このすば戦記   作:Tver

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~前話のあらすじ~

ターニャの初クエスト。(見学のみ)
カズマの経験則に基づく、効率的作戦によりクエスト達成。
重軽傷者:0名 粘液まみれ:2名


常識なんて犬も食わない

□□□ギルド□□□

 

 

 

「もーやってられないわ!酒よ酒!今日はたくさん飲むわよ!」

 

そう言いながらアクアは既に、ジョッキを呷り、酒で喉を潤していた。

 

「今朝は禁酒をしていると聞いた気がしたんですけど、いいんですか?ターニャさん」

 

カズマはそんなアクアを横目に、ターニャへと疑問を投げかける。

 

「私とて、丸呑みされたその日に禁酒を求める程、鬼ではないさ。そもそも私が禁酒を求めたのは、働かずして酒を飲み、怠惰な生活を送っていたからだ。しっかりと労働をする者に対して、飲酒や娯楽を辞めるように強要するつもりは微塵もないよ」

 

そうですかいと、空返事を一つ返し、カズマもクリムゾンビアを一口飲む。

 

ターニャ達一行は、クエストを終え、報告と共に夕食を食べるためにギルドへ来ていた。

しかしそこでターニャは、一つ驚くことになる。

それはこの街の名物が、カエル肉だということ。

それもただのカエル肉ではなく、今日クエストで討伐した、ジャイアントトードなる魔物のカエル肉なのだ。

それを唐揚げにして食べるのが、この街では普通らしく、確かに軽く周りを見渡すだけでも、それらしいものを食べている人を見つけることは出来た。

それにターニャとて、特段カエル肉が嫌いな訳ではなく、食用のカエルが存在していることも知っている。

なので、薦められるのであれば、もちろん食べるが、そのサイズ、人間を簡単に丸呑み出来るほどの巨体故に、少々の忌避感を覚えたターニャは、一応の付け合せとして、野菜スティックも一緒に注文した。

 

しかしその忌避感は直ぐになくなった。

カエルの唐揚げが運ばれ、カズマ達がなんの躊躇いもなく食べる姿を見て、ターニャもカエル肉に齧り付く。

瞬間口の中に広がるのは、肉厚なカエル肉から溢れる肉汁。

外の衣はカリッとしており、思わず、二口、三口と頬張ってしまう。

それはまさに名物の呼ぶに相応しいものだった。

 

「その様子だと、カエルの唐揚げを気に入ったようだな」

 

そう話すのは、自身もカエル肉を片手に持ちながら頬張っているカズマ。

 

「あぁ、この街の名物というのも納得だ。ただ、私にとっては少しばかり大きすぎるがね」

 

このカエルの唐揚げがこの街の名物たる所以は、味だけではない。

それは安価でボリューミーなところである。

ギルドの食事は、たいていが冒険者向けのため、ほとんどの場合は喜ばれるが、ターニャの場合はそうではなかった。

それもそのはず。ターニャはその齢故に、体躯も人より小さい。

なれば、胃袋も小さいのは当たり前のことであり、そんなターニャにとって、冒険者向けの食事はいささか、多すぎるのである。

また、日頃より油物に慣れていないターニャにとっては、胃もたれを起こすには十分なものであり、直ぐに付け合せで頼んでおいた、野菜スティックが恋しくなるのは必然なことであった。

 

箸休めとばかりに、野菜スティックへ手を伸ばすターニャ。

色々な種類の野菜がスティック状にカットされており、一瞬どれを食べようか悩むが、結局一番手前のものを摘む。

………が、その摘もうとした指は空をきった。

確かに摘んだと思ったその野菜スティックは、まるで摘もうとした指を躱すかのように動いた……ようにターニャの目には見えた。

もちろんそんなはずがある訳もない。

 

「こちらの世界に来てから、なかなか快適な生活を送れていると思っていたが、存外疲れが溜まっているのかもしれんな」

 

誰に言うでもなくそう一人呟くと、一度、目を擦り、再び野菜スティックへと手を伸ばす。

しかしながら結果は同じ。

またもやターニャの指は空をきった。

一度ならず二度までも同じことになり、さすがに原因は自分でなく、野菜スティックの方にあるのではないかと、観察するも、特に変わったところは無い。

そんなターニャの悩みを知ってか知らずか、伸びてくる手が一つ。

 

「食べないのなら、一つ頂きますね」

 

そう言いながら、机を軽く叩き野菜スティックを何事もないかのように一つ摘み、食べるめぐみん。

 

「おい、めぐみん。人のものを食べるだなんて行儀が悪いぞ」

 

そんなめぐみんに注意するのは、ダクネス。

しかしめぐみんは、何処吹く風と野菜スティックをポリポリと食べる。

 

「いや、気にしないでくれ。どうせ一人では食べきれんからな」

 

「ほら、ターニャもこう言ってますし」

 

「はぁ、すまんなターニャ。……その食べきれないのであれば、私も一つ貰ってもいいだろうか?」

 

ターニャがもちろんと答えると、ダクネスもテーブルを軽く叩くと、その後野菜スティックに手を伸ばし、口へと運ぶ。

その様子を見て、ターニャも再度、野菜スティックへ手を伸ばすが、やはり摘もうとした指は空をきる。

二度ならず三度までも、掴み損なったターニャは、まるで野菜スティックにコケにされているかのように感じ、苛立ちのあまり身体をワナワナと震えさせてしまう。

後一歩のところで叫び声を上げそうだったが、文明人であるターニャの理性がそれを留めた。

そしてこの世界とは別の常識を知っているであろう、隣の男に問いかける。

 

「カズマ、この世界の野菜は、もしかしてだが、動いたりするか?」

 

「何言ってんだよ、新鮮な野菜は動くに…………」

 

そこまで言うとカズマは、言葉を詰まらせた。

不思議に思い、ターニャがカズマの顔を覗くと、そこには青ざめたカズマの顔があった。

 

「……すまない、ターニャ。俺はこの世界に長くいたせいで毒されてしまったようだ。野菜が動くなんて普通ありえねぇよな……、ハハハハ」

 

「ということはやはり……?」

 

「あぁ、この世界の野菜は……、動く」

 

その後ターニャは、カズマから野菜スティックの食べ方、机を軽く叩き、野菜を怯ませたところで摘んで食べることや、この世界の野菜について、収穫前の野菜は人に食べられまいと、襲ってくることなどを聞き、野菜スティックが動いていたように見えた自分が正常だったことに安心しつつも、野菜という食べ物に恐怖心を抱いたのは言うまでもない。






バナナチョモランマの乱に巻き込まれて、投稿が遅れました。
………というのは冗談です。
あ、バナナチョモランマの乱というのは歌で、まだ聴いたことがなければYouTubeで是非聴いてみてください。
アニメの幼女戦記が好きな方には、特にオススメしておきます。

というのはさておき、今回投稿が遅れたのは、単に春休みになり、登下校という執筆時間が失われたわけでありまして……
ただ、幼女戦記12巻が先日発売されて、読んでいるうちに、書かねばと思い至り、現在に至ります。
次話はもう少し早く書いてみせます(予定)

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