キャロルちゃんといっしょ!   作:鹿頭

10 / 17
AXZ…?編
容疑者X、がんばります


 キャロルは一体どうなったのだろう。

 

 どういう理由かは知らないが、拘束が解け、ある程度自由な身体となった今でも、チフォージュ・シャトーを含め、情報が入ってくる事はない。

 確か躯体が余っていた筈だが……無事、なのだろうか。

 

 しかし──こうも律儀に三食忘れずに飯が出てくるものだと思う。

 こちとら無国籍無戸籍容疑者の三拍子揃っているというのに。きっと、メイビー。

 

 こくれんのじんけんいしきはこんな怪しい奴にも適応されるのかと思ったのだが、ウェル博士は聖遺物扱いで閉じ込められてた事を思い出した。

 

 所で彼は現在どうなって……まぁ、どうでも良い事か。

 

 そんな最中に失礼します、とどこか礼儀正しそうな男の声が聞こえたと思えば、扉が開いた。

 

 こんな状況の人間に一体何を失礼する事があるのだろうかと思いつつも、どんな奴が来たかと目を凝らせば、そこに立っていたのは緒川慎次。飛騨ニンジャのエントリーだ!

 

「こうして一対一で面と向かうのは、初めてですね」

 

「……それで、どの様な御用件で?」

 

 挨拶もそこそこに、本題へ入れと促す。

 此方には話す事などもう……いや、結構あるな。

 情報の確度を度外視すれば、多少の差異はあれども抱えている情報はそれこそ未来を知ると同義。

 風鳴弦十郎は無理に吐かせる様な、そんなマネはしない、と言うことに関しては信頼がおける。

 

 なんの根拠も無いのだけれど。

 

 が、しかしだ。

 ニンジャの情報入手源はわからない。

 ひょっとしたら、裏ではこそこそと凄惨悪辣極まりない方法で情報を得てるのかもしれない。

 この場で怪しげな薬漬けにされてもおかしくは無いかも知れない。

 

 ───痛いのは嫌だし怖いものは怖いからやなんだけどねッ!

 

 

「そう身構えなくても大丈夫ですよ」

 

 そんなこちらの内心を察したのか、苦笑しながら両手を軽く上げて見せる緒川。

 

「少し、ご協力頂きたい事がありまして」

 

「協力? だから、以前も言った様に異端技術の類は何も───」

 

「そちらの真偽はさて置き、詳細は追って説明しますので。どうぞ此方へ。ですが、手錠はさせて貰います。申し訳有りません。

 

「…………」

 

 発言する間も無く、やたらごっつい手錠を嵌められ、ついてくる様に促される。

 どうやら信用はされていないらしい。

 とは言え拒否権そのものは存在しないも同義なので、促されるまま歩いていく。

 

 道行の途中、床やら壁やら、前の世界より文明レベルが高いと言うことをしみじみと実感する。

 

 一体何に使っているのか判らないけど、兎に角高い建物とか普通に有った様な気もするし。

 その景色なんてあんまりよく見た事ないからしらないけど。

 

 後は……皆同じ制服を着ている、と言う事。

 なんだかんだで、チフォージュ・シャトーに長いこといたお陰で、マトモに人に関わっていないし、外も見ていない。

 そんな事もあってか、S.O.N.G.に来てるんだな、と自然と気分が高揚する。

 

 まぁ、全員ここの職員なのだから当然と言ってしまえばそれまでなのだが。

 

 後はそうだな、他の装者でも拝めたらまぁバチバチに拘束されていた分の代金が返ってくるってものだが────

 

「あ!!!見るデス調ぇ! アレがマリアが言ってたろりこんデース!」

 

「───うん?」

 

 廊下中に響く程の大きな声に振り返ると、ビシッと指をこちらに向けている少女がいた。

 

金髪緑眼に、特徴的な、バッテンの髪飾り。

 よく見なくても、暁切歌だと判る。

 

 ザババの鎌の方、迷ったら切ちゃんって言っとけとかなんとか。

 ───とまぁ、それは置いとくが。

 

 アレは一体どういう事なんだろう。

 

 いや、ちゃんと聞き取れているし意味も当然わかるのだが、頭のどこかが理解したくないと叫んでいる。

 

 

「ダメだよ、切ちゃん」

 

 暁切歌の隣にいた黒髪ツインテな少女、月読調が切歌の腕を引っ張りながら咎めている。

 

 そうだ、もっと言ってやれ───と思ったのは、僅かなひと時に終わった。

 

「人を指さしたらいけないって、マリアに言われたでしょ」

 

 違う、そうじゃ……いやそうなんだけど。

 だが、そう言うことでは決して無い──

 

「ごめんデス、調……」

 

 うん、やっぱり切ちゃんは素直で良い子だ、所でどうするんだこの状況。

 

 そうしている間にも、周りの職員の目の色が完全に侮蔑を含んだものに変わっていくのが感じられる。

 

 これで正式に犯罪者───いや、そう言う方面は予想してなかったんだけど。

 事実、いかに実年齢が異なろうと、彼女の見た目は幼い。

 彼女達がそのような不名誉極まりない結論に至ったとしても、無理はないだろう。

 

「でも、響さんは違うって言ってなかった? 切ちゃん」

 

「んー、それはそうなのデスが……じゃあ! 直接聞いてみるデスよ!」

 

えっ、なにそれこわい。

 

「ろりこんさんろりこんさん! ろりこんさんはろりこんデスか?」

 

「違います」

 

「えぇっ!? じゃあマリアが嘘つきになっちゃうデスよ!?」

 

 ────孔明の罠だッ!

 

 助けを求めて緒川さんの方を向くと、そっと顔を逸らされる。その時、ニンジャは肝心な時にやくにたたない事を悟った。

 

「そんな……!」

 

 青ざめた顔をしている調だが、青ざめたいのはこっちの方である。

 

 「ちょっと二人とも!? 何やっているの!!?」

 

 突如響いたのは凛とした声。

 声の主の事は、とっくの昔に知っていた。

 

「「マリア!?(デス!?)」」

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 (おそらく)アガートラームの装者である彼女は調と切歌の二人に対し叱りつけてから、此方へと近づいて来る。

 

 

「二人に近づかないで貰えるかしら」

 

 目の前に、二人との間に壁になる様に立ち塞がった彼女は、威嚇する為か此方を力強く睨み付けて来る。

 

 無理よ!とかたやマさんのイメージが強い彼女だが、調と切歌の為ならオカンになったり出来るそんな歌姫。

 

 だが、こちらにもこっちの言い分が有るのだ。

 何せ公衆の面前で盛大に侮辱されたのだ。

 例え、彼女達に悪気が無かったとしても、これを看過してしまえば、大変な事になるのは自明なのだ。

 

「いや、さっきか───」

 

「もう結構よ。元々お人好しとは言え、響だって誑かした貴方の話を聞くつもりはないッ」

 

「たぶっ……」

 

 取りつく島もないとはこの事だった。

 今のマリアには対話をする気すら無いし、その上響を誑かしたと思い込んでいる。

 

 とうぜんそんなじじつはない。

 

「すみません、マリアさん。この後、彼には用事がありますので、ここら辺でよろしいでしょうか」

 

 置き物同然だった緒川。

 否、置き物に徹する事で割り込む隙を窺っていた忍者緒川。

 割り込んでも問題ないタイミングにすかさず斬り込む。

 

 ボロクソにされている今、素直にありがたかった。

 

「……ええ。調や切歌に二度と近づけないようにしてもらえるかしら」

 

「ははは……善処します」

 

 緒川は苦笑いをしてからこの場を切り上げると、再び付いて来るよう促す。

 これでようやく当初予定していた道へと復するのだった。

 

 

 

「随分と嫌われたもんだなぁ」

 

 特にマリアさんに。

 

 彼女の歌は、ファンと言えばファンの部類に入る位には好きだ。

 それ故に、この嫌われ様には苦虫を噛み潰した思いにはなる。

 まぁ、こんな得体の知れないヤツを調と切歌みたいな子に近づけたいかって言われると、彼女の気持ちは理解出来るが。

 

「ええ、その様です……と、そろそろ着きます」

 

 緒川はそう言って、扉の前に立ち止まり、此方の方を向いた。

 

「この先で見聞きした事は一切の漏洩を禁じます。違反した場合、には………そうですね。早い話が、僕と風鳴司令以外の方に許可なく話さないで頂ければ」

 

 違反も何も、逮捕軟禁されている状態でこれ以上何が有るのだろうか。

 彼もそう思ったらしく、途中で口籠っていた。

 とは言え、この先には一体何が有るのだろうか。

 

「はいはい、わかりましたよっと」

 

「………この先は、キャロルさんの病室です」

 

「─────っ」

 

 ああ、なんだ、そういう事だったか。

 そういう事、だったのか。

 

「今の彼女は、重度の記憶障害に陥っています。自分が何者でさえも判らない状態です」

 

 ……原作通り、と言った所か。

 やはりこうなった、と思うし、装者達ちょっと強すぎないか、と理不尽さに愚痴りたくなる。

 準備は完璧だったろうに。まぁ、正確な戦況の推移を知らないから、なんとも言えないが。

 

「………どうなるんだ、キャロルは」

 

「今は何とも言えません」

 

「……そうかい。所で、これ外れないの? 流石に、どうかと思うんだけど」

 

 これ見よがしに腕を上げる。

 

「………僕の監視の元、と言う条件でしたら構いませんが」

 

「じゃ、良いわ」

 

「そうですか」

 

 こちらの即答に苦笑する緒川。

 例え監視の目があったとしても、せめて直接的な人の目だけは避けたいのは、当然だろう。

 

「さて、入っても?」

 

「どうぞ、15分だけですが」

 

「どうも」

 

 プシュ、と炭酸が抜ける様な音がして扉が開く。

 開けた景色。

 その向こうに───ベッドに横たわるキャロルの姿を見る。

 

 胸の奥からこみ上げそうになるものを抑えつつ、ゆっくりと部屋の中へと入って行く。

 

 扉が閉まる音を背にした時に、起きていたのか、起こしてしまったのか。

 キャロルの目が開かれ、こちらを向いたと思えば、ゆっくりと身体を起こした。

 

「やぁ、起こ…し………」

 

 一言、軽く詫びるつもりだった。

 そこから、話を始めていこうと思っていた。

 けど、抱きついて来たキャロルに、自分の頭は真っ白になって、途中まで紡いでいた言葉も止まっていた。

 

「あいたかった───」

 

「キャロ…ル……?」

 

 信じられなかった。

 まさか、そんな事が有るとは、恥ずかしい話、予想もしていなかったからだ。

 

「自分の事も、ここがどこかも、何も解らないっ、けどっ……キミの事は……キミだけはっ……!」

 

「キャロル………」

 

 この時ほど、手錠の存在を恨めしく思った事は無かった。

 

 

 

 

「…………覚えてた、な」

 

 思いがけなかったキャロルとの再会に、戸惑いながらも、素直に嬉しかった。

 15分後に愚図るキャロルを宥めすかす事になったのは非常に大変だったが。

 

 緒川さんが天を仰いだのは何気に貴重だったかも知れない。

 

「まぁ…こちらとしては有り得なくはない、

と思っていましたが……記憶の大半を失っても、今の今まで隠し通す辺り、聡明なのは変わらない様で」

 

「……こんな事までして、何が言いたいんだ。流石に気付く」

 

 目的が無ければ、リスクを度外視してまでキャロルに会わせたりなんかしない。

 実際、覚えていた記憶がある事を黙っていたくらいだ。

 

「これは僕の推測ですが、貴方はここでは無い別の世界から来た。違いますか」

 

 思わず舌を巻く。

 いや、ギャラルホルンとか言う便利アイテムが存在する以上、その様な結論に至っても可笑しくはないが。

 

「どうしてそんな結論に?」

 

「国籍戸籍、その他一切の経歴が不明。ですが何本かの映像がヒットしまして。一つだけ、貴方が最初に確認できた映像は、一切の前触れもなく、突然姿を表しています」

 

「合ってる」

 

「……やはりそうでしたか」

 

「しかし特段聖遺物の反応などは観測されていません。ですが、どんな手段で異世界から来たにせよ、キャロルへ交渉手段となり得る何かを持っていた」

 

「あー、未来の情報?」

 

「未来……ですか」

 

「そう、未来さ。そこそこ役に立った」

 

「どうやら、貴方はここと近しい世界から来た様ですね」

 

 ───全然違うんですけど。

 とは言っても、本当の事はキャロル以外に言う気は無いし、このまま勘違いしてくれるのならそれで構わないので、黙るけれども。

 

「そんで、何が言いたいのさ」

 

「無理にとは言いませんが、出来れば話して頂きたく思います」

 

「んー、話してもいいけどねぇ……メリットなく無い?こっちに」

 

「無理に、とは言いませんよ」

 

「そうだなぁ、気がついたら深淵の竜宮から無くなってたモノがあるんじゃない?」

 

「!」

 

「これくらいのレベルのモノなら結構あるけど」

 

「…………」

 

 緒川の顔付きが変わった気がする。

 

 少なくとも、実力でどうこうしようと言う訳ではないのは、事実と見ても良いのかもしれない。

 本題を提示しても良さそうだと見えた。

 

「キャロルの安全の確証と引き換えでどうかな」

 

「自身の事は良いと?」

 

「お、それもあったか。じゃあそれも」

 

 やはり交渉の余地はあった様だ。

 まぁ、切ちゃん曰く、底抜けにお人好し揃いらしいからね。

 今はそれがとても有難いのだが。

 

「そうですね……司令に判断を仰ぎます」

 

「色良い返事を期待します」

 

 

 

 

「それで、未来の情報と来たか」

 

 そんなに待つ事もなくやって来た風鳴司令。

 ちょっと早過ぎるような気がするのは、元々予定していた、とかだろうか。

 

「アンタが来たって事は、飲むって事で良いのかな?」

 

「こちらの管理下、と言う条件付きだ。それ以上は譲らん」

 

 ───決断が早い。

 

 どうやら元々予定していたの見て間違いないらしい。

 ただ、今の状態のキャロルを保護して何のメリットが有るのか、とは思うが。

 お人好しなのか、エルフナイン辺りがなんかしたのか、或いはその両方か。

 

 どちらにせよ、かなり好都合なのは間違いない。

 

「………君達S.O.N.Gが次に対峙するであろう、アダム・ヴァイスハウプトの目的だけど───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「やれやれ、随分と嫌われたものだね」

「お陰で僕が直接動かないといけなくなってね。まぁ…それじゃあちょっと手が足りないからわざわざ僕が君を確保してあげたんだ」

「少しは感謝してほしいくらいさ……ねぇ?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。