カズマは混乱していた。
なぜならば、目を開けると、エリス様ではなく、銃をこちらに向けて構える、軍服を着た幼女がそこにいたからである。
□□□アクセル近郊□□□
「わあぁぁぁぁ!カズマさん!カズマさーーん!!」
「お前ってやつは!どうしていつも余計なことばっかりすんだよ!このバカがぁぁ!」
俺達は只今、絶賛魔物に追いかけられていた。
原因は、俺の後ろを泣きながら走っているアクアだ。
こいつはいつも余計なことをしてトラブルを持ち込んでくる。
「カズマ!つべこべ言わずに走るのです!じゃないと追いつかれてしまいますよ!」
「お前はどうしてこう大事な時に、魔力切れになってるんだよ!」
「仕方ないじゃないですか。カズマが中々屋敷から出たがらないせいで、最近爆裂魔法が打てずにうずうずしてたのですよ!」
「だからって、初っ端に何も無い平野で、魔法を打つバカがどこにいるんだよ!」
爆裂魔法を放ち、魔力切れで俺に背負われているのがめぐみん。
短気の爆裂魔で、今日の冒険もこいつに無理やり連れてこられたのだ。
「よし!ここは私が残って奴らを引きつけよう!お前達はそのまま逃げるのだ!」
セリフだけ聞けばかっこいいが、顔を見れば、頬を赤らめハァハァと興奮している、この変態ドMクルセイダーがダクネスだ。
攻撃はスカのポンコツのくせに、防御力だけは一級品のダクネスだが…
「流石のお前でもあの数はやばい!後ろをキョロキョロせずに前だけ見て走れぇ!」
アクアの使った魔物寄せの魔法が、相当強力だったのか、たまたま近くに沢山いたのかは知らないが、やばい数の魔物が追ってきている。
だから冒険は嫌だったのだ。
折角、屋敷を手に入れ、借金も返済し、大金を手に入れたのだから、これからはテキトウに商品開発でもして、自堕落な生活を送る予定だったのに!
そうこう考えているうちにも、魔物は徐々に迫ってきている。
このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。
「あー!くそ!だから冒険は嫌なんだよ!おいダクネス!めぐみんを頼む!」
「分かったが、どうするつもりだ?囮になるつもりなら、私がやるぞ!?」
「カズマさんのへっぽこステータスじゃ、囮になった瞬間に死んじゃうわよ?」
「うっさい!誰が囮なんかするもんか!いつも通りクリエイトウォーターとフリーズのコンボで、あいつらを足止めするんだよ!分かったら前を向いて走り続けろ!」
俺はそう言うと、ダクネスにめぐみんを預け、後ろを振り返り、手を魔物達に向けて───
「あ、カズマ。横から魔物が──」
めぐみんのその言葉を最後に、俺の意識は失われた。
□□□天界□□□
────あー、俺はまた死んだのか。
だから冒険は嫌だったんだ。
あいつら俺の死体を回収して、上手く逃げられ──
「おい、貴様は何者だ。存在Xの仲間か?」
……………え?
俺、死んだはずだよな?
じゃあこの聞き慣れない声は一体………
俺はぼんやりとする意識を素早く覚醒させ、目を開ける。
そこは見慣れた死後の世界で、いや死後の世界を見慣れるのもどうかと思うが、見慣れたところだった。
だがしかし、いつもと違うものが……いや、人が……いや、幼女がこちらに銃を向けて──
「っておい!そんなものこっちに向けんなよ!危ないだろ!え、エリス様!エリス様!助けてください!幼女に殺される!」
「うるさい、喚くな。私は、貴様は何者だと聞いているのだ!」
何この幼女、怖い。
誰だよ幼女に、銃なんか持たせたやつは。
ていうか、幼女ってこんな喋り方だっけ。
ていうか、幼女ってなんだっけ──
「エリス様ぁぁ!!」
「喚くのをやめんか!」
「か、カズマさん……。一体その子は?」
「エリス様!」
エリス様の声が聞こえ、声がした方を向くと、椅子の後ろに隠れたエリス様がいた。
え、ってか、エリス様もこの幼女のこと知らないの?
「エリス様!どうして天界に銃を持った幼女がいるんですか!どうにかしてくださいよ!」
「私だって知りませんよ!カズマさんがどうにかして下さい!」
「ほう。ここやはり天界なのか。そして貴様がこいつの言うエリス様とやらだな。つまり貴様がこの空間の主、存在Xということだな!」
そう言うと幼女は、俺に向けていた銃口をエリス様の方に向ける。
今にも引き金を引きそうだ。
「おい、ちょっと落ち着けよ。一体エリス様がお前に何をしたって言うんだ?」
「貴様には関係の無い話だ。私が存在Xに報いるこの時を、一体どれだけ待ちわびたことか…。邪魔をすると言うならば、貴様も容赦はせんが?」
銃口はエリス様に向けたまま、幼女は俺のことを睨みつける。
え、ほんとに怖いんだけど。
その目つきは、およそ幼女がしていい目つきではない。
しかし、このまま黙っていれば、エリス様が撃たれてしまう。
そんなことを許してはいけない。
エリス様は、あいつら残念ヒロイン達とは違って、王道の正統派ヒロインであり、駄女神とは違う、本物の女神様なのだ。
俺は佐藤和真、やればできる男だ。
「とりあえず銃をおろして、話し合いをしないか?何があったかは知らないが、エリス様は、人の死に方を笑って傷つけるような女神と違って、本当に心優しい人なんだ。いつも俺のことを温かく迎えてくれて、傷ついた心を癒しくれる、そんな素晴らしい人なんだ!だからお前の言う存在エックス?は知らないが、きっと人違い、いや神違いだ」
椅子の後ろから顔だけ覗かせているエリス様は、俺の言葉を肯定するように何回も首を縦に振っている。
幼女はというと、そんなエリス様と俺を交互に見つめ、一つ長い溜息をはき出す。
緊迫した気配が消えたような気がするが、誤解を解くことが出来たのだろうか?
すると幼女は、俺に視線を戻し……、憐れみのような目で俺のことを見つめていた。
「貴様もマッドと同じように、神と嘯くやからに精神を汚染され、信仰心を植え付けられた被害者だったか。憐れなものだな」
「いやいやいや、ちょっと待てよ。確かにエリス様のことは好きだけどさ、別に信仰心とかはないぞ?俺、無宗教だし」
「え!?」
「なんだ、話が分かるやつじゃないか。それならそうと早く言ってくれればいいものの」
「いや、そっちが聞く耳持たなかったんだろ!」
「いやいや、これは済まないことをした。だがまさかこんな所で無宗教の者と出会えるとはな」
「まぁ、俺の生まれ故郷のお国柄ってやつだ」
「ほぅ、実に興味深いな。一度貴殿の生まれ故郷とやらについて───」
『カズマーー!リザレクションはかけてあげたから、エリスに扉を開いて貰いなさーい』
いつも通り間の悪いタイミングで声をかけてくるアクア。
まぁ無事に俺の死体を回収してくれたみたいで安心したが、今はそれどころではない。
「悪いんだけどー、今ちょっとごたついてるからー、もう少し後で蘇るわー」
『はぁ!?あんたちょっと何言ってるのよ!』
「き、貴様…、一体誰と話しているのだ?」
俺とアクアの会話に驚いたのか、そこには先程の鋭い目付きをした顔ではなく、年相応の驚いた顔をした幼女がいた。
まぁ確かに、急にどこからともなく声が聞こえてきたらビビるよな。
でもこれをどうやって説明したら良いものか。
「えっとこの声はな、そのあれだ───」
俺がなんとか説明しようと試みていると、不意に後ろから背中を押された。
それは幼女も同じようで、押された先には、見慣れた扉が既に開いていた。
俺と幼女は、逆らうことも出来ずにその扉に吸い込まれていく。
「カズマさん!その子のこと少しの間よろしくお願いしますね!私の方で色々と調べてみますので!」
エリス様のその言葉を最後に、俺の意識はだんだんと失われていく。
えっ、調べてみるって、その間この幼女は俺に丸投げ?
そりゃないですよぉぉ、エリス様ぁぁぁ!