著 ヤマ
空賊・・・こう1口に言っても色々なのがいる。数人程度のもどきに近い団体から数百人に及ぶ大空賊まで。
私のシマはまた空賊に狙われていた。どうやら街はずれの工廠を狙っているようなのだ・・・迎撃戦を展開するのもいいのだがそれだと空賊殲滅まで時間がかかる。やはり空賊の基地を叩き、滑走路を使えなくしてしまう方が効率も良いしあとからそこを別の空賊に使われる事も無い。だが・・・一式陸攻では非常に速度が遅く今回空賊が使っている紫電改に簡単に追いつかれてしまうという問題点があった。いや、爆弾を懸吊している時点で速度が落ちてしまうのは仕方がないのだが、爆撃機ではイザと言う時爆弾を捨てて空戦する事が出来ない・・・そんなこんなで私は頭を悩ませていた・・・何かいい方法は無いものかと格納庫に降りていくとヤマダの声が聞こえた。
「レミ、ちょっといいか?」
「どうしたんっすか〜?」
「いや、五二型の胴体下にこれが取り付けれるか確認させて貰いたいんだよ。」
「なんすかそれ?」
「爆弾懸吊架よ。」
それを聞いて私はヤマダの元に駆け寄った。
「ヤマダ、その話詳しくしてくれないか?」
「お、イサカじゃないか。いいぜ」
「そもそもばくだんけんちょうかってなんなんっすか?」
「爆弾懸吊架ってのは零戦に爆弾を取り付ける時に使うアダプタだ、勘違いしてる奴が多いんだが二一型や五二型はこれ無しでは爆弾を腹下に抱えられないんだよ。」
「へぇ〜、そうなんっすね。」
「これを零戦の腹下にボルトで止めてから爆弾を取り付けるんだ。」
私はこれを使って空賊の基地に爆撃をすることを思いついた、だが懸吊架分空戦性能が落ちてしまう・・・何とかならないかと考えていたが、ここはヤマダに聞こうと思い聞いてみた。
「ヤマダ、その爆弾懸吊架ごと切り捨てるような機構を作ることは出来ないか?今回の空賊の基地を叩くのに使いたいんだ。」
するとヤマダは待ってましたとばかりに胸を叩いた。
「言うと思ったぜ、ちょっと来てくれ。」
そしてヤマダは奥の格納庫へと私達を案内した。その先には十機程のカバーがかけられた零戦が並んでいた。ヤマダはそのうちの一機のカバーを外した。
「こいつを使わないか?」
「これは・・・」
「まさか・・・五三型っすか!?」
「よく気付いたなレミ、その通りこいつは五二型丙の発動機を水メタノール噴射装置付きの栄三一型に変更した零戦五三型だ。ユーハングでは水メタノール噴射装置が上手くいかなかったそうだがこっちじゃ俺が改造して使えるようにしたんだ。」
「ちょっと待て、五三型は五二型丙の機体を使っているんだから爆弾懸吊架は居る筈だろう、爆弾を直接抱けるようになったのは六二型からじゃないのか?」
「そこは俺の腕の見せ所よ、」
そう言うとヤマダは工具を取り出し零戦の下へ潜ると中央のパネルを外し、別のパネルへと付け替えた。
「こうやって六二型のパネルを取り付けれるように改造してあるんだ。爆弾投下機構自体はあるからこれで二十五番爆弾を抱けるぜ」
「普通に六二型を作れば良かったんじゃないのか・・・」
「そこは浪漫だよ!あと、五三型はレミに一機あげようと思ってな。」
「あたしにっすか?」
「ああ、昔亡くなった仲間は五三型を買いたがっていたんだろ? こいつで墓参りに行って喜ばせてやりな。」
「あ・・・ありがとうっす・・・」
「良いってことよ、それでイサカ、こいつを作戦に使ってみるかい?」
「ああ・・・ぜひ使わせてくれ!」
「よしっ決まりだな。五三型には俺も乗ろう。」
「急降下爆撃出来るのか?」
「一応元搭乗員だぜ?」
「ちょっと待って下さいっす。」
俺は次の作戦で五三型に乗ることになった。そしてその話をしているとき、レミが声を上げた
「ちょっと待って下さいっす。」
「どうした?」
「ヤマダ、五三型の操縦経験はあるんっすよね?」
「ああ」
「あんたが断るのはわかってるっすけど・・・あたしと模擬空戦してくれないっすか?」
そう言うとレミは頭を下げた、俺はレミがそうするだろう事はわかっていた。
「いいぜ」
「ヤマダ、いいのか?」
「今回は勝手が違う、それに・・・レミも昔の仲間の事を忘れられないんだよ」
「ありがとうございますっす・・・ショッぱい操縦したら・・・承知しないっすからね?」
「望む所だ・・・いつやる?」
「今すぐでもいいっすよ。」
「よしっ・・・」
「ふぅ・・・滑走路整備員総員退避!滑走路を開けろ!」
俺は五三型を滑走路へ押して行った。レミも零戦の出撃準備をしている、彼女の零戦は五二型無印、軽快性では明らかに劣る・・・さてどうやって戦うかな。
「ヤマダ・・・」
「どうした?レミ」
操縦席でぼーっとしているとレミが話しかけてきた。
「無理言ってすまないっす。ただ、昔の仲間が欲しがっていた五三型が・・・抜群の腕のパイロットの操縦で飛んでると思うと・・・」
「いいんだ、何も言うな。」
「ヤマダ・・・」
「無理はするなよ?」
「あんたに言われたくないっすよ!あと・・・エナーシャ頼めないっすか? あいつもよくエナーシャ回してくれてたんっすよ・・・」
「わかった、」
そう言うと俺は操縦席から飛び降りエナーシャハンドルを持ってレミの機体の下に着いた。するとレミの綺麗な声が響いた
「整備員前離れ!スイッチオフ!エナーシャ回せ!」
俺は差し込み口にハンドルを突っ込み力いっぱい回した。
キーーーーーーン
回転数約80回転毎分・・・そろそろだ、ハンドルを抜き取り思い切り叫ぶ
「コンタクトーーーっ!!!」
カチッ・・・
バラッバラッバラッ・・・
バラバラバラバラ・・・・・・
発動機に火が入る、俺が整備した栄二一はいい音を出していた。レミがこちらに敬礼をした、俺はそれに敬礼で返し自分の五三型の操縦席に戻ろうとする、すると
「ヤマダ、お前の五三型のエナーシャは私が回すよ」
「ああ、よろしく頼む」
操縦席に座り俺も大声で叫ぶ
「整備員前離れ!メインスイッチオフ!エナーシャスタータ回せーーーっ!!」
回転数が上がる、俺はイサカの声を待った。
「コンタクトーーーっ!!」
クランク軸とエナーシャスターターを直結させるハンドルを引く、軽い衝撃と共にプロペラが回転を始めるのですかさずメインスイッチを「両」位置にしてスロットルを少しだけ開ける。
バラバラバラバラバラバラ・・・
一発始動、このまま五分ほど暖機運転をする。その間に計器類をチェック、空での故障は即命取り。そして五三型には他の型にはないチェックポイントがある。
「水メタノール残量良し。噴射装置切」
そう、水メタノール噴射装置だ。栄三一型は本来この装置を取り付ける予定で生産された発動機、だがユーハングは使いこなせずに既に生産した栄三一型から装置を外した発動機を栄三一型甲、栄三一型の生産工程から装置を省いた仕様を栄三一型乙として採用してしまった。だが俺は昔この装置を実用に耐えうるものにしたんだ・・・その時尋ねてきたのがさっき言っていたレミの仲間の奴だった。
そんなことを考えているとレミから無線が入った。
「ヤマダ、離陸するっすよ」
「了解。先に上がってくれ。」
そして俺はレミが離陸したのを確認してからスロットルを開いた、勿論水メタノール噴射装置は切ったままだ。ラダーを踏んで機を真っ直ぐに保ち操縦桿を引くと五三型は離陸した。
「フラップ上、主脚上、トリム調整、発動機正常。」
一通りの確認を終えると俺は飛行眼鏡を外し風防を閉めた、前方には先に離陸したレミの五二型が見える。高度が500クーリルに達したところでレミが大きくバンクを振った。空戦開始だ、
「行くぞ!レミ!」
「望むところっす!」
俺はスロットルを思い切り開けてレミを追いかけた。噴射装置は使わない、レミは機体を裏返し急降下。俺も当然それを追う、
ミシミシミシッ・・・
機体がきしみ体にはGがかかる。
レミが旋回をやめ直線飛行に移る、が、即座にエルロンを切り機体の向きを変え後ろに着くことを許してくれない。翼端が短くなりロールレートが上がった五二型だからこそできる切り返しの速さだ。俺はわざと逆向きにエルロンを切り重量を利用して落ちるように後を追った。
「やるじゃないっすか・・・その重い五三型であたしに着いてくるなんて。」
「へへっ、まだまだ追うぜ?」
するとレミはエレベーターをめいいっぱい上げ宙返りの体制に入った。左捻り込みで後ろに着くつもりだ、俺はわざとレミ機の後を追った。
「ヤマダ!これで終わりっす!」
五二型のラダーが動いた瞬間を俺は見逃さなかった。同じようにラダーを蹴っ飛ばしスロットルを絞って失速させる。五二型が目の前で落ちるような挙動を示す中、俺も全くおなじ動きをしていた。
「あ・・・あれ?ヤマダ!?くっ・・・」
流石にレミも感がいい、後ろにつこうとしていた俺を見てすぐにラダーで機を滑らしかわす。
「今度はこっちの番だ!」
そう言うと俺は緊急ブーストをかけて一気に近づいた。レミはエルロンを切り滑らせ旋回を始める、当然後を追う。すると風防のすみに黒い影を見つけた、旋回を続けつつ目を凝らしてみるとそれは零戦二一型だった、敵か味方か・・・近づいてくる二一型に目を凝らしているとドブロク団のマーキングが目に入った、敵だ。
「レミ、後ろは任せるぞ?」
「へ?なんの事っすか?」
「二時方向敵機、二一型五機だ。」
「了解っす。ヤマダ、墜とされるんじゃないっすよ!」
「馬〜鹿こけ、いくぞ!」
二一型に向かい合う形で上昇姿勢を取る、十三ミリの完全装填をしてスロットルレバーを開け接敵の時を待つ・・・二一型が急降下に入った、俺達に気づいたのだろう。俺達は気付かないふりをしてそのまま飛び続ける、二一型が上に被さり曳光弾が光った瞬間にラダーを蹴って射線をずらし二一型をオーバーシュートさせる。
ゴォォォォォォ!
発動機の音を唸らせて二一型が前を通り過ぎていく、今度はこっちの番だ。
「レミ!着いてこいよ!」
「あいあいっす!」
機体を裏返し二一型の後を追う、二一型は格闘戦性能が高いがロールが遅い、切り返しのタイミングを今か今かと待つ・・・
キィ・・・
相手のエルロンが逆向きに動くのが見えた、レティクルを覗き敵の機が真っ直ぐになる一瞬を狙って発射トリガーを引く
ダダダダッダダダッ!!!
二十ミリと十三ミリが火を吹いた、7.7ミリなら相手に当たった時にカンカンカンと金属どうしが触れ合う音がするのだが・・・
ガン!ガン!パァンッ!!パァンッ!!
俺が積んでいるのはどちらも炸裂弾だ、遅延信管を設定してあるので機体外板を貫いて内部で爆発するようにしてある。
ドォッ!!
一機が燃料タンクから火を吹いた、やはり後期零戦の魅力はこの高火力だろう。一機墜ち他の敵は散り散りになる、レミと俺はあえて編隊を解き敵を追った。重武装の五三型とヒラヒラと舞える五二型では戦い方が違うからだ。
俺は一度高度を取り雲へ入る、そしてまた機体を裏返し急降下した。雲を突き抜けた瞬間レティクルいっぱいに二一型の翼が広がる
「じゃあな」
ダダダッダダダダッ!!!
ガンッ!ガンッ!パァンッ!
二一型の翼が折れて尾翼が吹き飛んだ、切り揉み堕ちてゆく敵機を見ながら後ろにつこうとする二一型を振り切るべく急降下する。格闘戦性能で劣る俺が格闘戦に応じるは愚策だ、今回はヒットエンドランで行かせてもらおう。もう一度上昇すべくエレベーターをあげたらレミが一機撃墜していた。
「ヤマダには負けないっすよ!」
「誰と戦ってんだ・・・残り二機だ!」
「一機は貰うっす!」
レミは下を飛ぶ二一型の後ろにピタリと着けた、格闘戦性能では流石に二一型に劣る五二型であそこまで追従できるのはレミだからこそ出来るんだろう。俺は後ろにつこうとしていた二一型を見つけた、ちと厄介である。
「しゃあない、馬鹿に付き合ってやるよ!」
ラダーを蹴っ飛ばし格闘戦へ持ち込む、二一型はまんまと後ろに着いてきた。ここからは俺の腕の見せ所だ。機首を上げエルロンを切りラダーを蹴った。バレルロールで二一型の後ろに着く。敵はロールして逃げようとした
「遅いっ!」
ダダダッ!!
レティクルに捉えた二一型の尾部を目掛けて機銃を叩き込む。ガンガンガンという音と共に尾翼がすっ飛んだ。撃墜確実・・・横を見るとレミの五二型が二一型を撃墜したところだった。
「ふぅ・・・とんだ邪魔が入ったな。どうする、一回降りて仕切り直すかこのまま続けるか。」
「へへ・・・何言ってんすかヤマダ」
「ん?どういうことだ」
「あたしの完敗っす。とりあえず降りましょう?」
「・・・ああ」
俺はスロットルを絞り降下した、五二型が着陸したのを確認してこちらも着陸する。冷却運転を念入りに行い発動機を止め車輪止めを置いた。久々に乗った五三型は少し重かったが、こいつに合った戦い方をしてやれば必ず答えてくれるいい機体だった。飛行帽と飛行眼鏡を外すとレミが駆け寄ってきた。
「ヤマダ、ほんとにありがとうございましたっす。」
「お安い御用さ、けどどうして負けだなんて言ったんだ?レミは俺によくついてきてたじゃないか?」
「ヤマダ、あんた水メタノール噴射してないでしょ?」
「・・・・いいや」
「隠さなくても良いんっすよ〜、重量級の機体に馬力が足りていない五三型の馬力を補うのが水メタノール噴射装置、それを使わずしてあそこまであたしはピタリとつけられてたんっすよ、あたしの完敗っす。」
「すまん、騙すつもりは無かったんだが・・・」
「なんかヤマダらしいっすね、これであたしもスッキリしたっす!」
私は滑走路から二人の模擬空戦を見ていた、二人とも見事なものだ・・・。当の二人は降りてきて会話をし終えたように見える、私は話しかけた。
「お疲れ様だな、満足したか?レミ」
「十分っすよ、ありがとうございましたっす。」
「それは良かった、ところでヤマダ」
「なんだ?」
「今回急降下爆撃するわけなんだが、搭乗員の教育をお願いできないか?前の戦いで急降下爆撃を担当した搭乗員は即席だったからあまり命中精度が良くなかったんだ。」
「教育かぁ・・・わかった、やってみるよ。」
「決まりだな、よろしく頼む。」
「あたしは何をすれば良いっすか?」
「本来レミ組の方は空賊に狙われてないから基地で寝ててくれてもいいんだが・・・レミは私と爆装零戦の直掩機を率いて貰えるか?」
「了解っす〜」
数日後、私は訓練を見るために滑走路にいた。すると教育を受けている組員が私を見つけ挨拶をしてくる。
「組長、お疲れ様です!」
「お前達こそお疲れ様だな。どうだ?教官はしっかり教えてくれているか?」
「はい!あの方は教え方がとても丁寧で人柄もいいので我々の士気も上がります。」
「そうか、それは良かった。」
そう言っているとヤマダが来た、滑走路の端にある黒板の前に立ち組員達へ一礼する。
「今日は実機に信管を抜いた爆弾を取り付け離陸及び急降下訓練を行います。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」
「皆さん腰を下ろしてください、離陸動作と上昇時に注意事項がありますのでそれを解説します。」
ヤマダのやつ、教育の時に敬語なのか・・・まあ奴には奴なりの考えがあるのだろうし放っておくか。
「まず、25番爆弾を抱いた零戦は上昇力がグッと落ちます。爆撃機ではありませんからね、ちなみに皆さんは増槽を抱いて離陸したことはありますか?」
「あります!」
「ありません・・・」
「なるほど、ちょうど半々くらいの割合ですね。」
「解説お願いします!」
「はい、まず増槽を抱いて離陸したことがある方ならわかると思いますが、零戦は全く上昇しなくなります。普段迎撃に上がる感覚で操縦桿を引いてしまうと確実に失速します。普段よりゆっくりと引くようにしてください、本日は練習ですので、失速しそうになったら躊躇なく爆弾を捨ててくださいね。では、各自離陸準備してください。」
そうヤマダが言い終わると、皆散り散りに戦闘機の元へ歩いてゆき発動機を回し始めた。特に問題なく訓練は進み、夕方近くになった頃、
「以上で本日の訓練は終了です、各自しっかりと休息を取ってください。ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
訓練が終わったようだ。私はヤマダに話し掛けた。
「お疲れ様だな。」
「イサカか、ありがとう。人に教えるのは難しいものだな」
「いい感じだったと思うがな、ん?」
私は滑走路の端に子供を見つけた、こんな所に子供がいるのは珍しい。そもそも組の土地なので本来入れないはずなのだが・・・私はヤマダに子供がいることを伝え元に歩いていき注意しようとした、
「こら、こんな所に入ってきちゃだめだぞ。」
私がそう言うと子供はこちらを向いて
「ごっ、ごめんなさい・・・」
「お母さんやお父さんはいないのか?」
そう言うと後ろから親らしき男が走ってきた。
「こらーー!こんな所で何やってるんだ!帰るぞ!」
「お前が父親か?」
「はい、ご迷惑をかけて申し訳ありません。」
「いや、問題ない。気をつけてな」
そう言って帰そうとすると、ヤマダが子供の事を呼び止めた。
「ボク、なんで滑走路の脇になんかいたんだい?」
「ごーにがた・・・見たかったんだ。」
「ここに来たのはなんでだい?五二型はわざわざここに来なくても見れるだろう?」
「お父さんから・・・ヤマダって言う人が乗ってるごーにがたの話を聞いて・・・見たいと思ったんだ・・・」
「お父さん、その話は本当ですか?」
「はい・・・申し訳ありません!」
私はその時ヤマダが笑顔を見せたのを見た。
「よし・・・ボク、ちょーっとここで待ってな。」
そう言うとヤマダは格納庫の中に走っていった。すると、中で五二型の発動機を回しタキシングで出てきた。私達の前に止まると1度発動機を止め降りてくる。
「ボク、おいで」
そう言うとヤマダは子供を抱えて操縦席に乗せた。
「お兄ちゃん・・・ありがとう!」
「どうって事ないさ、けどお兄ちゃんとの約束だ。次からはお父さんと一緒においで。あそこの格納庫の扉を叩いて『ヤマダさんいますか?』って言ったらお兄ちゃんがまた五二型に乗せてあげるよ。」
「うん!わかった!」
「お父さん、」
「はい!」
「今度来る時は、イサカの二一型の話もしといてあげてくださいね?」
「・・・はい!ありがとうございます!」
「ボク、気をつけてな!」
「お兄ちゃんありがとう!」
「五二型かっこいいだろ?」
「うん!ごーにがた大好き!」
そう言って子供を見送るヤマダを私は見ていた、姿が見えなくなるまで見送るとまた私は話し掛けた。
「ヤマダ、なぜあんな優しい対応をしたんだ?普段ああ言うのが来たら追い返しているじゃないか、」
「あの子とあの子の父親は真っ直ぐな目をしていた、あの子はいいパイロットになるよ。」
「なるほどな・・・」
一週間後、作戦決行の日となった。作戦は視界の良い昼に出発することになっていたので、私は組の建物の中を歩いていた。すると、爆戦隊の宿舎から怒鳴り声が聞こえてきた。
「貴方みたいな優秀な搭乗員を・・・爆戦なんかに乗せて無駄死にさせるなんて!」
無駄死に・・・?どういう事かと私は聞き耳を立てた。
「なんてことを言うんだ!」
そう言ったのはヤマダの声だった。だが怒鳴り声は続く。
「俺は昔居た航空隊で爆戦が次々に敵機に撃墜されるのを見た!爆戦は全く回避動作ができない・・・それはベテランでも変わりない!貴方は戦闘機に乗るべき人だ!」
「馬鹿者!」
「っ・・・」
「貴様は周りの直掩戦闘機の事を忘れたのか!?」
「しかし・・・俺が前にいた航空隊では!」
「貴様が昔居た航空隊で何があったかは知らないが、我々爆戦隊をまだ無駄死になどと言うのなら貴様がここに居る資格はない!直援戦闘機隊を信じることも出来ないような人間は編隊には要らない!」
「ですが・・」
「貴様のことは良く覚えているぞ、急降下訓練の時もよくやっていた。なのに何故今更こんなことを言う!?」
「俺には守りたい家族が居ます!だから確実に空賊を叩ける爆戦隊に志願した・・・ですが撃墜されるリスクが高いのも爆戦隊、俺が死んでもせめてヤマダ教官だけは生きて帰って頂きたいのです!俺の死を家族に伝えて頂きたいのです!」
「この大馬鹿野郎!」
ヤマダはその搭乗員の事を殴った、止めに入ろうかと思ったがヤマダは目から涙を流していた・・・
「そんな悲しいことを言うな・・・ここに居る爆戦隊搭乗員全員、俺が引き連れて帰ってきてやる!だから二度と死ぬなどと言うな!」
「教官・・・」
「俺からイサカ組爆戦隊搭乗員全員へ命令だ!」
「はい!」
「きちんと目標を定め爆弾を投下しろ!敵機に絡まれたら捨てて空戦をしろ!貴様らの目的は死ぬことでは無い!そして・・・生きろ!以上だ!」
「はい!!!」
私はそれを聞いてそっとその場を離れた、あそこまでやらせれば爆戦隊の戦果は期待できるだろう。私はほっと胸を撫で下ろし、自室に戻った。すると、ヤマダが部屋のドアを叩いた。
「イサカ、今いいか?」
「ああ、いいぞ。」
そう言って私はヤマダを自分の座っているソファーの横へ座るよう促した。
「イサカ、俺は正直に言って怖い。」
「どうした、急に」
「へへ、なんでだろうな。俺はイサカの今の生活が壊れてしまうのが怖い。だから戦いに行く、けど戦いに行って死ぬのも怖い。矛盾してるよな」
「ふふ、お前らしいな。」
「そうか?」
「ああ、お前は自分の事じゃなくて先に私の生活の事を心配した。本当にお前はお人好しだな。」
「・・・」
「お前の事は私が守ってやる。だからお前も私の事を守ってくれ。」
「イサカ・・・」
「お互い様だ、」
「ああ!」
「さあ、格納庫へ行くぞ。出発の時間だ。」
俺が格納庫の階段を降りて爆戦隊の元へ行くと、教えていた組員たちがわらわらと集まってきた。そして俺の前に立つと
「ヤマダ教官に、敬礼!」
皆が俺に敬礼をした、俺も敬礼で返しこう言った。
「私は・・・絶対に死にません。そして君達を死なせもしません。今日はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!教官!」
「私達の目標は空賊基地の滑走路及び格納庫です。レミ率いる直援戦闘機隊の援護を受けながら、イサカ率いる制空戦闘機隊が制圧した空賊基地上空から急降下し爆弾を投下、基地機能を失わせるのが目的です。」
「はい!」
「では、行きましょうか。」
「ヤマダ教官!」
皆が戦闘機の元へ行く中、俺を呼び止めたのはさっき俺と怒鳴り合いをしていた搭乗員だった。
「どうしましたか?」
「先程の御無礼をお許し下さい。そして、ご武運を」
「気にしていませんよ。本日貴方は私の列機です、後ろの索敵は頼みましたよ?」
「はい!」
俺は自分の五三型の元へ歩いて行った。既に発動機は回っており、機体腹下には25番爆弾、左右翼下には50ボットル増槽が懸吊されていた。その準備をしたのは俺が整備のイロハを教えた整備員達だった。
「ヤマダ班長!」
「お前ら・・・」
「機関良好!整備にも問題ありません!」
「よし・・・俺達爆戦隊の命はお前達整備班に預けたぞ」
「はい!」
すると、整備班の連中の足元から子供が飛び出してきた。見覚えのある顔だった。
「ヤマダのお兄ちゃん!」
「ボク・・・」
「勝手に入ってきてごめんなさい!頑張ってって言いたくて・・・」
「そっか・・・兄ちゃんは絶対帰ってくるからな。また五二型に乗せてやるからな、約束だ。」
「うん!やくそく!」
「よし!」
そして俺は操縦席に座り計器類を確認した、車輪止めをはらってもらいタキシングで滑走路に出る。高度をとるのに時間がかかるので爆戦隊は一番最初に離陸するのだ。滑走路に出て編隊離陸の準備をしていると、イサカとレミが走ってきた。
「ヤマダ!」
「どうした?」
「私が先に行って敵をたたき落としておいてやる。心配するな!」
「途中の援護はあたしらにお任せ下さいっす!」
「ああ・・・頼りにしてる!」
二人が離れたのを確認し、使用燃料タンクを胴体内燃料タンクに切替える。旗振り合図を目視し発信許可を確認。列機に手信号で離陸する旨を伝えスロットルを開けた。
ゴォォォォォォ!
発動機の音を聞きながら当て舵を取り操縦桿をゆっくりと引く、しんどそうに零戦は離陸した。
「ごめんな・・・ごめんな・・・」
俺は重荷を抱かせた零戦に詫びながら高度を上げる、トリムを調整し列機がついてきてることを確認し編隊を揃える。無線ダイヤルを捻りレミに無線を繋ぐ、直援戦闘機隊と連携をとるためだ。
「レミ、聞こえるか?」
「感度良好、ハッキリ聞こえるっすよ。」
「よし、援護頼むな。」
「お任せ下さいっす。そろそろ1500クーリルに到達するんでヤマダら爆戦隊はゆっくり昇って来てくださいっす。イサカたちは先に向かってるっす。」
「了解。」
そして俺はダイヤルをもう一度捻り爆戦隊に繋ぐ。
「皆さん、聞こえますか?」
「ハッキリ聞こえます!教官」
「了解です、増槽燃料タンクは左右懸吊タイプですので上手く左右を切りかえて偏らないように気をつけてください。巡航速度で飛行していればあと二十分程で無くなるはずですのでその時は切り離してください。」
「了解しました!」
そして俺は最後にイサカに無線を繋いだ、
「イサカ、聞こえるか?」
「ああ、はっきり聞こえる。どうした?」
「いや、何でもない。気を付けてな。」
「任せておけ、じゃあまた後でな。」
「ああ」
そして俺は燃料残量を確認した、色々話しているうちに増槽の燃料が無くなったので使用燃料タンクを翼内燃料タンクに切替え増槽を投下する。機は幾分か軽くなった、列機も続々と増槽を捨て出す。すると列機から無線が聞こえてきた。
「敵機だ!!右後ろ上方!」
「左前上方からも敵機!太陽を背負って飛び込んでくる!」
見てみると確かに敵機が居る、するとその瞬間敵機は火を吹いた。撃墜したのは直援戦闘機隊、増槽をつけたまま空戦機動をやってのけていた。
「バカ!空戦中は増槽を捨てるのが決まりだろう!弾を喰らったら火達磨だぞ!」
「あんな奴らどってことないっすよ〜」
「バカヤロ・・・」
さらに30分ほど飛び続けるといよいよ基地が近づいてきた。俺は列機に無線で1列編隊を組むように指示した。間隔を開けるようにもう一度指示しレミに無線を送る。
「レミ、ハヤテ(制空戦闘機隊の隠語)と合流し援護頼む。」
「了解っす。1発かましてきちゃって下さいっす!」
「ああ、任せろ!」
スロットルを開けペラピッチを低に設定する、2000クーリルほどまで高度を取ったらエルロンを切り機体を裏返して操縦桿を引き急降下に入る。五三型に爆弾照準器はない、感覚が頼りだ。 スロットルを絞り目標を見据えて急降下する。俺の後ろと横、上は全て直援戦闘機隊、制空戦闘機隊に預けた。もう何も心配する事は無い。
「っ・・・!!」
強烈な風圧で動かなくなる操縦桿を必死に押さえつけ、所定の高度まで急降下するのを待つ、高度計を見ながらその瞬間を待った。
1000・・・800・・・600・・・300クーリル!!
「てやぁっ!!」
ガシャンッ!!
俺はフラップをいっぱいに開きダイブブレーキ代わりにする。その瞬間に爆弾投下索を倒し爆弾投下だ。機が軽くなる・・・風圧に負けじと操縦桿を力いっぱい引きながらスロットルを開けフラップを閉じ水メタノールを噴射する。凄まじいGが体を襲うがここでの失神は死を意味する。
「うおおおおおおおお!!!」
大声を上げながら操縦桿をさらに強く引きつける。
ゴォォォォォ!!
けたたましい発動機の唸りと共に機首を上げた五三型は速度を一気に高度に変換し上昇する。その瞬間、自分の下にあった格納庫で爆発が起こった。投下成功だ、俺は即座に高度を取り制空戦闘機隊に合流した。
「ヤマダ、よくやった!お前の教え子たちも成功させているぞ!」
「良かった・・・あいつら上手くなりやがってよ!」
「さあ、あとは残った敵を叩くだけっすよ!」
「了解!」
敵機は紫電改だった。馬力では負けているが格闘戦性能は五三型とタイくらいか・・・俺は一気の紫電改に狙いを定め急降下した。
キィ・・・
相手のエルロンが動く、回避動作をしようとしているのだろうがもう遅い。
「じゃあな!」
ダダダダッ!
敵機のエレベーターが吹っ飛ぶ。そのまま上空に戻ろうとすると後ろに紫電改がつけていた。地面が近かったので変な動きをすることも出来ず俺は急降下した。紫電改は構わずに撃ってくる。ラダーでかわしながら飛んでいたが、俺はふとあることを思いついた。
「これができるか!!!」
俺は操縦桿を思い切り前に倒しプロペラが地面の砂を巻き上げるくらいまで高度を下げた。紫電改もついてきたがあえなく地面と接触し堕ちた。
「俺を追いかけようなんて百年早いっての」
そのまま上空に戻ると教え子たちが空戦をしていた。後ろにつかれていた五三型を見つけ援護に向かう。
「教え子には触れさせねえぞ!」
スっと後ろについて機銃発射トリガーを引く。紫電改は燃料タンクから火を吹きながら離脱して行った。
「教官!」
「言ったでしょう?誰も死なせないって。さあ、敵機はあと三機です!行きますよ!」
敵機のいる方に飛ぶと無線が入った
「こっちの一機はあたしが貰うっす!」
「私も一機貰うぞ!」
「しゃあねえ、俺も一機で我慢してやるよ!!」
イサカは二一型で紫電改の前に出た、かと思うと機を失速させ後ろへ周りそのまま撃墜。一方レミは後ろにピタリと張り付き二十ミリを叩き込んだ、尾部が折れる。一機撃墜だ。
「負けてらんねーな!」
最後の逃げようとする紫電改を緩降下でおう、回避行動を取ろうとする紫電改をレティクルいっぱいに捕らえ、機銃を撃った。
ダダダダッ!ダダダダッ!
ガン!ガン!パァンッ!
発動機から火を吹き切り揉み落ちていく紫電改を見た、俺は完全に終わったことを隊の皆へ伝え巡航高度を取り帰路へ着いた。一番最初に声をかけてきたのは愛する妻、イサカだった。
「お疲れ様だな・・・本当によくやってくれた。」
「イサカこそお疲れ様。制空戦闘大変だっただろう。」
「ヤマダ、お疲れ様っす〜」
「レミもな、ここまで護衛してくれてありがとう。爆戦隊を代表して礼を言うよ。」
「教官!」
「君は・・・」
「お陰様で爆撃は成功しました!ありがとうございました!」
「それは良かったです・・・では、帰りましょうか。」
「はい!」
「了解っす!」
「そうだな。」
・・・・・零式艦上戦闘機五三型、今回は本当に世話になった。まだまだ任務で酷使することもあるだろうが、その分俺はこいつを十分に可愛がってやろうと思う。
完