キャロルちゃんといっしょ!   作:鹿頭

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時には想い出話を

キャロルが何やら考えるのに一人にして欲しいと言う。

 

やる事も無く、暇を持て余していたので玉座の間の床に座り、天井に向かって登る青い光を眺めていた。

 

この場には自分と、活動を一旦停止しているミカだけだった。

 

「地味に浮かない顔だな」

 

ぼーっとしていたら、背後から声をかけられるまで、この場に誰かが来ている事に気付かなかった。

ゆっくり首を回して、声の主を確認してから、口を開いた。

 

「レイア……珍しいね」

 

「それはワタシのセリフだ」

 

そういうとレイアは座りこそしなかったが、隣までやって来た。

 

「一人で黄昏てるとは、地味に珍しい」

 

「キャロルは……なんか忙しいみたいだからね」

 

「それでここ、か」

 

レイアが光が登るばかりとなった台座を見つめてそう言った。

つまり、ガリィは使命を果たしたという事。

 

「わかっているけど、ね」

 

それでも、数年間積み重ねた末の寂しさは拭えない。

頭では、これが流れなのだと理解しているのだが。

 

「……ガリィから、お前が地味に企んでいる事は聞いている」

 

だがレイアの一言で寂しさは何処かへ吹き飛び去った。

 

「何してくれちゃってんのアイツ」

 

そう言えばガリィは性根が腐ってた───

なんて事を思い出しつつ、変な汗が吹き出したのを感じた。

 

「マスターには報告しないから安心しろ」

 

「え、あっうん…ありがと」

 

ホッと一息吐いていいのかわからない。

レイアが知っているという事は他の子も知っているワケで……。

なんとも言えない気分だった。

 

「……先を知るというのは、派手に面倒だな」

 

困ったものを見るように、憐れむようにレイアが見つめている。

 

「でも、お陰でここに居る。悪い事だけじゃなかったかな」

 

「──そうか」

 

その答えに満足したのか、レイアは微かに微笑んだ。

 

「あらあら、レイアとお馬鹿さんとは、随分と珍しい組み合わせですわね」

 

「ファラか」

 

レイアと話し込んでいると、これまた人数が増える。

ちょうど、何かおかしな枕詞をつけながらやって来たのはファラだった。

 

「えっ何そのお馬鹿さんって」

 

「ガリィから聞きましたわ」

 

察するには十分な一言だった。

 

「そうですか……」

 

あのニヒルな笑みがありありと目に浮かび、思わず天を仰ぎ見た。

 

「本当、マスターの計画が失敗する前提で動くだなんて。当初の私達でしたら即刻その場で始末していましたわ」

 

「ファラに派手に同意だ」

 

「……そうですかい」

 

「マスターが貴方を拾ってきた時は本当、何事かと思いましたわ」

 

 

 

 

 

装者がどの程度がこの目で見てみたい。

 

そう言って一人で出かけていったと思えば、見慣れぬ人物を連れて帰って来た自分達の主。

 

 

「もー、犬や猫じゃないんですからぁ、へんなの拾ってこないでくださいよ」

出迎えたガリィが軽い口調で咎めた。

 

「協力者だ。万象黙示録を進める上でコイツの知識は有益だと判断した」

 

「そんなにですかぁ? とてもそうは思えませんけど」

 

「追い追い説明する。取り敢えず適当な部屋でも当てがっておけ」

 

「はーい、ガリィちゃんにおまかせです!」

 

主の言葉に真っ先に反応したガリィ。

 

「オラ、付いてこい」

 

可愛らしく返事をしたのだが、すぐさま態度を一変させると男を連れて行った。

 

「マスター、ご説明を」

 

それを見送ると、レイアが主の意図を問うた。

 

「曰く未来を知る、異界からの来訪者だ」

 

「は……?」

 

 

キャロルは肘掛に腕を乗せ、頬杖をつきながら、先程の出来事を思い返す。

 

 

「未来……だと…?」

 

「そうだ、未来だ」

 

──未来を知っている。

 

自分の名を知っていた人物は、続け様にそう言った。

 

「……何を世迷言を」

 

良くは判らないが、不確定要素は潰しておきたい。

そう思い、伸ばした手の先に灯る術式を展開しようとした時に、そいつはこう叫んだ。

 

「万象黙示録は、このまま行けば必ず失敗する!」

 

「ッ!!」

 

「言っただろう、未来を知ってると」

 

「………」

 

「何なら、今現在はパヴァリアの支援を受けつつ建造しているチフォージュ・シャトーだって、肝心要のトリガーパーツが足りずに困っている」

 

「───もういい」

 

狂人、或いはパヴァリアの──まぁ、どこぞで情報を仕入れた木っ端だろう。

展開していた術式の光を一層強くし、吹き飛ばそうとしたのだが。

 

「待て待て待て待て待て、早まるな早まるな、別に止めようとかそう言うアレじゃない、寧ろ協力しようとだね、いやさせて下さい」

 

「はぁ?」

 

「未来の知識を提供する。その代わりに、身の安全を保証してもらいたい」

 

するとどうだろう。

意外な事に命乞いをして来たのだ。

オレの計画に協力すると言って。

 

「身の安全、ハッ……世界を壊すと知っていてか」

 

実に滑稽だった。

ノイズから逃げていたと言うのに。

この期に及んで、ましてやオレの計画を知っておいて参画したいとは。

 

道化としか思えなかった。

この後に続く言葉を聞くまでは。

 

「自分の世界じゃないんでね、特に思い入れもないさ」

 

「……何?」

 

異界からの来訪者、か。

確か、そんな平行世界を結ぶ聖遺物が有ると言うのを聞いた事がある。

目の前のコイツも、その口なのだろうか。

 

「こっちの世界じゃ、この世界はアニメの中の出来事として認識されていた」

 

「…………?」

 

何を言っているんだコイツは。

怪しい、怪し過ぎる。

 

「そんな目をするのはわかる。だったら、そうだな……キミの造ったオートスコアラーは自分の思考パターンを……」

 

「わかったわかった!よせそれ以上は!」

 

オレとした事が小っ恥ずかしくなり思わず制止してしまった。

どこまで知っているんだかわかったもんじゃない。

 

ものすごく怪しいが…未来から来た……或いは未来を観測していた世界から来たと言う可能性は高いだろう。

 

「しかし、万象黙示録が成功した世界線は見た事がない。だが、ここのキミは失敗の原因を知れる訳だ」

 

「────」

 

成功した例が無い、確かにコイツはそう言った。

……嘘では無さそうだ。

 

それが余計に腹が立つ。

 

成功し得ていない何処かの自分に腹が立つ。

 

その上コイツの態度がでかいのも気に食わない。

なんなんだ一体、頼んでる側だろうに。

 

一方的にこちらを知られていると言うのは、ここまで形勢を不利にさせるのか。

……それもそれでムカつく。

 

 

「どうかな、悪くはないと思うが」

 

「だが、今一つ判らぬ」

 

───正直。悪くはない。

今までの話を踏まえると、未来の知識を得る事は悪くはないと思う、が。

 

「お前の要求は身の安全の確保だ。オレの万象黙示録に協力するのとは矛盾しているだろう」

 

「……キミの成し得る事を見てみたい。そう思った事が有った。そしたらその機会が転がって来たんだ。なら、わかるだろう?」

 

「───ハッ」

 

その答えは、とても意外で。

なんだか不思議と愉快な気分だった。

 

「面白いッ、良いだろう! 気に入った。お前の口車に乗せられてやろう」

 

だがここで釘を刺しておく必要がある。

 

「が、だ。お前はオレの求める時にのみ情報を吐き出せ。お前の余計な知識に、誘導されぬとは限らんからな」

 

未来……オレの事をどこまで知っているのか判らぬが、余計な事を知っていてもおかしくはない。

 

始末しても良かったが。

それを差し引いても異なる位相に有る世界からの来訪者。

 

万象を暴く錬金術師としては、サンプルとして興味深い存在だった。

 

それに、ノイズから逃げ出すだけしか能のない人物だ。

用済みとなれば、どの様にも扱える。

まぁ、精々利用させて貰うとしよう。

 

そんな事に思案を巡らせていると。

 

「───ああ、もちろん」

 

そう言ってそいつは手を伸ばして来た。

 

「………?」

 

その瞬間は意味がわからず呆気にとられたオレは、少しの間固まっていただろうか。

それから少しして、握手を求められているのだと言う事を理解した。

 

迷ったが───

 

拒否する理由も特に見当たらない。

一応の契約の証として、差し伸べられた手を握った。

 

 

 

と、そんな事がさっきあったのだが。

 

何となく、ワケを説明するのが面倒になって。

 

「………まぁ、怪しい素振りを見せたら始末しろ」

 

その程度の指令を下すに収めたキャロルだった。

 

 

 

 

 

 

「───まぁ、怪しい素振りを見せたら殺せとは言われてたがな」

 

「ええ、貴方はガリィに感謝するべきでしてよ?」

 

「ガリィに?」

 

「そうだ。お前がわざと多く作った料理をマスターに振る舞ったり、玉座でうたた寝てる時に想い出に魘されてるマスターを起こしに行ったり、その他諸々事あるたびにちょっかいかけたり……派手に怪しさしかなかったぞ」

 

「本当、露骨過ぎましたわよ貴方。まぁ……それに引っかかるマスターもマスターですが」

 

確かに、用済みになって簡単に始末されまいとキャロルからの印象を良くしようと動いていた事はあった。

 

時々、ふらっとちょっかいを掛けにくるガリィが、思いついたように助言をするのを聞きつつとは言え。

 

そこまで効果があるとは思っていなかったし、そもそも命の危険があった事は気づいていなかった。

 

「ガリィの意見を聞きたい所だったな、ここは」

 

「ええ、きっと面白いお話が聞けたでしょうに」

 

……あの時はなりふり構わずだったから、周りが良く見えていなかったが、冷静に考えるとかなり怪しい。

 

ガリィの事だ、本人は面白がりながらだったのかもしれないが、結果として守られていた事になる。

 

「ガリィ……」

 

今ここに、本人が居ないのが悔やまれる。

 

 

「ムムム…みんなして思い出話、ずるいんだゾ……」

 

ファラとレイアが笑えない話で盛り上がっていると、今の今まで動かなかったミカがおもむろに口を開いた。

 

「ミカが起動したのは最近だから、とっても羨ましいんだゾ」

 

「あなたは燃費が悪いですもの、仕方がありませんわ」

 

羨むミカをレイアが宥める。

とは言えレイアもミカの気持ちは理解していた。

 

「だから、 ミカもそろそろ行かないといけないんだゾ」

 

そして、今はもう想い出を供給出来るガリィがいない。

ミカの時間は刻一刻と過ぎていく。

その事を彼女も理解しているのだろう。

 

「けど……もうちょっとだけ、マスターやみんなと遊びたかったんだゾ」

 

今の彼女の中では、使命感と寂しさがぐちゃぐちゃになっていた。

 

「だからせめてくっつくんだゾ……」

 

そう言って台座から降りたミカは、胸板に顔を押し付けるように、ひしと抱きつく。

おかげで抱きつかれている側は髪が鼻を掠めてくすぐったい。

 

「どういう理屈なのかしら……」

 

その光景にファラが呆れる。

抱きつかれている当人も同じ感想を持った。

 

「ミカは最後に起動したからな。その分マスターの潜在意識が地味に反映されているんだろう」

 

冷静に自分の所見を述べるレイア。

腕を組み頷いている辺り余程自信があるらしいが。

 

「潜在……いや、結構…」

 

潜在意識というか、顕在的と言うか。

とりあえずその考察は間違っているのではないだろうか、と聴かされた人は思った。

 

「マスター御自身ではそんな事しているつもりはなかったのだろう」

 

「なるほど……」

 

「なにがなるほどだ!」

 

ファラの言葉に思わず唸っていると、どこからかやって来たキャロルが抗議の声を上げていた。

 

「あ、マスターなんだゾ! いつから来たんだゾ?」

 

「お前が抱きついた辺りだ! ……まったく」

 

ため息をつきながらミカを引き剥がしにかかるキャロル。

しかしミカは中々剥がれない。

 

「………」

 

剥がれない事にイライラし始めるキャロル。

ミカはキャロルの様子を伺いつつも、離れようとする気配は感じられない。

 

「………!」

 

やがて引き剥がす事を諦めたキャロルは、男の背後に回り、頭を掴みゆっくりと床に下ろすように引っ張りつつ、床に正座した。

 

引っ張られるに任せ身体を倒していくと、頭がキャロルの太ももの上に乗っていた。

 

「……本題に入る。歌女共が気づいた様だ」

 

「と、言いますのは?」

 

ファラが真意を問う。

 

「ヤントラ・サルヴァスパ。フォトスフィア。全てこちら側に確保されている、という事だ」

 

「……ではどうするので?」

 

レイアが尋ねる。

 

「各地に分散して装者をおびき出し、使命を果たせ。その後直ぐにチフォージュ・シャトーを都庁上空に転移させ、計画を実行する」

 

「そっか、いよいよなんだね」

 

「ああ、全て終わらせる」

 

キャロルが何となしに言う。

 

「パパを殺した世界も、不条理な奇跡も何もかも壊して───わたしは掴んでみせる」

 

けれど、続く言葉のその意図がわからなくて。

 

「───ありがとう」

 

「キャロル?」

 

そう言って、キャロルは掌上に術式を灯し、彼の目を覆った。

 

「何…を……?」

 

「ふふ、大丈夫だよ」

 

すると襲ってくる強烈な迄の睡魔。

それに抗える筈もなく。

 

「起きる頃には、全部終わってるから」

 

そんな言葉を聞いた様な気がして。

世界は暗く染まっていった。

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