キャロルちゃんといっしょ!   作:鹿頭

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(たぶんバレないだろう……)

ところで「金色に輝く想い出」あんな事を公式でやっていいのかとぼかぁ、ぼかぁ

筆が滑った気がするヨシ!


困ったダンナサマ

 明くるいつかの日。

 

 マリアさんからチケットとサインを本当に貰えたのだった。

 

 何分、キャロルに出逢ってから随分と経っている。

 記憶が彼方の向こうへ行きつつあったが、それでも前の世界から憧憬があったチケット。

 その上、正真正銘のマリアさんだ。

 

 抑えきれない嬉しさがこみ上げてきたものだった。

 

 その上、ご丁寧に三人分。

『流石に全員分確保ッ!と言う訳にはいかなかったわ。ごめんなさいね』とはマリアさんの言葉。

 

 どうやらオートスコアラーの分も用意しようとしていたらしい。

 律儀というか、なんというか。

 

 一先ず持って帰ろう、という事で通路を暫くの間、浮き足立ちながらも歩いてた。

 

 すると、だ。

 

 突然、背後から伸ばされる手。

 

「えっ」

 

 驚きの声こそ出ていたものの、突然の事に身体が反応せずに硬直したままだ。

 チケットはするりと取り上げられてしまった。

 

「……コレはどう言う事だ?」

 

 よく聞きなれた声だ。

 何とも間の悪い事に。

 手の主はキャロルだったらしい。

 

 雰囲気や声からして【オレ】の方だ。

 

 今の彼女は、いつもの見慣れた小さな姿では無く、大人になった姿に白衣を纏っている。

 

 なんでも、装者達を始めとする面々はどうしてもキャロルの見分けがつかないらしい。

 

 どうにかしてくれ、との強い要望によって想い出に余裕のある方のキャロルが大人の姿を取っているのだとか。

 

 基本的に職員からはキャロルさんとキャロルちゃんで呼び分けられているそうで。

 

 『でもやっぱり呼び慣れませんねぇ〜』とはビッキーの言だ。

 

 個人的にはどっちがどっちかはなんとなく判る上に部屋じゃ、ふたりとも見慣れた小さい姿。

 どの道頼み込めばどっちの姿にもなってくれるから、正直どうでも良いのだが。

 

 

 

 

 そんなキャロルは、怒りが混じった、蔑む様な目をくれつつ、左手を白衣のポケットに突っ込み、右手で件ほチケットと色紙をひらひらと振っていた。

 

 絶体絶命、命の危機…は今更ないだろうが、兎に角ピンチなのだ。

 

「それは……マリアさんのサイン色紙と…今度のライブのチケットです、ハイ」

 

「そうか。不要ないな」

 

 そういうや否や、火の赤い術式が紙を包む様に燈る。

 

「キャ、キャロルッ!?ちょっとまっ、待って!?」

 

「なんだ。言い訳くらいは聞いてやる」

 

「その……せっかく貰っ──」

 

「装者の歌なぞ聞かせるわけないだろう」

 

 言い訳を聞く、とは言うものの、言い終わる前に却下を被せてくるキャロル。

 これは不味い。

 せめて、最後まで聞いてもらわないと、とても困る──!

 

 気を取り直して、口を開いた。

 

「あのねキャロ───」

 

 ハズ、だったのだが。

 

「オレでは…不足か?」

 

「え」

 

「……オレでは不足なのか、と聞いている」

 

 ぷい、と顔を横に逸らしながらキャロルはそう言った。

 吸い込まれる様な白い肌には朱が刺し、彼女の碧眼はちらちらとこちらと目線を合わせては外す事を何度も繰り返している。

 

「歌が聞きたいと言うんだったら、オレが幾らでも歌ってやる…から。その……行くな」

 

 今までこんな彼女の様子は見たことが無い。

 正確な事を上げればあるにはあるのだが、あくまでそれは小さい姿の話。

 それはそれでとても可愛らしく、なんでもしたくなったのだが。

 

 ……今目の前に立っているのはそうではない。

 

 妙齢の女性(実年齢はともかく)とも言うべき姿のキャロルが、童女と変わらぬ振る舞いで引き止めて来るのだ。

 

 これはこれでとてもよい──。鼓動が勝手に速く打ち鳴るのを抑えられない……のだが。

 

「……あのね、キャロル」

 

「な、なんだ……?」

 

「三人分あるんだよね。チケット」

 

 そう、三人分が刻印されている。

 

 この様子だとキャロルは恐らく一人で行ってくる物だと思っているのだろうが、それは違う。

 元々、三人で行こうと誘おうとしたのであって───

 

「…………は?」

 

「だから、その。キャロルも行かないかって話をしに───」

 

「───誰が行くかッ!!!」

 

「わっ」

 

 キャロルは持っていたチケットと色紙を顔面目掛けて叩きつけると、姿を縮ませながら行きながら何処かへと走り去っていった。

 

「えっ、あっキャロル!? ちょっと待っ……むぅ」

 

 さっさと話さなかったのが悪いのか、碌に確かめもせず早とちりしたキャロルが悪いのか。

 この場合は話さなかったこちらの落ち度だろう。

 

「………あと二人分、どうしよ」

 

 

◆◆◆

 

 

「──で、このガリィちゃんを誘いにきたって訳ですかぁ」

 

「そう言うわけ───」

 

「イヤミかテメーッ!?」

 

「あっ、はいすみません。いや知ってるけど! 知ってるけど他に居ないの!」

 

「ハァ!? ミカは兎も角ファラもレイアだって居るだろ!?」

 

 ……ガリィに声をかけるその前に既に誘いに行っている。

 ガリィはマリアさんに一応撃破された身だ。

 その点を踏まえたのだが。

 

『……地味に遠慮しておく』

 

 レイアからは断られ。

 

『その、剣ちゃんのでしたら是非ともご一緒させて頂いたんですが……』

 

 ファラにも断られ。

 

『すみません、ボクは響さん達と行きますので…』

 

 頼みの綱のエルフナインは既に先約があった。

ミカはおててがおててなので安易に連れ出せないので声をかけていない。

 後でこの埋め合わせはしておこう。

 

「みんなには断られたんですぅ……」

 

「……だからと言って、よりによってアガートラームの装者のライブに誘うか普通」

 

「ホントごめんなさい」

 

 床に頭を擦り付けて深く詫びた。

 

 ……どっちか片方のキャロルだけを連れていくと後々血の降る未来が待っている。

 そうならない為にキャロルは誘わず、しかし一人で観に行って不興を買わない様にする。

 両方しなくてはならないライブとはいったい何なのか。

 浮気をバレない様にする輩の気持ちは、かくの如きかと思ってしまう。

 

 いや、もしかしなくてもこの状況はまずいのでは無いのだろうか、と冷たい床で冷やされた頭で思った。

 

「ハァ……ったく。困った旦那様ですねぇ」 

 

 しゃがみ込んだガリィに頭をぽんぽんと軽く撫でる様に叩かれた。

 

「でも。ガリィちゃんは行きません。もうこりごりですよぉ。アイツの歌なんて」

 

「そっ、か」

 

 ──断られてしまった。

 

 聞いてダメ元、と言う所はあったから、仕方ないとは思うが。

 一抹のやるせなさから天井を見上げた。

 

「そんなに見たいモンなんですかねぇ……」

 

 やれやれ、と言わんばかりに諸手を上げるガリィ。

 

「うん……それに、貰った義理もあるし」

 

「そんな義理なんてドブに棄てちまいましょうよ〜」

 

 そう言うとケタケタと笑った。

 

「お前何言って……」

 

 いや、そう言えばそう言う奴だったな、と思い直す。

 この程度でどうこう言っててはこっちが持たない。

 

 持たないはず、なんだけど。

 

 

「ね、旦那様。ここから出て行きません?」

 

「………え?」

 

 ガリィはそう言うと優しく抱き締めてきた。

 自分の鼓動が彼女に反響して、うるさく伝わって来る。

 

オートスコアラー(ガリィ達)がいて、マスターがいる。……まぁなんか増えてますけど。でももう寂しくないじゃないですか」

 

 耳元で本当に優しく囁くガリィ。

 思わず頷いてしまいそうになるほどに。

 

「それにどーせこんな所居たってロクなこたぁありませんよ。良い様に使われるだけです」

 

「………そう、かな」

 

 ──そうかも知れない。

 それは前から思っている事だった。

 と言うより、労働しないヒモ人生に慣れすぎていて──

 

「ヒモに戻るのか…ッ!?」

 

 気分は落雷。

 社会復帰?をした矢先に、こうも容易くヒモに戻る機会が転がってくるとは。

 

 しかし、それは人間としてどうなのか。

 

「……今更すぎやしねーか?」

 

「あ、はい」

 

 心の声のつもりだったが、十分に漏れていたらしい。

 耳元から離れたガリィがジト目で睨んでくる。

 

「んんっ、兎に角……」

 

 空気が変わってしまったから、あのテンションのまま話す事は困難と言えるから、こうなるのも無理は無い。

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばしガリィと見つめ合う。

 冷静になって考えると、距離が少し離れたらこの状況はとても照れくさい。

 

 それに、こんな所を誰かに見られでもしたら、と思うと。

 

「ね、旦那様」

 

 ゆっくりと、眼を瞑った彼女の顔が近づいてくる。

 

「え…ちょっ」

 

身じろぎすると、ガリィの腕は追いかけてきて、離さないように絡みつく。

 

 いよいよ、となって───額がこつん、と付けられた。

 

 

「………えっ?」

 

「おやおや〜さてはキスでもされると思いましたか?」

 

「えっ、まぁ。うん」

 

「イヤですね、そーんな事するわけないじゃないですか、気持ち悪い」

 

「そ、そっか。びっくりし───」

 

 

 

───────

────

──

 

 

 

「あの、ガリィ! ……あー、ごめん何だっけ、何話そうとしたんだっけ」

 

「イヤですねぇダンナサマ。マスターといっしょにライブ行きたいから説得して欲しいって頼んできたんじゃないですか〜」

 

「えっ? そう…だっけ?」

 

「よしてくださいよ〜この歳でボケても面倒見たかありませんって」

 

「あー、そうだった様な……?」

 

「そうですよぉ。ま、説得は任せてくださいな。どーせ、早とちりしちゃったもんだから素直になれなくなっただけでしょうし。ささ、猫かぶってる方のマスターを誘いに行っちゃってください」

 

「ホント!? ありがとう、助かるよ!」

 

「えぇ、ガリィちゃんにおまかせ! ですよ?」

 

 

 




「あ、あわ、あわわわわ……」

「あれ? エルフナインちゃん? そんな慌ててどうしたの?」

「ひぃっ!? ひ、響さん!!? ボクはなにもみてません、みてませんからーッ」

「え? な、なんの話エルフナインちゃん!? ちょっと? ちょっとー!?」

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