キャロルちゃんといっしょ!   作:鹿頭

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ヒモ、監視される

「むむ……やはり、距離が近い……」

 

 風鳴翼は物陰に潜んでいた。

 彼女がそんな事をするのには、防人として、奏の相棒として正しいワケが有る。

 

 

「なー先輩、なにやってんだ?」

 

「きゃっ!?」

 

 突如背後から声をかけられた翼は、思わず素の自分が表に出てしまった。

 

「ゆ、雪音か。驚かせるな」

 

 慌てて背後を振り向いた先に立っていたのは、自らの後輩にして、同じく防人(と勝手に本人が思っている)足る雪音クリスだった。

 

「いや、驚いたのはアタシの方なんだが」

 

 主に先輩の驚き方で、とは口に出さなかった。

 

「んで、こんな所でコソコソ何してんだよ、先輩」

 

「あの男を見てくれ、雪音」

 

 翼が指差した先は、今何かと話題の人物だった。

 

「ん?……あのロリコン野郎がどーしたってんだよ?」

 

 ───キャロルのヒモ。

 

 その情報は最早S.O.N.G.職員全員の知る所であり、風鳴弦十郎は持ち前のお人好しを発揮し、更生の為に彼を受け入れたのだ──と言う事になっていた。

 

 そして、当然クリスもその認識である。

 

「奏が近くに居るだろう?」

 

「……それがどうしたってんだ?」

 

 つい先程まで、彼はその弦十郎にみっちりとしごかれていた。

 とは言え特訓なので、弦十郎の弟子である響と、ついでに巻き込まれた奏も参加していた。

 

 なおヒモの体力は奏より低かった。

 

「近いだろう雪音!距離が!近い!」

 

「ンなもんどうだっていいだろ!?」

 

 実際、距離は常識的な範囲なのだが───

 奏が歌姫、つまりアイドルである事。

 

 男がいたいけな少女のヒモと言う軟弱かつ下劣(翼視点)である事。

 

 そもそも翼が奏には自分の素を曝け出せる位に心を通わせているという点だろう。

 

「良くない! 奏が、奏が…あの男の毒牙に!! あぁ…落ち着け私っ、常在戦場常ざ…ああいや、落ち着いてる場合ではっ」

 

「いやアイツ、ロリコン野郎だろ?」

 

 一部職員の噂だと、キャロルが万象黙示録なんか企んだのは、誑かされた結果だとかなんとか。

 そんな話をクリスは聞いていた。

 

「だが立花はキャロルはもっと大きかったと言っているぞ!?」

 

「あー、そこで気にしてんのな、先輩」

 

「ああ」

 翼の懸念も一理あるかもしれないとクリスは思った。

 

「でもまぁ見ろよ、バカが来たぞ」

 

 クリスが指差す先には、飲み物を持ってやって来た響。

 実際はジャンケンに負けて飲み物を三人分取りに行く事になっていたのだが、そんな事をつゆとも知らぬ翼は───

 

「なっ!? 立花に飲み物を取りに行かせるとは……!よもや誑かされた後ではないのか!?」

 

 当然ドツボに嵌った思考を繰り返すのだった。

 

「あーダメだこりゃ」

 

 クリスは翼のことをあきらめた。

 

「雪音ッ!友の危機に心動かぬとは見損なったぞっ!」

 

 クリスの両肩を掴み、息がかかるのではないかと思うくらいの距離と圧力で顔を覗き込む。

 風鳴の一族を知る者は、その剣幕は正しく風鳴の血統だと思うだろう。

 

「あのな、先…パイ」

 

 クリスは翼の顔を力一杯に押し除けた。

 

「アイツはバカだけど、バカなりに人を見る目はある。アイツが懐くって事は少なくとも悪い奴じゃあないんじゃねぇか?」

 

 クリスは響を信頼している。

 それ故の判断だった。

 

「む……そう言われると、だな」

 

 響の誰とでも手を繋ごうとする癖は当然翼も知っているし、人を見る目が無いわけではないだろうと言う事は、わかるのだが。

 

「奏ぇ……」

 

 奏が誑かされた(と勝手に思い込んでいる)今、翼には余り重要な要素ではなかった。

 

「あーもう勝手にやってろッ! アタシは行くからなッ!」

 

 付き合ってられない、とクリスはその場を後にするのだった。

 

「ったく……………ん?」

 

 そう遠くない距離、クリスは似た様な光景を目の当たりにした、してしまった。

 

「……な、なぁお前、そこでなにを」

 

「ひゃあっ!?」

 

 背後から声をかけられた事で驚き、飛び上がってしまったのはマリアだった。

 

「く、クリス…!あなただったのね……もう、驚かさないで」

 

「あーハイハイすまんすまん。聞きたくねーけど、ここでなにしてんだよ」

 

 クリスはどうせ似た様な理由なんだろうなぁ……と思いながらマリアに尋ねた。

 

「あの男が切歌や調に近づかない様に見張ってるの」

 

「あ、そう。頑張れ」

 

 やっぱりか、とクリスはその場を後にした。

 

 

「待ちなさいッ!既に響は誑かされたのよ!? それで良いのクリス!」

 

 その場を後にしようとしたクリスの腕をがっしりと掴み、引き摺り戻す。

 

「だー! なんなんだアンタら年長組は!揃いも揃って馬鹿だったのか!? 馬鹿なんだな!? ンなもんおっさん達に任せりゃ良いだろ!?」

 

「それじゃあ遅いのよ!!! 第一、あんな得体の知れないヤツを受け入れるだなんて……!」

 

 

「何と戦っているか知らねーけど、頑張れよ」

 

 マリアが自分の世界に入ったので、これ幸いにそそくさのその場を立ち去ろうとするクリス。

 

「あら…アレは……な"っ"!!!!???」

 

 マリアが突如として歌姫が、年頃の女性がしてはいけない叫びを上げた。

 

「あー? あー、お前の妹か」

 

 一応振り向いたクリスが見たのは、マリアの妹であるセレナ・カデンツァヴナ・イヴが三人に合流した挙句、件の男と何やら(マリア視点で)親しげに話している様子だった。

 

「どーすん……」

 

 あんな声を上げたのだ、マリアは何かするに違いない、と思ったクリスはその旨を問おうと声をかける、が……

 

「気絶してんじゃねーか……」

 

 マリアは自らが目撃した光景の衝撃の余り、立ちながらにして意識を失ってしまっていた。

 

「……ほっとくか、あたしには関係ねーし」

 

 実際関係ない。

 

「ったく……はぁ……」

 

 それ程遠くない距離、三度として見たくない人影をみたクリスは一体どんな厄日なのだろうと思った。

 

「……あ? エルフナインか、どうしたんだ?」

 

「クリスさん!」

 

 翼やマリアのポンコツフランメとは違い、背後から声をかけても驚かずにちゃんと反応したエルフナインに、自分でも判らないが少しだけホッとしたクリス。

 

「えっと、その……」

 

「まーた監視とか言いださねぇだろうな」

 

「監視…ですか? そんなことしてません!」

 

 よかったと安堵するクリス。

 何故安堵しなければならないのかは、本人にも判らない。

 

「んじゃ、なにやってんだ?」

 

「その……キャロルが元気にしてるかとか、一番身近な視点から聞きたいんですけど……なかなかタイミングがつかめなくて…」

 

「そんなん、話に行けば良いんじゃねーか、直ぐそこなんだしよ」

 

「それは…そうなのですが……」

 

「だー! どいつもこいつもめんどくせー事しやがる!」

 

 身をよじらせ、俯き加減になりながら声が段々と小さくなるなるエルフナインに、今まで溜まりに溜まったストレスが発露したクリス。

 

「行くぞエルフナイン!」

 

「えっ、わっ…く、クリスさん!?」

 

 エルフナインの腕を乱暴に、それでいて下手に傷つける事なく掴むと、エルフナインが目的としている人物の元へと手を引き歩き出した。

 

「あの、マリアさんが…」

 

「気にすんな」

 

「あの、翼さんが…」

 

「アレも気にすんな」

 

 道中、気絶していたり自分の世界に入ったりしているオブジェを通り過ぎながら。

 

 

「ん? あっ!クリスちゃんにエルフナインちゃんだ!」

 

 近づいてくるクリスとエルフナインに真っ先に気付いたのは響だった。

 

「こんにちは。お二人はどうされたんですか?」

 

 声をかけたのはセレナだった。

 

 一体いかなる理由で彼女がこんな所に居るのか、先程から見ていたクリスは気になった。

 

「どーしたのはお前の方だよ…いつの間にコイツと知り合ってたんだ?」

 

「以前、道に迷っていた時に案内したんです。とは言っても、こうして話をしたのは今日が初めてでして……」

 

 それだけの事で気絶したマリアは完全に飛ばしすぎだな、と内心呆れたクリス。

 

「んで、アンタも井戸端会議に参加しに来たのかい?」

 

「そんなんじゃねーよ。エルフナインがソイツに用があるんだと」

 

 からかい半分の奏の言葉を流したクリス。

 

「ふーん。だってさ……あちゃー、寝ちまってるよ。ま、疲れてるし無理も───」

 

 奏が呆れながら苦笑しているが、一方でその様子を見ていたクリスは───

 

「おい、起き、ろッ!」

 

 思いっきり寝ている男の両頬を挟むように叩いた。

 

「クリスちゃん!?」

 

「やるねぇ」

 

「わっ……痛そう…」

 

 突然の光景に三者とも驚きを隠せなかった。

 

「っんぁ!!? 何すんだガリィ!!」

 

「なーに寝ぼけてやがるんだ」

 

「いひゃいんれすけろ……」

 

 盛大な寝ボケをかました男は、自分の頰を叩いた女に頰を引っ張られ、上手く言葉を発せなかった。

 

「おいよく聞け寝坊助、エルフナインがお前に用があんだ」

 

「あー…成る程?」

 

 頰を摩りながら漸く状況を把握したのか、エルフナインとクリスへ交互に視線を回していた。

 

「それとお前ら、アレなんとかしてくれ、頼むから」

 

 そんな男には目もくれず、クリスは物陰に潜んでいるつもりの装者達を指差し、奏とセレナにどうにかする様にと促した。

 

「あー….翼」

 

「マリア姉さん……」

 

 二人とも苦笑いしながら、それぞれの下へと歩いていった。

 

「おいバカ、飯奢ってやるからちょっと付き合え」

 

「えぇ!? 嬉しいけどさっき食べたばっかりだから……」

 

 二人が歩き出したのを見届け、そのまま返す刀でクリスは響に珍しい提案をする。

 だが響は空腹ではなかった。

 

「……じゃあアイスでもなんでも奢ってやるよ」

 

「ホント!? わーい!」

 

 とは言え年頃の少女にとっては、お菓子スイーツの類は別腹だったので、効果は覿面だった。

 

「………ありがとね」

 

 三人をわざわざこの場から離れさせようとするその意図に気付いた男はクリスの方を見つめながら礼を呟いた。

 

「チッ……」

 

 とは言え、エルフナインの為にしたのであって、クリスの中では男は未だ信用ならない人物だ。

 そんな人物に意図を悟られたクリスは苛立ちからか、舌打ちをしながらその場を響と共に去っていた。

 

 後に残されたのは、エルフナインとの二人だった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「………」

 

「………」

 

 残された二人。

 とは言え、長い事二人の間に会話はなく、気まずい沈黙が続いていた。

 そもそも、二人が最後に話したのは以前、弦十郎の手配の下に行われた面会だった。

 

 その時も元気だったか、など当たり障りのない事だった。

 

「あの……」

 

 沈黙を最初に破ったのはエルフナインの方からだった。

 

「……うん?」

 

「キャロルは……どうしたんですか?」

 

「ああ、検査だってさ。想い出の焼却、なんてどんな負担がかかってるか判らないから万全を期して、らしい、けど」

 

「けど?」

 

「弦十郎さんは兎も角、キャロルの頭脳に用が有る連中は多い。今回だって、立ち合いたいくらいだった」

 

 自嘲する様に口角を上げながらエルフナインの方を向いた。

 

「……ダメだったんですか?」

 

「『実年齢は兎も角、今のキャロルは見た目相応の精神年齢だから、少しは近しい精神年齢の子との交流も必要だろう。お前抜きでな』って弦十郎さんがね。……どうも、暁切歌と月読調も定期検査が被ってた…いや、被せたのかな?」

 

 まぁザババの二人が一緒なら悪い様にはならないだろう、という確信めいたものがあったから、素直に引き下がっていた。

 キャロルはごねたが。

 

「なるほど……」

 

「あとは『さぁ、その時間を利用して特訓だッ!』とか言われてさ……身体はボロッボロだよ」

 

「あはは……」

 

「………ごめんね」

 

「えっ!? いや、つまらない訳じゃなくてですね」

 

「………実はさ、キャロルの戦闘の顚末を知らないんだ」

 

 苦笑いしたエルフナインは、慌てて否定したが、彼の意図する所はそこではなかった。

 

 懺悔にも近い独白。

 

 あの日、彼は眠らされていたのだ。

 他ならぬキャロルの手によって。

 その結果、今でもどの様な経過でキャロルの万象黙示録が粉砕されたのかを、知らずにいた。

 万象黙示録とは言ったが、──キャロルは違う()()()を目論んでた。

 それすらも、正確な事を知らずにいたし、実際に相対した装者達もわからなかった。

 

「立花響から断片的に聞いた話からは、キャロルはどうも命題にたどり着いていたっぽいってのは、知ってんだけどね……」

 

「……はい。確かに、キャロルはそんな事を言ってました」

 

「いやー、全くわからん! ホント、いつ気づいたんだろうね! ねぇ、心当たりあったりしない?」

 

「貴方が判らないなら、ボクにはとても…」

 

「そっか、残念」

 

 残念には見えない口振りで流した。

 もとより、知っているとは期待していなかったと言うのもあるだろう。

 

「………この状況に置かれているのは、キャロルが負けた時の事を考えて動いてたからだ」

 

 その為にパヴァリア光明結社──正確には、接触する事の出来たカリオストロとサンジェルマンの二人に渡りをつけた。

 

 とは言っても、当初の意図する方向性とは違い、彼女達の好意で、背負う筈だった罪すらも()()()()事にされているが。

 

 一人蚊帳の外に置かれたプレラーティがドッキリを仕掛けていたのは、記憶に新しい。

 

 

「だけど、それと同時に成功させる為にキャロルが準備を全て済ませていたのも知っている」

 

 ヤントラ・サルヴァスパも、フォトスフィアも、自分が提供した情報を下に盗み出す事に成功していた。

 

 ダインスレイフの呪われた旋律を刻んだ後、直ぐ様世界を分解する為の邪魔が入らぬ様にオートスコアラー達を分散配置して、装者達を遠くへ引き離してもいた。

 

「──だが結果は敗北だ。何故だ、どうして負けた? どうやって負けたんだ、キャロルは」

 

 そこまでやっても、シンフォギア装者の前に倒れていた。

 こうしてこのS.O.N.G.に居ることは、キャロルは少女達の胸の歌に破れ去っていた、という事に他ならない。

 

「知りたいんだけど……弦十郎さんには、まだ聞きづらくて、ね」

 

 そう言うと改めてエルフナインの方を向き直してから口を開いた。

 

「教えてくれないか」

 

「……ボクが知る限りでいいのなら」

 

 エルフナインは、些末を語る為にゆっくりと口を開いた。




ズバババン!
奏が生存している為、奏関連の事になるとポンコツ度が急上昇、SAKIMORIとしての仮面が外れ、一人の風鳴翼に戻れる。
お陰で過保護と依存と邪智が捗り、全くそんな事実は無いのだが、奏が誑かされそうだと勘違いしている。
響は(翼の中では)誑かされた、もうダメだ。

私はピンシャン!
過保護なオカン。 
調と切歌には緒川さんとの(勝手な)約束通り、ロリコン(マリア談)は(自分から)近いてないが、それでも信用ならないので、見かける事が有れば監視を実施している。
今回それが仇となった。

金子さんなワケダ
サンジェルマンとカリオストロが自分の城を奪った合法幼女のよくわからん燕に誑かされたのを恨んでいる。
とは言え彼が齎らした情報は全裸への反旗を翻すには十分だった為、S.O.N.G.を勝手に巻き込んだドッキリをしかける程度に留めたワケダ。
と言うかどうしてその場に呼ばなかったワケダ
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