ゲキテツ大決戦   作:5145/A6M5

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護衛

著 ヤマ

 

イジツでの物資輸送手段は空路だ、それも大きな荷物は速度の大して早くない飛行船で輸送しなければいけないのだから達が悪い。ある日私達イサカ組とレミ組は、タネガシからアレシマへ向けて戦闘機の部品を輸送する飛行船の護衛を担当する事になった。

 

「イサカ〜」

 

「どうした、ヤマダ」

 

「今度護衛の仕事を受けたんだろ?着艦できるんかい?」

 

「ああ、問題ない。」

 

「そっか、しっかしあの飛行船に護衛戦闘機三機ってうちの商会は頭おかしいんか・・・」

 

「飛行船が狭いから仕方あるまい・・・飛行船の着艦に着艦フックを使う飛行船なんてもう私達くらいしか使っていないさ。」

 

「貧乏は辛いな・・・」

 

「とにかくだ、私とお前、そしてレミの三人で護衛しきらなければアレシマに部品が届かなくなって迷惑がかかる。しっかり頼むぞ。」

 

「ああ!」

 

出発二時間前、格納庫で荷物の整理をしていると扉を叩く音が聞こえた。そして

 

「ヤマダさんいますか?」

 

「ああ、入って待っていろ。」

 

私は親子を格納庫の中に通すと、ヤマダを呼びに行った。ヤマダは五二型に向かって何か言っていた。

 

「また頼むな・・・俺下手くそだから無理させちまうけどさ・・・」

 

「ヤマダ!」

 

「うわぁっ!イサカか・・・」

 

「何やってるんだ、あの子が来てるぞ。」

 

そして私達は親子と会話した。あとから聞いたが子どもの名はテツというそうだ。

 

「すみません、何度も何度も・・・」

 

「お父さん、そんな気にせんで下さい。自分も貴方の息子さんと話せて楽しいですから。」

 

「お兄ちゃん!ごーにがたってこうとおつって言うのがあるんだよね!」

 

ヤマダは子どもの頭を撫でた。

 

「おっ、よく知っててえらいな〜。ちなみにお兄ちゃんの五二型は何かわかるかな?」

 

「えっとね・・・むいん!」

 

「えらいぞ〜、ちなみにテツくんは何が好きかな?」

 

「えっとね・・・きいろいおびが入ったおつが好き!」

 

「黄色い帯の乙・・・ユーハングの筑波海軍航空隊の機体だ!?」

 

「うん!図鑑で見たんだ〜」

 

私はふっと気になったことを聞こうとした。

 

「テツくん、二一型は好きかな?」

 

「にいちがたも好きだよ!」

 

「どの機体が好き?」

 

「えっとね・・・ヤマダさんが作ったはいいろのやつ!」

 

「あれなんだね〜。よしっ、ちょっとおいで」

 

そう言うと私はテツを自分の区画へ連れていった、当然二一型改はそこに鎮座している。いつ見ても格好がいい

 

「かっこいい!」

 

「かっこいいだろう?よし、お姉ちゃんに捕まって」

 

そう言うと私はテツを操縦席に座らせてやった。今日は改で出撃する予定だったので、操縦席には落下傘が敷いてあり尻を痛める心配もない。

 

「すごーい!」

 

「操縦桿を握ってごらん」

 

「いいの!」

 

「激しく動かしちゃダメだぞ?」

 

「はーい!」

 

テツの目は輝いていた。するとヤマダがふてくされていた

 

「五二型にハマらせようと思ってたんに〜」

 

「子供かお前は!」

 

「ぶ〜」

 

まったく・・・私はテツを操縦席から降ろした。そして

 

「なあテツくん、二一型の方が良かったよね〜」

 

「五二型だよな!」

 

「う〜んとね!どっちもすき!それからお兄ちゃんもお姉ちゃんも好き!また色々おしえてね!」

 

こりゃあ一本取られた、私とヤマダは二人してテツの頭を撫でた。すると父親が

 

「本当にいつもありがとうございます。お仕事の途中なのに・・・」

 

「いいんだ、小さいうちに色んな経験をさせてやらないとな。」

 

「ありがとうございます・・・」

 

私とヤマダは親子を見送り、格納庫で二人きりになった。

 

「イサカ・・・」

 

「なんだ?」

 

「いや、なんでもない。やっぱり綺麗だと思ってな。」

 

「何だいきなり・・・ありがとう。」

 

「さあ、出発の時間だぜ?」

 

 

 

 

 

俺は飛行船の発着甲板を見据えてスロットルを絞った。着艦許可信号を確認して着艦体制に入る。上下左右共に狭いからあまり無茶はできない・・・速度を60キロクーリルで保ちながらゆっくり降りて行く。

 

「許可よろし!着艦フック下ろし!着艦します!」

 

甲板後部を少し超えたあたりで操縦桿を引き機種を上げ、尾部を地面に近づける。軽いショックがあった、着艦フックが制動ワイヤを掴んだのだ。ワイヤが伸びきったところで零戦は停止する、すぐにワイヤを外してもらいタキシングで駐機場所まで移動する、ふと見るとそこには既に二機の零戦三二型が止まっていた。護衛戦闘機は俺とイサカ、レミ、そしてここにいる二機のパイロットの五人って事か・・・するとその零戦のパイロットらしき男が走って来た。

 

「他の飛行船に、乗っておられたことがあるとですか!?」

 

「いえ、飛行船に着艦したのは今日が2回目です。ゲキテツ一家から護衛任務に来ましたヤマダです。よろしくお願いします。」

 

「タネガシ輸送商会所属のイトウです!」

 

「貴方の愛機は?」

 

「手前っかわの三二型です!」

 

「奥の三二型のパイロットは?」

 

「今仮眠を取っております!」

 

「いい心がけですね。おっと、私の仲間が到着したようです。」

 

レミとイサカが着艦して駐機場所に戦闘機を止めた。二人が駆け寄ってくる。

 

「着艦はやっぱり慣れないっす・・・あれ?先客がいるんっすね。」

 

「イトウです!よろしくお願いします!」

 

「レミっす〜」

 

「イサカだ、よろしく頼む。」

 

「作戦室はこちらになってます。皆さんに用意出来た部屋もせまっ苦しいところですが・・・アレシマまで三日間、往復六日、どうか辛抱ください。」

 

本当に狭い所だったが文句は言えない、とりあえず作戦室に集まって空賊の出やすい場所を確認することにした。

 

「げっ・・ここシロクマ団がでる空域じゃねえか・・・」

 

「しかもこっちにも空賊のマークがあるっすよ・・・」

 

「アレシマまでどれだけ空賊が出る空域を通るんだ・・」

 

いくら最短距離とはいえリスキーすぎる・・・まあ俺たちはあくまで雇われた側だ、仕方あるまい。しばらくすると作戦室にイトウともう一人男が入ってきた。恐らく仮眠をとっていたと言うパイロットだろう。名はケンジというらしい。すると

 

「ヤマダさん、あんた今まで何機撃墜したんですか?」

 

えらく高圧的だったが、俺は気にせず答えた

 

「十機以上は堕としたと思います。」

 

「俺はあんたが気に食わねえ、あんたの戦い方が気に食わねえんだ。なんでお前なんかと一緒に仕事をしなくちゃならねえんだ?」

 

「貴様・・・言わせておけば!」

 

「イサカっ」

 

俺はイサカを静止した、その時俺は奴のスカーフに書いてある文字を見た。ユーハングの武将の言葉だった。

 

「宮本武蔵・・・ですか」

 

「それがどうした?」

 

「武蔵は戦いの中で何度か逃げています、そして勝てない相手とは決して戦わなかった・・・それも戦い方のひとつかもしれませんね。」

 

男の表情が険しくなった。そして声を荒らげて言う

 

「俺は自分の戦い方をするだけだ!」

 

「私もそう思っています。妻に、仲間にまた会いたいから・・・護衛任務中、よろしくお願いします。」

 

まったく・・・なんの敵意だ。俺は自分の部屋に戻り服を着替えた。そして工具箱を持って駐機場所に降りていく。するとそこにはレミとイサカが居た。

 

「ヤマダ、大丈夫っすか?」

 

「今はな・・・ただ嫌な感じだな」

 

「気をつけろよ・・・連携を欠く味方は敵よりも敵になる。何よりやつならお前を狙ってくる可能性もある・・・用心しろ。」

 

「ああ、ありがとうな。」

 

そして俺は自分の五二型のカウリングを外した、プラグコードを抜き取りプラグを1本ずつ外して焼け具合を見る。確認していると一番下のシリンダーのプラグが濡れ気味だった。これはまずい・・・

 

「飛行船で高いところに上がったから冷えて吸入管の燃料が落ちてきて溜まり気味なんだ・・・イサカ!レミ!君らの発動機も急いでバラすぞ!」

 

「わかったっす!」

 

「わかった!」

 

2人の発動機もバラしてプラグを抜く、案の定一番下のプラグは濡れ気味だった、綺麗に拭き取り刺し直す。プラグのカーボンを焼きとる意味も込めて発動機を回す事にした。

 

「イサカ、レミ、悪いが発動機の始動頼めるか?カーボンを焼ききらないといけないんだ。」

 

「了解っす!」

 

「了解だ。」

 

三人で発動機を回し回転を上げる、カーボンを焼ききれるくらいまで回したら止め、これを3機分行い発動機を組み直しカウリングをつけた。危なかった・・・

 

「ヤマダ、あのままほっておいたらどうなっていたんだ?」

 

「プラグに火花が散らなくなって掛からなくなるな、これからは時々プロペラを手で回してやって燃料を行き渡らせてやってくれ。発動機が直接壊れるわけじゃないが緊急発進が多い俺たちにとっちゃ死活問題だろう?」

 

「確かにそうっすね・・・やっぱヤマダを連れてきたのは正解っす。それにしてもこの飛行船の整備班は何をやってるんっすかね?」

 

「確かにそうだな・・・私達の戦闘機まで見てくれる手筈になってるんだが、こんな初歩的なミスを犯すとは・・・」

 

「なーんか妙っすね・・・ただこの商会はゲキテツ一家とも繋がりが深いっすから、恐らくこれは個人の仕業・・・となるとやっぱり」

 

「レミ、それはまだ確定じゃねえ。それに腐っても同じ滑走路から飛び立つ奴なんだ、とりあえず余計な心配しないでおこう。」

 

そうして俺達は自室に戻り休むことにした、部屋に入って暇をしていると船内放送が掛かった。

 

「空賊の接近を確認、護衛戦闘機隊搭乗員は直ちに発艦せよ。」

 

俺は格納庫へ降りて行くと、戦闘機に飛び乗り点検をする。それが終わると大きく手を振りエナーシャを回してもらい発動機を回した、俺が一番最初に発艦準備が終わったようだった。

 

「先発艦します!」

 

するとイトウの声が飛んできた。

 

「ご武運を!私も直ぐ追います!」

 

フラップを下げてスロットルを開き、発艦する。飛び上がると言うよりかは投げ出されるような感覚で俺の零戦は夜空に舞った。空賊は後ろから来ていた。

ひぃ・・・ふぅ・・・みぃ・・・六機だ!機首をそちらに向けヘッドオンの体制を取り上昇する。近づいてくる敵機を見据え機体を確認する、今回は鍾馗だった。相手の曳光弾がパッと光る、機体を即座に裏返し操縦桿を引き付け相手をオーバーシュートさせた。上を通過する鍾馗を見ながら突き上げ体制で一撃を入れる。

 

「相手が悪かったな」

 

発射トリガーを引く、20ミリと7.7ミリが火を噴く。

 

パァンッ!

 

鍾馗の燃料タンクが爆発した。すかさず俺はエルロンを切り敵の射線から離脱する。すると前からレミとイサカ、イトウ、そして例の男が飛んできた。

 

「ヤマダさん!遅うなって申し訳ねえです!」

 

「私達の分も残しておいてくれたか?」

 

「もう2機目をねらってるじゃないっすか〜」

 

「まったくお前ら・・・行くぞ!」

 

俺は見定めた一機の鍾馗の後ろに着いた。急旋回で逃げようとする鍾馗だが旋回性能でゼロに勝てる戦闘機は無い。ぴたりと食らいつくがまだ機銃は撃たない。敵との距離を目視で測る、70・・50・・30・・10・・・

 

「そこだっ!」

 

ダダダッ!カンッ!カンッ!カンッ!

 

弾がぶつかるのが目で見て分かる距離まで接近してトリガーを引く。俺の零戦から放たれた曳光弾が光り、敵は火を吹き落ちていった。撃墜確実・・・周りを見るとイトウが後ろにつかれていた。何とか回避しているが動きがぎこちない、恐らく空戦の経験が全く足りていないのだ。俺はスロットルを開けスナップロールで鍾馗の後ろに付き撃墜した。イトウに無線を入れる。

 

「大丈夫か!?」

 

「はい・・・ありがとうございます!」

 

「よし!空賊撃退も終わったようだし、帰るぞ」

 

着艦し駐機場所に愛機を止める、イトウの方を向くとケンジがイトウを怒鳴りつけていた。

 

「またお前はあんな情けない飛び方しやがって!」

 

「すみません!」

 

「今度あんなことしやがったら承知しねえぞ!」

 

ケンジはまだぶつくさ文句を言いながら自分に部屋に戻っていく、イトウがこちらに気づき歩いてきた。

 

「お世話になったとです・・・ヤマダさんは本当に上手かですね。」

 

「そんな事はありませんよ。それよりいつもケンジさんはあんな調子なんですか?」

 

「お恥ずかしながら・・・私が未熟もんですから十分にあん人の列機も務まらねえもんで。」

 

「・・・イトウさん。あなた一度私の列機になってみませんか?」

 

「ええ!?だども・・・そげなこと・・・」

 

「安心してください。今此処の戦闘指揮を取っているのはイサカなんです、列機も彼女の独断で決められる。どうですか?1度だけでも」

 

「わかりました・・・よろしくお願いします!」

 

そうして俺はイサカに連絡し列機変更の連絡を各員に回してもらった。あまり良いやり方ではないが、このままではイトウがうかばれない。

 

「イサカ、すまんな。無茶させて」

 

「いいんだ、何か考えあっての事だろう? イトウだって大切な戦力だ、無駄なストレスをかけたくないからな。」

 

「ありがとう。」

 

俺が部屋に戻って休んでいると、レミが部屋に入って来た

 

「ヤーマダっ」

 

「レミか・・・どうした?」

 

「これ、あんた身に覚えあるっすか?」

 

レミが差し出したのはビスだった、全く身に覚えはない。

 

「いや、知らないな。こんなものどこにあったんだ?」

 

「あんたの五二型の7.7ミリ機銃に詰められてたっす。」

 

「なっ・・・!」

 

「ヤマダ・・・本当に気をつけて下さいっす・・・」

 

「ありがとう・・・一つだけ頼みがあるんだがいいか?」

 

「なんっすか?」

 

「絶対に一人では動かないで欲しい。」

 

「約束するっす。」

 

そして俺はイトウの部屋の扉を叩き格納庫におりてくるように伝えた。俺は先に格納庫に降り待っていると、イトウが来た。

 

「小隊長、用事ってなんとですか?」

 

「小隊長なんて呼ばないで下さい、私はそこまで偉くありませんよ。ところでイトウさん、貴方空戦の経験はどれくらいありますか?」

 

「いえ、ケジメとしてそう呼ばせてください。それがその・・・つい1か月前にココに付いたばかりで全然経験が無かとです。今まではゲキテツ一家のフィオさんとローラさんが護衛に着いてくださっていたので何とかなっとりましたが、ヤマダさん達に変わってからはさっきみたいにさっぱりで・・・」

 

「フィオさんやローラさんとケンジさんはどんな感じでしたか?」

 

「ケンジさんは今みたいなふうじゃなかったとです・・」

 

成程な・・・これで全て合点がいく。フィオさんやローラさんが護衛につかなくなれば戦闘機隊の立場で1番上なのはケンジという事になる。その所にまたゲキテツ一家から俺達が送られたから、とりあえず幹部でもなんでもない俺にケンジがやたら当たってきているというわけだ。だが考察すればするほど馬鹿らしくなってくる。ケンジがいかにしょうもないヤツなのかがわかるだけだ。

 

「わかりました・・・イトウさん。今から少し飛びませんか?」

 

「ええ!?でも任務でも無いのにそげなことしたら・・」

 

「そんなに遠くには行きませんよ。飛行船の周りで一通りの空戦機動をやってみて下さい。確認したいことがあるんです。」

 

 

 

 

 

私が飛行船内の酒場に行き席に腰を下ろすと、隣にレミが座ってきた。外を見ているとレミが話しかけてくる

 

「今からヤマダとイトウが飛ぶらしいっすよ」

 

「そうなのか?」

 

「はい〜、空戦機動を確認したいって言ってたっす。」

 

「ならここから見えるかもしれないな。どれ、ひとつじっくり見てやろうじゃないか。」

 

しばらくするとヤマダの五二型とイトウの三二型が編隊を組んで飛んでいるのが見えた。

 

「そろそろ始まるっすよ〜」

 

ヤマダが大きなバンクを振ったあと垂直上昇に入る。イトウもそれを追った、次の瞬間ヤマダが木の葉落としを決めた。私は正直イトウはここで引き離されると思っていた・・・ところがどっこいだ、イトウはヤマダにすこしぎこちないながらも着いていくではないか。

 

「あら、イトウなかなかやるじゃないっすか〜」

 

「うむ・・・やはり実戦経験の不足なのだろうな。」

 

しばらく二人は空戦機動をしていたが、まもなく着艦したようですぐに見えなくなった。そして数十分後、ヤマダとイトウが酒場にやってきた。

 

「イトウさん、今日は非常に上手でしたね。あれが実戦でもできるようになれば完璧です。次に空賊の襲撃があった時は実戦訓練といきましょう。」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

私は二人に話しかける。

 

「ヤマダ、イトウ、いいものを見させてもらった。ありがとう。」

 

「面白かったっすよ〜二人とも〜」

 

「ありがとうございます!ゲキテツ一家の幹部の人にそげな事言うてもらえるなんて鼻が高いです!」

 

「ありがとうな、二人とも。」

 

「イトウ、お前はヤマダに信頼されているようだな。」

 

「ええ?自分なんぞまだまだです・・・」

 

「信頼してない相手の目の前で木の葉落としなんてしないっすよ〜 ねえヤマダ?」

 

「ふふ、どうだろうな。」

 

ヤマダは静かに酒を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

二日目の昼、俺が酒場で飯を食っていると船内放送が鳴り響いた。

 

「護衛戦闘機隊直ちに発艦せよ。空賊接近中。」

 

俺は格納庫へ走り降りて行く、すると既に俺の五二型とイトウの三二型の発動機が回っていた。不思議に思っているとイトウも階段を駆け下りてきて驚いていた。

 

「なして発動機がもう既に回っとるとですか?」

 

「わかりませ・・・いえ、わかりました。」

 

戦闘機の操縦席からイサカとレミが顔を出した。先に降りて発動機を回してくれていたのだ。

 

「どちらも計器類正常だ、回転数も問題ない。」

 

「エナーシャめちゃくちゃ重かったっす〜」

 

「君らは・・・」

 

「ほら、早く行ってこい。今回の空賊は三機、お前達だけで十分なはずだ。」

 

「恩に着る!イトウさん、行きますよ!」

 

俺とイトウは操縦席に飛び乗りシートベルトを閉める。そして俺は飛行眼鏡をつけイトウに手信号で発艦することを伝えタキシングで滑走路に出た。発艦許可信号が光る、スロットルをめいいっぱい開け俺達は発艦した。空に投げ出される感覚はまだ慣れない、大きくバンクを振り編隊を組むとイトウに無線を入れた。

 

「イトウさん」

 

「はい!」

 

「今日貴方は初陣の気持ちでいてください。弾を撃てなくても構いません、敵機を墜とせなくても構いません、私から絶対に離れないでください。」

 

「わかりました!」

 

敵機は紫電三機だった、自分たちより若干下を飛んでいる。ダイブして突っ込むか・・・俺は小刻みにバンクを振り機体をひっくり返して急降下する、イトウを見るとしっかりと着いてきている。

 

「上出来だ!」

 

紫電を目前に捉えたら発射トリガーを引く、零戦の銃口から曳光弾が光り敵機に吸い込まれた。火を吹き一機の紫電が落ちていく、他の二機は散開した。右に回った紫電に狙いを定めて急旋回する、機体がきしみGが体を襲うがそれでも操縦桿を引き付けた。レティクルに紫電が入る、

 

「2機目っ!」

 

発射トリガーを引き機銃を叩き込んだ、エルロンが吹っ飛びバランスを崩し落ちていく、次は左だ。機首を向けフルスロットルで近づきレティクルに捉える。ドッグファイトをしようと紫電が機体を捻ったが、もう遅い

 

「3機目ぇ!」

 

紫電は火を吹き切り揉み落ちていった。周囲を索敵し何もいないのを確認してから飛行船に戻り着艦する。イトウは離れずに着いてきていた。タキシングして駐機場所に止めるとイトウが走ってきた。

 

「お疲れ様でした!やっぱり小隊長は上手かとです!私は何も出来ませんでした・・・」

 

「そんな事はありませんよ、貴方は私を見失わなかったでしょう?」

 

「はい!」

 

「ならば上出来です。また明日飛行船の周りで空戦機動の確認をしましょうか、それと私が思う射撃のコツもお教えします。」

 

「よろしくお願いします!」

 

やはりイトウのスジは悪くない、空戦の経験をもっと積ませてやれば奴は化けるだろう。

 

 

 

 

アレシマに着くと半日休暇が出たので、私はレミとヤマダを連れて街に出た。特に何をするという訳でもないが、飛行船の中でいても仕方がないだろう。

 

「あたしあそこのお店でパフェ食べたいっす!」

 

「いいんじゃないか?」

 

「よし、今日は俺の奢りだ、二人とも好きなだけ食べな」

 

「いいのか!?」

 

「いいんっすか!?」

 

「ああ、いつも世話になってるしな。」

 

「やった!」

 

「やったっす!」

 

私は店に入るとパフェと紅茶を注文した、レミも同じように注文する。ヤマダはチーズケーキを注文していた。

 

「ここのパフェほんと美味しいっすね」

 

「ああ、味がしつこすぎないのがまたいい」

 

「チーズケーキうめえ・・・」

 

無駄話をしつつ食べ終わる、紅茶を飲みながら話をしていたが店に長居しすぎるのもよくない。席を立って私とレミが先に店を出ると、会計を済ませたヤマダがガックリして出てきた。

 

「どうした?」

 

「お前ら食いすぎだぁ!」

 

「えっへへ、奢りだって言うからつい」

 

「ぐすん・・・」

 

そして私たちは市営駐機場所に行ってみる事にした、どんな戦闘機があるのか見てみようという話になったのだ。

 

「なあ、あそこに止まってるのってカナリア自警団の紫電じゃないか?」

 

「ほんとうだな・・・」

 

近づいて見るとオレンジ色の髪をした女の子が下でうんうん唸っていた。ヤマダが声をかける

 

「どうしたんですか?」

 

「うわぁっ! すみません! いや実は、紫電が故障してしまって・・・色々調べたんですが原因が全く分からないんです。」

 

「発動機関係では無いのか?」

 

「色々見たんですが発動機ではなさそうなんです・・・」

 

「すみません、お名前を聞いても?」

 

「カナリア自警団所属 リッタです!」

 

「リッタさんですね。今ざっと見た感じ確かに発動機には問題がありません、ですが燃料吸入管が湿っていないのでどうも気化器に問題があるように見えます。側面パネルを外させていただいてもよろしいですか?」

 

「よろしくお願いします・・・あなたのお名前は?」

 

「タネガシ整備工場整備班長 ヤマダです。よろしくお願いします。」

 

ヤツめ、上手く肩書きを作ったな・・・にしてもここまで細かく手を貸すとは、このお人好しめ。

 

「うーん・・・リッタさん、スロットルレバーを押してチョーク操作を行っていただけませんか?」

 

「はい!」

 

カチッカチッカチッっと燃料パイプに圧力がかかる、

 

「ここまでは燃料が来ていますからもしかすると・・・」

 

ヤマダがカバンから工具を取り出した。

 

「お前いつも持ち歩いているのか!?」

 

「ああ、役に立ってるだろ?」

 

ヤマダが素早い手つきで気化器の一部分を分解した、そしてリッタに差し出すと説明をしだした。

 

「ここの背面飛行用弁が噛んでベンチュリが塞がれて発動機に気化した燃料が送られなくなっていたんです。弁のゴムパッキンが傷んでいますがここからイヅルマ程度であれば問題ないでしょう。帰ったらすぐに交換してあげて下さい。」

 

「うわぁ!ありがとうございます!助かりましたぁ!」

 

「いえいえ、お気を付けて帰って下さいね。」

 

「あの・・・もしよろしければ貴方の乗っている機体を教えて頂けませんか?今度見せて頂きたいんです!」

 

「零式艦上戦闘機 五二型無印です。タネガシに立ち寄られた際は是非私の整備工場へ遊びに来てください。」

 

「ありがとうございます!では、急ぎの用がありますから失礼します!」

 

「エナーシャ回しましょうか?」

 

「お願いします!」

 

ヤマダがエナーシャを回し発動機が回る、リッタはこちらを向き敬礼するとそのまま飛んで行った。

 

「終わった終わった〜」

 

「終わった終わったじゃ無いっすよ〜、ほんとヤマダはお人好しなんっすから・・・」

 

「全く、もう夕方だぞ・・・」

 

「これは晩御飯もヤマダの奢りっすね〜?」

 

「ちぇっ、わかったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

俺は休暇が終わり飛行船に戻っていた、すぐに出発するそうだ。にしてもイサカとレミのやつ、俺の奢りだからってしこたま食いやがって・・・そんなことを考えながら自室に戻り靴をいい加減に脱ぎ捨てベッドに寝転んでいると、扉が急に開いて聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「またお前は靴を脱ぎ散らかして!それにそんな格好で寝るな!」

 

「うわぁっ!イサカか・・・」

 

「うわぁじゃない!ほら靴を揃えろ!その服で寝るな!」

 

「はいぃぃぃ!」

 

「ヤマダの部屋に行こうって誘ってきたんっすよ〜」

 

「なっ!ちがっ!そんな事言って・・・」

 

「あれ〜?イサカがとは言ってないっすよ〜?」

 

「馬鹿者ぉっ!」

 

結局ベッドに俺とイサカが肩を並べて座り、向かいのイスにレミが座った。無駄話をしつつ帰りの護衛の話をしていると、また部屋の扉を叩く音がする。

 

「小隊長、今良かとですか?」

 

「イサカとレミも居ますがよろしいですか?」

 

「はい、失礼します。」

 

「どうぞ、座って下さい。」

 

「ありがとうございます。」

 

「それで、用はなんですか?」

 

「はい、ケンジの事なんですが・・・」

 

「ケンジ・・・あのヤマダにずっと突っかかってる奴のことか。」

 

「そうです。アレシマの酒場で聞いたのですが、奴は空賊と手を組んで小隊長を墜とすつもりです。」

 

「どういう事っすか、それ・・・」

 

「私もたまたま聞いただけなのですが・・・今日の夜、アレシマの空賊が攻めてくるそうです。その時ケンジが先に出撃して空賊と合流、ヤマダさんだけを狙うようです。」

 

「そんな・・・ヤマダ、お前は次空賊が来た時に出撃しちゃだめだぞ!」

 

「いや・・・出よう。」

 

「なんでっすか!?あんた墜とされるかもしれないんっすよ!?」

 

「そんな汚い真似されて黙っていられるか・・・俺がケンジを撃墜してやる。」

 

「小隊長!」

 

「どうしましたか?」

 

「自分にやらせてください!」

 

俺は驚いた、イトウがそんなことを言うとは思ってもみなかったからだ。

 

「いいんですか?」

 

「タネガシ輸送商会所属のパイロットとして、所属先の名を汚すやつは黙って見過ごせんのです。小隊長、こんな事を言うのは厚かましい話ですが、後ろで見ていて貰っても良かとですか?」

 

「無茶はしないと約束して下さいますか?」

 

「はい!」

 

「わかりました、恐らくイトウさんの言う通りならもうすぐ警報が鳴るはず・・・」

 

その瞬間船内放送が鳴り響いた、

 

ーーーー護衛戦闘機搭乗員 発着甲板に急げーーーー

 

「行くぞ!」

 

「了解!」

 

「あいあいっす!」

 

「はい!」

 

格納庫へと駆け下り自分の戦闘機に飛び乗り、整備員に頼んでエナーシャを回してもらう。自分で整備した戦闘機はやはり安心感が違う、イサカとレミ、イトウの零戦も問題無く発動機が回る。ケンジは既に出た後のようだった。イトウ、俺、イサカ、レミの順に甲板に並ぶ。

 

「小隊長!発艦します!」

 

「了解!」

 

「レミ、行くぞ!」

 

「おまかせっす!」

 

いっせいに発艦すると空賊が十機程周りにいた、ケンジは普通に空戦をしている。するとイトウは空賊のうちの一機に狙いを定め加速した、当然俺も続く。敵機に近づいたところでイトウの零戦から曳光弾が光った。それと同時に空賊の五二型が火を吹いた、イトウも上手くなったものだ。レミとイサカも順調に敵を墜としていく、すると俺の五二型の尾部に軽い衝撃が走った。

 

「イトウ!俺の後ろだ!」

 

「はい!」

 

俺の後ろにはケンジの三二型が居た、すると無線が入る

 

「ここであんたが撃墜されても残骸は空賊の五二型と一緒だ・・・よく言うだろ?木の葉を隠すなら森へってな」

 

「うるせえ、馬鹿」

 

ダダダッ!ダダダッ!

 

「イトウ!貴様!」

 

撃墜は無理だったか、だが俺の一瞬の無線で後ろの射撃位置にまでつけたんだ。上出来だろう。俺も後ろに回ろうとするとイトウから無線が入った。

 

「小隊長!手さ出さんでください!こいつだけは許せねえんです!」

 

「よし、待ってるぞ!」

 

「お前みたいな根性無しに俺が墜とせるのか?」

 

そういうとケンジは急上昇した、イトウもそれを追う。そしてケンジは垂直上昇から木の葉落としをした、だが・・・

 

「貰った!・・・え!?」

 

「後ろだ、馬鹿」

 

ダダダッ! パァンッ!

 

イトウの三二型から放たれた弾が吸い込まれ、ケンジの三二型の燃料タンクが火を吹いた、落下傘が開くかと思ったがタンクが爆発し三二型は墜ちていった。

 

「イトウ!よくやった!」

 

「こっちも片付いたぞ」

 

「さっさと帰ろうっす〜」

 

着艦すると商会の会長が歩いてきた、険しい顔で立っている。俺は駐機場所に零戦を止め、会長の前に立った。

 

「報告します!護衛戦闘機隊隊員ヤマダ、私情によりケンジ搭乗員を撃墜しました!処分をお願いします!」

 

「小隊長!」

 

「ヤマダ!」

 

「ヤマダ!」

 

俺はこうすることを腹に決めていた・・・だが、会長から出た言葉は意外そのものだった。

 

「なんの事かね?」

 

「は?」

 

「ヤマダくん、それにイトウくん、そしてゲキテツ一家イサカ組イサカ組長、レミ組レミ組長。」

 

「はい!」

 

「空賊と手を組むような愚か者を成敗してくれたことに感謝する。私もケンジの愚行には気付いていたが確証が無く止められなかった。本当に申し訳ない!」

 

なんと言えばいいかわからず俺は突っ立っていたが、イサカが口を開いた。

 

「今回の件はお互い様という事で済ませましょう。我々とて事を大きくするつもりは無い。」

 

「感謝します・・・」

 

そういうと会長は一礼をして階段を上がって言った、するとイサカ、レミ、イトウがいっせいに俺の方を向いて言った。

 

「馬鹿!!!!!」

 

「小隊長があんなこと言っちゃいけねえです!私がやったのに!」

 

「またお前はお人好しばかりして!」

 

「ほんとっすよ!何考えてるんっすか!」

 

「わ・・・悪かったよう・・・」

 

「全く・・・ところでイトウ。」

 

「はい!イサカさん、何でしょうか?」

 

「どうやってケンジの後ろに着いたんだ?」

 

「左捻り込みです、小隊長が一度やっているのを見て。夜密かに練習しておりました。」

 

「左捻り込み!?あたしでもできるか出来ないかなんっすよ・・・」

 

「イトウ、俺は鼻が高いぞ!よくやったな!」

 

その後は何事も無くタネガシに到着した。飛行船輸送の護衛担当にイサカ組とレミ組から何人か組員を派遣することになり、イトウには戦闘機隊隊長の名が与えられた。

 

「小隊長・・・お世話になったとです!また機会があれば、ご一緒させて下さい!」

 

「こちらこそ世話になった。元気でな、イトウ。」

 

「これからの護衛任務は任せたぞ。」

 

「美味い酒があったら是非うちの事務所まで送ってきてくださいっす〜」

 

そうして俺達は組へ帰った、そしてイサカと話したのは、やはり地べたに敷かれた布団が安心するという話だった。愛する妻と二人で寝ることが出来る喜びを噛み締め、俺は眠りについた。

 

〜完

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