ゲキテツ大決戦   作:5145/A6M5

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愛機

著 ヤマ

 

航空ショーから数日がたったある日、俺はいつもの滑走路へ着陸した。タキシングで格納庫へ戻り回転を上げプラグのススを飛ばす。冷却運転を終えスイッチを切り愛機を休ませてやる。愛用の飛行帽と飛行眼鏡を7.7ミリの装填レバーに引っ掛け、計器盤にとめたイサカと俺とレミの写真を見る。今日も無事に帰れたという安堵感を覚え、操縦席から降り風防を閉めた。ふと周りを見るとレミとイサカの五二型改と二一型改が見当たらない。おそらくどこかへ出かけているのであろう。俺は格納庫の扉を開けっぱなしにし、ホースを持ってきて愛機に水をかけた。

 

「今日もありがとうな。」

 

戦闘機が話すはずもないのはわかっている、だがそれでも俺は愛機に話しかけながら洗う癖が抜けないのだ。それに愛機の翼に上ってスポンジで胴体側面の排気汚れをこそげ落としてやるとき、今日機体にかけた負荷が手に取るようにわかる気がする。洗浄を他人任せにする輩がいるが、自分の無茶な操縦に耐えてくれている愛機を洗ってやるくらいしてやれなくて戦闘機乗りといえようか?

 一通り汚れを洗い落とし空を見上げると、夕陽に照らされた二一型改と五二型改が見えた、レミとイサカだ。だが二一型改の様子がおかしい。やたらプロペラの回転が遅いのだ。本来の着陸コースに乗らずフラップを下ろして脚を出す様子を見て俺はただ事ではないことを悟り、手旗で着陸許可を出した。失速寸前の速度で着陸する、発動機は完全に止まっていた。俺は操縦席に駆け寄りイサカが下りてくるのを手伝う。

 

「何があったんだ?」

 

「わからない…ついさっき何かが折れたような音がして発動機が止まったんだ」

 

話しているとすぐにレミが着陸して走ってきた。

 

「イサカ!大丈夫っすか!?」

 

「ああ・・・だがかなり怖かった。それよりお前の五二型改も大丈夫なのか?水メタノールが吹けないとか言っていたが・・・」

 

「そうなんっすよ、残量はあるのに吹けなくなって・・・危うく発動機が焼き付くところだったっす。」

 

「わかった、取り敢えず五二型改から見てみよう。水メタノール噴射装置に何かあったのなら取り替えればいいだけだしな。」

 

そして俺は五二の側面パネルとカウルフラップを取り外し、気化器と過給器の間に連結されている水メタノール噴射用のパイプを抜き取った。パイプを見た感じでは詰まっている様子はない。気化器の中身を覗いて見ても異物があった形跡は無いのだ。

 

「おかしいな・・・水メタノールのホースと気化器に異常はない。レミ、操縦席に入ってもいいか?」

 

「いいっすよ〜」

 

操縦席に乗り込むと何かが焼けたような匂いがした。ふと気になりレミに質問をする。

 

「レミ、水メタノールが吹けなくなった時なにか音が途切れたりしなかったか?」

 

「音っすか・・・?発動機の音で全く分からなかったっす・・・」

 

「そうか、ありがとう。」

 

俺はイサカに工具を取るように頼みいくつか渡して貰った。さっさと座席を前にたおし機体後部に潜り込むと真っ暗なことに気づき、レミに懐中電灯で操縦席から機体後部を照らしてもらう。酸素ビンの隣に据え付けられた水メタノールタンクを調べてみると水メタノールが残り少なかった。こうなると答えはひとつだ。

 

「レミ、イサカ、帰りに空賊に絡まれたかい?」

 

「よくわかったっすね、確かに4機に絡まれたっす。」

 

「ああ、大したこと無かったが一撃離脱をするから追いつくのに時間がかかったな・・・」

 

「OK、少なくともレミの五二は水メタノールを発動機まで送るためのポンプが焼き付いたんだ。タンクを取りつける時に油圧線を引っ張るのが大変だったから電動モーターポンプにしたんだが・・・あの決戦の時から間が空いてるから古くなってきてたんだろうな。在庫はあるから交換しとくよ。」

 

「有難いっす・・・」

 

するとレミは五二型のカウリングに手を置いてうっすらと涙を流した、そして

 

「ごめんなさいっす・・・無理させて・・・」

 

そう言う気持ちは痛いほどわかった、自分の愛機が自分の操縦で壊れたかもしれないのだ。だが今回は違う、俺はレミの頭に手を置き優しく撫でた。

 

「気にするな、たまたまレミが操縦してただけだ。レミのせいじゃねえよ」

 

「ほんとっすか・・・?」

 

「ああ、ほんとだ。」

 

「五二・・・怒ってないっすかね・・・?」

 

「ああ、むしろいつも被弾なく帰ってきてるんだ。五二はレミに感謝すらしてるだろうさ、これからも大切にしてやってくれ。」

 

「もちろんっす・・・ヤマダが作ったこの五二型改、ずっと乗り続けるっすよ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

さて・・・問題はイサカの二一型改だ、何かが折れた音がして発動機が止まったのなら問題は発動機の中身ということになる。だがこいつの発動機はP&W R1830ツインワスプ、換えの部品はいくつか用意してあるが果たしてどこが壊れているのか・・・うだうだ言ってても仕方が無いので発動機を下ろすことにした、もう夜が近いが明日は昼から輸送機の直援任務がある。とりあえずレミには組の部屋で寝るように言い、二一型の発動機を下ろそうと発動機整備台を持ってきた。点火プラグスイッチが切であることを確認するため操縦席に上ろうと二一型に近付くと、操縦席から声が聞こえた

 

「うっ・・・ううっ・・・」

 

操縦席の横に立ちそっと声をかける。

 

「イサカ」

 

「ヤマダぁ・・・」

 

イサカは涙を流しながら抱きついてきた。とりあえず二人で翼からおりたが、イサカは俺の腕の中で泣き続けていた。

 

「うっ・・・私のせいでっ・・・二一がっ・・・」

 

「機械はいつか壊れる、それを直すために俺みたいな整備士が居るんだ。コイツは絶対に直してやる。」

 

「ほんとう・・・?」

 

「約束だ。だからほら、もう泣かないでくれ。」

 

「うん・・・」

 

イサカが落ち着いたので、俺はクレーンで発動機を吊って機体に上り、結合している11本のボルトを外した。少し固着していたので発動機の背面を足で蹴っ飛ばして外す。整備台に再度固定してカウリング支持棒を外す、ちなみにツインワスプは栄一二型よりも103ミリ直径が太い。そんな事を考えつつ減速室と背面補機類を全て外し、シリンダーを分解していく。すると第4シリンダーを外した時に金属の破片が出てきた。かなりでかい・・・

 

「どうだ・・・原因はわかりそうか?」

 

「ああ、大体見当は着いた。」

 

そして前列シリンダーを全て外す、するとピストンの飛び出し方がおかしい。これはもう確定だろう。

 

「イサカ、ちょっとこの板を持ってくれないか?油がもってるから気をつけてな。」

 

「わかった、」

 

前列シリンダー中央の蓋を外す、するとその瞬間中央からイサカの足元に向かって大きな金属の塊が落ちようとしていた。

 

「危ない!」

 

俺はイサカを後ろに突き飛ばした、間一髪金属塊はイサカの足には当たらず俺の足にあたる。

 

「くっ・・・」

 

「ヤマダ!大丈夫か!?」

 

「ああ・・・おお痛てぇ。」

 

俺はその金属塊を拾い上げた、クランクシャフトのセンター部分だ。

 

「ヤマダ、それは?」

 

「栄やツインワスプのクランクシャフトって三分割できるんだよ、その三つは確実に結合されてるんだが・・・どうもその結合部分が折れたみたいだな。見た感じここが・・・イテッ」

 

俺は折れた金属の突起で指を切った、まあよくある事なんだがな。血をツナギで拭いて作業をしようとすると

 

チュッ・・・

 

イサカが俺の指先を咥えた、しばらく傷口を吸ってそれを床に吐き捨てると、イサカは言った。

 

「馬鹿者、そのまま作業したらバイ菌が入るだろう。こっちへ来い。」

 

「あ・・・ああ・・・」

 

そして格納庫の隅の部屋で傷口を消毒してガーゼまで当ててくれた。しかも作業に支障ない薄手のガーゼとテープでだ。

 

「ありがとう、イサカ。」

 

「どうってことは無い、傷口から何か変な感じはしないか?」

 

「ああ、大丈夫だ。作業に戻ろうか」

 

「頼む。」

 

作業台にもどり後列シリンダーを外し、発動機全体を点検した。見た感じへし折れたクランクシャフトが暴れた形跡があるが、後列シリンダーは何とか使えそうだ。イサカは不安そうな目で発動機を見ている。

 

「どうした?」

 

「いや・・・私のせいで壊れたと思うとすごく申し訳なくなってな・・・」

 

「言ったろう、機械はいつか壊れる。命のやり取りに使われる戦闘機なら尚のことだ、イサカは何も悪くない。」

 

「そう言って貰えると・・・嬉しい。」

 

しかしこのくらいの間で金属疲労で折れるほどやわなクランクシャフトじゃない、それに見た感じ何かねじれたような折れ方をしている。ピストンがシリンダー内で焼き付いて止まったのならシリンダーに傷があるはずだがそれもない。

 

「イサカ、折れる音の前に何か異変は無かったかい?」

 

「うーん・・・そうだ、物凄い高音の音がした。金属同士を擦れ合わせたような・・・」

 

「OK、」

 

そして俺は発動機から外した過給器のギアケースを見る、案の定だ・・・ギアが熔けてボロボロになっている。

 

「イサカ、原因はこいつだ。」

 

「過給器・・・?」

 

「そう、こいつの軸が焼き付いたんだよ。ほら、このボールベアリングの玉が砕けた跡がある。こいつのせいで過給器が焼き付いてクランクシャフトに負荷がかかって折れたんだ。」

 

「なんで急にベアリングが壊れたんだ・・・?」

 

「ちょっと待ってな・・・スタンドン社のベアリングだぜこれ、ほらあのスタンドン石油の子会社の。ほんとあそこは自社のデモ戦闘機には力を入れるくせに一般向け製品はクソだな。」

 

「ちなみに他の二一型や五二型に使ってるベアリングはどこのだ?」

 

「確かタネガシの外れの工場で下請けのおっちゃんたちが手作り・・・ん!?」

 

俺ははっと気づいてレミが寝ている部屋に飛び込んだ。

 

「レミ!」

 

「ぎゃーーっ!どうしたんっすか!?」

 

「君の故郷の大人たちが作ってるのは服だけか?」

 

「えーっと・・・確かべありんぐ?も出稼ぎで作ってるはずっすよ?あたしが話を通したタネガシ外れの工場で」

 

「よし!ありがとう!」

 

俺は格納庫に戻るとイサカに事情を説明しスーツに着替え、タネガシ外れのその工場へ向かった。工場に到着した時は20:30を回っていただろうか・・・工場内にはまだ明かりが灯り生産ラインが動いていた。うちの組からはそんなやたら大量の注文は出していない・・・俺は工場の扉を勢いよく開けた。

 

「夜分遅くに失礼する!」

 

工場内はざわめいた。当たり前だ、急にスーツ姿の男女二人が入ってきたのだから。

 

「この工場の責任者は居るか?」

 

「いません・・・随分前に帰られました」

 

「それならなぜ君たちは生産ラインを動かしているんだ?」

 

「工場長からの命令だからです・・・そうしないと賃金を出さないって・・・俺の後ろにはゲキテツ一家がいるんだぞって・・・」

 

驚きだ、俺が話そうとするとイサカが俺の前に出た。

 

「その話は本当か・・・?」

 

「はい・・・」

 

「わかった、ありがとう。」

 

あ〜あ、ここの工場長イサカを本気で怒らせたよ・・・すると空いた扉からポニーテールでパジャマ姿にサンダルのレミが入ってきた。着替えもせずにここまで走ってきたようだ。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・今の話・・・本当っすか・・・はぁっ・・・」

 

「確かです・・・」

 

「あいつ・・・許さないっす・・・」

 

まあいい、工場長の後始末は2人に任せよう。俺は話を続けた。

 

「君たちの今の賃金はいくらだ?」

 

「半日働いてパンひとつ買えるくらいです・・・故郷との往復の輸送機代を引いて家族を養う分を残すと貯金も何もできません・・・」

 

「よし、賃金は今の10倍出そう!」

 

俺は言った、工場内がまたざわつき始める。

 

「とりあえず話を聞いてくれ。まずさっき言ったように賃金は今の10倍を保証する!そして君たちの故郷との移動にかかる金もこちらが出そう!」

 

「それなら私たちは何をすれば・・・?」

 

俺はイサカの顔を見た、イサカはこちらに好きにしろと目配せをする。俺は笑いながら言った。

 

「俺たちの元で戦闘機に使うベアリング、ゴムパッキン、ピストンリングを作ってくれ!君たちの作った製品にはいつも世話になっている!そして・・・こんな作業環境で働いていたことに今まで気づけなかった愚かな自分を許してくれ。」

 

俺は深深と頭を下げた。あんな素晴らしい耐久性と精度を持ったベアリングが機械製作の大量生産品では無い事など簡単に見抜けたはずなのに・・・ベアリングやピストンリングが妙に安いのはこういうわけだったのだ。

 

「なぜ貴方が頭を下げるのですか、頭をあげてください。」

 

「改めて本当に申し訳なかった。ここの工場の労働環境と賃金の向上を約束する。だからこれからもあの上質な部品を作り続けてくれないか?」

 

「お任せ下さい。貴方のお名前を教えて頂いても?」

 

「ヤマダだ。後ろにいる二人は知っているだろう?」

 

「ふふ、さっきすごい形相で走って行かれましたよ。これは期待出来そうです。」

 

「なっ・・・ふふ、そうだな。これからもよろしく頼む。」

 

そして俺は手を差し出した。

 

「こちらこそ。」

 

向こうの代表者は俺の手をしっかりと握り直した。

 

その後格納庫に戻るとレミとイサカの姿が見えない、何をしにどこへ行ってるかは考えないでおこう。俺はスーツを脱ぎツナギに着替えた

 

「やっぱりこっちやな」

 

兎にも角にも発動機の修理だ、だがどうせこのR1830はもう使えない。後列シリンダーとコンロッド、ピストンはダメージが無いがこれはローラさんの二一の予備部品として取っておくのが得策だろう。とりあえずすぐに修理が終わるレミの五二を先にすることにした。

 

座席を前に倒し機体後部に潜り込む、座席に電灯を引っ掛け灯りを確保し水メタノールタンクに据え付けたモーターポンプを外す。

 

「真っ黒やんけ・・・今までお疲れさん。」

 

そして倉庫からもってきたモーターポンプと付け替え、配線類を接続し水メタノールを補充する。手動ポンプで配管に圧力をかけてやったあと、動作確認のために発動機を回す。こういう時セルモーター始動は本当に楽なのだ。その前に正面にでっかい送風機を置いて零戦に向けて風を送る。これをやらずに長時間試運転をすると発動機が熱くなりすぎてしまう。

 

「燃圧よし、油圧よしっと」

 

キュルルルルルルル・・・バラバラバラバラバラ・・・

 

セルモータースイッチを長押しして点火プラグに点火、発動機に火を入れる。今回は試運転だがついでだ、点火スイッチを(左)(右)の位置に移動させて回転数の上下を見る。発動機後部左右の小型磁石発電機が劣化していると切り替えた時に回転数ががくんと落ちるか発動機が止まってしまうのだ。今回は左右とも規定値内だったがどうも右側の磁石発電機が弱ってきているようだ。アイドリングを済ませ発動機が適当な熱を持った所で水メタノールを噴射してみる。ちゃんと噴射できていればシリンダー温度が下がるはずなのだ。計器盤に増設したスイッチを切り替える。

 

「OK、ちゃんと吹けてるな。」

 

それを確認したら発動機の回転を上げる。点火プラグにこびりついた煤を焼ききってしまうためだ。そしてメインスイッチを切り発動機を止める。風防を開け操縦席から降りようとすると目の前にはさっきのパジャマにポニーテールのレミの顔があった。

 

「ヤーマダっ」

 

「うわっ!帰ってたのか。」

 

「さっき帰ったんっすよ〜、あたしの五二はどうっすか?」

 

「今修理が終わったよ。もういつでも全開で飛んでいい。」

 

「あざっす!」

 

「さあ、朝になる前にイサカの二一の発動機を載せ替えるぞ〜」

 

「今度は何に載せ替えるんっすか?」

 

「まあ見て見りゃわかるさ」

 

俺は格納庫の奥から一基の発動機を持ってきた。俺が趣味で作っていつか自分の二一型に積もうと考えていた自信作だ。格納庫の隅で寝ているくらいなら実際に使ってやった方が発動機も喜ぶだろう。

 

「そいつをのせるんっすか?」

 

「ああ、俺の自信作だ。それよりイサカは?」

 

「なんか寄るところがあるっつって別れたんっすよ。もうすぐ帰ってくるんじゃないっすかね〜?」

 

するとすぐにイサカが帰ってきたが・・・なにかいつもと服装が違う。そしていつもの飛行眼鏡を掛けていないのだ。

 

「どうだ、似合うか?」

 

そう言って駆け寄ってきたイサカは浴衣を着ていた。寄り道というのはこれを受け取りに行っていたのか・・・俺はあまりの出来事に無言で立ちすくんでしまった。

 

「ああ・・・すごく・・・似合う・・・」

 

「ヤマダ、固まっちゃってるっすよ。」

 

「えへへ・・・似合うか。再来月の夏祭りにでも着ていこうと思ってな。」

 

しばらくその場で話した後、イサカは着替えに部屋へと行った。俺は気を取り直して発動機にチェーンを巻く。位置を合わせて引き上げる準備をすると、俺はレミに頼み事をした。

 

「レミ、すまんけど奥の部品倉庫から二一型用のカウリングを持ってきてくれないか?軽いから1人で大丈夫だと思う。」

 

「あれ?さっき外してたカウリングは使えないんっすか?」

 

「ああ、さっきまでのはR1830用のカウリングなんだ、栄一二型は1830より直径が103ミリ細いんだよ。だからさっきまでのカウリングは合わない。」

 

「ええー、全然違和感なかったっす・・・」

 

「そりゃあこのカウリングとローラさんの二一型改のカウリングは俺が徹夜でアルミ板を叩いて曲げて引っ張って作ったワンオフ品だからな。太さを感じさせないようにするには苦労したぜ・・・」

 

「流石っすね・・・二一型用のカウリングでいいんっすよね?」

 

「おう、悪いな。」

 

サンダルにパジャマでポニテのレミはオフ感が凄かった・・・とりあえずチェーンを巻いた発動機を引っ張り上げてエンジン懸架台にあてがう。位置合わせを終えてボルトを締めようと翼に上がると、着替えを終えたイサカが下りてきた。

 

「遅くなってすまない。」

 

「気にするなよ、ちょうど良かった。そこのラチェットレンチ取ってくれないか?」

 

「ほら、」

 

「ありがとう」

 

そして発動機を止めている11本のボルトを締め上げていく。飛行中に緩みでもすれば大変なのでボルトに抜け止めを塗布し力いっぱい締めた。過給器の後ろに付く磁石発電機を固定し側面パネルを片方だけ取り付けた。

 

「反対側は閉めないのか?」

 

「ああ、こいつがちゃんと動くかチェックしないといけないからな。」

 

そう言って俺は配管類と電装、ワイヤーをすべてつないだ。そのまま操縦席に乗り込むと、イサカが翼に上ってきた。

 

「ここで見ててもいいか?」

 

「ああ、プロペラ後流で吹っ飛ばされないようにな。」

 

そしてまずは手動オイルポンプで発動機内にオイルを循環させる。ポンピングの負荷が大きくなったことを確認したら、次は燃圧だ。スロットルレバーを倒してスロットルバルブを開き燃料を送る。2~3回開けば問題ない。するとレミがカウリングを抱えて戻ってきた。

 

「ヤマダー、カウリングはここに置けばいいっすか~?」

 

「ああ、ありがとう。」

 

「今から試運転っすか?」

 

「ああ、」

 

「あたしもイサカの横行くっす!」

 

そして二人を横目に見ながら操縦桿を足で上げ舵にし、点火プラグスイッチの切位置を確認してセルモーターのスイッチを長押しする

 

キュルキュルキュル・・・・

 

セルモーターによってプロペラが回る、その瞬間にスイッチを両位置へ移動させる。

 

バラバラバラバラ・・・!!

 

始動成功。回転計は1500回転をピタリとさしてアイドリングをしている。この時にスイッチを左右位置に移動させ回転の上下を見た。右位置1470回転安定・・・左位置1468回転安定・・・両位置1500回転で安定。磁石発電機は正常に動作している。次は各温度計器類の確認だ、油温45℃安定。シリンダー温度175℃安定。排気温度800度安定・・・上出来だ。次は水メタノールを噴射する、正常に動作すればシリンダー温度が下がるはずだ。水メタノール噴射装置のスイッチを入れる。シリンダー温度が下がり始めた、170℃・・・160℃・・・158℃安定。OKだ。ここでやっとスロットルレバーを操作し回転数を上げる。

 

ゴォォォォォォ・・・・!!

 

発動機がうなりをあげてプロペラの回転速度が上がる。回転計を見ながらプロペラピッチ操作レバーをハイピッチにしていく。自転車でいうトップギアの状態にするのだ。こうすると回転数が安定する、栄一二型の定格回転数は2500回転だが水メタノール噴射装置を追加し、クランクシャフトとピストン、コンロッドを栄三一型の強化品に交換した(ボア・ストロークは一二型~三一型まで変更がないので理論上は流用できる)おかげでこいつは2700回転まで回転を上げることが可能になっている。シリンダー温度185℃安定、その油温は微動だにしていない。我ながらよくここまで仕上げたものだ。必要な確認作業を終えたので発動機を止める、するとイサカが話しかけてきた。

 

「今回の発動機のスペックはどうなんだ?」

 

「へへ、すごいぜ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

栄一二型改

 

離床出力

1400馬力

 

公称出力

1200馬力

(二速フルスロットル・ブースト+250mm・水メタノール噴射時)

 

最高回転数

2700回転 (ブースト+250mm・水メタノール噴射時)

 

過給器

一段二速遠心式メカニカルスーパーチャージャー

 

ボア・ストローク

130mm×150mm

 

減速比

0.6875

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほぼ栄三一型じゃないか・・・」

 

「そんなことないぞ、零戦二一型に収めるために気化器はちゃんとダウンドラフト式だ。このあとの微調整は俺がやっておくから二人は寝な、 明日は直援任務があるんだろう?」

 

「すまないっすね、おやすみなさいっす!」

 

「おう、おやすみ・・・っ!」

 

チュッ♡

 

「おやすみ、ヤマダ。」

 

「あーっ!イサカずるいっすよ〜」

 

「夫にキスをして何がずるい?」

 

「ぶぅ〜」

 

全く・・・とりあえず発動機はちゃんと動くことが確認できた。1度シリンダーヘッドを開けて確認するか・・・

 

そうこうしているともう夜明けになっていた。俺は側面パネルを取り付けカウリングを固定し、滑走路の外に二一型を持って行って発動機を回した。上げ舵をとりブレーキをいっぱいに踏み付ける。

 

「油温よし、シリンダー温度よし、燃圧よし、フラップ動作よし・・・いっちょ行くか!朝イチ試験飛行だ!」

 

ゴォォォォッッォォッッォ!!!!

 

 

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