□□□アクセル近郊□□□
「『エクスプロージョン』────ッッッ!!!」
めぐみんがそう言い放つと同時に、数十メートル先にある大岩が跡形もなく消し飛び、そこにはクレーターだけが残っていた。
ターニャ・フォン・デグレチャフは、驚きを隠すことが出来ず、目を見開いたまま、固まってしまう。
どうしてこのような状況になっているかと言うと、めぐみんに日課についてこないかと誘われたのだ。
モーニングコーヒーを楽しんでいると、起きてきためぐみんに誘われ、ダクネスと共に、アクセルから少し離れたここまで来たというわけだ。
ダクネス曰く、めぐみんの日課に他の人がついていくのは、いつもの事だそうだ。
「どうです?ターニャ。これが人類最大にして最強の攻撃魔法、爆裂魔法です!」
「いやこれは……、実に素晴らしいな」
この魔法を放っためぐみんの言葉に、ターニャはただ相槌を打つしかできなかった。
その威力は、ターニャ率いる第二〇三航空魔導大隊による一斉射撃よりも凄まじいもののように見えた。
ターニャが、エレニウム九十五式を用い、精神を汚染されつつ、最大火力の爆発術式を放ったところで、その威力に勝てるかどうかも怪しい程。
そもそも、ターニャがいた世界と、こちらの世界では、魔力が存在することは同じだが、その運用方法はまるで違う。
ターニャの世界で、魔力はより科学的に、科学に関連付けられて運用されている。
そして専ら対人用の軍事利用という方向に発展を遂げた。
一方、こちらの世界ではどうか?
こちらの世界では、主に初級、中級、上級魔法、あとは神の力を借りるという神聖魔法もあるようだが…、主にその3つに分けられる。
そして中級、上級となると一般的には対モンスター用の攻撃魔法として運用され、その力はより自然的なものだ。
例えば上級魔法にもなると、雷を落としたり、竜巻を起こしたりと、自然現象を発生させることができる。
つまり、ターニャの世界での魔導師は、ヘリコプター程度の兵器としての役割が関の山だが、こちらの世界の魔法使いは、一人で自然災害を引き起こせるという訳だ。
このような魔法の知識は、昨晩、カズマから聞いていた。
その際に天界の行き方も聞き、死ぬと行ける、むしろ死なねば行けないと言われ、天界に行くことは諦めていた。
ともあれ、こちらの世界の魔法について聞き、実際に見たターニャは、感服していた。
これだけの高威力のものを、精神汚染などというリスクなしで使えるのかと。
ターニャは、銃弾や砲弾が飛び交う世界で実際に戦争を経験して尚、人類最高の文明の利器は、シャベルだと信じて疑っていなかったが、こちらの世界の魔法を自分の世界に持ち込むことが出来れば、シャベルをも凌駕するのではないかとすら、考え始めていた。
しかしその考えは、リスクについて聞こうと、クレーターからめぐみんの方に視線を向けた時に、直ぐに消え去った。
「めぐみん殿、爆裂魔法が凄まじいのは分かったが、何かリスクが………、どうして倒れているので?」
「爆裂魔法は、その威力故、消費魔力もまた絶大なのです……」
「……つまりは魔力切れか」
「ダクネス、早くおぶって下さい。ずっとうつ伏せなのも辛いのですよ」
そう言うめぐみんをダクネスは、手馴れた手つきで、背負う。
その姿を見て、ターニャは、めぐみんが一人では日課に行かない理由が分かった。
そして、あれだけの高威力の魔法は、それに伴う魔力を消費するということが判明した。
魔力の運用は、魔導師にとって一番重要なことであり、魔力切れで倒れるなど論外である。
もし、そのような者が自分の大隊にいれば、問答無用で敵陣に取り残して、いや、敵に捕まり、情報を吐かれても厄介なので、頭に銃弾を一発プレゼントするだろう、などと考えつつ、やはり最高の文明の利器はシャベルであるという考えに、より確信を持つ。
しかし一方で、何故このパーティは、あれだけ暮らしに余裕のあるパーティになれたのだろうかという疑問が生まれた。
いや、とそこでターニャは自分の考えを否定する。
例え、勝手に他人の物を壊すバカや、一発で倒れてしまうような魔法を使う魔法使いがいたとしても、戦闘になれば、勝手なことをせず、周りをサポートしたり、他の魔法を使い、戦って───
「なぁ、めぐみん。日課で撃つ分には構わないが、やはり、冒険の時のために、何か別の魔法を」
「いやです」
前言撤回。
この分だと、あのバカもの、アクアも戦闘になったところであの調子なのだろうなと思い、何故このパーティは上手くいっているのかという疑問にさらに拍車がかかった。
「さぁ!ダクネス!早く屋敷に帰りましょう!そして今日も豪華な夕食にしましょう!」
「分かった、分かったから!頼むから上で暴れるのはやめてくれ!めぐみん、お前本当に魔力切れで歩けないのだろうな?」
「もちろんですとも。魔力切れで一歩も歩けません。そんなことよりも、ターニャ!今日は何か食べたいものはありますか?」
「いや、私は客人の身。食事に関しては全て貴殿らに任せるよ」
めぐみんに声をかけられ、ターニャの思考は、このパーティに対する疑念から、この世界の食事に関することに切り替わった。
昨晩、屋敷で蟹を食べた感想は、美味、その一言に尽きる。
ターニャとして生きてきた中で一番美味であったかもしれないと思えるほど、美味だったのだ。
なので、実際に食事に関しては彼らに任せるつもりでいたのだ。
できれば何か甘味はないか等と考えつつ、話題が今晩の食事になった、その時だった。
そいつは、けたたましい叫び声と共に現れた。
「一体何ですか!?」
「あれは、一撃熊だ!」
「一撃熊……?」
なんだその物騒な名前は、などと思いつつ、ターニャは叫び声のした方に目を凝らす。
するとそこにいたのは、まだ少し距離はあるが、ターニャが知っている熊という生物より、一回りは大きいであろう獣が、一心不乱にこちらに向かって駆けていた。
「どうしてあいつはこちらに向かってきているのだ!」
「恐らく、めぐみんの爆裂魔法で、眠っていたところを叩き起されでもしたのだろうな」
「何を呑気に分析しているのですか、ダクネス!私はもう今日は魔法を使えません!そんなこと言ってないで早く逃げますよ!」
「いや、めぐみんを背負いながらに加え、ターニャもいるとなると、逃げ切るのは厳しいだろう。ここは私に任せろ!ターニャ、めぐみんを頼むぞ」
そう言うとダクネスは、背負っていためぐみんを、ターニャの傍らに置くと、少し頬を紅潮させ、一撃熊の方へ走って向かっていった。
その姿を見て、ターニャは確信した。
このパーティは、彼女、ダクネスによって支えられているのだろうと。
一撃熊に向かう際に見せたあの頬の紅潮は、恐らくあの魔物との戦闘に対する喜びから。
つまり、彼女は、自分が率いる大隊連中と同種、バトルジャンキー、戦闘狂の類だろうと、ターニャは判断する。
なるほど、だからこのパーティは成り立っていたのだろう。
バカと一発屋を抱えていても、ダクネスが全て倒せてしまう、いや、倒してしまうのだろう。
ターニャの考えが正しいことを証明するかのように、置いていかれためぐみんも、特に心配している様子もない。
あの容姿で、バトルジャンキーとは、本当に人とは分からないものだな、などと考えつつ見ることができたのは、最初の数分間だけだった。
最初はよかった、いや、よく見えた。
あの巨体から放たれる一撃を、剣で受け止め、それを弾き、反撃する。
しかし反撃叶わず、剣は空を切り、再度熊の攻撃を受ける。
この調子を繰り返していたのだが、しばらくしてからターニャは、異変に気づいた。
ダクネスの動きが少しぎこちなく、そして攻撃は、躱されるでも、受け止められるでもなく、ただただ、毎回空を切っていた。
バトルジャンキーとして、わざと戦闘を長引かせているのかなどとも考えたが、それにしても攻撃がスカばかりだ。
なぜ攻撃を当てないのか……、いや当てないのではなく、当たらない?
そう気付いたと同時に、ダクネスの動きのぎこちなさの正体にも気付く。
それは、避けられるだろう攻撃も、避けずに、むしろ剣で受けようとしていたのだ。
この2点に気がついた時、ターニャの中で、とある考えが浮かぶ。
自分で考えておきながら、にわかには信じ難いものだったが、このパーティのメンバーであるなら有り得るなと、ターニャは思った。
そしてそれが正しいのであれば、少しの間でも同種だと考えてしまった、自分の大隊連中に謝罪せねばなるまいと思いながら、ターニャは拳銃を抜く。
そして、あまり使いたくはなかったなど思いつつ、貫通術式を込め、ダクネスと一撃熊が距離をとった一瞬をつき、銃弾を一撃熊の眉間にお見舞いした。
ターニャの目論見通り、魔物と言えど、頭を撃たれては死んでしまうらしく、発砲音と共に、頭を撃ち抜かれた一撃熊は、その場に倒れ伏した。
突然の事で、何が起きたのか理解できなかったダクネスだったが、ターニャが何かを構えている姿を見て、彼女が何かしたのであろうと気付き、剣を収めて、そちらの方へ向かう。
「せっかく一撃熊の重い攻撃をたのし………、コホン、いや………、助かった。礼を言うぞ」
「今楽しんでいたと言ったのか?」
「言ってない」
カズマ、もう少しパーティメンバーは考えて選ぶべきだぞと、心の中でターニャは呟いた。
記念すべき10話ということで、ここまで読んで下さった皆さん、ありがとうございます
恐らくこの辺りが折り返しで、あと半分か少し超えるぐらいだと思います
一応最後は考えてあるので、そこまでゆるーくつきあって頂けたらと!