著 ヤマ
「だからいらないって言ってるでしょう・・・」
「そう言わずに!試乗だけでもしてみてください!」
「いりませんって。帰ってください。」
「今までにない速度を体験してみようとは思わないのですか?」
「思いません。ていうか体感したことあります。」
「ではなぜそんな旧型の戦闘機にこだわるのですか?」
「悪かったな旧型の戦闘機で!帰れ!!」
そう言って俺は販売員を追い返した。急に押しかけてきて人の愛機を貶すとはなかなか頭のおかしい販売員だったな・・・
そうして俺は組員の機体の整備を終えると、61-120の隣に腰を下ろした。
「えらくご立腹だったっすね~」
「さっきの男は誰だったんだ?」
「おお、幹部会は終わったのかい?」
「ついさっき終わったっすよ~ そこでなんっすけど、燃料とオイル分けてくださいっす・・・」
「はいはい。イサカ、さっきの男は震電改のバイヤーだよ。」
「震電改・・?」
「イケスカ動乱のときにイサオが乗っていたジェットエンジン積んだ震電だよ。」
そう言って俺はレミの五二型のオイルを抜くと、オイルを足した。そして抜いたオイルを一応確認する。今日は珍しくレミが使っているのは雲塗装の五二型ではなく61-121だった、しばらく動かしていなかったからか少しだけ金属片が出ているがこの程度だと問題なさそうだ。ついでに水メタノールも追加しておく。
「ふう、終わったぞ。」
「ありがとうっす~」
「今日はなんで61-121なんだ?」
「いや、なんとなくっす。」
「そ、そうか・・・」
そして俺は二人にコーヒーを渡すと格納庫の中の椅子に三人で腰を下ろした。するとイサカが聞いてくる
「ヤマダ、さっきの震電改の話、なんで話も聞かずに断ったんだ?」
「ジェット機を導入するメリットが薄いからさ。」
「そもそもジェット機ってどういう仕組みなんっすか?」
「えーっとな、ものすごく大雑把に説明すると・・・・
ジェットエンジンを横から見るとする。左側が吸気側、右側を排気側としよう。
まずはジェットエンジンの中には大小さまざまなタービン(羽根車)がついたでっかい軸があるんだ。まず左側から空気を吸い込むと、その空気は手前のタービンによって圧縮される。その圧縮された空気はエンジンの中心部分にさらに何枚かのタービンによって圧縮されつつ進んでいき、気化された燃料(主にケロシン)と混合され圧縮された混合気となるんだ、それがエンジン中央部分(位置に違いあり)にある燃焼室に入ると点火プラグによって着火され燃焼する。その際に生まれる燃焼エネルギーを後ろに噴出させ推力を発生させるのがジェットエンジンだ。ちなみにこれは軸流圧縮式っていう方式な。
・・・・って感じだ。」
「これのメリットはあるのか?」
「ああ、まず燃えるものなら何でも燃料にできる。」
「ある意味一番大きなメリットだな。」
「次にプロペラとかその他の装備が必要なくなるから軽量化できるし、外側を流線形に成形できるから空気抵抗も減少し結果的に速度が稼げる。プロペラ機とはけた違いの推進力を生み出せるからな。」
「いいことじゃないっすか~」
「ただし、これらは燃料を安定して供給できる環境と燃料を大量に買える財力あっての話だ。」
「ではデメリットを教えてもらおうか?」
「燃費が悪い。ジェットエンジンは雑に言ってしまえば大量の燃料を燃やしながら後ろに投げ出して前に進んでいるようなもんだ。レシプロエンジンとは段違いの燃料を食う。」
「まあ当然と言えば当然か・・・」
「もう一つはとても高い工作制度が必要なことだ。」
「どういうことっすか?」
「ジェットエンジンってのは、いうなればでっかい排気タービンだ。やってることは違うが内部構造は似ている点が多い。仮にタービンブレードがほんの少しでもぶれて回転していたとしよう。そのぶれは遠心力で増幅されタービンブレードはジェットエンジンの内壁に当たって壊れる。そうならなくても設計通りの推力を生み出せない。」
「ほえぇ・・デリケートなんっすね。」
「そういうことだ、うちにあんな大食いを運用する余裕はないし、俺はプロペラ機がいい!!いや、零戦がいい!!!」
「最後はお前の好みじゃないか・・」
「まあ、あたしもレシプロ機がいいっすかねぇ。そうだ、今からイヅルマまで飛ばないっすか?うまい酒があるらしいんっすよ~」
「いいな、行こう。」
「じゃあ私は戦闘機を取り換えてくるかな・・・」
「ゲキテツマークがあったら不味いもんな・・・AI-1-129か?」
「ああ、先に滑走路に出ていてくれ、すぐ出ていく。」
俺とレミはタキシングで先に滑走路に並ぶ。
ちなみに俺が決戦の時レミに作った五二型の尾翼番号、61-121は俺の61-120の連番だ。ただ俺の61-120は上面色がオリーブドラブに近い色なのに対し、レミの61-121は中島の暗緑色を忠実に複製した塗料で塗装してある。さらに言うと61-120は俺の好みでプロペラスピンナーが上面色でプロペラがレッドブラウンであるが、61-121はプロペラスピンナー/プロペラ共にレッドブラウンだ。そしてイジツではユーハングのラウンデル「日の丸」を施してある戦闘機はとても少ないのであるが、それを逆手にとって俺が整備する零戦は特殊な場合を除いて必ず日の丸を描いている。
暫く待っているとイサカのAI-1-129が格納庫から出てきた、手信号を確認し俺達はスロットルを開け離陸する。離陸し風防を閉めた瞬間に雨が降ってきた、曇り空へとすぐ変わってしまったので急いで編隊灯と室内灯を点灯させ無線でレミとイサカに状況を聞く。
「イサカ!レミ!寒くないかい?発動機に異常は無いかい?」
「大丈夫だ!ありがとう。」
「こっちも問題ないっすよ〜」
「了解、おかしくなったらすぐに言うんだぞ!」
「了解。」
「了解っす〜」
単座戦闘機にとって雨は大した脅威では無い。ただし「雨」が脅威では無いだけで、曇り空は大きな脅威だ。曇り空では平衡感覚も何もかもが失われるので、しっかりと計器類を確認しながら機体の直進を確認しながら飛行する。すると
ガンッ!ガンガンッ!
俺の61-120の翼端に何かがぶつかる音がした。すぐにそちらを向きエルロンを軽く操作してみたが壊れている様子はない。キツネに包まれたような気持ちでイヅルマに向けて雲の中を飛行を続ける。高度を上げて雲の上に上がればいいのだが、イサカのAI-1-129の過給器は一段一速であるのでなるべく高度はあげたくない。しばらく飛行していると
シュンシュンシュン!
俺の目の前を曳光弾が通り過ぎ、目の前をケツから火を吹く砲弾のような機体が通過した。
「震電改だ!!イサカ、レミ、離脱するぞ!」
俺は大きくバンクを振り7ミリ7機銃を完全装填し試射しつつその空域から離脱する。三機編隊を崩さないよう三人で離脱し、敵を探す。右前の空に30ミリ機銃の銃身が光った、敵だ。俺は機体をひっくりかえし射線から機体をずらす。
「ムカつくエンテ翼見せてくんじゃねえよ!」
高速離脱する震電改にテイルスライドで機首を向けると機銃のトリガーを引いた。
ダダダダッ!!
「チッ!当たらねえか!」
「ヤマダ!ジェットに追いつくのは無理だ!雲に紛れて離脱するぞ!」
「そうっすよ!早く編隊灯を消すっす!」
「向こうには簡易的なレーダーがついてた!雲に紛れてもなんの意味もねえ!」
「そんな・・・じゃあどうするんだ!?」
「どうするってったって・・・」
このままグズグズしていると30ミリ炸裂弾で主翼だか胴体だかを木端微塵のされるのは時間の問題だ。その時俺はさっき翼端に感じた衝撃を思い出した、もうかけるしかない。
「イサカ!レミ!編隊灯をつけて風防をしっかり閉めろ!」
「何する気っすか!?」
「賭けだ!」
そう言って俺は機首をさっき来た方向に向ける。後ろ、前、上、下、全神経を研ぎ澄ませて敵機が来るか注意しておく。
「頼む・・・頼む・・・!」
祈りながらスロットルを開け飛び続ける。後ろを見た瞬間、遠くの空にジェットが噴出するアフターバーナーの光が見えた。
「ヤマダ!お前の後ろにいるぞ!」
「イサカ!レミ!逃げろ!」
「でも!」
「早く!!!こんな所で得体の知れない戦闘機に撃墜されて死にたいのか!?」
「ふざけたこと言ってんじゃないっすよ!あんたの後ろに着いて三機小隊組んでるって事はあんたの背中を守るってことっす!あたしらは離れないっすよ!」
「レミの言う通りだ!策があるのなら早くやれ馬鹿者!」
「あんたら・・・」
すると俺が待っていた音が聞こえてきた。
ガンッ!ガンガンッ!ガンッ!
「しめた!」
それと同時にまた震電改が突っ込んできた、ラダーを蹴っ飛ばし射線を回避する。レミとイサカも上手く回避する、また震電改が俺達の前をかすめ急降下で絞っていたスロットルを開けアフターバーナーの光が強くなる。次の瞬間
ガッ!!
という音と共にアフターバーナーが消え、震電改は降下して行った。それを見届けると俺達はヒョウの雲を抜けた。
「ふぅ・・・とんだ災難だったな。」
「ヤマダ、賭けってこのヒョウの中に飛び込むことだったんっすか?」
「ああ、ジェットエンジンはヒョウに強くないからな。」
「そうなんっすね・・・」
「ヤマダ!」
叫んだのはイサカだった。
「私はお前が怪我していなかった時すごく寂しかったんだぞ!もう私はお前から離れないからな!・・・頼むからもう私を一人にしないでくれ。」
「悪かったよ・・・すまなかった。」
「ほんっとバカ夫婦っすね・・・ところでヤマダ、なんでジェットエンジンはヒョウに弱いんっすか?」
「ジェットエンジンに必要なのは燃料・空気・熱だ、さっき震電改は急降下の為にスロットルを絞ってヒョウの中に飛び込んできたろ?これによってエンジンはアイドリング状態になって、エンジン自身で熱を生み出せなくなったんだ。このせいでエンジンの推力は失われてエンジンが止まったんだよ。ヒョウの中は雨より寒いからな。」
「だがさっきのガっ!っていう大きな音はなんだったんだ?」
「多分吸気側から吸い込まれたヒョウがタービンブレードを壊したんだろう。ジェットエンジンはレシプロエンジンと比べてデリケートだからな」
「なんかいいのか悪いのか分からないっすね・・・」
「環境が整ってればいいエンジンだけどな、やっぱり俺は零戦が良い。」
そう言っていると俺達はイヅルマの飛行場に到着した。幸いイヅルマでは雨が止んでいたので、冷却運転を終え発動機を止めて機体から降りる。念の為全員の機体を簡単に点検したが、異常は無い。
すると滑走路に派手な塗装の六機の紫電が降りてきた、カナリア自警団だ。伸縮構造の主脚を出し綺麗な三点着陸で滑走路に接地する、翼面荷重が高くて機首が重く前方視界がしこたま悪い紫電で着陸を綺麗に決めるのは容易ではない。
「イヅルマの自警団じゃないか。見事な三点着陸だな」
「俺も紫電であそこまで綺麗に着陸できる自信はないぜ・・・」
そして街に向けて歩いて行こうとしたら、駐機を終えたイヅルマ自警団がこちらに向けて歩いてきた。
リッタ
「ヤマダさん!お久しぶりです!覚えてくれてますか?」
ヤマダ
「リッタさん。ご無沙汰ですね、よく覚えていますよ。」
アコ
「イサカさん、お久しぶりです。」
イサカ
「久しぶりだな。団長。」
シノ
「レミ、久しぶりね!」
レミ
「シノさんじゃないっすか〜、久しぶりっすね〜」
アコ
「地獄に仏とはこのことです。皆さんのような助っ人が欲しいと思っていたんです、話だけでも聞いていただけませんか?」
ヤマダ
「何かあったんですか?」
リッタ
「それがですね・・・」
エル
「立ち話もなんですし、私達がいつも紫電を止めている格納庫に移動しませんか?」
アコ
「それがいいですね、皆さん着いてきてください!」
イサカ
「ヤマダ、また面倒事に巻き込まれたんじゃないか、これ・・・」
ヤマダ
「迂闊に興味を示すような返事をするもんじゃないな・・・」
レミ
「酒が離れていくっす・・・」
そうして俺達はカナリア自警団の格納庫へと案内された、どうやらカナリア御一行は俺たちの機体を見つけてわざわざ着陸してきたらしい。まさにとんでもないタイミングでイヅルマに来てしまったわけだ・・・
タキシングで格納庫の中へ進み紫電の横に零戦を止める。紫電は零戦の実質の後継機となってしまった局地戦闘機で、カナリア自警団が用いている紫電一一型は大馬力の誉発動機を搭載し、20ミリ機銃を翼内に二門、ガンポットとして翼の下に二門装備している。比較的高翼面荷重の迎撃戦闘機であるが、自動空戦フラップを装備し雷電よりも身軽な身のこなしで活躍した、欠点を改善した紫電二一型、通称紫電改が有名すぎて影が薄いが、紫電も立派な名戦闘機だ。
アコ
「突然本当にすみません。実は今イヅルマ全体が6機の震電に襲われているんです、私たちも必死で応戦しているのですが紫電や雷電などの戦闘機では速度が足りなくて追い払う程度はできても撃墜までいけないのが現状なんです。」
ヘレン
「すごく速かったよね~」
リッタ
「私たちも必死に戦闘機を整備して応戦しているのですが、私たちの専属だったジノリさんが長期出張に出てしまっていて整備の手も足りていないのが現状なんです。私とエロガキだけでは半日で六機もさばききれません・・・」
ヤマダ
「エロガキ・・?」
シノ
「自警団として情けないけど、性能が足りなくて迎撃できないというのは事実・・・何とか手を貸してもらえないかしら・・・」
レミ
「どうするっすか~?」
ヤマダ
「俺はいいぜ、イヅルマで何かあったら部品の供給が止まるしな・・・」
イサカ
「仕方ない・・・燃料代はそっちで持ってもらうぞ?団長」
アコ
「・・・ありがとうございます!」
ヤマダ
「だがちょっと待って下さい、紫電や雷電でも追いつけ無い様な震電に俺らの零戦がどうやって追いつけって言うんですか?」
アコ
「長い航続力を活かしてイヅルマに来る輸送機等の着陸、離陸を援護して欲しいんです。やはり援護されて離着陸できる方が心強いでしょうから。飛んで頂きたい時は私から連絡させて頂きますので・・・」
イサカ
「そういう事か・・・」
レミ
「ってことは空戦が長引くことも考えて増槽が欲しいっすね・・・」
ヤマダ
「ちょーっとまて、紫電の増槽って四点支持式木製増槽だぜ?俺たちの零戦の増槽は一点支持式アルミ増槽だ、四点式は懸吊できない。」
イサカ
「確かに・・・どうにかならないか?」
ヤマダ
「いやまあパネルを取り換えたら懸吊出来るが・・・まあとりあえず増槽なし燃料満載で上空哨戒してみよう、それで不備が出てきたらまた考えればいい。」
アコ
「すみません・・・とりあえず私とエル、ミントさんは部長にこのことを報告してきますのでリッタさんシノさん、ここの格納庫を案内してください。ヘレンさんはおやすみなさいですね。」
リッタ
「わかりました!ヤマダさん、皆さん、行きましょう。」
そうして俺たちは格納庫の奥のほうへ案内され、どこに何があるかなどを説明された。工具類は自由に使っていいそうだ、寝床などはここのそばの宿泊施設を貸してくれるそうで、まず不自由はない。するとレミが話しかけてきた
レミ
「ヤ~マ~ダ~、ひとっ走り酒買ってきていいっすか~?」
イサカ
「ヤマダ、私も組に電報を入れてきてもいいか?しばらく帰れなさそうだしな・・・」
ヤマダ
「わかった、またここに戻て来てくれな。」
そう言ってレミとイサカは町のほうへと歩いて行った。するとリッタさんが話し始める。
リッタ
「まさかヤマダさんたちと共同任務になるとは思いませんでした!」
ヤマダ
「私もです、よろしくお願いしますね。」
シノ
「ヤマダ、あなた普通の話し方にしなさいよ、ここの人間はみんなあなたより年下か同い年よ?」
リッタ
「自分もそうしてくれたほうが気楽でうれしいです・・」
ヤマダ
「そうか・・?」
すると奥から少年が走ってきた
ハヤト
「リッタさん、やはり貴女の紫電の調子がどうもよくないんです・・・」
リッタ
「治りませんか・・・どうしよう」
ヤマダ
「リッタ、紫電見てみてもいいか?」
リッタ
「ぜひお願いします!」
ハヤト
「俺でもわからなかったんだぜ・・?」
シノ
「まあ貴方は黙ってみてなさい。」
そうして俺はリッタの紫電のカウリングを外し発動機の外観を確かめた。馬鹿みたいだがこういうわかりやすいところを見落とす可能性は高い。だが今回は外観に異常はなかった、これは実際に動かしてみるしかないか・・・
ヤマダ
「リッタ、紫電の発動機を回してみてもいいか?」
リッタ
「それで原因がわかるならお願いします!」
ヤマダ
「あんまり期待せんでくれよ・・?」
そうして俺は紫電の操縦席に乗る、紫電はまだ火星発動機搭載用のスペースを用いており操縦席は意外に広い。風防を全開にしリッタに合図を送る。
ヤマダ
「整備員前離れ!メインスイッチオフ!エナーシャ回せ!!」
少し重い回転音とともにエナーシャスターターの回転が上がる。
リッタ
「クラッチつなげー!!」
おお、ここだとコンタクトと言わないのか。メインスイッチを両位置へと移動させスロットルを開けると発動機が回る。栄より少し重い回転音を響かせ発動機がアイドリングする。よく耳を澄ませるとどうも吸排気タイミングと点火タイミングが合っていないようだ。吸気が遅いので十分に圧縮されず排気が早いので爆発できる混合気が外に吐き出されてしまう。風防から顔を出し排気管を見るとほぼ火炎放射器だ。これは・・・大体見当がついたので発動機を止めた。
リッタ
「どうでしたか・・?」
ヤマダ
「発動機を下ろそう、これは機体につけたまま修理できる内容じゃない。」
ハヤト
「何だったんだ?」
ヤマダ
「多分プッシュロッドを押すカムが削れてるんだ。吸排気バルブの開閉タイミングがおかしいし開き方が十分じゃない。ハヤト、君を疑うつもりは全くないが本当に全部確認したかい?」
ハヤト
「いや、発動機を下ろすまではしてない・・・」
ヤマダ
「大変な作業だもんな。だがな、戦闘機の異常は搭乗員が一番早く気付く。それを早く取り除いてやるのが整備士の仕事だ、いいかい?今後こういうことがあったら絶対に完全に修理が終わるまでは出撃させないでくれ、整備士が搭乗員を殺すなんて嫌だろう?」
ハヤト
「わかった・・」
ヤマダ
「よし。だがな、ちょっとスロットルを操作しただけだが君の熱意は伝わってきたぞ。スロットルワイヤの張りは完璧だったし機内もよく整備されてる。これからもがんばれよ。」
シノ
「それにしてもヤマダのとこは始動前の掛け声も違うのね・・」
ヤマダ
「そうなのか?」
シノ
「ええ、私たちだと。前離れ、スイッチオフ、回せ、ってだけだからね。ちなみにクラッチつなげはなんていうの?」
ヤマダ
「コンタクト、それかコンタークだな。」
そうしているとリッタが発動機を下ろす準備を終えてくれていた。四人で協力して発動機を下ろし完全に分解する、そうこうしているとイサカ、レミ、そしてアコが帰ってきた。
レミ
「早速やってるっすね~」
イサカ
「発動機の不調か?」
ヤマダ
「ああ、けどこの発動機すげーぞ。中身がめちゃめちゃきれいだ、大切にされてる証拠だな。」
そうして完全に分解した発動機の部品の中からカムプレートを取り出しリッタとハヤトに見せた。
ヤマダ
「ほら、ここの山が若干削れてる。こうなったら交換しないといけないが・・・替えの部品はあるか?」
アコ
「それが・・・今部品の納品が遅れていて部品がないんです・・・」
ヤマダ
「まさか発動機の不調のままで出撃してた理由って・・・!」
リッタ
「それが理由です・・・すみません。」
ヤマダ
「弱ったな・・・ん?」
俺は格納庫の奥で埃をかぶっている発動機を見つけた。どうも見覚えがある。
ヤマダ
「リッタ、あそこに転がってる発動機は?」
リッタ
「え・・?ああ、あれは栄ですよ。ここだと誉とか火星ばかりだから使い道がなくて・・・」
ヤマダ
「いや、もしかしたら・・・!」
前に大きく張り出したプロペラ減速室から栄二〇型以降なのはわかっていた。俺は銘板部分の埃を手で払う、だが銘板が削れてわからない。なのでシリンダーの間に手を突っ込みシリアルナンバーを探す。くぼみを見つけそこを指で擦り埃を拭い取りシリアルナンバーを読む。
No.315561
しめた!そうして俺はリッタ達の元へと戻って行った。
リッタ
「ヤマダさん、どうしたんですか?」
ヤマダ
「リッタ、あの栄をバラすぞ!」
イサカ
「待て待てヤマダ、誉と栄に何の関係があるんだ?確かに同じ中島製の発動機だが栄は十四気筒、誉は十八気筒で気筒数から何から何まで共通点は無いだろう?」
ヤマダ
「あるんだよ、それが。」
そうして俺達は栄を分解する、イサカも前に一一型をバラしたからか中々手馴れた手つきで作業を手伝ってくれた。レミもせっせと工具を手渡してくれる。さっきの誉とおなじように完全にバラバラにすると、俺はまたカムプレートを取り出し誉のカムプレートと合わせた。
リッタ
「同じ・・・?」
ヤマダ
「そう、栄三一型からはプロペラ減速室の一部とカムプレートを誉と共通品に変えられてんだ。これを使おう。」
そうしてカムを取り替え、発動機を組み直す。オイルなどを入念に巡らせクレーンで発動機をつって機体に組み付けた。スロットルワイヤを張り直し各種配管を接続する。試運転ができる頃にはもう夕方になっていた。
ヤマダ
「やっと試運転できるぜーー」
レミ
「酒酒酒ーー!」
イサカ
「お疲れ様だな、ヤマダ。にしてもお前は毎度毎度発動機をばらしてる気がするんだが・・・」
ヤマダ
「気の所為・・・気の所為だよな?」
そうしてまたリッタに声をかける。
ヤマダ
「リッタ、お疲れ様だな。」
リッタ
「ヤマダさんの方こそ、本来は自分がしなくてはいけないんですが手伝いまでしていただいて本当にありがとうございました!」
ヤマダ
「気にするな、俺だって半分趣味みたいなもんだ。さ、、乗りなリッタ、試運転やるぞー」
リッタ
「え?自分がやっていいんですか!?」
ヤマダ
「ああ、君の紫電だろ?こいつの元気な声は、君が一番よく知ってるはずだ。」
リッタ
「ありがとうございます!」
そうしてリッタは操縦席に乗る、俺はエナーシャを持ち合図をする。
ヤマダ
「いいぞー!」
リッタ
「前離れ~!スイッチオフ、回せ~!」
紫電のエナーシャスターターはとても重い、思い切り力を込めて回し回転が上がってからハンドルを抜き取り叫ぶ
ヤマダ
「コンタクト!!」
カチッ・・・バラバラ・・バラッバラッ・・・
音が途切れがちだ・・・また別のところか・・?
バラッバラッ・・・バラバラバラ!!!!
リッタ
「やった・・やったあ!!」
ヤマダ
「ふぅ・・・燃料が回りきってなかっただけかぁ」
誉は十八気筒、栄の十四気筒より四気筒多く直径が太い。栄よりも重い音がするが抜けのいい爆発音は共通だ。寿発動機からの流れをくむ中島の傑作発動機の一つである。
イサカ
「やはり音が違うな。栄のほうが軽く回ってる気がする。」
レミ
「アタシは栄の音のほうが好きっすかね~」
ヤマダ
「一応誉も寿発動機からの流れをくむ中島の名発動機だぞ。寿→栄→誉って感じの流れだ。」
イサカ
「この前五四型や六四型に積んでた金星発動機は中島じゃないのか?」
ヤマダ
「あれは三菱の発動機だな。ちなみに十二試艦上戦闘機の一/二号機に搭載された瑞星発動機、紫電の兄貴分にあたる水上戦闘機強風に搭載された火星も三菱の発動機だぞ。」
レミ
「零戦は三菱なのに中島の発動機を積んだり中島で生産されたり、やたら中島にベッタリっすね・・・あそうだ、皆さんお酒どうぞっす〜」
ヤマダ
「ああ、それには理由があってな・・・ってレミ!待て!!」
俺は止めたが遅かった、作業を終え気が緩んだイサカ、アコ、リッタ、シノがレミが勧めるようなつよーい酒を飲めば次に起こることなんて決まっている。幸いリッタとシノは寝るタイプの人だったが・・・
アコ
「ちょぉ〜っと長く飛べるからなんだって言うんれすかぁ〜?長く飛べれば偉いんれすかぁ〜?ひっく」
ヤマダ
「アコ!?ちょっと落ち着け・・・」
アコ
「じゃあれれすか!?長く飛べれば良いってんなら戦略爆撃機なんかすごーーい偉いことになりますよね!?深山とか!!!どかーん」
イサカ
「だいじなのは、航続力なんかよりも旋回性能だぞ〜」
アコ
「そうれす!素早い身のこなし!そして、いちごパンツ!どうぇぇ・・・」
レミ
「意味わかんないこと言ってる人はほっといて、ヤマダももっと飲むっすよぉ〜?」
ヤマダ
「いらねえよ!俺はカルピスチューハイかユーハング酒しかのまねーの!」
イサカ
「ヤ〜マ〜ダ〜、ね〜え〜」
ヤマダ
「イサカ!?大丈夫かよ・・・!?」
レミ
「イサカいい飲みっぷりっすね〜?」
ヤマダ
「アホか!のーまーせーるーなーーー!!」
イサカ
「ひっく・・・ヤマダぁ・・・」
ヤマダ
「あーーもう!何だ!?」
イサカ
「また・・・レミとお前と私とで一緒に飛ぼぉ・・・? 三人で話しながら・・・飛びたぁい・・・」
ヤマダ
「わーかった!わかったよ!約束な?」
イサカ
「うん、やくそく・・・」
レミ
「それほんとっすかぁ・・・?楽しみっすねぇ・・・」
ヤマダ
「もーーーう!君ら酔ったら寝る癖やめろお!!!」
アコ
「ヤマダさんもそう思いますよねぇ・・・?」
ヤマダ
「旋回性能とかより見た目のカッコ良さだ。」
リッタ
「やっぱり紫電ですよねぇ??」
ヤマダ
「いーやそこは譲れねえ、何がなんでも零戦五二型!」
イサカ
「何を言ってるんだァ・・・零戦二一型に決まってるだろう!?」
レミ
「イサカこそ何を言ってるんっすかぁ・・・ヤマダの言う通り五二型に決まってるっすよォ!」
アコ
「いちごパーーンツ!!!!!」
そうして格納庫の地べたで寝てしまった皆に毛布をかける。さすがに全員を宿舎に運ぶのは無理だった・・・そうして俺だけが宿舎で寝るのもお門違いだと思い俺も毛布を持ってきて地べたで寝た。イサカの横に腰を下ろすと、イサカが酔って赤くした頬のままこちらを向いて俺の腕を掴んできた。場所はともかく幸せな事だ、そのまま寝転び目を閉じた。
「あゝ・・腰いてぇ・・・」
そうして俺が目を覚ましたのはやはり格納庫の地べただった。当たり前だが・・・イサカを軽くゆすり起こす。
イサカ
「ん・・んあ・・・ヤマダか・・」
ヤマダ
「大丈夫か?体冷えたらいけんから毛布は持ってな。おーいレミ、起きろー!」
レミ
「んん・・おはようございますっす・・・」
そうして二人を起こし格納庫の外に出たが・・・・
ゴォォォ・・・・!!!!!
普通に飛ぶような高度とスロットルの開度ではない。この音は・・・ベンツ系統か?もう一機居る、この音は・・・jumo213!? そうして見上げるとメッサーシュミット一機と長鼻のドーラが一機こちらに向けて急降下してきた。
ヤマダ
「格納庫に入れ!!伏せろ!!!」
イサカ
「なんだ!?」
レミ
「どうしたんっすか!?」
ヤマダ
「いいから!!」
そう言って俺がレミとイサカを格納庫の中へ押し倒し自分も倒れこんだ瞬間・・・
ガガガガガガッ!!!!
二機が機銃を叩き込んで来た。機銃を一通り撃った二機は一度大きく距離を取る・・・というか少し離れた格納庫へ向け機銃掃射するため遠くに離れてゆく。
ヤマダ
「カナリア!!!早く起きろ!!」
アコ
「何ですか今の音!?」
ヤマダ
「説明は後だ!紫電を出せ!!俺たちも出る!!」
そう言って俺は61-120に飛び乗った、発動機を回し急いで滑走路に出る。さっきの機銃掃射を聞いてか滑走路ではほかの自警団の雷電や紫電が出撃しようとしているが、朝イチでオイルが下のシリンダーにたまり発動機がなかなか回らないようだ。俺がタキシングで一番近い滑走路に出ると、整備員が話しかけてきた。
整備員
「この滑走路は舗装されてないうえに短いぞ!向こうの滑走路を使え!」
ヤマダ
「何クーリルだ!!」
整備員
「はぁ!?」
ヤマダ
「滑走路有効長は何クーリルだ!?」
整備員
「約120クーリルだ!」
ヤマダ
「十分だ!!」
俺は後ろについているイサカとレミに手信号でここの滑走路を使うことを伝え、三人で三機編隊を組み離陸準備をする。
整備員
「ここを使うのか!?」
ヤマダ
「ああ、早く他の自警団の整備に行ってやれ!上空は守っておいてやる!!」
整備員
「ど・・どうなっても知らねえぞ!」
そうしてまた大きく風防から手を出し手信号で空母発艦のやり方をすることを伝える。地上では発動機の音が非常にうるさく無線がほとんど使えないのだ。後ろを振り向き了解の手信号を確認するとブレーキを思いっきり踏み込んだ。操縦桿を脚で巻き込みスロットルを半分くらいまで開ける、発動機の回転数が2000回転くらいになったのを確認するとブレーキを解除する。ラダーを踏み当て舵を当て直進を保ちつつ尾部を持ち上げていく、速度が50キロクーリルを超えたら操縦桿を引き離陸する。零戦は艦上戦闘機なので100クーリルもあれば離陸できる。三機編隊を維持しつつ無線を使って二人に呼びかける
ヤマダ
「二人とも!メッサーとドーラは旋回戦に弱いがロールが早い、速度も速いから高度有利を取るぞ!!」
イサカ
「わかった!」
レミ
「お、カナリアの連中が離陸してきたっすよ~」
俺たちの三機編隊の横でカナリア自警団が六機編隊を組む、大きくバンクを振って手信号で無線をそろえるように合図する。
アコ
「私たちはほかの自警団の離陸の安全を確保するために上空哨戒をします、ヤマダさん達は迎撃をお願いします!」
イサカ
「了解だ!」
ヤマダ
「機影だ!300クーリル先!!上から突っ込んでくるぞ!」
俺たちは滑走路の上からそれて荒野の地帯に移動すると、上から突っ込んでくる二機の射線をかわす。
ガガガガガッ!!ガガッ!!!
ドーラもメッサーもプロペラ軸に沿ってモーターカノンが搭載されている。口径がでかいので当たったらたまったものではない、
レミ
「どうやって撃墜するんっすか~?」
ヤマダ
「離脱した後の切り返しを狙う。」
レミ
「了解っす~、ヤマダ、ついていくっすから墜とされるんじゃないっすよ!」
ヤマダ
「誰に向かって言ってんだ~、行くぞ!!」
離脱した二機を目で追う、地表にそこそこ近いがまだだ、もう一度高度を取り突入してくる二機を避ける。モーターカノンの発射音はほんとに恐ろしい。二機が横を通過した瞬間にフラップを少し出し操縦桿を明一杯ひきつける。
ヤマダ
「うおおおおおお!!」
Gで失神しないように声を出しながら旋回する。機首を逆に向け離脱していく二機を追うが、ここでは撃たない。回避機動で失ったエネルギーを回復させつつ二機が機首を上げる瞬間を待つ。
ヤマダ
「今だっ!!」
ダダダダッ!ダダッ!!
機首上げ動作をワンテンポ遅れて行ったドーラに狙いを定め機銃を打つ。胴体後部燃料タンクに当たったが火は吹かない、撃墜はならなかったが離脱していった。それに続くようにメッサーも離脱していく。航続距離が短いメッサーとドーラだから燃料タンクをやられたら長く空戦はできないのだろう・・・
イサカ
「ヤマダ、あの二機は?」
ヤマダ
「恐らくだがメッサーシュミット BF109-fとフォッケウルフ FW190 D-9」
イサカ
「聞いたことない・・・ユーハングの機体ではないな?」
ヤマダ
「ああ、とりあえず帰ろうぜ・・・寝起きの空戦は疲れるよ・・・」
レミ
「お疲れ様っすね~」
そうして上空哨戒をしていた自警団の戦闘機に大きくバンクを振って合図をすると、俺たちは着陸して格納庫に戻る。いつも通り冷却運転を済ませメインスイッチを切った。操縦席から降りてイサカとレミと話す。
ヤマダ
「二人ともお疲れさん。」
イサカ
「お前こそお疲れさまだな、それに昨日はすまなかった。」
ヤマダ
「ん?何が?」
イサカ
「私たち、また酔いつぶれていただろう・・・?」
ヤマダ
「ああ、気持ちよさそうに寝てたぜ。」
レミ
「言わないで下さいっす・・・」
イサカ
「しかもお前気を使ってか私達と同じ場所で寝ていただろう・・・?体は大丈夫か?」
ヤマダ
「気にすんな。今日はちゃんと宿舎の布団で寝ような?」
イサカ・レミ
「・・・うん」
そうして朝イチから無理をさせた零戦のオイルを足して燃料を補給した。タイヤを足で押し空気圧をしっかり確認すると、車止めを置いた。
レミ
「ヤマダ〜、ドタバタしてもう昼に近いっすけどご飯食べに行かないっすか?」
ヤマダ
「いいな、どこに行きたい?」
イサカ
「ビフテキが食べたい・・・」
ヤマダ
「よし、ビフテキ屋行くかぁ〜」
・・・食後
イサカ
「いやー、美味かったな。」
レミ
「やっぱりビフテキには赤ワインっすよね〜」
ヤマダ
「肉が分厚くて美味かったな〜」
ご飯を食べ終えて格納庫に向かって歩いていると、市営駐機場のそばで急に声をかけられた。
???
「すみませーーん!!さっきここの上空で空戦をしていたパイロットを探しているんですが・・・」
イサカ
「ヤマダ、私たちの事じゃないか?」
ヤマダ
「多分な・・・」
レミ
「どうしたんっすか〜? 見たところ記者みたいっすけど」
???
「はい、私さすらいの事件記者サクラと申します。先程イヅルマ上空で空戦をしていた零戦のパイロットを探してるんですが・・・」
ヤマダ
「俺達だ。何か用かい?」
サクラ
「貴方達でしたか! いやー見事な空戦でした、是非取材させて頂けませんか?」
ヤマダ
「すまないが俺達はそういう柄じゃないんだ・・・失礼する。」
サクラ
「そんな事言わないで〜!!お願いします、ちょっとだけでいいんです!」
そうして格納庫へ向けて歩いて行くがサクラは離れる気配が全く無い、結局俺たちが戦闘機を止めている格納庫までついてきてしまった。
サクラ
「お願いします!ほんの少し記事を書かせていただくだけでいいんで・・・す・・・」
ヤマダ
「遠慮するっていってるじゃないか・・・ん、どうした?」
サクラ
「AI-1-129で二一型・・・61-120で五二型・・・間違いない!! 貴方ヤマダさん、隣にいるのはイサカさんとレミさんですよね!?」
ヤマダ
「ああそうだ、だが何で知ってるんだ?」
サクラ
「この前ロイグさんと会った時に聞いたんですよ、なるほど〜貴方なら空戦でメッサーとフォッケを撃退するのも納得です・・・」
イサカ
「そういう事か・・・変な縁もあるものだな。」
ヤマダ
「はぁ〜・・・で、何を答えればいいんだ?」
サクラ
「は?」
ヤマダ
「・・・取材だろ?」
サクラ
「そうだそうだ!えーっとですね・・・まずヤマダさんは何者なんですか?」
ヤマダ
「整備士だ。」
サクラ
「いやいや、あんな空戦の腕があるのにパイロットじゃないって言うんですか?」
ヤマダ
「ああ、俺は別に空戦の腕で稼いでるわけじゃないからな。」
サクラ
「はぁ・・・あ、しまった!他の予定があるの忘れてた・・・また伺っても良いですか?」
ヤマダ
「まぁ・・・わかったよ。」
サクラ
「ありがとうございます!ではまた!」
そう言ってサクラは去っていく、騒がしい奴だった・・・そうして61-120の機体に付いた油汚れを拭き取ろうと機体の下へ潜るとイサカとレミが居た。姿が見えないと思ったらこんなところにいたのか。
ヤマダ
「びっくりした、何やってるんだ?」
イサカ
「お前が何時もやってるから、たまには手伝おうと思ってな。それにしても五二型は下面の排気汚れが特に酷いな。」
レミ
「けどあたしの61-121とか雲塗装だとここまで黒いスジは入ってないんっすよね、なんでヤマダの61-120だけこんな派手に汚れてるんっすか?」
ヤマダ
「そりゃこれのせいだな」
そう言って俺はエンジンカウリング下側から突き出た四本の排気管を軽く叩いた。
レミ
「あれ?四本のうち三本の排気管が長いっすね?」
ヤマダ
「流石五二型を愛機にしてるだけあるなレミ、その通りだ。こいつの下部排気管四本のうち三本は初期の五二型の排気管を使ってる。これはタイヤ焼損の原因になるってんで改良されて、レミの61-121とかみたいな短い排気管に変わったんだ。」
イサカ
「タイヤ焼損って・・・大丈夫なのか?」
ヤマダ
「タイヤの空気圧をちょっとだけ低くして、排気管の排熱で丁度いい空気圧になるように調整してんだ。だからバーストとかは今まであったことは無いな。それにこの排気管はちょっといい事があるんだよ」
レミ
「いい事ってなんっすか?」
ヤマダ
「最高速度が短い排気管より1〜2クーリルくらい速くなるんだ。あと発動機を回した時白煙が派手に出るからかっこいい」
イサカ
「なんで速くなるんだ?」
ヤマダ
「推力式単排気管ってのは、排気ガスを後ろに直接排気してロケット効果を得るっていう風に説明されるよな?」
レミ
「そうっすね。」
ヤマダ
「それも確かにそうなんだが、もうひとつ大きな効果がある。排気ガスを後ろに流すことで機体の僅かな段差で出来る空気の渦を後ろに吹き飛ばして抵抗を減らしているんだ。」
イサカ
「小さな空気の渦ってのはそんなに不味いものなのか?」
ヤマダ
「ああ、その空気の渦は機体を後ろに引っ張るからな。それでこの長い排気管が効いてくるんだ。61-121の排気管を見てみな。」
そう言って俺は61-120の隣に止めてある61-121の下に潜り排気管を指さす。
レミ
「明らかに短いっすね〜、あとほぼ下向きに排気してる?」
ヤマダ
「そう、この排気管の角度だと二一型とかと同じような角度で排気が下に出ていくんだ。次に61-120の排気管な」
また61-120の下に戻る。
イサカ
「よく見ると長いだけじゃ無いな、機体下面に流す様に成形されているんだな。」
ヤマダ
「やっぱり二人ともそういう観察眼をしっかり持ってるな。その通りだ、この長い排気管は機体下面にも排気を流す形になってるんだ。本当に僅かだがこれのおかげで最高速が上がる。」
そう言って話していると、リッタが走ってきた。えらく慌てている。
リッタ
「ヤマダさーん!!」
ヤマダ
「どうしたリッタ?」
レミ
「汗だくじゃないっすか、ほらこれでふくっす。」
イサカ
「だ、大丈夫か?」
リッタ
「ありがとうございますレミさん、大丈夫です・・・それよりヤマダさん!早くこっちに来てください!すごい戦闘機が!!」
そう言われるがまま格納庫の裏にある荒野をしばらく行くと、着陸したフォッケウルフが見えてきた。風防が空いているのを見ると、どうもパイロットは救助されたらしい。こんな機体を捨てて行くなんて良くやるものだ・・・
リッタ
「あれです!フォッケウルフです!!」
ヤマダ
「おお、俺が燃料タンク撃ったやつか・・・ん?これFW190じゃ無いぞ・・・」
リッタ
「え?これって所謂、長鼻のドーラじゃないんですか?」
ヤマダ
「よく見てみな、尾部がドーラよりも長い。それに主翼のこの長さ・・・こりゃTa152 h-1だな。」
イサカ
「ヤマダちょっと待ってくれ、さっきからFWだのTaだの、一体なんのことなんだ?」
ヤマダ
「フォッケウルフ FW190ってのは、ルフトバッフェの戦闘機でな。クルト・タンク博士が設計した名戦闘機だ。零戦とかと同じ空冷エンジンを搭載したA型、地上攻撃型のF型、長距離戦闘爆撃機のG型、液冷エンジンに換装したD型が居るんだ。」
イサカ
「だから最初お前がこの機体を見た時、D-9と言ったんだな。」
ヤマダ
「そうだ、だがD型では性能向上はあったものの高高度で運用するには与圧キャビンなどが無かったんだ。だからそれをさらに進化させた高高度戦闘機型 FW190 Ra-4 ってのを開発することになった。このとき設計者のクルト・タンク博士はFW190で培った功績を認められて、Ra-4に自分の名前のイニシャルであるTaを入れることを許可された。だからRa-4はTa152 h-1っていう名称で採用されたんだ。」
レミ
「じゃあ、これがそのTa152 h-1って事っすか?」
ヤマダ
「そういう事だ、こいつ見たところ俺が撃った所以外被弾してないな・・・まてよ?もしかしたら!」
俺は152の下に潜り込みボルトを緩めると、エンジンカバーを開きエンジンの状態を確かめた。一発の弾痕も無い、オマケに気化器空気採り入れ口には防塵フィルター付きだ。これは良い拾い物である、俺は操縦席に上り燃料残量計を見た。思った通りただの燃料切れ、持ち主には悪いがイヅルマを襲ったのはこの152でチャラにしてやる。
ヤマダ
「リッタ、燃料を持ってこれるか?」
リッタ
「え?ええ、持ってこれますが・・・」
ヤマダ
「じゃあ頼めるか?とりあえず100リットル。レミ、悪いが持ってくるのを手伝ってやってくれないか?」
レミ
「仕方ないっすね〜」
リッタ
「いえ、運搬用の車があるので大丈夫ですよ!ちょっと行ってきますね!」
そう言ってリッタは格納庫の方へと走ってゆく、俺は機体を隅々まで点検し発信機などが無いかを確認し、念の為無線機と機体搭載レーダーも外して捨てた。
イサカ
「ヤマダ、プロペラスピンナーに穴があるがこれは何だ?」
ヤマダ
「それは30ミリモーターカノンの発射口だ。こいつの武装は強力でな、MG151 20ミリ機関砲二門とMK108 30ミリモーターカノン一門だ。」
イサカ
「30ミリ!?凄いな・・・」
ヤマダ
「それだけじゃない、こいつの風防正面ガラスは70mmで、背面の防弾鋼板は20mmだ。」
イサカ
「それだけよりどりみどりで操縦性は大丈夫なのか?」
ヤマダ
「こいつが搭載するjumo213Eエンジンは最高出力1750馬力、さらにMW50水メタノール噴射装置と2段3速過給器を搭載してる。低高度から高高度まで何でもござれさ。しかも長い主翼と高いアスペクト比のお陰で低空での旋回性能も高い、零戦には劣るがな。」
イサカ
「紫電の誉とほぼ同じ出力を発生する上にそれに2段3速過給器って・・・」
ヤマダ
「化け物さ、はっきり言って。ただしこいつは燃料を食うし俺たちは操縦に慣れてない。一応持ち帰るがあまり出番は無いかもな・・・誰か乗ってくれねえかな〜この戦闘機!」
レミ
「あれ、ヤマダ乗らないんっすか〜?」
ヤマダ
「俺零戦がいいもん・・・」
イサカ
「私も零戦がいい・・・」
レミ
「あたしも零戦がいいっす・・・ってじゃあどうするんっすか!」
ヤマダ
「まあ持って帰ってから考えようぜ。お、丁度リッタが来たな。」
リッタがガソリンを車に積んでやってきた、ついでに気になっていることを聞いておくか・・・
リッタ
「お待たせしました!とりあえず100リットルのガソリンです」
ヤマダ
「ありがとう。ちなみにここのガソリンのオクタン価はいくらかわかるかい?」
リッタ
「はい!街では基本92オクタンですが、自警団は120オクタンのガソリンを使っています!これも120オクタンです。」
ヤマダ
「そうか・・・じゃあこいつはもっと性能を発揮するかもな。とりあえずこれ、誰が操縦して持って帰る?」
イサカ
「ヤマダでいいんじゃないか?」
レミ
「そりゃあヤマダっすよね?」
リッタ
「ヤマダさんよろしくお願いします。」
ヤマダ
「はぁ〜い・・・」
そう言って俺が操縦席に乗り込もうとすると、俺たちが歩いてきた方から一人、高身長の女性が歩いてきた。
???
「面白そうなおもちゃ持ってるじゃない?ヤマダ、あなた零戦一筋じゃなかったの?」
ヤマダ
「その声は・・・ロイグ!?」
ロイグ
「久しぶりね。貴方怪我はもう何ともないのかしら?」
ヤマダ
「ああ、もうなんともない。それよりどうして君がここに?」
ロイグ
「サクラって記者に情報を貰いに来たらたまたまあんたらの零戦が見えてね、格納庫のガキンチョに聞いたらこっちに向かったって言うから来てみたのよ。それより何よこのおもちゃ?」
ヤマダ
「フォッケウルフ Ta152 h-1 今イヅルマで暴れ回ってる震電の迎撃用に使おうと思ってるんだが、搭乗員がいなくてな・・・」
ロイグ
「貴方が乗ればいいじゃない?」
イサカ
「言っても無駄だ、こいつは零戦以外に乗らない。」
ロイグ
「はぁ・・・ちょっと乗ってみてもいいかしら?」
ヤマダ
「へ?ああ、まあとりあえずイヅルマの滑走路に運ぼうと思っていたし、別にいいぞ。」
ロイグ
「ありがとね。」
そうして俺は外でエンジン始動を見守る。ロイグは俺たちがプロペラ回転圏内に居ないことを確認しエンジンをかけた。
キーン・・・ドドドドド!!!
過給器の回転音と共にV12気筒のjumo213液冷エンジンが息を吹き返す。星型エンジンとは違うこもった爆発音を響かせTa152は離陸した。全長は零戦と余り変わらないが、思い切り絞られた機体のせいでやけに細長く見える。それを見送り俺たちはリッタが乗ってきたトラックに乗る。リッタが運転、レミは助手席、俺とイサカは荷台だ。
「イサカ、」
「どうした?ヤマダ」
「今使ってる二一型に何か気になるとこはないか?」
「ふふ、お前のお陰でなんの問題も無い。安心しろ。」
「そうか、良かった・・・」
「少し心配しすぎなんじゃないのか?」
「そりゃ心配するさ、俺のせいで君が死んだら・・・」
スッ・・・
そこまで言うと俺は揺れる荷台の上でイサカに抱き締められた。イサカは暖かかった。
「大丈夫だ、お前は自分の腕に自信を持っていい。それにお前はこの前言ったな、『零戦の操縦席は棺桶じゃない』と。」
「ああ、確かに言った。」
「そんな事を人に言う奴が整備を怠るわけが無いだろう。私はお前を信頼している。そんなに心配するな。」
そう言ってイサカは俺を強く抱き寄せ口付けをした。彼女の唇は柔らかく、彼女の髪の毛はほんの少し汗に濡れていた。
レミ
「お二人さ〜ん、もうそろそろ着くっす・・・またお邪魔したっすね〜」
リッタ
「レミさん、何があったんですか?」
レミ
「知りたいっすか〜?」
リッタ
「ええ、気になります!」
ヤマダ・イサカ
「レミ!!!!!」
俺たちは格納庫に着くとすぐに滑走路に向けて走ってゆく。すると丁度ロイグのTa152が着陸アプローチをしている所だった。慣れない戦闘機だからか、ロイグはいつもの三点着陸ではなく二点着陸を行いタキシングで格納庫に入れる。
ロイグ
「すごいわねこの戦闘機。馬力が桁違いよ、コレクションとして持って帰ったらベッグが喜ぶかもねぇ・・・」
ヤマダ
「しかも高高度でも出力が落ち込まないしな。持って帰るか?コイツ」
ロイグ
「いいの?」
ヤマダ
「ああ、ただし六機の震電を撃墜し終えたらだ。協力してくれるかい?」
ロイグ
「仕方ないわね・・・レンジ!早く来なさいよ!」
レンジ
「どうせこうなると思ったからアタシは嫌だったんだよ!面倒事にばっかり首突っ込みやがって・・・」
レミ
「まあそう言わないで下さいっすよ〜、人助けだと思って。」
レンジ
「いやまあ・・・仕方ねえなぁ・・・ 今回はクロはいねえのか?」
レミ
「どうっすかね?クーロー!」
ヤマダ
「レミ、お前自分で組を頼むって連絡入れてたろ・・・?」
レミ
「そういやそうだったっすね・・・恥ずかしいっす〜/」
ヤマダ
「まあそういう事だレンジ、すまないな。」
レンジ
「仕方ねえなぁ・・・」
そうして結局ロイグとレンジを迎えて震電の迎撃にあたることをアコに伝え、宿舎を用意してもらった。すると、16:30に輸送機が着陸するので16:00あたりから二機でいいので飛行場上空を直援してくれとの依頼も受けたので俺は15:00くらいにイサカを誘い格納庫へ歩いて行く、レミはレンジとロイグと酒を飲み交わしていた。
俺は格納庫で愛機を洗う、イサカもA1-1-129を洗っている。
「さ〜ら〜ばラバウルよ〜、また来るま〜で〜は〜」
イサカが歌いながらユーハングの民謡、[ラバウル小唄]を口ずさんでいた。
ヤマダ
「おお、ラバウル小唄か。」
イサカ
「お前がよく歌っていただろう? メロディが好きなんだ、ユーハングの零戦搭乗員はこれを歌っていたんだろう?」
ヤマダ
「ああ、ちなみに二番はどんなのか知ってるかい?」
イサカ
「赤い夕陽が波間に沈む〜、果ては何処ぞ水平線よ〜 だろう?」
ヤマダ
「あ、そっちなのか。」
イサカ
「他の歌詞もあるのか?」
ヤマダ
「ああ、それもいい歌詞なんだ。」
イサカ
「少し歌ってくれ、ぜひ聞きたい。」
ヤマダ
「じゃあ、少し失礼して・・・
船は出て行く 港の沖へ
愛しあの子の うちふるハンカチ
声を偲んで心で泣いて、両手合わせて「ありがとう」
・・・こんな歌詞だ」
イサカ
「本当にいい歌詞だな。あ、そろそろ滑走路に出るか。」
ヤマダ
「了解、乗りな。ステップ押し戻してやるよ」
イサカ
「助かる。」
そう言ってイサカが乗ったのを確認すると乗機用ステップを全て押し戻した。俺は足掛けだけを出し翼の上に乗ってから足でステップを機体に押し戻して操縦席に乗り込んだ。二人ともセルモーター始動なので整備員は必要ない。タキシングで滑走路に出ると、空いている滑走路で二機編隊を組み離陸準備を終えた。
前に着いたイサカの手信号を確認し機体同士の間隔を一定にして離陸した。主脚を上げフラップを格納し下を見ると滑走路のわきに子供が集まってこちらへ手を振っていた、紫電や雷電ばかりの滑走路から零戦が飛び立つのが珍しいのだろうか?するとイサカから無線が入った。
イサカ
「ヤマダ、滑走路のわきの子供たちが見えるか?」
ヤマダ
「ああ、見えてる。」
イサカ
「輸送機が来るまで少し時間もある、サービスしてやらないか?」
ヤマダ
「いいな、とりあえず低空飛行だな」
イサカ
「よし、行くぞ!」
そう言って降下するイサカを追ってこちらも降下する。子供たちの目の前を減速し低空飛行すると、俺たちは風防を開け子供たちに手を振り返した。そのまま垂直上昇し背面飛行をすると、速度を稼ぎイサカと横並びになり宙返りを見せた。もう一度低空飛行で子供たちの前を飛び風防を開け手を振ると、俺たちは高度を上げ本来の任務に戻った。
イサカ
「子供たち、嬉しそうだったな。」
ヤマダ
「ああ、零戦が珍しいのかな?」
イサカ
「さあな、それより昨日のメッサ―とTa152はなんだったんだ?」
ヤマダ
「わかない・・・ただ格納庫を狙ってるあたり完全に確信犯だ。イヅルマは面倒なことになっているな・・」
イサカ
「まあ乗り掛かった舟だ、私たちもできるだけ協力してやろうじゃないか。」
ヤマダ
「そうだな・・・お、輸送機が来たぜ~」
滑走路に向かってくる輸送機のほうに飛んで行き並行飛行する。機体はダグラスDC-3だった、おそらく中島がライセンス生産していた機体の設計図がそのままこちらに来たのだろう、もしかしたらイヅルマでP&W R1830-75がまた手に入るかもしれない。そうしたらまたイサカのAI-1-129に積んでやろう・・・そんなことを考えながらDC-3の着陸を見届ける。すると少し遠くに機影が見えた。
ヤマダ
「イサカ、機影だ。10時の方向。」
イサカ
「了解。」
そして俺たちは高度を少しづつ上げて滑走路から離れ迎撃の準備をする。次の瞬間機影から曳光弾が光った。
イサカ
「震電だっ!」
ヤマダ
「なんでか知らんが一機だけだ!行くぞ!」
そうして俺たちは左右に散開した。まっすぐ突っ込んでくる震電を横目に見ながら操縦桿を引き右旋回に入る。震電も逃げようと左旋回するが低空で零戦に勝てる戦闘機はない。俺はロールして左旋回に切り替え震電の真後ろに付く、旋回中にも震電はじわじわ前に離れていくが、俺の目的は今すぐ撃墜することではない。旋回中上からダイブしてくるイサカを確認すると俺はまたロールして震電の後ろから離脱した、それを見て油断した震電が水平飛行に移る。
イサカ
「油断大敵!!」
ダダダダッダダダッ!! ドォン・・!!!
イサカは震電の発動機と主翼に機銃を叩き込む、機銃をもろに食らった震電は火を噴き落ちて行った。
ヤマダ
「お見事~」
イサカ
「お前こそうまく後ろについたな。とりあえず帰るか、」
ヤマダ
「ああ。」
そうして俺たちは滑走路に着陸する。子供たちがまだいたので俺たちは子供たちから一番近い滑走路に着陸する。タキシングで格納庫に戻るときまた風防から子供たちに手を振ってやる。格納庫に戻ると冷却運転をして発動機を止めた。
イサカ
「お疲れさまだな。」
ヤマダ
「イサカこそお疲れ。」
するとレミが走ってきた。
レミ
「も~ずるいっすよ!楽しそうに曲技飛行したあげくに震電を一気撃墜しちゃうなんて~」
ヤマダ
「悪かった悪かった・・・」
レミ
「まあいいっすよ。許してあげるっす。それより~」
ヤマダ
「どうした?」
レミ
「二一型の主翼の折り畳み方を見せてほしいんっすよ~、そういえば見たことないなと思って!」
ヤマダ
「はいはい、おーいイサカ―!」
二一型に乗って機体備え付けの航空時計を調節しているイサカに声をかける。
イサカ
「なんだ?」
ヤマダ
「レミが主翼折り畳み機構を見たいって言ってるんだが、ちょっと折り畳んでいいか?」
イサカ
「ちょっと待ってくれ、私も見たい。」
ヤマダ
「あれ?イサカ見たことねえのか?」
イサカ
「ああ、折り畳む必要なんてないからな・・・」
ヤマダ
「まあな・・」
そうしてイサカが降りてくるのを待ち俺たちは二一型の主翼下に潜り込んだ。
ヤマダ
「いいかい?まずはここのパネルを押してロック解除レバーを出すんだ、このときエルロンがニュートラルになっていないと傷つけちまうから気を付けてな。」
そうして俺は小判型のパネルを押しロック解除レバーを出した、
ヤマダ
「次はこのレバーを軽く手前に引っ張ってロックを解除する。そしたらこいつを押し上げれるんだ。」
俺は二一型の主翼を押し上げて既定の位置まで動かすと、ガチッという音がして主翼端がロックされる。
ヤマダ
「こんな感じだ、簡単だろ?」
レミ
「もうちょっと複雑だと思ってたっす・・・こんだけのことだったんっすね。わざわざありがとうっす!」
ヤマダ
「いえいえ、わかってもらえたのならこっちとしても満足だよ。」
イサカ
「こうやって畳むのか・・・これで強度に問題がないというんだからすごいな、よく考えれば翼端が壊れたことは今までただの一度もなかった。」
ヤマダ
「まあこの機構自体すごい単純なもんだからな、重量もほぼ増えてないし強度低下もなし。ただしこの翼端折り畳みはユーハングの空母エレベータでのクリアランス確保が目的であって、グラマンやシコルスキーみたいに搭載機数を増やす工夫じゃない。まあ俺たちにはあんまり関係ないけどな。」
そうして俺たちは宿舎に戻り、食堂でご飯を食べると部屋に戻り寝ようとした。俺は部屋で紅茶を飲みながら零戦の取扱説明書を読んでいると、部屋の扉をノックする者が居た。
ヤマダ
「どうぞ、」
イサカ
「ヤマダ。」
寝巻き姿のイサカだった、俺はベッドに座るように促した。
ヤマダ
「どうした?もう寝るんじゃなかったのかい?」
イサカ
「いやその・・・一緒に寝てもいいか・・?」
ヤマダ
「勿論だ。」
俺はイサカの分の紅茶も用意して渡した。甘い物が苦手なイサカの為に砂糖は少なめだ。美味しそうに飲むイサカを見て俺は安心感を覚えた。
イサカ
「ヤマダ、私は今回の震電がパフォーマンスのようにしか思えない。もっと別の・・・別の事が目的のような気がしてならないんだ・・・」
ヤマダ
「俺もそんな気がする・・・震電六機で地上攻撃なんて部が悪すぎるからな。正直言って俺は怖い。」
イサカ
「私も同意見だ・・・すまないな、こんな事言ってしまって。」
すると、また扉をノックする音がした。
ヤマダ
「誰だい?」
レミ
「あたしっすよ、ちょっといいっすか?」
ヤマダ
「ああ、廊下は寒いだろ。早く入りな。」
レミ
「失礼するっす。」
そうしてレミもベッドに腰かける。さっきと同じようにレミの分の紅茶を入れて渡す。
ヤマダ
「レミ、どうしたんだい?」
レミ
「ヤマダ、イサカ、あたしにはあの震電がパフォーマンスにしか思えないんっす・・・近いうちに爆撃機なんかが大編隊で来るような気がして正直あたしは怖いっす・・・」
イサカ
「ちょうど私達もその話をしていたんだ、だがそのことをここで心配しても仕方ない。私達も気をしっかり持って構えようじゃないか。」
ヤマダ
「やっぱりイサカはしっかりしてるな、流石俺の妻だよ。」
イサカ
「やめろ・・・恥ずかしいじゃないか。」
レミ
「確かにそうっすね〜、そう言えばあたしずっと気になってたんっすけどひとつ聞いていいっすか?」
イサカ・ヤマダ
「なんだ?」
レミ
「お二人さん子供はまだなんっすか〜?」
俺とイサカは飲んでいた紅茶を同時に吹き出した。
イサカ
「こっ・・・子供ぉ!?」
ヤマダ
「子供・・・かぁ・・・」
レミ
「二人とも慌てすぎっすよ〜」
ヤマダ
「まあ、子供は俺達が戦闘機から降りてからだな。」
イサカ
「そうだな・・・私達がもう少し落ち着いたら、私達が理想を実現してから・・・だな。」
ヤマダ
「ああ、そうしないと子供の面倒も見れないしな。イサカ、その時はよろしくな。」
イサカ
「ああ、任せておけ。」
レミ
「あつあつっすね〜」
ヤマダ
「そういうレミはどうなんだ?」
レミ
「どうって、何がっすか?」
ヤマダ
「クロとだよ。」
レミは俺たちと同じように紅茶を吹き出した。
レミ
「いやっ・・・クロと・・・って・・・いやそんな、ええ〜、いや・・・ええ〜」
レミは顔を真っ赤にしてベッドの上で転げ回っている。
ヤマダ
「イサカ、こりゃ俺たちよりバカ夫婦が出来るかもしれないぞ(ひそひそ」
イサカ
「ああ、まああの二人だといい夫婦になれると思うがな(ひそひそ」
そうしてレミはベッドから起き上がり俺たちの方を向いてはっきりと言った。
レミ
「今はまだっすけど・・・いつかあいつとは・・・って思ってるっすよ。恥ずかしい事聞かないでくださいっすよ〜」
ヤマダ
「さっきのお返しだよ。そうだよな、君らだとお似合いだもんな〜」
レミ
「うるさいっすよ!もーうー!」
そうしてしばらく話すとレミは部屋に帰って行った。俺とイサカは布団に入ると、手を繋いで目を瞑った。
翌朝
イサカ
「ヤマダ!何時まで寝てるんだ馬鹿者!起きろ!」
ヤマダ
「んん・・・おはよぉ・・・」
イサカ
「おはよぉ・・・じゃない!もう9時だぞ!起きろ!」
そうして俺とイサカは身支度を整え廊下でレミと合流すると格納庫に降りていった。すると別の格納庫に増設ランチャーレールに夕弾を懸吊した雷電がいたが、必要無くなったのか整備員が横でランチャーレールごと外していた。
ヤマダ
「おぉーすげえな・・・夕弾だ」
イサカ
「夕弾?」
ヤマダ
「敵爆撃機の上空で投下して破片を散らばせて損害を与える一種の爆弾だ。零戦でも五二型丙から懸吊できるようになってるぞ。」
すると格納庫内に緊急放送が流れた。
「敵爆撃機編隊確認、今すぐランチャーレールを取り付け夕弾を装備して迎撃せよ。」
整備員
「今終わったとこだぞ!?」
整備員
「また20機も作業するのか・・・」
そして整備員はランチャーレールを雷電に取り付け出す。何をやっているんだ・・・
ヤマダ
「こんな事してる場合じゃないぜ・・・ランチャーレールなんかいいから早く出さないと!!!!」
レミ
「でも、夕弾の方が強いんっすよね?」
ヤマダ
「じゃあなぜ夕弾をランチャーレールごと外したんだ!?迎撃に夕弾を使いたいなら、懸吊したまま敵機発見の知らせを待ってるべきだったんだ!!こんな時に攻撃されたら、ひとたまりもない・・・」
するとまた緊急放送が流れる。
「上空直援搭乗員、直ちに迎撃に当たれ。」
俺達は格納庫で自分の愛機に飛び乗ると発動機を回し滑走路に出た、ロイグとレンジも一緒だ。隣の滑走路には同じく迅速に出撃準備を終えたカナリア自警団が居る。俺達は滑走路を開けるためにすぐに離陸した、空で編隊を組み無線のチャンネルを合わせる。
ヤマダ
「アコ、敵機は何機居るんだ?」
アコ
「爆撃機らしき機影が十機、直援戦闘機が二十機、高度約1000クーリルを飛行中です!」
ヤマダ
「了解!」
イサカ
「ヤマダ、私達は20ミリの携行弾数が少ない!爆撃機はカナリアの紫電とロイグのTa152に任せよう!」
ヤマダ
「そういう事だ、アコ団長。ロイグ。しっかり援護するから爆撃機は頼むぞ!」
アコ
「了解!」
ロイグ
「わかったわ!」
その連絡を終えると、俺は混合気の空燃比をリーンバーンからニッチにする。すると後ろから雷電隊と紫電改隊が合流して来た。雲の向こうに敵機が見えた。震電が五機、メッサーが五機、グラマンF4Fが十機だ、だが肝心の爆撃機は機影から機種が分からない・・・中翼配置なのは分かるが・・・そうしていると機影がハッキリとしてきた。俺は7ミリ7機銃を完全装填し試射をする。
ヤマダ
「ミッチェルだ・・・」
イサカ
「ミッチェルって・・・B25か!!」
ヤマダ
「ロイグ!カナリア!ミッチェルは旋回機銃が全面にある上に焼夷弾だから燃えやすい!死角は真上と真下だ!気をつけろ!!」
アコ
「わかりました!皆さん行きますよ!」
カナリア一同
「了解!!」
ロイグ
「面白そうじゃない・・レンジ!貴女ヤマダたちの足を引っ張るんじゃないわよ!」
レンジ
「誰に向かって言ってんだ!!」
レミ
「震電とメッサーは後ろの雷電隊と紫電改隊に任せて、あたしらはグラマンを狙いましょ〜」
ヤマダ
「了解、行くぞ!」
雷電隊、紫電改隊がメッサーと震電にダイブしていくのを確認して俺たちはグラマンへダイブする。俺、イサカ、レミ、レンジはそれぞれ目標を定め、上から機銃を叩き込んだ。三機のグラマンが火を噴き、一機はきりもみ落ちていく。
ヤマダ
「レンジすげえな、装甲板が厚いグラマンの特徴を見抜いて真上から操縦席を打ち抜きやがった・・・」
イサカ
「お前が言っていた、隼の機首のすわりの良さをよく理解しているからこそできる芸当だな。」
レミ
「感心してないで早く片付けて爆撃機のほうに行くっすよ!」
ダイブした勢いを利用し散開したグラマンの後ろにピタリと張り付く。20ミリを節約したいのはやまやまだがシコルスキーよりグラマンは装甲板が分厚い、10クーリルほどまで接近して20ミリと7ミリ7機銃を叩き込む。
ダダダダッ!!! パァンッ!!
一機のグラマンのエレベータを吹き飛ばす。俺たちがしているのは戦争ではないからわざわざ搭乗員を殺す必要はない、今目の前から機体が消えてくれればよいのだ。だから動翼やフラップなど「飛ぶことに」必要な部分を壊せばいい。操縦席を狙うのはあくまでも最終手段だ。俺は後ろにつかれていないことを確認するとイサカの二一型の後ろに援護に回る。
イサカ
「後ろは任せたぞ!」
ヤマダ
「任された!」
そうして後ろを索敵すると一機が近づいてきていた。
ヤマダ
「後ろに一機だ!」
イサカ
「前にも一機居る!そっちは頼むぞ!!」
ヤマダ
「あいあい!」
離脱していくイサカを見送り後ろのグラマンをぎりぎりまで引き寄せる。
「あんたたちは習わなかったのか?」
操縦桿を引き上昇姿勢に入る、当然グラマンも追って登ってくる。ぐっと近くに来たグラマンを横目に操縦桿を左手前に倒し失速させるとグラマンの後ろにつく。こっちを見失ったのかグラマンは水平飛行に移った。その瞬間に俺はトリガーを引く。
ダダダダッ!!! ドォン・・!
「『ゼロと格闘戦をするな』って。」
そのまま三人のほうへ飛ぶとちょうどグラマンを撃墜し終えたところだった。
イサカ
「皆揃ったな・・じゃあカナリアたちの援護に行くぞ!」
レミ
「レンジすごいっすね~ 12.7ミリ機銃でよくグラマンを墜としたっすね。」
レンジ
「おかげで残りの弾がすくねえよ・・爆撃機のほうではあんまりお役に立てねぇかもしれねえぜ。」
ヤマダ
「危ないと思ったらすぐ離脱しろよ・・・」
そうこう言っているとミッチェルが見えてきた。何機か撃墜されたようで6機に減っているが、イヅルマの滑走路までもうあまり距離がない。
イサカ
「ヤマダ!どれをやる!?」
ヤマダ
「とりあえず一番後ろのやつだ!」
そうして緊急ブーストで思い切り近づくと、旋回機銃をよけるように機体の上につく、機体を裏返してダイブし発動機を狙って弾を叩き込んだ。反対側の発動機にはレミとレンジがダイブしている。
ダダダダダダ!!!ダダダダッ!!
少し長めに機銃を打ち続けそのまま下に離脱して旋回機銃を振り切る。横を見るとレミの61-121が主翼燃料タンクから尾を引いていた。
ヤマダ
「レミ!離脱しろ!!」
レミ
「まだ20ミリが残ってるんっすよ!」
ヤマダ
「馬鹿野郎!燃料タンクはカラが一番あぶねえんだ!!早く離脱しろ!!」
レミ
「っっ・・・・わかったっす・・!」
そうして俺は下からまたミッチェルに機銃を叩き込み撃墜したが前の編隊とまた離れてしまった。とりあえず離脱し少し離れたレミの場所まで行きレミを守るような形で四人で編隊を組む。
イサカ
「どうするんだ・・・零戦だともう追いつけないぞ・・・」
ヤマダ
「とりあえず終えるだけ追うしかない。カナリアとロイグを信じよう・・・」
そう言った瞬間に前からゆっくりと機体が近づいてきた。Ta152だ。
ヤマダ
「ロイグ!?」
ロイグ
「ミッチェルはあと3機残ってるわ・・・私は弾切れよ・・・」
ヤマダ
「そうか・・・とりあえずレミの後ろについてくれ、囲むように編隊を組む」
ロイグ
「わかったわ・・・」
そしてしばらく飛ぶと上空にミッチェルに機銃を打ち込んでいるカナリア自警団と雷電隊・紫電改隊が見える。だが雷電と紫電改は最初よりかなり数が減っており、弾切れで離脱する機体も多かった。イヅルマの滑走路まであと1000クーリル地点、ミッチェルの爆弾槽が開いた。
イサカ
「爆弾槽が・・・!」
レミ
「ヤマダ、一機でも落とさないと・・・!!」
ヤマダ
「この高度差だと旋回機銃に落とされるのがオチだ・・・それに20ミリもない・・・」
レミ
「でも!!」
ヤマダ
「それより俺たちももっと離れるぞ!爆風やら破片に巻き込まれたら死ぬ!!」
そうして機首をイヅルマから少し違う方向に向け離脱し始めると・・・・
ヒュゥゥゥゥゥゥン・・・・ドォォォン・・・・!!!!!
イサカ
「ああっ・・・!!」
ヤマダ
「畜生・・・!!」
ミッチェルは爆弾を投下し終えると離脱していく。カナリア自警団は追おうとするが、俺はそれを止めた。
ヤマダ
「待て!!追うな!!!」
シノ
「何故よ・・・あんなことされて・・黙って見過ごせっていうの!?」
ヤマダ
「君たちの紫電の燃料の容量を見てみろ!深追いするな!死にたいのか!?」
アコ
「帰還します・・・!」
俺たちは滑走路の上を低空で飛び状況を確認する、幸い民家には爆弾は当たらなかったようであるが、滑走路と格納庫はめちゃくちゃであった。滑走路は使えないので俺たちはイヅルマ市営の民間用滑走路に降りた。幸いこちらは爆撃の被害にあわなかったが有効長が短く隣接する格納庫がない。
機体から降りると俺はレミに胸ぐらをつかまれた。
レミ
「なんであの時行かせてくれなかったんっすか・・・あたしはまだ100発以上20ミリが残ってたんっすよ・・・!!なのになんで!!」
イサカ
「レミ!落ち着け!」
レミ
「イサカは黙っててくださいっす!ヤマダ!なんで行かせてくれなかったんっすか!!」
シノ
「ヤマダ!!なんであの時私たちを止めたのよ・・!!」
ヤマダ
「いい加減にしろ!!」
レミ・シノ
「っ・・!!」
ヤマダ
「君たちがあの時思い思いの行動をしてどんな結果を招いたと思う!?その時の感情だけで行動を決めるんじゃない!!」
そう言って俺はレミの手を振りほどくと61-121の外板を確認しに歩いて行った。
レミとシノはヤマダを追っていこうとした。
レミ
「待てっす!ヤマダ!!」
シノ
「そうよ!まだ話は終わってないわ!!」
イサカ
「二人ともやめろ!」
私は二人の肩をつかんだ。
レミ
「止めないでくださいっす・・イサカ」
イサカ
「私からも言わせてもらう、いい加減にしろ。」
シノ
「低空で早々に離脱したあなたたちに何がわかるのよ!ヤマダもしょせん腰抜けなのね!?」
パァンッ・・!!
私はシノの顔をはたいた。
イサカ
「貴様今の言葉をもう一度言ってみろ・・・」
アコ
「イサカさんやめてください・・!」
イサカ
「お前たちはヤマダが誰のために離脱と言ったと思っているんだ!あのまま貴様らがミッチェルを追いかけていてみろ!旋回機銃に撃ち抜かれるか?燃料切れで荒野に墜落か?」
シノ
「くっ・・・!!」
イサカ
「レミ、お前もだ!あの時尾を引いたまま行ってみろ!どうなる!?旋回機銃で気化したガソリンに引火して大爆発か!?自分が撃った機銃の薬莢の熱で引火して火達磨か!?」
レミ
「でも!・・・でもそうならなかったかもしれないんっすよ!?あと一機でも撃墜できてたら被害は変わってたかもしれないんっすよ・・!!」
シノ
「そうよ!自警団として敵を目前にして逃げるなんて・・!!」
イサカ
「レミ!!シノ!!貴様らはまだわからないのか!?」
そう言って私はヤマダのほうを指さした、私たちの機体を一機一機丁寧に調べる目には涙が浮かび、いつもの優しい口元は固く一文字に結ばれていた。
イサカ
「お前たちの気持ちもわかるが、あいつがどんな気持ちで離脱を指示したか・・・どれだけ今あいつが苦しんでいるか・・・それくらい理解してやれ・・・」
ロイグ
「貴方たち、ヤマダがどんな顔で爆撃された滑走路の上を飛んでたか見た・・・?あいつ、風防をたたきながら泣いていたわよ・・・よほど悔しかったのね。」
イサカ
「あいつだって辛いんだ、辛い中であの指示を出したんだ。あいつは本来イヅルマとは関係ない・・・無視して逃げてもよかったんだ。なのにリスクをしょって迎撃戦にまで協力した、そんな人間をまだ腰抜けというのか?」
シノ
「・・・悪かったわ。」
レミ
「・・・ごめんなさいっす。」
イサカ
「謝罪なら私じゃなくてヤマダに言え。」
そして私はヤマダのほうへ歩いて行った。
俺はみんなの機体を一機一機調べた、するとハヤトがこっちに走ってくる。
ハヤト
「ヤマダーーー!!大丈夫かーーーっ!?」
ヤマダ
「大丈夫だ!!お前こそ大丈夫なのか?」
ハヤト
「はあっはあっ・・・何とか大丈夫だ。」
ヤマダ
「そうか、早速で悪いがここにアルミの板とリベットはあるか?」
ハヤト
「なんでそんなもんがいるんだよ?」
ヤマダ
「俺の61-120は垂直尾翼、レミの61-121は主翼、イサカのAI-1-129は後部胴体、ロイグのTa152は水平尾翼と後部胴体、レンジの隼はエンジンカウリングにそれぞれ被弾してる。本来なら外板を引きはがして張り替えるんだが今はそんなことをしている暇はない。アルミ板で補修をしたいんだ。」
ハヤト
「そういうことか・・使えそうなのがあるか探してくる、カナリアの紫電も頼めるか?」
ヤマダ
「ああ、わかった。」
そうして俺はカナリア自警団の紫電を見て回る、かなり接近して機銃を撃ったのであろう。尾部や主翼は穴だらけであった。一通り見終えると俺は自分の愛機の主翼に座った。するとイサカがこっちへ歩いてくる、俺は飛び降りようとしたがイサカはそれを止め俺の横へと上ってきた。
ヤマダ
「レミとシノ、なんて言ってた?」
イサカ
「気にするな、お前は悪くない。」
ヤマダ
「いや・・そんなことねえよ、俺は逃げた。」
イサカ
「あんな状況だったんだ。仕方ない、本当に気に病むな。」
ヤマダ
「でも・・・」
すると俺はイサカに抱きしめられた。
イサカ
「お前もお前でわからずやだな・・・もういいから、黙ってろ。」
ヤマダ
「イサカ・・・」
そして俺はイサカの腕の中で泣いた。イサカは黙って俺を抱きしめたままでいてくれた。
イサカ
「少しはすっきりしたか?」
ヤマダ
「・・・ああ、ありがとう。」
そうして俺たちは主翼から飛び降りた。
ヤマダ
「これからどうするかだな・・・・こっちで迎撃戦をするだけだといつになってもきりがない。」
イサカ
「そこは、お前の好きな戦闘機の特徴を使うしかないんじゃないか?」
ヤマダ
「航続距離・・・か?」
イサカ
「違う違う、爆弾を懸吊できることだ。実は基地の場所に心当たりがあるんだ。」
ヤマダ
「地図があればいいんだがな・・・」
イサカ
「地図・・・あ!」
そういうとイサカはAI-1-129の風防をガラッと開けると上半身を突っ込み何かをまさぐっている。
イサカ
「あった!」
そしてイサカは地図を主翼の上で広げた、俺はイサカと一緒に地図を見る。
イサカ
「ここがイヅルマだ、ここの周りには渓谷とかばっかりで基地を作れるような場所はどこにもない。だが少しだけここから視点をずらしていくと・・・ここだ、メッサ―や震電の航続距離を考えるとこの平地しか考えられない。」
ヤマダ
「確かにそこ以外は渓谷とか山ばっかで戦闘機の離着陸が出来そうな場所はないな・・・いっちょ偵察に行ってみるか。」
イサカ
「馬鹿者!危険すぎるだろう・・・」
ヤマダ
「だが誰かが行かないと・・・」
レミ
「じゃあ・・私が行ってもいいっすか・・?」
ヤマダ
「レミ!?」
レミ
「さっきは本当に悪かったっす・・・あんたのこと何にも考えてなかった・・」
ヤマダ
「気にすんな。それより、偵察は俺が行く。君らにそんな危険なことはさせられない。」
レミ
「でも・・・」
そう言って食い下がるレミの肩を持つと俺は言った。
ヤマダ
「君がイサカを助けてやってくれ。サダクニさんがいない今、イサカを安心して預けられるのは君しかいないんだ・・・頼む。」
レミ
「・・わかったっす、絶対に生きて帰ってきてくださいっす・・!!」
そうして俺は航続距離の比較的長いAI-1-129に乗り込んだ、増槽がないので航続距離が怖いが、この場でこいつより航続距離の長い戦闘機はない。攻撃を終えて戦闘機を使った後の今ならもし見つかった時上がってくる迎撃戦闘機も少ない。すべての燃料タンクに燃料を満たすと発動機を回した。
イサカ
「無茶はするなよ・・・!いいな!?」
レミ
「絶対に帰って来てくださいっす・・・!!」
ロイグ
「本当に一人でいいのね・・?」
レンジ
「なんでも一人で抱え込むんじゃねえよ・・・馬鹿野郎」
アコ
「ここまでしてもらうことになるなんて・・・本当にすみません、よろしくお願いします。」
エル
「お世話になります・・・くれぐれもご無事に。」
ヘレン
「気を付けてね~」
ミント
「お気をつけて・・・」
リッタ
「機体の補修はお任せください。お気をつけて」
シノ
「さっきは悪かったわ・・・気を付けてね。」
ヤマダ
「ありがとう・・・ありがとう・・・!!」
そう言って俺は敬礼をすると、スロットルレバーを前に倒し滑走路から離陸した。脚を上げてフラップを収納すると、両手で風防を閉めた。高度を1000クーリルにとるとラダートリム、エルロントリム、エレベータートリムを設定しプロペラピッチをハイピッチにする。スロットルを2割ほどに絞りA.M.C.操作レバーを手前に引っ張り燃料をリーンバーンに。イサカに借りた地図を膝の上に広げ、航路と対地速度を計算しながら二時間ほど飛行するとイサカの言っていた平地に到着する。風防を開け機体を傾け目を凝らして地上を見る。平地はそこそこの面積があったので真ん中を貫くように飛んでいると、きれいに舗装された滑走路といくつかの対空砲が見えた。格納庫が横にあり、おそらく戦闘機はそこに格納してあるのだろう。ミッチェルは滑走路の脇の広場に置かれていた、もっとしっかりと偵察したかったが燃料がギリギリなので仕方なくあきらめ機首を反転させ帰路についた。
「イサカ・・・やっぱ君はすげえよ・・・」
???
「・・・その声はヤマダか?」
急に無線に男の声が入った。すると雲の中から一機の五二型がこちらに寄ってきた。
ヤマダ
「サダクニさん!?」
サダクニ
「お前イヅルマで迎撃戦をしているんじゃなかったのか?」
ヤマダ
「すみません、話すと長くなるので一つだけ私の頼みを聞いていただけませんか?」
サダクニ
「よくわからんが・・・相当急ぎのようだな。わかった、言え。援軍か?」
ヤマダ
「いえ、自警団にゲキテツ一家が手を出すとなるといろいろと面倒なことになります。そうではなくて私の格納庫の奥に置いてあるP&W用の二一型のカウリングと二二型の外翼燃料タンク、アルミ製110ボットル増槽をイヅルマに送ってほしいのです。私は燃料の残量がないのでもうイヅルマに戻らなければなりません。」
サダクニ
「わかった、だが本当に危なくなったら連絡を入れるんだぞ。それから・・・組長を頼む。私も心配だからな。」
ヤマダ
「お任せください。ではよろしくお願いします。」
サダクニ
「全く・・・遠くのシマの管理のために飛んでいたらまさかお前と会うとはな・・・頼んだぞ!」
そうしてサダクニさんと別れまた航路を計算しながら帰る。あたりが暗くなってきたので平地から遠く離れたことを確認し編隊灯を点灯させ室内灯を灯した。もう既に主翼燃料タンクを使い切り胴体内燃料タンクも残りわずかだ・・・仮に航路を間違えても、ここで敵機に出くわしても死ぬ。タイミング悪く雨まで降りだしやがった
「イサカ・・・君の作る卵焼きが食べたいよ。」
独り言を言いながらひたすらに飛び続ける。するとイヅルマの街の明かりが見えてきた。
「帰った・・・帰ったぜ・・・!!」
俺は滑走路の誘導灯を頼りに滑走路に着陸した。61-120、61-121が止めてある横にタキシングで機体を止め、冷却運転をして発動機を止めると機体から飛び降りた。すると
イサカ
「ヤマダ!!」
イサカが61-120の主翼の下から飛び出してきた。
ヤマダ
「イサカ・・まさかずっとそこにいたのか!?」
イサカ
「遅い・・遅いぞ!ばかものぉ・・!! ううっ・・よかった・・無事に帰ってきて・・・」
ヤマダ
「ごめんな・・・心配かけたな・・」
そういってイサカの頭を優しくなでていると、また横から声がした。
レミ
「・・遅いっすよ・・・ばか・・・」
ヤマダ
「レミ・・・ただいま」
レミ
「おかえりなさいっす。」
イサカ
「ヤマダ、食堂に来てくれ、腹も減っているだろう?」
そう言われて俺は食堂へ行った。扉を開けると、皆がいた。そして食卓には俺の大好物の卵焼きとおにぎりが並んでいた。
ヤマダ
「おおお!!卵焼きとおにぎりだ!!!」
ロイグ
「卵焼きとおにぎりだ!!!じゃないわよ!」
レンジ
「そうだぜ!心配ばっかりかけやがって!!」
アコ
「無事でよかったです・・・ひとまずご飯食べて休んでください!」
シノ
「ほら、あなたたちの席はちゃんとあるわよ。」
シノがそういうと、エプロンをつけたイサカが急須の茶を持って入ってきた。
イサカ
「いつまで立っているんだ、早く座れ。茶は入れてやる。」
ヤマダ
「ああ・・ありがとう・・!!」
そうして俺は久々にイサカの手料理を食べた、そして偵察の内容を事細かに伝え風呂に入り、滑走路のそばに用意された簡易宿舎に泊まった。
イサカ
「ヤマダ・・・本当にすまないな、辛いことばかり任せる形になってしまって・・・」
ヤマダ
「いいんだ、君がいれば俺はそれでいい。君こそ大丈夫か?」
イサカ
「ああ、私のほうは大丈夫だ。さあ、もう寝よう。」
ヤマダ
「ああ、おやすみ。」
イサカ
「おやすみ。」
翌日
イサカ
「ヤマダー!お前宛に荷物だ!」
俺はイサカの声で起きた、身支度を整え宿舎から出ると巨大な荷物を不思議そうに見ているレミとイサカが居た。
ヤマダ
「おお・・・仕事が早いな、流石イサカを育てたサダクニさんだけあるぜ。」
レミ
「これなんなんっすか・・・?」
ヤマダ
「二一型のP&W用のエンジンカウリング、110ボットルアルミ増槽、そして零戦二二型の外翼燃料タンクだ。」
イサカ
「じゃあAI-1-129にまたR1830を積めるのか!」
ヤマダ
「ああ、少しでも馬力があった方がいいだろう?」
イサカ
「ああ・・・感謝する!」
レミ
「ヤーマダっ」
ヤマダ
「どうした?レミ、嬉しそうに」
レミ
「その発動機本体はどうやって手に入れるんっすか〜?」
ヤマダ
「今から街で部品屋をハシゴするつもりだが・・・?」
レミ
「はぁ〜・・・どうせそういうこったろうと思ったっすよ。こっち来てくださいっす。」
そしてレミは臨時で建てられた格納庫に俺を連れて行くと、叫んだ。
レミ
「リッターー!例のヤツ出してくださいっす〜」
リッタ
「レミさん!わかりました!お任せ下さい!」
そうしてリッタは格納庫の奥から台車に乗せた発動機を持ってきた、これは・・・
ヤマダ
「すげええ!P&W R1830-75じゃないか!」
レミ
「えっへっへ〜 ヤマダが喜ぶと思って、街の部品屋で手に入れといたんっすよ〜」
ヤマダ
「すごいじゃないか・・・よく見つけたな〜これ!」
レミ
「大変だったんっすよ〜?あんたを心配するイサカをなだめながらの買いもんだったっすからね〜」
イサカ
「おいレミ!余計な事を・・・」
リッタ
「そんな事言って、レミさんも心配そうだったじゃないですか〜!それよりヤマダさん、この発動機ってそんなに凄いんですか?」
ヤマダ
「ああ、R1830の後ろに-75ってあるだろ?これはR1830の中でもどういう仕様だってのを表してるんだ。」
リッタ
「へぇ〜!じゃあこの-75って何馬力くらい出てるんですか?」
ヤマダ
「一段二速過給器搭載で1350馬力だ。前まで搭載してたのは-35だから150馬力稼げた事になるな。」
イサカ
「またあの馬力で飛べるのか・・・嬉しいな。」
ヤマダ
「ふふ・・・じゃあ早速作業するか!イサカ、レミ、手伝ってくれ。」
イサカ
「ああ、勿論だ!」
レミ
「さあ、油臭い作業の始まりっすよ〜」
そうして俺は臨時格納庫の一角を借りて作業を始めた。AI-1-129を3人で押して格納庫の中に運び込むと、配線類を全て外し発動機を下ろす準備を整え発動機架を0番隔壁に固定している10ミリボルトを緩め発動機架ごと取り外す。それを作業場所に置くと、次は発動機架から発動機を取り外すために、背面の11本のボルトを緩めた。
イサカ
「ところでこの栄一二型改はどうするんだ?水メタノール噴射とか栄三一型のカムとか色々とこだわっていたが・・・」
ヤマダ
「まあとりあえず置いておこう、持って帰るなり売るなりは後で考えればいい。」
そして発動機を付け替える、こいつは一枚のアダプタをかませるだけで栄とR1830を取り換えられるようになっている。最初は余計かと思ったが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
レミ
「よしっ・・・ヤマダ、全部締め付け終わったっすよ~」
ヤマダ
「了解、じゃあ・・・もう一回やぐらで発動機を持ち上げるか~」
そう言って俺たちはまたやぐらを組んで発動機を持ち上げ0番隔壁に固定しなおした。そして排気管カバーを取り外す、栄よりもR1830のほうが排気管が太くカバーを取り付けないといけないほどの隙間がないからだ。
イサカ
「やはりほんの少しR1830のほうが太く見えるな。」
ヤマダ
「まあそこは仕方ないな・・・カウリングでうまくまとめてるから勘弁してくれ」
イサカ
「ああ。だが二人とも何か忘れてないか?」
レミ
「酒!!」
イサカ
「愚か者」
ヤマダ
「そういやもう昼だな・・・」
そういうとイサカはAI-1-129の下に座ると、包みに包まれたおにぎりをふるまってくれた。
レミ
「塩加減が絶妙っす~」
ヤマダ
「握り具合も最高だ~」
イサカ
「ふふ、そうかそうか。」
俺たちはイサカの作ってくれたおにぎりを平らげると、また作業に戻った。早く作業を終わらせて基地攻撃の作戦を練らないとまた爆撃される可能性が高い。そして俺は朝届いた荷物の中から二二型の外翼燃料タンクを取り出した。
イサカ
「燃料タンクか?」
ヤマダ
「ああ、零戦三二型で発動機が栄一二型から栄二一型に変更されたときに胴体内燃料タンクが小さくなって航続距離ががくんと減ったんだ。だからそれを改善するために二二型以降では主翼両端に8ボットル燃料タンクを増設したんだよ。今回コイツを組み込もうと思ってな。」
イサカ
「待て待て、私のは二一型だろう?そこには主翼の桁が通っているはずだ。」
ヤマダ
「ところがどっこい」
そう言って俺はAI-1-129の主翼下に潜り込み外板を外した。
イサカ
「桁が・・無い?」
ヤマダ
「ああ、こいつは二一型の主翼主桁に一部二二型の内骨格を接合してある。燃料が足りなくなったら今みたいに外翼燃料タンクを増設するつもりだったんだ。まさかこんなところで役に立つとはな・・・強度確保大変だったぜ?」 1
レミ
「じゃあ、このAI-1-129は二一型の胴体とカウリングと主翼に二二型の主翼内骨格の一部と動翼、五二型のアンテナとプロペラスピンナー、20ミリ機銃は九九式一号二型で一艇100発ドラム弾倉、発動機はR1830-75ってことっすか・・・・?」
ヤマダ
「ああ、結構頑張っただろ?」
レミ
「あんた頭おかしいっすよ・・・」
ヤマダ
「そりゃどうも」
そうして俺は燃料タンクを既定の場所に収めるとバンドで締め付け固定した。燃料ホースと切り替えコックのワイヤを接続し外板を戻して装備は完了だ。
ヤマダ
「イサカ、操縦席で切り替えコックを操作してみてくれ。」
イサカ
「わかった、まず右外翼燃料タンクにするぞ。」
ヤマダ
「動作OK、次に左外翼燃料タンクに切り替えてみてくれ。」
イサカ
「切り替えたぞ。」
ヤマダ
「よし、動作OKだ。」
レミ
「カウリングを取り付ける準備が終わったっすよ~」
ヤマダ
「ありがとう、レミ。」
そうして俺達はエンジンカウリングを取り付け側面のパネルをはめた。
イサカ
「完成だな・・・」
ヤマダ
「ああ、まあ後部胴体のこの修正跡は気に入らねえけどな・・・・仕方ない。」
レミ
「まあ今はどうしようもないっすよ・・・とにかくお疲れ様っす。」
ヤマダ
「じゃあ・・・試しに飛ばしてみるか!」
そして三人で滑走路まで仕上がったばかりの機体を押してゆき、滑走路の端に機体を止め車輪止めを置く。そしてふと滑走路の脇を見ると何時しかの子供たちが集まっている。俺は子供たちのほうに歩いて行った。
ヤマダ
「何見てるんだい?」
子供
「えっとね・・・あのぜろせんが飛ぶのを見たくて!」
ヤマダ
「そっか、零戦はすきかい?」
一同
「うん!」
イサカ
「せっかくだ、近くで見せてやったらどうだ?」
ヤマダ
「そうだな、よしみんなおいで。」
そういって俺は子供たちを零戦のそばに連れて行った。目を輝かせて零戦を見ている子供達を見ていると、リッタとハヤトがアコの紫電を押してやってきた。
ハヤト
「あれ、ヤマダじゃんか。こんなとこで何やってるんだ?」
ヤマダ
「零戦の試験飛行だよ。そっちは紫電に何かしたのかい?」
リッタ
「オーバーホールをしたのでその試運転です!あと五機同じことをしないと・・・良ければ一緒に飛びませんか?」
レミ
「あ、じゃああたしも61-121飛ばしていいっすか?」
ヤマダ
「どうせなら皆で曲技飛行でもやるか。イヅルマの人たちも不安に駆られてるだろうし、多少は気晴らしになるだろ。」
リッタ
「いいですね!皆を呼んできます!」
イサカ
「じゃあ私たちも準備をするか。」
ヤマダ
「ああ、そうだな。」
そして俺とレミは子供たちがまた滑走路わきに戻ったのを確認すると、61-120と61-121の発動機を回しタキシングで滑走路に出る。そして発動機を回したイサカのAI-1-129の後ろについた。
ヤマダ
「イサカ!こっちはもういけるぞ!」
レミ
「アタシもおっけーっす!」
イサカ
「了解!」
そうして離陸滑走をするイサカに続き俺たちも離陸すると、三機編隊を崩さないようにゆっくりと高度を上げていく。
ヤマダ
「イサカ、R1830の調子はどうだ?」
イサカ
「問題ない、燃料タンクも切り替えてみたが滞りなく潤滑してる。」
ヤマダ
「そうか、よかった。」
レミ
「流石ヤマダっすね~」
ヤマダ
「やめろやめろ、さっそろそろ演技開始と行こうじゃないか。」
俺たちの三機の零戦はユーハングで謡われた「海鷲」の如くイヅルマの空を舞った。一通りの演技を終え、離陸してゆくカナリア自警団をバンクで見送った後着陸した。
ヤマダ
「イサカ、一通り飛んだがそれでも異常はないかい?」
イサカ
「ああ、何の問題もない。ただほんの少し油温が高い気がする。」
ヤマダ
「本当か、少し見てみる。」
そう言って俺はまずオイル冷却器空気取り入れ口を確認した、すると・・・
ヤマダ
「イサカ、ちょっと来てみな。」
イサカ
「なんだ?あっ・・!」
イサカは風量調節シャッタを半分閉めた状態で飛んでいたのだ。
ヤマダ
「これじゃオイルも冷えねえよ~」
イサカ
「ふふ・・・確かにそうだな・・ハハハ!!」
レミ
「イサカにしては珍しいっすね~ふふふ!」
ここまで笑ったのも久しぶりだ。俺たちはその後、疲れ切った体を休め戦闘機の翼も休めた。そして夜。ついに作戦会議となった。
・・・・・夜
アコ
「それでは・・・作戦会議を始めさせていただきます。イサカさんヤマダさん、よろしくお願いします。」
イサカ
「よろしく頼む。まずは使う戦闘機だが。カナリア自警団の紫電六機、我々の零戦を三機、ロイグの鍾馗、レンジの隼で行こうと思っている。」
ヤマダ
「カナリア自警団の紫電は100ボットル増槽を腹下に、ロイグの鍾馗とレンジの隼は50ボットル増槽を両翼下面に、俺たちの零戦は110ボットルを腹下に抱いて航続距離に余裕を得る。ただし紫電は航続距離が短いから増槽とは別で機体後部に増設燃料タンクを取り付けて航続力を稼ぐこととし、これを活用するように。」
イサカ
「次に武装だが、紫電は通常通り20ミリ機関砲4門のみ。鍾馗と隼も同じく12.7ミリ4門と2門だ。」
ヤマダ
「最後に俺たちの零戦だが、両翼下面に60キロ爆弾をアダプタを介して取り付け戦闘爆撃機として運用する。この爆弾は滑走路横に駐機されているミッチェル爆撃機を破壊するのに用いる。」
イサカ
「次は当日の行動についてだが・・・ひとまずこれまでで何か質問はあるか?」
リッタ
「ロイグさんの乗機が鍾馗なのは何故ですか?Ta152の方が火力も性能も高いはずですが・・・」
ヤマダ
「Ta152だと増槽燃料タンクが入手できない、航続距離が足りないんだ。それに武装が強力と言っても携行弾数がそれほど多くないから長時間の空戦には向かない。」
リッタ
「なるほど・・・了解しました。」
イサカ
「他に質問は無いか?」
・・・・・
イサカ
「無いようなのでその日の行動について説明させて貰う。まずは出発は午前5:00、各自この時間には必ず機体の発動機を回してすぐ離陸できる様に準備をしておくように。」
レンジ
「げっ!5時!?」
ロイグ
「バカ、静かになさい。」
イサカ
「離陸し次第変態を組む。一番前にロイグとレンジの二機編隊、その後ろに私・ヤマダ・レミの三機編隊、最後尾にはカナリア自警団の六機編隊だ。そして敵基地に向けて飛行するが、この後は必ず増槽燃料タンクの燃料から使うようにしてくれ。 編隊を組む途中に各自機体に異常がないかを入念に確認すること、無いことが望ましいがもし不調があれば即引き返すように。」
アコ
「私達の紫電はどういう順番で使えば良いですか?増設燃料タンクを使ったことがなくて・・・」
ヤマダ
「紫電の場合は、増槽燃料タンク→増設燃料タンクという形で使ってくれ。言うまでも無いと思うが増設燃料タンクは胴体後内部に搭載されるから被弾すると燃える可能性が非常に高い。十分に気をつけて空戦をしてくれ。」
アコ
「了解しました。」
イサカ
「良いか? 敵基地上空にたどり着く前に恐らく電索で我々は発見されているはずだ。迎撃に上がってきた戦闘機を直援部隊が撃墜してもらう訳だが、この時の目的はミッチェルと滑走路への爆撃であるのであくまでも我々零戦部隊から追い払うことに集中してくれ。」
ヘレン
「あまり離れたらいけないってことだね〜」
イサカ
「そういう事だ。迎撃戦闘機を追い払いつつ基地上空に到着したら、ロイグとレンジで基地の周りにある対空砲を全て破壊してくれ。それと同時に私がミッチェル爆撃機に、ヤマダが格納庫に、レミが滑走路に緩降下爆撃を行う。これが成功してもまだ滑走路上や格納庫内にまだ戦闘機が残っていた場合我々が無線で通達するので、リッタとヘレンが機銃掃射で一掃してくれ。」
ヤマダ
「当然だが増槽燃料タンクはどれだけ燃料が残っていても空戦前に投下してくれ。投下不良があった場合は直ぐに戦線離脱すること。それとレミには言ったがカラの燃料タンクが一番危ない、僅かに残ったガソリンが燃料タンク内で気化すると機銃弾一発でも燃えるか最悪爆発する。被弾する可能性が高い主翼燃料タンクを早く使いたい気持ちは分かるが空戦の時は必ず胴体内燃料タンクを使ってくれ。」
イサカ
「爆撃及び地上攻撃を終えたら後は迎撃戦闘機を全機叩き落として帰投する、空戦の目標時間は10分。ただし各自肝に銘じて置いてもらいたい、この滑走路に着陸するまでが作戦行動だ。一機も欠けて帰投する事は許さない。私からは以上だ。」
ヤマダ
「燃料タンクやオイル系統に被弾した場合、どれだけ機銃弾が残っていようが離脱するように。戦闘機の替えは何とでもなるが君たちの命の替えは何処にもない。全員無事で帰れるようにこちらも努力する、だから皆もあくまで自らの命を優先して行動するようにしてくれ。俺からも以上だ。」
レミ
「アタシから一ついいっすか?」
イサカ
「ああ、」
レミ
「恐らく今回迎撃に上がってくる戦闘機はグラマンF4Fのみのはずっす。撃墜した残骸を見ていたんっすけど震電やメッサーはどうもハンドメイド生産品みたいで、あたしらが行くときまでに増備できるほどの生産能力はあちらにはないっす。」
ヤマダ
「F4Fか・・・この前の空戦を見た感じ一撃離脱に徹する厄介な戦法を使っていなかったから問題はないかと思うが油断はしないように頼む。そして紫電はF4Fと格闘戦は絶対にしないように、二機編隊での一撃離脱戦法を徹底してくれ。」
イサカ
「他に質問はないか?」
・・・・・・・
イサカ
「よし、ではこれにて作戦の概要の説明を終わる。作戦決行は明日。皆戦果を期待する。解散」
そうして皆は風呂に入り寝る支度をした。だが俺は皆が宿舎に入ったのを見届けると格納庫へと向かった。
???
「こんなとこでなにしてるんっすか?」
???
「まあ予想はしていたがな。全く馬鹿者め」
ヤマダ
「レミ・・イサカ・・・」
レミ
「全く何やってるんっすか~、明日は朝早いのに。」
ヤマダ
「いや、零戦の爆弾投下機構をもう一度チェックしておこうと思ってな。」
イサカ
「それだけじゃないだろう? ホースとスポンジなんか持って。」
レミ
「アタシらも手伝うっすよ。」
ヤマダ
「ちぇ、全部お見通しかよ。」
そうして俺は爆弾投下機構の動作をチェックする。三機とも動作は正常だ、そして俺たち三人はいつものように機体を入念に洗ってやった。
ヤマダ
「明日は・・・よろしく頼むな。」
そう独り言を言いながら機体を洗う瞬間が俺は好きだった。三機を洗い終えると俺たちは61-120のそばに腰を下ろした。
イサカ
「ヤマダ、ありがとう。」
レミ
「ヤマダ、ありがとうっす。」
ヤマダ
「どうした、改まって。」
イサカ
「お前がいつも戦闘機を整備してくれているから私は安心して飛べる。お前には感謝しかない。」
レミ
「そうっすよ、あんたが時に強くあたしたちを引き留めてくれるから無駄死にしなくてすんでる。あたしからも感謝しかないっす。」
ヤマダ
「いいや、礼を言うのは俺のほうだ。イサカ、君は野垂れ死ぬかコソ泥になるかのクズだった俺を拾ってくれた。レミ、君はよその組の俺によくメシを奢ってくれたな。俺は・・・君たちに出会って初めて人の優しさに触れたんだ。」
イサカ
「何を言うか、お前はもう十分すぎるほど恩を返している。さあ、明日も早い。もう寝よう。」
レミ
「あんたよく覚えてるっすね~。そうっすね、もう寝るっす。」
そうして俺たちは三人で宿舎に戻り、瞼を閉じた。明日はいよいよ運命の時だ。
翌朝 午前3:30
俺は布団から出るとすぐに身支度を整え格納庫へと向かった、格納庫の横の寝室で寝ているハヤトを起こす。
「起きろ~!」
「んあ・・・もう朝か。」
「先に準備始めとくぞ。」
そして俺は増槽燃料タンクを全機の下に取り付けた。支度を終えて出てきたハヤトに全機への燃料補給を頼むと、俺は零戦の主翼下面にアダプタと共に60キロ爆弾を取り付けた。
「ごめんな・・・こんなもん抱かせて・・・」
「ヤマダ!燃料補給終わったぞ。」
「了解、じゃあ滑走路に並べるぞ~」
そうして俺たちが滑走路に機体を全て並べ終えた時には、もう4:30を回っていた。一番最初に出てきたのはカナリア自警団だった。ハヤトがカナリアに紫電の調子について細かく説明している。俺は三機の零戦の風防を開け座席を一番高い位置に移動させた。61-120の座席を上げ終え主翼から飛び降りると、イサカとレミが何かを持って出てきた。
ヤマダ
「もう発動機の暖気運転だけで何時でも行けるぞ。」
イサカ
「ありがとう。それと、これ。」
ヤマダ
「これは?」
イサカ
「柿の葉寿司だ、飛んでる途中に食べてくれ。」
レミ
「アタシからはこれっす。」
ヤマダ
「これは・・ラムネか?」
レミ
「そうっす、これも飛んでる時に飲んでくださいっす~」
ヤマダ
「ありがとう・・・じゃあ俺からはこれをあげるよ。」
そう言って俺は機体の中から羽毛入りの上着を取り出し二人に渡した。
ヤマダ
「これを着ると上空でも暖かいぞ。普段飛ぶ時とかに是非使ってくれ。さあ、そろそろ発動機を回そう。」
そう言って俺たちは手でそれぞれの愛機のプロペラを何度か回転させると機体に乗り込む。ステップはロイグとレンジに押し戻してもらった。燃料残量計を指さし確認すると、スロットルを押して各燃料タンクに圧力をかける。エルロン、ラダー、エレベーター全ての動作を確認し、カウルフラップを全開にしてから発動機を回す。
「総員前離れ!メインスイッチオフ!」
ウィィィン・・・バラバラバラ・・・!!!
いつも通り、発動機を回すとおおよそ5分ほど暖気運転をする。それを終えるとスロットルを前に押して全開に、次にアイドリングにまで戻し異音がないかを確認する。次はプロペラピッチ調節レバーでプロペラガバナ(プロペラ調速機)を操作しプロペラピッチが正常に変わるかを見る。そこまで終えたらもうあとはフラップを下げ出撃を待つだけだ。イサカにもらった時計を開き時間だけを見る。
4:58・・・4:59・・・5:00・・・!
ロイグとレンジが離陸滑走を開始する。すぐにイサカも滑走を開始した、一定距離を保って離陸する。脚を上げ、フラップを直すと高度を取る。1000クーリルほどに高度を取り燃料比率をリーンバーンに調節する、前回の偵察の時と違い今回はロイグとレンジについていけばいい分気持ちは楽である。飛行も安定したのでチャンネルを合わせイサカに無線を入れる。
ヤマダ
「イサカ、聞こえるか?」
イサカ
「ああ、はっきりと聞こえる。奇遇だな、私もお前に無線を飛ばそうと思っていた。」
ヤマダ
「なんだい?」
イサカ
「いやその・・いつか言っていた子供の話なんだがな、子供が出来たら移動手段をどうしようかと思ってな。いくら授かりながらでも全く移動しないわけにはいかないからな。」
ヤマダ
「今かよ・・・安心しろ、ちゃんと複座の二一型がある。君に不自由はさせないさ。」
イサカ
「お前・・・」
ヤマダ
「幸せにしてやろうな。俺たちと同じ不幸を繰り返さないように・・・」
イサカ
「・・ああ。」
レミ
「お二人さん、そういうのは二人っきりの無線のほうがいいんじゃないっすか?」
ヤマダ・イサカ
「レミ!?聞いてたのか!?」
レミ
「お二人さんずーっとアタシら零戦隊の無線で話してたっすよ、いいじゃないっすか~子供。あたしも見てみたいっすよ。」
イサカ
「いや・・・うん・・なぁ?ヤマダ・・」
ヤマダ
「あ・・ああ・・・なぁ?イサカ・・・」
レミ
「子供出来たら言ってくださいっす、あたしも抱っこしたいっすよ~」
イサカ
「おちょくるなぁ!馬鹿者ぉ!」
ヤマダ
「恥ずかしいからやめてくれ・・レミぃ・・・・」
レミ
「この前のお返しっす~」
そう言っていると基地が近づいてきた。俺たちは気を引き締め無線を調節し直すと、操縦桿を握り直した。少し早めに増槽を捨てる。
ロイグ
「滑走路が見えたわ!」
レンジ
「機影が見える!ひぃ・・・ふぅ・・・みぃ・・・四機だ!」
アコ
「了解!カナリア自警団、行きますよ!」
カナリア一同
「了解!」
そう言ってカナリアは俺たちの直援のためのリッタとヘレンを残して増槽を捨てグラマンの方へとダイブしてゆく。二機編隊を組んでダイブして行くと、一瞬の内にグラマンを撃墜した。
イサカ
「流石だな、カナリア自警団。」
ヤマダ
「ああ、さ!俺達も負けてらんねーぞ!」
そうして先にロイグとレンジが増槽を捨てダイブし対空砲火に機銃を浴びせる。副産物的にではあるが離陸滑走をするグラマンを数機撃破していた。
レミ
「対空砲破壊確認したっす!行けるっすよ!」
イサカ
「了解!行くぞ!!」
そうして俺たちはそれぞれの目標に向けて機首を据え、リッタとヘレンに後ろを任せてスロットルを絞り降下を開始した。俺は格納庫が目標だ、高度を下げながら投下するタイミングをよく図る。早くに投下し過ぎれば目標に当たらず、遅過ぎれば爆風で俺ごと吹っ飛ぶ。格納庫の屋根が近づいてきた
100クーリル・・・80・・・60・・・40・・・20・・・
「今だっ!!!!!」
ガシャンッ!
ヒュゥゥゥゥゥゥン・・・ドォン!!ドォン!!
「よしっ!」
次の瞬間俺は隣で滑走路に爆撃したレミの方を見る、レミはまさに今爆弾を投下したところだ。滑走路の真ん中に爆弾は落下し、見事に滑走路を破壊した。
レミ
「よっし、成功っす!」
そしてイサカの方を見る、イサカの二一型の下ではミッチェル爆撃機が炎に包まれ煌々と燃えていた。大成功だ。
イサカ
「よしっ!!!」
爆弾を捨て身軽になった俺たち三機は高度を上げる。格納庫にグラマンは居なかった。
ヤマダ
「機影だ!グラマン約20機!!」
イサカ
「待てヤマダ、F4Fに交じって別の機体が居ないか・・・?」
レミ
「シルエットがちょっと違うっすね・・・まさかF6F!?」
ヤマダ
「いや違う・・・あれは・・・FM-2か!!」
イサカ
「FM-2?」
ヤマダ
「F4Fをゼネラル・モーターズがライセンス生産した型だ、カーチス・ライト R1820 サイクロン搭載で約1250馬力!」
レミ
「またやっかいな・・・」
イサカ
「どうするんだ?」
ヤマダ
「イサカ、君の二一型のR1830-75 ツインワスプの方が馬力は上だぜ?」
イサカ
「ふふ・・・やる事は決まったな!」
イサカはいつも通り、高度をとって一撃離脱からの格闘戦に持ち込むつもりだ。俺がスロットルを全開にすると、レミが水メタノールを噴射しグンと加速した。
ヤマダ
「負けてられんな!」
俺も緊急ブーストで二人に続く。地上攻撃を終えたロイグとレンジも加わった。
ロイグ
「うわーいっぱいいるわ!」
レンジ
「グラマンばっかりじゃねえか・・・もうコリゴリだぜ」
アコ
「皆さん二機編隊を崩さないで下さい、行きますよ!」
全員散開し空戦開始だ、機体を裏返し下を通過するグラマンを追う。案の定グラマンは右旋回と急降下で逃げようとするが、五二型はロール性能と急降下制限速度が二一型よりも速いことを忘れているのだろうか?高度1500クーリル、速度120キロクーリル以下の格闘戦で零戦に勝てる戦闘機など何処にもない!
ヤマダ
「まずは一機!」
ギリギリまで近付き機銃を叩き込む、昇降舵を吹き飛ばすと俺は直ぐに離脱し他の敵を追う。ちょうどイサカが居たので後ろに着き二機編隊の体形になる。イサカはFM-2を追っているところだった。
イサカ
「ヤマダ!あれやるぞ!」
ヤマダ
「了〜解!」
イサカは馬力差を利用してわざとFM-2の前に出る、イサカの後ろに俺が着いていることなど露知らずのFM-2は必死になってイサカを追った。二一型が右旋回から鋭く左旋回に切り返す、追い切れないFM-2が水平飛行に移った瞬間、
ヤマダ
「もう一機!」
ダダダッ!!!
腹下の燃料タンクに弾が当たったらしくFM-2は火を吹き落ちて行く。
イサカ
「よくやった!周りも殆ど撃墜し終えた様だな・・・」
11機で20機を相手すると言えど、こちらは凄腕ばかりだ、空中戦は一瞬で終わる。迎撃戦闘機ももう上がってくる気配は無く、滑走路からは炎が上がっている。完全勝利だ。
イサカ
「ヤマダ、お疲れ様だ・・・」
ダダダッ!!!
ヤマダ
「イサカ!?」
イサカ
「クソ!燃料タンクをやられた、離脱する!」
ヤマダ
「あのヤロー・・・」
俺は離脱していくFM-2を追った、どうも最後の一機らしい。
レミ
「ヤマダ、前は頼むっすよ!」
ヤマダ
「了解!!」
そうして俺たちはFM-2にダイブする。照準器いっぱいに敵機の主翼が入った瞬間
ヤマダ
「墜ちろォ!」
ダダダッダダダダッ!!!!!
FM-2は堕ちてゆく。これで完封だ。
ヤマダ
「イサカ!大丈夫か!?」
イサカ
「とりあえず・・・ひとまず編隊を組むぞ!」
帰路につき来た時と同じ形で編隊を組みなおす。
アコ
「イサカさん、大丈夫ですか!?」
イサカ
「ああ、身体は何とかな・・・」
ロイグ
「燃料は大丈夫なの!?」
イサカ
「恐らく足りない・・・」
レンジ
「ヤマダ!何とかならないのか・・・!?」
ヤマダ
「そんな事言ったって・・・」
イサカ
「良いんだ、ヤマダ。私が油断したのが悪かったんだよ。」
ヤマダ
「良いわけあるか!・・あれ、ちょっと待てよ・・・?」
レミ
「どうしたんっすか・・・?」
ヤマダ
「イサカ、燃料切替コックが一つ多くなってないか!?」
イサカ
「ええ・・・?胴体内、右翼、左翼、右外翼、左外翼・・・あ!胴体後部!?」
ヤマダ
「それだ!それに切り替えてくれ!」
イサカ
「おお・・・この残量なら帰れそうだ!」
レミ
「ヤマダ、何でそんなのがあるんっすか?」
ヤマダ
「いや、すっっかり言うのを忘れてたんだが・・・R1830は栄よりも118キロも重いんだ。単純に載せ替えただけだと重心が前に寄るから胴体後部に50ボットル燃料タンクを増設したんだ・・・すっかり忘れていた。」
イサカ
「118キロ・・・レミ二人分だな、」
レミ
「あたしそんなに重くないっすよ!」
イサカ
「ふふふ!」
ヤマダ
「ハハハ!」
帰りは何事もなく、増槽を懸吊していたので燃料にも余裕をもって帰還することが出来た。誰もかけることなく・・だ。だが結局俺たちに攻撃を仕掛けてきた組織も、メッサーシュミットとTa152の二機も何もわからないままに終わってしまったので、何ともむず痒い出来事で終わってしまったのが悔やまれる。昼過ぎに滑走路へ着陸し冷却運転を終え発動機を止めて機体から降りると、ロイグとレンジが駆け寄ってきた。
ロイグ
「じゃあ申し訳ないけど私たちはお暇させてもらうわ、目立っちゃうとまずいからね・・・」
ヤマダ
「ああ、また会おうな。」
レンジ
「今度は面倒ごと持ってくるんじゃねえぞ!」
ヤマダ
「はいはい・・・」
ロイグ
「じゃあTa152も有り難く頂戴していくわ、じゃあね~」
そう言ってロイグとレンジは去ってゆく。そのあとはカナリア自警団と今後について少し話した後、とりあえず片付けやらなんやらをしようということになって臨時の格納庫やらを片付けていると、見覚えのある女性が歩いてきた。
ヤマダ
「なぁ・・イサカ・・・あの人ってさ・・・」
イサカ
「ああ・・・メモを持っているしカメラも持ってるぞ・・・」
レミ
「これはさっさとずらかったほうが・・・」
サクラ
「に が し ま せ ん よ ?」
ヤマダ・イサカ・レミ
「終わった・・・・」
そして俺たちはカナリア自警団と共に二時間以上質問攻めにされた、おまけに写真まで撮られてしまい、その写真はイジツ全国紙に載ったのでタネガシでは一か月以上幹部たちにいじられたおされることに・・・・
ヤマダ
「やっと終わった・・・」
イサカ
「もうへとへとだ・・・」
レミ
「酒・・・」
そしてカナリア自警団ともう一度話し、目立たたないうちに(結局手遅れであったが)帰ることになった。別れの言葉を交わし荷物をまとめ宿舎から出ると、一人の男が歩いてきた。
???
「すみません、あなた方がこちらの零戦の搭乗員の方ですか?」
ヤマダ
「はい、そうですが・・?」
館長
「突然申し訳ありません、私はカシマシで戦闘機博物館を運営しているものです。もしよろしければこの三機を三日ほど私の博物館の特別展示スペースに展示していただけませんか。この三機はとても有名なんです・・・私の博物館を救ってやると思って、お願いします!」
ヤマダ
「はぁ・・・・わかりました。」
レミ
「カシマシに行けるんっすか!?」
イサカ
「カシマシに何かあるのか?」
レミ
「酒っすよ酒!カシマシにはうまい酒があるんっすよ!!やったあ!」
ヤマダ
「そういうことか・・・じゃあ我々は出発の準備をしますので少々お待ちください。カシマシはどうせ帰り道ですしこのまま向かいます。」
館長
「ありがとうございます・・・!必要ないと思いますが護衛もつけさせていただきますのでこのまま離陸して向かってくださって結構です。それではまた後程・・・」
そして零戦に乗り込もうとすると、シノとリッタが歩いてきた。
シノ
「ヤマダ・・・本当に世話になったわね、またいつでも遊びに着て頂戴。」
リッタ
「あの栄一二型、タネガシに送っておきますね。またいつでも来てください!」
ヤマダ
「ありがとう。また時間があれば自警団のほうにも顔を出すよ。またな!」
そうして俺たちは離陸するとカシマシへ向けて飛んだ、離陸して巡航速度に合わせたあたりで横から護衛と思われる戦闘機が出てきたが、何か見覚えがある・・・・零戦五四型と隼三型乙・・・
ヤマダ
「ラプトル!?快人!?」
快人
「ヤマダぁ!?」
ラプトル
「護衛しないといけない三機の零戦ってのは君たちだったんだね。」
イサカ
「ラプトル、その後体は大丈夫なのか?」
ラプトル
「もう問題ないよ、あの時は世話になったね。」
レミ
「空から零戦が降ってくるなんてびっくりしたっすよ~ いや、冷静に考えたら当たり前っすね。」
ヤマダ
「なにボケかましてんだ・・・それよりラプ、五四型の調子はどうだい。」
ラプトル
「何の問題もないよ、やっぱりあんたさすがだね。噂で聞いてただけあるよ。感謝する。」
ヤマダ
「そりゃよかった、また何かあったら遠慮なく持ってきな。」
快人
「俺の三乙も持って行っていいか?」
ヤマダ
「本来は専門外だが・・・まあいいさ、三乙を受け入れてくれる修理工場もねえだろ。ははは!」
そうして馬鹿話を楽しみながらカシマシの滑走路に着陸しようと高度を下げる。
ラプトル
「それじゃあ僕たちの任務はここまでだ、また会えるといいね!」
快人
「じゃあな!」
俺たちも別れの言葉を言うと、カシマシの滑走路に着陸した。博物館と滑走路は直結していたみたいで、職員の案内に沿ってタキシングでそのまま展示スペースへと機体を進めて発動機を止める。目の前には既に大勢の見物客が居た。とりあえず写真の邪魔にならないように機体から速やかに離れると、少しだけ遅れて到着した館長と話をする。
館長
「本当にありがとうございます・・・三日分の泊まる場所は用意してありますので、カシマシを観光するなり博物館を見るなりご自由にお過ごしください。それでは私は博物館の事務作業がありますのでこれで失礼させていただきます。」
ヤマダ
「ありがとうございます。それでは、」
そうして俺たちは三日間、カシマシを観光したりレミの酒場はしごに付き合ったり、イサカの本屋巡りについて行ったりと、久々の平和な日々を満喫していた。そして最終日、展示している俺たちの零戦への質問でも受け付けようと思い博物館へ行く、いくつかの質問に答えると、赤いちゃんちゃんこを来た白髪の老人に話しかけられた。
老人
「この零戦の持ち主は・・・お前か?」
ヤマダ
「はい、私です。失礼ですが貴方は?」
老人
「名乗るほどの人間ではない・・・なに、私も昔零戦で戦っていてな。」
ヤマダ
「そうなんですか、ちなみにどの零戦で?」
老人
「三二型だ。」
ヤマダ
「三二型ですか、いい機体ですよね。ロールも早くて、」
老人
「お前は・・・私が昔零戦に乗せた小娘と同じ目をしているな、」
ヤマダ
「そうですか・・ちなみにその子は今何を?」
老人
「わからない・・・私はその子の前から消えるしかなかったからな。」
ヤマダ
「そうなんですか・・・」
老人
「時間を取らせてすまなかったな、失礼する。」
ヤマダ
「すみません、せめてお名前だけでも教えていただけませんか。」
老人
「・・三郎・・・」
小声だったので聞き取れず、俺は何か狐に包まれたようだった。その日の展示も無事に終わり、俺たちは館長に礼金を受け取ってくれと言われた、だが俺たちはそれを拒否しタネガシへと帰った。サダクニさんやクロとの久々の再会を喜び、一連の騒動は終わった。だが俺は、メッサーシュミットとTa152のあの二人と、近いうちに刃を交えることになる気がしてならない。
完