著 ヤマ
格納庫の床にごろんと転がる金星発動機とぼろぼろの機体を見て、俺は頭を悩ませていた。さっきの胴体着陸でプロペラがゆがんでいる、こんな状態では機体自体も使えないだろう。だがパイロットの感じから見るに大切に愛着を持って乗ってきた戦闘機のようだ、どうにかしてやれないものか・・・そうこうしているとイサカとレミが駆け下りてきた。
「ヤマダ、さっきの不時着した五四型は・・・・これか・・」
「発動機が落っこちちゃってるじゃないっすか~ ヤマダ、まさかこれを治すとか言わないっすよね?」
「いや、治す」
「正気っすか? こんなのどうやったって・・・」
「どうにかしてやらないとかわいそうだろ・・・それに貴重な五四型だぜ?」
「ケンザキ一家も使っていなかったか?」
「あれはよく調べたら六四型だったんだよ。イジツで現存する五四型はこれ一機だ。」
「五四型と六四型は何が違うんっすか?」
「五四型は五二型丙の機体を使ってて、六四型は六二型の機体を使ってるんだ、違いは機体一体型爆弾懸吊架の有無と水平尾翼部分の構造強化くらいだ。」
「なるほどな・・・とりあえずどうするんだ?」
「機体を調べてみるよ、使えるのなら使ってやりたいしな。」
そう言って俺は機体を分解する準備をした、零戦の機体は三分割できるのだ。工具を持ってきて風防を外し、操縦席から機体中央分割部分のボルトを外す。ラチェットレンチを当てて緩めていくがどうもねじが固い。嫌な予感がした、本来ならここのボルトはすっと緩む。緩み止めにシーリングされてるのかと思ったが引っこ抜いたねじは何の加工も施されていない。こうなると答えは一つだ、機体が主翼部分を中心としてひん曲がっている。それに被弾も多い、尾部は穴だらけだ。零戦の機体はモノコック構造・・・機体内の梁で圧縮応力に耐え、外板で引っ張り強度を出す構造だ、ここまで穴が開いてしまったらもう使えないだろうが、とりあえず分割部分のボルトをすべて引っこ抜いた。いつもならすっと外れるが・・・俺は機体後部の外板を足で蹴っ飛ばした。
「ふんっ!」
ガシャ・・・
「うわっ!びっくりしたっす・・・」
「わるいわるい、二人は何をやってるんだ?」
「金星を整備台に固定してたんだ、こっちのほうが見やすいだろう?」
「助かるよ、はぁ・・・」
「どうしたんっすか?」
「この機体はもう使えそうにない、新しく機体を持ってこないと・・・」
「水平尾翼はどうだ?」
「外してみようか・・・」
そしてボルトで結合されている水平尾翼を取り外した。手で持ち上げて簡易的にゆがみを確認する。
「どうだ?」
「大丈夫そうだ、エレベーターはハフを張りなおせばOKだろう。」
機体が使えないと分かれば見るものは発動機だけになる、だが俺は工具を持ってもう一度操縦席に潜り込んだ。
「何やってるんっすか?」
「レミも手伝ってくれ、計器盤とスロットルレバー、フットペダル、そのほかにも使えそうな部品は外していく」
「なんでまた、ごそっと新しい機体にするんっすからわざわざそんなことしなくても・・・」
「これを見てみな」
そう言って俺はフットペダルを取り外してレミに手渡した。
「なんか改造されてるっすね・・・」
「そう、本来零戦のフットペダルは足置き部分が回転しない。つまり踏んだら足首が無理な方向に曲がるんだ、慣れたらどっちゅうことはないんだが足首が固い搭乗員にとってはつらいだろうな。」
「じゃっこれはこの機体のパイロットが自分で改造したんっすかね?」
「多分な、溶接ビードの置き方が不規則だから少なくとも仕事をしてる人間のやったことじゃない。フットペダルの固定ボルトもなめ気味だった、不慣れな手つきでやったのがよくわかる。」
「よっぽどこの機体に乗り続けたかったんすね。」
そして計器盤を取り外し裏を見てみると・・・・
【もしこいつを手に入れた方がいるのなら、五四型をよろしくお願いします。イジツ・1945.5.4.Hori・・】
組み立てる直前にドライバーの先端ででも掘ったのだろうか、その文字からは錆が流れていた。名前らしき部分は掘っている途中で何かがあったのだろう、掘り終えれていなかったが、よほどこの機体に思い入れを持って作ったということは痛いほど伝わって来た。そこの刻印を傷つけないように計器盤を取り外すと、次はA.M.C操作レバーを取り外す。そのあとは外せる機器類をすべて外し0番隔壁の発動機懸架部分を確認する。
「今度は何をやってるんだ?」
「どっち向きに応力がかかって折れたんだろうと思ってな・・・あーそういうことか。」
「どうだったんだ?」
「ここをよく見てみな」
俺は0番隔壁の固定ボルト部分を指さした。左向きにねじれたように取り付け部分にクラックが入っている。
「折れたというかねじ切れたように見えるな・・・」
「あれ?この向きってカウンタートルクと同じ向きじゃないっすか?」
「ご名答だレミ、こいつは重さで折れたんじゃなくてカウンタートルクの応力に耐え切れずに折れたんだよ。」
「それならどうするんだ?同じ機体を持ってきてつけたのならまた同じような時期にねじ切れてしまうだろう?」
「それは問題ないよ」
そう言って俺は金属の端材を持ってきてあてがった。
「こうやってボルトの周りに端材を溶接して強度を出してやればいい、とりあえず先に発動機を見てみよう。」
三菱 金星発動機、こいつに搭載されているのは・・・・発動機背面のシリアルナンバーを確認する。
【63001】
これは驚いた、金星六三型の最初の製造番号である。金星は本来六二型までであるが、どうやらこの金星はこいつのために改良されたようだ。インジェクターへの配管を追ってみると、シリンダー一本一本に配管が伸びている。つまりこいつはシリンダー内(筒内)に直接ガソリンを噴射する方式である。金星六二型では筒内噴射方式ではなく吸気管内の圧縮空気に霧状にした燃料をスロットル操作にのっとって常に一定量噴射する方式であったが、この筒内噴射方式を水メタノール噴射装置と併用したのであれば今までの常識を覆すほどの冷却効率を実現でき、出力向上を見込めるだろう。だが吸気管をよく見てみるとこちらにもインジェクターがある。どうやらこの機構は実用化できぬまま、早く機体に搭載するために従来の吸気管を用いたのだ。今までこのシリンダーに刺さったインジェクターはただの邪魔者としてしか見られていなかったに違いない。
「ヤマダ、発動機はどうだ?」
「あ、ああ。とりあえずばらしてみようか。外回りを見た感じはどうにかなりそうだがなぁ・・・」
ひん曲がったプロペラを取り外し、減速室カバーを取り外した。プラグコードとインジェクターをすべてひっこ抜き、プッシュロッドを取り外していく。
「やたらプッシュロッドが多いっすね?」
「そう、三菱の発動機はプッシュロッドを全部前に配置したんだ、これを動作させるカムを全部共用にしてバルブタイミングをより正確にしようとしたらしいんだが後列シリンダーまで伸びる角度のきつい長いプッシュロッドのせいであまり役に立たなかったようだがな。」
「ほえ~、難しくてよくわかんないっす・・・」
プロペラ減速室の中身を確認してみると、胴体着陸でプロペラが曲がった衝撃からか軸が歪んでいた。だが幸いクランクシャフトまではゆがんでおらず、彗星三三型の金星のプロペラ減速室を流用すれば大丈夫そうだった。一旦自室に戻り業者に注文を出してから格納庫へと戻ると、イサカが何かに気づいたようだった。
「ヤマダ、過給機の出口のところによくわからない切れ目があるぞ?」
「ん?どれだ?」
「ここだ、その本来の取り付け位置の横に不自然な切れ目がある。」
「これか、ん?この切れ目の長さって・・・」
俺は自分のコレクションの棚の中から一つの排気タービンを持って行った。その切れ目の部分に排気タービンの圧縮空気が出ていく部分をあてがうとぴったりだった。
「そのでんでんむしは何だ?」
「でんでんむしって・・・これは排気タービン!」
「確か排気ガスで空気を圧縮するんでしたっけ?」
「大雑把に言えばそうだな、排気ガスをこっちのブレードに当てて回転させる、そうしたら軸で連結されたこっちのブレードが回転して空気が圧縮されるんだ。この排気タービンは五式戦のやつだから・・・定格回転数約20000回転だな。ちなみに普通の栄についてるような遠心式メカニカルスーパーチャージャーの定格回転数は約15000回転な。」
「かたつむり・・・じゃなかった、その排気タービンを付けたらどうなるんだ?」
「今までは良くて一段二速、つまり一つの過給機のインペラーの回転速度を変えて圧縮率を上げてたんだ。」
「それだとダメなんっすか?」
「ダメじゃない、画期的なことだったんだが・・・二人ともチャリ乗ったことあるか?」
「ある、」
「あるっすよ」
「じゃあ話が早い、ギアを変えたときに低いギアより高いギアのほうが速度が出るけどペダルは重くなるだろ?」
「そうだな。」
「メカニカルスーパーチャージャーは発動機のクランクシャフトからギアで加速させてインペラーを回してるんだ、それで変速してインペラーの回転速度を上げるとチャリで高いギアにした時と同じことが起きる。機械的損失っていうんだけどな。発動機の出力が落ちる。だからむやみやたらにインペラーを変速するわけにはいかないんだよ。」
「排気タービンだとそれがないのか?」
「ああ、排気ガスの圧力を利用するから多少の排気抵抗の増加はあるがな。」
排気タービンを取り付けると二段二速式過給器になる。つまり遠心式過給器で圧縮した空気を更に排気タービンで圧縮するのだ。この際、排気タービンは常に回りっぱなしで下の遠心式過給機の変速で圧縮率を増減させる。排気タービンを回しっぱなしにすることで低高度では排気タービン分のブースト圧を常に得られるうえに、高高度ではスーパーチャージャーを変速することによって地上でのブースト圧には劣るものの最低大気圧分の過給圧は確保することが出来る。
とりあえず排気タービンを横に置きシリンダーを分解して行く、全てのシリンダーを外しずらりと並べてみると、今まで酷使されてきたことが信じられない程に綺麗な状態だった。ピストンもピストンリングをはめ直してやれば使う事が出来る。発動機の状態は減速室を除いて最高の状態だった。だがもう夜が近い・・
「ヤマダ、そろそろ寝るぞ」
「あたしもう帰るの面倒なんで泊まってっていいっすか?」
「そうだな、そろそろ寝るか。レミ、酒を飲みすぎるなよ?」
「は~いっす」
次の日の朝、イサカの作ってくれた卵焼きを食べ終えると俺はまた格納庫に降りて行った。レミはいったん組に戻るというので、ついでにこっちに戻ってくるときに彗星三三型の減速室を受け取ってくるよう頼み、それを見送ってから作業を再開した。とりあえず発動機本体と過給機をバラバラにして灯油で洗浄する、図面で背面の状態を見てみると過給機と排気タービンを取り付けてもなお少しだけスペースがあった。
「セルモーター始動にしてやるか~」
方針も決まったし発動機本体にはもうほとんど手を加える場所がない。減速室が届くまで何もできないので、俺は機体の在庫の中から六二型の機体を引っ張ってきた。とりあえずジャッキアップする。
「イサカ、ちょっと操縦席に上って脚を下ろしてもらってもいいか?」
「ああ、わかった。」
脚を下ろすといっても発動機が載っていないので油圧ポンプは使えない、どうするかというと脚のロックを解除し脚自体の重量ですとんと下すのだ。
「いいぞ~」
ガシャン!
脚を下ろすとすぐに主翼上面の外板を外す。零戦の脚は一本のオイルラインで開け閉めをしている、これを電動モーターに置き換えてしまおうと思っているのだ。何故なら金星発動機が駆動するオイルポンプの油圧はそこまで高くなく、排気タービンの軸にオイルを潤滑させた場合焼き付きがおこる可能性が高いから。油圧が低いのはユーハングの戦闘機では珍しいことではない。とりあえず脚の開閉に使われていたオイルラインと駆動装置をごっそり外す。
「それを外してしまうのか?」
「ああ、電動モーターに置き換えて軽量化しようと思ってな。」
「野暮な質問かもしれないが・・・お前の零戦でもそれをやればいいんじゃないのか?」
「俺は多少性能が劣っていてもなるべくオリジナルの状態で乗りたいからな。」
とりあえず駆動されていた部分に電動モーターをはめ込む、いつかこういうことをすると見越して俺はポン付けできるよう台座を作っていた。まさかこんなことで役に立つとはな・・・・配線類をバッテリーに伸ばし、今までの駆動系レバーと配線をつなぎなおす。とりあえずバッテリーに直接外部電源コードを接続し動作確認をする。今回尾輪のオレオはそのままにしておいた。
「イサカ、脚を上げてみてくれ~」
「了解。」
ウィィィィィン・・・・
いつもとは全く違う音を出して主脚が格納されていく。トルク不足が心配だったが問題はなさそうだ、
「脚下げ動作を頼む!」
「OK」
さっきと同じ音を出して脚が下がってきた。念のために何度か動作させてみたが問題はなさそうだ。
「OK!イサカ、もう降りてくれて大丈夫だ!」
「昨日外していた計器盤やスロットルレバーはつけなくていいのか?」
「そりゃつけるが・・・頼めるか?」
「さすがにそのくらいは心得てるぞ、任しておいてくれ。」
「OK、フットバーのねじが舐めかけてるから慎重にな。」
几帳面なイサカならまあ大丈夫だろう、とりあえず計器盤とスロットルレバーを渡して俺は水平尾翼を外した。昨日機体から外した水平尾翼と取り換えてワイヤー類を接続する。
「イサカ、悪いがエレベーターを動かしてみてくれないか?」
「わかった。」
キィッ・・・キィッ・・・
「OKだ!ありがとう。」
「ヤマダ、この計器盤の裏・・・」
「ああ、そのまま取り付けておいてくれ。」
「わかった。」
そして俺は昨日のぼろぼろの機体の外板で使えそうな部品がないか探した。なるべく強度に関係のない部品・・・水平尾翼のフィレットだ!そう思い立ってフィレットを持って行って新しい機体にあてがう、当然だがぴったりだった。これも使ってやるか、そうして水平尾翼を取り付けると、イサカが操縦席から顔をのぞかせた。
「取り付け終わったぞ、このフットバーすごく踏みやすいな。」
「だろう? あ、溶接するからもう降りてきてくれていいぞ」
「わかった、」
そして俺は昨日言っていた端材を0番隔壁のボルト穴にあてがい溶接をしてくっつけた。強度を確保するため完全溶け込み溶接をする。四隅すべてに加工を施すとこれで機体本体の作業は終わりだ。ちょうどいいタイミングでレミが帰ってきた。
「減速室って意外と軽いんっすね」
「ギアしか入ってないからな、どれ、ちょっと見てみていいか?」
レミが持って帰ってきてくれた減速室を受け取る、プロペラ軸を手で軽く触ってみて回転を確かめた。とてもいい・・ベアリングを見てみるとタネガシの刻印があった。この前の工場のベアリングが使われているのだ。
「よし・・・機体の塗装は後回しにして先に発動機を組むか。」
「待て待て、その前にお昼にするぞ。今日は焼きそばだ。」
「酒はあるっすか?」
「発動機の組み立てに慢心は厳禁だから酒はだめだぞ、レミ」
「いつもならあまあまのヤマダが珍しいな。」
「そんな殺生な~」
お昼を食べ歯を磨くと、俺は発動機のクランクシャフトをはめ込み中央部分を組み上げた。この辺は栄と大して構造に違いはない。コンロッドとピストンヘッドをクランクシャフトに接続し中央部分にオイルをまぶす。中央部分にプッシュロッドを取り付けたときレミに声をかけた。
「レミ、シリンダーにインジェクタを刺しておいてくれないか?」
「おしゃけ・・・飲みたいっす・・・」
「今日の午後で発動機を組み上げれたら酒を好きなだけおごってやるよ・・・・」
「やったぁっっす!」
よし、レミが作業を終えるまで俺は補器類をいじる、まずはセルモーターをクランクシャフトにかませた。その次に過給機を組み立てておき排気タービンを接続できるよう準備をしておく。すると意外と早くレミから声がかかった。
「終わったっすよ~」
「早っ!ありがとさん。」
「お酒っお酒っ~」
「わかったわかった・・・」
レミから一本一本シリンダーを受け取りオイルを塗ったうえで中央部分に固定していく、この時事前に組んでおいたプッシュロッドをシリンダーヘッドに合わせてはめる。圧縮上死点・・・・バルブが開くタイミングでシリンダーが圧縮工程に入っていては発動機が壊れてしまうので、クランクシャフトを手で回してカムの位置を調節しバルブクリアランスをしっかりと取る。それがokなら次は燃料供給ホースをインジェクタにつないでいく、これも弁が開閉するタイミングと噴射のタイミングを完璧に合わせるためにカムと弁を綿密に調節する。それを終えるとやっと栄の整備と同じくプラグコードの接続に入れるのだ。ピストンに各二本点火プラグを刺しコードを取り回す、後ろにプッシュロッドがないため補器類へのパイピングがスムーズに行えた。
「ほら、」
イサカが図ったかのように後ろから吸気管を渡してくれた。
「おお、ありがとう。」
それをシリンダーに接続する、そしてそのあとは排気管を接続していくのだが今回は少し形状が特殊な排気管を接続する、排気タービンに向けて排気ガスを流すために少し複雑な取り回しになっているのだ。今回機体下面の排気管4本の排気をタービンに流し空気を圧縮させる。本来は排気ガスすべてをタービンに流すのがいいのだが、機体側面はプロペラ後流で気流が乱れる(スリップストリーム)ので推力式単排気管を削除したくなかったのだ。排気管を取り付け終えると発動機の前に回り減速室を接続する。そしてプロペラを取り付けるため、俺はイサカにプロペラを取ってくるように頼んだ。
「ヤマダ、これってあの機体についてたプロペラか?」
「半分正解だ、プロペラブレードと中身の可変ピッチ機構は交換したがプロペラスピンナーはあの機体のを使ってる。」
「なるほどな・・・」
プロペラを取り付けガワだけ見れば完成のような状態になった。だがまだ作業は終わらない、背面に戻るとまずは遠心式過給機を取り付けた。クランクシャフトとギアをつなぎカバーをつけると、そのさらに後ろに排気タービンを取り付け排気管からの配管をつなぐ。出口からの排気は機体中央部分の排気管に合流させ気化器と同じ原理で流速を上げ抜けをよくした。次に圧縮された空気の導管を吸入官へとつなぎ、その接続部分に水メタノール噴射装置をつなぐ。これで発動機は完成だ。
「出来た・・・・」
「お疲れ様っす~」
「ありがとうな、もう少しだ、頑張ろう。」
一度発動機から離れ機体のほうへ行くと、0番隔壁に据え付けられたオイルタンクを取り外した。
「オイルタンクを外してしまっていいのか?」
「ああ、六二型は機体後部に燃料タンクを増設できるんだが、今回はそこをオイルタンクとして使うよ。排気タービンをつけたからここにスペースがないし、重心位置が狂うからな。」
そしてやっと発動機を機体に固定できる時が来た、ワンオフ製作した発動機懸架に発動機を固定し、チェーンをかけクレーンで発動機を持ち上げると懸架を〇番隔壁にあてがい10ミリボルトでしっかり固定した。もちろん回り止めも塗布する。チェーンを外し配管と電装系を接続し終えると、レミとイサカが真っ黒に塗装されたカウリングを持ってきた。
「へへ、昨日吹き付けといたんっすよ~」
「ちゃんと耐熱塗料だからはがれる心配もない、取り付けを頼む。」
「ありがとよ・・・」
三人がかりでカウリングを取り付ける、五四型のカウリングは曲面から飛び出した独特の空気取り入れ口が目立つ。発動機を取り付け終えると側面パネルや機銃点検パネルなどをすべて装備し、銀の機体に黒のカウリングの五四型が姿を現した。
「これはこれでよさげだな・・・」
「ダメっすよ、あたしとイサカで塗装は決めてあるんっすから!」
「ええ??いつの間に?」
「いいからちょっと出ててくれ、5時間後にな!」
急に格納庫から追い出されてしまった・・・まあいい、今回の金星発動機のスペックはこうだ。
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三菱 金星六三型発動機(改)
出力
ブースト+400 mmHgで
1速1,750馬力(2,000 m)2速1,630馬力(5,800 m)
緊急ブースト+500mmHgで
1速1,800馬力(2,000 m)2速1,720馬力(5,800 m)
過給機
二段二速
(遠心式メカニカルスーパーチャージャー
+遠心式ターボチャージャー)
定格回転数
2600rpm(最高回転数2680rpm)
ボア×ストローク
140mm×150mm
その他
水メタノール噴射装置
(噴射を止めることは不可、完全連動制御)
筒内直接噴射方式
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少し前にも言ったように変速できるのはスーパーチャージャーのみで排気タービンは常に回りっぱなしである。2000馬力には届かなかったが、なかなかいい感じに仕上がったのではなかろうか。
そうこうしていると5時間がたった、外はもうすっかり夜だ・・・・俺が格納庫に降りると、そこには上面が濃緑色、下面を明灰白色に塗装され、黄色い敵味方識別帯が主翼に輝く五四型があった。側面で塗装が切れ上がっていない、こいつぁ三菱仕様だ。
「二人とも・・・この塗装って・・・」
「あの古い機体の塗装がはがれた部分を見てみたら、この二色があってな・・・私は不時着した時の塗装にしようって言ったんだがレミがきいてくれなくて・・・」
「絶対こっちのほうがいいっすよね!ヤマダ!」
「ああ・・・すげえ似合ってる・・・よし、発動機を回してみるか!」
俺は操縦席に上ると座席に座った。まずはスロットルレバーを押し燃料をインジェクターに送る。カシャンっカシャンっと2.3度繰り返すと次は右側の手動油圧ポンプで発動機やタービンに油圧をかける、初始動なので100回以上ポンプを操作し、やっと発動機をかけれる状態になる。俺は頭の上で大きく手を振りプロペラが回ることをレミとイサカに知らせた。退避したのを目視で確認すると操縦桿を足で巻き込み上げ舵にする、そしてセルモーターのスイッチを入れた
ウィィィィン・・・・
プロペラが回るのを目視で確認すると、点火プラグスイッチを(両)位置へ移動させる。
カチッ・・・バラバラバラバラ・・・・!!
新しくくみ上げた金星発動機に火が入り、アイドリングさせつつ計器類を確認する。すべて正常だった。スロットルレバーをフルスロットル位置にすると爆発音とともにこんな音が聞こえてくる。
キィィィィィィィン・・・・
排気タービンが回っている証拠だ、ブースト計を見ると+300mmHgで安定している。異常はない。スロットルをアイドリング位置に戻し、プラグスイッチを(左)(右)へ移動させ回転数の上下を見る、左右とも回転数‐30rpmで安定。磁石発電機は異常なしだ。俺はスイッチを切り操縦席から飛び降りた。
「どうだった?」
「成功っすか?」
「・・・・サイコーだよ!この発動機!」
そして俺たち三人はタネガシ中の飲み屋で飲み歩いた。財布に大打撃を食らったのは言うまでもない。
次の日の朝、機銃弾を全て装填し滑走路で発動機に火を入れた。カラの増槽燃料タンクを両翼下に吊り下げ機体中央の爆弾懸吊架には25番爆弾の模倣品を取り付けた。落下機器類が正常に動作するか試験するためだ。イサカに随伴飛行を頼み、レミには万一の時のための消化器を持っていてもらった。
「発進する!」
「了解!ヤマダ!フルスロットルにするなよ!いくらお前の作った栄一二型といえども引き離される!」
「了解〜」
俺はスロットルを80パーセントほどまで開けると離陸した。高度500クーリル程でまずは増槽投下試験だ、大きくバンクを降り増槽を投下することをイサカ機に伝えると、スイッチを押し投下する。
カシャッ・・・
電子レリーズなので若干の遅延はあるが問題なく動作した。次は爆弾投下機構の試験だ。またバンクを降って合図をする、次は爆弾をひっかけているフックを直接動かすので多少力が必要だ。
ガシャ!
機体が明らかに軽くなる。爆弾投下機構も正常だ。
「ヤマダ!どちらも正常だ!」
「了解している!高度をあげるぞ!」
「了解!私は離脱する!」
「OK!ありがとう!」
「気をつけてな!」
そして機首を上に向けスロットルを開ける。タービンの甲高い回転音が大きくなり、ぐんぐん高度が上がっていった。1200クーリルでスーパーチャージャーを変速する。大気圧近くまで落ち込んだブーストがまたプラスブーストまで跳ね上がり出力の段突きとともに機体が加速する。3300クーリルまで登るとやっとブーストが大気圧まで落ち込んだ。排気タービンがよく効いている、水メタノール噴射装置にも問題は無い。急降下制限速度は六二型と同じ770km/hで変わっていない。一通りやることも終えたので俺は着陸した。
「どうだったっすか?」
「完璧だよ、持ち主に連絡してやってくれ。」
「了解っす〜」
「ヤマダ、お疲れ様だな。」
「ありがとな、イサカ。」
「気にするな、お前の性格はよく知っている。どうせあれを見たら治すと言うと思っていたさ。」
「へへ、お見通しかよ。」
「当たり前だ、お前の妻だぞ?」
「いい嫁さんだよ全く・・・」
そして俺は機体を洗ってやり、カバーをかけて受け渡しの準備を全て整えた。よく晴れた空から覗く太陽に照らされて、カバーから突き出した20ミリと13ミリが光を反射していた。
完