□□□アクセル・屋敷□□□
誰かが俺の部屋に近づいてくる足音がする。
足音から察するに、おそらく目的地は俺の部屋。
大方、めぐみんかダクネスのどちらかが、俺を冒険に連れていこうとやってきたのだろう。
今日はどうやって追い返してやろうかと考えつつ、俺は布団にもぐり防御体勢を整えた。
そして案の定ドアノブに手がかかり、部屋に入ってきたのは───
「カズマ!冒険に行くわよ!」
俺の予想に反し、青髪の自称美人プリーストのアクアだった。
「どうしてお前が来るんだよ!お前はこっち側のはずだろ!?」
「はぁ?あんた何馬鹿なことを言っているの?私達は冒険者なんだから、冒険に行くのが当たり前でしょう!」
普段のアクアであれば、こんなことは言い出さない。
間違いなく何か裏があると気づいたが、その答えは遅れてやってきためぐみんとダクネスによってすぐに判明することになった。
「ターニャが居なくなってから、散財のしすぎでお小遣いが底をついたみたいですよ」
「今日は3対1だぞ。これでも冒険に行かないと渋るつもりか?」
ダクネスの言葉を聞き、俺は1度布団の中に戻り、大きなため息をついた。
そして、布団からでて、
「しょうがねぇなー」
一言そう言い、冒険の準備を始めるのであった。
□□□アクセル・ギルド□□□
俺達は今、クエストを探すために掲示板の前に立っていた。
俺はとりあえず新人冒険者向けのクエストを探し、いつも通りカエルの討伐クエストを取ろうとした時、その隣にいつもは見かけないクエストを見つけた。
「新人冒険者対象冒険訓練クエスト?」
俺のつぶやきを聞き、他の皆も興味を示したのか、俺が手にした依頼書を覗き込む。
その依頼書には、こう書かれていた。
『新人冒険者対象
新人冒険者3~5パーティで行う
アクセル近郊の森のとある地点まで進み、そこで夜営した後、アクセルへ帰還
クエスト達成条件:参加し帰還すること
その他、道中倒したモンスターに応じ別途報酬有り
担当官及び中級冒険者同行
※中級冒険者は、別に募集用紙有り
依頼主:アクセルギルド 補助職員 ターニャ・フォン・デグレチャフ』
「参加するだけで報酬が貰えるなんて、お得なクエストね」
アクアの呟きに誰もが頷く。
「俺らの時もこんなクエストがあればなぁ」
俺はそう言いながら、冒険者になりたての頃を思い出していた。
冒険者といいつつ、土木工事をしたり、クエストを受けてみたら、巨大カエルに追いかけ回されたりと、ろくな思い出がない。
……だが少し待てよ。
このクエストの発注はギルドではなく、ターニャだ。
おそらくろくなクエストじゃなさそうだ。
「それもそうですけど、私達はもう立派な冒険者です!どうせならこっちの新人冒険者に同行する中級冒険者用のクエストを受けてみてはどうですか?」
そう言いながらめぐみんは、中級冒険者用の募集用紙を俺に手渡す。
それを受け取ると、ほぼ同時に後ろから声を掛けられた。
「そちらのクエストは今朝、定員が集まり出発したばかりなので、現在は受け付けておりませんよ?」
声を掛けてきたのは、受付のお姉さん、ルナだった。
「そちらのクエストは、好評で募集をかけるとすぐに定員が埋まってしまうんです。なので早めの受付をオススメしていますが………」
そこまで言うと、ルナは言葉を詰まらせた。
何やら少し気まずそうだ。
「どうかしたのか?」
「……その、カズマさんのパーティが中級冒険者として同行されるのはちょっと……」
俺はそこまで聞いて、ルナが何を考えているのかを察した。
中級冒険者の役割は、言わば護衛だ。
そんな護衛に、爆裂娘やドMクルセイダー、ましてやトラブルを持ち込む駄女神がついて、新人冒険者達を守れるわけがない。
俺はそっと中級冒険者用の募集用紙を掲示板に戻した。
そして改めて掲示板を見回し、ある事に気がついた。
「なんだかクエスト少なくないか?」
「確かにそうね。あのデュラハンが来た時程じゃ無いけれど少ないわね」
俺達の疑問に答えてくれたのは、ルナだった。
「申し訳ありません。現在多くの冒険者方が積極的にクエストに取り組んでおりまして、どんどんクエストがなくなっていってるんですよ。それもこれもターニャさんに仕事を頼んでからのことでして、ギルドとしては嬉しい限りです」
いつもの営業スマイルとは違い、今のルナは心から微笑んでいるかのようにみえた。
実際ギルドを見渡すと、いつもは飲んだくれしかいない酒場も、今は情報交換や作戦会議など、活気に溢れている。
「そういえば、貴族の間でも話題になっていたな。最近アクセルの街の冒険者が活躍していると。いつもは怠けきっているこの街の冒険者が本当にここまで活発に働いているとは、信じ難いものだ」
ダストが、皆変わってしまったと騒いでいたが、特に問題はなさそうだ。
まぁダストには居心地がわるいだろうが。
ギルドが変わったとしても、俺たちに出来ることは変わらない。
なので、俺はアクアが持っている白狼の討伐クエストを取り上げ、当初の予定通り、カエルの討伐クエストを取る。
その時だった。
ギルドの扉が勢いよく開かれ、そこから見知った冒険者、テイラーが酷く慌てた様子で飛び込んできた。
「誰か!プリーストはいないか!?仲間が重症なんだ!」
俺はその言葉を聞き、すぐにアクアを引っ張ってテイラーの元へ向かう。
するとそこに居たのは、酷い火傷を負ったダストだった。
テイラーは近寄った俺に気づいたようだ。
「カズマ!いたのか!カズマのところのアクアさんに治療を頼めないか!?」
「もちろんだ!頼んだぞアクア」
俺はそう言うとアクアの方に振り向く。
アクアは自信たっぷりの顔をしている。
こいつであれば間違いなく治療できるだろう。
「しょうがないわねー。それじゃ治療してあげる代わりに、私のことを崇めること。もちろんパーティ全員でね?それからそれから───」
俺は調子に乗っているアクアを引っぱたき、ダストの元へ放り投げる。
アクアは涙目になりながらこちらに何かを訴えつつ、ダストの治療を行った。
アクアが魔法をかけると、みるみると火傷は治っていき、すぐに元の状態へと戻った。
さすが女神なだけはあって、こういう所は頼りになる。
「ダスト!ダスト!」
治療を終えたダストに、冒険者仲間のリーンが駆け寄る。
リーンの呼び掛けの甲斐あってか、ダストは微かに反応を示し、次第に目を覚ました。
「はっ!俺は一体!?あ!さっきまでいた巨乳のねーちゃんは!?」
ダストが目を覚まし、飛び起きたかと思うと、突然そのような事を口走る。
回復に安心しつつ、起きた瞬間にリーンに殴られ、また気絶してしまったダストには同情する。
「それで一体何があったんだ?」
俺はダストの回復に安心していた、テイラーに話を聞くことにしたのであった。