このすば戦記   作:Tver

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誰にだって手違いはあるもの

□□□知覚外領域□□□

 

本当に人間共には呆れたものだ。

年々その数は増加しているというのに、信仰心は薄れてゆくばかり。

昔は私に語りかけ、そしてたまには、私の声を聞くことが出来る者もいたというのに、そういう者がいなくなって久しい。

どうしたらよいものか。

 

ふむ、そういえば、信仰心の欠けらも無い奴を、過酷な環境下に送るという試しをしておったな。

そいつは今どうなっただろうか。

恩寵すら与えたのだ。

信仰心が芽生えておっても良い頃合いだろう。

 

少し干渉し、精神をこちらに呼んでみるとするか。

 

 

 

□□□とある場所□□□

 

 

おはようからおそようまで、一日中銃弾と砲弾が飛び交うのが、ライン戦線である。

今朝隣にいた戦友が、その日の暮れには、物言わぬ死体になっている等、日常茶飯事だ。

人的資本と資源の浪費ぶりには、憤りを覚えざるを得ない。

だがしかし、軍人というものは、命令に従い、敵を殲滅し、任務を全うするものであり、かく言う私も帝国軍人であり、給料を貰っているからには、給料分の仕事はせねばなるまい。

まぁいかささか働きすぎな気もするが。

本日も私は、我が第二〇三航空魔道大隊を率いて任務を遂行し、丁度後方基地に帰還したところだった、はずだ。

そのはずだったのだ。

基地に帰還し、部隊を解散させ、配給のK-brotを受け取り、報告書等の仕事を済ませようと、そうしようとしていたところだったのだ。

だが、現状を確認すればどうだ?

気づいた時には、後方基地はどこにもなく、音すら無い、無の空間に私はいるではないか。

どうして、どうしてこなった。

思わず叫びそうになるのを、堪えることができるぐらいには、まだ冷静さを保てていることを喜ぶべきか。

 

後方基地が敵の砲弾に吹き飛ばされて、気がつく前に運悪く死んでしまったとでもいうのか?

まさか、そんなはずはありえない。

後方基地は隠匿されていたはずであり、仮に凡その位置がバレていたとしても、観測手なしに、命中させるなど、ほぼ不可能だ。

こんな後方まで敵観測手を侵入させるほど、帝国軍は間抜けではない。

ではなぜか。

いくつもの可能性を仮定し、それを否定していくうち、冷静さを取り戻す。

そしてある可能性が頭をよぎる。

真っ先に思いつくべきだった可能性。

一番現実的ではないが、一番納得のいく可能性。

この可能性を思いつかなかった、数瞬前の自分を撃ち抜いてやりたい。

 

これは十中八九、存在Xの仕業だ。

私をこのような姿で、くそったれな世界に送り込んだ上に、恩寵と嘯いて、私の精神を汚染するだけに飽き足らず、このような強硬な手段に打って出た訳か。

冷静さを取り戻した私の思考は、素早く状況を把握し、そして悟る。

これは好機だと。

どういう訳か知らんが、私がこの空間に来る直前まで持っていた持ち物は一緒にこの空間に持ち込めたらしく、愛用している短機関銃をしっかりと担いでいる。

帰還直後だったこともあり、予備弾倉は少々心もとないが。

その他には拳銃と、ポケットに突っ込んでいたK-brotまである。

K-brotはともかく、これだけあれば忌々しい存在Xに、一泡吹かせることも出来るに違いない。

いつもはくるみ割り人形や、兵士の死体に乗り移り、幻覚のように現れる存在Xだが、この異様な空間はおそらく、現実世界とは異なる、奴の世界。

この奴の世界で、存在Xに直接銃弾を打ち込んでやれば……

 

不敵な笑みを浮かべるターニャの隣に、淡い光が現れるのは、そのすぐ後だった。

 

 

□□□ライン戦線・後方基地□□□

 

 

任務を終え、後方基地に帰還したばかりのヴァイス中尉は、辺りをキョロキョロとしている、セレブリャコーフ少尉を見かけ、声をかけた。

 

「セレブリャコーフ少尉、どうしたのだ?探し物か?」

 

「はっ、ヴァイス中尉。探し物といいますか……」

 

私が近づいてくるのにも気付かない程に、何かに夢中になっていたセレブリャコーフ少尉は、私が声をかけると、少し驚きつつもその佇まいをなおし、返事をする。

だか、少し歯切れが悪い。

 

「その、ヴァイス中尉、少佐殿をお見かけになりませんでしたか?」

 

「少佐殿をか?」

 

セレブリャコーフ少尉の言う少佐殿とは、我が第二〇三航空魔道大隊の大隊長である、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐のことだ。

 

「はい、少尉殿に確認して頂きたいものがあり、先程から探しているのですが……」

 

「帰還後はたいてい、報告書等の作成をされているはずでは?そちらは確認したのか?」

 

「はい。ですが、どこにもいらっしゃられなくて」

 

少尉殿が、黙ってどこかに行かれたことなど、今までに一度もなかった。

どこかで行き違いになっているだけか?

どこに行かれたのか考えていると、丁度同大隊の中隊長である、ケーニッヒ中尉とノイマン中尉が通り掛かる。

 

「お前達、少佐殿を見かけなかったか?」

 

「少佐殿でありますか?いえ、私は」

 

「私も見かけておりませんが、少佐殿がどうかされたので?」

 

中隊長である、この2人にも何も言わずに消えたとなると、これは大事かもしれん。

いや、何かの抜き打ちか?

とりあえず今すべきことは…

 

「ケーニッヒ、ノイマン!大隊を緊急招集だ!セレブリャコーフ少尉は、もう一度少佐殿と入れ違いになっていないか確認を。大隊招集後、誰も少佐殿の居場所を知らなければ、全員で捜索する!」

 

「「「はっ!」」」

 

何事もなく、杞憂に終わればいいのだが。

ヴァイス中尉は切にそう願った。

 

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