キャロルちゃんといっしょ!   作:鹿頭

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地雷を踏んだり直したり

「こうして観ると滑稽だな」

 

錬金術か何かを応用し、空中に映し出された遥か遠くの激戦を、いつからか定位置となった男の膝の上で、煎餅片手に観戦していたキャロルがおもむろに呟いた。

 

フィーネの目論見は成就し、カ・ディンギルが起動。

──月を破壊し、バラルの呪詛を解く。

 

全ては想いを伝える為の行動だったのだが、バラルの呪詛とは呪詛に非ず。

人類を防る為の祝福であった上、巫女の想いは届いていた。

知らずは当人なるばかりとは言え──千年単位の拗らせなのだから、滑稽極まりない。

 

その上、失敗したのだから。

 

バラルの呪詛の真実を聞き、フィーネの動機を知ったキャロルはそう思っていた。

 

「いやぁ、アレはエンキさんサイドにも色々と問題があったから……」

 

「まぁ良い、目的は達成した。それよりもだ……おい、アイツはなんなんだ」

 

先程まで素手でフィーネを圧倒していたOTONAの事について尋ねるキャロル。

あんな大立ち回りを見せられれば、疑問しか湧かないのは当然の帰結だった。

 

「うん? 二課の司令でめっちゃ強い人」

 

「ふざけるな! なんだあいつは!? 本当に生身の人間なのか!!?」

 

───はい、彼はOTONAです。

この感想は余計な混乱を招くだけなので、発言する事なく心の中だけにグッと押しとどめた。

 

「………最優先で対策を練った方が良さそうだな」

 

「あ、時と場合が重なるとノイズも倒せる様になるからあの人」

 

「オレはそんなデタラメ認めんぞ!?」

 

根本条件が違うから、無いとは思うけど。

そんな事を言おうと思ったが、頭を抱えるキャロルが可愛らしかったので、つい悪戯心が湧き、黙っている事にした。

 

 

「……ルナアタック、か。土壇場になった立花響は厄介だな」

 

ひとまずよくわからない理不尽は置いといて。キャロルは、いずれ立ちはだかるかも知れない相手を見据える。

 

「立花響だし、それくらいの事はするで……いふぁいんひゃけど」

 

彼の過去の知識を元に成り立っている、立花響に対する信頼が不思議と気にくわないキャロル。

不躾な発言をした座椅子の頰をおもむろに引っ張った。

 

「知らんな」

 

手を離したキャロルは、苛立ちを抑える様に煎餅を噛み砕いた。

 

「……で、三ヶ月後、だったか? 次に話が動くのは」

 

「あー、そうそう、その辺りで確か翼とマリアのライブがあって、ドカンってなる筈」

 

「………ふむ」

 

ノイズの混乱に乗じてある程度の想い出集めは進んでいる。

 

装者達が精神的に不安定なこの時期にエルフナインを投入するのも一考の余地はあるかも知れない──

そう考え、計画の修正をするべきかと思案を巡らせるキャロル。

しかし、思考はすぐさま打ち切られる事になる。

 

生フランメ聴いてみたいな……

 

その一言が、彼女の逆鱗に触れたからだ。

 

「っっっ!!!」

 

彼女は自身の逆鱗に触れた愚者を振り向きざまに床に叩き伏せ、その胸倉を掴み上げた。

目は見開かれ、呼吸が荒くなっている。

今にもその喉笛を喰いちぎりそうな勢いだ。

 

逆鱗──確かに、逆鱗なのだろう。

 

 

「……よりによって、装者共の歌が聞きたいだと!?」

 

以前の当人で有れば、触れられようが気にする事の無かったという一点を除けば、の話だが。

 

「ふざけるなっっっ!!!」

 

久しく来る事の無かった感情の発露。

 

世界への怨みこそ有れ。

奇跡と片付けた大衆への怒りこそあれ。

だけど。どうしてこんなカタチで怒りが込み上げて来るのか、今のキャロルはよくわかっていなかった。

 

「お前とはっ!オレが望む時に必要なだけ知識を吐き出す、そう言う契約だ!!」

 

目線に力があるならば、とうに死んでいるのではないだろうかと思わせる、燃えるような鋭い眼光。

この時キャロルは、衝動のままに動いていた。

 

「お前の立場を一度ハッキリさせておく必要がありそうだな…」

 

胸倉を摑むキャロルの手に一層の力が入り、彼女の背後には錬金術の方陣が浮かび上がり始める──!

 

「キャ、ろる…っ」

 

「──!」

 

呻くような声と、苦悶に満ちた表情に、キャロルはふと我に帰り、自然と手が離れてしまった。

 

「……クソっ」

 

バツが悪くなったキャロルは、逃げる様にその場を後にした、その時。

 

「…………だったらっ!」

 

キャロルの腕は握られていた。

以前の彼女なら、腕を払いのけて終わる。

しかしそれをしなかった。

 

 

「キャロルの歌が聴きたい!」

 

「オレの歌だとぉ!?」

 

 

続く二の句に反応しきれなかった、というのもあったが。

 

「オレ、の歌は…高く…たかっ…高く……」

 

先程までの意気軒昂はどこへ行ったのか。

キャロルは、言葉を上手く伝えられず──

 

「たかく…つ………ばっ、ばばばばかぁ!!」

 

伝えるべき言葉の代わりに、平手を以って頰に季節外れの紅葉を咲かせてしまった。

 

どこかで、従者達が肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

 

「テメーはバカなのか!?バカだったなぁ!?」

 

茹でダコの様になりながら何処かへと行ってしまったキャロルと、入れ違いでやってきたガリィ・トゥマーンはすぐさま耳を引っ張った。

 

「いたたたたたたた!離して!わかってるわかってます!今回の件は10-0でコッチが悪いって理解してますからぁぁぁ!!」

 

「わかってねーから言ってんだよっ!」

 

耳を限界まで引っ張ってから離すガリィ。

その結果、解放された耳は真っ赤に染まっていた。

 

 

「ひさびさに命の危機だった…ハァ」

 

「ったく……アナタのそーゆーところ、本当気に入らないんですけどぉ」

 

「そうでもしないと生きてけなかったんですぅー」

 

キャロルに戯れに拾われてから、こうした気の緩み──言ってしまえば、『うっかり』による失敗は少なくない。

とは言え、ここまでの規模は流石に初めてだったが。

 

 

「予備知識がなければ今頃幽霊ですものねぇ、アナタ」

 

「本当。最初に出逢ったのが、キャロルじゃなかったらと思うとゾッとする」

 

「……だったら不用意な発言を控えろっつーの!!!」

 

「ああっ、耳がぁ!」

 

 

再び耳を引っ張られた。

いろんな意味でとても痛かった。

 

 

「はぁ……ほらよ」

 

ひとしきり耳を引っ張り終えたガリィが、徐に何かを取り出した。

どうやら、テーマパークか何かのチケットの様だ。

 

「どうぞマスターと行ってきてくださいな。それで機嫌は……そんなに変わんないか」

 

「どうやってこれ…」

 

「ちゃんと真っ当な手段のものですよーだ」

 

ガリィの発言の前にたぶん、ってついてないだろうな、と不安になったのは、そっとしまっておいた。

 

「ありがとう、ガリィ」

 

「はー、そういうのいいんで。早くマスターの所へ」

 

手を追いやる様にひらひらと振るガリィに手を振り返しながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「……な、何の用だ?」

 

キャロルが、他人の目を気にする様になったある時から時々籠る様になった部屋。

しかし、どういうわけだか鍵の類は基本的にかかっていない。

とは言え礼儀としてノックすると、おずおずとした声音が返ってくる。

 

「いや、その……こんなの、あるんだけど…」

 

そういってしずしずとキャロルの前に差し出す、二枚のチケット。

一瞬、呆気に取られたキャロルは、チケットと差し出した本人と何度か交互に視線を行き来させると、やがて溜息を吐いた。

 

「ハァ……ガリィの差し金だな? アイツは本当に……」

 

本当に勝手なマネをする。

 

以前の自分だったら、その事に腹を立てていたのだろうが、今では呆れながらも受け入れていた自分がいる事には、気づいてなかった。

 

「……何故ガリィだと?」

 

「お前が外に出れるわけ……」

 

そう言いかけて、ふとある事に気付いた。

 

「な、なぁ……やっぱり、外に出たかったりするのか……?」

 

そう言えば、アイツが外に出た事有ったか?

戯れに拾ってから、外に、チフォージュ・シャトーの外から出た、出した想い出が無い。

 

忌々しい障害物となるだろう装者達の歌を聴きたいと呟いていたのも、それが原因なのではないか。

 

ふとキャロルは、自分の行いに不安を抱いた。

 

「うーん、そりゃそろそろ外には出てみたいけど……うん。キャロルと一緒がいいかな」

 

「わ、オ、オレと…? そ、そうか……」

 

そんな彼の言葉に、抱えてた不安が何処かへと去り、酷く上機嫌になったキャロル。

 

「それなら……ガリィの思惑に乗ってやらん事も…ない……が、今日は駄目だっ!」

 

「ん? 何か都合が悪いのかい?」

 

「そ、そうだ。今度にしよう。今は日の巡りが悪いから、な、うん」

 

酷く柄にもない様な事を言っている事に、彼女は気づいていない。

むしろいろんな所から勇気を振り絞っている。

 

「か、代わりと言ったら、なんだが……」

 

消え入りそうになりながら、口籠もりそうになりながらも、ゆっくりと、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

 

「オレの歌を…聞かせて、やる、から」

 

「…………ほんとに?」

 

「と、とくべつなんだぞ!? オレの歌はっ……たっ、高くつくんだからなっ」

 

鏡がもしもあるならば、真っ赤になった自分が写し出されているだろう。

 

今までに無い感情に振り回されているが、それがなんだか、無性に心地よく感じるキャロルだった。

 

 

 




反省しない野郎
つい、うっかりでキャロルの機嫌を損ねる事が珍しくない。
それでもこうして生きているのは、味気ないサプリ的なアレそれではなく、せめてマトモな食事を摂りたいと図々しくも抗議し、ならば勝手に作れと用意された調理器具一式と食材を使ってご飯を作り、作り過ぎてしまったから食べてくれと無理矢理おさんどんをする事で好感度稼ぎをしていたから。
なお本人は博打に近い打算でやっていた模様。
ぜひともしんでほしい。

ほだされてしまった錬金術師
図々しくも抗議するナマモノに最初は殺意が湧いたが、そう言えば人間だったこいつと渋々要求を飲んでしまったのが運の尽き。
頼んでもいないのに料理が運ばれ、もちろん殺す勢いで堅く断ったが脳裏に何故か浮かんだ遠い日の記憶と、あーだこーだと言いくるめられる事によって食事をする事になった。ご飯は絶対残さない系のいい子。
本当に機嫌が良い時、二人分の料理をするとかなんとか。

ガリィ・トゥマーン
苦労人。
最近、こっそり始めたバイト先で労働権なるものの存在を知ったとかなんとか。

手を絶対繋ぎたいガール
ルナアタックの英雄にしてガングニールの装者。
ひょっとしたら、融合症例第一号ではないかもしれない。


次回から装者出したい…
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