著 やま
ヤマダ
「ふぁぁぁぁ・・・むにゃむにゃ・・・ひゃぁぁ・・・」
イサカ
「んん・・・すぅ・・・んん・・・」
レミ
「二人して何寝こけてるんっすか!!起きてくださいっすーー!!」
最近色んなことが立て続けに起こっていたが、一段落して気が抜けたのか寝坊することが多くなった。だが今日は珍しくイサカも寝坊したのだ。
イサカ
「何!?もうこんな時間なのか!?」
ヤマダ
「1分遅れも10分遅れもかわんねぇ〜よぉ・・・もうちょっと寝ようぜイサカぁ・・・」
イサカ
「まぁ・・・たまにはいい・・・かもな。」
レミ
「それは今日以外にしてくださいっす・・・はーやーくー起きてくださいっすーーー!!」
珍しく早起きなレミに叩き起され、服を着替え格納庫に降りていった。俺まで叩き起されたということはゲキテツ一家の動きでなく比較的個人的なことであろう。
ヤマダ
「どうしたんっすか〜?」
レミ
「キャラが被るんでその話し方やめてくださいっす・・」
ヤマダ
「悪い悪い、で今日は何があったんだレミ。」
レミ
「昨日の夜ローラから連絡があったんっすけど、タネガシの外れに海軍飛行場跡が見つかったみたいなんっすよね。」
ヤマダ
「ローラ組が見つけたんならローラ組でユーハングの置き土産を持ってきゃいいのに・・・なんかあるのか?」
レミ
「それがね、飛行場自体は風化してあんまり使い物にならなかったんっすけど格納庫があったそうなんっすよ。」
ヤマダ
「ほう?」
レミ
「まだ中は見てないらしいんっすけど、使えそうな機体があるか見極めてほしいって言ってるんっす。幹部皆来るんっすけどヤマダの意見も聞きたいらしいっすよ~」
ヤマダ
「そういうことか、わかった。」
ゲキテツ一家で集まるわけで、今回俺はAI-3-102を使って向かうことにした。イサカとレミのいつもの機体に混ざって飛ぶ飴色の零戦はすごく目立つがまあいいだろう。ゲキテツ一家の人間なのにゲキテツ一家のマークがどこにもないというのも面白いものだ。
・・・・・飛行場跡上空
イサカ
「あまり降りたくないが・・・あの滑走路に降りるしかあるまい。ヤマダ、上は任せたぞ。」
ヤマダ
「了解、いつもみたいに三点着陸すれば機体はいたまね~よ。零戦の主脚と尾輪のオレオは頑丈だからな。」
そして降下するレミとイサカを横目に俺は上空哨戒をする。着陸して機体を止めたのを目視で確認してから俺も着陸態勢に入る。スロットルを絞って速度を200km/hほどに落としてから主脚を展開する。高度と速度がゆっくりと現象し始めるのでプラップを下げて揚力を稼ぎ、操縦桿をそっと引き付けて機首を上げながら120km/hほどの速度で3点着陸をする。ドスンと落とすと負荷がかかってしまうのでふわりと地面におろすのだ、艦上戦闘機の強みは離着陸が非常に簡単なことだ。
レミ
「あいつホント丁寧に着陸するっすよね・・・」
イサカ
「あいつは零戦が好きで好きでたまらないのさ。」
風化した滑走路はガタガタだった。タキシングで滑走路の脇に機体を移動させるとイサカとレミの方へ行く、他の幹部たちはまだ来ていなかった。
ヤマダ
「格納庫ってたぶんあれだよな?」
イサカ
「かなり大きいな・・・数十機はありそうだが、どれだけ使える機体が残っているかだな。」
ヤマダ
「金さえ出してくれれば修理するんだがな~」
レミ
「どうせまた零戦だけは持って帰るんでしょ?」
ヤマダ
「・・・・たぶん。」
イサカ
「張り切って早めに来てしまったが誰もいないな・・・」
ヤマダ
「にしてもここは湿気てるなぁ・・・零戦とかの超々ジュラルミンなんてもう朽ちてんじゃね~か・・・?」
すると他の幹部たちが続々と降りてきた。フィオとシアラの紫電、雷電なんて何時ぶりに見ただろうか・・・・
ローラ
「早いわね・・・」
ニコ
「もう見たのか?」
ヤマダ
「いや、まだだよ。」
フィオ
「まだ開けないのか?」
イサカ
「お前たちを待っていたんだ全く・・・」
格納庫の横引きシャッターを開けると、比較的原型をとどめた機体が何十機と止まっていた。70年ほどの時を経て日があたったのだ。
シアラ
「埃っぽいわね・・・使える機体なんかあるの?」
ローラ
「それを今から見るのよ・・・」
格納庫の中に放置されていたのは雷電、紫電改、零戦だった。当時ユーハングでは紫電改や雷電で編成する予定であった部隊にも零戦を配備していた。雷電や紫電改の生産は遅々として進まなかったからだ。希少性が高いのは当然紫電改や雷電であるが、これらは部材の質が落ちたころに生産された機体がほとんどであり、不純物が多く混ざっている金属はもろく朽ちるのが早い。
シアラ
「雷電は使えそうなの~?はやくみてちょうだいよ~」
ヤマダ
「あいよ」
5、6機が並べてあった雷電を丁寧に見るが、どれも主翼の桁が朽ち果てており飛ばせるような機体は無い。かろうじて発動機は使える可能性があるがこれらをレストアするのであればイジツで生産された火星を新品で買い取って搭載しても値段は変わらない。
ヤマダ
「残念ながらこのままだと使えそうにないな・・・主桁を作り変えて胴体の外板を張り直し、発動機を新品に乗せ換えれば使えるだろうがそこまで金をかける気はあるかい?」
シアラ
「そんなにしてまで乗りたいと思わないわよ、結局ゴミばっかりってことじゃない。あ~あ、来て損した。」
レミ
「わざわざヤマダに見させといて流石にそんな言い方ひどいんじゃないっすか?」
ヤマダ
「レミ・・いいんだ、間違ったことは言ってない。悪いなシアラ。」
そしてシアラは早々と帰ってしまった。使えない機体を持ち帰る気はないので雷電からはさっさと離れ紫電改を見に行った。
フィオ
「紫電改はどうだ?使えそうなのあるか?」
イサカ
「少しは待てフィオ・・・」
5機ほどが並べてあった紫電改はすべて完璧に朽ち果てていた。修理不可能だ、だがその奥に妙な機体がある。
フィオ
「ヤマダ、奥に一機紫電があるぞ!」
ヤマダ
「けどガンポットが無いぜ? あーでもそこそこ状態がいいな・・・持って帰るかい?」
フィオ
「そうさせてもらおうかな、輸送機を手配してくる!」
そういうが早いかフィオも飛んで行った。まあ帰ってくるだけましだろうが・・・
イサカ
「あいつめ・・・」
レミ
「にしても紫電ってこんなスマートだったっすか?」
ヤマダ
「こりゃ紫電一一型乙だな。」
イサカ
「紫電に九九式20ミリを二門主翼内に搭載した型だったな?」
ヤマダ
「確かそうだったはず・・・かな、俺もよくわからね。」
レミ
「熱の差がすごいっすね・・・」
ヤマダ
「そんなことより奥の零戦を見に行こうぜ!」
イサカ
「子供かお前は!」
雷電や紫電改の間を潜り抜け大量の零戦のところへと行く。二一型と五二型が大量に置かれており、おそらくこの部隊の主力であり練習機でもあったんだろう。二一型はすべて後期生産型で、九九式一号二型改100発ドラム弾倉搭載の機体ばかりであった。アンテナは三式空一号無線機用の短いアンテナになっており、プロペラスピンナーは一部が五二型用の大きなスピンナ―になっていた。おそらく部品を使いまわしたのだろう。
レミ
「使えそうなのあるっすか~?」
ヤマダ
「無い!」
ほぼすべての機体の主桁は朽ちて原型を保つのが精いっぱいの状態であり、稼働しない紫電改や雷電の代わりにたくさん出撃したのだろう、発動機もボロボロだった。
レミ
「ええ・・・じゃあどうするんっすか?」
ヤマダ
「残骸を持って帰って治す!」
イサカ
「ふふっ、いつも通りだな。」
外板に使われている超ジュラルミンと主桁に使われている超々ジュラルミンは腐食具合に差がある。外板は比較的原型をとどめているここにある零戦だが、恐らく超々ジュラルミンの主桁はミルフィーユ状に腐食しているだろう。持って帰ったら主桁はすべて張り直しだ。
イサカ
「やっヤマダ!!ちょっと来てくれ!!!」
ヤマダ
「どうした・・・・・?」
イサカが驚き指をさしている二一型には見覚えがあった・・・いや、どこかで乗ったことのあるような雰囲気さえ醸し出している。機体の腹下には爆弾懸吊架が装備されている。
イサカ
「この機体だ!!操縦席を見てみろ・・・」
操縦席をのぞき込むといやにきれいな状態だった。予想通り主桁の超々ジュラルミンは朽ち果てハフの類は風化して無くなっていたが、その外観からは想像もつかないほどに操縦席内部は塗装の剥がれもなく錆もなかった。いろいろとみているとスロットルレバーのところに何か紙切れが挟まっていた。
ヤマダ
「なんだ・・・紙・・宛先がある、手紙か・・?」
宛 井坂・・
私ガ家二送ッタ軍刀、軍服ハ私ノ父二言ッテ金二換エナサイ。君ト一晩シカ過ゴスコトノデキナカッタ夫ナドハヤク忘レテシマイナサイ。私ナドヨリ貴女ノ今後ノ人生ノホウガ大切ナノデス。モウプロペラガ回ッテイマス、私ハ行キマス。アリガトウ、サヨナラ、サヨナラ。
大日本帝国海軍少尉 山田・・ 1945年8月15日
イサカ
「気味が悪い・・・ユーハングでは『ミョウジ』と『名前』が分かれていたのは本で読んだが・・・名前が消えてしまっているがミョウジ?が私たちの名前と全く同じじゃないか・・・」
本当に気味が悪いが・・・この機体とこの手紙がここにあるということはこちらの山田さんは生き残ったのだろうか。だがこの時に戦闘機に乗れていたということは恐らく20前後・・・今はもうこの世にはいないだろう。それに仮に生きていたとしてこちらの世界に残っている可能性は限りなく低い。
ヤマダ
「実は・・・俺はこの前寝込んでた時に夢を見たんだ。」
イサカ
「あの太ももに穴が開いたときか?」
ヤマダ
「ああ、その夢の中で俺は・・・この二一型に乗っていた。」
イサカ
「何・・?」
ヤマダ
「腹下に爆弾を抱いて・・・途中で発動機が不調を起こした。そのまま海面に不時着して、『キカイジマ』まで必死に泳いだんだ。そこで目が覚めた。」
イサカ
「お前が意識を失って寝ていた時・・・一度だけ声を出したんだ。確か二日目の晩だった、私はお前の寝ているベッドの横で花を取り換えていた。」
ヤマダ
「まさか三日間ずっと寝ずに看病してくれてたのか・・・!?」
イサカ
「私とレミが交代でな、それでお前は寝ているときこういった。『私にもっと腕があれば、妻のもとへ帰れたかもしれませんね。』と・・・」
ヤマダ
「俺がそんなことを・・?」
イサカ
「急に私の手を握って、声は小さかったがはっきりとそう言っていた。結局お前はそのあと丸一日目を覚まさなかったが・・・」
ヤマダ
「なんでだろうな・・・」
イサカ
「ヤマダ、もしかしてお前の父母どちらかがユーハングだったりはしないのか?」
ヤマダ
「それはねぇな・・・年齢が若すぎる。」
イサカ
「そうか・・・もう何も気にしない方がよさそうだな。」
ヤマダ
「そうだな・・・この二一型、しっかり綺麗にするか。」
イサカ
「この機体をか?」
ヤマダ
「ああ、こんな事ほぼ奇跡だしな。」
そうしてフィオが手配して来た飛行船(輸送機では無理と判断したらしい)に手早く紫電一一型乙と零戦数機を積み込み、俺たちは戦闘機でいつもの家へと帰った。家に着いた時にはもう夕方になっていた。荷下ろしを終えほとんど「残骸」と化した零戦を格納庫に入れる。使えそうな部品はなるべくオリジナルの部品を使いたいのだ。そうしないとユーハングの置き土産からわざわざ復元する意味が無い。
ヤマダ
「とりあえず使えるのは使うが・・・錆び始めてるから外板も交換だな。」
イサカ
「操縦席の中身はそのまま使えそうか?」
ヤマダ
「ああ、ただ主桁を取り換えないといけないから一旦分解はするがな。」
イサカ
「操縦席の部品は私が外しておこう。」
ヤマダ
「助かる。」
主翼に負荷をかけてしまえば朽ち果てた主桁は耐えれない、比較的原型を留め錆も進行していなかった胴体にバンドをかけ機体を吊り上げると作業を始めた。とりあえず重量のある主脚や燃料タンク、機銃を取り外し外板を剥がす。
イサカ
「ヤマダ、これは何だ?」
そういってイサカが差し出したのは小さなモールス信号送信機だった。
ヤマダ
「小型のモールス信号発信機だ、こっちだともう使われてないがな。」
イサカ
「モールス信号・・?」
ヤマダ
「トン・ツーの組み合わせで文章を作るんだ。解読に時間がかかるのが欠点だが構造が簡単なのでユーハングではよくつかわれたんだ。ただまあ・・・この機体にあったってことはこれは戦果確認に使われる予定だったんだろうな。」
イサカ
「どういうことだ?」
ヤマダ
「特攻の戦果確認にモールス信号を使ったんだ。」
レミ
「そもそもの話、特攻って何なんっすか?」
ヤマダ
「爆弾を抱いて敵艦に体当たりするんだ。」
レミ
「・・・え?」
ヤマダ
「自爆攻撃だよ。成功することは死を意味する。」
イサカ
「その考えは理解できないな・・・」
ヤマダ
「いろんな考えがあるしな・・・家族のために、恋人のためにと若い命が海に散っていった。」
イサカ
「それで・・その特攻とモールス信号になんの関係があるんだ?」
ヤマダ
「まず敵艦を発見したらモールス信号で『トン』の信号を連続して打つ。これが敵艦隊発見の合図だ。そのあとに『-・-・ ---・- 』を打つんだ。」
レミ
「えーっと、ツー、トン、ツー、トン、ツー、ツー、ツー、トン、ツーっすか?」
ヤマダ
「我敵艦二突入ス」
イサカ
「なっ・・・」
ヤマダ
「それを打ったら、スロットルを開けて操縦桿を左手で握り右手で発信器を押し続けるんだ。」
レミ
「ツ―――――――って続くわけっすよね?」
ヤマダ
「ああ、それが途切れた時間を見て突入成功したかどうかを判断するんだ。短いタイミングで途切れれば対空砲火や敵機に撃ち落とされたということになる。」
イサカ
「まず体当たり攻撃というのが理解できないが・・・戦果確認のために機体を随伴させたりはしなかったのか?」
ヤマダ
「そんなことをしたら戦果確認機も撃墜されちまう。ユーハングはそこまで切羽詰まった状況だったんだ、上からの命令だから生きたくても生きれない。そんな状況だったんだよ。」
イサカ
「それにしたって・・そんな・・・」
ヤマダ
「やめだやめだこんな話・・・まあ俺が体当たりは許さない、帰還をあきらめるのは許さないという理由がちょっとはわかってもらえたかな。はは・・・」
操縦席の部品をすべて外し外板も外す、丸裸の状態にして前後を分割することでやっと本格的な作業が始まるのだ。外板を良く調べると濃緑色と明灰白色が見える、本当に最末期の二一型のようだ。
レミ
「この二一型はどうするんっすか~?」
ヤマダ
「まあ~こいつが実際に飛んでた時と同じ仕様にしようと思ってる。作戦に使うかは別だが・・・こいつらは搭乗員達と一緒に必死に戦ったんだ、戦いが終わったからと言ってボロ雑巾みたいに捨てられたら浮かばれねえだろ?」
イサカ
「お前らしいな、ちなみに他の機体に興味は無いのか?」
ヤマダ
「零戦以外って事かい?」
イサカ
「ああ、」
ヤマダ
「まぁ興味が無い訳では無いが・・・好きなのはやっぱり零戦だな。」
イサカ
「ふふ、まあうちの組だと昔から五二型か二一型ばかりだからな。」
ヤマダ
「まあそれもあるけど・・・君とレミが乗っている機体だからだよ」
レミ
「ん? 最後なんて言ったんっすか?」
ヤマダ
「なんでもね〜よ。」
・・・・・二週間後
ヤマダ
「あーやっぱダメだ・・・」
外板などの修理は殆ど終わり、あとは発動機を乗せるだけとなった。イジツでは栄一二型が生産されているのでそれを乗せてしまえばいいのだが、折角だしあの格納庫にあった残骸からかき集めたそこそこ使えそうな部品を組み合わせてユーハングの部品だけで組んだ栄を仕上げようとしたのだ。理論上はもうなんの問題も無く稼働するはずなのだがどうもオイル漏れが収まらない。
イサカ
「どうしたんだ?」
ヤマダ
「イサカか、お疲れさん。いや、発動機からオイル漏れが止まらないんだよ・・・」
イサカ
「原因が分からないのか?」
ヤマダ
「ああ、それに出力が上がらないしアイドリングが安定しない・・・仕方無いがこの発動機は使えないな。」
そしてテストベンチから発動機を下ろし倉庫にしまった。栄発動機はオイル漏れが常であったと言うのは周知の事実であるが、安定した機械工作技術と職人が育ったイジツでは部品同士の接合精度が上がりオイル漏れはほとんど無い。結局こちらで生産された栄を載せカウリングを固定し二一型が完成した。
イサカ
「尾翼番号721-115・・・この塗装の二一型は初めて見たな。」
ヤマダ
「濃緑色+名灰白色の五二型と同じ塗り分けの二一型は末期生産型にしかないからな、意外に似合うだろ?」
イサカ
「ああ、パッと見だと五二型と見分けがつかないな。」
ヤマダ
「よっし・・・飛んでみるか!」
イサカ
「待て、どうせならAI-3-102と一緒に飛ばさないか?」
ヤマダ
「いいな!新旧塗装の二一型の編隊飛行・・・しかも二機ともユーハングの機体のレストア機だ、やろう!」
そして俺は721-115を滑走路まで押して行く、オリジナルの発動機を使えればエナーシャスターターも使えたのだが今回はもうセルモーター始動だ。正直に言ってしまうとクラッチハンドルの点検の必要が無くなるのでこちらの方が楽なのだが、やはりロマンは大切である。
イサカ
「ヤマダ、エナーシャを頼む。」
ヤマダ
「了解。あっそうだイサカ」
イサカ
「どうした?」
ヤマダ
「こっちでクラッチハンドルを引いてみてもいいか?」
イサカ
「新鮮でいいかもしれないな・・・頼む」
ヤマダ
「おっけい。」
イサカ
「整備員前離れ!メインスイッチオフ!エナーシャ回せ!」
エナーシャハンドルを掛け金に引っ掛け回転数を上げていく。回転数が80回転を超えたらエナーシャを掛け金から外しクラッチハンドルを引き叫んだ。
「コンタクトーーー!!」
カラッカラッカラッ・・・バラバラバラバラ!!!!!
いつも入念に整備しているだけあって一発始動だ。車止めをはらいタキシングできる旨を手を振って伝え俺は721-115に乗り込んだ。セルモーターで発動機を回し先に滑走路に出ていたイサカに続く。
ヤマダ
「イサカ、行けるぞ!」
イサカ
「了解!」
バラバラバラ・・・ゴォォォォォォ!!!!!
発動機と過給器の回転が上がり機体に強い風が当たる、ゆっくりと尾部を持ち上げるとイサカに続いて飛び立った。しっかりと主桁等を張り替えたこともあって非常に調子がいい。
イサカ
「調子はどうだ?」
ヤマダ
「すこぶる良い、ほらよっ!!」
スロットルを開けAI-3-102の隣に並ぶ。風防を開けて手でグッドマークを作り大きくバンクを振った。
イサカ
「はしゃぎすぎだ、馬鹿者・・・ふふっ」
ヤマダ
「ははは!!」
イサカもこちらに大きくバンクを振る。笑いながらしばらく二機並んで飛ぶと、イサカが提案をしてきた。
イサカ
「ヤマダ、二人で並んで宙返りをしてみないか?ピッタリ並んで宙返りをするのは意外と難しいんだ。」
ヤマダ
「よっし・・・こりゃ俺の腕の見せ所だな。」
イサカ
「私も負けてられないな・・・いくぞ!」
綺麗な横並びになると、イサカの手信号で操縦桿を引きつける。横並びになっている位置からズレないようにスロットルを小刻みに調節し、ラダーを細かく踏み直して接触したり横滑りしないようにする。一周綺麗に回れた時は快感であった。
イサカ
「何を安心した顔をしているんだ?あと二周だぞ?」
ヤマダ
「やってやるよ!ははは!」
結局三周目は失速ギリギリで二人ともフラップを出して宙返りをしていた、馬鹿な事をしたものである。
イサカ
「ふぅ・・・もう少し速度が欲しかったな。」
ヤマダ
「そうだな・・・ははは!」
イサカ
「ふふふっ」
そうして二人で飛んでいると、少し向こうで見覚えのある機体が飛んでいた・・・レミの五二型だ。たまたま空賊に囲まれていたようで空戦をしている、イサカも気付いたようで手信号で向かう事を知らせてきた。だがその心配も無駄だったようでレミは瞬く間に空賊を叩き落としこちらに向かってきた。
レミ
「お二人さ〜ん」
イサカ
「見事な空戦だったな、お疲れ。」
レミ
「ありがとうっす〜」
そしてレミに先に滑走路に降りるように言い、俺たちは上空で待機していた。すると突然着陸体勢でいたレミの機体のプロペラが止まった。
イサカ
「レミ!?」
ヤマダ
「レミ!?」
幸い接地寸前だったので着陸に支障はなかった。俺とイサカはさっさと着陸し機体を止めるとレミの方へと駆けて行った。
ヤマダ
「レミ!大丈夫か?」
レミ
「びっくりしたっす・・・」
イサカ
「接地寸前で助かったな・・・だがレミの機体に積んであるのは元々ヤマダの61-120の発動機だろう?そう簡単に不調が出るとは思えないが・・・」
カウリングを外し発動機を確認するが大きな問題は見つからない、だが機体がとても熱い。本来そこそこの高度で空戦をすれば上空の冷たい空気で発動機は相当冷却されるのでここまで熱を持つことは無い。だが・・・
ヤマダ
「レミ、カウルフラップはちゃんと開けて空戦したか?」
レミ
「あっ・・・急に来たんで忘れてたっす・・・」
ヤマダ
「それだな・・・」
イサカ
「どういう事だ?」
ヤマダ
「えっとな・・・」
発動機が異常な熱を持つと故障する。という事は周知の事実であるがどのような原因で故障が起きるかまで理解している人間は少ない。ノッキング(異常燃焼)、バルブタイミング異常など発動機が直接壊れてしまうような故障は当然起こるのだが、その前に起こるのは「パーコレーション」だ。気化器のフロート室や燃料ラインにあるガソリンが熱で蒸発し気泡となり燃料の流れを止めてしまうのだ、気化と蒸発は違う。燃料の供給が止まった発動機は当然止まる。
ヤマダ
「いくら急でもカウルフラップは開けて空戦は絶対だぞ。今回は着陸中で良かったが空戦中にでも起これば致命的だ。」
レミ
「ごめんなさいっす・・・」
ヤマダ
「今度から気をつけてな。ちゃんと扱ってやれば俺の整備した機体は負けね〜からよ。」
イサカ
「口を酸っぱくして搭乗員に空戦前はカウルフラップを開けろと言っていたのはそういうことだったんだな。私も勉強になった。」
ヤマダ
「まあこれは燃料ラインが冷えれば蒸発したガソリンは液体に戻ってなんの問題も無く動くようになるさ、あと数分したらいっぺん回してみればいい。」
レミ
「感謝するっす~」
イサカ
「それでレミ、今日は何の用だ?」
レミ
「そうそう、久々にゆっくり居酒屋にでも行かないっすか?」
ヤマダ
「いいな、ていうかそんな話を持ってくるならクロも誘ってやれよ・・・」
レミ
「いや誘ったんっすけど『どうせ酒だけ飲んで終わりだろ』っつって言われちゃったんっすよ~」
ヤマダ
「はは・・・じゃあ俺がちょっくら呼んでくるよ、二人は先に居酒屋行っとくかい?」
イサカ
「いや、待っておく。早く呼んできてやれ。」
ヤマダ
「悪いな、」
そうして俺はAI-1-129に乗り込んで発動機を回すとレミ組の方へと飛ぶ、クロはレミ組の事務所にいるはずだと聞いたので事務所の前の滑走路を目指して飛んでいるとレミ組の機体らしき五二型が前から飛んできた。ゲキテツ一家のマーキングがあったので安心して飛んでいたが・・・・
ダダダダッ!!!
ヤマダ
「うおっ!?」
射線をかわし、五二型の土俵に乗らないよう縦旋回と横旋回で逃げる。
ヤマダ
「くっそーー!!こういう時にマークが無い機体は不便だぜ!!」
縦旋回と横旋回を駆使し五二型の後ろにぴったりと張り付くと、バンクを振って敵意はないことを示す。手信号でクロに会いに来たことを伝え、滑走路に降りた。発動機を止め事務所の中に入っていく
ヤマダ
「クーロー、居るか~?」
クロ
「ここにいる、なんだ?」
ヤマダ
「おう、いやイサカとレミと飲みに行かねーかって話だよ。久々にどうだ?」
クロ
「お前も来るのか?」
ヤマダ
「ああ、勿論だ。」
クロ
「なら・・・行くか。」
そしてクロの五二型を出しに滑走路の脇に行く、なんだかんだでクロも自分の機体をきれいにしているようで、排気汚れが見当たらない。
ヤマダ
「おお、きれいにして使ってんだな。」
クロ
「まあな・・・そうだ、最近発動機の出力が落ちてる気がするんだ。軽くでいいから見てくれないか?」
ヤマダ
「ほう?それなら飲みに行った後しっかり見てやるよ。お前が機体の不調なんかで死んだらレミに申し訳が立たねぇからな。」
クロ
「頼む。」
そしてクロの機体の発動機を回そうと機体に近づくと、さっきの五二型の搭乗員らしき若い男が歩いてきた。
???
「お前がさっきの二一型の搭乗員か?」
ヤマダ
「ああ、そうだ。」
???
「さっきはすまなかった。お前もゲキテツ一家だったんだな。」
クロ
「ヤマダ、何かあったのか?」
???
「クロさん、実はさっき・・・」
ヤマダ
「いや、何でもないよクロ。」
クロ
「?? そうか・・・?」
そうして俺はクロの機体の発動機を回し、彼のもとへ行った。
ヤマダ
「さっきは悪かったね。」
???
「こっちこそ急に仕掛けて悪かった。どこにも被弾は無いか?」
ヤマダ
「ああ、にしても君実戦に行ったことないだろ?」
???
「なっ・・・どうしてそれを!?」
ヤマダ
「撃ち始めるタイミングが早すぎだ。俺も最初は良くやらかしたよ、まあ何回か実戦に出れば慣れてきて撃つタイミングもわかってくるさ、がんばれよ。」
そう言って立ち去ろうとすると、男が何か考え込んだ顔をしていた。少し待ってみて、男の口から出た言葉は・・
???
「・・・・初めて会ったあんたにこんなことを言うのもおかしな話だが、俺に空戦を教えてくれ!」
ヤマダ
「はぁ!?」
???
「頼む!個人の実力が高いレミ組で俺だけが浮いている・・・そんな状況は嫌なんだ!頼む!」
ヤマダ
「んなこと言われたって・・・レミに許可ももらってないし・・・」
???
「頼む!この通りだ!!」
ヤマダ
「はぁ・・・わかったよ。じゃあ都合のいい時にイサカ組の格納庫に来な。」
???
「・・・ありがとう!!」
ヤマダ
「君の名前は?」
レイジ
「俺、レイジって言います!よろしくお願いします!!」
ヤマダ
「俺はヤマダだ、よろしくな。」
そうして急いでAI-1-129のもとに戻ると、急いで発動機を回し暖気運転を終わらせた。
ヤマダ
「悪いなクロ、遅くなった。」
クロ
「あいつはレイジ、機体を操るスジは悪くないが実戦経験がない。」
ヤマダ
「どうした急に・・・」
クロ
「頼まれたんだろ?空戦を教えてくれって。」
ヤマダ
「何で知ってんだよ・・・」
クロ
「裏工作がウリのレミ組だ、読唇術くらいはあるぜ?」
ヤマダ
「お前が一番こえぇよ!!」
・・・・・いつもの滑走路
そうして二人でいつもの滑走路に着陸し機体を格納庫に収めると、イサカとレミが待ってくれていた。
イサカ
「遅いぞ、馬鹿者。」
ヤマダ
「悪い悪い・・・レミ組でいろいろあってな。」
レミ
「ありゃ、うちの組員がなんかしたんっすか?」
クロ
「レイジに『空戦を教えてくれ』ってせがまれてたぜ。」
レミ
「えーっ!あのバカ、よりによってヤマダに頼んだんっすか?」
クロ
「ああ、」
レミ
「ええ・・・まあ確かに最近空賊とかが居なかったっすから教えてあげられなかったっすけど・・・」
ヤマダ
「最近入ったやつなのか?」
レミ
「つい最近っすよ~ 悪いっすねヤマダ、迷惑ならもちろんアタシから言ってやめさせることもできるっすけど・・・」
ヤマダ
「まあ一度いいって言ってしまったしな。それに操縦の基礎はしっかりしてるからあとは実戦経験だけだ、そんなに苦ではねえよ。」
そして四人でいつもの居酒屋に行く、店に入って店主に挨拶をするといつも四人で座るテーブルに行った。靴を脱いで胡坐をかいて座る。
ヤマダ
「それでよクロ、発動機の調子が悪いっていつからだ?」
クロ
「一週間前くらいか・・・スロットルを開けてからワンテンポ遅れて加速するようになってな、どこが調子が悪いというより全体的にやれているような気がするんだ。」
ヤマダ
「確かクロの機体を点検したのが一か月前、総飛行時間はだいたい120時間だよな・・・多分全体的に汚れがたまっているんだよ、普通に飛んでたら溜まるような汚れだから別に異常でも何でもない。帰ったら分解清掃してやるよ。」
イサカ
「待て、お前まさかどの機体をいつ点検したか覚えているのか!?」
ヤマダ
「俺が整備した機体だけだがな、整備した後の事も整備士の責任だ。」
そうしてしばらく飲み、会計を済ませるといつもの格納庫に戻る事になった。だが俺は少し部品を買ってから帰ろうと思い、三人に先に帰っておいてくれないかと伝えると、イサカが一緒に着いてきてくれることになった。
イサカ
「何を買うんだ?」
ヤマダ
「ん?パーツクリーナーと点火プラグ」
イサカ
「クロの機体に使うのか、」
ヤマダ
「ああ、綺麗に洗浄してリフレッシュしてやらねーとな。」
そうして買い物を終え、二人で帰り道を歩いていると前から若い男二人が走ってきた。どこかで見た顔だなとは思ったそのまま行かせようとすると。イサカが突然二人を呼び止めた。
イサカ
「待て、お前達。」
二人の男は立ち止まった。
イサカ
「お前達は最近私の組に入ったものだな、名を名乗れ。」
ケンジ
「ケンジです!」
モリタ
「モリタです!」
イサカ
「こんな時間にここを彷徨いているとは、休憩時間で出歩いたあと帰り道がわからなくなったのか。案内してやるから着いてこい!」
二人を連れて帰り道を歩いて行く、だいたい察しはついた。この二人は最近サダクニさんの元で操縦訓練を受けている新入り二人だ。恐らく訓練が辛くて逃げ出そうとしたのだろう。
イサカ
「ヤマダ、AI-1-129がある格納庫で何か言ってやってくれないか、引き止めたあとのことは何も考えていなかった・・・」
ヤマダ
「まじか・・・」
そして格納庫に到着すると、三人を入れ電気をつけた。
ガシャンっ・・・
モリタ・ケンジ
「おお・・・」
ヤマダ
「俺たちの組の主力戦闘機、零式艦上戦闘機二一型だ。見た事くらいはあるだろう?」
モリタ
「我々は零戦に乗る為にゲキテツ一家に入ったのです。ですが訓練では九六戦にしか乗れなくて・・・」
ケンジ
「ばか!」
モリタ
「あっ・・・」
まあそういう事だったのだろう。気持ちは痛いほどわかるが・・・ここは少しいい思いをさせてやるか。
ヤマダ
「乗ってみろ。乗り方はわかるな?」
ケンジ・モリタ
「良いのですか!?」
ヤマダ
「ああ、」
ケンジ
「失礼します!」
ヤマダ
「機銃は機首に7.7ミリを二門、主翼に二十ミリ二門を搭載し瞬発火力は申し分無しだ。この機体は少し違うが貴様らが乗る機体は栄一二型を搭載し940馬力を発生する。」
モリタ
「この機体はヤマダさんの機体ですか?」
ヤマダ
「いや、こいつは俺の妻の機体だ。」
ケンジ
「えっ、じゃあ最近イサカ組長が結婚したって言う噂は本当だったんですか!?」
ヤマダ
「結構前だぞ・・・よし、二人とも降りてこい!」
二人は機体から降りるとこちらを向いて立った。いい目をしている。
ヤマダ
「貴様らが何故あんな所を走っていたのかはわかっている。理由は聞かないでおいてやるが、ここで決めろ。このまま逃げ出して実家にも戻れずクソみたいな人生で終わるのか、ここに戻って人の役に立つ人生を送るのか。」
ケンジ・モリタ
「・・・俺は!!家が貧乏で少しでも親の負担を減らしたくてここに来ました!!もう一度よろしくお願いします!!」
ヤマダ
「よし、それでいい。」
そして二人とサダクニさんの所へ行き、事情を説明して二人を宿舎に帰した。サダクニさんに「お前は甘すぎるんじゃないか」と言われた、確かに甘いかもしれないが・・・貴重な戦力となり得る人間を逃すのも勿体ない。
イサカ
「なぁ・・・ヤマダ」
ヤマダ
「どうした?」
イサカ
「私が結婚するというのは・・・それほど意外な事なのか?」
ヤマダ
「さぁな、するもしないも君の自由だったんだ。他人の目なんて気にしなくていいんじゃないか?」
イサカ
「ふふ・・・そうだな。」
そしてクロの機体を見るべく格納庫へと戻る、自分で言うのもなんだがずらりと並んだ零戦は見事でとても美しい。
遅くなったことを二人に侘びるとクロの機体のカウリングを外し発動機を露出させるとプラグコードを全て抜き、シリンダーヘッドを分解する。案の定バルブとピストンにすすが溜まっていた、蓄積したすすが熱で焼き付きバルブが閉じても微妙な隙間が空いていた。これでは圧縮が落ち規定の馬力が出ない。
ヤマダ
「クロよ、今度からは飛行100時間でこっちに持ってきてくれねーか?」
クロ
「この前は120時間って言っていなかったか・・・まあお前が言うなら従うよ、わかった。」
ヤマダ
「すまんな、どうも最近オイルの質が安定しないからすすが出る時でない時があるんだよ。こっちのシマの機体は出撃毎に点検してるからいいんだがそっちだとそうもいかねーからな。」
イサカ
「お前の61-120や私のAI-1-129もそのオイルを使ってるのか?」
ヤマダ
「いや、61-120・イサカの波塗装の二一型・AI-1-129・俺のコレクションの機体は違うオイルを使ってる。俺の馴染みの奴から卸してもらってる特性品だぜ?」
レミ
「なんかズルくないっすか〜?」
ヤマダ
「適材適所って奴だよ、君らみたいな連日飛ぶような機体は劣化が遅い鉱物油を使ってなるべく交換サイクルを長くするんだよ。けど俺のコレクションの機体とかいつでも見れる所にあるイサカの機体には劣化が早くても性能を引き出せて機体にも優しい植物油を使うんだ。」
レミ
「しょくぶつゆ・・・?」
ヤマダ
「雑に言っちまえば菜種油だ、劣化が早いのが弱点だが粘度が程よくて機体の金属にも優しいんだよ。」
イサカ
「AI-1-129とかAI-3-102に乗った時に甘い匂いがするのはそのせいか?」
ヤマダ
「ああ、砂糖を焼いた時みたいな匂いがするだろ。」
イサカ
「それはその匂いだったのか・・・」
ヤマダ
「とにかくクロ、オーバーホールするから三日くらい預かるぞ。」
クロ
「わかったよ、わざわざすまねぇな。」
そうしてレミとクロは帰っていった。
・・・・・三日後
機体の消耗部品を取り換え汚れを全て落とし、試運転も済ませたクロの五二型が朝日に照らされている。大きな異常もなく三日は少し言い過ぎたかと言った具合であったが、お陰で満足のいくまで各部のすり合わせを行えた。
ヤマダ
「ほいよ、もうぶん回しても平気だぜ。」
クロ
「ありがとう。」
ヤマダ
「ところでレイジのヤツは?」
クロ
「嬉しそうな顔してこっちに来る準備してたぜ。」
ヤマダ
「そうか、そんなに嬉しいもんなのかな・・・」
しかし困ったことがあった、俺は今日からおおよそ五日間コトブキと共に羽衣丸を護衛しなければならない。何を運ぶかなどの詳細は聞いていないが、フロント企業の契約を成立させるために護衛を条件に提示したらしいのだ。
ヤマダ
「ってことでレイジにもう少ししてから来るように伝えてくれないか?」
クロ
「わかった、こっちでもなるべく実戦に連れて行けるようにはしてみる。」
そうしてクロを見送ると、出ていく準備をして格納庫へと降りて行った。今回はAI-1-129とAI-3-102で行く事にした、最近61-120を動かせていないのがとても残念であるが低速での着艦が要求される訳であるから仕方ない。
イサカ
「今日は飴色の二一型二機で行くのか、お前の61-120が最近出番が無いな・・・」
ヤマダ
「まぁ仕方ねぇよ・・・」
イサカ
「そうだヤマダ、今回はお前がAI-1-129に乗ってくれないか?」
ヤマダ
「え?どうしたんだ急に」
イサカ
「飛行船に降りる時にあいつだと頭が重くてな・・・」
ヤマダ
「了解、一応燃料タンクで重心位置は調節してるんだがな。やっぱり感覚の違いはわかるもんか。」
イサカ
「悪い訳では無いのだがな・・・よし、今日の羽衣丸の停泊地はラハマだ。少し長旅になるが・・・昼過ぎには到着しないといけない、行くか。」
ヤマダ
「こっからだと大体巡航速度で五時間くらいか、今から飛んだら到着は13:00くらいだな。長旅は大歓迎だ。」
そしてイサカのAI-3-102に増槽を取り付けて燃料を補充する。AI-1-129は胴体内・主翼・主翼外側・機体後部に燃料タンクがあるので少々燃費が悪いP&W R1830-75でも五時間程度なら増槽は必要無い。はなから空戦目的で出撃する時は機体後部燃料タンクに燃料を入れなければ良いのだ。
イサカ
「エナーシャ回せ!!」
ヤマダ
「コンターク!!」
もう始動も手馴れたものである。植物油を用いて良くなじませた発動機は一発で始動する、質の良いピストンリングを使っているのでオイル下がりも少なく回転は直ぐに安定する。俺もAI-1-129に乗り込んで発動機を回すと滑走路に出た。
イサカ
「離陸するぞ。」
ヤマダ
「了解〜」
低ピッチ固定でゆっくりとスロットルを開けてゆく。機体の速度が出れば操縦桿を前に倒し機体後部を浮かせ、離陸した。
ヤマダ
「使用燃料タンク胴体後部、混合比率リーンバーン、プロペラピッチフリー、スロットル開度20パーセントっと・・・」
イサカ
「使用燃料タンク増槽に切り替え、プロペラピッチフリー固定、計器類問題無し・・・」
お互い必要な事項は声に出して確認する。航路計算は前に居るイサカがしてくれているが、もし何かあった時に備え俺も航路計算はしておく。目印のほぼ無い荒野はユーハングで言う海と同じ。航路計算を間違えれば死ぬ事もありうる。俺たちは戦闘機乗りでもあり船乗りでもあるのだ。
ヤマダ
「オイルプレッシャー問題無し、シリンダー温度安定、ブーストプレッシャーマイナス50、問題無し。」
イサカ
「油温問題無し、燃料混合率安定、回転数正常、吸入圧力-50、問題無し。」
ヤマダ
「イサカ、そっちは大丈夫か?」
イサカ
「至って快調だ、ラハマまであと4時間50分。ゆっくり行こう。」
ヤマダ
「ああ、あっ!航空時計航空時計っと・・・」
二一型の一部には計器盤に航空時計がある。俺はイサカから貰った懐中時計を取り出し航空時計の時間をピタリと合わせた。
イサカ
「その時計、ずっと使ってくれているのか・・・」
ヤマダ
「勿論だ。一ヶ月に一回程度の調整が必要だが時間も正確だしな。」
ラハマまでは時間がかかる。しばらく飛んでいると雲の中に入った、旋回計などを確認し機体が横滑りしていないことを確認すると配電盤のスイッチを操作し編隊灯と尾灯を点灯させた。
イサカ
「くうっ・・・方向感覚がわからなくなりそうだ・・・」
ヤマダ
「零戦の計器類を信用するしかねぇ・・・落ち着いて行こう。」
三時間半ほど飛んだだろうか、雲をぬけ編隊灯を消したイサカが増槽を切り離した。
イサカ
「ふう・・・あと少しだな。」
ヤマダ
「ああ。体調に乱れは無いかい?」
イサカ
「ああ、問題無い。お前は大丈夫か?」
ヤマダ
「バッチリだ、ありがとう。」
俺は胴体後部燃料タンクと外翼燃料タンクを使い切り、燃料コックを主翼燃料タンクに切り変えた。R1830で増えた重量によって前にずれた重心位置を正すために搭載した胴体後部燃料タンクがこんな形で役に立つとは思わなかった。若干増えた重量は1450馬力のR1830-75が引っ張ってくれるので、性能低下は全く感じられない。むしろ馬力は上がっているので運動性能は上がっているように感じる、零戦はパワーウェイトレシオが低いのだ。
さらに一時間とすこし飛び続けると、ラハマの街が見えてきた。既に羽衣は出発準備をしており、ハッチが空いていた。
ヤマダ
「もうそのまま着艦しちまおうか」
イサカ
「了解だ。」
脚を出して羽衣の着艦コースに乗る、大きくバンクを振り着艦する事を伝えるとフラップを下げスロットルを絞り着艦する。羽衣の格納庫は準備中でバタバタしていたが、事前に連絡をしていたのもあってスムーズに駐機場所まで行く事が出来た。
ヤマダ
「よっこらせっと・・・イサカ、長旅お疲れ。」
イサカ
「お前こそ、お疲れ様だな。」
ナツオ
「真っ昼間から見せつけるんじゃねえよ。」
ヤマダ
「ナツオ、久しぶりだな。今日から三日間よろしくな。」
ナツオ
「お前にはしっかり整備を手伝ってもらうからな?」
ヤマダ
「あいよ、任せといてくれ。」
イサカ
「ヤマダ、私はマダム・ルゥルゥの所に行ってくる。20分後あのサルーンで落ち合おう。」
ヤマダ
「ああ、わかった。マダムによろしくな。」
そして俺はナツオとしばらく話した後時計を見てナツオに後で来ることを伝え、サルーンに向かう。コトブキの皆もそこにくるそうだ。俺はサルーンの扉を開けるとコトブキの面々はまだ来ていなかったようだったが、イサカがすでに待ってくれていた。するとイサカの隣に茶髪の男がすわり、何やらなれなれしく話しかけている。
???
「俺はアドルフォってんだ、あんたイかしてるぜ。名前は?」
イサカは無視していた、当然である。
ヤマダ
「俺の妻に何か用か?」
イサカ
「来るのが遅いぞ、ヤマダ。」
ヤマダ
「悪いな、ところでこいつは?」
イサカ
「知らん。」
ヤマダ
「で、あんた。俺の妻になんの用だ?」
するとサルーンの扉が開き、神父のような男が茶髪の男に声をかけた。
???
「アドルフォ、お前は懲りないな・・・」
アドルフォ
「なんだよ、たまにはいいじゃねえか。相変わらずお堅いねぇ。」
フェルナンド
「お前はたまにじゃないから言ってるんだ。すまなかったな、俺はナサリン飛行隊のフェルナンド。そっちはアドルフォだ、三日間よろしく頼む。」
アドルフォ
「えっ、じゃあ仕事を一緒にするってのは・・・」
フェルナンド
「この二人だ、」
コトブキともう二組いるというのは聞いていたが、こんな男が居て大丈夫なのか・・・するとまたサルーンの扉が開き、コトブキの面々が入ってきた。
キリエ
「あ、おっさんたちここにいたんだ~」
エンマ
「あらあら。ヤマダ、あなた何をしましたの?」
ヤマダ
「なんにもしてね~よ」
チカ
「そっちじゃないよ、こっちのおっさんも山田てーの!」
ヤマダ
「は!?」
アドルフォ
「アドルフォ山田だ、さっきは悪かった。よろしくな。」
ヤマダ
「ああ、よろしくな。あと謝るなら俺じゃなくて俺の妻にしてくれ。」
アドルフォ
「すみませんでした・・・」
イサカ
「見ず知らずの女にずけずけと話しかけることが出来る根性だけは評価してやる。今後気をつけろ。」
アドルフォ
「はい・・・」
ザラ
「最近ナオミとはどうなの?」
アドルフォ
「いつも通り、自由奔放に飛び回ってるよ・・・はぁ」
ヤマダ
「待て、あんた妻がいるのか?」
アドルフォ
「ああ、一応な。」
ヤマダ
「そうか、その人も戦闘機乗りなのか?」
アドルフォ
「ああ。」
ヤマダ
「そうか・・・大切にしてやれよ。」
アドルフォ
「まぁ・・ああ、」
キリエ
「ナオミと最近うまくいってないもんね~、愚痴ばっかり言ってるし。」
ヤマダ
「自分の妻との時間くらい大切にしてやれ。ただでさえいつ会えなくなるかわからねえ仕事してんだ、後悔するぞ。」
そうこう話しているうちに羽衣は高度を上げ、巡航高度についた。揺れも少なくなり移動も楽になったかという所で俺はふと思い出してイサカを呼び駐機場所へ戻った。
イサカ
「急にどうしたんだ?」
ヤマダ
「発動機を回さないままで高度だけが上がったからな・・・下のシリンダーのオイルを抜いておこうと思ってな。」
星形エンジンはそのシリンダー配列上、どうしても下向きに角度がついているシリンダにオイルがたまってしまう。しょっちゅう飛ばしているならオイルはシリンダー側壁にへばりついたままでいてくれるが、丸一日も放っておけば下のシリンダーにはオイルがたまってプラグが浸かり火花が飛ばなくなってしまう。
ヤマダ
「ナツオー!台借りるぞ!」
ナツオ
「そっちにある!勝手にもってけ!」
イサカと協力してまずはAI-1-129からだ、カウリング固定に用いられているターンバックルを緩めエンジンカウリングをがばっと外す。発動機が露出するのでとても整備がしやすい、零戦の利点の一つだ。カウリングを横に置くとプロペラを数回手で回す、これである程度オイルを側壁に戻してやるのだ。
イサカ
「プラグ外すぞ。」
ヤマダ
「ちょいまち」
オイル受けをシリンダーの下に置いておき、オイルが床に飛び散らないようにする。
ヤマダ
「いいぞ~」
イサカがプラグを外すとオイルがほんの少しだけ垂れてきた、ひどいときはここからオイルが滝のように流れ落ちる。ある程度自然に流れ落ちるのを待つと、次はでかい注射器のようなものでオイルを吸い取る。シリンダー内部にオイルは必要だが、こんななみなみとは要らない。溜まったオイルを適度に抜くとプラグを戻し発動機を回す。
イサカ
「ヤマダ、いいぞ。」
ヤマダ
「了解」
ウィィィン・・・カラカラッカラッカラッ・・・・
ヤマダ
「あ~ ガソリンまで流れ落ちてやがる・・・」
吸入管に溜まった混合気が冷えてガソリンが液体に戻り、それがシリンダーに流れ落ちているのだ。ハードスタートとなり発動機に負担がかかってしまうが、セルの回転時間を長くしてガソリンを燃やし切ってしまうしかない。その前に・・・・
ヤマダ
「イサカー!!すまんが新しいトレーを機首の下においてくれないか?」
イサカ
「置いたぞ!」
そして操縦席の小さなレバーを引き、気化器空気導入管の中に流れ落ちたガソリンを排出する。これを残したまま始動動作を続けるとどんどんガソリンが溜まり、最悪静電気で発火する。機体もろとも火だるまだ。
ウィィィン・・・カラッカラッカラッカラッ・・・バラッバラッ・・・
少しずつシリンダーに火が入り始める、それと同時に排気管からもうもうと白煙が出てきた。オイルとガソリンが燃えているのだ。
バラッバラッバラッ・・・バラ・・バラバラバラバラ!!!!
大きく白煙を噴いたのち、プロペラの回転が少し加速し安定した。すべてのシリンダーに火が入り、余計なガソリンとオイルが燃え切ったのだ。しばらくアイドリングさせるとすすを焼き切ってしまうためにブレーキを思いきり踏み込みスロットルを開けた。
ゴォォォォォォ・・・!!!
何度か回転をあおりレスポンスに異常がないかを確認する。全く異常はなかった。発動機を止め機体から飛び降りる。
ヤマダ
「さて・・・全く同じことをAI-3-102でもやるか・・・」
イサカ
「まぁ・・・そうなるな。」
幸いAI-3-102は派手にオイルが下がっておらず、始動に手間はかからなかった。栄発動機のシリンダーが熱を持ちやすいという特性がいい方向に働いたようである。
イサカ
「メインスイッチオフ、エナーシャ回せー!!!」
ヤマダ
「コンターク!!」
バラッバラッ・・・バラバラバラバラ!!!
さっきとはスイッチを入れた時の音が明らかに違う、ちゃんと火花が飛び混合気に引火している。一応磁石発電機やその他補機類の動作も確認してみたが問題はなかった。イサカが発動機を止め機体から降りてきた。
イサカ
「絶好調だ。」
ヤマダ
「あったりまえよ、俺の整備だぜ?」
イサカ
「ふふ、そうだったな。」
なんだかんだしているうちに日は沈み、月明かりが外を照らしている。何もなければいいとのんきなことを考えていたがそうもいかず、船内に空賊の襲来を伝えるサイレンが鳴り響いた。
ヤマダ
「初日からかよォ・・・」
イサカ
「まあ仕方ないさ・・・行くぞ!」
コトブキが発艦する前に甲板を開けてやらなければならない、数が少なく一機はセルモーターの俺たちにとってスクランブルはお手の物だ。
ヤマダ
「イサカ!乗れ!!」
イサカ
「よっ・・・と・・メインスイッチオフ、エナーシャ回せ!!!」
ヤマダ
「コンタクト!!!」
温まった栄発動機は非常に素直に火が入る。ブレーキを踏んだことの合図をもらうと車止めをはらい自分のAI-1-129に飛び乗る、コトブキとナサリンの面々も発進準備をしているが、こちらの方が圧倒的に早い。
ナツオ
「ヤマダ、イサカ、先に出ろ!!」
ヤマダ
「了解!」
イサカ
「位置についた!ヤマダ!」
ヤマダ
「ブーストプレッシャーOK、オイルプレッシャーOK、回転数問題なし、イサカ!行けるぞ!!」
イサカ
「発艦する!!」
二機の飴色の零戦は羽衣から月夜に舞い上がった、雲の上では月明かりを遮るものはなく視界はいい。編隊灯を点灯させイサカと二機編隊を組むと、空賊がいるという方向に向けて高度を上げつつ羽衣艦橋からの無線を聞いた。
アンナ
「空賊は6機、零戦五二型の編隊です。ヤマダ、あんた今日は二一型だけど大丈夫なの?」
ヤマダ
「しょっぱなから不安になるようなこと言わんでくださいよ・・・私は妻より先には死ねませんからね。」
マリア
「私たちもあんたらが死ぬとこなんて見たくないんだからね、せいぜい頑張りなさいよ?」
ヤマダ
「羽衣に損害出したら俺がおこられるんだよ・・・」
イサカ
「無駄話をしている場合じゃないぞ!二時方向下に五二型の編隊だ!!」
ヤマダ
「今日は何分だ?」
イサカ
「6分でどうだ?」
ヤマダ
「了解、行くぞ!!」
馬力が違うので俺たちは編隊を解き真上から五二型の編隊に襲い掛かった、月を背負い照準器に広がった五二型の主翼に向けて機銃を打つ。
ダダダッ!!
いくら機体性能が上がっていても上からの奇襲はひとたまりもない、まともに銃撃を食らった五二型は火を噴き落ちて行った。自動消火装置で火は消えるが穴の開いた主桁に強度はない、バラバラになる。撃墜確実だ。向こうではイサカが一斉射を浴びせた機体が爆散している。
イサカ
「次だ!」
ヤマダ
「あいよ!」
散開する五二型のうちの一機を追いかけピタリと後ろに着く、防弾装備のまだ無い五二型に20ミリを使い切ってしまうのも勿体ないのでスロットルレバーのスイッチをはね7ミリ7機銃のみに切り替えると限界まで近付き発射した。
ババババババッ!!! カンッカンッ!!
目の前の五二型の動きが急に止まり速度をあっという間に失っていく、パイロットに当たったのだ。
ヤマダ
「悪く思うなよ。」
機首を上げ羽衣の方へ戻ると、残りの機体をコトブキとナサリンが片付けていた。
アドルフォ
「星一つ!」
キリエ
「おっさん後ろ!!」
エンマ
「頂きましたわ!」
それぞれの無線と爆発音が聞こえ、あっという間に空賊は殲滅された。見事なものである。
イサカ
「ヤマダ!大丈夫か?」
ヤマダ
「大丈夫だ、イサカは大丈夫かい?」
イサカ
「私は大丈夫だ、何機撃墜した?」
ヤマダ
「とりあえず二機だな、イサカは?」
イサカ
「私は二機撃墜の共同撃墜一機だ、20ミリを使い切ってしまった。」
ヤマダ
「やっぱ100発だと不足気味だな〜」
そうこう言いながら羽衣に戻ると、レオナさんから無線が入った。
レオナ
「先に着艦するか?」
ヤマダ
「いえ、俺たちの方が着艦操作が楽ですからコトブキとナサリンが先に行って下さい。」
レオナ
「了解、ありがとう。」
羽衣の周りをぐるぐると飛んでコトブキとナサリンの着艦を待つ。艦橋ギリギリまで主翼を寄せれるかやっていると、イサカとアンナさんに怒られてしまった。
イサカ
「馬鹿なことをするな・・・」
アンナ
「なにやってんのよ!」
マリア
「すご〜い・・・こんなに寄せれるもんなのね〜」
コトブキとナサリンが着艦した。
ヤマダ
「イサカ、先に降りてくれ。」
イサカ
「了解。」
そしてイサカに続いて着艦すると、冷却運転や各種点検を済ませシャワーを浴びて倒れるように寝てしまった。初日からの出撃で相当疲れていたようである。
・・・翌朝
ヤマダ
「ふあ〜あ・・・」
昨日はほとんど眠れず、眠い目を擦って駐機場所まで降りていくと自分で持ってきたウエスで機体の油汚れをふき取ってやった。飛行船に搭載されている水は限られているので機体を洗うのに使う事は出来ない。二機の二一型には申し訳ないがしばし我慢である。
ヤマダ
「昨日はありがとうな。」
プロペラを手で回しオイルを戻したあと、主翼のパネルを開けて九九式一号二型改二十ミリ機銃の100発ドラム弾倉を取り替える。昨晩二機目を撃墜した時に二十ミリを温存したのでまだ20発ほど余りがあった。これは別で保管し後日装填し直す。7ミリ7機銃も同様に使いかけのベルトを取り外し新品のベルトに入れ替える。
ヤマダ
「これでよしっと・・・メシ食ったらコトブキの隼の整備も手伝わされるだろうし、ここの整備班の手を煩わせないためにも自分らのは自分でやっとかねーとな」
陸軍機と海軍機では弾薬から使用オイルなど違いが沢山ある、不慣れな整備士の手を煩わせて作業効率を落とすのは1番の愚策なので出来ることは自分で済ませてしまうのだ。
ヤマダ
「サルーンに行くかぁ・・・」
そうして格納庫の階段を上がると、イサカが降りてきた。
イサカ
「ヤマダ、おはよう。一体何をしていたんだ?」
ヤマダ
「ちょっとAI-1-129の点検をな、イサカは何を?」
イサカ
「私もAI-3-102の点検をしようと思ってきたんだが・・・ふふっ、遅かったようだな。」
ヤマダ
「はは・・・サルーンに行くか。」
イサカ
「ああ、そうだな。」
サルーンの扉を開けると整備班とコトブキ、ナサリンの二人と大賑わいであった。
チカ
「昨日は結局星0じゃーん!おっさんがいいとこ持ってくから〜」
アドルフォ
「最初に撃墜かっさらってったのはあの兄ちゃんと姉ちゃんじゃねえか!俺ァ一機しか落とせてねぇよ!」
ヤマダ
「悪かったな、先に撃墜かっさらっちまって。待っててやっても良かったぜ?」
アドルフォ
「うるせーよ!」
イサカ
「威勢は一丁前だな。」
アドルフォ
「一応これでも戦闘機乗りやってんだぜ?」
ナツオ
「つーかチカ!撃墜0じゃ〜んじゃねえ!無駄な旋回しやがって、ハフが痛むだろーが!」
相変わらずの大騒ぎである。朝からよくここまで元気が出るものだ・・・
リリコ
「ご注文は?」
ヤマダ
「卵焼きと白ご飯で。」
イサカ
「目玉焼きとトースト頼む。」
リリコ
「かしこまりました。」
ウェイトレスに注文をし、イサカと二人で席に着いた。まもなく注文した料理が届き二人で食べ始めた。するとジョニーさんが話しかけてくる。
ジョニー
「君たちも大変だねぇ・・・これは僕からのサービスだ。」
そうして机の上には暖かいお茶が置かれていた。
ヤマダ
「ありがとうございます。」
イサカ
「ありがとう。」
ジョニー
「いやいや、機体の管理まで自分でしてくれるからナツオ達は喜んでいるよ。あと二日、よろしくね。」
ご飯を食べ終えお茶を飲み干すと、俺は格納庫へと降りていった。イサカはコトブキのめんめんに捕まって色々話を聞かれている。
ヤマダ
「ナツオ〜っ、手伝いに来たぜ〜」
ナツオ
「おお、早速で悪いがキリエとチカの隼の動翼を外してくれ。」
ヤマダ
「あの二人よくハフをやるなぁ・・・」
ナツオ
「出撃10回につき1回は張り替えてるよ・・・お前んとこはどうなんだ?」
ヤマダ
「こっちは20回に1回くらいのサイクルかな。よっし、外れたぞ〜」
ナツオ
「サンキュー、おーいお前ら!ハフ貼り直しだ〜」
整備班
「おっす!喜んで!」
ヤマダ
「居酒屋かよ・・・」
そしてそのあとは他の機体のオイル交換、機体に飛び散ったオイルを拭き取っていた。するとキリエ、チカ、エンマが降りてきた。
ヤマダ
「おお、三人ともどうした?」
キリエ
「いや、あんまりにも暇だからなにか手伝えること無いかな〜って・・・」
エンマ
「嘘を言わないの、修理費が痛いから手伝ってチャラにしてもらうって言ってたじゃありませんの・・・」
チカ
「あたしもそのつもりで来たんだけど・・・手伝える事はなさそうだね。」
ヤマダ
「まぁ〜ぶっ壊した時は大人しく修理費払ってプロに直してもらいな、ナツオや整備班たちだってこれでメシ食ってんだからな。」
キリエ・チカ
「はぁ〜い・・・」
ナツオ
「ヤマダ〜、頼んでたオイル交換もう全部終わったんだったか?」
ヤマダ
「ああ、終わったぜ〜」
ナツオ
「それなら機体のプロペラを手で回して来てやってくれ。」
ヤマダ
「あいよ〜」
そうして隼のプロペラを手で数周回す。零戦と原理は同じだがプロペラが二枚なので回すのに手間取った。なんとか6機のプロペラを回し終えるとコトブキのあとの3人が降りてきた。
ヤマダ
「あれ、イサカは?」
レオナ
「昨日の疲れか部屋で横になると言っていたよ。」
ヤマダ
「そうですか、ありがとうございます。」
すると空賊接近の警報が鳴り響いた。コトブキは今直ぐには出れない・・・イサカは起きてくるとしてもナサリンのおっさんぐらいは引連れていくか。
ヤマダ
「レオナさん、おっさん二人は!?」
レオナ
「アドルフォは酒を飲んで寝ている・・・私達も後を追うから先に行ってくれ!!」
ヤマダ
「あのバカが・・・」
AI-1-129に飛び乗り発動機を回す、ナツオがすぐにハッチを開けてくれた。
ナツオ
「発艦配置よーし!!発艦ー!!」
ヤマダ
「発艦します!!」
そうして昼の空に飛び上がると無線に耳を傾けた。
マリア
「機影は二機、機種は不明です!」
アンナ
「ヤマダ、あんた一人で片付いちゃうんじゃない?」
ヤマダ
「機体によりますよ・・・ナサリンのおっさんには言っといて下さい。今度酒奢れって!」
そしてピッチを固定しスロットルを開ける、数キロ先に機影が見えた。
ヤマダ
「くっそー!一人だと心細いぜ・・・」
敵機は飛燕だった。物凄い勢いでこちらに迫ってくる、ヘッドオンだ。
ダダダッ!!ダダダッ!!!
ヤマダ
「くぅっ!!」
間一髪機体をすべらせ一斉射をかわす。正直言って俺はヘッドオンが大嫌いなのだ。飛燕は速力を使って逃げそのまま反転してきた。俺はわざと後ろを向けギリギリまで一機の飛燕を引きつける。
ヤマダ
「残念でしたァ!」
操縦桿を押し込んで機体を失速させ即座に飛燕の後ろに着く。向こうには俺が消えたように見えるのだ。
ヤマダ
「さよならだ、」
ダダダダダダッ!! ガンッ!!!
機体中心とラジエータをめがけ機銃を叩き込む、冷却水を引いた飛燕はそのまま離脱して行った。残りは一機だ。
ヤマダ
「クッソ・・・雲がかかってて見えねぇ・・・」
すると前から一機の機影が見えた。だがその機体が醸し出す雰囲気は懐かしく暖かい物だった。
ヤマダ
「イサカ!!」
イサカ
「すまない!遅くなってしまった!」
ヤマダ
「さすが俺の整備した機体だぜ、エナーシャ始動で一発だったろ!」
イサカ
「ああ!それよりもう一機はどこへ!?」
ヤマダ
「雲に隠れたみたいだ!!用心してくれ!」
するとナサリンのおっさんが一人来た、同じように状況を説明し索敵していると・・・
イサカ
「内海!!上だ!!」
おっさんに向かって急降下していたのはさっき冷却水を引いた飛燕だった。弾は無いようだ・・・体当たりか!?
ヤマダ
「くっ・・・」
何とか機種を向け進行方向に二十ミリを撃ち込む、おっさんの回避行動と二十ミリが命中したお陰で空中衝突は免れ飛燕は爆散する。これだけ索敵しても居ないということはもう一機は逃げたようだった。
ヤマダ
「おっさん、大丈夫か?」
フェルナンド
「大丈夫だ、恩に着る。」
そして俺たちは羽衣に帰る。おっさんを先に着艦させいつも通りイサカに先に着艦してもらう。
イサカ
「すまないな、いつもいつも最後まで待たせて・・・」
ヤマダ
「いいんだ、気にしないでくれ。」
着艦するために減速し脚を出すイサカの周りを巡航速度で飛行する、だが今回は嫌な予感がしていたので速度は早めに設定して巡航していた。どうやらビンゴのようだ。俺はスロットルを開け高度を取る、イサカだけは俺が敵機に体当たりしてでも守り抜く。俺はイサカに指輪を渡した時そう誓ったのだ。
ヤマダ
「どこだァ・・・?」
すると少し先で飛燕独特のシルエットが見えた。間違いない。
ヤマダ
「行かせねぇぞ!!」
機種を向け急降下すると速度を利用して雲に紛れ飛燕の後ろに近づく。相手は気付いていないようだ。
ヤマダ
「奇襲するならもうちっと上手くやんな。」
残りの20ミリを叩き込み飛燕を撃墜すると、俺は着艦した。
レオナ
「すまない、まさかこんなところでやられるとは思わなかった。」
ヤマダ
「気にしないで下さい。この為に私達は乗っているんですから。」
そうして機体を止めてワイヤで固定すると、イサカが駆け寄ってきた。
イサカ
「流石だな。ありがとう。」
ヤマダ
「気にすんな、それより疲れは取れたかい?」
イサカ
「ああ、もう大丈夫だ。何かすることはあるか?」
ヤマダ
「昼飯、食いに行こうぜ。ちょうど羽衣も街につく。停泊時間はそれほど長くないから船の中でゆっくりしよう。」
イサカ
「ふふ・・ああ。」
サルーンに行くと皆考えは同じのようでコトブキの皆が居た。仕方あるまい、2時間程度の荷下ろしのみの停泊なら船の中でいたほうがずっとましだ。注文を終えて咳につくと俺はイサカに話しかけた。
ヤマダ
「イサカ、コトブキの皆に何を聞かれてたんだ?」
イサカ
「色々聞かれたぞ、どんな機体を使ったかとかどんな距離を飛んだかとかな・・・」
キリエ
「そうそう、ヤマダにも聞きたかったんだ。ヤマダって墜とされたことあんの?」
レオナ
「キリエ!お前は・・・」
ヤマダ
「はは・・いいんですよレオナさん。」
キリエ
「だってさっきもあんなに敵機を墜としてたんだよ?気になるじゃん!」
ヤマダ
「墜とされたも何も、墜とされまくってるぞ。」
イサカ
「キリエ、一つ補足しておくがヤマダが墜とされたのはすべて私を庇った時だけだ。」
チカ
「それってどういうこと?」
イサカ
「一回目は私が組い・・知り合いに空戦を教えていた時だ。私が敵を見失い後ろを取られたとき、ヤマダがそこに滑り込んだ。」
エンマ
「それって・・・」
ヤマダ
「あんときはびっくりしたぞ、後ろから鉄の弾がひゅーって飛んできて体がずばーってな。ははは!」
キリエ
「それってそんな笑い事じゃないんじゃ・・・」
イサカ
「私がヤマダの妻になろうと決意したのはその時だ。その後しばらくしてから正式に結ばれた。」
ヤマダ
「あんときは必死だったんだよ・・・イサカが死ななくてホント良かったぜ。」
チカ
「何回もってことはこの後も墜とされてんの?」
イサカ
「空賊と揉めたとき、空賊が基地を直接襲ってきた。それの迎撃で熱くなった私が後ろを取られたんだ。そのまま振り切れずもうだめかと思った時に被弾していたのはヤマダだった。」
ヤマダ
「撃たれた瞬間意識もうろうとして何とか不時着、そのあと目を覚ましたらイサカが医務室に飛び込んできてよ・・・」
イサカ
「丸二日目を覚まさなかったからな・・・まったく。長い居眠りなどして・・愚か者。」
ヤマダ
「わるかったよ・・・どっちにせよ君に怪我が無くてよかった。」
エンマ
「ヤマダ、わたくしも一つ気になることがあるのですが質問よろしくて?」
ヤマダ
「ああ、いいぞ。」
エンマ
「墜とされないまでも、負傷したことはあるのかしら?」
ヤマダ
「さっきの撃墜された時をのぞいたらつい最近に一回・・・」
キリエ
「ええ・・どこを怪我したってのよ・・・」
ヤマダ
「太ももにスパーンと一発な・・はは」
エンマ
「大丈夫だったんですの・・?いやまあ大丈夫だったからここにいるわけですけど・・」
イサカ
「こいつ、傷口を焼いて塞いで帰ってきたんだ。」
ヤマダ
「俺は約束したからな。」
ザラ
「あら、何を約束したのかしら?」
ヤマダ
「妻の元に必ず生きて帰る。と約束したんです。」
イサカ
「そういっている人間が私の身代わりになろうとしてはいけないだろう・・・馬鹿者」
ヤマダ
「いやまあ・・・ははは・・」
そしてご飯を食べ終え、機体に異常が無いかもう一度見るために格納庫に降りた。するとハッチが開き一機の三二型が着艦してきた。それと同時に降りてきたアドルフォがその機体のパイロットに話しかける
アドルフォ
「ナオミ~!」
ナオミ
「ナオミ~じゃないわよ!久々に帰ってやろうと思ったら仕事を手伝ってくれってあんた頭おかしいんじゃないの!?あたしだって休みたいっつーの!」
えらくどぎつい女が出てきたものだ、俺は気にせず機体の点検を続ける。一通りの点検を終えるとさっきの搭乗員が話しかけてきた。
ナオミ
「あんたが新顔?」
ヤマダ
「はい、ナオミさんですか?」
ナオミ
「そんな年も離れてないんだ、ナオミでいいよ。それよりあんたの名前は?」
ヤマダ
「ヤマダだ、まさかと思うがアドルフォの妻って?」
ナオミ
「あたしよ、それにしてもヤマダってあのバカとおんなじ?大変ね~」
アドルフォ
「なっ、どういうことだよそれ!」
ナオミ
「どうもこうもないわよ、そのまんまでしょ。マダムと話してくるからそれじゃ~ね」
嵐が過ぎ去ったような空気感だった。アドルフォはしょげている、まあ久々であろう妻との再会があれなんだ、仕方あるまい。何か声をかけてやろうとすると肩を落としてサルーンに戻っていった。
ヤマダ
「あいつも大変だなぁ・・」
そして俺はAI-1-129に飛び乗ると操縦桿を動かしバランス・タブが正常に動作しているかを確認した。同じようにAI-3-102のバランス・タブの動きも確認する。どちらも問題はない。そうこうしているうちに船は出た。またラハマへ一日半の旅だ。金も出るし護衛も悪くないな。そうして機体から降りると少しめまいが襲う、どうも昨日から体調が良くないのだ。こけそうになったところをイサカに支えられた。
イサカ
「おいっ大丈夫か!?・・ヤマダ、少し休んだらどうだ?」
ヤマダ
「おっと・・・すまない。」
イサカ
「すまないって・・・本当に大丈夫なのか?」
そう言うとイサカは俺の額に手を当てた、
イサカ
「うわっ!けっこうな熱だぞ・・・どうしてこんなになるまで黙ってたんだ!!」
ヤマダ
「いや・・・ちょっと体調が悪いくらいにしか思ってなくてさ・・・」
イサカ
「馬鹿者!!早くこっちへ来い・・・」
俺はイサカに肩を支えられ、部屋に連れていかれた。ベッドに寝かされるとイサカはすぐに濡れた手拭いを額に乗せ周りを片付けてくれた。
イサカ
「ふぅ・・・半日も寝ればよくなるだろう。他の皆には私から伝えておく、私も特段用事がなければ着いていてやるから早く治す事だ。」
そうしてイサカは皆にこの事を伝えに行ってくれた。数分後部屋に戻ってきたイサカは湯気の立つ紅茶といくつかのりんごを持っていた。
イサカ
「全く・・・この紅茶はエンマから、りんごはコトブキの皆からだ。」
ヤマダ
「嬉しいねぇ・・・ありがとう。」
イサカ
「起き上がれるか?」
ヤマダ
「ああ、それくらいは大丈夫だ。」
そしてベッドで上半身を起こし、紅茶を飲んだ。
ヤマダ
「美味しいな・・・それにいい香りだ。」
イサカは内ポケットからナイフを取り出しりんごの皮を向いてくれた。
イサカ
「ほら、食べられそうなら食べろ。」
ヤマダ
「いただきます。」
シャリッ・・・
ヤマダ
「すっげえ・・・紅茶を飲んだ後なのにまだ甘味を感じるぞ。糖度が高いな・・・」
イサカ
「そんなに甘いのか・・・?私も一切れ貰っていいか?」
ヤマダ
「勿論だ。」
イサカ
「いただきます・・・おおっ、本当に甘いな。」
ヤマダ
「だろ?ってかもう夕方か・・・」
イサカ
「少し寝ておけ・・・どうせまともに寝ていないだろう。機体の軽い点検は私がしておくから、ゆっくり休むんだ。いいな?」
ヤマダ
「わかったよ・・・ありがとうな、イサカ。」
イサカ
「気にするな。おやすみ。」
ヤマダ
「おやすみ。」
そして俺は眠った。久々に深い眠りにつくことが出来た気がする・・・
ジリリリリリリリ!!!!!
空賊接近の警報で俺は目を覚ました。廊下では慌ただしくみなが駆け回っている。
ガチャッ、バァン!!!!!
イサカ
「AI-1-129を借りるぞ!!!」
ヤマダ
「待て、俺も・・・」
イサカ
「ダメだ!!安静にしていろ!空賊共め・・・すぐ片付けてやる!」
そうしてコトブキの面々やナサリン、ナオミは出撃して行った。俺はいてもたってもいられなかった。何のために俺は乗っているのか、だが制止された手前行く訳にも行かない。俺は羽衣の艦橋に行った、そこなら無線も聞こえる。
ヤマダ
「はぁっ・・・はぁっ・・・アンナさん、皆はどんな状況ですか・・・?」
アンナ
「ちょっバカ!あんたイサカさんに寝てろって言われてたんじゃないの!?」
マリア
「言っても無駄よ、どうせ聞きやしないわ。」
アディ
「コトブキ飛行隊と空賊、まもなく接敵します。空賊の数は・・・おおよそ30!!」
ヤマダ
「30!?」
アディ
「いや・・・増援らしき空賊がまだ来ます!」
マリア
「皆・・・しっかり頼むわよ・・・」
ヤマダ
「クソっ・・・こんな時に・・・!!アディさん、格納庫の方にもこの状況を逐一報告してくれませんか!?」
シンディ
「あんたまさか出る気じゃないでしょうね!?」
ヤマダ
「整備班を手伝うだけです!アディさん、お願いします!」
そう言って俺は艦橋を飛び出し格納庫の方へ向かった。
ヤマダ
「ナツオ!!」
ナツオ
「ヤマダ!?お前起きてて大丈夫なのか!?」
ヤマダ
「そんな事より・・・AI-1-129はちゃんと飛んだか!?異常はなかったか!?イサカは何か言ってなかったか!?」
ナツオ
「落ち着け、あの機体はなんの問題も無かった。いつも通り真っ先に飛び出してったよ。」
ヤマダ
「それは・・・良かった・・・」
するとマリアさんから格納庫に無線が入る。アディさんが繋いでくれたようだ。
マリア
「館内放送を繋いで報告するわ!ヤマダ、感謝しなさいよ!」
アンナ
「馬鹿なこと言ってないで!今からナサリンの二機が弾薬補充で一回帰還するわ!コトブキとイサカさんはとりあえず無事よ!」
ヤマダ
「サンキュー!」
そして帰還してきた紫電に弾薬を補充する。手伝うため降りようとするおっさんを俺は制止した。
ヤマダ
「乗ってろおっさん!!すぐ終わらせてやる!」
フェルナンド
「すまない!!」
ヤマダ
「よっし・・・行けるぞ!!」
ナツオ
「こっちも終わった!!」
紫電二機は発艦していく。するとまた無線が入った。
アンナ
「コトブキ皆が補充にために帰還するわ!!空賊の数は一旦減ったけどまた増援が来てる・・・」
コトブキの六人が続々と着艦してきた。ザラさんとキリエが被弾している。めくれ上がった外板を叩き直しつつ弾薬を補充していると、またナサリンの二人が戻ってきた。
アドルフォ
「弾を頼む!!燃料も!!」
待て・・・ここにこれだけの人数が帰っているという事は向こうはもうナオミとイサカだけ・・・するとナオミまでもが帰ってきた。
ヤマダ
「ナオミ!!俺の・・・俺の妻は!?イサカは今どうなってる!?」
ナオミ
「7.7ミリだけで応戦してくれてるわ!空賊のヤツら大して上手くは無いけど数が多いのよ!」
俺はどうしたい・・・俺は・・・
ヤマダ
「ナツオ!!!エナーシャ頼む!!」
ナツオ
「お前そんな体調で・・・!?」
ヤマダ
「妻が一人で戦ってんだ!このままじっとしてられるかよ!!」
ナツオ
「無理はするなよ・・・言っても無駄だな。乗れヤマダ!!」
ヤマダ
「おう!!」
AI-3-102に飛び乗ると始動準備を整えた。
ヤマダ
「整備員前〜離れ!!メインスイッチ断!!エナーシャー回せーっっ!!!」
ナツオ
「コンターク!!」
カチッ・・・バラッバラッ・・・バラバラバラ!!
計器類を点検するとすぐに発艦コースに行く。
ナツオ
「早く行ってやれ!信号はもう見なくていい!」
ヤマダ
「すまねぇ・・・発艦します!!」
空に飛び上がるとすぐに空賊が居た方に機種を向けた。体は相変わらずダルいがそんなことを言っている余裕は無い。一路イサカの元へ向かった。
マリア
「ヤマダ!!ヤマダ!?あんた格納庫に居ないの!?」
ナツオ
「あいつなら飛んでっちまったよ。」
アディ
「あんな状態で・・・!?」
ナツオ
「イサカの事になった時のあいつにゃ何言っても無駄さ。」
マリア・アンナ・アディ
「まぁ・・・ねぇ・・・」
「クソ!!埒が明かない・・・ナオミ、ナサリン、誰でも良いから早く戻ってきてくれ!!」
私は機体を必死に滑らせ振り回し敵の射線を回避し続けた。幸い一発も被弾は無いがそろそろ速度が苦しい。
「ヤマダ・・・お前ならこんな時どうする・・・?」
そうして後ろを振り向くと一機の零戦二二型が食らいついていた。急旋回に移ったりと何とかかわし続けるがそろそろ無理がある。
「ヤマダ・・・お前の必死に磨いた機体にキズがつくかもしれん・・・すまない・・・」
後ろにピタリと付かれ、一か八かの回避をするため敵をギリギリまで引き付けていたその時・・・
ダダダッ!!ダダダダダッッッッ!!!
バキッ・・・
最初の短射撃、それに主翼を的確に狙うあの射撃・・・まさか・・・
「イサカ!!よく頑張ったな・・・よく頑張った!!!」
「ヤマダ!?お前・・・なんで!?」
「そんなこたどうでもいい!!ここは俺が抑えといてやる!早く戻って弾の補充してこい!」
「すまない!!必ず戻ってくる!!」
私は戦線離脱し羽衣の方へと戻った。その途中ナオミとナサリンとすれ違い、着艦しようとするとコトブキが発艦するところだった。羽衣に降り弾薬を補充して貰っていると、ナツオに話しかけられた。
「ヤマダは、ちゃんとあんたを助けたかい?」
「ああ・・ああ・・ヤツは・・いつも私を助けてくれる・・・」
「その様子じゃ問題無さそうだ。さあ、20ミリと7ミリ7の補充も終わった・・・行ってやれ。」
「早いな・・・ありがとう。」
「ヤマダが全部整理しておいてあったからな。武運を。」
「あーーもう!!数だけ多いな!!」
どれだけ慎重に運用しても20ミリは3機程度で使い切ってしまう。俺の周りで何機もの空賊零戦二二型が飛んでいる。
「ったく・・零戦をくっだらねえ事に使うなっての!!」
操作の軽いエルロンを利用し敵機の後ろを取る、7ミリ7を操縦席目掛けて叩き込んだ。
ババババッ!!!
急に機体の動きが止まりゆっくりと降下してゆく。
「悪いな。」
すぐに機体を動かし射線に入らないようにする。逃げつつ何機かを撃墜すると何やら見覚えのある翼端が見えた、ぶった切ったような・・・間違いない
ナオミ
「待たせたわね!あんたもイサカもよく頑張ったじゃない!」
ヤマダ
「空賊の増援は!?」
ナオミ
「あと数機で終わりみたいよ!無茶すんじゃないわよ全く。」
すぐにナサリンの皆も合流してきた。俺がしばらく逃げつつ機銃を撃っていると、ナオミの方にダイブしている零戦を見た。上から撃つ気だ・・・
ヤマダ
「ナオミ!!あんたの後ろ上方から敵機だ!!」
俺もそちらに機種を向けるが間に合わない、ナオミも回避しようとしているがあまりにも遅すぎた・・・すると
アドルフォ
「うおおおお!!!」
ダダダダダッッッッ!!ドォンっ!!!
二二型はアドルフォの機銃掃射を受けて爆散する。よく見るとアドルフォは主翼に被弾して煙を噴いていた。
アドルフォ
「俺はあんたを守るために生まれてきたんだぜ!」
ナオミ
「被弾してかっこつけてんじゃないわよ!!・・・ありがと」
アドルフォ
「ナオミ、今なんて・・・」
ナオミ
「あーうるさい!早く羽衣に戻んな!」
ちょうどコトブキも来たし俺とアドルフォは羽衣に向けて飛んでいた。すると前から一機の二一型が向かってくる・・・間違いない、イサカだ。
イサカ
「ヤマダ!大丈夫か!?」
ヤマダ
「何とかな・・・イサカ!」
イサカ
「なんだ?」
ヤマダ
「生きて戻ってこいよ・・・!」
イサカ
「ああ!」
俺はすれ違いざまイサカに大きくバンクを振った。イサカもこちらに大きなバンクで返し、操縦席が並んだ瞬間俺とイサカは敬礼をし合った。
ヤマダ
「アドルフォ、あれが俺の妻だぜ・・・いい顔してんだろ・・・?」
アドルフォ
「こんな時に惚気やがって・・・それよりお前しんどそうだぞ、大丈夫か?」
ヤマダ
「はぁっ・・はぁっ・・へへ・・・大丈夫さこんくらい・・・へへっ、俺が整備した二一型だァ・・・R1830がいい音させてたぜ・・・」
とは言っていても俺はかなり疲れていた。自分で言うのもなんだが無理をしたものである、早く帰らなければ・・・
羽衣の傍に着くと被弾しているアドルフォを先に着艦させ、俺も着艦した。だが俺は機体から這い出でることも出来ないくらい脱力感に襲われていた。とっとと機体を発艦コースからタキシングでどかし終えると、マリアさんとアンナさんが直接駆け下りてきた。
ヤマダ
「はぁっ・・・あれ、マリアさん・・アンナさん・・?」
マリア
「空賊の増援はもう来てないわ、あんたはとっとと休みなさいよ?」
ヤマダ
「イサカは・・・私の妻は・・・コトブキの皆は、ナオミは、ナサリンの皆は無事ですか・・・」
アンナ
「あんたそんなになってんのに自分の心配しなさい!ほら、早く出て横になりなさい!」
ヤマダ
「ちょっと待って下さい・・・せめて私の妻が来るまで・・・居させてください・・・」
マリア
「そんな身体であなた・・・」
アンナ
「言うだけ無駄よ・・・ヤマダ、無理はしないように!」
ヤマダ
「へへ・・・ありがとう・・・ございます。」
脱力感に襲われながら何とか操縦席から這い出し、主翼から下りるとオレオにもたれかかって座った。
ヤマダ
「AI-3-102よ・・・よォ頑張ってくれたな・・・」
そして俺はまた意識が朦朧としてきた、目の前の景色が歪み体を自分で支えるのすら辛い。風邪でも無理をしすぎたらこうなるんだな・・・するとコトブキの皆とナオミ、ナサリンが着艦した。最後に降りてきた飴色の機体を見て俺は心底安心した。無理やり起き上がりタキシングで駐機場所に来たイサカのAI-1-129の元へ行く。
ヤマダ
「二人ともよォ頑張ったな・・・よォ頑張った・・・」
キリエ
「うわっヤマダ大丈夫!?風邪なのに無理するからじゃん!!」
チカ
「二人っつってるけどイサカさんともう一人は誰・・・?」
発動機が止まった機体からイサカが降りてくる。
ヤマダ
「イサカ・・・よォ頑張ったな・・・」
イサカ
「ヤマダ!?お前そんなになって・・・早くこっちへ来い!!」
ヤマダ
「大丈夫だ・・・これくら・・・い」
ドサッ・・・
俺はイサカに支えられた。
イサカ
「くぅっ、お前私を助けて私に助けられていたら意味が無いだろうに・・・無理をして・・・馬鹿者が。」
マリア
「早く医務室へ!!早く!!」
イサカ
「すまない・・・」
そうして俺はイサカの肩を借り、医務室へと向かった。脱力感が凄く立っているのも辛い。
イサカ
「ヤマダ・・・お前の整備した機体だったから私は安心して空戦が出来たんだ、本当にありがとう。」
ヤマダ
「へへ・・・最後まで被弾なく戦い抜いてくれてんだ・・・俺は本望だよ。」
そして医務室に行くとベッドに寝かされた。医務室と言っても医者がいる訳ではなく簡単な薬とベッドがあるだけであった。俺は意識朦朧とし、そのまま気絶するように眠ってしまった。
イサカ
「ヤマダ・・・ヤマダ、起きろ?」
何時間眠ったのだろうか、身体の脱力感は消え何の苦もなくベッドから起き上がることが出来た。
ヤマダ
「うぅ・・・イサカ、俺何時間くらい寝てた・・・?」
イサカ
「9時間ほどだ、途中から顔色が良くなってきたが大丈夫か?」
ヤマダ
「ああ・・・脱力感も何もかも消えてる・・・」
イサカ
「単純な身体だな・・・あと二時間程度でラハマに着く、少しでも長く休んでおけ。」
ヤマダ
「ありがとな・・・」
イサカ
「礼を言うのは私の方だ、結局私はお前に助けられてばかりだな・・・」
ヤマダ
「何言ってんだ、君が先陣切って切り込んでいくから俺はそれについていけてるんだ。俺は君に頭が上がらないよ。」
イサカ
「お前がしっかりと零戦を整備してくれているから私も安心して命を乗せて飛べるんだ、お前には感謝している。」
ヤマダ
「改めて言われると照れるぜ・・・て言うかイサカ、九時間って事は君ずっと俺の傍に居てくれたのか・・・?」
イサカ
「ああ、私はしっかり寝れていたからな。」
俺は感極まり、イサカを抱き寄せて強く抱き締めた。
イサカ
「うわっ!どうしたヤマダ!?」
ヤマダ
「イサカ・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」
イサカ
「もういい・・・もういいから・・・!」
俺とイサカは暫く抱き締めあっていた。そしてイサカは零戦に増槽を付けてくるといい立ち上がった。俺はそれを見送りまた横になる。すると入れ違いにチカとキリエが入ってきた。
キリエ
「ヤマダ!!」
ヤマダ
「びっくりした!どうした?」
チカ
「あんたイサカさんが帰ってきた時二人っつったじゃん?」
ヤマダ
「え・・・?ああ、言ったな。」
キリエ
「一人はイサカさんじゃん?もう一人は誰の事なの?」
ヤマダ
「AI-1-129の事だよ、機体と搭乗員は運命を共にする仲・・・どっちも労ってやらねーとな。」
キリエ・チカ
「ほんっと零戦バカだね・・・」
ヤマダ
「うるせーよ!」
キリエ
「えへへ、聞きたかったのはそれだけなんだ。ゆっくり休んでよ!」
チカ
「無理すんじゃないよ!」
ヤマダ
「ありがとな〜」
そして一時間ほど横になると、身支度を始めた。身の回りの荷物をまとめAI-1-129に放り込みに行く。
ヤマダ
「よっこらせっと・・・」
がっしゃーん!!
ヤマダ
「ん!?」
音に驚いて操縦席を覗き込むと荷物がシートベルトの金具と落下傘の金具にぶつかって落ちただけだった。いい加減なことはなるべくするものではない。
イサカ
「何やってるんだ・・・」
ヤマダ
「おお・・イサカか」
イサカ
「まったく・・・準備は終わったのか?」
ヤマダ
「今ちょうどな。イサカは?」
イサカ
「私も今終わったところだ、時間もちょうどいい。皆に挨拶に行くか」
ヤマダ
「ああ、そうだな。」
そして俺とイサカはサルーンへと行く、するとそこには珍しくマダム含め全員が居た。
イサカ
「マダム・ルゥルゥ、今回は仕事を引き受けてくださり感謝している。当初の予定通り私たちはこれでお暇させていただきたい。」
マダム
「貴方たちは良く働いてくれたわ、整備班の連中の評判もいい・・・また機会があればよろしくね?」
イサカ
「こちらこそだ。」
ナツオ
「ヤマダ、お前はほんとに無茶ばっかすんじゃねえぞ!」
アンナ
「イサカさんを大切にね。」
マリア
「死ぬんじゃないわよ。」
ヤマダ
「いやぁ・・ははは。皆ありがとうな。」
レオナ
「イサカ、君の冷静な状況判断には驚いたよ。是非参考にさせてくれ。」
ザラ
「色々大変でしょうけど落ち着いてね、フィオちゃんにもよろしく。」
ケイト
「また一緒に任務につけると嬉しい。」
イサカ
「こちらこそだ、的確な援護感謝する。」
キリエ
「ヤマダ、イサカさんを思うのもいいけど無茶しちゃだめだよ?」
エンマ
「無理ばかりしていては身体がもちませんわよ?時には休息も必要ですわ。」
チカ
「たまにはパーっと遊びにでも行きなよ!」
ヤマダ
「ありがとな。息抜きはちゃんとしてるから大丈夫だよ。キリエ、三二型に乗りたけりゃいつでも来な。」
ナオミ
「あんたたちはさっさと立ち回ってくれるから空戦がやりやすかったわ、また機会があればよろしくね。」
アドルフォ
「ヤマダ、いろいろ悪かったな。また仕事で一緒になれたら頼む。」
フェルナンド
「俺も同じ気持ちだ。仕事で組めたら、よろしく頼む。」
イサカ
「ナオミ、君の的確な射撃には驚いたぞ。援護も的確で本当に助かった。ありがとう。」
ヤマダ
「アドルフォ、嫁さんを大切にしてやれよ。フェルナンド、アドルフォのおもりをしっかりな・・」
そうして格納庫に降りるとイサカが先にAI-3-102に乗り込んだ、俺はエナーシャハンドルを持ち機首下に入ると手を上げて準備が整ったことを伝える。
イサカ
「整備員前離れ、メインスイッチオフ、エナーシャ―回せ!」
ヤマダ
「コンタクト―!!」
プロペラの回転が安定したのを確認すると俺はAI-1-129へと乗り込んだ。さっき適当に放り込んだ荷物を操縦席の下に収め発動機を回す。座席を一番上に上げて飛行眼鏡をかけ既に発艦準備を終えているイサカの後ろに行く。するとちょうどハッチが開いた。
ナツオ
「発艦配置よし!」
イサカ
「発艦する!」
そうして加速を始める機体を追って俺もスロットルを開ける。風防から見える羽衣の皆に手を振り俺たちは発艦した。
ヤマダ
「オイルプレッシャーOK、ブーストプレッシャーOK、使用燃料タンク後部胴体タンクに切り替え、機体異常なし。」
イサカ
「油圧正常、吸入圧力安定、使用燃料タンク増槽燃料タンクに切り替え、機体異常なし。じゃあヤマダ・・・帰ろう。」
ヤマダ
「ああ、本当にお疲れ様だなイサカ・・ゆっくり行こう。」
・・・・・・・・タネガシ~アレシマ定期貨物飛行船
「なんでこんなに空賊が来るんだ!!」
「知らん!急げ!こっちも援護を出さないとやられちまうぞ!!!」
「・・・おい、何だ、あれ・・」
「何だ!?ん・・・?あれって・・・爆撃機・・・?」
「SBD・・・ドーントレス!?かなり上だな、なんでこっちに向かって飛んできてんだ・・?」
「ガガーッ、ガーッーーーーーい!!敵機直上!!!急降下ァーーー!!!!!」
続