意識が、浮上する。
最後の記憶は確か、彼女の花の様なかんばせと───いや、今はそれよりも。
一体、何をされたんだ?
「………ぅ…」
瞼を貫く光から逃れようと身体を動かそうとしたが、それは叶わなかった。
動かなかったからだ。
どうやら、自分の身体は縛り付けられているらしい。
「…………」
ここはどこなのだろう。
キャロルは、彼女はどうなったのだろうか。
装者達に負けたのであれば、此処は──
「目が覚めたか」
炭酸飲料の栓を開ける様な音と、金属が擦れた音の後に、力強い足音。
それは、やけに文明の進んだ様に感じさせる音と、それに、一方的にだが、聞き覚えのある声。
起こすぞ、と言う声が聞こえると、言葉通りに自分の身体が機械的に起こされるのを感じる。
眩む眼を堪えて目を開けると予想通り、と言うべきか。
赤シャツを見に纏った、筋骨隆々とした漢が立っていた。
「……風鳴、弦十郎」
「知っていたか。なら紹介は要らないな」
彼との間を隔てる様な鉄格子は無い。
完全に身動きが取れないから、その必要も無いという事だろうか。
「随分と手荒い歓迎じゃないか」
状況は完全には把握出来ない。
だが、拙い目論見は成功までかは不明だが、まずまずの結果を残していると言える。
「上の命令だ。現在、君にはどう言うわけだか、今回の件の首謀者としての容疑がかかっているからな」
全く、と溜息を吐く弦十郎。
当然の反応だろう。
彼らS.O.N.G.は実際にキャロルと戦って、万象黙示録を止めた側だ。
突然湧いて現れた自分の様な存在に容疑そのものが掛かっている事態、鼻持ちならないだろう。
「一応確認しておきたい。キミは人間だな?」
「ああ」
「戸籍を含め、一切の経歴が我々ですら掴めなかったからな、一応の確認だ」
当然だろう。
こことは違う世界から来ているのだから。
寧ろ、戸籍があったら此方としても驚く。
「そうか……なら、キミの置かれた状況は理解しているだろうか」
「ああ、勿論だ」
「───ならどうしてこんな真似をしたんだ!」
室内全体に轟く様な、凄まじい声。
風鳴弦十郎は怒りを露わにしている。
予想外の行動に出られたので、心の準備もしていないし、拘束されてるので耳も物理的に塞げない。
真っ向から風鳴弦十郎と言う男と強制的に向き合わされている。
素直に、気合負けしそうだった。
「本当に彼女の事を思っているならっ!信じているなら、止めるべきだっただろうよ!」
「………エルフナインから聞いたか」
返答こそ無かったが、此方を見据えるその目が、暗にそうだと主張していた。
「今のお前の現状こそ、彼女に対する裏切りだと思わないのか!?」
「……キャロルは今どうなっている?」
「答える必要はない」
「なら、エルフナインは元気か?」
「それも、答える必要はない」
「なら此方も答える気はない」
「………そうか、気が変わったら答えてくれ」
あっさりと踵を返し、退室していく風鳴弦十郎の背中を見送る中。
ふと、ガリィにあらん限りの罵倒をされた事を思い出していた。
『マスターを泣かせたら殺しますから』
オマケに、そんな事を言われたっけ。
結局、泣かせるもなにも無くなってしまったのだけれど。
「キャロル……」
キャロルは今、どうしているのだろう。
流れが変わらないのであれば、想い出の大半を失っているだろう。
だが、躯体が一つだけ余っていた。
運が良ければ、キャロルとはもう一度逢えるかもしれない。
けれど自分がここにいる以上、既に躯体は回収されているかもしれない。
そうなれば……どうなるんだ?
あれこれ考えていると、思考を中断せざるを得なくなった。
またもや何者かが訪れてきたからだ。
「君は………」
「ど、どうも……」
扉が開いたその先に居たのは、ビッキーこと、立花響だった。
正直な所、虚を突かれた思いだ。
てっきり、忍者の緒川あたりがあらゆる手段で情報を吐き出させるのかと思っていた分、尚更だ。
「こんな所に何の用だい?」
「話を……しにきました」
「……ふむ。話、ねぇ」
我々の間には接点は何も無い。
無理矢理にこじつけても、一度だけ、何時ぞやの遊園地の際に身体がぶつかった時だ。
一体、何を話すのかと思うが───
「キャロルちゃんが、世界をバラバラにしようとした理由、知ってますか」
「……………」
立花響の質問の意図を捉えかねる。
何故、そんな事を聞くのだろう。
彼女は、キャロルは父であるイザークに託された《世界を識れ》と言う命題を曲解し、世界を分解する事だと考えた。
早い話が、世界への復讐だ。
しかし、立花響がこうしてここにいると言う事は、キャロルを打倒せしめている訳で。
今更聞く理由が───
「貴方のためだったんだと思います」
「─────は?」
「キャロルちゃんのパパの託した想いはそんな事じゃ──」
ダウルダヴラに、ガングニールが訴えかける。
そうではない、と。
親ならば、子には託すべき思いがある。
ましてや、それが最期の言葉なら。
立花響は、そう言うつもりだった。
そう自分自身も聞いたからこそ、伝えたかった。
しかし───
「パパを殺したこの世界を赦せ、とでも言う気か? ハッ、エルフナインにでも聞いたか?」
全く意に返さないどころか、寧ろ呆れ返っているキャロル。
そんなのは聞き飽きた、と言わんばかりだ。
響は、目を見開き戸惑った。
「復讐の為に世界を壊した所で、後には何も残らない。だからこれはオレの自己満足だと、そう言いたいのか?」
「違うよキャロルちゃん!わたしが言いたいのはそう言う事じゃ───」
「誰かと手と手を繋いで分かり合う、か?」
「────」
絶句。
自分が信ずる信条に、エルフナインから聞いた話。
響は伝えればそれで状況が良くなると思っていた。きっと分かり合えると、思っていた。
そうでなくても、なにかのキッカケにさえなれば、と。
「………パパなら、きっとそれでも赦せと言うんだろう。まぁそれでいいさ、それでな」
でも彼女は、キャロルは大事な事に気付いていた。
とっくのとうに、気づかされていたのだ。
「だが───
「それはどう言う───」
「答える気はないッ!この感情はわたしだけのものだ。他の誰にもくれてやるつもりは無いわぁ!」
キャロルは背後に
「御託はいい。さっさと掛かってこい、シンフォギア!」
世界を壊し、愛に嘆く歌が、此処には有った。
「…………」
話を、聞いた。
聞いてしまった。
「どうしてそんな事をキャロルちゃんが言ったのか、わかりますか?」
「───そんな事……わかんねぇよ…!」
呆然とした。
茫然とした。
愕然とした。
唖然とした。
───慟哭、した。
辿り着いていたんだ。
彼女は命題の解答に辿り着いていた。
その上で、彼女は世界を壊す事を選択していた。
───させてしまった、のだろうか。
何処かで、何かを致命的に間違えていたのだろうか。
だとしたら、一体───?
「……キャロルちゃんの事、大切に思ってたんですね」
響はそう言うと、ポケットからハンカチを取り出した。
「涙、拭けませんもんね」
響は頬を止めどなく伝う雫を拭ってくれた。
身動きが取れない身とは言え、少し恥ずかしかった。
「キャロルには、命題の答えに気づいて欲しかった……けど」
少ししてから、響に向ける訳でもなく、独り言の様に呟いていた。
そこに辿り着かなければ、彼女が救われない。
彼女の時が止まったままなのだと、そう勝手に考えていた。
成功したらそれはそれで良し、失敗したら───万に一つかも知れないけど、そこから、ゆっくりと話せれば。
「キャロルのことをわかってる様で、全然わかってなかったみたいだ」
「そんなの、当然ですよ」
「え?」
「わからないから、言葉を交わして、話し合って、いつか、人と人とが手を繋ぐ奇跡を起こすんですよ、わたし達は」
「───そっか、そうだったな」
要は───もう少し、キャロルと向き合うべきだった。
ただ、それだけ。
それだけの事だったのだ。
結局は、自分が臆病なだけで、逃げていた。
その事を、改めて突きつけられた。
「うん、ありがとう。お陰で視界が開けた。まぁ……遅かったんだけど」
キャロルはちゃんと前に進めていた。
なら、大丈夫だ。
その為に、ここに居るんだ。
拾って貰った命を、彼女の為に使う為に。
だからこそ、キャロルには無事であって欲しい。
と言うからシャトーはどうなったんだ。
躯体の行方さえ判れば、少しは心休まるんだが。
「お礼って言ったら変だけど……そうだね、聞きたい事あるかい? まぁ、言える範囲で答えよう」
勿論、風鳴弦十郎だったらこうはいかないだろうが。
少しでも情報を引き出したいと言う浅ましい打算だ。
「うーん……あっ、ハイ!」
元気に手を上げる響。
「キャロルちゃんと出会ったきっかけってなんですか!」
うん、無理な気がする。
話の流れが、どう足掻いてもソッチの方に掘り下げが入るだろう。
とは言え、この事は隠す程の事ではない。
正直に言っても良いだろう。
「ノイズから逃げ回ってたら偶々会った」
「えっ、そうなんですか?」
「そそ、色々言って……保護して貰ったのがきっかけかなぁ」
本当懐かしい。
よくもまぁ、上手くいったと我ながら褒め称えたい位だ。
「色々?」
「んー、そこは言えないなぁ」
原作知識とか。
キャロルは特に気にする事はなかった。
錬金術師であると言う事。
世界を壊し、万象の摂理を暴こうとしている事を踏まえて交渉材料になる、と思った……いや、結構土壇場で口が滑った気がする。
では装者はどうなのか、と考えると、リスクが高い。
言えるわけがない。
「ふむふむ、所で聞きたいんですけど」
「ん?」
「キャロルちゃんって……どっちの姿が本当なんですか?」
「さぁ?」
「えー、わかんないんですか?」
「曰く完璧以上に完全、らしいからねぇ。そういうのとか関係無いんじゃない?知らないけど」
出会った時のキャロルの心は、あの時に止まったままだっただろうが。
「うーん、よくわからないってのがわかりました!」
「じゃあ、次は────」
「け、結構……聞くじゃないか……」
……根掘り葉掘り聞かれた。
会ってからどれくらいの付き合いだとか、オートスコアラー達の事とか。
特に、好きになったきっかけ、これが一番困った。
どんな言葉を言い繕うとも、答えた瞬間終わりだもの。
キャロル、見た目ちっちゃいし。
と言うよりは、好きとかそう言うあれと言うよりは、大切な恩人とか、そう言ったアレであってだな……
そんな事をアレこれ言っていたが、響が終始笑顔だったのが、なんとも不気味だった。
「いやぁ、だーれもそう言う話しないんで……つい」
「……出会いとかなさそうだもんねぇ、装者」
「そうなんですよ!」
食い気味に前のめりな姿勢を見せる響。
急に叫ぶのでびっくりした。
「翼さんはまぁ緒川さんが居るとして……マリアさんとかどうするのかなーとか思ったり考えたりするんですよー!」
随分と失礼な事を言うじゃないかこの子。
いや、確かにマリアさんは最年長だけれども。
「だからといってねぇ……そんな事を話すかね、普通」
「んーまぁ、おにーさんは良い人だから大丈夫です!」
「それ、根拠全然無いじゃん、大丈夫?」
「本当に悪い人は他の誰かををいい感じに騙して、自分じゃなにもしないんです。おにーさんは違うじゃないですか」
「ずいぶん具体的だね……まぁ良いけど」
具体的にはすてきな帽子を被った全裸とか。
アイツはともかくとして、パヴァリアの三人はどうしているんだろう。
もう関係ない事かもしれないけれど、ただ一言礼は言っておきたかったな。
「他にも色々聞きたいんですけどー、時間も時間なんで、そろそろお暇しちゃっても……」
「そんな一々出るのに聞かなくて良いから……ってか、まだ聞く気だったのか」
一体これ以上何を聞き出す気なんだ、彼女は。
戦慄を覚えるとはまさにこの事なのだろう。
出会ったばかりの寝てるキャロルの頬をつついていたのを、ガリィに見つかった時以来の感情だ。
ガリィこれは違うんだ、キャロルが魘されてる様だったから……
うっ、頭が。
本当に魘され始めたから良……くはないな。
「えへへ、じゃ、また来ますねー!」
「また来るのか……マジかよ」
もう来なくて良いよ、ホント。
容疑者X
成し遂げたぜ。
目論見通りに捕まる事に成功した模様。
尚、どうやって拘束されたかは本人良くわかってない。
ビッキー
一定以上好感度を上げると強制で393とのフラグが立ちます。
気をつけようね!
たやマさん
気づかぬ間に流れ弾を喰らう。
ホントどうするんでしょうね彼女。
アンケート
護国風鳴ルートには突入しなかった。ざんねん!