afnすとーりー:キツネノボタンとの日々 作:hiden456
ブロッサムヒル、時刻は夕刻。
騎士宿舎併設の食堂はダベる花騎士や早めの夕食や晩酌を楽しむ花騎士、夜勤前に何か腹に入れておこうとする花騎士でそこそこ賑わっている。
騎士団長である自分もまた、あと少しの書類仕事の休憩と現実逃避も兼ねて早めの夕食を食べに来ていた。
おや、あそこに居るのは。
揺れる大きな狐耳、さらに大きな2本の尻尾、彼女はキツネノボタン。我が騎士団の第一副団長でもある。
メニューの前でうんうん唸って、一体どうしたのだろうか。
「あ、団長。おつかれおつかれー」
こちらに気づいたキツネノボタンが振り返りそう言った。
まだ仕事はあと少し終わってないのだが。まぁそんな事より、キツネノボタンは何を悩んでいるのだろう。
「晩御飯にしようと思ったんだけど、きつねうどんといなり寿司、どっちにしようか悩んでる」
深刻な悩みでは無いようだ。
「わたしは真剣。どっちも食べたい、悩ましい…」
両方頼めば良いではないか。
「きつねうどんは小さいのが無い。二人前はちょっと多い」
そう言われメニューに目をやる。ハーフサイズがあるのは…素うどんだけか。
「でもそれにはおあげが乗ってない。うーん…」
ふむ。それなら。
「団長、わたし、良い事思いついた」
多分思いついた事は同じような事だと思うが、先に言ってもらおう。
「団長、おうどん多い分、食べてくれる?」
自分が思いついたのはキツネノボタンがハーフのうどんを頼み、自分がきつねうどんを頼んで油揚げを分けてあげるというものだったのだが、ここは言わないでおこう。
「あ、でも団長おうどん半分じゃ足りないよね。団長、何かご馳走させて?」
それには及ばない。むしろ夕食を自分が出してもかまわないのだが。
「そんな、悪い。」
いつも前線で戦ってくれる皆に団長ができる事と言えば
「そう?」
じゃあこうしよう。自分は食べたいものを適当に頼むし、きつねうどんも頼む。少し多いので食べてくれないか。
「団長いつも優しいのにたまに素直じゃない」
口調とは裏腹にぱぁっと笑顔を輝かせるキツネノボタン。
完全にお互い様だと思うが。そうと決まれば、注文を済ませてしまおう。
うどんといなりずし、そしておひたしやみそ汁の乗ったお盆を適当な机に置き、キツネノボタンに奥の席を勧める。
「団長のを分けてもらうんだから、隣に座る」
それもそうか。隣に座るキツネノボタン。おおきな耳がゆらゆら揺れ、つい見とれてしまう。
「どうしたの?」
特に隠す必要も無い。可愛いキツネノボタンに見とれていたのだ。
「…団長、皆に優しいのは別にいい。でも、それはわたし以外に言わないでね?」
素直に可愛いと言う評価を他の花騎士に全くしないのは難しいだろう。だが、誓って、自分の第一副団長はキツネノボタンだけだ。
真っ赤になったキツネノボタンはフードで顔を隠して
「団長、おうどん伸びる。先に食べなさい。」
そう照れ隠しのように言ったのだった。
いなりずしを食べるうちに落ち着いたらしいキツネノボタンが、こんな事を言い出した。
「あ、団長、わたしがおうどん食べたら間接キスになる」
たしかにそうだが、だがそもそもキツネノボタンとキスは何度もしているし、いまさら気にするような事だろうか?
「そうなんだけど、団長は何も感じない?」
そうすこし悲しそうな顔をするキツネノボタン。
決してそんな事は無い、とあわててて否定する。
…そして改めて意識するとむしろ少し気恥ずかしい。自分が食べているうどんをこれからキツネノボタンが食べるのだと考えると、少し顔が熱い。
「団長、顔赤い。そっか、えへへ」
隠し事などできないな。そう言って彼女の頭に手を伸ばし、そのままぽふぽふと撫でる。
「ねえ団長、キツネノボタンの事、好き?」
好きだし愛してるが、皆に見られるかも知れないこんな場所で言わせるのを止めてくれるともっと好きになるかもしれない。そうなるべく不敵なふりをして強がったのだが
「団長、意地悪♪」
そうキツネノボタンは満面の笑みで返してきた。
意地が悪いのはお互い様だが、どうも彼女には勝てる気がしない。
話は変わるのだが、彼女の十八番、魔力付与による治癒および活性化、本人の言うところの『元気にする』についてなのだが。手からも口からもできるのだが、口からするのは自分以外にはしないで欲しいと言うのはわがまなのだろうか。そう切り出してみる。
「そっか、団長、やっぱり気になるよね」
そりゃなる。業務上その対象になりうるのは大抵が同性の花騎士だとしても、やはり第一副団長の唇は独り占めしたい。
「そもそも、口からは魔力を抑えるのも大変だから、失敗したら大変な事になる」
昔周りの人間が片っ端からおかしくなっていたと言う彼女の魔力。今はかなり的確に制御できているようだが、やはり失敗する事も…完全に無いとは言い切れないのだろうな。
「失敗したら大変大変。でもそっか、団長はわたしの事そんなに独り占めしたいんだ、なるほどなるほど」
そう何かに納得したようなしたり顔のキツネノボタン。
「団長はわたしの事、好きなんだよね?」
さっきあまり人前で言わせないで欲しいと言ったばかりなのだが、これは自分のわがままでもある。素直に認める。
「わかった。衛生面の問題もあるし、よっぽどじゃないと口からは団長以外にしない。それに口と口は団長だけ。口と口とは他の誰ともした事無いし、する気もない。これでおっけー?」
安心した。だがもしそうすれば目の前で救える命があった場合は、躊躇はしなくて構わない。
「分かってる。あとワルナスビさんとラークスパーさんはその方が手っ取り早い時はぺろってする事もあるけど、良い?」
あの二人なら仕方ないな。妬けてしまうが。しかし、変な事を言って悪かった。
「ううん、好きな人の事を全部独占したいのは普通の事だって思う。わたしも団長の事、独り占めしたいし、独り占めされたい」
こちらには好きと言わせるくせに、本人の愛情表現はどこか遠まわし。そんなわがままで傲慢な、だが自分の事を間違いなく大好きなキツネノボタン。そんな分かりにくい愛情表現もちゃんと伝わっている事に気づいたのか、少し赤くなりながらキツネノボタンはまだたくさん残ったうどんのおわんを奪い取り、こう言った。
「でも、お仕置きに、後でいっぱいちゅーさせなさい」
まだ仕事が残っているのだが…。と言うか魔力を抑えるのが大変な彼女のキス、それは仕事どころではなくなったりはしないだろうか。
「じゃあ、わたしも手伝ってあげる。終わったら、ご褒美にちゅーさせなさい」
お仕置きとご褒美が同じ内容と言うのは大層背徳的である。
そんな事を思いながら、晩御飯の続きに手を付けるのだった。
ちなみに、うどんもほとんどキツネノボタンが一人で食べてしまったせいで
「食べ過ぎて苦しい、苦しい…団長の部屋で休ませて…」
…こんな感じに、残りの仕事は彼女を見守りながら、一人でする事になったのは別のお話。