ゲキテツ大決戦   作:5145/A6M5

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模擬空戦

著 5145/A6M5

 

私とヤマダの式はゲキテツ一家幹部、組員、私のシマの住人総出で行われた、そこまで大きくしなくていいと言ったのだが皆が「いいや!やる!」と言って聞かなかったのだ。ユーハング流でいきたいというヤマダたっての希望で私はまた着物を着ることになり、今回はヤマダも着物だった。化粧直しも終え新郎新婦として入場する直前、ヤマダは私を見て一言だけ言った

 

「綺麗だ・・・」

 

その後は説明するまでもない、普通に式は進んだ。式を終えたあとの飲みの席では、幹部達が次々に声をかけてくれた。

 

「まさかイサカとヤマダが結ばれるなんて思ってなかったっすよ・・・末永くお幸せにっす!」

 

「イサカみたいなカタブツと結婚するとはなぁ・・・ヤマダ、しっかりやれよ!」

 

「・・・おめでとう。ヤマダ、イサカ」

 

「まったく、あたしらに黙ってず〜っと付き合ってたわけ?報告くらいしなさいよ〜」

 

「おめでとう、イサカ、それにヤマダ。末永くお幸せに。」

 

私達が皆に礼を言っていたら、サダクニが来た。

 

「ヤマダ・・・これからも組長をよろしく頼む。」

 

「はい。自分を今までこんなにいい環境に置いてくれた貴方には心から感謝しています。自分はとても幸せです。」

 

「ああ、私もお前と組長が結ばれて良かったと思っている。末永く幸せにな。そして組長、本当にご立派になって・・・・」

 

「そう言って貰える日が来るとはな・・・・私もお前には感謝している、今までありがとう、そしてこれからも副官としてよろしくな。」

 

そう言うと皆は好き好きに酒を呑んでいた。夜も遅くなり皆一人、一人と帰り出す、私が式用の化粧を落とすため廊下を歩いていると、レミが向かいから歩いてきた。

 

「イサカ、あんな良い旦那さんで良かったっすね。」

 

「ありがとう、私には勿体ないくらいの男だよ。」

 

「けどお似合いじゃないっすか。ちなみにコトはもうおすませで?」

 

「聞くな・・・」

 

「その様子じゃ済ませた様っすね、本当に末永くお幸せにっす。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

そして私は化粧を落としてもらい、いつもの化粧へと戻った。と言ってもいつもは何もつけずに口紅を塗っているだけなのだがな・・・着物姿のままで格納庫へ降りると、ヤマダが整備班の者達に祝われていた。

 

「まさか班長と組長が付き合ってたなんて・・・おめでとうございます!」

 

「この前神社でお会いしましたね。おめでとうございます!」

 

「みんなありがとな・・・まあ結婚したからと言って何か変わる訳でもない、今まで通り楽しくいこうや」

 

「はい!」

 

私はその様子を格納庫の階段から見ていた、そしてヤマダが上がってくるのをまち問いかけた。

 

「ヤマダ、今何か欲しいものはあるか?この前の指輪の礼だ、何か送らせてくれ。」

 

「そうだな・・・じゃあ整備班の連中のツナギと工具を新品にしてやってくれないか?」

 

「お前は何も要らないのか?」

 

「俺はお前をお嫁さんとして迎えることが出来ただけでいいんだ、自分の好いた人がそばに居てくれる。これ以上の幸せがあるか」

 

「そうか、わかった。整備班の連中のことは任せておいてくれ。」

 

「ありがとう。俺はちょっと着替えてくるよ、着物だと動きづらくてしょうがない、それに・・・」

 

「それに、なんだ?」

 

「特別な姿は特別なままにしておきたいからな。」

 

「ぬかせ、私も着替えてくるよ。」

 

そう言うと私は着替えに部屋に戻った、急いで着替えるとすぐに格納庫へと走って戻る。

 

「おい!整備班!」

 

「はい!なんでしょうか組長」

 

「ヤマダが最近欲しいと言っていたものはないか?」

 

「班長がですか・・・?うーん、そういえば最近五二型無印が欲しいと言っていましたね・・・」

 

「確かに言ってたな、けど班長は性能が違う機体を編隊に入れるのはダメだからってずっと我慢してました。」

 

「班長は二一型と五二型が好きって自分で言ってたからな・・・あと五二型のユーハングでの塗装指示書が見つかった時は格納庫の中で凄く喜んでいましたよ。」

 

「よし・・・ありがとう、格納庫にまだ空きはあるか?」

 

「はい!」

 

「よしわかった。感謝する。」

 

私はまた急いで部屋へ戻るとレミへ電話をかけた。

 

「もしもし〜あっ、イサカっすか?どうしたんすか〜こんな時間に〜」

 

「すまない。頼みがあるんだがいいか?」

 

「どうせヤマダに何か贈りたいって話でしょ〜?」

 

「その通りだ、五二型無印をこちらに一機送って貰えないか?ヤマダが昔から欲しがっていた零戦なんだ。組の都合で奴には二一型しか乗せてやれなかったから贈ってやりたい。」

 

「あいあいっす。明日の朝持って行ってあげるっすよ〜」

 

「面倒かけて済まないな、助かる。」

 

そして私は部屋へと戻りまた布団を敷いた。寝巻きへ着替え枕元へ座って待っているとヤマダが来た。今日一日疲れたのだろう、とても眠そうだった。

 

「イサカ・・・今日はどうする?」

 

「お前そんなに疲れているのに・・・私が横にいてやるから今日はゆっくり寝ろ、もう私達は夫婦なんだ、二人が健康な時にまたすればいい。」

 

「すまないな・・・」

 

そう言うと私は布団に入る、ヤマダも入ってきた。するとヤマダは私を抱き寄せた。突然で驚いたが私も抱き返す。

 

「こうして寝させてくれないか?」

 

「ああ・・・好きにしろ。」

 

そして私達は眠りについた。

 

 

次の日の朝、私はヤマダの腕の中で目が覚めた。結局やつは手を離さずに寝たのだ。温かい腕だった、今日は仕事を休みにして貰えたのでこのまま居ても良かったのだが、昨日レミに五二型の配達を頼んだのを思い出した。ヤマダを起こさないように腕から抜けようとしたが、こいつ思い切り抱き締めたようで抜けられない。どうしようか悩んだ結果、私はヤマダの顔を抱き寄せ口付けをした。その瞬間ヤマダは起きた、想定通りだ。何か言おうと口を離そうとするヤマダに強引にまた口付けをし、私は言った

 

「朝だぞ、私は少し用があるから出ていってくる。12:00に滑走路にきてくれ。」

 

「ああ・・・わかった」

 

奴は信じられない様な顔をして自分の唇を触っていた。何をやっているんだか・・・私だって自分から口付けくらいはする。そんな事より五二型だ、着替えを済ませ自室に戻るとレミからちょうど電話がかかってきた。

 

「おはようっす。今からそっち向かうっすね〜」

 

「ああ、頼んだ。ありがとう」

 

「お気になさらずっす〜」

 

さて、レミのシマからここまでは時間がかかる。ヤマダに朝ご飯でも作ってやるかと台所へ降りていった。組員たちの食事の時間とはズレた時間だったので誰も居ない。私は手を洗うとエプロンをつけ卵を割りボウルに移して溶いた。そしてフライパンを火にかけ薄く油を引き卵を流し込む、箸でかき混ぜつつ塩コショウをほんの少しかけて味をつける。スクランブルエッグだ、ある程度固まったのを確認し日を止める。パンを焼きその上にスクランブルエッグを乗せ、冷蔵庫からマヨネーズを取り出そうと振り返ると廊下からヒソヒソ話し声が聞こえた

 

「サダクニさん・・・あの人美しすぎませんか?」

 

「料理がここまで上手いとは私も知らなかった・・・お前本当にいい嫁さんを持ったな・・・」

 

「尊すぎて自分鼻血が出そうです・・・」

 

ヤマダとサダクニの声だった、気付かないふりをして冷蔵庫からマヨネーズを取り出しパンにかける。自室に戻ろうと廊下に出たところで案の定ヤマダとサダクニが居た。

 

「くっくくくく組長!!これは決して覗き見をしようとしたのではなくてですね!!あっおいヤマダ!!失神するな!何!?普段着+エプロン姿が良すぎる?やかましい!早く起きないかっ!」

 

「何やってるんだお前達・・・」

 

サダクニにヤマダを部屋まで運ばせた。サダクニが部屋を出ると同時にヤマダが目を覚ます。

 

「う・・・うぅん。あっイサカ!えっエプロン!?いやっ!そのっ!」

 

「馬鹿者、少し落ち着け。ほら、お前の為に作ってみたんだ。食べてみてくれ、コーヒーもある。」

 

「い・・・いただきます・・・」

 

ヤマダはパンをひと口かじるとコーヒーを飲んだ。ずっと黙ってわなわなと震えている。そんなにまずかったか・・・

 

「お・・・おいしい・・・美味しいよイサカ」

 

「ほんとうか・・・?」

 

「ああ、本当に美味しい・・・また作ってくれ・・・」

 

「ああ、また好きな時に言え。じゃあ、私は少し準備があるから失礼する。滑走路の約束、忘れるなよ?」

 

「ああ、わかってるよ。」

 

ヤマダもせっかくの休みなので自室で零戦のプラモデルを作るという、小さい物でもとにかく零戦である。どれだけ好きなのだろう・・・そんな事よりだ、私は滑走路へと走っていった。ちょうど五二型が降りる所だった、時間は11:30、どれだけゆっくり寝ていたんだ・・・とにかく時間的には丁度いい。私は着陸した零戦に手信号を送り滑走路横の広場に駐機するよう促す、タキシングと冷却運転を終え。操縦席から降りてきたのはレミだった。

 

「ふぁ〜あ、おはようございますっす。」

 

「もう昼前だぞ・・・とにかくありがとう、カネはもう送ってある。」

 

するとレミは悪い顔をしていた、なにか悪巧みをする時の顔である。

 

「イサカ〜、ちょっとお願いがあるんっすけど」

 

「なんだ?あ、少し待ってくれ。ヤマダがもう来るはずだ。」

 

ヤマダは格納庫から滑走路へ出てきた、キョロキョロしていたが私とレミ、五二型を見て駆け寄ってくる。とても嬉しそうな顔だった。

 

「レミ、おはよう。」

 

「もう昼っすよ・・・こんちわっす」

 

「それよりこの零戦は・・・?」

 

「お前のだ」

 

「え?」

 

「私からの指輪の礼だ、編隊飛行の事を考えて我慢してくれていたようだが・・・お前ほどの操縦技術ならむしろ好きな機体に乗ってくれた方がいい。受け取ってくれ。」

 

「あ・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」

 

「男の癖にこんな所で泣くな・・・」

 

「泣いてなんかねえよ!目から汗が出てるだけだ!!」

 

「それを涙って言うんっすけどね・・・」

 

「乗ってもいいか?」

 

「あ、その前にちょっとお願いがあるんっすけど良いっすか?」

 

そういえばそんな事を言っていたな・・・何を言い出すつもりだレミ・・・

 

「ヤマダの空戦技術は天下一品、それはあたしも目で見てわかってるっす。けど実際にあたしとヤマダは空戦をしたわけじゃない、」

 

「ああ、そうだな。」

 

「だからひとつ、あたしと模擬空戦をやって欲しいんっす。」

 

「・・・断る。」

 

「・・・どういう事っすか?あたしじゃ相手にすらならないと?」

 

不味い空気になってきた・・・ヤマダの馬鹿、もう少し考えてモノをいえ・・・

 

「そうじゃない、レミの腕は俺も良く知っている。模擬空戦をしたいという気持ちも正直ある。」

 

「じゃあ何故っすか?」

 

「レミが女だからだよ。」

 

「・・・?」

 

「男と女じゃ力や体力、精神力も違う。全てが女が劣ってる訳では無いのはよくわかっているが、それでも差がある。それに男は女を守るのが役目だ。俺はたとえ模擬空戦でも女を傷つけたくない、しがない整備員のくだらない流儀だ。許してくれ。」

 

「なるほど・・・そういう事ならわかったっす!」

 

「ふぅ・・・一時はどうなることかとひやひやしたぞ・・・」

 

「イサカ、いい夫を持ったっすね。」

 

「ああ。」

 

「じゃあ、うちのシマの戦闘機隊のエースを出すっす。そいつらはレミ組とはまた違う組織なんっすけど、そこの隊長があたしと知り合いなんっすよ。そいつもヤマダと手合わせしてみたいっつってるらしくて・・・せめてそいつと模擬空戦して貰えないっすか?」

 

「ああ、それならOKだ、何時にする?」

 

「三日後、またこの滑走路に集合でどうっすか?」

 

「OKだ、じゃあ。三日後にな。」

 

「了解っす、向こうの隊長とエースにはあたしが伝えとくんで、ヤマダ達は何もしなくて大丈夫っすよ〜。それじゃさいならっす!」

 

そう言うとレミは帰ろうとした、だが・・・

 

「忘れてた、乗ってきた戦闘機はヤマダのだった・・・ヤマダ、送って貰っていいっすか・・・?」

 

「だろうな!」

「だろうな!」

 

 

 

 

 

三日後、言っていた通り模擬空戦が開催された。ヤマダがまた飛ぶ、そこそこ有名な戦闘機隊のエースが出るという事で住民が多く集まり、滑走路の周りは人でごった返していた。すると格納庫からヤマダの五二型が出てきた、プロペラがレッドブラウンに塗装されスピンナーのみが緑になっている。機体はこの前見つけた塗装指示書の通りに塗装され、尾翼部分には61-120と黄色い文字でマーキングされていた。零戦を定位置に停めたヤマダは私を見つけると走って来た、飛行帽と上にあげた飛行眼鏡が案外似合っている。

 

「どうだ?かっこいいだろ?」

 

「ああ、だが尾翼の61-120っていうのはなんなんだ?」

 

「これはユーハングで精強を誇った部隊の番号と同じなんだよ。120は何番目に配備された機体かを表す。そして正確には61じゃなくて261、第261海軍航空隊『虎部隊』ってんだ。」

 

「なるほどな・・・今日の相手とはどうなんだ?」

 

「見て見ないことには分からないが・・・隊長とはあったことがある。とてもいい人だった。」

 

そう言っているとレミの零戦、クロの零戦、戦闘機隊の隊長、今回の対戦相手のエースパイロットの順番に降りてきた。エースの機を残して滑走路横の駐機場に移動してもらう。発動機が止まると皆降りてきた。まずは戦闘機隊の隊長とヤマダが握手を交わす

 

「お久しぶりです。隊長さん」

 

「久しぶりだな、今回お前の相手をするやつはプライドが高いが確かな腕を持っている。用心しろよ。」

 

「敵が敵の心配してちゃ世話ないですよ、よろしくお願いします。」

 

「ヤマダ、無理言ってすまないっすね。よろしくっす。」

 

「気にしないでくれよ、レミ」

 

そう言って1度別れ試合の準備に入る、試合開始は1時間後という事になった。私は1度も挨拶に来ない対戦相手に腹立たしさと、不安を感じていた。

 

「イサカ、機銃弾を抜くの手伝ってくれないか?」

 

「ん?何故だ?」

 

「機体を少しでも軽くしたいんだ。今回は模擬空戦だから弾はいらないだろ」

 

「わかった」

 

そう言うが早いかヤマダはパネルを外しドラム弾倉を取り外していた。その弾倉を受け取り弾を抜きとる。私は前々から疑問に思っていた事をヤマダに聞いてみた。

 

「なぜドラム弾倉のせいででかいフェアリングがある無印がいいんだ?性能を求めるなら急降下制限速度が上がった甲、13.2ミリ機銃と防弾板が搭載された乙の方がいいんじゃないか?」

 

「へへ、やっぱりそう思うかい?」

 

「ああ、」

 

「じゃあ、イサカは今の二一型を紫電改に乗り換えろって言われたら迷わず乗り換えられるか?性能は圧倒的に上だぜ?」

 

「いや・・・無理だと思う。」

 

「それと一緒だよ、俺は五二型が好きなんだ。モノの選択条件で良い悪いと好き嫌いは全く違う。命を乗せて空を飛ぶんだ。一番好きな機体でいくのが当然だろう?」

 

「ああ・・・そうだな。」

 

「ま、そう言うくだらない拘りだよ。さあ、7.7ミリ機銃の弾も抜いちまうぜ。」

 

弾を抜き終わると試合開始15分前になった、ヤマダは機体を目で見て点検する、私はそれを眺めていた。するとヤマダが話しかけてきた。

 

「イサカ、エナーシャハンドル任せてもいいかい?」

 

「え・・・?だが私は回す側はあまり慣れていないぞ?」

 

「いいんだ、それでもイサカにやって欲しい。」

 

「わかった・・・乗れ」

 

「よし・・・整備員前離れ!メインスイッチオフ!エナーシャ回せ!!」

 

私はエナーシャハンドルを差し込み口に突っ込み力一杯回す、キーーーンという聞きなれた音が響き渡り、回転数が上がったところで私はハンドルを抜き取り叫ぶ

 

「コンタクトーーーっ!!」

 

カチッ・・・バラッバラッバラッバラッバラッ・・・バラバラバラバラバ

 

一発始動、五二型の特徴である推力式単排気管から白煙が吹き出し力強い爆発音とともにプロペラの回転が安定する。私は機体の後ろに回りエルロン、ラダー、エレベーターの動作を確認する。その後乗降ステップを機体に押し戻し、フラップが確実に動作しているかを外からも見てやる。全て正常なことを手信号で送り、私は手旗を持ってタキシングを誘導し滑走位置へ案内した。いくら視界の良い零戦と言えども駐機状態では流石に見えにくい、そのため旗を目印にするようにタキシングして貰うのだ。滑走位置へ機を停めると車輪止めを置き私は機にもう一度上りヤマダに話しかける。

 

「滅多なことは無いと思うが・・・気をつけろよ。」

 

「ああ、対戦相手からの挨拶が無いのは妙だったな・・・気をつけるよ。あと、君との写真もちゃんと計器盤に止めてある。」

 

「馬鹿・・・バレないようにしてくれよ?」

 

「ああ、じゃあ行ってくる。」

 

対戦相手の機体は隼三型乙だった、水メタノール噴射装置を備えており、機体の軽さから縦方向の旋回戦では向こうに分がある。ロール性能は互角と言った所だろうか。私達は両機の無線を下でも聴けるようにし、不正が無い事を確認出来るようにした。レミ、私、隊長がその無線機が置かれた机の前の席に座り、準備は完了だ。だが私は少し無理を言って席を1度外し機体の下に行く、車輪止めをはらうために待機していた整備員と話をし、その役を変わってもらった。そこで大きな号令がかかる。

 

「発進許可よろし!整備員車輪止めはらえ!高度1000クーリルで戦闘開始!発砲は禁止!決着は下で判断することとする!行け!」

 

私は車輪止めをはらい、リボンネクタイをとりそれを大きく振った。離陸するのを確認してから席に戻る。両機の無線を聞いてみると、何か会話をしていた。

 

「ヤマダ!お前には絶対負けねえ・・・」

 

「いきなりそれは失礼じゃないか?俺とて負けるつもりはない!」

 

高度1000クーリルはあっという間だ。両機が散開し空戦が始まる。最初に後ろをとったのは隼だった、だがヤマダはラダーを蹴って機体を滑らせながら上昇し巧みに後ろにつく、だが発射するまもなく相手もロールして逃げる。白熱した空戦が何分も続いた、そしてヤマダが旋回を始めた、相手も当然それを追う。すると・・・ヤマダの機が消えた。見物人達もどよめいている。だが消えたのではなかった・・・次の瞬間、ヤマダは隼の後ろにピッタリと張り付いていた。もう照準も何も無い、機銃の発射レバーさえ引いてしまえば隼は吹っ飛ぶ。

 

「勝負あったっすね・・・」

 

レミが言う、その通りだった。隊長が無線で呼びかけた

 

「両機に告ぐ、勝負あった!ヤマダの勝ちだ!だが二人とも素晴らしい試合だったぞ、降りてこい!」

 

「了解!ありがとうございました。」

 

そしてヤマダは相手の隼の前に躍り出た、勝負は着いたのだから何も問題はなかったのだが・・・私は妙な胸騒ぎを感じ、無線で呼びかけようとしたその時

 

「うわあああああああああ!!!!」

 

隼の機首から弾が出た、奴は撃ったのだ

 

「馬鹿野郎が・・・」

 

ヤマダの声が聞こえる、機銃の発射音は鳴り続けているが機銃弾はヤマダには当たらなかった。

 

「やると思ったぜ馬鹿が!水平儀をよく見てみろ!」

 

「なっ・・・」

 

ヤマダは前に出た時に機を真っ直ぐ飛ばさず、微妙に滑らせていたのだ。正面に向かって撃った弾は当然横に流されていく、ヤマダは奴を試したのだった。

 

「殺し合いがしたいのなら直接言え!レミや隊長さんを通すな!他人に迷惑をかけないのなど当然だろう!?なぜお前は命のやり取りすらこんな卑怯な方法でやろうとする!?お前が俺を恨む理由はなんだ!」

 

「お前の存在全てだ!整備も出来て操縦もできる!何度お前に空賊を倒すチャンスを奪われたか分からない!お前は邪魔なんだよ!!!」

 

「そんなくだらない事が理由か!お前みたいな嫉妬心の塊が俺と同じ土俵に立とうとしていること自体反吐が出る!!」

 

「なんだと!?」

 

「お前には守りたい物が何も無いんじゃないか?自分の力を得る為だけに全てを捨てているんじゃないか?」

 

「くっ・・・」

 

「そんなくだらない人間と同じように扱ってもらいたくねえな!俺は守りたい物がある、だから空戦も整備もやるんだよ!」

 

「うるさい・・・うるさいっ!!!!!」

 

「今すぐお前を叩き落としてやりたい所だが取り敢えずお前は降りて隊長さんとレミに謝れ!お前がどれだけお前の隊の看板に泥を塗ったか、どれだけレミの顔に泥を塗ったかわかっているのか!?」

 

「ちくしょう・・・ちくしょう!!」

 

そう言うと隼は急降下を始めた、真っ直ぐ地面へ向けて降下していく、奴は自爆する気だ・・・群衆の悲鳴が聞こえる。だが次の瞬間、零戦が隼の前を横切った。隼は慌てて体制を建て直した。

 

「なっ・・・何しやがる!?」

 

「お前の覚悟はその程度か!!そのまま俺を巻き込んで死ぬ勇気すら無いのか!?そんな甘い覚悟のお前に死ぬ権利など無い!!!とっとと滑走路に降りろ多馬鹿野郎が!!!」

 

「・・・・・」

 

二機は滑走路に降りてきた、ヤマダの機体に私とレミ、隊長が駆け寄る。降りてきたヤマダを私は抱き締めた。

 

「また無茶して・・・馬鹿者・・・」

 

「悪かったよ・・・イサカ」

 

「本当にすまないっす。あたしが変なこと言わなければ・・・」

 

「ヤマダ、本当にすまない・・・この責任をどうとったらいいか・・・」

 

「レミも隊長さんもなにも悪くないよ。取り敢えず奴の機を見に行ってくれないか?少し静かすぎる。」

 

「ッ・・・!?」

 

隊長が走っていく、レミと私はそれに続いた。風防をこじ開けると、パイロットは今正に腹を切ろうとしているところだった。間一髪隊長がナイフを取り上げ操縦席からパイロットを引きずり出す。地面に横たわったパイロットにレミが平手打ちをしようとした・・・だがその手を掴んだのはヤマダだった。

 

「ヤマダ・・・離してくださいっす!」

 

「レミ・・・すまないが、この男に今一番ムカついているのは俺だ。」

 

「っ・・・悪いっす。」

 

ヤマダはパイロットの胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせた。パイロットは何も言わなかった。

 

「いいか、よく聞け。俺はこの事に関してはキッパリ忘れる。だからお前はお前が今できる事をしろ。」

 

「・・・・・・」

 

「聞こえたのか!?返事くらいしろ!!」

 

「・・・はい」

 

「・・・無駄死にするな」

 

「・・・・・」

 

そう言うと、パイロットは隊長とレミの前に立ち深深と頭を下げていた。その後のことは任せて欲しいと言われたので私達は何も干渉しなかった。群衆にもハプニングを詫び帰ってもらい、隊長とパイロットは先に帰っていた。夕方、レミが帰るときに少し話す機会があった。

 

「悪かったっすね・・・ヤマダ、それにイサカも」

 

「お前の責任じゃない。気にするな。」

 

「ああ、レミはなんにも悪くねえよ。」

 

「そう言って貰えるとありがたいっす・・・あの馬鹿のことは任してください。それではまたっす。」

 

そう言うとレミは深深と頭を下げ帰って行った。

 

 


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