著 ヤマ
十二月三十一日の昼、1年も終わりという事で一月三日まで幹部や組員たちは一斉に休暇を取っていた。皆自分の親の元に返ったり、地元に戻っていた。ニコとシアラはアレシマへ買い物に、フィオとローラはドルハへサカナを見に行っているらしい。レミは自分の生まれ育った街へ帰っていた。・・・だが私は帰る場所は組の事務所であった、仕方あるまい。三十日まで仕事を詰め込んでいた、親とはあまり良い関係ではないので帰る必要もなかったのだが・・・組に一人と言うのも寂しいものである。自分の席でじっと座っていても仕方あるまい、そう思って私は格納庫へ向かう事にした。
カツーン、カツーンと固いブーツの底が金属の階段を叩く音が響く、普段は騒がしい組がここまで静まり返っているのも珍しい。
「天下御免の〜無法者達さ〜集い〜し魂〜の宴〜」
などと一人鼻歌を歌っていると格納庫へ着いた、すると格納庫の奥で足音がした。今は組には誰も居ないはず・・・・・私は銃を抜き撃鉄を下ろした、壁に背を当て音のした方へジリジリと近づいていく。するとその足音はこちらへ向かってきた、壁の直前まで足音が来た時私は飛び出した。
「動くな!」
銃を構えいつでも撃てる体制をとる、片目をつぶり見据えた先に居たのは
「うわぁっ!何すんだイサカ!」
そこに居たのはヤマダだった、私は銃を下ろした。
「すまない・・・地元に帰らなかったのか?」
「俺に帰る家は無いよ。ずっとここが家さ、親が病気で死んでイサカ組の整備班で拾ってもらったんだ。」
そうだったのか・・・私はとりあえず銃をしまい格納庫の奥のイスへ腰掛けた、ヤマダはまた工具を持って零戦をいじっている。
「毎度思うんだが・・・そんなに零戦をいじって何をやっているんだ?整備するだけならわかるんだがイジる場所はそんなにあるのか?」
「う〜ん・・・まあ基本的には歪みの確認だな、機体には目には見えないくらいのシワがよることがあるからそれを触って確認したりとか」
「そんな事してるのか・・・」
だが年明けをずっとそれで過ごすわけにも行くまい、私は前々から考えていたことを行った
「ヤマダ、今日の夜初詣行かないか?」
「初詣?・・・・・いいよ、ただちょっとお願いがあるんだ。」
「なんだ?」
するとヤマダは格納庫の奥から紙を1枚持ってきた、そして私の前に置いてすごく真剣な顔で
「これ、俺が金を出すから着てくれないか?」
そこに描かれていたのは着物だった、タネガシ商店街で売っていると書いてある。なかなかに特徴的な服だが悪い気はしなかった、私は立ち上がって言った
「ほら、行くぞ」
「へ?何処へだ?」
「馬鹿者、着物、買いに行くんだろう?」
ヤマダは嬉しそうな顔をしていた。
「ああ!」
私は格納庫を出てヤマダを待った、さすがにツナギで出かける訳には行かないだろうと着替えてこいと言ったのだ。ヤマダは出てきた
「すまないな待たせて、さあ、行くか」
「ああ、行こう」
タネガシ商店街は歩いて十分程の所にある、道を歩いているとヤマダが話す
「まさかイサカが着物を着ることを了承するとは思わなかったな」
「一度身体を交えた関係だ、私はお前を好いているんだよ。動乱の時から本当に好いているのかモヤモヤしていたがこの前やっとわかった。お前を好きになって良かったと思うよ。」
「俺もイサカが好いて貰えて光栄に思うよ、君みたいに誠実な女性と付き合えて本当に嬉しい。」
「ああ・・・手、繋がないか?」
「・・・ああ」
そうこう言っているとタネガシ商店街に入った、左右にはいろんな店が立ち並んでいる。いつもシマを見廻る時に回るのだが横に好いた人間がいるだけでこうも変わるものなのか。店を見つけるとヤマダは扉を開けて叫ぶ。
「ここだここだ、おーいおばちゃん!この前言ってた着物ある〜?」
ん??
「待て待て!ヤマダ!この前ってどういうことだ!」
「あっ・・・いやそれは・・・その・・・」
すると店の奥から店主が出てきた
「ああ〜、ヤマさんかい。イサカ組長に渡すとか言ってた着物だろう?ちゃんと仕立ててあるよ」
「ありがとよおばちゃん、はいお代。」
「ちょっと待っとくれよ、この金額だとつりが出る」
「あー、お釣りは取っといてくれよ、無茶言って早く仕立ててもらったお礼だ。」
そう言うとヤマダは商品を受け取りさっさと店を出た、
「お前・・・さては最初からこれを渡すつもりだったんだな?」
「ああ、迷惑だったか?」
「いや・・・ありがとう。」
そうして私たちは組に戻った、ヤマダは帰るがいなやシャワーを浴びてくると言って風呂へ向かう。なんだかんだゆっくりしていたので夜も近くなっていた。私は着物に着替える事にした、何かの本で「着付け人」がいないといけないというのを読んだことがあったので不安だったが、着物はイジツで少し改良されたらしく一人で着ることが出来た。袖を通し裾を揃えて履物を履いているとヤマダがシャワーを浴び終えて服を着て戻ってきた。
「・・・」
「何とか言え!」
「すまん・・・あまりにも綺麗だったからつい・・・」
「お世辞ばっかりいうな・・・ありがとう。」
時間も程よくなってきたので、私たちはそろそろ行こうかとまた格納庫を出た。外はとても寒かった、皆初詣目的で神社へ向けて歩いて行くので通りには人が沢山居た。皆私に気づくと挨拶をしてくれた、
「イサカは本当に慕われているな。」
「毎朝シマを回るようにしているから声をかけてくれる人の顔もだいたい分かるしな、自分のシマの住人からしたわれてなくて組長は勤まらない。」
だが、私ばかりではなくヤマダにも話しかける者も多かった。その中の一人をよくよく見るとヤマダがいつも指揮している整備班の連中とその子供であった。
「お前子供出来たのか!嫁さんもいい人そうじゃねえか!」
「そうなんですよ。ほら、ヤマダのおっちゃんに挨拶しな」
「こんばんは!」
「おっ、ちゃんと挨拶できてえらいな〜。けど俺のことはヤマダのおにいちゃんって呼んでくれると来年いい事あるぞ。」
「ヤマダのにいちゃん!」
「そうそう、いい子だ。」
「ヤマダ班長、さっきから気になってたんですが横にいる方は?」
「お前・・・いい歳こいて何をやっているんだ・・・」
「イサカ、俺にもたまには遊ばせてくれよ・・・」
「組長!?お疲れ様です!」
しまった、気を使わせてしまった・・・
「そう固くなるな、年末年始くらい家族とゆっくり過ごしてやれ。いつもありがとうな」
「ありがとうございます!では、」
「ヤマダにいちゃん、くみちょーさん、バイバイ!」
「こら!さようならだぞ!」
「気にすんな、まだ子供だ。」
ヤマダがそう言っている時、私はしゃがみこんで子供の頭を撫でてやった、
「私はくみちょーじゃなくてイサカおねえちゃんって呼んでくれたら嬉しいな」
「イサカおねえちゃん!」
「くっ組長!?」
「いいんだ、気にするな。じゃあ楽しんで来い。」
「はい、組長とヤマダ整備班長もお幸せに」
「うるさいっ!とっとと行け!」
「うるせえっ!とっとと行け!」
あまり悪い気はしないのだが、こう面と向かって言われるとやはり恥ずかしい。
「それでさイサカ」
「ん?どうした?」
「イサカおねえちゃん」
「馬鹿!それは相手が子供だからであってだな・・・その・・・えっと・・・」
私がオドオドしている中ヤマダは笑っていた。
「くそ・・・馬鹿者ぉっ!」
神社に近づくにつれ屋台が増え、らしい雰囲気になってきた。私はひとつの屋台が気になった
「イサカ・・・どうした?」
「いや・・・なんでもない」
「あの屋台か、ほら行くぞ」
「いや、こんな歳になって屋台なんて・・・それに私は組長だぞ・・・」
するとヤマダは私の両肩を優しく掴み言った
「俺といる時くらい・・・組長じゃなくて一人の女性としていて欲しいんだよ。」
「っ・・・」
まったく、調子が狂う・・・だがヤマダが私を地位や名誉の余計なものなく一人の女として見てくれているのは素直にとても嬉しかった。
「わかった・・・」
「御座候ってなかなか渋いものが好きなんだな、冷めちまうから帰りに買って帰ろうか?」
「うん・・・」
その後境内に入り一通りお参りをした、御籤を引こうとしたが人が多く辞めておくことになったが、御籤の所に羽衣丸のウェイトレスがいるのには驚いた、奴は何をやっているんだ・・・私たちは屋台での買い物を終え帰路に着く。暗い夜道を月明かりだけが照らす、そんな中ヤマダは立ち止まって言った
「悪かったな、着物を着てくれだなんて無理言って」
「いいんだ、気にするな。だが次にこれを着るには何時だろうな」
「そんときは俺も着物を着るよ、それとイサカ・・・これ」
ヤマダが小さな箱を取りだした。それが何かはすぐにわかった
「お前・・・」
「ああ、俺は君が本気で好きだ。結婚して欲しい。」
「・・・馬鹿・・・馬鹿者・・・もっと早くに言え・・・馬鹿・・・」
「イサカ・・・」
「勿論だ。私の方こそよろしく頼む・・・」
[完]