キャロルちゃんといっしょ!   作:鹿頭

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みなさんはオレキャロルとわたしキャロルどっちが好きかな?
ぼくはどっちもすき


残響、では無く──

「都庁上空に未確認建造物出現!」

 

 藤尭の報告に司令部は蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。

 

「クソッ!幾らなんでも早すぎるッ!」

 

 弦十郎は狼狽した。

 残る三機のオートスコアラー達を装者達が撃破した直ぐ後の事だったからだ。

 

「一番近いのはッ!」

 

「響ちゃんです!」

 

 弦十郎の問いにオペレーターの友里が答えた。

 その報告を聞くと直ぐ様判断を決めた。

 それ以外に選択肢がないからだ。

 

「響くんッ!他の装者達が来るまで持ち堪えてくれッ!」

 

《了解ですッ!》

 

 

◆◆◆

 

 

 

「───来たか」

 

「キャロルちゃんッ!」

 

 キャロルはチフォージュ・シャトーを背に、誰よりも速く決戦の地に辿り着いたガングニールを睥睨する。

 

 

 ───油断はしない。

 どんな不条理すらも踏み越えられる可能性を考慮し、オートスコアラー達には必要最低限の想い出を。

 身体に回す想い出も最小にする為、姿は幼い頃のままだった。

 

「お願い聞いてッ!」

 

 響は叫ぶ。

 未だ解り合えると。

 そして、恐らくこれが最後の希望かもしれないと思い。

 

「キャロルちゃんのパパの託した想いはそんな事じゃ──」

 

 親ならば、子には託すべき思いがある。

 ましてや、それが最期の言葉なら。

 

 立花響は、そう言うつもりだった。

 そう、自分自身も聞いたからこそ、伝えたかった。

 しかし───

 

「パパを殺したこの世界を赦せ、とでも言う気か? ハッ、エルフナインにでも聞いたか?」

 

 全く意に返さないどころか、寧ろ呆れ返っているキャロル。

 そんなのは聞き飽きた、と言わんばかりの彼女の様子に、響は戸惑った。

 

「復讐の為に世界を壊した所で、後には何も残らない。だからこれはオレの自己満足だと、そう言いたいのか?」

 

「違うよキャロルちゃん!わたしが、わたしたちが言いたいのはそう言う事じゃ───」

 

「誰かと手と手を繋いで分かり合う、か?」

 

「───そうだよ!」

 

「だろうな」

 

 目を閉じたキャロルは響の言葉を肯定した。

 それを受けた響の表情が、明るくなりかけるも──

 

「………パパなら、きっとそれでも赦せと言うんだろう。まぁ、それでいいさ」

 

 彼女に託された命題の意味に気付かされていた。

 気付いていたキャロルは誰かに語る様に、告げる様に呟く。 

 それは響に対してのものではなかった。

 

「だが───()()()にはやらなきゃいけない事がある」

 

 目を開けたキャロルの眼は、みなぎる決意に溢れていた。

 

「キャロルちゃん、それはどう言う───」

 

 その様子を不審に思った響はキャロルに真意を問うも。

 

「答える気はない。この感情はわたしだけのものだ。他の誰にもくれてやるつもりは無いッ!」

 

 そう言うとキャロルは自らの背後に四大元素から成る術式を次々と展開した。

 

 

「───御託は良い。さっさとかかって来い!シンフォギア!」

 

 四大元素を背に、世界を壊し、ただひとりを救う歌をキャロルが叫び歌う。

 

「キャロルちゃん……」

 

 相対した響は、キャロルの胸の歌の示す所をなんとなく悟っていた。

 

「ちょっと痛いけど、我慢して、ねッ!」

 

 最早、対話の余地は無い。

 ならば、拳で語り合うまで。

 弦十郎から受け継がれるその教えを、鍛え上げた技と共に奮い歌う───!

 

「はぁッ!」

 

「そんなもの効かぬ!」

 

 キャロルは響の一撃を防ぎ、振り払うと背後から炎、風、地、水の属性に照応した砲撃を次々と放った。

 

「くっ…!」

 

 響は途中身体に何度も砲撃を翳めながらも再び肉薄していく。

 

「だったらッ!効くまでッ!何度でもッ!」

 

「効かぬと──言っているッ!」

 

 響の拳をダウルダウラの弦を操り縛り止めると、響の四肢へと弦を回し宙えと縛り上げる。

 

「糸が!?」

 

「このままバラバラにしてくれるッ!」

 

 大気を掴む様にキャロルが腕を動かすと、それに伴って響を縛り上げる弦が四肢を引き裂かんと軋みを上げる───!

 

「…ぁあっ…ぐっ……!」

 

 呻く響。

 その様子を見ても一切手を緩める事なく念には念をと弦を増やして行き───

 

「させるかッ!」 

 

【千ノ落涙】

 

 空より降り注ぐ剣の五月雨が友の危機を救われんと、響を拘束する弦を切り裂いた。

 

「大丈夫かッ!立花ッ!」

 

「翼さん!」

 

 おっとり刀で駆けつけた翼は響を担ぐと距離を取るため後退した。

 

「ふん」

 

 その様子を見たキャロルは直ぐ様次の攻撃を放たんと土の術式を構え、地面に向ける。

 

「よそ見をしている暇が有るとは───」

 

「……なっ」

 

「───思えないな」

 

 文字通りに。世界を引き裂く音がして。

 大地に亀裂が入り、破れた。

 

「大地が割れただとッ!?」

 

「翼さんッ!」

 

 突然足場を失った二人はそのまま吸い込まれる様に落ちていく。

 

 しかしそのままで終わる翼ではない。

 直ぐ様脚部から火を吹き出し、響を抱え、宙を舞う事で共に逃れようとする。

 

 だが───

 

「そのまま潰れろッ!」

 

 キャロルはダウルダウラの弦を引き裂いた大地の両端に飛ばし付けると、二人を擦り潰す為に引っ張る。

 

「念には念をだッ!」

 

 そのまま二人の頭上に氷の礫を生成し、装者を穿たんと落とし放った。

 

「翼さん。飛行任せましたッ!」

 

「承知!」

 

 響は翼にちょうど肩車される形になり、降り注ぐ氷の雨を拳で割り砕いていく。

 

「ならこれはどうだ?」

 

 キャロルが指を鳴らすと氷の礫は全て火球へと変わる。

 

「──えっ」

 

「ブラフに決まっているだろうに、まったく」

 

 氷ならまだしも、焔を触る事は不可能。

 よって、氷を殴り割ろうと振り抜いた拳は、焔の中に突っ込む事になる。

 

「そのまま燃え尽きろ」

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 装者二人が炎の中に吸い込まれていくのを見届けたキャロルは、そのまま油断する事なく大地を閉じた。

 

「まずは───何ッ」

 

 油断、慢心の類を捨てて確実に葬り去る為、だったが。

 二人の健在を目視し、狼狽る。

 

「響さんッ!翼さんッ!」

 

「間一髪デース!」

 

「調ちゃん! 切歌ちゃん!」

 

「助かったぞ月読!」

 

 炎に紛れて調がヨーヨー型のアームドギアを投げ入れ、二人に巻きつけるとそのまま引き上げていたのだ。

 それに加えて切歌も居る。

 

 これで装者側の戦力は四人となった。

 

「チッ…忌々しい」

 

 想定より速い到着にキャロルは内心ほぞを噛んだ。

 

「あたし達も──」

 

「!」

 

「居るわッ!!!」

 

 背後からクリス達が移動手段に使っていたミサイルを含めた銃火器や、アガートラームの短剣の弾幕がキャロル目掛けて襲い掛かる。

 

「舐めるなッ!」

 

 直ぐ様半身を取り糸や錬金術を駆使して弾き、落とし、防ぐ。

 

「ま、そう簡単にはいかねーか」

 

 クリスが響達の元へと降り立ちそう言った。

 

「ええ、だけどこれで全員よ」

 

 マリアが改めて短剣を構え直す。

 

「ちょうどいい───纏めて処分するとしよう」

 

 そう言ったキャロルは空へと浮かび上がると、想い出を力と換え天上高く火の玉を作り上げる。

 

「なっ……」

 

 それは誰の驚きだったろうか。

 膨張し、収縮を繰り返す火の玉を見て、それが単なる火の玉では無い事を悟ったからだ。

 

「嘘デス…よ」

 

「太陽……?」

 

「そんなバカなッ」

 

「おいおい、冗談だろ?」

 

「キャロル、ちゃん───」

 

「黄金錬成には少し足りんがな。とは言え、充分だろう」

 

 莫大な量の魔力にモノを言わせた、アダムの黄金錬成───10万トンにも及ぶツングースカ級とは行かないが───小型の太陽と呼ぶにはふさわしい程の偉容を誇っていた。

 

「燃え堕ちろ」

 

 装者目掛けてヒを墜とした。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal…」

 

「絶唱、か」

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl…」

 

 その歌は終わりの歌。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal…」

 

 戦姫達の幕引きの歌だ。

 

「Emustolronzen fine el zizzl……!」

 

 とは言え、十分な要素を満たせば、この上ない対抗手段となるのは間違いない。

 

 この段階での絶唱は、とって当然の手段と言える、が───

 

 

「忌々しい──だが」

 

「も、もう一つ……?」

 

「冗談キツい、デスよ……」

 

 先程と同じ質量を誇る塊が、もう一つ装者達の頭上には聳えていた。

 

「何のために加減したと思っている」

 

 幾らキャロルのフォニックゲインが、一人で70億の絶唱を凌駕すると言えども限度がある。

 とは言え、このキャロルは装者達を滅ぼすには十分な量を備えているのだが。

 

「───終わりだ」

 

 再び、先程の焼き回しの様に手を振り下ろした。

 

 

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal…」

 

「立花ッ!?」

 

 翼は驚愕した。

 立花響が再び絶唱を歌い始めたからだ。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl…」

 

「死ぬ気かお前ッ!?」

 

 クリスが叫ぶ。

 そうするのは理解出来るが、そうではないだろう、と思っているからだ。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal…」

 

「幾らなんでも無茶よ!止めなさい立花響ッ!」

 

「響さん……」

 

「無謀にも程があるデェス……」

 

「Emustolronzen fine el zizzl……!」

 

 響は、絶唱を歌った。

 

「───だとしてもッ!」

 

 歌い上げた響のその表情には、みなぎる決意が。

 

「わたしはッ!」

 

 ───思いが。

 

「絶対にッ!」

 

 ───勇気が。

 

「諦めないッ───!」

 

 ───希望が、あった。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 火球目掛けて飛び立つガングニール。

 

「ハッ、高々一人の絶唱で何が───」

 

 それを嗤うはダウルダウラ。

 だが嗤いは止まる。

 聞いてはいけないモノを聞いたからだ。

 

 聞くはずのないものを聞いたからだ。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal…」

 

「なっ、誰だッ!」

 

 響の叫びに呼応する様に、突如として響き渡る歌。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl…」

 

「まさか、そんなッ!?」

 

 先に気づいたクリスが叫ぶ。

 そんなはずは無い。

 彼女が、こんな所にいる筈が無いのだ。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal…」

 

 この場に集いし()()()の戦姫。

 

「Emustolronzen fine el zizzl……!」

 

 神獣鏡の装者、小日向未来だった。

 

「ひびきぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 彼女の絶唱が、響のものに伴ってフォニックゲインを底上げしていく。

 

 立花響は、太陽を殴り堕とした。

 

「────馬鹿な」

 

 茫然と立ち尽くすキャロル。

 

「み、未来!?どうして!!?」

 

《それはこの僕のお陰ッ!》

 

「なっ、Dr.ウェル!? 何故ここにッ!?」

 

 響の問いに返ってきたのは、通信回線から割り込んだウェル。

 思わぬ人間の登場にマリアは真っ先に声を上げて驚愕した。

 

《世界の危機と言うだから力を貸せ、なんて言うモンですからねぇ! この僕がッ!未来さん専用のLiNKERを急拵えしたってワケですよッ!》

 

「それがどうして未来さんがギアを纏う事になるんデスか!?」

 

「───愛ですよ」

 

「何故そこで愛ッ!?」

 

「未来、どうして───」

 

「響ばかりに負担をかけて、私は指を咥えて見てるだけなのは、嫌だったから───」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『お前には奏くんのLiNKERを作って貰いたい、Dr.ウェル』

 

『ふぅん? それで僕をここに出したってワケですか』

 

 フロンティア浮上未遂事件───

 その首謀者として長らく本部の収容所に入っていたウェル博士が、風鳴弦十郎の求めに応じ呼び出されていた。

 

『ああ、嫌な予感がする。出来る事ならしたくはないが……少しでも戦力は増やしておきたい。世界の危機、なのでな」

 

 弦十郎はその場にいた天羽奏をチラリと見た。

 ──今、この場にいるのは、風鳴弦十郎に緒川慎次。エルフナインにセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。天羽奏と小日向未来だった。

 

『世界の危機と来たかい。良いね』

 

 満足そうにニンマリと笑うウェル。

 

『だけど確か、天羽奏のLiNKERは残ってるんじゃあ無かったのかい?』

 

『だが、従来の物だと負担が大きいのでな。そこでお前の力を借りたい訳だ』

 

『成る程、ね』

 

 ウェルは奏の方をジロリと見た。

 確かに、【あなたに優しい】LiNKERならギアのバックファイアを最小限に抑える事が出来るだろう。

 

『そんな事より──小日向未来ゥ、ユーが装者になっちゃえよ!』

 

 だがウェルは奏の方には目もくれず、ウェルは小日向未来に向かって高らかに提案した。

 

『なっ!? お前何を言って──』

 

 それには弦十郎も面を食らった表情になるが。

 

『出来るん、ですか?』

 

 彼女の意思は堅かった。

 

『勿論』

 

 ウェルは肯定する。

 

『私でも、響やみんなの力になれるんですか』

 

『勿論だとも。何故ならキミにはこのドクターウェルがついているんだからねッ!」

 

 自分が居るから問題ないと、小日向未来の願いを肯定する。

 

『何バカなことを言っているんだッ!第一、ギアが───』

 

『神獣鏡』

 

『!』

 

『あるんだろ? F.I.S.から回収したヤツがさぁ!』

 

『あるにはあるが…』

 

 神獣鏡。

 確かに、一連の事件の後に武装集団フィーネと名乗る連中──正確には、マリア達から回収していた。

 

『元々、僕の計画ではそこの小日向未来に装備させる予定だったのさッ! 立花響がまるっとおじゃんにしたけどねッ! 全くとんだ笑い話さッ!』

 

『そうだったのか!?』

 

 幼体とは言え、ネフィリムを一撃で粉砕する力。

 ツリー襲撃から、小日向未来を拉致同然にマリアが保護したと思えば、何処からか居場所を嗅ぎつけてきた響によって隠れ家は急襲。

 

 それによってフロンティアは浮上する事はなかった。

 数年の修行を弦十郎の下で積んでいた立花響にとって、然程脅威ではなかったのだ。

 

『兎も角ッ!レシピはこの僕の頭に入っているから、いつでも作れるさ』

 

 実際、響が突入してこなければ洗脳なりしてギアを纏わせていただろう。

 最も、そうはならなかったのだが。

 

『だが、未来くんには戦闘経験が──』

 

『良いじゃん、やらせてあげなよ』

 

『奏!?お前……』

 

 意外にも、奏がウェルの案に賛意を見せた事に、驚きを隠せない弦十郎。

 

『友達が戦ってんのに、自分だけ指を咥えて見てるだけってのは、ホントに辛いモンさ』

 

『奏さん……』

 

『それに、コイツの作るえーと…【あなたに優しい】LiNKERだっけ? それがないと、現場に出せないくらい、ボロボロなんだろ?』

 

『まぁ、な』

 

『だったらさ、あたしの代わりに行かせてやってくれよ、おっさん』

 

 奏は笑顔で未来の肩に手を添えてから。

 

『頼む』

 

 真剣な顔つきで弦十郎に頭を下げた。

 

『私からもお願いしますっ」

 

『……セレナくん』

 

『私は姉さんに任せきりですけれど……私も、未来さんの気持ちはわかります、から』

 

 セレナが奏に続いて未来の背中を押した。

 

『だが了子のメモじゃ、神獣鏡のギアは最弱──』

 

『ノンノン! そこじゃない! あの女がそんなザコわざわざ作る訳が無いッ!』

 

 弦十郎の意見を一蹴したウェル。

 

『どう言うことだ?』

 

『数を揃えることが大事なのさッ!』

 

 彼もまた、別の手段で真理に辿り着いていた者である。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「だけど、神獣鏡は───」

 

《そうッ!最弱のギアッ!》

 

 ウェル博士はマリアの言葉に被せて叫び、握り拳を作った。

 

《ですが───》

 

「────ふざけるなっ」

 

《どうやら()()()()()。その意味はあった様ですねぇッ! いやぁ、流石僕ッ! フィーネ程度が意図する事など手にとる様にわかるゥー!!!》

 

 その握り拳は謂わば勝利宣言。

 ウェルはニンマリと人の悪い笑みを浮かべた。

 

 装者達のバラルの呪詛が解けてない今、自力でエクスドライブになる事は不可能。

 

 ────だが、今この場にはフォニックゲインが充分すぎる程に充満している。

 

《今ですよお子ちゃま達ッ!胸の歌を高らかに!歌い上げると良いッ!》

 

 よって、エクスドライブの成立は必然となる───!

 

「ガングニールッ!」

 

「アメノハバキリ!」

 

「イチイバル!」

 

「シュルシャガナ!」

 

「イガリマ」

 

「アガートラーム!」

 

 そして───

 

「シェンショウジン───」

 

 この七つのシンフォギアは、七つの惑星と七つの音階に照応し、世界と調和する音の波動こそが統一言語。

 

 七人の歌が揃って初めて踏み込める神の摂理。

 

 例え呪詛が解けて無くとも──之は地上に再演された統一言語。

 

 集いし七つの音階が織りなす彼女達の歌に世界を救えぬ道理は、最早存在しない──!

 

「エクスドライブッッッッッッッ!!!」

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 元々、キャロルはフィーネの作り出したギアが7つ揃えて初めて真価を発揮する事は辿り着いていた。

 

 それに加えて彼から聞いていた、実際に七つ集めた彼女達がなし得た事。

 

 その知識が有るからこそ、この状況はほぼ詰みにさえ近い事を薄々感じている。

 

「認めん、認めないッ!こんな事で、こんな所でッ!!!!!!」

 

 激昂し、絶望しかかったキャロルは、その感情すらも燃料と換える。

 

 自分の持ち得るありったけの想い出を力と換え、挙げた諸手が天高く顕現させるは、この世の全てを呑み込み、破砕せんと渦巻く暗黒天体。

 

「そんな奇跡は殺すッ!認めないッ!そんな事でわたし(オレ)の───」

 

 

 

「わたし、の───」

 

 なんだっけ。

 

 一体、わたし(オレ)は何をしようとして………?

 

 

「これが私達の───」

 

「絶唱だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

 

 全てを包み込む光の前で、キャロルの脳裏に浮かんだのは。

 

 『───■■■■■』

 

誰かが自分に託した思いと。

 

 

 『キャロル───』

 

 ───自分が■■■、彼の事だった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「いや勝てるかこんなん」

 

 ふざけんな、無理ゲーだろこんなん。

 エルフナインから話を聞いた率直な感想だった。

 

「アームドギアが七つ揃ってんじゃあなぁ……」

 

「その、七つ揃う、ってなんなんですか? ウェル博士に聞いても『おこちゃまには教えてあげませんよーぅだ!』とかでして……」

 

「七つの惑星。七つの音階。それらに照応する七振りのアームドギアは、七つの調和となって世界を繋ぐ統一言語になるって訳さ」

 

(ってかウェル博士…お前すげぇな)

 

「シンフォギアに、そんなチカラが……!」

 

「まぁ元々はフィーネがなりふり構わず統一言語を蘇らせようとしたのがキッカケだしねぇ」

 

「そんな事を知っていただなんて……凄いです。ボクもまだまだたくさん勉強しないと……!」

 

「えっ? ああ、いや。キャロルが、ね」

 

 実際、七つ揃える事が重要なのは辿り着いていたから、あながち間違いではない。

 

 だが。

 統一言語が地上に再現されたなら、それは即ちシェム・ハ復活のカウントダウンに他ならないのである。

 

 いやでも、バラルの呪詛解けてる子居なくない?

 どういう風に復活するんだろう。

 

 

 ここへ来て、解らない事が急に怖くなった。

 

「……ってかアイツ(ウェル)ここに居たんだ、全然知らなかったわ」

 

「基本的に研究室に籠りっきりで出てこないそうなので……」

 

「へぇ……」

 

 それ、本来キミもだぞ、エルフナイン。

 そう言いたくなる気持ちを、グッと堪えた。

 

「……兎に角、聞かせてくれてありがとう」

 

「いいえ、このくらいは」

 

「さて、そろそろ検査も終わる頃か」

 

 立ち上ると、腕を上げ伸び上がった。

 

「どう、来るかい?」

 

 エルフナインに手を向けて尋ねた。

 

「えーと…ボクは、遠慮しておきますね」

 

「キャロルの事が気になって話しかけて来たのに?」

 

「それはそう、ですけど……」

 

「いえ、やっぱりボクは遠慮しておきます」

 

「そっか」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お疲れ、キャロル」

 

「うん、退屈だった」

 

「そ、そっか」

 

 検査が終わったキャロルを迎えに行くと、ドアから出てきた彼女から辛辣な言葉が返ってきた。

 病院の類が面白い訳もないから、当然かもしれないが。

 

「あれー、おかしいデスねー、ろ…おにーさんが居るなら、マリアが居てもいいと思うんデスが…」

 

 続いて出てきた切歌が辺りを見回しながら首を傾げた。

 一瞬不名誉な何かが聞こえたが、余計な波風を立てたくないので、聞き流した。

 

「本当だね、切ちゃん。確かに、居てもおかしくなさそうだけど……」

 

 調が一瞬こちらの方を見てから言った。

 どうして一瞬見たのかは、わからないが。

 

「そのマリアなら、さっきセレナが担いでどっか行ったけど……」

 

「そうなの?」

 

 だがマリアさんの行方なら知っていた。

 クリスに文字通り叩き起こされた(らしい)後、動かなくなったマリアをセレナが運んで行ったのを目撃している。

 

「なんか、うん。よくわかんないけど」

 

「そうデスか……」

 

「残念」

 

 切歌と調が落ち込む。

 その様子が見ていて居た堪れないので、声をかけようと口を開いた時だった。

 

「ねぇ、セレナってだれ?」

 

 キャロルが笑顔で尋ねてきた。

 その時、ふとキャロルを怒らせた時の事を何故か思い出した。

 

「セレナはマリアの妹デェス!」

 

「私たちにとっても、大切な家族なんだよ」

 

「ふーん」

 

 キャロルの問いに切歌と調が答えた。

 何故だか助けられた気がしたのは、気のせいだろう。

 

「それより、マリアが来ないんだったら、ふたりで行くとしますデスかね、調」

 

「うん、切ちゃん」

 

「ではではー、お先に失礼するデス!」

 

「じゃあね」

 

 手を振り去っていく二人を同じく手を振り見送った。

 

「で、いつ知り合ったの?」

 

「……何が?」

 

 話が終わっていなかった。

 この背筋が張り詰める様な気分に、何処となく懐かしさを感じて、嫌に寂しくなった。

 

「セレナって人と」

 

「あー…道に迷ってた時に、案内してもらったのよ」

 

 事実だ。

 あの時彼女に声をかけられていなかったらもう少し遅れていただろう。

 

「本当に迷ってたの?」

 

「本当だって。キャロルに嘘ついた事あるか?」

 

「でも黙ってた事はあったじゃん」

 

「そんな事───キャロル?」

 

 思わず目を見開いた。

 そんな事は今の今まで一つしかない。

 ()()()

 キャロルに黙って、パヴァリアに渡りを着けた時の唯一無二の一回きり。

 

 それが、どうして──

 

「なに?」

 

「それ……いつの話?」

 

 思わず震えそうになりながら尋ねる。

 思い出しつつ有るのだろうか。

 

 確かに、断片的な想い出のカケラをでっち上げてキャロルの擬似人格をエルフナインが構成し得た事を考えると、戻っていても然程は───

 

「えっ? えーと……」

 

 考え込むキャロルは、次第に困った表情を浮かべる。

 

「なんで……だろ。どうして…そう思ったんだろ、わたし」

 

「キャロル……」

 

 込み上げる思いに耐え切れずに、彼女を抱きしめていた。

 

「………?」

 

 腕の中できょとんとした表情を見せるキャロル。

 その様子に胸が締め付けられるような気分になった。

 

「……帰ろっか」

 

「……うん」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

───夢を見た。

 

 古いランタンが、誰かの横顔を照らしている。

 木の窓から外を見上げると、宝石箱の様な星々が煌いていて。

 今日もアルカナの夢物語を語り聴かせていた。

 明日も良い日になると、そう信じて。

 

 ───夢を見た。

 

 

 幼き少女は哭いていた。

 目の前に天高く立ち昇る業火は、魂すらも焼き尽くすようで。

 

 『世界を識りなさい』

 

 その一言が、やけに耳に残っていた。

 

 

 ───夢をみた。

 

 気紛れに降り立った、あちこちに炭が転がる街。

 そこで出会った人間は、本当に変だった。

 

 『未来を知っている』

 

 なんて、そんな奇妙な事を言っていて。

 

 

 ───夢を見ていた。

 

 あの日の想い出を燃やし尽くす業火。

 『世界を識れ』

 同じユメ。

 あの日と変わらない言葉が耳に残っていて。

 途中に目を開けると、拾った男が肩を揺さぶり、心配そうに見つめていた。

 

 ───夢を、みた。

 

 勝手に持って来られた料理。

 要らぬと打ち捨てようとして、あの日の柔き思い出がふと過り。

 渋々口に運んでも、やっぱり自分の方が上手に決まっていて。

 それ見てニヤつく青い従者が気に食わなくって。

 

 ───夢を、見ていた。

 

 また、同じユメ。

 変わらない地獄。

 

 世界を識れと言った、かの日と変わらない命題。

 あの日のまま泣き叫ぶ少女に、天舞う灰は何も残さなかった。

 

 目を開けると、変わらず此方を心配そうに見つめていた人。

 

 その日はなんだか寂しくて、側に居ろよと手を引いた。

 

 ───ゆめをみた。

 

 帰れるなら、帰りたいと、微笑む貴方を見てられなくて。

 オレは、わたしは。

 

 

 

 目を開けた────

 

 

 

 

 

「………っ」

 

 頭がガンガンしている。

 なんなら、身体の節々の反応もぎこちなくて、酷く不快だった。

 

「オレは……いや、此処は…?」 

 

 辺りを見渡すと、見慣れたシャトーではなく、暗く、見慣れない部屋。

 

 外から月明かりが差し込み、照らされた調度品の数々は気品を讃えていて、持ち主は裕福である事を伺わせる。

 

 

「やぁ、お目覚めかい」

 

 暗がりの中から足音がする。

 月の光が人影に差し込み、映し出されたその姿は。

 

「お前はっ……!」

 

 ───アダム・ヴァイスハウプト。

 現パヴァリア統制局長にして、完全と完成していたが故に打ち捨てられたら人形が、はだけたバスローブ姿で立っていた。

 

 どうしてここに居るのか。

 一瞬、疑問に思うが、キャロルの聡明な頭脳は忌々しい結論に早々に達していた。

 

「睨まないでくれないかな。わざわざ拾ってあげたんだよ、このボクが」

 

「……誰が頼んだんだ、そんな事」

 

 償却したはずの想い出が存在している事を鑑みるに、装者達に負けた後、目の前のコイツが態々新規躯体を拾った事になる。

 

 幾らパヴァリアから支援を受けていたとは言え、そんな事は依頼すらしていない。

 

 仮に頼むとしたら、候補は一人だけいるのだが。

 

「いいや? 頼まれてないよ。誰にもね」

 

「……何?」

 

「面倒な事になってね、色々と」

 

 やれやれ、と両手を上げて溜息を吐くアダム。

 最も、目の前のコイツがそんな事を考えているとは思えないが、とキャロルは思った。

 

「どうも、何をしようとしているのか、まで把握されたっぽくてね。ま、ボクが嫌われてるのは元々だけど」

 

 アダムは、棚の上に置いてあったデカンタから、よく冷やされたグラスへとワインを注ぐと、「呑むかい?」そう言って空のグラスをキャロルへと向けた。

 

「誰がお前なんかと呑むかッ」

 

 あいつとならまだしも、こんな奴の酒を飲むなんて、とキャロルには到底考えられなかった。

 

「あ、そう。でね、ボクの計画はパァ。困った事にね。そこで、手伝って貰おうと思ってね。君に」

 

 キャロルの拒絶を特に気にする事無く、近くに有った椅子にゆっくりと腰掛けると、一人優雅に器を傾けるアダム。

 

「勝手にやってろ。貴様の夢に付き合う気は無い」

 

「困るんだよ、それじゃね。ホラ、君だって七人のシンフォギアに負けただろう? 統一言語が再現されて、ね」

 

「……シェム・ハか」

 

「知っていた様だね、やっぱり」

 

 アダムは口ではそう言うが、驚いた素振りは一切見せずに手の中でグラスを回していた。

 

「シェム・ハに対抗する為にも、必要なんだよ神の力が」

 

「下らん。そんなものは装者にでも任せれば良い」

 

 そう言ってキャロルは立ち上がり、飛び立とうと窓辺に手を掛けた、その時。

 

「その装者達の所に──キミの愛しの彼は居るのさ。知ってるかい?」

 

「────!」

 

 その言葉はキャロルをその場に留まらせるには余りにも効果的だった。

 

「どう言う……事だ」

 

 キャロルは髪の毛が浮き上がりそうな程頭に血が上っていた。

 自分が敗れた事は把握している。でなければ、こんな所にはいるわけが無い。

 

 八つ当たりに近しいが、それでも激昂せずにはいられなかった。

 

「答えろッ! ヴァイスハウプト!」

 

 キャロルは手を翳し四大元素の術式をアダムに向けた。

 それでも全く動じる事なく、余裕を持ってアダムは口を開く。

 

「彼が回収されてね。勿論キミが敗れた後、シャトーからさ」

 

「チッ…!」

 

 ワインを燻らせながらゆっくりと語るアダムの姿に、一層の苛立ちを感じながらもキャロルはじっと堪えて話を聞いていた。

 

「それに、彼に及んだと聞いているよ。キミの起こした事件の責任追及が」

 

「────な」

 

 キャロルは、言っている事が理解できずに頭が真っ白になった。

 

「それに、その件どうも関わっているらしいんだ、ボクの部下がね」

 

 そう言って補足すると、またワインを口に運ぶアダム。

 

「…………そうか」

 

 怒りが回りに回ってどうにかなりそうだった。

 アダムの話は何処まで信用していいのかはわからない。

 そもそもいずれは燃やさなければならないとも考えていた存在だ。

 

 とは言え、助けられたのは事実なのだから、錬金術師としては、借りは返さねばならないだろう。

  

 少しばかりの冷静さを取り戻したキャロルは、そう結論付けた。

 

「で、ヴァイスハウプト。オレに何を求める」

 

「そうだね、君には────」

 

 予定調和とばかりに話す口は、不敵に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 




アダム・ヴァイスハウプト
「人間? ああ、侮ってはいないよ。僕はね」

オッス、我シェム・ハ!
ひょっとしたら出番がないまま終わるかもしれない候補筆頭。
だって未来ハさんじゃないですしおすし。
なお出たとしても集いし七つの音階に叩きのめされる模様。

ふたりはキャロル!
ふたつぶでにどおいしい。
正妻戦争待ったなし。
なおオレの方が想い出の量が万全な模様。
どうするわたし。
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