手を挙げて合図をする、私達は少しヤマダの61-120の翼の下で話をした。
「ヤマダ、明日から私と出撃してもらってもいいか?」
「いいぜ、任務はなんだ?」
「飛行船直援任務だ、私のフロント企業の都合で第二羽衣丸の直援を条件に安く物資を輸送してもらうことになった。二番機について欲しい。」
「第二羽衣丸ってことは・・・コトブキ飛行隊と共同任務か、日数は?」
「片道二日だ」
「了解。羽衣だったら着艦フック使わなくていいから楽だ〜」
「ふふ、確かにそうだな。じゃあ明日よろしくな。」
「ああ、任せとけ。」
翌日・・・・・
「脚下ろし!フラップよし!着艦します!」
俺はスロットルを絞り機種を少し上げ、ゆっくりと降下して羽衣に着艦した。艦上戦闘機として設計された零戦は失速速度が37キロクーリルととても遅く、こういう狭い場所へ着艦するのがとても楽なのだ。五二型だと翼端が短縮されているため取り回しが更にいい、まあ羽衣くらい広い船内だとあまり関係はないんだが・・・
着艦し整備班に誘導された駐機場所に機体を運び、冷却運転をして発動機を止める。油温や筒温が正常に下がっているのを確認したら、飛行眼鏡を外し首にかける。そのまま立ち上がって機体から降りた。
「ご苦労さまです、ありがとう。」
チョーク(車輪止め)を置いてくれる整備班に礼を言うと、俺はイサカの元へ歩いていった。
「私はマダムルゥルゥに到着した事を報告してくる、ジョニーズサルーンで待ち合わせよう。先に行っていてくれ。」
「わかった、マダムルゥルゥによろしくな。」
そうして俺はジョニーズサルーンへ向かい、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ。」
「どうも、カルピスチューハイ一つお願いします。」
「かしこまりました。」
紫髪のウェイトレスに注文を言うと、俺は店内に誰も居ないのを確認すると、四人用のテーブル席に腰を下ろした。しばらく待っていると、
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
そうして受け取った酒を飲みながら席でぼーっとしていると、何人かの話し声と足音が聞こえてきた。声には聞き覚えがある。
「そんでさ!キリエが後ろに着いたのに弾外してやんの!」
「うっさいバカチ!風が強かったから機首が流されたの!」
「はいはい、喧嘩しない〜」
「撃墜スコアの話も良いが、二人とも機体の整備費も考えろ。マイナスになったらまたお前たちの給料が無くなるぞ!」
「は〜い・・・」
サルーンの扉が勢い良く開いた、最初に前に居たのはキリエだった。
「リリコさん!パンケーキちょうだい!」
「あたしカレー!」
「はいはい、ただ貴方達がいつも座ってる席には先客がいるわよ?」
そう言ってウェイトレスは俺を指さした、俺は少しうつむき加減だった顔を上げる。挨拶しようとすると、先に向こうから話し始めていた。
「あ!ヤマダじゃん!?」
「あら、お久しぶりですわね。」
「ケイトは驚いている。」
「久しぶりだな。キリエ、エンマ、チカ、ケイト、それにレオナさんにザラさん。お久しぶりです、今日から四日間お世話になります。」
「なるほどな、先に駐機されていた五二型はお前のだったのか。ところで隣にあった二一型は?」
「私の妻の機体です。もうすぐここで落ち合う予定なのですが・・・マダムと話が長引いているのでしょう。」
「妻・・・そっか!ヤマダ奥さん居たもんね!」
「ああ、覚えていてくれたんだな。キリエ」
「あったりまえじゃん。あんたの奥さん見てみたいな〜」
「もうすぐ見れるさ。とりあえず俺はここを退けるかね」
「そのままでいいわよ、私達が少しズレるわ。」
「すみませんザラさん、気遣い感謝します。」
「そんなに固くならなくていいわよ〜」
するとサルーンの扉がゆっくりと空いた、イサカだ。イサカ入り口で少しキョロキョロすると俺を見つけ、歩いて来た。するとコトブキの六人はわざと俺の横を空けて席に着いてくれた。レオナさんがイサカを俺の横へ手招きする。
「レオナさん・・・ですね。ありがとうございます。」
イサカはていねいな言葉遣いで礼を言う。
「気にするな、それより色々話をしたい。軽くここでご飯でも食べながらどうだ?」
「問題ありません。」
「ふふ、そう固くならないでくれ。いつもの感じで大丈夫だ、イサカもヤマダもな。」
そうレオナさんは言ってくれたので、俺たちは少し気が楽になった。俺は首から飛行眼鏡を取り机の端に置く、するとそれを見たキリエが言う。
「ヤマダ、そのゴーグルつけにくくないの?ちょっと大きいけど・・・良かったら私がいいゴーグル紹介してあげよっか?」
「はは、ありがとうなキリエ。だが俺はこれがいいんだ、これは俺の妻がくれた大切な飛行眼鏡なんだよ。」
「じゃあ、イサカさんがあげたってこと?」
「ああ、私がヤマダにあげたんだ。そして私が使ってる飛行眼鏡は元々ヤマダのやつだ。」
「お二人共本当に仲がよろしいんですね、幸せそうに見えますわ。」
「ありがとう、エンマ。」
そして俺は酒を飲み干した。皆が食事をとり終えると、レオナさんが机の上に航路図を広げ輸送任務についての説明を始めた。まあ要約すると、基本的には飛行船内で待機しといて空賊が来たら出撃っていうのをくりかえす感じだ。その説明を受け終えた後、基本的な分隊ペアが発表される。コトブキ飛行隊とは機体が違うので俺とイサカは不動でペアだ。その他部屋などの一通りの説明を受け終えた後、俺は駐機場所に降りていった。愛機の事を今一度点検しておきたかったからだ。イサカはレオナさんとザラさんに捕まっていた、どうなるかは考えないでおこう。
駐機場所に降りて行き機体のステップを出そうとすると、金髪の小柄な少女が歩いて来た。
「よっ、ヤマダだったか?」
「はい、本日から四日間お世話になります。ヤマダです。失礼ですが、貴女は?」
「羽衣丸整備班整備班長、ナツオだ。コトブキの連中から聞いたがお前は整備もできるそうじゃないか?」
「はい・・・と言っても海軍機専門ですが。」
「良いじゃねーか、この61-120はお前の愛機だろう?」
「はい、そうです。」
「いいねえ、色んなとこにこだわりを感じるぜ・・・ちょっと発動機回して貰えないか?」
「構いませんよ。」
そう言って俺はステップを伝って機体に乗ると、手順を踏み発動機を回そうとする。するとナツオ班長が下から叫ぶ
「エナーシャハンドル貸しな、回してやるよ。」
「いえ、こいつはエナーシャスターターじゃ無くても始動させることが出来るんです。良ければナツオ班長が始動させてみますか?」
「いいのか!?」
「ええ、折角ですからね。」
俺は機体から飛び降り、ナツオ班長に操縦席を譲る。班長にセルスターターの使い方を伝え発動機を回してもらう。子気味良い爆発音を響かせ、俺の61-120の栄三一型甲は歌をナツオ班長に聞かせていた。最近手に入れた栄用のセルモーターもちゃんと動作したようでほっとした。そしてナツオ班長は発動機を止めた。
「いい音だな、しっかり整備されてるのがわかるぜ。」
「ありがとうございます。そう言っていただけると光栄です。」
「よせよ、さっきっからそんな硬い話し方。私が話しにくいじゃねえか、私お前でいこう。」
「わかったよ、ナツオ・・・」
「それで良いさ。」
そうしているとキリエとエンマが駐機場所に降りてきた。恐らく暇なのだろう・・・ 無理もない、飛行船は飛びっぱなしでどこにも降りないから空賊が出ない限りする事はほとんどない。
「エンマって空戦の時フラップ出してる?」
「後ろに着いた時は出していますわ、けれど速度が欲しい時は閉じますわね。」
「やっぱりそうするよね〜、あ、ヤマダじゃん!おーい」
「キリエ、それにエンマか。どうした?」
「ヤマダって空戦の時、空戦フラップ出してる?」
「出してないな〜」
「やりにくくない?」
「まず零戦には空戦フラップが無いからな。」
「そうなんですの?」
「ああ、まあ操縦席に座ってみたらわかるよ。61-120の操縦席に座ってみな。」
そう言ってまずはエンマを操縦席に乗るよう促す、乗ったのを確認したら俺も主翼に登りエンマに解説をした。
「エンマの右側にあるレバーがフラップ操作レバーと主脚操作レバーなんだ、隼みたいに操縦桿にスイッチがないだろ?」
「ほんとですわね・・・操縦桿はただの棒ですわ。」
「そゆこと、フラップ操作レバーを操作したら動かした分だけフラップに角度が着くんだ。」
「そう言えば零戦とか雷電は隼とか鍾馗みたいなフラップじゃないね。」
「スプリットフラップってやつだな。ちなみに隼って言ったが隼三型は零戦とほぼ同じフラップになってるぞ。」
「そうなんだ!」
「キリエもこいつの操縦席に座ってみるかい?」
「うん!」
そしてキリエとエンマが交代する、俺はまたエンマと同じ事を解説した。
「じゃあ零戦は基本的に着陸と離陸の時にしかフラップを使わないの?」
「いや、空戦の時も使うことはある。離陸の時の角度よりちょっと浅いくらいにフラップを出して格闘戦をする事はあるぞ。」
「へぇ~、ん?ヤマダ、この女の人ってさっきの人だよね?」
キリエは計器盤に貼ってあったイサカとレミと俺で撮った写真を指さして言った。
「ああ、そうだ。」
「もう一人の人はこの前ザラにしこたま飲まされてた人だね・・・」
「ああ」
「いいね、こういうの! そうだ、操縦席見せてくれたお礼と言ってはなんだけど隼に乗ってみる?」
「いいのか!?」
「うん!」
そして俺はキリエとエンマ、ナツオに勧められ発動機まで回させてもらうことになった。キリエの隼の操縦席に乗り込む。
「始動の仕方、わかる?」
「ああ、何べんか扱ったことがある。」
「じゃ、大丈夫だね!」
まずは手動ポンプを前後させポンピングし燃料を送り、燃圧3.5キロほどになったら動作をやめる。次に計器盤横の小さなハンドルを回しカウルフラップを全開に、プロペラピッチ操作レバーを手前に引きピッチを最高に、ミクスチャコントロールスロットルを手前に目いっぱい引き燃料をニッチ(濃)に、点火プラグスイッチを閉に、そして操縦桿を足で巻き込み尾部が浮かないようにする、最後にスロットルレバーを数回あおりその後一割ほど進めた場所で止める、そこまで終えると手を振ってナツオに合図を出す。
「整備員前離れ・・・じゃなかった、始動準備ー!」
ナツオがエナーシャハンドルを回す。甲高い回転音が鳴り響き、ナツオの声が聞こえた。
「点火ーーッ!!」
点火プラグスイッチを両位置へと移動させ、ペダルを踏んでクラッチをつなぎ発動機が始動する。バラバラバラという子気味良い爆発音はよく整備された栄・・・じゃないハ25の音だった。数分間アイドリングを続け、発動機を止めると機体から飛び降りる。キリエに礼を言った。
「いい機体だな、ありがとう。」
「こっちこそありがと!」
「やっぱり手慣れてますわね。あまり乗らない戦闘機の発動機を一発始動させるなんて。」
「そんなことないさ、ありがとうな。」
「ところでずっと気になってたんだけど、始動の前にスロットルレバーをあおって一割で止めるのはなんで?」
「発動機を始動させるときには通常よりも混合気を濃くしてやらないと始動にくいんだ。スロットルを煽ったら気化器とシリンダーの間に濃い混合気が滞留するだろ?そうしたらシリンダーに普段よりもより濃い混合気が送り込まれることになるから発動機が始動しやすくなる。始動に失敗したらカブるって言うのはその濃い混合気のせいでプラグがしめる事なんだ。」
「へえー、そうなんだ!」
「私も説明したぞ?キリエ?」
「えへへ・・・」
「人の話を真面目に聞けねえやつァエナーシャハンドルケツに突っ込んで掻き回してやっぞ!?」
「ごめんなさいっ!」
「まあまあ・・・そうだエンマ、俺の五二型の発動機回してみるか?」
「いいんですの?」
「ああ、あんまり零戦に触れる機会もないだろ?」
「ええ、まあ・・・ではお言葉に甘えて、よろしいです?」
「ああ、もちろん。」
そして俺は機体のステップを全て出し、エンマに踏む順番と翼の上で足を置いていい場所を伝え、主翼前縁に立ち補助しながら操縦席に誘導した。
「あら、ありがとうございます。」
「いえいえ、どうぞ。」
そうしてエンマが操縦席に座るのを確認すると、俺はキリエに上がってくるように目配せした。キリエはナツオに説明されながらステップを登って俺の横に立つ、
「エヘヘ、私零戦の始動を見るの初めてじゃないんだ〜」
「そうなのか?」
「うん。昔ね、サブジーが良く乗せてくれたの!」
「そっか・・・ちなみにその型は?」
「無線アンテナが無い三二型!」
「おお!そりゃユーハングから持ってきたんだろーな。」
「なんでそんなのわかるの?」
「今度サルーンで詳しく説明してやるよ。ナツオもどうだい?」
「ああ、行かせてもらう。」
そしてもう一度エンマの方を向き、話しかけた。
「説明した方がいいかな?」
「ええ、どこがどこだかさっぱり・・・」
無理もない、そして俺は説明を始めた。
「OK、まずは操縦席右下の小さいハンドルを回してカウルフラップを全開にする。」
「はい、」
「そしたら次に、その手前の(オイル冷却器シャッタ)って書いてあるハンドルを右に回転させてシャッターを全開にしてくれ。」
「これはなんですの?」
「オイル冷却器に当たる風量を調節する為のシャッターだよ。隼一型だと環状冷却器だからこういうのはないもんな・・・」
「確かにそうですわ・・・次は何を?」
「次はスロットルレバーの下のプロペラガバナ操作レバーをめいいっぱい引いてプロペラピッチをハイピッチにして」
「かしこまりましたわ。」
「よし、次は左上にあるミクスチャーコントロールを手前に引いて混合気の燃料比率をニッチに。」
「はい、」
「最後にスロットルレバーを二、三回ポンピングして全閉にしてくれ。一割で止めちゃダメだぞ。」
「しましたわ。」
「よし、整備員前離れ!」
俺は大声で周りに伝える。本来は操縦者が言うが、今回は特別だ。
「じゃあ計器盤の左下のトグルスイッチを上にあげて。」
ウィィィィィン・・・
セルモーターでクランク軸が回る。
「よし、点火プラグスイッチを両位置にして」
カチッカチッカチッ・・・バラ・・・バラ・・・
「ちょっとだけスロットルレバーを押して!」
バラッ・・・バラバラ・・・バラバラバラバラバラ!!
そうして栄三一型甲は始動する。
こちらもしばらくアイドリングした後、発動機を止めまたエンマを補助しながら俺とキリエ、エンマは機体から降りた。
「ありがとうございました。セルモーターと言うのは便利ですわね。」
「だろ?栄専用品のセルモーターを探すのは苦労したぜ・・・」
「本当に好きなんだね・・・今度でいいから、エナーシャ使った始動も見せてもらっていい?」
「ん?あっちの二一型は今エナーシャ始動だぞ。」
俺はAI-1-129を指さした。今回はゲキテツ一家として目立たないために、マーキングがされている波模様の二一型ではなくこちらのAI-1-129の二一型で来ているのだ。
そしてこの前こいつのセルモーターが焼き付いたため今回の任務に間に合わせるために急遽エナーシャスターターをつけたのだ。
「ほんと!?見てもいい!」
「あれは妻の機体だからな・・・都合よくイサカが降りてくれば良いんだが」
すると、足音と共に聞き覚えのある声がした。すると次の瞬間、「なにか」が俺に後ろから抱きついてきた。
「ヤマダぁ!!・・・ひっく」
「うわっ!イサカ!? なんでこんなに飲んだんだよ!」
俺はイサカを取り敢えず剥がそうとしたが、次は前から抱きつかれてしまった。
「ヤマダぁ・・・えへへ・・・あったかい」
「もーーう!なんでこうなった!?」
するとザラさんとレオナさんが走ってきた。騒ぎを聞き付けてかチカやケイト、更にはマリアさんとアンナさんまで来てしまった。
「きゃっ!ちょっと見てマリア!あの二人ラブラブよ?」
「ほんとね〜、これはいいものが見れたわ!」
「そういう事もしてるのかしらね?」
「しっ!声が大きい! もう操舵室に戻るわよ!」
「わかったわよ・・・」
次はザラさんとレオナさんが言う。
「遅かった・・・」
「ごめんなさいね〜、飲みながら話そうって言って誘ったんだけど・・・こうなっちゃって。」
「ザラ!飲ませすぎだ!本当に済まない、ヤマダ・・・」
「いえいえ気にしないで下さい。ほらイサカ!しっかりしろ!」
「んん・・・むにゃむにゃ・・・」
「寝るなーーーーッッ!!!!!」
夜・・・
部屋で寝転んでいると館内放送が入った、空賊が来たらしい。約8機・・・丁度いい、羽衣だと一機撃墜ごとに報酬が出る。飛行眼鏡を持ち駐機場所に駆け下りる、イサカも同時に降りて来た。コトブキも走ってきたがこっちが先に出撃して滑走路を開けた方が良さそうだ。ナツオにはコトブキの発動機を先にやるように目で合図した。
「イサカ!乗れ!」
俺はイサカに二一型に早く乗るよう伝え機体の下に潜る。
「了解!」
そうして主脚に引っ掛けてあるエナーシャハンドルを掴み、イサカが一連の動作を終えるのを待つ。
「整備員前離れ!メインスイッチオフ!エナーシャ回せ!!」
エナーシャハンドルを機体向かって左下の差し込み口に突き立てエナーシャを回す。音を聞いて回転数が80回転になったくらいでエナーシャを外し
「コンタクト!!」
バラッ・・・バラッ・・・バラバラバラ!!!
プロペラの回転が安定したのを目視で確認すると、イサカの手信号も確認してチョークをはらう。イサカに敬礼して俺は61-120に向けて走っていく。
「へぇ〜あんな感じなんだ・・・いいな、息ピッタリって感じで。」
「キリエ!早く乗れ!」
「ごめーん班長!」
61-120も発動機を回す、無線の周波数をコトブキと揃え無線が使えるように調整すると、タキシングしてイサカの後ろに着く。イサカが手を大きく振るのを確認するとフラップを下げ直ぐに発艦できる体制を整えた。イサカの二一型が発艦する。俺は風防を全開にし飛行眼鏡をかけ座席を一番上にあげ、滑走路左右の発艦信号灯を確認する。
カチッ・・・
赤から青に信号灯が変わる。スロットルを前に押してラダーで調節しながら羽衣から発艦した、一瞬だけ機体が沈むが直ぐに体勢は整う。右側の配電盤スイッチを操作し編隊灯を点灯させ、操縦席内部の電灯も光らせた。それを素早く終えると主脚を格納し、フラップを上げる。向こうの編隊灯と月明かりを頼りにイサカの後ろにつくと、羽衣の周りを周回するコースに乗りコトブキの発艦と空中集合を待つ。
「夜空は慣れないな・・・」
「仕方ないさ、俺が空賊でも空戦しにくい夜に襲うと思う。」
「まあそうだが・・・気合い入れて行くぞ!」
「おう!」
コトブキが空中集合を終えると俺達も合流する。六機編隊から少しズレたところで二機編隊を組み、レオナさんの指示を待つ。
「空賊は8機! 機体は不明! 空中衝突と残り弾数に気を付けろ!」
「かしこまりました。」
「了解!」
「はい!」
「おっけー!」
「了解した。」
「よし・・・コトブキ飛行隊、一機入魂!」
その掛け声と同時にコトブキは左右に散開した。俺とイサカは直進しながら高度を上げ正面からの一撃離脱を狙う。燃料をリーンバーン(薄)からニッチ(濃)にし、オイル冷却器のシャッターを半分閉めた。夜空だと外気温が冷たくて冷えすぎてしまうからだ。7ミリ7機銃を完全装填し試射をする、今回7ミリ7機銃の弾薬ベルトから曳光弾を抜いてあるので敵機に気づかれる心配はない。正面に空賊の機体が見える。次の瞬間イサカが大きくバンクを振った、そして機体を裏返し急降下に入る、俺もそれに続く。
スロットルを絞りスロットルレバーの機銃スイッチを中立位置に移動させ、トリガーに指をかけた。薄い雲を突き破った瞬間、イサカの二一型が機銃を発射した。
ダダダダッ!!!
イサカが一斉射を終え離脱した瞬間俺も機銃を撃つ。
ダダッ!!ダダダッ!! バキッ・・・
20ミリが命中したようで敵機の翼が吹っ飛ぶ、空賊の機体は隼二型だった。撃墜確実・・・すぐにイサカの後ろに着く。イサカの二一型には水メタノール噴射があるので上昇が鋭い。こちらも過給器を変速し負けじとそれに続く。
俺達の左右ではコトブキが何機か既に堕としている、残り約3機か・・・そしてふと後ろを見るとチカキリエ分隊が後ろにつかれていた。後ろにつこうとしている様だが旋回性能に大差ない隼同士だからか少し苦戦しているようだった。
俺はバンクを振って7ミリ7機銃を発射し助けに行くと合図をイサカに送る。機首をそちらに向けイサカが後ろに居ることを確認すると、空賊の後ろにスっと詰め寄る。前のコトブキに夢中で後ろに全く注意を向けていない。好都合だ、スロットルレバーのスイッチを弾き7ミリ7機銃のみに切り替えると10クーリル程まで接近しトリガーを引いた。
バババババ!!! パァンッ!!
隼の燃料タンクが火を噴く、そのまま離脱し周りを見ると、全機撃墜したようだった。皆の編隊灯を頼りに編隊を組むと羽衣へ帰還する。コトブキが着艦し、イサカが着艦するのを確認してから、俺はフラップを下ろし脚を出してスロットルを絞り着艦した。
「キリエ!チカ!あれほど後ろに気をつけるように注意したろ!」
「ごめん・・・レオナ。」
「でも一機撃墜したもん!」
「そういう問題じゃない!」
俺は冷却運転を終えると発動機を止めた。次に主翼下面のピンを引っ張り出し駐機場所の床から伸びているワイヤーをそこに掛け張りを調節する、羽衣が大きく向きを変えた時に動かない様にだ。それを終えるとイサカが横に歩いてきて俺にコーヒーを手渡してくれた。
「お疲れ様だな。」
「ありがとさん。」
そのコーヒーを飲み干すとサルーンへと歩いてゆき席へ座る。するとキリエとチカが駆け寄ってきた。
「ねえヤマダ!何機撃墜した?」
「一機・・・だったかな?」
「待て、最初に私の後に続いて撃った時に撃墜していたから二機じゃないのか?」
「あれはイサカの一斉射あっての撃墜だから俺個人の撃墜としてはカウントしない。」
「ヤマダってさ〜、あんまり撃墜スコア気にしてない感じ?あ、カレーじゃん!リリコさんサンキュー!」
「確かにね〜、勝ちの証拠になるんだしもうちょっと気にしたりしないの?」
「うーんじゃあさ、10対10で空戦するとするぞ?」
「うん、」
「こっちは一機だけ撃墜されて、向こうは全滅した。これはどっちが勝ち?」
「そりゃこっちに決まってんじゃん!」
「だよな。じゃあ、こっちで撃墜された一機が自分だったらどうする?」
「あ、う〜ん・・・」
「何機撃墜しても堕とされたらそれで終わり・・・だから俺は何機堕としたかよりもどれだけ生き残れるか、何機味方を助けたかを重視するかな。」
「そういうもんなのかな?」
「まあ人それぞれだと思う。ただ、君たちも絶対に無理はしちゃダメだぞ。」
「は〜い。」
「でもヤマダって機体に撃墜マーク描いてるよね?」
「あれは飾り、かっこいいだろ?」
「かっこいい・・・のかな? 私よくわかんないけど、私の尾翼のマロちゃんも可愛いっしょ?」
「あれは可愛いな〜」
そうすると俺はイサカに目で合図し、もう暫くコトブキの面々と話したあと駐機場所へと二人で降りていった。
A1-1-129の横で俺とイサカは腰を下ろした。夜も遅い、朝には目的地に到着する。俺は酒を取り出し小さな盃に注ぎイサカに渡した、そして俺の分も入れる。そしてもう二杯、杯に酒を注いだ。
「ヤマダ、その二杯は誰の分だ?」
「こいつらさ。」
そう言って俺はA1-1-129と61-120の前に杯を置いた。
「イサカ、その杯をもってこっちに来てもらって良いか?」
「ああ、」
イサカと俺は杯を持って二機の零戦の前に並んだ。そして俺は言う。
「敬礼!!」
左手に杯を持ち、俺とイサカは零戦に向け敬礼をした。
「直れ!」
そして俺は杯を一口で飲み干し、それを床に落とす。イサカも戸惑いながらそれに続いた。
パリンっ・・・パリンっ・・・
杯は割れる。俺は敬礼から直ると、杯の酒を二機の零戦の主翼にかけた。
「敬礼!!」
俺とイサカはもう一度敬礼した。
「直れ!」
俺は敬礼から直ると、イサカと一緒に二機の間で腰を下ろした。
「悪かったな、なんの説明もなくこんな事させて。」
「良いんだ、だがどうして?」
俺はメモに書いてある今日の日付をイサカへと見せた。
「これがどうしたんだ・・・?」
「今日はユーハングで零戦が初めて地面を蹴って空を舞った日なんだ。言うなれば零戦の誕生日だな。」
「そういう事だったのか。」
「イサカ、零戦は最強の戦闘機じゃない。」
「どうした、お前らしくもない。」
「防弾も弱く、馬力も高くない、高高度でも機敏に動けない。」
「確かにそうだが・・・」
「それでも君は零戦を愛機としてる。俺はそれが嬉しいんだ。だから零戦で死なないで欲しい、零戦の操縦席は棺桶じゃないから・・・」
俺は立ち上がって二一型の主翼を擦りながらゆっくりと回りを歩いた。そしてイサカの方を振り向くと、イサカは俺の前に詰め寄ってきた。
「・・・お前も」
「ん?」
「私も死なないから、お前も・・・死なないでくれ。」
そう言うイサカは俺の袖を掴んで強く握りしめていた。俺は言った。
「ああ、約束だ。」
翌日 朝・・・
オウニ商会の荷物の受け渡し、受け取りを問題なく終え、帰りは俺たちの荷物をタネガシへと運ぶ形となった。荷物の積み込みを見届けるとすぐに出発した。しばらくは自分の部屋で荷物の整理をしていたが、昼ご飯を食べるためにサルーンへと向かった。
ジョニー
「いらっしゃい。」
ヤマダ
「あれ、今日はジョニーさんだけなんですか?」
ジョニー
「いや、彼女は今休憩してるだけだよ。何にする?」
ヤマダ
「俺は・・そうだな、カレーをお願いします。」
ジョニー
「イサカさんは?」
イサカ
「私はハンバーグを。」
ジョニー
「毎度どうも。」
そう言って俺とイサカは席に座った、するとイサカが話し始めた。
イサカ
「ヤマダ、ちょっと気になったんだが」
ヤマダ
「どうした?」
イサカ
「隼と零戦ってどっちのほうが強いんだ?」
ヤマダ
「ええ・・・難しいこと聞くなぁ・・・」
イサカ
「とりあえず隼一型と零戦二一型という条件でだが、ヤマダ的にはどう思う?」
キリエ
「そんなの隼に決まってるじゃん! あ、ジョニー、パンケーキ頂戴!」
ジョニー
「はいはい。」
コトブキの六人と、マリアさんとアンナさんが入ってきた。
マリア
「あらキリエ、それは聞き捨てならないわ?」
アンナ
「そうよ、隼三型ならともかく隼一型と二一型ならわからないわよ?」
キリエ
「そっか、マリアとアンナは零戦乗りだったね・・・」
ケイト
「ユーハングの文献によれば零戦のほうが若干性能が上。」
ザラ
「これは模擬空戦で確かめてみるしかないんじゃない?」
レオナ
「ザラ・・・だが誰と誰が飛ぶんだ?」
ヤマダ
「ストップ、レオナさんなんでやること前提なんですか?」
レオナ
「それはだってヤマダ・・・私も少し気になる・・・」
ヤマダ
「はぁ・・・」
エンマ
「模擬空戦の適任って誰なんですの?とりあえずキリエとチカは真っ先に除外ですわね・・・」
チカ・キリエ
「エンマひどい!」
エンマ
「貴女方には空戦が出来てもそのあとの報告が出来ないでしょう?」
チカ・キリエ
「ぐぬぬ・・」
アンナ
「ケイトはどう?空戦の腕もあるし報告もできるだろうし」
ケイト
「ケイトは問題ない。」
ザラ
「こっちは決まりね~。」
ヤマダ
「じゃあこっちは二一型の持ち主のイサカに出てもらおうかな・・?」
イサカ
「まあ言い出しっぺだからな・・わかった。」
そしてご飯を食べ終わると、ナツオに事情を説明し後ろのハッチを開けてもらった。イサカはケイトと模擬空戦の打ち合わせをしているので俺は二一型の点検をする。
操縦席に乗って発動機を回す前の一連の確認作業などを終えておく。向こうではケイトの隼が発動機を回していたので、俺はエナーシャハンドルをつなぎプロペラ回転半径内に人がいないのを確認しエナーシャを回す。回転数を普段より少しだけ高めに回し、主翼に前から登って操縦席に飛び乗りクラッチをつなぎ点火プラグスイッチを両位置へ動かす。
バラバラバラ・・・!!
発動機を回すと脚で操縦桿を巻き込みつんのめらないようにする。ラダー、エルロン、エレベーターを動かし動きを確認すると、打ち合わせを終えたイサカが歩いてきた。
「ありがとう、調子はどうだ?」
「ああ、発動機は好調だ。ただ公平を期すために後付けした水メタノール噴射装置のポンプ配線は抜いといたぞ。」
「了解だ。」
「武運を。」
そうして操縦席をイサカと変わり、チョークをはらって機体から離れる。この時たまたま発艦信号機が点検中だったので俺は赤と白の手旗を持って滑走路に駆けて行った。ケイトへはナツオが手旗で信号を出している。俺は手旗を頭の上で大きく振りタキシングを誘導する。ケイトが発艦したことと滑走路上に誰もいないことを確認すると手旗を自分の胸前で平行に振り「発艦許可」の合図を出し、俺も滑走路の端に退避した。
ゴォォォォォ…!!
栄一二型の発動機の唸り声とともに二一型の尾部が浮く。さすが艦上戦闘機なだけあり隼より少し早めに尾部が素早く浮くのだ。俺は首にかけていたタオルを振りイサカを見送った。残念ながら飛行船のハッチから空戦をすべて見るのはむつかしい。だがコトブキの面々、ナツオ達整備班、マリアとアンナ、そして俺は少しでも空戦機動を見ようと開いたハッチの後ろギリギリに座った。
ヤマダ
「さて、どっちが勝つかね~」
キリエ
「ヤマダはどっちが勝つと思う?」
ヤマダ
「う~ん、技量にものすごい差があるとは思えないから機体性能で勝負がつくだろうが・・・」
ナツオ
「ちょうどいい、ヤマダ。ここでこいつらに隼と零戦の差を説明してやってくれないか?」
ヤマダ
「ほんなら・・・ちょうどいいや。ケイトとイサカが上昇しだしたな。キリエ、零戦と隼の一番大きな違いはなんだ?」
キリエ
「えーっと・・・プロペラの枚数?」
ヤマダ
「そう、隼のほうが枚数が少なくて直径が小さい。空気をかく面積が零戦は隼のおおよそ1.5倍以上の差が出るんだ。プロペラが三枚になった隼二型以降でも直径が小さいから1.2倍くらいの差がある。これはすごく大きな差だ。あれを見てな」
イサカとケイトが並んで上昇する、しばらく上昇するがケイトはイサカに少しずつだが離されて行く。
チカ
「ケイトが離されてる!」
ヤマダ
「重量は隼のほうが圧倒的と言っていいほど軽い。この差はプロペラがかき出す空気の量の差なんだ」
するとイサカとケイトは急旋回を始めた。ちょうどいい
ヤマダ
「よし、隼と零戦の機首とラダーの動きをよく見てみな。」
キリエ
「零戦はラダーを小刻みに操作して機首を操作してるけど・・・隼はラダーの動かし方がほぼ一定・・・?」
ザラ
「あら、キリエ意外と洞察力があるのね~」
キリエ
「意外は余計だよ!」
ヤマダ
「ははは・・まあキリエ。大正解だ、主翼の面積や形は零戦と隼に違いはあれど性能に大きな差はない。だがラダーの面積は大きな違いだ。隼のラダーはすごく大きいから一定半径の旋回のときすごく有利だ。多分戦闘機乗りに分かりやすく言うと・・・すわりがいいっていうかな。」
レオナ
「確かに小刻みにラダーを動かした覚えはないな・・・」
急旋回を終えた二機は次に急降下に移った、そして機首を上げ二機が水平飛行にうつった。
ヤマダ
「よし、次は速度と胴体形状についてだ。隼と零戦の胴体形状の共通点は何かわかるかい?」
マリア
「後ろに向かって細くなってることかしら?」
ヤマダ
「そう、この形状は航空力学的にも正しいが決定的に違うところもある。隼は直線的に絞られているが零戦は紡錘形に絞ってあるんだ。ほら、ちょうど今二機が並んだからよく見てみてくれ。」
チカ
「ほんとだ!零戦のほうが丸っこいんだね!」
ヤマダ
「そう、これは零戦のほうが有利な形なんだ。プロペラ後流の抵抗を減らすには機体を後ろに向けて絞らなければいけないんだが、隼は少し絞りすぎた状態になってる。推力式単排気管を並べて気流を胴体からはがれにくくした隼二型後期以降ならともかく集合式排気管の隼一型と隼二型前期はそれが出来ない。胴体自体が生み出す抵抗は零戦のほうが小さいからそれが最高速の差につながってるんだ。」
そう言い終えると後ろについたイサカが緊急ブーストでケイトにグイっと近づく。するとケイトが逆G旋回を始めた、イサカは一瞬それに追従しようとするが。すぐにエルロンを動かし機体をひっくり返すと自分は正G旋回をするように修正し追いかける、感覚を狂わされずに追えるのはさすがだ。逃げるケイトを追うイサカという構図になっている、ケイトはエルロンを使って左右に機体をロールさせ追従を振り切ろうとするが、イサカはケイトに完璧に追従する。
レオナ
「珍しいな、ケイトが振り切れないなんて。ロールレートは隼のほうが高いはずなのに・・・」
ヤマダ
「あれは俺が零戦のエルロンをちょっと改良したんですよ。」
チカ
「え?それってずるくない?」
ヤマダ
「ちゃんと二一型についている機能だから大丈夫だよ、なるべくいい状態の戦闘機同士でやらないと意味がないだろう?」
エンマ
「で、その機能はなんですの?」
ヤマダ
「エルロンバランス・タブ だ、エルロンが動いた向きと逆向きにバランス・タブが動いてエルロンの操舵力を軽減する。主翼が長くロールレートが低い二一型のロールレートを少しでもましにしようと行われた対策だったんだ。」
アンナ
「私の二一型にはそんなのなかったわよ?」
ヤマダ
「ええ、二一型の127号機以降数機にのみ採用された機構ですから。これがちぎれ飛んだせいで二一型は墜落事故が増えてしまったんです。」
レオナ
「ええ?そんな機構で大丈夫なのか?」
ヤマダ
「はい、自分は二二型で用いられた取り付け部分が強化されているエルロンを用いましたから。」
ザラ
「自分の大切な妻を死なせるわけにはいかないもんね~?」
ヤマダ
「そういうことです。さあ、そろそろ二人が勝負を決めにかかってるようですよ。」
するとイサカがケイトをオーバーシュートした。
キリエ
「ああっ!イサカさんミスった!?」
ヤマダ
「いや・・・違うな。」
ケイトが後ろにつこうとした瞬間、イサカの機体は失速し左向きに落ちるような挙動を示す。そのまますぐ機体の体制を整えるとケイトの後ろにピタリと張り付いた。
エンマ
「勝負ありましたわね・・・」
チカ
「あの技何!?」
ヤマダ
「左ひねり込み」
キリエ
「何その技?」
ヤマダ
「カウンタートルクと零戦の失速特性を利用した高等技術だ、俺がイサカに教えたんだぜ。」
そうして俺はまた手旗を取り旗信号で着艦とタキシングを誘導する。機体が止まると俺は直ぐに操縦席に駆け上がった。
「イサカ、お疲れ様だな。左ひねり込み、見事だったぞ。」
「ありがとう。私も負けたらヤマダに申し訳ないと思って必死だった・・・」
「本当によく頑張ったな。ほら、」
俺はイサカを手で補助し零戦から下ろすと、操縦席に飛び乗り冷却運転とプラグのスス飛ばしを終え発動機をとめた。皆でとりあえずサルーンで事後報告をしようと言うことになりサルーンに集まった。
ケイト
「イサカ氏、今回は模擬空戦に協力してくれたことを感謝する。そして早速だが報告。旋回性能・急降下制限速度共に互角、上昇力と水平速度は零戦の方が有利。だがケイトが振り切ろうとしても振り切れなかった、イサカ氏の操縦技術に完敗だ。」
イサカ
「こちらこそ協力感謝する。そして報告だが私は隼の機首のすわりの良さに驚いた。零戦だと何度か修正舵を当てて旋回していたが隼は機首がとても安定していたし、これが実戦だったならそのすわりの良さで一瞬の射撃機会も逃すことは無いだろう。今回私が勝てたのは実戦ではなかったからだ。改めて礼を言う、本当にありがとう。」
そう言い合うと二人は握手を交わした。理詰めというか、誠実な二人だからここまで丁寧な感想を聞くことが出来たのだろう。
イサカ
「そしてヤマダ、お前にもこの場を借りて礼を言う。お前の完璧な整備のおかげでこうして思う存分に検証を終えることが出来た、本当にありがとう。」
ヤマダ
「よせやい、俺はイサカが不満なく飛べてりゃそれで十分なんだよ・・・」
ケイト
「ケイトもこの場を借りてナツオ班長に礼を言いたい。いつも正確で丁寧な整備、感謝する。」
ナツオ
「お世辞はいらねーよ、仕事だからな。」
そう言ってまた皆で部屋に戻り各々の時間を過ごした。幸い空賊の襲撃もなく無事にタネガシに到着し、荷降ろしと戦闘機の搬出も終えた。俺達はコトブキの面々に礼を言って別れを告げた。
ヤマダ
「マダムルゥルゥ、ドードー船長、サネアツ副船長、それに他の皆も、本当にお世話になりました。」
イサカ
「今回荷物の輸送を引き受けてくれたことは感謝している。またもし機会があればよろしくお願いしたい、我々も戦力として惜しみなく手を貸す。」
ルゥルゥ
「お疲れ様だったわね。また機会があれば内容次第だけど協力してあげるわ。」
レオナ
「コトブキ飛行隊としても礼を言う、君達ふたりがいてくれたお陰で空賊撃退が大分捗った。それに君達の腕を見て隊員たちの士気も多少は上がっただろう。また機会があればよろしく頼む。」
イサカ
「ああ。何時でもという訳には行かないが、予定さえ組んでくれれば手を貸す。本当に世話になった。」
ナツオ
「お前らは戦闘機の整備をある程度自分でやってくれたからこっちの負担がやたら増えなくて助かったぜ。ヤマダ、隼に乗りたきゃ連絡寄越しな。私の隼に乗せてやるよ。」
ヤマダ
「ありがとう。時間がありゃナツオもこっちに遊びに来な、歴代の零戦を見せてやるよ。」
ある程度の会話を終え、羽衣の出発時間になった。
俺とイサカは羽衣へ向け敬礼をし、見えなくなるまで見送った。
「さあ、帰るか。」
「ああ、そうだな。」
すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ヤマダーー!イサカーー!」
「しまった!イサカ、逃げろ!」
「なんで!?」
俺とイサカは走り出す。その理由は簡単だ。
「ヤマダーーっ!珍しい酒買ってきてくれたんじゃないんっすかー!?」
「忘れてたーーーーっ!」
「じゃあ居酒屋奢りの約束っすよねーーーっ!?」
よく走りながらあそこまで叫べるものだ・・・
「逃がさないっすよーー!?」
「銃はやめろーーーーーッッ!!!!!」
完