このすば戦記   作:Tver

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人の根性はなかなか変わらない

□□□ギルド□□□

 

「あーイテテ」

 

俺はわざとらしくそう言いながら、大きく肩を回す。

その声はギルドの喧騒にほとんど飲まれてしまうが、俺の周りにいる奴らには聞こえているはずだ。

 

「どうした、肩が痛むのか?日頃寝てばかりいるものだから、身体が固まってしまったのではないか?」

 

これが、俺の皮肉を皮肉と分かっていながら、笑顔で皮肉を返してくる幼女、ターニャである。

本当に可愛げのない幼女だ。

エリス様、俺はいつになったらこの幼女から解放されるのでしょうか。

 

「それにしても、カズマが一週間で屋敷から出てくるとは驚きだな」

 

「そうですね。いつもなら、あと一週間、いや二週間ほど籠っていてもおかしくありませんからね」

 

「俺だって出たくてでたんじゃねぇよ」

 

そう、本当なら今日も屋敷で英気を養う、もとい自堕落な生活を送っていたはずだったのだが………

恐らく、出会った頃から感じてたターニャに対する忌避感の正体はこれだったのだろう。

あいつは、生真面目すぎるのだ。

主に労働に対して。

俺と性格が合わないのは当然のことなのだ。

 

それにしても、俺と似たような考えのアクアを手懐けるとは、予想外だった。

今もターニャの斜め後ろに控えるようにして立っている。

 

「なぁ、どうやってあのアクアをこんな風にさせたんだよ」

 

「なに、少し労働の大切さを教えてやったまでだ。一ヶ月で使える部下を育成するより容易い事だったよ」

 

「お前の部下の心中をお察しするよ……」

 

労働の大切さをねぇ。

金持ちになって、自堕落な生活の楽しさを覚えたあのアクアに、そう簡単に教えられるものなのだろうか。

まぁもちろん言葉による教育だけでは、なかったのだろうが。

それでも、人に何を言われようが、変わらないのがアクアである。

ここは一つ、かまをかけてみるか。

 

「なぁアクア、お前その兵隊ごっこを楽しんでるんじゃないのか?」

 

「…………」

 

今こいつ、肩がビクッてなってなかったか?

俺は疑いの目でアクアを見つめ続ける。

 

「ジーーーーー」

 

「─────プイ」

 

あ!こいつ顔を逸らしやがった!

やっぱりアクアは、どこまでいってもアクアで、今も遊びの一つだったのか。

ということは、あと三日、いや二日ほど続けばいい方か?

なにあともあれ、あのターニャですら、アクアの根性は変えれなかったようだ。

 

「ターニャさん、あんたの教育はどうやらあいつには届いてなかったみたいですよ」

 

「……そのようだな。これは部下を育てるより大変な事だと訂正する必要があるかもしれんな」

 

アクアをそう簡単に変えられれば、俺も苦労はしなかっただろう。

俺はアクアがいつものアクアだということに少し安心しつつ、同時に、ターニャをもってしても、アクアを変えることは出来ないという事実に、アクアはどうしようも出来ないのかという諦めにも似た感情が芽生えた。

 

「ターニャ!こっちですよ!」

 

俺達がアクアについて話している内に、めぐみんとダクネスは先に、受付までいってしまったらしい。

今日ギルドに来た目的は、クエストを受けるということと、もう一つ、ターニャの冒険者登録だ。

なんでも、いつまでも他人の世話になっている事が許せないらしく、自分で生活費を稼ぎたいそうだ。

幼女は他人の世話になるべきだと思うのだが、ターニャの中身を知っているだけに、そう思う理由は分からなくもない。

それでも、俺なら甘んじて世話になるだろうから、やっぱりターニャとはつくづく性格が合わないなと感じるばかりである。

それにこの世界の冒険者は、せちがないから他のバイトとかで稼いだ方がいいと伝えたのだが、どうやら冒険者、とりわけ魔法に興味があるらしく、冒険者になることを譲らなかった。

であるならば、特に反対する理由もなく、冒険者登録に来た訳だが、

 

「お姉さん、こいつの冒険者登録頼むよ」

 

「えっと……カズマさん?どなたの冒険者登録ですか?」

 

「だからこいつのだって」

 

俺はそう言いながらターニャの頭の上に手を置く。

ターニャの身長は低いが、それでも受付のお姉さん、ルナから見えないわけではないだろう。

 

「私の頭の上に手を置くとはいい度胸だな?」

 

俺はその声を聞くやいなや、手をどけ、横目でターニャを確認する。

ターニャも横目で俺のことを見ているようだが、その目つきはかなり鋭い。

あまりにも置きやすい位置だったので、つい置いてしまったが、ターニャの機嫌をかなり悪くしみたいだ。

 

「悪かったって、こうした方がお姉さんも分かりやすいと思ってさ」

 

「あのーカズマさん、そちらの女の子を冒険者に?いくらカズマさんとは言っても、そのような少女を冒険者にするというのは………」

 

ルナからこんな少女を無理やり冒険者にさせようとするなんて、みたいな非難の視線を浴びせられる。

まぁ普通に考えたら非常識なのは十分に分かる。

さてどうしたものか。

 

「受付のお姉さん!ターニャはそんじゃそこらの幼女とは違うのです!なんとあの一撃熊を一人で倒すことができるのです!」

 

「めぐみんの言っていることは本当だ。もしターニャがいなければ、私は今頃……、今頃……カズマ!私は今頃どうなっていたのだろうか!?」

 

「しらねぇよ!ていうか一撃熊を倒したなんて初耳なんだけど!?ホントなのか?」

 

「あの熊のことか?あれならまぁ一発撃ち込んでやったが──」

 

「一撃熊を一撃で!?その話が本当なのであれば、冒険者になることを許可しても良いかもしれませんね」

 

ターニャがいつの間にか討伐していた一撃熊のおかけで、無事に冒険者登録はできそうだ。

ただ、拳銃って熊を倒せるほどの威力あったっけ?

そんな疑問を俺が抱えつつ、ターニャが魔道具に手をかざしていた時、不意に視界の隅で、手をこまねき、俺を呼んでいる人影を見つけた。

何故こちらに来ないのか、不思議に思いつつも、俺は人影の方に向かい、彼女の後をついて行くことにした。

 

 

 

□□□ギルド・裏手□□□

 

 

 

「こんな所まで呼び出して、どうしたんだよクリス」

 

「えっと、人がいない方がいいかなぁって思ってさ」

 

俺のことを呼んでいたのはクリス。

ダクネスの友達で、俺もいくつかスキルを教えて貰ったりした仲だ。

 

「そう言えばここって、俺がクリスのぱん───」

 

「あぁぁぁあー!もうその事は言わないで!」

 

「何だよ。勝負をしかけてきたのはクリスの方だろ?」

 

「そうだけど!私も反省して、もうあんなことはしてないの!」

 

そうここは、俺がクリスとスティール勝負をした場所である。

こんな所まで呼び出して一体何の用なのだろうか。

 

「そんなことよりも!今は大事な話があるの!私はね、敬虔なエリス教徒で、よく教会に行くんだけどね、たまにエリス様の声が聞こえる時があるの。で、今朝も聞こえて、カズマくんを教会に連れてきて欲しいって」

 

「え!?教会に行けばエリス様とお話できるの!?」

 

「今回はね!?エリス様も何か用事があるみたいだし、本来であれば忙しいから、敬虔な信者でも滅多に声は聞こえないんだよ!ところでキミは、エリス様に呼ばれることに心当たりはあるの?」

 

「エリス様とお話できるのかぁ、え?心当たり?心当たりと言えば……」

 

多分ターニャの事だろうな。

もしかしたら、ターニャを元の世界に返す方法がわかったのだろうか?

やっと俺はあの幼女から解放されるのか!?

 

「まぁ心当たりは、あるにはあるな。今日は冒険に行くだろうから、明日にでも教会に顔をだしてみるよ」

 

「なるべく早く行くようにしてね」

 

ターニャもなるべく早く帰りたいだろうし、明日の朝にでも教会にいくか。

 

「こんな所にいたのか。あー、………お邪魔だったかな?」

 

そう声を掛けてきたのは、ターニャだった。

どうやら登録を終わらせ、俺のことを探しに来たみたいだ。

何やら少し誤解しているようだが。

 

「別に密会ってわけでも───」

 

「私はしっかり伝えたからね!ちゃんと教会まで行ってね!それじゃ!」

 

ターニャが来るやいなや、クリスはそう言い残し、立ち去ってしまった。

まるで何かに怯えているかのようだったが……

 

「やはりお邪魔してしまったかな?」

 

「だからそんなんじゃないって!それよりも登録は済ませたのか?」

 

「あぁ先程済ませたところだ。どうやら私にはウィザードという職業に適性があったみたいでな。魔法とやらに興味があったのでな、丁度よかったよ」

 

「それは良かったな。ところで他の奴らは?」

 

「めぐみん殿達には、今日受けるクエストを選んでもらっているところだ」

 

「あいつらだけでクエストを選んでるのか!?」

 

俺はターニャの言葉に一抹の不安を覚えつつも、とりあえずやばいクエストを受ける前にめぐみん達と合流するために、少し急いでギルド内に戻って行った。

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