ゲキテツ大決戦   作:5145/A6M5

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盗難事件 後編

著 ヤマ

 

 

1944年7月1日/大日本帝国海軍鹿屋飛行場

 

・・・・・・・・・・

 

「山田さん、山田さん?」

 

俺は聞き覚えの全くない声に呼ばれていた、目を開けるとそこは零戦の操縦席の中だった。周りでは整備員があわただしく動き、発動機を回している。俺の乗っている二一型の発動機はまだ回っていなかったが、とりあえず今話しかけて来ている人に応対しなければならない。

 

「はい、失礼しました。意識がもうろうとしていて・・・」

 

「はは・・・本日直掩を務めさせていただきます。宮部久蔵一飛曹です。よろしくお願いします。」

 

直掩・・・・?ああ、俺は今から特攻に行くのだ。俺の二一型の下には250キロ爆弾が装備されている、先ほど杯を割りこの機体に乗ったのだ。そんなことも忘れているのか・・・情けない。俺はこの大日本帝国の搭乗員、海軍少尉だ。

 

「よろしくお願いします。宮部教官」

 

「敬語は辞めてください、私は士官であり貴方より階級は下であります。」

 

「いえ、大学出身の搭乗員はすぐに少尉の階級をもらえるのです。私が宮部教官に敬語を崩して話せるほどの人徳はありません。」

 

俺は大学在学中に学徒出陣・・・今まで兵役を免除されていた大学生や高等教育学生を海軍搭乗員として採用する制度にのっとり海軍搭乗員となった。筑波海軍航空隊で厳しい訓練のさなか、宮部教官には随分と世話になった。特攻志願書に丸を書き、急降下訓練を経て俺は今・・・・鹿屋飛行場にいる。

 

「ですがそれでは階級制度というものが・・・」

 

「では命令だ、宮部一飛。私に敬語を使わせよ。」

 

「・・・はい。」

 

「訓練の際はお世話になりました・・・本日はよろしくお願いします。私は教官のような操縦の腕はありません、必ず敵艦に体当たりを成功させ戦果を挙げて見せます。戦果確認もよろしくお願いします。」

 

「貴方のような優秀で誠実な人達が特攻に行くというのはとても残念です・・・よろしくお願いします。」

 

そこで宮部教官との会話は終わった、整備兵にエナーシャを任せ発動機の試運転を済ませ地上整備員の案内に従ってタキシングで滑走路に出る。爆弾がしっかり懸吊されているかを確認し風防を開け、地上で「旗振れ」をして見送ってくださる上官や同期に手を振りながら離陸する。

 スロットルを絞ってプロペラピッチを深くすると跡は編隊から外れないよう慎重に操縦桿とラダーを操作して飛ぶ。海軍第721航空隊・・・別名「神雷部隊」。直掩戦闘機の翼端は敵の注意を引くように、俺のような未熟な搭乗員の編隊飛行の補助として白く塗られている。

 

・・・・イサカ

 

ふと一人の女性(?)の名前が脳裏をよぎる。情けない・・・こんな大切な局面で女など。俺は雑念はすべて捨てた。

 

「・・・・約束だぞ!!絶対だぞ!!」

 

約束・・・?俺は女と約束をした覚えなどない・・・だがその声は編隊飛行中ずっと頭から離れなかった。

 

「・・・・私の怪我が治ったら、乗ってもいいか?」

 

女が戦闘機だと・・・?馬鹿な・・・

 

「ヤマダ!!後は頼んだぞ・・・!!」

 

何だ・・・なんなんだこの声は・・・!!!!

 

「うわあああ!!!!なんだ!?なんなんだ!?俺は大日本帝国海軍戦闘機搭乗員!!山田・・・俺の・・・おれは・・・?」

 

すると突然二一型の発動機がオイルを噴いた。それと同時に発動機の回転が不安定となりスロットルを開けても速度が維持できない。

 

「くそっ・・・このポンコツが!気合を見せろ・・!!」

 

横を飛ぶ宮部教官の五二型の軌道を頼りに何とか編隊を維持するが、油圧が下がってきた。すると・・・宮部教官がふとこちらを向き、「帰還セヨ」の手信号を送ってきた。そのころには速度が全く維持できなくなり編隊から遅れつつあった、だがそれでも俺は戻りたくなかった。

 

「いやです・・!!宮部教官・・!宮部さん・・・!!」

 

だがそんなことを言っている場合ではなかった、速度は下がり続ける一方・・・俺は地図を開き近くの島を探した、こんな時間飛んでいればもう鹿屋には戻れない。傍にあるのは・・・喜界島だった。俺はそこに機首を向けると機体を軽くするため250キロ爆弾を捨てた。

 

ガシャッ・・・

 

機体が軽くなる、下がりつつあった油圧を補助すべく手動ポンプで油圧をかけると喜界島に向け必死に飛んだ。

 

「ヤマダ、死ぬな!必ず生きて帰れ!死んだら私は承知しないぞ!!!」

 

またあの女の声だ・・・一体なんなんだ。俺は・・・俺はなんなんだ・・・

すると上空に機影が見えた、グラマンだ・・・もう俺になすすべはない。運が悪かったのだ。敵にやられるくらいなら潔く海面に突っ込んで自爆しよう。俺は機体を裏返し海面に向かって急降下した、グラマンは俺を追うまでもないと判断したのか上空で反転した。だがここまでしてしまえばもう生きて帰ってもなんの意味もない・・・ここで死んでしまおう。

 

「ヤマダ!!!貴様はまだ分からないのか!?」

 

俺はそこでハッとした、俺はここでは死んではいけない・・・すぐに機首を引き上げ水面ギリギリを水平飛行する。翼と地面などの距離が近いと効率よく揚力が発生するのだ、敵機が戻ってこないことを祈りつつ喜界島をめざした。イサカ・・・世界が違うが、俺は絶対にここでは死んではいけない。妻の元へ帰るため、たとえ四肢がなくなろうとも生きて帰らなければならない。そのまま飛んでいると、燃料がカラになる寸前に喜界島が目に入った。あと数分飛べば・・・

 

カラカラッ・・・カラッ・・・

 

発動機が止まった。俺はすかさずフラップを下ろして機体を海面に不時着させると、上着を脱ぎ足に括りつけた。鱶(ふか)は自分より大きなものをけっして襲わないという性質がある。上着で自分自身を大きく見せるのだ、機体が沈み出した時、俺は海面に飛び込んだ。夏とは言えど冬の海は寒い・・・

 

「死ねるか・・・ここでくたばってたまるか!!!!!」

 

時々叫びながら必死に喜界島をめざして泳ぐ、4時間ほど泳いだか・・・喜界島の浅瀬に辿り着いた。俺は生きている。フラフラと立ち上がると、基地の方向に向けて歩いて行こうとしたが、俺は途中で倒れてしまった。薄れゆく意識の中で、俺はイサカの声を聞いた気がした・・・・・

 

 

 

 

 

よくやった・・・。

 

 

 

 

 

 

「ヤマダは・・・・まだ目を目を覚まさないか?レミ」

 

「まだっすね・・・本当に悪かったっすイサカ、あたしらが一緒に動いていればこんなことには・・・」

 

「お前は悪くないさ、気にするな。」

 

イサカとレミの声がする・・・俺はどうやら助かったようだが体が動かない、さっきの夢はなんだったんだ・・・そんなことはどうでもいい。意識がなくても声だけが聞こえるというのは本当らしいな・・・

 

「全くこの馬鹿者が・・・・なんで単独で動いたら怪我をして帰ってくるんだ・・・本当に・・・・この・・大馬鹿者が・・・・ヤマダぁ・・・・ううっ・・・・」

 

「イサカ・・・でもこのバカ、本当によく帰ってきたっすよ。生きて帰るって約束は果たしたみたいっすね・・・・怪我してどうすんっすか・・・ヤマダのバカ・・・」

 

なんとかして声を出したいが・・・・するとイサカが俺の手を握った、見える訳では無いが手の感覚だけはわかったのだ。

 

「早く目を覚ませ・・・お前の整備でないとどうもしっくりこん・・・今日で3日だ、こんなにも休暇を与えた覚えはないぞ・・・馬鹿者が・・・」

 

「イサカ・・・こんな時になんなんっすけど、前ちらっと言っていた戦闘機の部品盗難はまだ続いてるんっすか?」

 

「ああ、今度は色んな戦闘機に手を伸ばしたようだが粗悪品の部品と取り替えるという手口は変わっていない。同一犯・・・と言うよりかはこの前の団体が一部だけだったというのが正しいな。」

 

なっ・・・まだ続いているのか!?こんなことをしてる場合ではない・・・俺はなんとか体を動かそうとする。

 

「ヤマダ!?」

 

イサカの手を必死に握り返した、だが俺にはまだそれしか出きない・・・・

 

「お前・・・もっと早く握り返せ・・・馬鹿者が・・・!!」

 

何もない、暗い闇の中で鉄の壁に向かってもがいているようだ。それでも諦められるわけがない、必死にもがき続けていると目の前がゆっくりと明るくなってきた・・・・

 

「うぅっ・・・イサカ・・・・?」

 

「ヤマダ!!!貴様・・・・!!」

 

明るくなった視界の中には、イサカの綺麗な髪と耳飾りが映った。

 

「馬鹿者・・・大馬鹿者が・・・・!!」

 

「イサカ・・・イサカ・・・!!」

 

「お前が寝ていた3日間・・・無断欠勤扱いだぞ!!この大馬鹿者!!!うわああああ!!」

 

「悪かった・・・悪かったよ・・・・イサカ・・・!!」

 

俺を抱きしめ泣きじゃくるイサカを俺はあるだけの力で抱きしめ返した。この温かみをどれだけ待ちわびたことか・・・二度と離したくない、俺の妻だ。

 

レミ

「ヤマダぁ・・・本当に悪かったっす!あん時あたしが着いてってりゃこんなことには・・・・」

 

ヤマダ

「レミは悪くねえよ・・・くっそあの爆撃機、なんの確認もせずに旋回機銃ぶっぱなしやがって・・・・」

 

イサカ

「爆撃機?」

 

ヤマダ

「ああ・・・機種は確か・・・『四式重爆』」

 

レミ

「ちょっと待ってくださいっす、そいつってもしかして無塗装のジュラルミンむき出しだったっすか?」

 

ヤマダ

「ああ、そんな感じだった。月明かりをよく反射していたぜ?」

 

イサカ

「レミ・・・ビンゴかもな。」

 

レミ

「AI-1-129の中に残ってた弾のお陰っすねぇ・・・」

 

イサカの表情が怒りの表情へと変化した、どうやら俺が撃たれたのは誤射では無かったらしいな・・・・

 

ヤマダ

「なにか心当たりがあるのか?」

 

イサカ

「お前が撃たれた7ミリ7機銃だが、空賊がよく使うような低品質の弾だった。そういう店には心当たりがある、色々当たってみたら最近旋回銃座用に弾を買ったのはその四式重爆に対してだけだった。」

 

レミ

「おまけにウチのシマの滑走路の離着陸の履歴を調べてみたらその四式重爆があんたが帰ってくるほんのちょっと前に離陸してるんっすよ。」

 

イサカ

「滑走路の管理者に話を聞いてみたら、四式重爆の中には戦闘機の部品らしきものがぎっしり・・・本来ならきっちり梱包された上で輸送するはずなのにおかしいと思わないか?」

 

ヤマダ

「確かに怪しいが・・・それだけだと俺を意図的に撃ったという証拠にはならないぜ?」

 

レミ

「話はこっからなんっすよ、昨日たまたまヤマダを訪ねてきた住人がいたんっす。その人がなんと四式重爆の機内での会話を聞いたんっすよ。」

 

ヤマダ

「は!?どうやって?」

 

イサカ

「無線のダイヤルの周波数がたまたま一致したらしいな。本当に運が良かったんだよ。」

 

レミ

「『飴色の二一型、間違いない。コクピットを撃て。』」

 

ヤマダ

「なっ・・・?」

 

イサカ

「お前は狙われたんだ・・・」

 

ぼさっと飛んでいた俺が悪いがそんなことはあとから言われて初めてわかる。恐らく五二型の件であの集団に目をつけられたのだろう。うかつに遠出が出来なくなったわけだ・・・

 

レミ

「にしても傷口を焼いて塞ぐなんてよくやったっすね~」

 

ヤマダ

「めちゃめちゃ痛かったぞ、しかも下側の傷口は塞げなかったしな・・・」

 

イサカ

「あんな夜中に帰ってきては医者もいない、レミの酒で消毒して私が包帯で縛り付けた。お前が気絶していて助かったぞ、麻酔などなかったからな。」

 

ヤマダ

「そうか・・・また迷惑かけちまったな。」

 

イサカ

「全く・・・回復したらどつき回してやろうかと思っていたが、そんな気も起きない。この大馬鹿者め・・・・よく帰って来たな。」

 

ヤマダ

「ああ・・・ありがとう。イサカ、君はもう傷は大丈夫なのか?」

 

イサカ

「自分の心配をしろ・・・私はもう大丈夫だ。」

 

そしてイサカとレミは仕事に向かう、俺は医務室で寝ていたが何もすることなく・・・松葉杖を使って左足に体重をかけないことを条件に外出は許可されたので、格納庫まで行くとAI-1-129の様子を見に行った。7ミリ7機銃弾は俺の斜め前から風防と太ももを貫いて操縦席の床板で止まったようだ。防弾のない零戦では当たり前のことだが・・・とりあえずガラスの交換だけで済むだろう。

 

イサカ

「ここに来ると思ったぞ・・・カナリア自警団が盗難の情報をこちらに横流ししてくれているが、どこでも窃盗が急に増えたせいで部品が足りていないみたいなんだ、どうする。うちならまだ部品を大量に取り寄せることはできる。」

 

ヤマダ

「いや、部品のストックはまだある。それにうちは大手から部品を卸ろしてもらってるわけじゃないから少なくともここは品薄にならない。」

 

イサカ

「抜け目がないな・・・とりあえず四式重爆のことから犯人を追っているが何の手掛かりもないんだ、すまない。」

 

ヤマダ

「いや、君が謝ることじゃない。俺たちが思っているより窃盗団は大きい団体で動いているんだろう。」

 

すると滑走路に見覚えのある機体が降りた。

 

ヤマダ

「ローラ!」

 

ローラ

「ローラ!じゃないわよ!あなたたち何回怪我すれば気が済むの!?イサカもヤマダも!」

 

ヤマダ

「うっ・・・すまない・・・」

 

イサカ

「すまない・・・」

 

ローラ

「まったくもう!・・・ところで、部品盗難の話なんだけど。」

 

ヤマダ

「何か情報が!?」

 

ローラ

「ええ、盗まれた部品は闇市に回されて空賊の戦闘機の部品として使われているようよ。戦闘機本体を根こそぎ奪うと目立ってしまうから部品だけにしてるのでしょうけど・・・おそらく部品をすげかえられてても気づいてない人もいるから、もっと被害は大きいでしょうね。」

 

すると滑走路にレミの五二型が降りたかと思うと、レミがこっちに走ってきた。

 

レミ

「ヤマダぁーーー!!大変っす!!」

 

ヤマダ

「どうしたどうした、そんなに慌てて・・・」

 

レミ

「あんたが整備してた二一型が急降下のときに空中分解したんっすよ!!」

 

ヤマダ

「なっ・・・!?」

 

レミ

「早く来てくださいっす!って・・・無理っすよね・・・・」

 

ヤマダ

「いや、行く」

 

イサカ

「馬鹿者!お前そんな怪我で・・・」

 

ヤマダ

「俺の整備した機体が空中分解したんだぞ!?俺が頭を下げに行かなくてどうする!」

 

イサカ

「っ・・・わかった、ただし無理はしないことだ!いいな!?」

 

ヤマダ

「わかってる・・・」

 

俺はX-133に乗り込む、AI-1-129は風防の修理が終わっていないからだ。ラダーを試しに踏んでみる、左足に痛みはあるが無理ではない。いけそうだ。

 発動機を回して飛び立つと、レミの案内で空中分解があったというところへ向かう。そこは荒野のど真ん中だった・・・ ぐしゃぐしゃにつぶれた二一型を見て、操縦席の「人だったモノ」に手を合わせ機体を調べる。レミ組の子分たちが遺体を素早く処理してくれたので腐臭などの心配はなかったが、いい気分ではない。この搭乗員は孤児あがりのイサカ組の部下だった。まじめで勤勉な奴で、戦闘機の異常にもよく気付くいい奴だった。

 

ヤマダ

「本当にすまなかった・・・。」

 

イサカ

「そう思うのなら早く原因を見つけてやろう・・・お前のミスなのか、他の原因なのかを。」

 

ヤマダ

「・・・ああ。」

 

空中分解の原因は大体絞られてくる、だが真面目なこいつが二一型の急降下制限速度を超えるとは思えない。機体表面や主翼をよく見てみたが・・・ふと気になってエルロンを調べてみた。

 

ヤマダ

「あ・・・あああ・・・・!!」

 

俺は信じられないものを見た、俺はこいつの二一型のエルロンはバランスタブ付きのものに取り換えている。それは作業記録などを見れば証明できる。だが、空中分解したこの機体は・・・トリムタブだった。

 

イサカ

「ヤマダ、どうした?」

 

ヤマダ

「この二一型も・・・盗難被害にあってる・・・」

 

すると亡くなったヤツと仲の良かった搭乗員が来た、俺は搭乗員の両肩をつかんだ。

 

ヤマダ

「この人は・・・いつこのエルロンになっていましたか!?飛ぶ前の目視点検でエルロンのすげ替えは気付くはずなんです!!」

 

搭乗員

「今朝からです・・・俺も気づいたので最近の部品盗難じゃないのかと注意しましたが、『ヤマダさんに申し訳ない』といって申告せずそのままここに練習に・・・」

 

俺は機体のほうに戻るとエルロンを持ち上げる、案の定エルロンの前淵の重りの重量が足りない。これだとエルロンを操作した瞬間にエルロンが異常振動を起こして空中分解を起こす・・・

 

ヤマダ

「馬鹿野郎が・・・・なんですぐに言いに来なかったんだ・・・・馬鹿野郎が!!!!」

 

組員全員の機体を毎日見ることが出来ない・・・当たり前だがこんなことがあったときはすぐに言わないとこんなことになる。俺は悔しかった・・・もう一度そのエルロンを見てみると、ハフに塗られた塗料の下にもう一層塗料が見えた。

 

イサカ

「ヤマダちょっと待て、そのエルロンの下の色・・・・見覚えがある。」

 

ヤマダ

「なっ・・・!?」

 

イサカ

「私とレミで一度撃退した空賊の機体の色と同じだ・・・少し話を聞きに行く価値があると思わないか?」

 

ヤマダ

「ああ・・・だがどうやって?」

 

イサカ

「空賊のアジトがどこにあるかは私たちが完璧に把握しているんだ・・・零戦に爆弾を抱かせて滑走路を爆撃、アジトの中から逃げ出した空賊どもをレミ組と私の組で片っ端から確保するのはどうだ?」

 

ヤマダ

「面白そうだ。じゃああいつを使うか・・・」

 

俺たちはもう一度亡くなった搭乗員に手を合わせ頭を下げると格納庫へと戻った。左足は相変わらず痛かったが今はそんなことを気にしている場合では無い、早く手がかりだけでも掴まないと被害は増える一方だ。俺は格納庫から六二型を持ち出した。少し前にやった爆撃任務だと五三型を使ったので、こいつを実際の運用として使うのが今回が初となる。

 

イサカ

「六二型か、確か戦闘機では無いんだったな?」

 

レミ

「ええ?そんなことあるんっすか?」

 

ヤマダ

「零式艦上戦闘機六二型、分類上は戦闘機だよ。ただこいつは爆弾を抱いて敵艦に爆撃を行った後に制空戦闘の援護に行くって言う運用をされたんだ。イサカはおそらくそのことを言っているんだろう?」

 

イサカ

「ああ、たしか・・・戦闘爆撃機だったか?」

 

ヤマダ

「そうだ。この六二型には30キロ爆弾、60キロ爆弾、250キロ爆弾、500キロ爆弾のいずれかを懸吊できる。今回は空賊のアジトを爆撃するんだ、500キロ爆弾を使おう。」

 

レミ

「ひょえ〜重そうっすね・・・」

 

そして三人で作戦を話し合う、地上での空賊の確保はレミ組に完全に任せることにしてイサカ組の組員は制空戦闘に専念することになった。俺・イサカ・レミ・クロで爆弾をアジトに放り込み、サダクニさんには制空戦闘機隊の指揮をとってもらう事になった。作戦決行は・・・明日だ。

 

 

 

 

・・・・・夕方

 

ご飯を食べ終えた俺は格納庫に戻る、倉庫の奥の在庫から零戦の風防ガラスを取り出しAI-1-129の操縦席に乗ると、ぶち抜かれて割れたガラスの抑えのネジを取り外しガラスを交換した。

 

「ごめんな、痛かったよな・・・今直してやるからな。」

 

嘘のようだが左足に空いた風穴はかなり塞がり痛みもほとんど引いていたが・・・

 

「いてて・・・」

 

操縦席から降りて主翼から地面に飛び降りた時、少し痺れるような痛みが走る。やはり完全には治っていないし、戦闘爆撃のあとの引き起こしで傷口には激痛が走るだろう。

 

「まだ・・・痛むか?」

 

「イサカ・・・」

 

「全くお前は、AI-1-129の風防を交換していたのか?」

 

「ああ、いつまでも怪我したまんまだったらコイツも可哀想だろ?」

 

「だから先に自分の心配をしろと言っているんだ、全くお前は無茶ばかりして・・・」

「そんな心配しなくて大丈夫だ・・・と言っても無駄だな、本当に心配かけたな。」

 

そしてAI-1-129を一度奥に直すと、作戦で使う六二型を持ってくる。

 

「イサカ、ちょっと乗ってみてくれ。発動機の試運転をしたいんだ。」

 

「ああ、わかった。」

 

六二型は五二型丙の機体下面に爆弾懸吊架を埋め込み水平尾翼の構造を強化した機体だ。それまでの零戦と違って爆弾を切り離した後爆弾懸吊用のアダプタが残らないので空戦性能が低下しないという利点がある。水メタノール噴射装置が無いので発動機の出力が足らず長時間の旋回戦は苦手だが、燃料を使えばエネルギー保持率が馬鹿みたいに悪いわけではないので一撃離脱で速度を乗せた後に短時間の旋回戦で決着をつければそこまで劣悪な性能の戦闘機というわけではない。その代わり防弾と武装は非常に強力で乗った時の安心感は凄い。

 

「整備員前離れ、メインスイッチオフ!エナーシャ回せ!」

 

六二型は五二型丙と操縦系統は変わらない、いつもの手順で発動機を回し回転数などを一通り確認するとプラグのすすを飛ばし発動機を止めた。するとシマの住人が飛び込んできた。

 

住人

「はぁっ・・・はあっ・・・イサカさん!!」

 

イサカ

「落ち着け、どうした?」

 

住人

「今街の酒場で空賊らしきヤツらが暴れてるんです・・・!ヤマダさんを出せがどうのこうのって・・・」

 

イサカ

「なんだと? 今すぐ行く、ありがとう。ヤマダ、行くぞ!」

 

そして俺とイサカは酒場へと駆け込む、そこでは15、6の少年が空賊三人に殴られていた。

 

ヤマダ

「待たせたな、ガキ相手に本気になるクソ空賊共」

 

空賊

「やっと来たか!! お前の部品を売るって言ったこのガキがすぐ壊れる部品だけ売りやがってバックレようとしてな、お前に部品を弁償してもらおうと思ってな?」

 

ガキ

「は・・・離せ!!!」

 

空賊

「お前が言ったんだろうが!? ヤマダの使ってるのと同じ部品を売ってやるってな!」

 

ヤマダ

「そうかよ・・・じゃウチの戦闘機一機でどうだ?」

 

ガキ

「なっ・・・?」

 

そして俺はウチの組の予備機の二一型が一機タネガシの滑走路にある事を伝えた。そして店主と客に詫びを入れ酒一本分の金を置いて行く、そのまま格納庫に戻ろうと酒場を後にした。空賊にタダで戦闘機をやるわけなどない、大切に整備した二一型を失うのは心苦しいが空賊が帰る前に「片付け」なければならない。するとガキがこっちに走ってきた。

 

ガキ

「あのっ・・・助けてくれて・・・」

 

俺はガキの顔を思い切り殴った。

 

ヤマダ

「馬鹿野郎!!俺はてめぇを助けるためにやったんじゃねえよ。」

 

ガキ

「で、でも・・・」

 

ヤマダ

「マフィアってのはな、顔で商売してんだ。お前を助けるためにあいつらに頭を下げるなんて出来ねんだよ。」

 

ガキ

「なら俺なんて知らないって・・・言っても良かったんじゃ・・・?」

 

ヤマダ

「さぁなぁ・・・そんな事は今お前に言われて気づいたぜ。じゃあなクソガキ、もう馬鹿なことすんじゃねえぞ。」

 

そう言って俺はイサカと一緒に格納庫に戻る道を歩いていた。

 

イサカ

「なんで私よりお前の方がカッコつけてるんだ・・・」

 

ヤマダ

「ご・・・ごめん・・・?」

 

イサカ

「全く・・・じゃあ飛行場に空賊を片付けに行くか。」

 

ヤマダ

「ふふっ、ああ。」

 

イサカ

「私がX-133に乗ってみてもいいか?」

 

ヤマダ

「おう、じゃあ俺はAI-1-129を使おうかな。」

 

イサカ

「ふふ・・・約束を果たしたな。」

 

ヤマダ

「?」

 

イサカ

「怪我が治ったら一緒に飛ぶ・・・そう言っていただろう。」

 

ヤマダ

「ああ、確かにそうだな。ただ俺の足の怪我はまだ治ってねーけどな!ははは!!」

 

イサカ

「ははは!!じゃない馬鹿者め!・・・ふふふっ」

 

俺とイサカは笑い会うと、格納庫の中からAI-1-129とX-133を滑走路に出した。12mの主翼を持つ二機は夕陽に照らされて佇む、イサカはX-133に、俺はAI-1-129に乗りこむ。

 

「ヤマダ、もういけるか?」

 

「ああ、飛ぼう。空賊が帰っちまう。」

 

「了解。」

 

イサカに続いて離陸すると、機首を滑走路のほうへと向けた。タネガシに来た人間が使う滑走路と俺たちが普段使っている滑走路は別だ。滑走路を目下にとらえると、ちょうど空賊が帰ろうとしているところだった。イサカのふったバンクの合図で俺たちは離陸した空賊の機体にダイブした。

 

「ごめんな、俺の二一型。」

 

ダダダッ・・・バキッ!!

 

零戦のもろさを実感する、7ミリ7機銃が主翼を数発貫くとたちまち燃料タンクが火を噴く、20ミリが胴体に当たれば機体は木っ端微塵だ。イサカも一機を撃墜する、ついでだ、ここで最後の一機も落としておく。

 

「イサカ!前行け!」

 

「了解!」

 

イサカはすぐに最後の一機の後ろにつく、俺はその後ろにピタリとつく。イサカが仮に弾切れや不具合で離脱した際のバックアップだ。

 

ダダッ!!ダダッ!!

 

タップ撃ち・・・連射をして銃身が過熱した後に連射をすると機銃が詰まる。それを防ぐためにトリガーを引く時間を短くして対応するのだ。空賊はほどなく荒野に落ちて行った。悪いがここのシマでゲキテツ一家にケンカを売った、運が悪かったのだ。

 

「帰ろうか、イサカ。」

 

「ああ、久々に飛んだが・・・やはり空はいい。お前の整備した零戦に乗って飛ぶ空は最高だ。」

 

「ありがとう。どうだ? 二二型は、まあ発動機はツインワスプだが・・・」

 

「同じ発動機のAI-1-129と比べても若干加速と速度の伸びがいい気がする。カウリングの形状の影響か?」

 

「栄二一型に変わってからカウリングが絞り込まれたからな。にしてもまあ俺が色々AI-1-129の部品を二二型のに変えたからX-133とAI-1-129の違いはほぼ発動機と塗装だけだな、ははは!」

 

「ふふっ、AI-1-129のエルロンを変えたのを知ったのはお前が怪我をしていた時でな・・・ちゃんと礼を言えていなかった。ありがとう。ヤマダ」

 

「よせやい・・・俺は君が安心して飛べればいいと思っただけだよ。」

 

そして俺たちは滑走路に着陸し、機体を軽く洗ったあと格納庫に収め眠りについた。久々のイサカと寝る夜である、幸せな温かみを横に抱えながら目をつぶった。

 

 

 

 

 

・・・・・翌朝

 

俺は朝早めに起きると、六二型を滑走路の一番後ろに四機押して並べた。500キロ爆弾を懸吊した六二型は滑走距離が長くなる、他の制空戦闘機隊の軽い戦闘機と同じように上昇するため一番後ろから離陸し滑走距離の終点を揃えるのだ。並べ終えて増槽燃料タンクを取りに格納庫に戻ると電話が鳴った。

 

「はいもしもし?」

 

「ヤマダ!!あんた怪我が治ってたのなら連絡くらいしなさい!ほんっと心配ばかりかけないでよ!!」

 

「シ・・・シノ!?」

 

「そうよ!あの日あんたは帰って来ないし、レミからあんたが怪我して寝たきりっていう連絡があったっきり何も無いのよ?ドタバタしてたのはわかるけど一声くらいかけてくれてもいいじゃない?」

 

「すまないな・・・ふふ、けっこう心配してくれてたんだな。」

 

「なっ・・・そんなんじゃないわよ!アコにも伝えておくわ、もう無理はしないように!!」

 

「はぁ〜い・・・」

 

「じゃあね、またこっちに遊びに来なさい。」

 

「ああ、朝早くからありがとうな。」

 

そう言って電話を切ると、レミとクロが部屋から降りてきた。

 

クロ

「一人でやるなっつってんだろ・・・手伝うぜ。」

 

レミ

「クーロ、言っても無駄っすよ〜」

 

クロ

「たしかにな。」

 

ヤマダ

「悪い悪い・・・じゃあクロはそこのジャッキにセットしてある500キロ爆弾を六二型の下面に固定してくれ。爆弾先端の風車を回さないようにな。」

 

クロ

「了解、フックに引っ掛ければいいんだな?」

 

ヤマダ

「ああ、失敗したら吹っ飛ぶから気を付けてな。」

 

クロ

「わかった、」

 

レミ

「アタシは・・・ヤ〜マダっ、誰か来たっすよ。」

 

そう言ってレミが指さした方を見ると、イサカがいた。長い足と短く切られた黒髪は美しい。

 

イサカ

「はぁ・・・お前たちご飯はどうする気だ?」

 

ヤマダ

「そういやなんにも考えてなかったぜ・・・」

 

イサカ

「そうせそんなことだろうと思ったぞ。ほら、お前達の分の航空弁当だ。六二型の操縦席に乗せておく、高度1000クーリルを超えるまでに食べてくれ。」

 

ヤマダ

「ああ・・・ありがとう・・・」

 

レミ

「ありがとうっす。ヤマダ何泣いてんっすか〜?」

 

ヤマダ

「だって・・・イサカの弁当食うの・・・久しぶりでよ・・・」

 

そして俺は150ℓ増槽を主翼に懸吊する、六二型は胴体中央部分に爆弾を吊る関係で普段の位置に増槽を懸吊することが出来ない。左右主翼下面に普段の半分の容量の増槽を懸吊するのだ。

 

ヤマダ

「レミ~、燃料入れてくれ~」

 

レミ

「了解っす~」

 

クロ

「ジャッキ使っても重てぇ・・・」

 

イサカ

「ヤマダ、何かすることはあるか?」

 

ヤマダ

「じゃあ機首13.2ミリの弾入れるか、レミ、クロも手伝ってくれ~!」

 

六二型・・正確には五二型丙から機首の7ミリ7機銃が廃止されている。三式十三粍固定機銃は米国M2ブローニング機銃の無断コピー品だが、7ミリ7より威力が高く優秀な機関砲となっている。四人で弾を積み込み終わると、制空戦闘機隊が続々と滑走路に整列し始めた。サダクニさんがいろいろと指示し、出撃準備を進めている。すると戦闘機隊の搭乗員がこちらに歩いてきた。

 

搭乗員

「今日はよろしくお願いします。全力で護衛させていただきます。」

 

ヤマダ

「こちらこそよろしくお願いします。機体の調子はどうですか?」

 

搭乗員

「快調であります。では、御武運を。」

 

前では制空戦闘機隊が発動機を回している。俺はレミとクロの機体のエナーシャを回すとイサカの機体の下に入った。

 

イサカ

「整備員前離れ!メインスイッチオフ、エナーシャ回せ!!」

 

キィーーーン・・・・

 

ヤマダ

「コンタクト―――!!!」

 

発動機の回転が安定したのを見届け俺は自分の機体に戻る、サダクニさんにエナーシャを頼もうかと思っていたが後輩たちが既に発動機を回してくれていた。

 

後輩

「ヤマダさん、発動機に異常ありません。」

 

ヤマダ

「すまんな、ありがとう。」

整備員と操縦席を代わると、ブレーキを思いきり踏み込んでスロットルをあおる。プラグのススを飛ばし回転が安定したのを確認すると足元の確認用窓から爆弾がちゃんと吊られていることを確認すると操縦席を一番高い位置にセットし飛行眼鏡をかける。前の制空戦闘機隊が離陸していくのを見ながらイサカの合図を待つ。その前にフラップを20度まで下ろす、これをしないと重い爆弾と増槽を抱いている六二型はまともに離陸できない。

 

クロ

「ヤマダ!!」

 

ヤマダ

「どうした!?クロ!」

 

クロ

「今度無茶しやがったら承知しねーぞ!!イサカだけじゃなくレミにも心配かけやがって!!」

 

ヤマダ

「わかってるよ・・・お前も心配症だな!!」

 

クロ

「うるせー!!」

 

前の制空戦闘機隊がはけだしたころ、風防からスッと伸びた手を見つける。大きく左右に振られたその腕を確認すると俺たちはスロットルを全開まで開けた。それをしても耐荷重ギリギリを懸吊した六二型はなかなか離陸しない。

 

ヤマダ

「ごめんな・・・帰ったらちゃんと整備して洗ってやっからな・・・」

 

そっと操縦桿を引き離陸すると、直ぐに主脚を格納しフラップを上げる。離陸してからは空気抵抗を少しでも減らさなければ加速が出来ない、いつもの感覚で操縦桿を引くとあっという間に失速してしまう。かなり浅い角度で機首を維持しトリムタブを設定する。上空で待機してくれている制空戦闘機隊に合流すると編隊を組んで一路目的地に向かう。

 飛んでからも暇になることは無い、燃料コックを主翼増槽燃料タンクに切り替えて容量をしっかり確認しながら左右を切り替える。均等に使わないと機体に余計な負荷をかける事になるからだ。

 

レミ

「ヤマダぁ~」

 

ヤマダ

「どうした?」

 

レミ

「戦闘爆撃ってことはアタシらこのお荷物捨てた後は空戦できるんっすよね?」

 

ヤマダ

「ああ、制空戦闘機隊に合流する手はずになってる。」

 

レミ

「空戦が楽しみっすよ~、空賊のアジトってことはいっぱい上がってくるんっすよねたぶん~」

 

イサカ

「油断するなよ、レミ。いくら相手が空賊といってもどの戦闘機を使っているかわからないんだからな。」

 

レミ

「わかってるっすよ~」

 

増槽燃料タンクの残量には常に目を光らせなければならない。右の残量が半分になったところでコックを左に切り替える、今回誘導はサダクニさんに任せているので航路計算をしなくていいのはかなり気が楽だ。

 

ヤマダ

「クロ、聞こえるか?」

 

クロ

「ああ、はっきり聞こえる。」

 

ヤマダ

「言わなくてもいいと思うが・・・レミを守ってやってくれ。」

 

クロ

「誰に向かって言ってんだ、お前こそしっかりイサカを守ってやれ。」

 

ヤマダ

「ふふっ、ああ。」

 

そうこう言っていると増槽燃料タンクが左右ともカラになった。外翼燃料タンクにコックを切り替え増槽を捨てる、これだけで相当軽くなるのだ。当然だ、300キログラムが一気に抜けるのだから。

 

レミ

「やっと機体がちょっと軽くなったっす~」

 

イサカ

「やはり耐荷重ギリギリの零戦は重かったな・・・」

 

するとサダクニさんの零戦がバンクを振り7ミリ7機銃を撃った、「敵機発見」の合図だ。俺は半装填で留めていた機首の13.2ミリ機銃を完全装填し胴体内燃料タンクにコックを切り替える、風防がしっかりと閉まっていることを確認して備える。すると一斉に横の零戦が増槽を捨てた。

 

レミ

「始まったっすよ!!」

 

イサカ

「周りは任せたぞ・・サダクニ」

 

前からダイブしてきた機体は零戦二一型だった。まあエルロンがそれだった時点でだいたい察しはついていたが・・・あのエルロンを使っているならこの空賊の対策は簡単だ。

 

ヤマダ

「イサカ!レミ!クロ! もし爆撃地点についても空賊が引っ付いていた時はそのまま急降下しちまえ!」

 

イサカ

「なぜだ!?急降下中なんて一番の的だろう!?」

 

ヤマダ

「イサカ、あの空中分解した二一型を覚えているか!?」

 

イサカ

「あ、ああ・・覚えているが?」

 

ヤマダ

「こいつらはあの二一型と同じエルロンを使ってんだ!俺たちの急降下にはついてこれない!」

 

イサカ

「そういうことか・・了解!!」

 

二一型はエルロンの前後重量不均等が原因で空中分解事故を起こしている。そしてその対策が施されるまで二一型に課せられた急降下制限速度は・・・約540km/hだ。主翼が長く抵抗が大きいため急降下した時の加速も六二型とは違う。

 

イサカ

「降下地点だ!行くぞ!!」

 

俺たちは機体を裏返し急降下に入る。カウルフラップを閉じスロットルを絞ると重力に引っ張られ六二型は加速し出す。何も考えずついてきた空賊の二一型が俺の横で一機バラバラになった。無理をするからだ・・・馬鹿め。射爆照準器をしっかりと覗き滑走路を狙う。

 

1000・・・800・・・600・・・400・・・200・・・今だ!!!

 

ガシャンッ・・・・・・!!

 

機体が軽くなる、速度は700km/hに達していた。六二型は水平尾翼が強化されているのでこの速度からの引き起こしでも機体はびくともしない。機体は・・・・な。

 

ヤマダ

「うおおおおお!!!!!」

 

強烈なGで失神しないように声を上げながらスロットルを開け操縦桿を思いきり引き付ける。爆風の範囲から逃げないといけない。

 

クロ

「ヤマダ!うるせえ!」

 

ヤマダ

「これやらねーと失神すんだよ!今度は俺たちのターンだ、行くぞ!!」

 

俺はイサカと二機編隊を組むと低空にまで高度を墜とした二一型を狙う。爆弾が爆発してめちゃくちゃになった基地から逃げ出す空賊の残党をレミ組の地上部隊がどんどん捕まえていた。

 

ヤマダ

「うわぁ・・・すっげえ。」

 

レミ

「アタシの組は腕っぷしが自慢なんっすよ~」

 

ヤマダ

「流石だな、レミ」

 

イサカ

「私たちも行くぞヤマダ!こっちは連携で勝負だ。」

 

ヤマダ

「おうよ、任せとけ!!」

 

低空で速度を失った二一型をどんどん片付けていく。ある意味地上で逃げだした奴らは幸運かもしれない、この空で撃墜されることはほとんど死を意味するのだから。空賊を片付け終えると、俺たちは地上で活躍してくれたレミ組の組員たちに大きくバンクを振った。今できる最高の敬意の表し方だ。

 

イサカ

「ふう・・・帰ろうか。」

 

ヤマダ

「ああ、そうだな。」

 

レミ

「もうへとへとっすよ~」

 

クロ

「メシが喰いたい・・・」

 

ヤマダ

「お前イサカの航空弁当食ってねーのか!?」

 

クロ

「いや、すごくうまかったが・・・腹減った。」

 

ヤマダ

「空戦の腕もいっちょまえだが食い意地もいっちょまえだな・・・」

 

軽くなった機体で高度を上げ、サダクニさん達と合流する。皆バンクを振って快く迎えてくれた。

 

サダクニ

「組長、お疲れ様です。」

 

イサカ

「私だけじゃなくて皆にも言ってやってくれ。皆の協力が無ければ爆撃を成功させることすらままならなかった。ありがとう。」

 

すると俺の横に一機の二一型が寄ってきた。出撃前に話しかけてきた搭乗員だった。

 

搭乗員

「ヤマダさん!お疲れ様です、爆撃お見事でした。」

 

ヤマダ

「ありがとうございます。貴方も見事な空戦でしたよ、あなたの機体を整備できると思うと鼻が高い。」

 

搭乗員

「もったいないお言葉です・・・ありがとうございます!」

 

燃料タンクを外翼タンクに切り替え編隊を組む。空賊たちからの「お話」を聞くのはレミ組に任せてくれということなので、明日一日は久しぶりにイサカと二人でゆっくりとした一日を送れそうだ。

 

ヤマダ

「イサカ、明日の朝格納庫の裏の水場に来てくれ。面白いものを見せるよ。」

 

イサカ

「ほう?それは楽しみだ。」

 

ヤマダ

「かなり珍しいもんだが・・・俺たちにとってはすごく馴染みがあるかもな。」

 

イサカ

「そこまで言われると楽しみが無くなってしまう、明日に取っておこう。」

 

そして俺たちは滑走路に降りた。六二型を先に格納庫にいれると、他の制空戦闘機隊の二一型を別の格納庫の駐機位置に移動させる。機体の事後整備を後輩たちに任せ、俺たちは自分が乗っていた六二型を洗ってやった。排気管の後ろについた汚れをこそげ落として薬莢排出口から出ているすすを綺麗に落とす。それが終われば夕陽に当てて天日干しだ。水滴を完全に飛ばしてやらないと機体が腐食してしまう。

 

ヤマダ

「よっし・・綺麗になったべ」

 

イサカ

「なあヤマダ、六二型のカウリングなんだが少し上下に大きく無いか?」

 

ヤマダ

「ああ、水メタ噴射を搭載する関係で気化器への空気導入口がでかくなったからな。」

 

レミ

「ていうかスピンナーもやたらでっかくないっすか?」

 

ヤマダ

「それも正解だな。五二型乙からだがでかくなってる。プロペラピッチ変更機構が大型化したからな。」

 

そして綺麗になった六二型を格納庫に戻した。

 

ヤマダ

「よし、飯でも食いに行くか!」

 

クロ

「俺も出すぜ、ヤマダ。」

 

ヤマダ

「マジか、助かる!」

 

イサカ

「何にするんだ?」

 

レミ

「寿司とかどうっすか〜寿司〜」

 

ヤマダ・クロ

「あんな高いのん食えるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・翌朝

 

俺は一足先に布団から出ると格納庫の裏の水場へと歩いていった。浅瀬に「それ」は浮かんでいる。俺はその機体にかかっているカバーを剥ぎ取った。それと同時に俺は叫ぶ。

 

ヤマダ

「ベッグ!ロイグ!居るのはわかってんだ、出てこい!」

 

すると後ろから二人は出てきた、そりゃそうだ。俺たちが使う滑走路に堂々と降りて格納庫の横にあの目立つ機体を止めていればいやでも気づく。

 

ベッグ

「もしかして・・・その二式水戦ってヤマダのなのだ?」

 

ロイグ

「私はそんなこったろうと思ってたけどね・・・」

 

ヤマダ

「仮にこれが俺のじゃなかったとしてだ、フツー俺達ゲキテツ一家の関係者しか使わねー滑走路に堂々と機体を止めるか?」

 

ロイグ

「えっ? あそこってタネガシの滑走路じゃないの?」

 

ヤマダ

「そうだとしたら俺があんなに好き勝手機体を飛ばせるわけねーだろ・・・」

 

聞いてみれば目撃情報だけを頼りにこの二式水戦を見つけ盗んでやろうと来たらしい。うちの格納庫の裏手にある時点で俺の機体だと気付きそうなもんだが。

 

ヤマダ

「とりあえず帰った帰った、今日はイサカと二人で過ごせる貴重な休日なんだよ。」

 

ベッグ

「せめて飛んでる所を見たいのだ〜!」

 

ヤマダ

「今度見せてやっから!お互い怪我も治って久々の休日なんだ、二人にしてくれ!」

 

イサカ

「まあ良いじゃないか、飛んでるところくらい見せてやろう。」

 

ヤマダ

「むがああああ!! なんでこうなるんだよ!!」

 

そしてイサカ、ロイグ、ベッグを連れて機体のそばによる。

 二式水上戦闘機は島に飛行場を設営し終えるまでの間の制空戦闘用に開発されたのだ。海も川も無いイジツでは何の需要もなく無用の長物と化してしまい、設計図すらどこにあるかわからない代物だったが工廠跡を漁っていた時に設計図と寸法票が出てきたので、零戦二一型を改造して製作したのだ。ここの格納庫の裏に水場があったのも幸運だった。こいつの愛称は「下駄履き零戦」だ。

 

イサカ

「面白いものというのはこれのことか・・・お前が見ていた零戦の写真集で見たことがある。」

 

ヤマダ

「格好いいだろ?」

 

ロイグ

「水の上から飛べるってロマンあるわねぇ、性能的にはどうなのよ?」

 

ベッグ

「見た感じ下の浮きは切り離せないのだ?」

 

ヤマダ

「ああ、下の浮き・・・フロートは切り離せない。」

 

二式水戦は零戦の主脚、尾輪を撤去してフロートを取り付けた水上戦闘機だ。フロートがついたことによって機首のすわりが悪くなるのを防ぐためにラダーが大きく改修されている、その他に増槽を懸吊出来なくなることの対策として主フロート内部に330リットル燃料タンクを搭載しているが、それら以外はほとんど零戦と変わっていない。

 

ロイグ

「あら?二式水戦には20ミリは無いのかしら?」

 

ベッグ

「ベッグも気になってたのだ、20ミリの銃口が無いのだ~」

 

ヤマダ

「ああ、こいつには20ミリも7ミリ7機銃も積んでない。主翼・胴体内の機銃取付台や薬莢排出口は残したままだがこの機体に機銃を搭載する予定はない。」

 

イサカ

「ふふ、お前の言いたいことはなんとなくわかるぞ。あくまでこの機体はユーハングの技術を忘れてしまわないための遺産として残したいんだろう?」

 

ヤマダ

「ああ、今空戦で使ってるAI-1-129、AI-3-102、X-133、61-120、61-121、61-131の機銃もいつか下ろす予定だ。」

 

ロイグ

「なんでそんなもったいない・・・イジツで機銃が無い戦闘機なんて何の役にも立たないわよ?」

 

ヤマダ

「だろーな、だがいつかはあいつらにも限界が来る。その時は普通使える部品をはぎ取って他の機体に乗せ換えるんだが俺はそんなことをしたくない。いつでも飛べる状態にして保存してやりたいんだよ。零戦はユーハングの技術の結晶だ。」

 

ベッグ

「それだけヤマダはあいつらが大切なのだ・・・それもいいと思うのだ!」

 

イサカ

「私も賛成だ、あいつらには思い入れがある。それに機体によってはヤマダが必死にユーハングで活躍していた時を再現したのもある。一線を退く時期になったら機銃を下ろして大切に保存してやろう。」

 

ヤマダ

「ああ・・・だがイサカ、君の波模様の零戦はいつまででも前線で張れるように整備してやるよ。いや、ゲキテツ一家の幹部の機体は一機たりとも一線を退かせてやんねーよ、ハハハ!!」

 

イサカ

「ほう? 期待しているぞ。ふふふっ」

 

俺はイサカを操縦席に乗せる。俺はもう何度か操縦しているので操縦安定性は確認済みだ。

 

イサカ

「おお、7ミリ7機銃が無いとすっきりしているな。それに照準器もないのだな。」

 

ヤマダ

「ああ、あくまで二式水戦のポテンシャルを再現したかったからな。飛行に必要が無い機銃や照準器、爆弾懸吊機能も無い。」

 

イサカ

「ん・・・? セルモーター始動か、ここだけはオリジナルと違うんだな。」

 

ヤマダ

「本来なら浅瀬に引き上げてエナーシャを回した後に水の中に押し込むんだがな・・・そんなことしてられないだろ?」

 

イサカ

「まあ・・そうだな。発動機回してみてもいいか?」

 

ヤマダ

「ああ、勿論。」

 

ユーハングで運用されていた時、二式水戦は空戦で失われるよりも低気圧などの自然災害で失われることのほうが多かった。アリューシャン列島にまだ飛行場が完成していなかったとき、ユーハングは島の住人たちと交流をし時には物資をバナナなどの果実と交換しながら二式水戦を整備し運用したのだ。基本的に水から上げることは無いので給油などは不便ではあったが、そこそこの水深があれば離着陸が可能な二式水戦は活躍した。零戦から受け継がれた機動性は素晴らしく、20ミリの火力で爆撃機や時には単発戦闘機を撃墜しユーハングの空と海を守った。

 

カラッカラッカラッ・・・バラバラバラバラ!!!!

 

発動機を回すとプロペラ後流によってすさまじい水しぶきが後ろに跳ね上がる。水面をフロートで進むのははタイヤで地面を駆けるよりも抵抗が大きいので加速が少しだけ遅いが持ち前の大きな主翼に風を受け二式水戦はふわりと空に浮かび上がる。引き込み脚が廃止されその分軽くなっているので、フロートがあっても乾燥重量は200キログラムしか増加していない。

 

ロイグ

「へぇ?以外に軽く飛ぶものね、もっともっさりした動きかと思ったわ。」

 

ヤマダ

「あいつはほぼ零戦だ。全備重量だと零戦から122キログラムしか増えてないんだぜ?」

 

ベッグ

「零戦が増槽を抱いた時のほうが軽いのだ?」

 

ヤマダ

「ああ、なんならあいつは機銃を搭載してない分さらに軽い。」

 

そこそこ高度を取ったイサカは空中である程度の空戦機動を行う、主翼の下に大きなフロートを吊った二式水戦はそのシルエットに見合わず蝶のように空を舞った。二式水戦の着水速度はおおよそ111キロ、フロートによって主翼下面の気流が乱れるにもかかわらず零戦の失速速度とほぼ同じなのだ。こういう所をとっても二式水戦がいかに優秀な改造機だったかがわかる。

 

ベッグ

「ベッグも欲しいのだ~!」

 

ヤマダ

「じゃあ設計図の写しをやるからあとは自分で何とかしてくれ・・・」

 

ロイグ

「悪いわね~ ベッグのわがままを聞かせるだけになっちゃったわ」

 

ヤマダ

「そのまま持っていかれるよりかはましだからな・・・」

 

イサカは十分に減速し着水する、大した広さは無いのであまり真ん中の方で止まると離陸できなくなってしまうがそれを心得てくれていたようで端ギリギリのところに着水し止まった。水にバシャバシャと入ってゆきフロートを押して機体を座礁させる。イサカが操縦席から飛び降りてきた。

 

イサカ

「飛んでしまえばフロートがあることを忘れてしまうくらい軽く動くな、少々ならフラップを下げて揚力を稼げる。敵が爆撃機であれば20ミリで爆散させられそうだ。」

 

ヤマダ

「いい機体だろ?」

 

イサカ

「ああ、機体の格好も特徴的で私は好きだ。海がイジツにもあれば運用の余地もあったかもしれないな。」

 

ヤマダ

「まあ無いものをねだっても仕方ねーよな。それでなイサカ、何か気付かないか?」

 

イサカ

「ん? よくできているとは思うが・・・」

 

ヤマダ

「俺のコレクションがついに 一一型・二一型・三二型・二二型無印/甲・五二型無印/甲/乙/丙・五三型・六二型・二式水戦と揃ったんだ、栄発動機を搭載したA6Mシリーズが全部そろったんだよ。」

 

イサカ

「全く・・・で、いつやるんだ?」

 

ヤマダ

「え?」

 

イサカ

「え?じゃないだろう、その機体全て駆り出して編隊飛行でもするつもりだったんだろう?」

 

ヤマダ

「・・・イサカ!」

 

イサカ

「おいっ!こんなところで抱き着くなっ!!」

 

ヤマダ

「搭乗員集めから始まるな~!いつやる?誰に見せる?楽しみだぜ~」

 

イサカ

「子供か!!別に私は今日でもいいぞ?」

 

ヤマダ

「流石に気がはえぇよ・・・部品盗難の事件がひと段落したらやろうぜ!」

 

イサカ

「ふふっ、ああ。」

 

 

 

 

そしてロイグ達と共に滑走路の方へ戻る、ついでなのでイサカにも鍾馗を見せてやってくれとロイグに伝えると快く了承してくれた。

 

イサカ

「機首から本当に急に細くなっているんだな・・・ 隼よりも頭でっかちに見えるが操縦性はどうなんだ?」

 

ロイグ

「操縦安定性は最高よ、水平尾翼よりも後ろに突出した垂直尾翼のおかげですわりがいいから一撃離脱もし易いわ。なんならちょっと乗ってみる? どうせ私達も暇なのよ。」

 

イサカ

「良い機会だしお言葉に甘えようかな・・・」

 

ベッグ

「仕方ないのだ、ベッグがエナーシャを回してあげるのだ〜」

 

そして俺は機体をぐるりと見回る、すると主翼燃料注入口に開けた後があった。普通の事ではあるが横に零れたガソリンがまだ新しい。そしてその横にこびり付いた粉は甘かった。

 

ヤマダ

「ロイグ!この鍾馗、いつ燃料を補充した?」

 

ロイグ

「えーっと、ここに来る前だから朝かしらね。あっ丁度いいわ、燃料分けてちょうだい?」

 

ヤマダ

「ああ、満タン分けてやるよ・・・これを見てみな。離陸は中止だ。」

 

イサカ、ロイグ、ベッグは一斉に燃料給油口をみる。粉に気づいたイサカが指で掬って舐めていた。

 

イサカ

「うっ・・・甘い?」

 

ヤマダ

「ああ、ただの砂糖だ。」

 

ロイグ

「砂糖?そんなもの盗んでないわよ?」

 

ヤマダ

「疑ってねぇよ・・・こいつは燃料タンクに砂糖を入れられてるんだ。」

 

ロイグ

「変なイタズラするわね・・・」

 

ヤマダ

「ユーハングで流行ってたんだ、自動車のガソリンタンクに砂糖を入れたらエンジンが壊れるってな。」

 

ベッグ

「確かに砂糖をエンジンが吸ったら中で焼き付いて壊れてしまうのだ、悪質なイタズラなのだ!」

 

ヤマダ

「まあそんなことは滅多にないんだがな・・・この砂糖を発動機が吸いたかったら主翼内燃料タンクを使い切らないといけない、それに吸ったら焼き付く前に気化器のパイロットスクリューに砂糖が詰まって燃料が行かなくなり発動機が空中で止まるぜ。誰かと一緒に飛んでなかったら荒野の真ん中で寂しく野営だな。」

 

ロイグ

「ここからインノまでは地味に遠いから・・・ありがとねヤマダ、結構大量に分けてもらうことになりそうだし燃料代はちゃんと払わせてもらうわ。」

 

そして機体の全てのタンクからガソリンを抜き新しいガソリンに入れ替えた。抜いたガソリンの中には案の定砂糖が入っていた、ガソリンと砂糖は混ざらないのですぐに分かるのだ。ついでにオイルもと思いオイルを全て抜くと俺はオイル交換の時に必ずやっている事をしに行った。

 

イサカ

「何してるんだ?」

 

ヤマダ

「オイルを灯油で洗ってるんだ、この後フィルターで濾したらオイルに入った不純物だけが出てくるんだよ。」

 

イサカ

「ほう・・・いつもこんな手間のかかることをやっているのか?」

 

ヤマダ

「空冷エンジンの戦闘機はオイル命だからな、それに簡単に見つけれる変化を見落として愛機を殺したくないだろ。

 

イサカ

「今度でいいからやり方を教えてくれないか?私も自分で交換する時に出来るようになりたい。」

 

ヤマダ

「勿論いいぜ、自分の愛機の不調は自分が一番気づくからな。」

 

イサカ

「私も少しでも自分で整備点検出来るようにしないと愛機に申し訳が立たないからな・・・それにお前の事を少しでも手伝えるようになりたいんだ。」

 

ヤマダ

「嬉しいよ・・・君は本当に良い女性だ、誇りに思う。」

 

そして濾したオイルを捨て、フィルターを見てみる。若干の金属粉が見えるが好調の範囲だろう。だが・・・これは金属粉じゃない・・・?

 

ヤマダ

「イサカ、これなんだと思う?」

 

イサカ

「うーん・・・砂か・・・?」

 

ヤマダ

「まずいな・・・」

 

そして俺たちは一度ロイグとベッグの元へ戻ると事情を説明し鍾馗を格納庫の中に入れ、分解作業を始めた。貴重な休日が結局作業で終わることになりそうだ。

 

ヤマダ

「すまないなイサカ、せっかくの休日なのに・・・」

 

イサカ

「気にするな、私はこうしてお前と話せているだけでも幸せだ。」

 

そしてパネルを全て外すとカウリング取り付けステーを全て外す。陸軍機はスナップオンパネルになっており発動機全体を露出させるには少し手間がかかるのだ。簡単な整備ではスナップオンパネルで十分だが、大掛かりな作業の時は零戦のようなカウリングの方が有利である、それぞれ一長一短だ。

 

ロイグ

「まさかヤマダが私の鍾馗をばらすことになるとは思わなかったわ。」

 

ヤマダ

「怪しいところを見つけた飛行機をそのまま帰す訳にはいかねぇだろ・・・ウチは海軍機専門なんだがな。」

 

ベッグ

「嘘つくななのだ、零戦以外がここに入ってるの見た事も聞いたこともないのだ!」

 

ヤマダ

「いちおーフィオの紫電とかシアラの雷電も整備したことあるんだがな〜 あいつらなかなかここに持ってこねェんだよ・・・」

 

そして発動機を露出させるととりあえず気化器を外す。砂と来れば大概の原因はここにある、インノの方に飛んだヤツは大体こうなっているのだ。

 

ヤマダ

「どーせこんなこったろうと思った、ロイグ、最近砂嵐かなんかにあたっただろ。」

 

ロイグ

「今日飛んでたら一回出くわしたわ・・・死ぬかと思ったわよ。」

 

ヤマダ

「恐らくそんとき砂を吸ったんだよ。で、その砂の圧力でぶっ壊れたのがこれだ。」

 

気化器の導入経路には砂やホコリ、火山灰などを発動機の中に吸い込んでしまわないようにメッシュが張られている。だがロイグの鍾馗はそのメッシュに穴が空いていた。これでは砂をもろに吸い込んでしまう、飛んだ時間がまだ短かったので助かったが、このまま飛んでいると発動機の中が傷だらけになり使い物にならなくなっていただろう。

 

ヤマダ

「さあー問題だぜ、タネガシは海軍機が多いから陸軍機の部品を扱ってる店は少ないんだ。どーするか」

 

イサカ

「虱潰しに店を回るしかあるまい・・・他の気化器の部品を流用できたりしないのか?」

 

ヤマダ

「あー・・・その手があったな。出来るか見てみよう。」

 

部品在庫から気化器の部品を持ってくる、あてがってみたが所謂似て非なるもので流用は不可能だった。結局1日かけて部品屋を回り1つだけ残っていた鍾馗の気化器の部品を持って帰ってきた、世の中上手くいかないもので気化器本体でしか売ってもらえなかったのだ。

 

ヤマダ

「むがぁぁぁぁ〜 まあ仕方ねえか〜」

 

ロイグ

「ちゃんとお金は出すわ・・・結構痛いわね・・・」

 

ベッグ

「色んな部品があったのだ〜」

 

結局作業が全て終わったのは夕方になってからだった。組み直してカウリングを取りつける前に試運転だ、ロイグに操縦席を任せエナーシャを持って機体の下に潜る。

ロイグ

「始動準備ー!!」

 

ヤマダ

「点火ーーっ!!」

 

鍾馗に搭載されているハ109は栄発動機のボアストロークを増大させた発動機である。空冷星形14気筒のままでボアストロークを増加させ出力向上を狙ったという点では、三菱の瑞星発動機と金星発動機(火星発動機)の関係性に似ている。海軍の機体に採用されていないのでハ番号名称しかないが、鍾馗に驚異的な上昇力と速度を与えた名発動機だ。

 

イサカ

「調子よく回っているように見えるが!!」

 

発動機の音が大きいので叫ぶようにしないと会話が聞こえない。

 

ヤマダ

「恐らくもう問題ない!!ロイグ!!!」

 

ロイグ

「はいは~い!」

 

そうして発動機を止めてカウリング類をすべて組みなおす。ベッグが居たのでかなりはかどったがそれでも組みあがったころには日が暮れかけていた。

 

ヤマダ

「ふぅ・・・終わった終わった~」

 

ロイグ

「悪いわね・・・貴重な休日だったんでしょ?」

 

ヤマダ

「まぁ~気にすんな。またなんか解決できなかったら持って来いよ、見てやっから。」

 

ベッグ

「ベッグの仕事が減るのだ~!」

 

そうしてロイグ達を見送ると、散らかった格納庫をイサカと二人で片付けた。工具などをすべて工具箱に直し床にこぼれたガソリンやオイルを綺麗にふき取る。すると

 

イサカ

「ヤマダ、あの二式水戦とAI-3-102で街の上を編隊飛行してみないか?」

 

ヤマダ

「いいな、面白そうだ。住人たちは何人気付くかな。」

 

イサカ

「見てもらいたかったら日が暮れる前に行くぞ!どっちが先に空に上がれるか競走だ!」

 

そう言ってイサカは二式水戦の方へと駆けていく、子供のようにはしゃぐイサカの意外な一面に驚きながら俺は機体に飛び乗った。後輩にエナーシャを任せタキシングで滑走路に出た。

 

ゴオォォォォォ・・・!!!

 

開けた風防から水滴が入ってくる。上を見上げるとイサカの操縦する二式水戦が低空で飛んでいた。俺も急いで離陸する、日が暮れてしまっては着陸・着水がやりにくいのだ。

 

イサカ

「ふふっ、私の勝ちだな。」

 

ヤマダ

「そんなに二式水戦が気に入ったのかい?」

 

イサカ

「ああ、このユニークな外観と機動性が特に気に行った。これからもたまに乗ってもいいか?」

 

ヤマダ

「ああ、もちろんだ。」

 

速力の遅い二式水戦に合わせスロットルを絞り綺麗な二機編隊を組む、零戦と二式水戦の編隊など聞いたことが無いがこの組み合わせの編隊飛行もなかなかオツなものだ。二式水戦には零戦にある頭部保護支柱やクルシーが無く風防内部がスカスカである。地味な利点だがアンテナ支柱しかないので二式水戦は後方視界が半端ではなく良いのだ。

 

イサカ

「ふぅ・・・日も落ちてきたな。」

 

ヤマダ

「あの水場には着陸案内灯とかないからそろそろ帰るか。真っ暗になられたら着水できねーぞ。」

 

イサカ

「ああ、ありがとうな。ヤマダ」

 

ヤマダ

「いいんだよ、むしろ気に入ってくれて俺のほうが嬉しいくらいだ。」

 

そして俺たちはそれぞれ着水・着陸すると、明日の身支度をしておくと眠りについた。

 

 

 

 

・・・・・翌日

 

次の日になったと言ってもレミが聞き出した情報を持ってくるまでは何もできない、にしても捕まった空賊の行く末が気になる。コンクリ詰めにされて空賊どもが消えでもすればそれはそれで話のネタにはなるが・・・あまり深くは考えないでおこう。格納庫に降りていつも通り機体の整備をする。予備の発動機が届いたので61-120はもう稼働可能な状態にある、AI-1-129と同時に61-120も入念に整備しておく。やっと俺の本来の愛機で飛べるのだ。

 

イサカ

「61-120、もう飛べるのか?」

 

ヤマダ

「勿論だ、栄三一型甲が意外になくてな・・・探すのに苦労したぜ。」

 

イサカ

「こっちだと三二型があるからな・・・」

 

ヤマダ

「栄三一型甲だと誉と共通部品があるから生産でも有利なはずなんだがな~、イジツはよくわかんねーや。」

 

プロペラスピンナを機体上面色と同じ色に塗装し、日の丸の白い縁は無い。荒野であるイジツだと上面色が緑の機体は目立ってしまうが、どうせ日の丸をつけている時点で目立ちまくっているのだ。仕方あるまい。すると珍しく朝早くにレミが駆け込んできた。

 

レミ

「いやー、なかなかオイシイ情報が聞けたっすよ~」

 

ヤマダ

「一応聞くんだが・・・空賊の皆さんは?」

 

レミ

「企業秘密っす~」

 

ヤマダ

「はい・・・」

 

レミの話によると、窃盗団はいろいろな空賊に盗んだ上質な部品を売りつけ交換で出た質の低い部品を盗んだ機体に取りつけていた。なかなかに空賊に高圧的な態度で接していたこともありコロッと吐いたそうだ。結局のところ模倣犯のような輩だらけで、大きなつながりのある組織がやっているわけではなかったようだ。悔しいかなその都度調べて締め上げるしか方法はなく、俺の機体から部品を持って行っていた奴らも俺たちが片付けたF6Fで終わり、腹立たしいが・・・部品盗難はこれからもなくならないだろう。

 

ヤマダ

「なーんか・・・釈然としねーなぁ・・・」

 

レミ

「まあ仕方ないっすよ・・・」

 

ヤマダ

「まあ空賊程度の資金力ならそうでもしねえと機体を運用できねーんだろう。」

 

イサカ

「まさかこんなもやもやした形で終わるとはな・・・」

 

レミ

「まぁ・・・ねぇ・・・」

 

イサカ

「はぁ・・・ヤマダ、搭乗員は何人いるんだ?」

 

ヤマダ

「へ?」

 

イサカ

「零戦を全機飛ばすって話だ。こんなもやもやした形で終わるのもしゃくだし最近いざこざが多くてシマの住人も元気がないんだ。少しは派手なことをやってみようじゃないか?」

 

レミ

「じゃあついでにアタシのシマの上も飛んでくださいっす~ 子供らも喜ぶと思うんで!」

 

ヤマダ

「よっし・・・やるか!」

 

そして話し合いと予定の確認の結果。一一型はローラ、二式水戦はイサカ、二一型は俺、三二型はニコ、二二型はサダクニさん、二二型甲はクロ、五二型無印はレミ・・・・までは決まったがそのあとが足りない。どうしたものかと悩んでいると電話が鳴った。

 

ヤマダ

「はいはい~」

 

シノ

「ずいぶん気の抜けた返事するわね・・・」

 

ヤマダ

「いろいろひと段落ついて疲れてんだよ・・・なんかあったんかい?」

 

シノ

「いや特に何もないわよ、何してるのかなと思っただけでね・・・盗難事件のこと、何か手伝えることはあるかしら?」

 

ヤマダ

「・・・ああ!大ありだぜ!今すぐこっちに来てくれ!」

 

シノ

「そんなに急ぎなの・・?わかったわ、アコとそっちに行くわね。」

 

よし、これで五二型甲、五二型乙の搭乗員は確保できた。あとは五二型丙、五三型、六二型だ、後三人・・・・

 

イサカ

「コトブキ飛行隊の何人かに仕事として頼んでみないか?彼女たちなら腕も確かだ。」

 

ヤマダ

「そうするか、だーがだれを呼ぶか・・・」

 

レミ

「キリエ、エンマ、レオナさんでどうっすか~? 一人はしっかりしてるかどうかは微妙っすけど、三人とも操縦の腕は確かっすよ。」

 

イサカ

「私から連絡しておこう、どうせ今日は急すぎてできないだろうな・・・レミ、明日開催のビラを作ってシマにバラまいてやってくれないか?」

 

レミ

「あいあいあっす~!」

 

そして俺は一一型~六二型まで、全ての機体を格納庫の前に引っ張り出すと一機ずつ機体を洗ってやる。全ての機体の発動機が好調なのはチェック済みだからあとは見た目をビカビカにして展示・飛ぶだけだ。

 

クロ

「似たような機体ばっかりだな・・・」

 

ヤマダ

「うるせーな、皆個性があるんだよ!ってか来てたのか、クロ」

 

クロ

「ああ、全く。道具貸せ、俺も手伝うよ。」

 

ヤマダ

「マジかよ、助かるぜ。」

 

一一型から二二型甲までを洗い終え、五二型シリーズに入る。

 

クロ

「二二型甲ってのに俺が乗るのか・・・」

 

ヤマダ

「ん?五二型シリーズのどれかのほうがよかったかい?」

 

クロ

「いや、新鮮だから悪い気はしねえよ。にしても五二型は無印から乙までの違いがさっぱり分からねえよ・・・ヤマダ、お前どうやって見分けてんだ?」

 

ヤマダ

「五二型無印は主翼下のドラム弾倉のフェアリング、五二型甲は20ミリ機銃の根元のフェアリング、五二型乙は13.2ミリ機銃のでっかい銃口だな。」

 

クロ

「言われてみれば・・・全然わかんねぇ・・・」

 

ヤマダ

「まあイジツだと五二型は無印ばっかりだからな・・・さ、とっとと洗うぞ。もう昼過ぎだ、ちんたらやってたら日が暮れちまう。」

 

結局すべての機体を洗い終えたのは夕方近くなっていた。だが夕陽に照らされて滑走路に佇む名機達は、どこか嬉しそうに見えた。機体についた水滴を乾かすために外に出しておこう。そう思って格納庫の扉を閉め、外に止めた零戦シリーズを眺めていた。これで酒が飲めるくらいに・・・美しい。

 

シノ

「ヤマダ!来たわよ!!」

 

ヤマダ

「びっくりした!!」

 

アコ

「零戦が全部・・・すごいですね。」

 

シノ

「で、私たちは何を手伝えばいいのかしら?」

 

ヤマダ

「明日ここにある零戦全て駆り出して編隊飛行するんだ、だからシノには五二型甲を、アコには五二型乙を飛ばしてほしんだよ。」

 

シノ

「まさか・・・それだけ?」

 

ヤマダ

「おう!!」

 

シノ

「おう!!じゃないわよ!」

 

結局シノには数分間どやされ続けたが、なんだかんだで引き受けてくれることになった。優しい。ずっと連絡と予定のすり合わせをしてくれていたイサカと、ビラをばらまいていたレミが作業を終えて戻ってきた。すると滑走路に見覚えのある隼が三機降りた。今日電話して今日来るとは・・・

 

レオナ

「レミ、久しぶりだな。」

 

レミ

「お久しぶりですっす~、おへやではしるくん。しっかり使ってくれてるっすか~?」

 

キリエ

「うわぁ~ どうせこんなことだろうとは思ってたけどすごい数の零戦だね・・・」

 

エンマ

「お久しぶりですわね、イサカさん。」

 

イサカ

「久しぶりだな、元気そうで何よりだ。」

 

そして明日のことを説明すると、キリエが少し暗い顔をしていた。

 

ヤマダ

「キリエ、どうした?」

 

キリエ

「いや、乗る機体はもう決まってるんだよね・・?」

 

レオナ

「キリエ、いくら知り合いといっても仕事は仕事だ。わがままは許さないぞ。」

 

俺は羽衣の中でキリエが言っていたことを思い出した。なるほどそういうことか。

 

ヤマダ

「ああ、決まってる。キリエ、君が乗るのは三二型だ。」

 

キリエ

「え・・?」

 

レオナ

「事前の連絡ではキリエは五二型丙だときいているが・・・」

 

ヤマダ

「さあ、そんな電話はした覚えがないですよ。レオナさん。」

 

エンマ

「良かったですわね、キリエ。」

 

キリエ

「ヤマダ、ありがとう!」

 

ニコに乗る機体が変更されたことを連絡すると、キャットフードを一袋請求されてしまった。まあ急なことだし仕方が無いだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・翌日

 

午前中は機体の展示、午後からがデモフライトだ。零戦だけということで展示には大して人は集まらないと思ったがそんなことは無かった。滑走路は一一型や五二型丙、二式水戦など数が少ない機体を一目見ようと人がとんでもなく大量に押し寄せたのだ。前日連絡でここまで集まるか・・・・・

 

ニコ

「ヤマダ、キャットフードはどこだ。」

 

ヤマダ

「ああ、これでいいか?」

 

ニコ

「ああ、感謝する。」

 

ローラ

「よくこんなに零戦を集めてるわね・・・」

 

ヤマダ

「何機かは実戦にぶっこんでも問題ないからな。実戦に投入できなくてもこういうデモフライトはできるように整備してある。」

 

午前中の展示は何のトラブルもなく終了し、いよいよデモフライトだ。その時俺はご飯を食べ、格納庫の中で搭乗員休憩用に並べて置いたイスをベッド代わりに寝ていた。コトブキやカナリア、ローラにニコも零戦を見に行っていたので休憩用の椅子は空きがいっぱいあったのだ。

 

ヤマダ

「むにゃむにゃ・・・ふがっ・・・」

 

イサカ

「起きろ!!もう時間だぞ!!」

 

ヤマダ

「ふがっ・・・あとごふん・・・」

 

イサカは俺が頭を載せていた椅子を思いっきり引いた。

 

ゴンっ!!

 

ヤマダ

「がはっ!!」

 

イサカ

「目が覚めたか?」

 

ヤマダ

「はい・・・さめました・・・」

 

イサカ

「全く・・・空中での編隊の形は連絡したとおりだ。頼むぞ。」

 

ヤマダ

「了解、気を付けてな。」

 

イサカ

「お前が整備した機体なんだ、心配はしていない。頑張ろう。」

 

展示場所から滑走路に向けタキシングで出る。二一型と二二型無印はあえてP&W R1830-75 ツインワスプ搭載のAI-1-129とX-133を展示したのだ、こんなこともできるというデモの意味も込めているがまずツインワスプを入手できる経路がほとんどないのでまずこんな依頼は来ないだろう。

 

ヤマダ

「皆、無線のチャンネルは伝えたとおりか!?」

 

一同

「OK!」

 

ヤマダ

「よし、無線指示が聞き取りにくいとまずいのでここでは敬語は省き端的な文章で伝えることにする。ローラ、離陸してくれて大丈夫だ。皆もあとに続いてくれ!」

 

AI-1-129、X-133は発動機の出力とプロペラ直径が違う、当然加速性能も違うので他の機体に接触しないようにスロットルを入念に微調整しながら離陸した。ピシッと横一列の編隊を組むと二一型と一一型の間を一機分だけ開けた。

 

ヤマダ

「イサカ、いいぞ!!」

 

イサカ

「了解!!」

 

少し高度を取って待機していた二式水戦が一一型と二一型の間に滑り込んだ。

 

イサカ

「ふふ、お待たせ。ヤマダ」

 

ヤマダ

「ああ、おかえり。イサカ」

 

シノ

「仲睦まじいわね~」

 

エンマ

「この前見たときから何も変わっていませんわ・・・」

 

レミ

「毎回毎回こんな感じっすよ~」

 

キリエ

「いいじゃん、ねえ?」

 

レオナ

「ふふ、少しうらやましい・・かな。」

 

アコ

「あれ?レオナさん何か思う人でもいらっしゃるのですか?」

 

レオナ

「自分でもわからない・・・というのが本音だ、気にしないでくれ。」

 

サダクニ

「組長・・・立派になられて・・・」

 

クロ

「もう見慣れてきたぜ・・・」

 

ニコ

「かわいいものに囲まれたい・・・」

 

ローラ

「すっかり熟年夫婦ね~」

 

そして事前に決めていたコースを編隊を時々組み替えながら飛び、折り返して滑走路に戻ろうとした時だった。

 

レミ

「ヤマダ~」

 

ヤマダ

「どうした?」

 

レミ

「後ろ、お客さんっすよ。」

 

後ろをふと見ると空賊の隼二型が三機、追ってきていた。

 

ヤマダ

「なんでこんな時に・・・サダクニさん!クロ!」

 

クロ

「どうせそんなこったろうと思ったぜ・・・機銃弾が積んである時点で嫌な予感がしてたんだ。」

 

サダクニ

「私はいつでもいいぞ。」

 

ヤマダ

「他の皆は全力離脱!編隊を崩しても構わないが空中衝突だけは無いように!空賊は俺たちが片付ける!」

 

イサカ

「ヤマダ、サダクニ・・・気をつけろよ・・・」

 

レミ

「クロ、無茶するんじゃないっすよ!」

 

ヤマダ

「ああ、ありがとう。」

 

サダクニ

「組長もお気をつけて。」

 

クロ

「無茶をするんならヤマダのほうがあぶねぇよ。」

 

二一型、二二型無印、二二型甲と主翼の長い零戦が編隊から飛び出て急旋回をする。他の機体には機銃弾を積んでいないか、機銃自体を搭載していないのだ。

 

ヤマダ

「もう編隊とかいらないですよね・・・ご自由に空戦してください!」

 

サダクニ

「お前はおおらかというか・・・援護は任せたぞ!」

 

クロ

「ヤマダ、無茶すんじゃねーぞ!」

 

プロペラピッチを低に固定し燃料をニッチに、スロットルを開けてヘッドオンで下をかすめた隼を追うように急旋回をする。悪いが敵の素性も知らずに空戦を仕掛けてくるなど馬鹿としか言えない、低中高度で主翼が12mの零戦に旋回戦を挑んで勝てる機体などいない。それは敵が隼でも変わらない。

 

ヤマダ

「イベントの邪魔しやがって・・・最高の締めだぜクソが!!」

 

ダダダダッ!!ダダッ!!

 

ロールで逃げようとする隼に20ミリを叩き込む。隼の主翼はどの型になっても3本桁であり強度が高くない、零戦の主翼強度も高いわけではない(むしろ被弾に関しては防弾タンクが無い分弱い)が炸裂弾が当たれば主翼は木っ端みじんになる。

 

ヤマダ

「ふぅ・・・サダクニさんもクロも終わったっぽいな。」

 

サダクニ

「私は普段五二型を使っているが・・・二二型も悪くないな。」

 

ヤマダ

「その二二型は発動機が違いますからね。普通のやつより機敏に動きますよ。」

 

クロ

「俺はロールが早いから五二型の方がいいぜ・・・」

 

他の機体より遅れて俺たちは着陸した。三機編隊を崩さないように着陸するのは熟練の搭乗員でないとできない、サダクニさんもクロも相当の手練れだからできたのだ。タキシングで格納庫に向かうがその道中柵の外からいろんな人たちが手を振ってくれている。俺は風防を開け座席を思い切り上げると大きく両手を振り返した、ブレーキと尾輪を足だけで操作し上手く格納庫の中に入るとプラグのススを飛ばし発動機を止めた。

 

ヤマダ

「やりきった~!!」

 

イサカ

「本当にやりきったな・・・お疲れ様、ヤマダ。」

 

一同

「お疲れ様!」

 

ヤマダ

「みんな・・・」

 

キリエ

「よくここまで零戦をそろえたと思うよ・・・それにここまでパイロットを集められたのもヤマダの人望のたまものだよ!」

 

エンマ

「私も貴重な体験をさせていただけて感謝していますわ。少しは夢のお役に立てまして?」

 

レオナ

「私も隼以外の機体を飛ばせるというのは新鮮で楽しかった。感謝している、ありがとう。」

 

シノ

「ほんと最初はどうしてやろうかと思ったわ・・・怪我してたのによく頑張ったわね、お疲れ様。」

 

アコ

「私たちの地域でもこういう催しをやってみたかったので参考になりました。ヤマダさんの夢の手伝いが出来たのでしたら光栄です。お疲れさまでした!」

 

ローラ

「機体の整備の仕事をしながらよくここまで自分の機体を整備したわね・・・お疲れ様。」

 

ニコ

「機体が不調の時はいつも世話になっているな・・・ありがとう。」

 

サダクニ

「全く心配ばかりかけてとんでもない部下だが・・・お疲れ様だな。」

 

クロ

「いつも無茶ばっかりするとんでもねえ奴だが・・・なんだかんだ世話になってる、今回はお疲れだな。」

 

レミ

「人一倍人のこと気にして、人一倍お人好しで、人一倍馬鹿夫っすけど・・・いい奴っすよね。お疲れ様っす!」

 

イサカ

「誰よりも戦闘機を大切にする、誰よりも優しい私の自慢の夫だ。本当にお疲れ様だな。」

 

ヤマダ

「皆・・・俺のわがままに付き合ってくれて本当にありがとう。本当に・・・本当にありがとう!!」

 

 

 

 

 

 

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