著 ヤマ
ある日私が部屋で書類整理をしていると、突然電話が鳴った。
「イサカだ、」
「ニコだ・・・少し頼みがある。」
ニコから頼みとは珍しい・・・
「どうした?」
「私の機体の整備をヤマダに頼みたいんだ、この前被弾したのを治してから少し調子がおかしい。」
「わかった、こっちまで来れそうか?」
「大丈夫そうだ、すぐにでも頼みたい。」
「わかった、伝えておくから急いで来い。」
「感謝する」
私は受話器を置くと格納庫へ降りていった、すると珍しく発動機が格納庫の整備区画で回っていた。すると珍しくない声が聞こえてくる。
「ヤマダ〜、あたしの五二型なんかおかしいんっすか〜?」
「ちょっと待てって、今音聞いてんだからさ!」
そもそもレミは昼になればここに遊びに来ている、クロのやつは大変だろう・・・構わず階段をおりていくとヤマダがちょうど発動機をとめた。
「ふぅ・・・レミ、最近回しすぎただろう?」
「うっ・・・やっぱバレたっすか?」
「当たり前だ、一回発動機下ろすぞ!レミは今日泊まっていけ。」
「ええーー!?今夜は新しい酒を買いに行く予定なんっすよ〜」
「馬鹿、五二型が可哀想だろが!」
その会話を聞きながら私はヤマダの方へ歩いていき要件を伝えた、するとヤマダは驚いた顔をした。
「ニコさんが!?珍しいな・・・」
「急な話で悪いんだが・・・整備できるか?」
「出来ると思う、おーいレミ!酒かっ喰らう暇があったら下ろすの手伝え!」
「いやぁ〜その酒まだ残ってるっす〜!!!!!」
「私も手伝うよ・・・」
俺は格納庫の奥から工具箱とジャッキを持ってレミの五二型の前に立った。とりあえずレンチでカウリングを止めているチャックのナットを外しカウリングをばらす。それと同時にイサカに胴体側面パネルを外してもらい、発動機台座を露わにする。
「ヤマダ、側面パネルが外れたぞ。」
「了解。レミ、ジャッキにエアを送ってくれ〜」
「は〜いっす」
カリカリカリカリカリカリ・・・
「OK、ストップ。」
発動機の周りにあるカウリング支えに当てるようにジャッキを止めて支えにする、発動機の重さが掛かったままでは台座からボルトを外せないのだ。イサカに場所を代わってもらい機体側面から手を突っ込んでメガネレンチでボルトを外す。
「イサカ、これで反対側のボルトも緩めて貰えないか?」
「わかった、普通に外せばいいんだな?」
「ああ、ケガしないようにな」
12本のボルトと配線の類が外れると発動機の重さは全てジャッキにかかるようになる。ボルトを完全に引っこ抜き無くさないように箱に放り込んだ。翼から飛び降りジャッキの方に周る。
「レミ、奥から整備台を持ってきてくれないか?」
「どんなやつっすか?」
「あの発動機台座と同じような形だ。」
少し待っているとレミが台座を持ってきてくれた、エアを抜きジャッキに乗った発動機を台座に付け直す。これで手元の高さに発動機が来るので整備がしやすくなった。作業の邪魔になるカウリング支えもここで外しておく。
「ふぅ・・・じゃあばらすかぁ・・・」
先ずはプラグコードを全て引っこ抜く、そしてプロペラピッチ調整ワイヤーも外し部品掛けに引っ掛けた。配線の類が外れたので次はシリンダーヘッドを分解していく。
「ヤマダ、まさか14気筒全部外すんっすか・・・?」
「当たり前だ!ほら、工具はあそこにあるからレミも手伝ってくれ。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
とりあえず俺はプロペラ減速室、気化器と過給器、そして手前と奥にあるプッシュロッドを全て外した、その後にボルトを緩め吸気管と推力式単排気管を全て外す。ここまでバラバラにすればあとは簡単だ。
「レミ、イサカ、いいかい?ここまでばらばらになったあとは簡単なんだ。シリンダーを手でもって回すと・・・」
きぃっ・・・
っと言う音がしてシリンダーが回る、意外かもしれないが栄のシリンダーはねじ込み式で、位置はシムを挟むことで調整されてる。
「へぇ〜!面白いっすね!」
「ねじ込みだけで耐えられる物なのだな・・・」
「面白いだろ?とりあえずこれを14気筒分やっていくぞ。」
そして全てのシリンダーを外し並べた、ちなみに今発動機本体からはピストンヘッドとコンロッドが露出している。クランクシャフトは外していない。今回は必要ないからだ。俺はシリンダーヘッドを一つ一つ丁寧に見て行った、そして
「レミ、どのくらいの高度で回しすぎた?」
「大体1200クーリルっすね・・・過給器を変速した時にちょっと・・・」
「やっぱりな、これを見てみ」
俺はレミとイサカの前に二つのシリンダーを置いて中を指でなぞるように言った。二人はなぞるとあることに気づく。
「こっちはなんか傷がついてるっすね。」
「逆にこっちは綺麗だな・・・ヤマダ、発動機の不調の原因っていうのはあのキズなのか?」
「ご名答、多分レミが過給器を変速して発動機を回しすぎた時に過給器のインペラーが過回転になって遠心力に負け欠けて。その破片が吸気管からこのシリンダーに吸い込まれてピストンに噛んでこのキズが着いたんだ、幸いでっかい破片じゃなかったからキズですんだんだろう。せっかくだし過給器の中身も見せてやるよ。」
そして俺は過給器をべつの作業台の上に置いてインペラーカバーを外した。案の定カバーの内側は傷だらけだった。
「うわっ・・・傷だらけっすね・・・」
「このキズはその破片のせいなのか?」
「ああ、欠けた破片がここで暴れたんだよ。その証拠にインペラーのここの先っぽが無くなってる、それから気化器の導管と吸気管が傷だらけだな・・・」
「あたしが壊しといてなんっすけど・・・直せそうっすか・・・?」
「問題ないさ。キズが着いたシリンダーと吸気管と気化器、ピストンヘッドと過給器インペラーとインペラーカバーを変えればいい。ただ・・・」
「ただ、どうした?」
「栄二一型のシリンダーの在庫が今無いんだよ・・・うちの組って二一型ばっかりだから栄一二型の在庫はあるんだが・・・ニコさんの五二型の故障がシリンダー関係じゃなければいいんだけどな。」
そういうと外のもう暗くなりかけた滑走路に一機の五二型が降りた、ニコさんの機体だった。俺が旗を持って合図しそのままタキシングで格納庫まで入ってきてもらう、零戦が止まると風防が開きニコさんが顔を出した。毎度思うがデカい・・・
「お久しぶりです、ニコさん。」
「ああ・・・私の零戦を見て貰えないか?」
「話は伺っています、とりあえずこちらへどうぞ。」
ニコさんの話によると、主翼に被弾したのを修理してから機体が真っ直ぐ飛ばない気がする。との事だった。
「わかりました、とりあえず見てみます。」
「頼む。」
主翼の裏側と表側を入念に調べる、すると外板パネルが1枚分不自然に凹んでいるのを見つけた。
「ニコさん、被弾したのはここですか?」
「レミやイサカと同じ接し方でいい、ニコでいい・・・そうだ、そしてそこを交換した。」
「わかった・・・少し待ってくれ。ちなみにこの五二型はどうやって手に入れたんだい?」
「ユーハングの工廠跡から状態が良かったのを持ってきて使っている」
「了解、少し調べてみるよ・・・」
そうして俺は外板パネルを外した。そしてその後尾翼の方に周り、塗料で埋まった銘板を探した。ユーハングが作った来たいなら必ずどこかに銘板があるからだ。
「あった・・・レミ、そこのヤスリを取って貰えないか?」
「はいっす、ヤスリで何をするんっすか?」
「ここをけずって金属銘板を出すんだ。」
そして俺は銘板の塗料を剥がし文字を読んだ、やっぱりだ。
「ニコ、これは五二型無印じゃないよ」
「・・・どういうことだ?」
「この銘板をそのまま読み上げるぞ。『零式艦上戦闘機五二型 中島6532号機 甲』」
「甲ってなんすか?」
「五二型には無印 甲 乙 丙っていう武装でのバリエーションがあるんだ。レミや俺が使ってたり、今イジツで作られている五二型は全て無印なんだが、ユーハング時代の機体には甲乙が混じっている事がある。」
「甲だと何が違うんだ?」
「甲は無印までの0.5ミリ厚の外板を0.7ミリにして急降下制限速度を上げた機体だ。それから二十ミリ機銃がベルト給弾式の九九式二号四型機銃になってる。」
「待て、私の五二型は100発ドラム弾倉だぞ」
「それが面白い所なんだ、零戦はユーハング時代に三菱と中島で生産されていた。そして五二型の機銃にベルト給弾式の機銃を採用する話になって、同時に外板増厚の機体改修案もまとまった時、一つ問題が浮上したんだ。」
「どんな問題っすか?」
「中島で生産された甲には二号四型機銃を積めなかったんだ。」
「ええ・・・何故だ?」
「機銃の安定供給が難しかったんだ。だから中島の五二型甲は外板パネルが0.7ミリになった事以外、五二型無印の特徴をそっくりそのまま引き継いたんだよ。」
「なら、私がずっと無印だと思っていたこの機体は」
「中島製の甲型だったんだ。今までの修理だと恐らく問題はなかったんだろうが、今回パネルを一枚ごっそり変えたからそこだけ厚さが足りず強度不足が出て歪んだんだろうな。さっき外したパネルに若干だがシワがいってる。」
「直せそうか?」
「何とかしてみるさ・・・思い入れのある機体だろう?ニコ」
「ああ、よろしく頼む・・・」
そして作業に取り掛かろうとすると、さっきから姿が見えなかったイサカが格納庫に顔を出した、そして
「お前達!まさか夜通し作業をするのにご飯を食べないわけではあるまいな?」
そう言ってイサカが格納庫の上の控えスペースに手招きする。全員で上がってみると美味そうな料理が並んでいた。
「イサカ、まさか全部自分で?」
「ああ、是非食べてくれ。」
「やったぁっす〜!」
「ありがとう・・・」
「その前に!全員手を洗ってこい!」
「はぁーい」
「はぁ〜美味かった・・・イサカ、ご馳走様。」
俺はイサカに礼をいい、控えスペースを見渡した、すると奥の方に何かがある。気になって見てみるとそれは栄二一型のシリンダーだった、よく思い出してみると自分は一時期交換パーツをここに置いていた事がある。その時に忘れていったのだろう・・・湿度が高いイジツでは金属は一瞬で錆びてしまうから、とりあえずサビ落としからだ。
「ヤマダぁ〜、シリンダー何とかならないんっすか〜?」
「レミ、喜べ。シリンダーあったぞ。」
「マジっすか!?やったぁ!」
とりあえず表面のサビをヤスリでこそげ落とし、シリンダーの中を確認する。どうも状態が宜しくないが、この程度のサビならヤスリで削って落としてコーティングしてやればいいだろう。とりあえずシリンダーの形を変えないように慎重にヤスリでサビを落としていく、レミとニコはずっと横で見ていた。
「楽しいっすか?」
「ああ、俺の手で修理した零戦がまた飛ぶんだ。そんな嬉しくて楽しいことは無いよ。よし、サビは落とし終わった。」
「コーティングってのはどうするんっすか?」
「大して時間がかからないから後回しだな、ニコの五二型甲の修理を先にやるぞ〜」
ニコの零戦の方に歩いていく、主翼をよーく見てみると少し角度が浅く歪んでいた。恐らく下面パネルの強度が足りなかったから重さがかかって耐えられなくなったんだろう。
「よしっ・・・ニコ、そこの鉄板とハンマーを取ってくれないか?」
「これか?」
「ああ、ありがとう」
その時丁度イサカが皿を洗い終えて降りてきた、とりあえず俺は鉄板を翼内部の桁にあてがいハンマーで何度か叩いた。歪みを治す為だ。
カーーーンッ!!!カーーーンッ!!!
「えええええ!?ヤマダ!正気っすか!?」
「何やってるんだ!?」
「ええ・・・」
「まあ見てなって、レミ。そこの棒取ってくれないか?」
「は、はいっす・・・」
俺はハンマーと鉄板を置くとその鉄棒を骨組みと骨組みの間にあてがった。ピッタリハマる、自分で自分を褒めてやりたくなった。
「歪みの修正はこれで終わり〜」
「はやい!!!」
「あまり派手に歪んでなかったからな」
そう言うと俺は自分のコレクションの中から五二型甲のパネルを1枚引っ張り出した。持っておきたいがこいつだって実際に使われた方が本望だろう。俺はニコの五二型にそれをあてた、吸い込まれるようにピタっとハマる、そのまま沈頭鋲でとめた。
「ニコ、これで五二型は真っ直ぐ飛ぶはずだ。明日の朝にでも試験飛行してみよう。」
「恩に着る。ありがとう。」
「さて・・・」
そしてレミのシリンダーを持っていきコーティングを済ませる、過給器インペラーやその他必要な部品も持ってきてレミの五二型の前に置いた。
「さあ、組み直しだ組み直し〜」
とりあえずシリンダーをねじ込んでいく、適量のシムを挟み位置を調整しつつ14気筒全てを組み終わった。レミとイサカはなんだかんだ楽しそうだ。あとは前後のプッシュロッドを組み付けていく。
「それはどういう役割を受け持ってるんだ?」
「これはシリンダーの上のバルブタイミングをとってるんだ、吸気→燃焼→排気のタイミングとピッタリ合うようにバルブが開閉しないといけないからな。」
プッシュロッドを組み終わると、プロペラ減速室を取り付ける、それが終わるとプラグコードを取り回していく。
「このコードはどこに刺さるんっすか?」
「それは一番下だな、コードは1シリンダー分の二本をたばねてプッシュロッドの外側に据え付けてある金具に通して取り回してくれ。」
「あいあいっす〜」
それが終わると吸気管を取り付ける、新品だからとても綺麗な部品だ。これを取り付け終わると中間台座を取り付け排気管を取り付けた。
「本当にシリンダーごとに排気されるんだな・・・」
「そう、基本的には1シリンダーに1本で取り付けられている。ところで、推力式単排気管で速度が増加した理由って知ってるか?」
「確か、排気によるロケット効果だったか?」
「それもある。けど本当の効果は、機体表面の僅かな段差に空気がぶつかって出来る渦を排気によって吹き飛ばすことで空気摩擦抵抗を減少させることが出来たのが大きいんだ。」
「ほう、それは初耳だな・・・」
「けどこの排気のせいで外板がデロデロに汚れるから機体洗うの大変なんっすよ・・・」
排気管を取り付けたら次は過給器を取り付ける、クランクシャフトから出たギアに噛み合うように過給器を取り付けた。
「やっぱ一段二速過給器だよなぁ・・・」
「二一型は一段一速だから1300クーリルくらいでブーストがゼロになってしまうんだよ・・・二一型改なら一段二速だからいいんだがな・・・」
「そもそもマイナスブーストってなんなんっすか?」
「マイナスブーストってのはシリンダー内が負圧、つまり空気を発動機が吸っている状態の事だ。次にゼロブースト、これはシリンダー内が大気圧と同じ、過給器が無ければここが吸入できる空気の限界点だ。ここまでは正確にはブーストがかかってない状態なんだよ。」
「じゃあブーストされてる状態ってのはなんなんっすか?」
「シリンダー内が加圧、空気を押し込んでいる状態の事だ。これがあって初めてブーストがかかった状態になる。地上付近でこれをすれば出力向上が見込めるんだが・・・上に上がると空気はどうなる?」
「薄くなるな。」
「じゃあ同じ空間の空気の中に含まれている酸素の量は?」
「減るっすね・・・あっ!」
「そういう事だ、同じ空間の酸素量が少ないから加圧して酸素濃度を地上に近いものにしてやる必要がある。それでも栄二一型は離昇出力1030馬力、高度2000クーリル二速全力出力980馬力で、過給器が働いていても60馬力ロスしてる。航空機に使われる過給器ってのはどちらかといえば地上で出たのと同じ出力を維持する為についてるって言う面があるんだよ。」
「ちなみに栄一二型だとどうなんだ?」
「離昇出力1100馬力、高度1000クーリルで980馬力だ。恐らく高度2000クーリルだと800馬力くらいまで落ちるだろうな。これは同じ発動機と気化器を積んでる零戦一一型や一式戦隼一型でも同じだ、栄一二型は1500クーリル以上は厳しいだろう。」
そうして過給器を組み付ける、次は気化器だ。ダウンドラフト式の気化器は天地寸法が大きくなるデメリットがあるが、ベンチュリや吸気管を太くする事が出来る分出力が上がる。ユーハングの空冷発動機の戦闘機でアップドラフト式の気化器を装備したのは栄一二型、ハ25を搭載した一式戦一型零戦一一型、二一型のみだ。
「ヤマダ。この前言っていたが、ダウンドラフト式とアップドラフト式と言うのは何が違うんだ?」
「ちょうど手元にあるし説明するか。まず栄一二型に装備されているアップドラフト式過給器、昇流式とも言うな。これは零戦二一型のカウリングを見ればわかるように空気下から取り込むタイプだ、気化器の中では空気は上に動くようになるからアップドラフト式って言うんだよ。」
「どういうメリットがあるんっすか?」
「まずフロート室、気化させる燃料を貯めておく部屋を低く設置して燃料を重力で供給できる。これによって天地寸法を抑えられるからダウンドラフト式よりもコンパクトになる。」
「逆にデメリットは?」
「空気が上に動くってことは空気の動く速度を早くしないとガソリン粒を発動機に送ってやることが出来ない。だからベンチュリや吸気管を細くして流速を早くしてやらないといけないんだ、ホースのさきっちょを潰して水を出すと勢いよく出るだろ?あれと同じ原理だ。だがこの細い吸気管とベンチュリの分パワーをロスする。」
「成程っす・・・じゃあダウンドラフト式のメリットはなんすか?」
「ダウンドラフト式、降流式ってのは空気が重力に従って下向きに動くタイプの気化器だ。五二型のカウリングを見たらわかると思うが空気採り入れ口は上に移動しているだろう?流速はある程度保証されるから吸気管やベンチュリを太くして体積効率を上げることが出来る、これによって馬力が上がる。」
「デメリットはあるのか?」
「当然だ、まずフロート室に燃料を送る際にポンプが必要になって天地寸法が長くなっちまう。それから、長時間放置するとフロート室から吸気管に燃料が行って下のシリンダーに溜まるんだ・・・この前飛行船であったカブるってやつだな。長時間放置じゃなくても燃料の粒が下に行き気味になって濃い混合気が下のシリンダーに供給されることもある。これはシリンダーを痛める原因になるな。」
そう言い終わると気化器を取り付け、発動機が組み上がった。説明しながらやっていたのでもう朝も近い・・・横を見てみるとニコが休憩用ベンチで爆睡していた。
「風邪ひくぞ・・・」
そう言ってイサカが毛布をかけてやった。発動機が組み終わったのでレミの五二型の修理もあと一息だ。カウリング支えをボルトで止め発動機をジャッキに載せる。五二型の前に転がしていくと俺はジャッキの位置調整をイサカに任せ、工具を持ってレミと一緒に翼の上に登った。ジャッキを上げてもらってカウリングを定位置に持ち上げる、その後ボルトを取り出しイサカに言った。
「いいかい?こういう力のかかる部分のボルトは対角線上に閉めるんだ。とりあえず四本のボルトで四隅を仮止めするぞ〜」
「わかった」
そして四本のボルトで発動機を仮止めすると、ボルトを対角線上に閉めて行った。緩むと大変なのでここは念入りに組み付ける。配線類を接続しカウリングを取り付けチャックを閉める。
「終わったーー!」
「お疲れ様だな、ヤマダ」
「ありがとうございますっす!」
「とりあえずニコの五二型共々外に出て飛んでみよう。ニコを起こしてあげてくれ。」
「ニコ〜起きろっす〜」
「ん・・・うぅ・・・ん」
俺とイサカで五二型を滑走路に押して行った、並べて待っているとレミとニコがでてきた。
「とりあえず組み上がった。ニコ、レミ、エナーシャを頼む。」
「ええ〜、あたしにも乗せてくださいよ〜」
「バカタレ、俺が組んだ飛行機で他人に死なれちゃ胸糞悪ぃだろうが!」
「ちぇ〜」
そうして俺は発動機を回してもらい、レミの零戦で飛んだ。過給器を変速したり少し過回転にしてみたりと色々やったが異常は無い。完璧だった。
「よし、レミ。もういつでも全開にしていい、だが約束してくれ。絶対に無茶をしないって。」
「わかったっす・・・本当にありがとうっす!」
そしてニコの零戦でも飛んだ、トリムタブを調整し真っ直ぐ飛ぶことを確認してからニコに引き渡す。
「ニコ、これで完璧に治った。また不具合があったら持ってきな、多分こいつは普通の整備じゃ悲鳴をあげちまう。」
「ありがとう・・・感謝する。」
零戦はデリケートな飛行機だ。命を乗せて飛ぶ飛行機だからこそ、整備は完璧にしてやらないといけない。俺はそういう信念を持っていつも整備に当たっている。
完