□□□ウィズ魔道具店□□□
ターニャが扉を開けると、紫色の衣服に身を包んだ店主が朗らかな笑顔で出迎える。
「いらっしゃいませ。あら、ターニャさん。今日はお一人なんですね」
ウィズの出迎えに対し、ターニャは軽く挨拶を返す。
この店の店主、ウィズは一見人の良さそうな顔をしているがその正体は人ではなく、リッチーである。
過去の過ちを戒め、警戒を怠ることのなくなったターニャには、その人間離れした魔力が、ひしひしと伝わっていた。
しかしながら問題が一つ。
それはこの店の近くに来るまで感じていたもう一つの魔力反応を捉えることができないことである。
「ウィズ殿、一つ伺いたいのだが、バニル殿はどちらに?」
ターニャの質問に対し、ウィズは特に何かを答えることはなく、キョトンとした表情を浮かべるだけであった。
ターニャは、何故ウィズがそのような反応をしたのか一瞬考え込むが、直ぐにその答えに気づいた。
「ギルドから厄介な仕事を頼まれた憐れな者よ!我輩ならずっと貴様の後ろにいたのだが、気づかなかったのか?フハハハハハハ!」
ターニャの質問に対し、ウィズがあのような反応を見せた答えは単純、ウィズの視界では、バニルをしっかりと捉えており、どこにいるのかという質問の意図が分からなかったのである。
「バニル殿、いちいち私の後ろに立つのはやめてもらえないだろうか?」
「ふむ、確かに貴様からは我輩好みの悪感情は得れそうにないか」
「ついでに言わせてもらうと、私の頭の中を勝手に覗くのもやめて頂きたいのだが?」
「我輩を何の悪魔か忘れたのか?世の中を全てを見通す悪魔であるぞ?」
バニルはそう言うと、ターニャの顔に仮面をつけた顔を近づける。
「やはり貴様は中々興味深い。どうだ我輩と契約をせぬか?あの成金小僧よりも儲けさせることを約束するぞ?」
「生憎だが、私は神はもちろん悪魔を語る輩も信じないと決めているのでな」
「あんな奴らと同列に考えられるの些か癪ではあるが、仕方がなしか」
バニル残念そうな表情を浮かべつつも、まるでその回答は想定内だと言いたげな表情を浮かべ、どこからともなく小さな何かを取り出すと、それをターニャに向けて放り投げる。
ターニャは反射的にそれを受け取った。
「これは………」
「それはこの世に一つしかない携帯ストラップ型ミニバニル人形であるぞ!まぁこの世界には携帯なぞないのだがな!フハハハハハハ!」
ターニャの手元にあるのはまさに、ターニャが前世でいくつも見てきた携帯ストラップそのものであった。
「どうしてこれを私に?」
「それを持っていれば、貴様にふりかかる不都合を一つだけ取り除くであろう!大事に持っておくがよいぞ?」
ターニャは不審に思いつつも、それを懐にしまい、ウィズ魔道具店を後にした。
それを見送る、ウィズとバニル。
そしておもむろにウィズが口を開いた。
「バニルさん、あの人形あげちゃってよかったんですか?魔力をかなり込めて作っていたみたいですけど」
ウィズの言葉に、バニルは何も答えず、ターニャが出ていった扉をそのまま見つめている。
「………バニルさん?」
しばらくしてから、ゆっくりとバニルはウィズの方に振り返る。
その目不審に紅く光っていた。
「時に貧乏店主よ。我輩がポーションを仕入れるために金庫にしまっていた金をどこにやったのだ?」
「そういえば!この前とてもいい魔道具を見つけたんですよ!それの購入資金に使わせて頂きました!」
とてもにこやかに笑うウィズに対し、バニルの目は更に紅く光る。
「……えっと、バニルさん?そのどうして殺人光線の構えを?バニルさん?ば、きゃぁぁぁぁぁ!!」
その後しばらく、ウィズの悲鳴が響き続けた。
来週も週末に投稿できるように頑張ります。